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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07F
管理番号 1231984
審判番号 不服2008-4225  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-21 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 特願2002-172655「ペンタエリスリトールジクロロホスファイトの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年1月22日出願公開、特開2004-18408〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成14年6月13日の出願であって、以降の手続の経緯は、以下のとおりのものである。

平成19年 6月13日付け 拒絶理由通知書
平成19年 8月16日 意見書・手続補正書
平成20年 1月16日付け 拒絶査定
平成20年 2月21日 審判請求書
平成20年 5月13日 手続補正書(方式)

第2 本願発明
この出願の発明は、平成19年8月16日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「含水率が1000ppm以下である有機溶媒の共存下、三塩化リンと含水率が1000ppm以下であるペンタエリスリトールとを反応させて下記式(1)で示されるペンタエリスリトールジクロロホスファイトを得るに際して、生成したペンタエリスリトールジクロロホスファイトを、その溶液または懸濁液から単離せず、かつ、不活性気体雰囲気下で、該溶液または懸濁液を40?120℃に加熱した後、冷却することを特徴とするペンタエリスリトールジクロロホスファイトの製造方法。
【化1】



第3 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成19年6月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、その理由2は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
そして、その「下記の請求項に係る発明」のうちの一つは、「請求項1に係る発明」であるところ、上記「請求項1に係る発明」は、「本願発明」に相当し、「下記の刊行物」には、特表2002-507620号公報(以下、「刊行物A」という。原査定における「引用文献5」と同じ。)が含まれるから、原査定の理由は、「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である刊行物Aに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含むものである。

第4 当審の判断
本願発明は、原査定の理由のとおり、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である刊行物Aに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
その理由は、以下のとおりである。
1.刊行物の記載事項
上記刊行物A及びこの出願の出願当時の技術常識を示す刊行物である特開昭61-165397号公報(以下、「刊行物B」という。原査定における「引用文献4」と同じ。)、特開昭61-180794号公報(以下、「刊行物C」という。)、特開平6-184176号公報(以下、「刊行物D」という。)、特開平6-157567号公報(以下、「刊行物E」という。原査定における「引用文献2」と同じ。)には、以下の事項が記載されている。

(1)刊行物A
(A-1)「ペンタエリトリトールと三ハロゲン化リンとのペンタエリトリトールビス(ホスホロハライダイト)中間体生成反応は溶媒を使用しても実施できるし、或いは溶媒を使用しなくても実施できる。通例PCl_(3)が利用されるが、その他のハロゲン化リン又は誘導体も使用し得る。」(段落【0061】)

(A-2)「溶媒を利用するときは、溶媒が反応成分及び副生物に干渉しないことが重要である。典型的な溶媒には、例えば、トルエン、ヘプタン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム及びベンゼン、並びにISOPARやNORPARのような炭化水素溶媒がある。」(段落【0062】)

(A-3)「この反応は最後まで完全に進めることができ、HClのような残留ハロゲン化物副生物は生成物の温度を室温乃至約50℃に穏やかに上げることによって適宜除去し得る。」(段落【0063】)

(2)刊行物B
(B-1)「実施例1: ビス(2,6-ジ-第三ブチル-4-オクタデシルオキシカルボニルエチル-フェニル)ペンタエリスリトール ジホスファイト
A)3,9-ジクロロ-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ〔5.5〕ウンデカン(4)
乾燥させた反応フラスコにペンタエリスリトール7.1g(0.051モル)、トルエン70ml及びジメチルホルムアミド0.36gを攪拌しながら入れた。その後、三塩化燐18.3g(0.133モル)を攪拌スラリー中に滴下して加えた。該反応混合物を、25?60℃で5.5時間、攪拌加熱し、その時、該反応は発生する塩酸の量で示される如く実質的に終了していた。過剰の三塩化燐、塩酸、及び約45mlのトルエンを減圧(15ないし30mmHg)して取り除いた。」(第13頁右上欄第3行?最下行)

(3)刊行物C
(C-1)「実施例1
2,4,8,10-テトラ-第三ブチル-6-〔3’,5’-ジ-第三ブチル-4’-ヒドロキシ-フェニルチオ〕-12H-ジベンゾ〔d,g〕〔1,3,2〕ジオキサホスホシン
窒素下火炎乾燥したフラスコ内にて乾燥トルエン100ml中に6.87gの三塩化燐を、5℃を越えない温度にて、乾燥トルエン80ml中に21.27gの2-2’-メチレン-ビス-(4,6-ジ-第三ブチルフェノール)及び10.12gのトリエチルアミンを含む溶液で処理する。反応は室温で8時間攪拌してその後5℃にまで冷却する。その後11.92gの2,6-ジ-第三ブチル-4-メルカプトフェニル及び5.1gのトリエチルアミンを含む溶液を添加して反応混合物を室温でさらに8時間攪拌する。混合物をろ過(審決注:「ろ」は、「さんずい」に「戸」。)して、ろ液(審決注:「ろ」は、「さんずい」に「戸」。)を減圧下で濃縮する。残留物をトルエン/ヘプタンから再結晶すると、融点:280ないし282℃の白色結晶性生成物を得る。
元素分析
計算値(C_(43)H_(63)PO_(3)S):C,74.73:H,9.21。
実測値:C,75.0:H,9.5。
実施例2
2,4,8,10-テトラ-第三ブチル-6-〔3’-5’-ジ-第三ブチル-4’-ヒドロキシ-フェニルチオ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン
窒素下火炎乾燥したフラスコ内にて、乾燥トルエン50ml中に22gの三塩化燐を5℃を越えない温度にて、乾燥トルエン40ml中に10.27gの3,3’,5,5’-テトラ-第三ブチル-ビフェニル-2,2’-ジオール及び6.79mlのトリエチルアミンを含む溶液で処理する。その後乾燥トルエン10ml中に5.96gの2,6-ジ-第三ブチル-4-メルカプト-フェノール及び3.48mlのトリエチルアミンを含む溶液を添加して、反応混合物を室温でさらに15時間攪拌する。混合物をろ過(審決注:「ろ」は、「さんずい」に「戸」。)して、ろ液(審決注:「ろ」は、「さんずい」に「戸」。)を減圧下で濃縮する。残留物をシリカゲル上でエチルアセテート・ヘプタン(1:7)を用いてクロマトにかけると、白色泡状の生成物を得る。
元素分析
計算値(C_(42)H_(61)O_(3)PS):C,74.51:H,9.10。
実測値:C,74.5:H,9.4。」(第10頁右下欄第8行?第11頁右上欄第11行)

(4)刊行物D
(D-1)「実施例1: 4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスフォシン-6-イル アセテート(化合物1)の製造
温度計、攪拌装置および冷却管を備えた200mlの四ツ口フラスコに、2,2′-メチレンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)6.8g、無水トルエン50gおよび無水トリエチルアミン4.2gを仕込み、容器内を窒素置換したあと、攪拌しながら三塩化リン2.7gを滴下した。滴下終了後、80℃で3時間保温してから、トリエチルアミン2.1gおよびトルエン20gに溶解させた酢酸ナトリウム1.7gを仕込み、還流下で6時間保温した。次に室温まで冷却したあと、トルエン50gを加えて希釈し、反応にて生成したトリエチルアミンの塩酸塩を濾過した。濾液を濃縮したあと、残渣をノルマルヘキサンで晶析することにより、融点161.5?164.0℃の白色結晶として、標記化合物1を5.7g得た。」(段落【0046】?【0047】)

(5)刊行物E
(E-1)「【実施例3】実施例1で用いたように装備された250mlの四首フラスコに、窒素下で40.8g(0.30モル)のペンタエリトリット、60mg(0.63ミリモル)の無水二塩化マグネシウム、及び50mlのPHOSFLEX 41Pを入れた。混合物を撹拌し、45?50℃に加熱しながら、1.5時間かけて65.3ml(103g、0.75モル)の三塩化リンを滴下した。次に、1時間かけて温度を95℃に上げ、塩化水素を除去するため窒素吹き込み下でこの温度に5時間保った。該溶液は冷却すると結晶化し、d6‐DMSO中の31p NMRにより149ppmに主に一つの生成物ピークを示した。これは、3,9‐ジクロロ‐2,4,8,10‐テトラオキサ‐3,9‐ジホスファスピロ[5.5]ウンデカンと一致する。」(段落【0013】)

2.刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、「ペンタエリトリトールと三ハロゲン化リンとのペンタエリトリトールビス(ホスホロハライダイト)中間体生成反応」が記載され(摘記(A-1))、三ハロゲン化リンとしては「通例PCl_(3)が利用される」こと(摘記(A-1))、この反応は、「溶媒を使用しても実施できる」こと(摘記(A-1))、「典型的な溶媒」には、例えばトルエンのような「炭化水素溶媒」があること(摘記(A-2))が記載されている。
さらに、刊行物Aには、上記反応は、「最後まで完全に進めることができ、HClのような残留ハロゲン化物副生物は生成物の温度を室温乃至約50℃に穏やかに上げることによって適宜除去」できることが記載されている(摘記(A-3))。
そうすると、刊行物Aには、
「ペンタエリトリトールとPCl_(3)とのペンタエリトリトールビス(ホスホロハライダイト)中間体生成反応において、炭化水素溶媒を使用し、HClのような残留ハロゲン化物副生物は生成物の温度を室温乃至約50℃に穏やかに上げることによって適宜除去する方法」
の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているといえる。

3.本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「ペンタエリトリトール」、「PCl_(3)」、「ペンタエリトリトールビス(ホスホロハライダイト)中間体」、「炭化水素溶媒」は、それぞれ本願発明の「ペンタエリスリトール」、「三塩化リン」、「式(1)で示されるペンタエリスリトールジクロロホスファイト」、「有機溶媒」に相当するから、引用発明の「ペンタエリトリトールとPCl_(3)とのペンタエリトリトールビス(ホスホロハライダイト)中間体生成反応において、炭化水素溶媒を使用」する方法は、本願発明の「有機溶媒の共存下、三塩化リンとペンタエリスリトールとを反応させて下記式(1)で示されるペンタエリスリトールジクロロホスファイトを得る…ペンタエリスリトールジクロロホスファイトの製造方法
【化1】

」に相当する。
そして、引用発明は、「HClのような残留ハロゲン化物副生物は生成物の温度を室温乃至約50℃に穏やかに上げることによって適宜除去する方法」であるが、「室温乃至約50℃」は、本願発明の「40?120℃」に相当し、また、上記「生成物」を含む反応混合物は、通常「溶液または懸濁液」を形成しているから、引用発明の「生成物の温度を室温乃至約50℃に穏やかに上げること」は、本願発明の「溶液または懸濁液を40?120℃に加熱」することに相当する。
そして、引用発明は、「生成物の温度を室温乃至約50℃に穏やかに上げる」にあたり、生成物を、「溶液または懸濁液から単離せず」、そのまま温度を上げているから、引用発明も本願発明と同様に「生成したペンタエリスリトールジクロロホスファイトを、その溶液または懸濁液から単離せず、該溶液または懸濁液を40?120℃に加熱」する方法といえる。
さらに、反応が終了した後は、「冷却」するのが通常であるから、引用発明の「HClのような残留ハロゲン化物副生物を生成物の温度を室温乃至約50℃に穏やかに上げることによって適宜除去する方法」は、本願発明の「生成したペンタエリスリトールジクロロホスファイトを、その溶液または懸濁液から単離せず、該溶液または懸濁液を40?120℃に加熱した後、冷却する」方法に相当する。
以上によれば、本願発明と引用発明は、
「有機溶媒の共存下、三塩化リンとペンタエリスリトールとを反応させて下記式(1)で示されるペンタエリスリトールジクロロホスファイトを得るに際して、生成したペンタエリスリトールジクロロホスファイトを、その溶液または懸濁液から単離せず、該溶液または懸濁液を40?120℃に加熱した後、冷却することを特徴とするペンタエリスリトールジクロロホスファイトの製造方法。
【化1】


である点で一致し、以下の点で一応相違する(以下、「相違点1」、「相違点2」という。)。

(1)相違点1
有機溶媒とペンタエリスリトールの含水率が、本願発明は、いずれも1000ppm以下であるのに対して、引用発明は明らかでない点

(2)相違点2
40?120℃の加熱を、本願発明は、「不活性気体雰囲気下で」行う方法であるのに対して、引用発明は、そのような方法であるか明らかでない点

4.相違点についての判断
(1)相違点1
本願発明の原料の一つである三塩化リンは、水に対して不安定なことが一般に知られているから、反応系の含水率を少なくすることによって、三塩化リンの損失を防ぎ、より収率良く反応を行おうとすることは、当業者が容易に行うことである。
しかも、ペンタエリスリトールなどのアルコールと三塩化リンを有機溶媒の存在下反応させるにあたり、フラスコや溶媒、触媒として乾燥したものを使用することは、普通に行われているから(摘記(B-1)、(C-1)、(D-1))、上記反応において、反応系の含水率を少なくすることは、普通に行われているといえる。
さらに、摘記(A-2)にも記載されているように、溶媒を使用する際は、溶媒が反応成分に干渉しないことが重要であることも、当業者に自明であるから、反応成分である三塩化リンが水分に対して不安定であれば、溶媒が反応成分に干渉しないように、その含水率を低くすることは、当業者が容易に行うことである。
以上によれば、引用発明において、反応系の含水率を少なくするために、反応系を構成するペンタエリスリトールと有機溶媒の含水率を少なくし、それぞれ1000ppm以下程度とすることは、当業者が容易に行うことである。

(2)相違点2
ペンタエリスリトールなどのアルコールと三塩化リンを有機溶媒の存在下反応させるにあたり、窒素などの「不活性気体雰囲気下で」行うことは、通常のことであり(摘記(C-1)、(D-1)、(E-1))、また、刊行物Eには、ペンタエリスリトールと三塩化リンを反応させた後、昇温するときに、「窒素吹き込み下」、すなわち、「不活性気体雰囲気下で」行うことが記載されている(摘記(E-1))。
そうすると、同じくアルコールと三塩化リンを反応させる方法である引用発明において、40?120℃での加熱を、「不活性気体雰囲気下で」行うことは、当業者が容易に行うことである。

5.効果について
この出願の発明の詳細な説明の段落【0050】には、「本発明によれば、難燃剤、結晶核剤、可塑剤、酸化防止剤等の添加剤として使用でき、殊に樹脂用酸化防止剤として優れた効果を有するペンタエリスリトールジホスファイト化合物の主要原料であるペンタエリスリトールジクロロホスファイトを、高収率、高純度で製造でき、かつ、保存安定性に優れるため、その工業的有用性は高い。」と記載されている。
ここで、上記「高純度」及び「保存安定性に優れる」とは、この出願の発明の詳細な説明の段落【0004】に「塩化水素の含有量が少ないペンタエリスリトールジクロロホスファイトを製造し、安定に保存する方法が求められている」と記載されていることからみて、「塩化水素の含有量が少ない」ことであるといえる。
一方、引用発明は、「HClのような残留ハロゲン化物副生物は生成物の温度を室温乃至約50℃に穏やかに上げることによって適宜除去する方法」であるから、塩化水素を除去した結果、「塩化水素の含有量が少ない」「高純度」で「保存安定性に優れる」生成物を製造できる方法といえる。
さらに、引用発明において、反応系の含水率を少なくすることにより、より収率良く反応が行えることは、上記4.(1)で述べたとおりであるから、「高収率」であることも、当業者が予測し得る効果である。
以上のとおりであるから、本願発明の効果は、引用発明及び当業者の技術常識から予測し得るものである。

6.まとめ
したがって、本願発明は、刊行物Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

7.審判請求人の主張
審判請求人は、平成20年5月13日に補正された審判請求書の請求の理由の3.(1)及び(4)において、以下の主張をしている。
「(1)本願発明について
(…中略…)
本願発明においては、乾燥して含水率を低くした原料を用いることにより、得られるペンタエリスリトールジクロロホスファイトの選択率を向上させる効果を見出したものであり、上述したように工業的に有利な生産性に優れた製造方法となる。このことについては、実施例1と、比較例A及び比較例Bとを比較することにより明らかである。なお、比較例Aは、実施例1において、乾燥後のトルエン(含水率3ppm)の代わりに、乾燥前のトルエン(含水率1500ppm)を使用した実験を行ない、比較例Bは、実施例1において、乾燥後のペンタエリスリトール(含水率38ppm)の代わりに、乾燥前のペンタエリスリトール(含水率1200ppm)を使用した実験を行なったものである。
その結果、実施例1においては、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトの選択率は96.5%であるのに対して、比較例Aにおいては、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトの選択率は88.0%であり、比較例Bにおいては、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトの選択率は83.0%であり、実施例1に比べて選択率が劣っていた。」

「(4)拒絶理由について
本願発明は、含水率が1000ppm以下である有機溶媒の共存下、三塩化リンと含水率が1000ppm以下であるペンタエリスリトールとを反応させること(要件1)を特徴とする。この方法により、特定構造のペンタエリスリトールジクロロホスファイトを高選択率(高収率)で得ることができる。
引用文献1?5(審決注:「引用文献5」は、「刊行物A」と同じ。)には、原料の含水率についての記載も示唆もない。
本願発明においては、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトを高選択率で得るために、原料の含水率に着目し、これを特定範囲とすることを見出したものである。特に、固体のペンタエリスリトールの含水率の影響が大きく、固体のペンタエリスリトールを十分に乾燥することが必須要件であることを見出したものである。
すなわち、本願発明の特定構造のペンタエリスリトールジクロロホスファイトの製造方法において、ペンタエリスリトールジクロロホスファイトを高選択率で得るという課題を達成するために、低含水率のペンタエリスリトールと低含水率の有機溶媒を使用することについては、引用文献1?5の記載を組み合わせたとしても、当業者が想到し得るものではない。」

そこで、上記主張について検討する。
審判請求人は、上記(1)において、新たに比較例A、Bを挙げ、本願発明は、有機溶媒とペンタエリスリトールの含水率を1000ppm以下とすることによって、選択率が向上するという効果を奏すると主張しているが、上記5.で述べたとおり、反応系の含水率を少なくすることにより、より収率良く反応が行えること、すなわち、選択率が向上することは、当業者が予測し得る効果である。
さらに、審判請求人は、上記(4)において、刊行物Aには、原料の含水率についての記載も示唆もないと主張しているが、上記4.(1)で述べたとおり、アルコールと三塩化リンを有機溶媒の存在下反応させるにあたり、反応系の含水率を少なくすることは普通に行われていることであるから、反応系を構成するペンタエリスリトールと有機溶媒の含水率を少なくし、それぞれ1000ppm以下程度とすることは、当業者が容易に行うことである。

したがって、審判請求人の主張はいずれも採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-13 
結審通知日 2010-12-14 
審決日 2010-12-28 
出願番号 特願2002-172655(P2002-172655)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関 美祝  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 木村 敏康
井上 千弥子
発明の名称 ペンタエリスリトールジクロロホスファイトの製造方法  
代理人 三原 秀子  

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