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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1232015
審判番号 不服2008-25088  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-01 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 特願2005- 14496「分波器」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月23日出願公開、特開2005-168049〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成17年1月21日の出願であって、特願平11-149959号(平成11年5月28日出願、優先権主張:平成10年6月9日 日本)の分割出願として出願されたものであり、平成20年5月13日付けで拒絶理由が通知され、同年7月16日付けで手続補正書が提出され、同年8月20日付けで拒絶査定され、これに対して同年10月1日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成20年7月16日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という)。

「 【請求項1】
単一圧電基板と、
前記単一圧電基板上に形成され、出力端子を備えた送信用SAWフィルタと、
前記単一圧電基板上に形成され、入力端子を備えた受信用SAWフィルタと、
分波回路と、
前記単一圧電基板の外部に設けられ、キャパシタとインダクタとからなる回路を介してアンテナ端子に接続される共通接続部とを有し、
前記送信用SAWフィルタの前記出力端子と前記受信用SAWフィルタの前記入力端子とは、個別に設けられ、
前記送信用SAWフィルタの前記出力端子と前記受信用SAWフィルタの前記入力端子とは前記共通接続部により前記分波回路を介して共通接続されていることを特徴とする分波器。」


3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-167389号公報(以下、「引用例」という)には、下記の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、弾性表面波帯域通過フィルタを用いた分波器に関する。近年、自動者用電話器、携帯用電話器等の小型無線通信機の開発が急速に進められ、より一層の小型化、高性能化が要請されている。これらの無線通信機には、信号の分岐や挿入を行うための分波器が用いられている。分波器は帯域通過フィルタを用いて構成されるが、今日では弾性表面波フィルタを用いたものが研究開発されている。」

(イ)「【0020】
【実施例】次に、本発明の好適な実施例を図面に基づいて説明する。
[I]第1実施例
まず図1に、本発明の係る分波器DPLXの構成を示す。
【0021】図1に示すように、共通外部信号端子T0 には弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1 )、F_(2) が並列に接続されており、各弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) 、F_(2) からは外部信号端子T_(1) 、T_(2) がそれぞれ個別に導出されている。
【0022】弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) 、F_(2) は、図2に示すように、互いに異なる帯域中心周波数を有しており、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) の帯域中心周波数f_(1) は、例えば、887[MHz]、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) の帯域中心周波数f_(2) は932[MHz]に設定され、f_(1) <f_(2) の関係になっている。また、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) 、F_(2) は、図3(等価回路)および図4(実際の配置パターン)に示すように、LT(リチウムタンタレート)基板上にAl-2%Cu電極材料により形成されている。直列弾性表面波共振器R_(1) 、R_(3) 、R_(4) および並列弾性表面波共振器R_(2) 、R_(5) は、くし型電極および反射器を有する一端子対形共振器で構成される。
【0023】弾性表面波共振器R_(1) は、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) と弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) との共通接続点側に挿入されており、共通外部信号端子T_(0) 側からみたとき、弾性表面波共振器R_(1) は初段の共振器となる。
【0024】図4に、弾性表面波共振器R_(1) ?R_(5) の配置パターン側を示す。基板Sub上の両端に接地端子GND_(1) 、GND_(2) が形成され、それらの面に弾性表面波共振器R_(2) 、チップ信号入力端子A_(1) (またはB_(1) )、弾性表面波共振器R_(1) 、R_(3) 、R_(4) 、チップ信号出力端子A_(2)(またはB_(2) )、弾性表面波共振器R_(5) が形成されている。なお、弾性表面波共振器R_(1) ?R_(5) の電極指の形状構造は一般に良く知られているので詳細な図示は省略する。
【0025】再び図1に戻って、共通外部信号端子T_(0) と弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) との間には、インピーダンス整合回路Mが介在されている。インピーダンス整合回路Mは位相回転用のL(インダクタンス)からなる。インダクタンスLは、具体的には、例えば6[nH]程度である。またインダクタンスLはガラスエポキシ基板またはセラミック基板上に金、タングステン(W)、銅(Cu)等の金属ストリップラインにより形成される。なお、ストリップラインは、ガラスエポキシ基板の場合、線幅0.5[mm]、長さ11[mm]程度であり、セラミック基板の場合、線幅0.2[mm]、長さ6[mm]程度で実現できる。
【0026】このように弾性表面波フィルタF_(2) にインピーダンス整合回路Mを挿入することで、分波器を構成する場合の必要条件を満たすことができる。次に、本発明の第1実施例の詳細を説明する。図5に第1実施例に係る分波器DPLXの平面配置図を示す。」

(ウ)「【0032】[III ]第3実施例
図7に、本発明の第3実施例を示す。この実施例は、図5のように弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) 、F_(2) を横並びに配置するのではなく、両弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) 、F_(2) を同じ方向に向けてパッケージPCK内に収納一体化した例である。
【0033】この実施例では、パッケージPCKの長辺側内部に端子ブロックU_(1) 、U_(2) を形成し、それらの上に接地端子GND、パッケージ信号入力端子C_(1) 、パッケージ信号出力端子C_(2) 、パッケージ信号入力端子D_(1) 、パッケージ信号出力端子D_(2) が形成されている。そして、端子配列は、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) 側では、PCKを横断する方向にパッケージ信号入力端子C_(1) 、チップ信号入力端子A_(1) 、チップ信号出力端子A_(2) 、パッケージ信号出力端子D_(2) となり、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) 側ではパッケージ信号入力端子D_(1) 、チップ信号入力端子B_(1) 、B_(2) 、パッケージ信号出力端子D_(2) となる。
【0034】ここで、各端子間を結ぶ信号線l_(S) は弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) 側と弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) 側とで平行となり、クロストークの面からは不利となるが、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) 側と弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) 側の信号線l_(S) 相互の間には弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) の接地端子GND_(1) とパッケージPCK側の接地端子GNDとを結ぶ接地線l_(G) が存在することになり、この接地線l_(G) が電磁波シールド作用を営むので、実用上の問題はなく、小型化が可能となる。
【0035】このように、本実施例のような収納形式によっても充分なアイソレーションを確保することができ、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) 、F_(2) 自体の封入を可能として小型化が達成される。」

(エ)共通外部信号端子T_(0) は、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) が形成されたLT基板及び弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) が形成されたLT基板の外部において設けられた点(以下、「共通接続部」という)を介して、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1)のチップ信号入力端子A_(1) と、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) のチップ信号入力端子B_(1)に接続される構成が、図1に記載されている。

よって、上記(ア)乃至(エ)及び関連図面から、引用例には、
「無線通信機において信号の分岐を行う分波器であって、
LT基板上に形成され、チップ信号入力端子A_(1) を備えた弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) と、
前記LT基板とは別のLT基板上に形成され、チップ信号入力端子B_(1)を備えた弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) と、
前記LT基板及び前記別のLT基板の外部に設けられ、共通外部信号端子T_(0) に接続される共通接続部とを有し、
前記弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1)の前記チップ信号入力端子A_(1) と前記弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) の前記チップ信号入力端子B_(1)とは、個別に設けられ、
前記弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1)の前記チップ信号入力端子A_(1) と前記弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) の前記チップ信号入力端子B_(1)とは前記共通接続部により共通接続されている分波器。」
の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。


4.対比
(1)本願発明と引用発明との対応関係について
引用発明の「LT基板」及び「別のLT基板上」は、「圧電基板」である点で、本願発明の「単一圧電基板」と共通している。
引用発明の「弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) 」及び「弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) 」は、「SAWフィルタ」である点で、本願発明の「送信用SAWフィルタ」及び「受信用SAWフィルタ」と共通している。
引用発明の「チップ信号入力端子A_(1) 」、「チップ信号入力端子B_(1)」、「共通外部信号端子T_(0) 」は、「端子」である点で、本願発明の「出力端子」、「入力端子」、「アンテナ端子」と共通している。

(2)本願発明と引用発明の一致点について
上記の対応関係から、本願発明と引用発明は、
「圧電基板上に形成され、第1の端子を備えた第1のSAWフィルタと、
圧電基板上に形成され、第2の端子を備えた第2のSAWフィルタと、
前記圧電基板の外部に設けられ、第3の端子に接続される共通接続部とを有し、
前記第1のSAWフィルタの前記第1の端子と前記第2のSAWフィルタの前記第2の端子とは、個別に設けられ、
前記第1のSAWフィルタの前記第1の端子と前記第2のSAWフィルタの前記第2の端子とは前記共通接続部により共通接続されている分波器。」
の点で一致している。

(3)本願発明と引用発明の相違点について
本願発明と引用発明とは、下記の点で相違する。
(相違点A)
本願発明では、2つの「SAWフィルタ」は、「単一圧電基板」上に形成されているのに対し、引用発明ではそのような構成とはなっていない点。

(相違点B)
本願発明は、「出力端子を備えた送信用SAWフィルタと、入力端子を備えた受信用SAWフィルタ」であるのに対し、引用発明はそのような構成とはなっていない点。

(相違点C)
本願発明は、「分波回路」を有し、かつ、「前記送信用SAWフィルタの前記出力端子と前記受信用SAWフィルタの前記入力端子とは前記共通接続部により前記分波回路を介して共通接続されている」のに対し、引用発明はそのような構成を有していない点。

(相違点D)
本願発明の「共通接続部」は、「キャパシタとインダクタとからなる回路を介してアンテナ端子に接続」されているのに対し、引用発明はそのような構成とはなっていない点。


5.当審の判断
(1)相違点Aについて
単一圧電基板上に2つのSAWフィルタを形成して分波器を構成することは、原査定の拒絶の理由に引用された実願平5-46219号(実開平7-16427号)のCD-ROMに記載されているように、周知技術にすぎない。
してみると、引用発明に上記周知技術を適用して、引用発明の弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) 及び弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) を単一圧電基板上に形成し、相違点Aの構成とすることは、当業者が格別困難なくなし得ることである。

(2)相違点Bについて
引用発明は「無線通信機において信号の分岐を行う分波器」であり、「信号の分岐」には「送受信信号の分岐」が含まれるので、送受信信号の分岐に適用されるものであることは明らかである。また、上記3.(イ)には、「本発明の係る分波器DPLXの構成を示す」と記載され、一般に「DPLX」は、特開平8-321716号公報、特開平9-204196号公報に記載されているように、送信信号と受信信号を分岐する分波器(デュプレクサ)として解釈できる点からも、引用発明は送信信号と受信信号を分岐する分波器(デュプレクサ)に適用され得るものである。
してみると、引用発明を送受信信号の分岐するデュプレクサに適用して、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) を送信用SAWフィルタ、チップ信号入力端子A_(1) を送信用SAWフィルタの出力端子、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) を受信用SAWフィルタ、チップ信号入力端子B_(1)を受信用SAWフィルタの入力端子とし、相違点Bの構成とすることは、当業者が格別困難なくなし得ることである。

(3)相違点Cについて
分波器において分波回路を共通接続部側に設けることは、原査定の拒絶の理由に引用された実願平5-46219号(実開平7-16427号)のCD-ROMに記載されているように周知技術にすぎず、さらに、分波回路が内部に設けられた分波器において、該分波回路をSAWフィルタが形成された圧電基板の外部に設けることも、例えば、特開平9-98046号公報、特開平9-232910号公報に記載されているように、周知技術にすぎない。
してみると、引用発明を送受信信号の分岐するデュプレクサに適用して、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(1) のチップ信号入力端子A_(1) 、及び、弾性表面波帯域通過フィルタチップF_(2) のチップ信号入力端子B_(1)を圧電基板外に形成された分波回路を介して共通接続部に接続し、相違点Cの構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)相違点Dについて
本願発明の「キャパシタとインダクタとからなる回路」は、本願明細書に記載されたインピーダンス整合用LC回路102に対応し、本願の分波器が外部の機器との接続におけるインピーダンス整合を果たすために設けられた回路であると認められる。
そして、高周波回路では機器同士の接続においてインピ-ダンス整合を図ることは自明であり、インピーダンス整合を図るためにインピーダンス整合回路を設けることは、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-68512号公報の図1に、キャパシタとインダクタとからなるインピーダンス整合回路を入力端子と2つのSAWフィルタとの間に接続された弾性表面波フィルタが記載されているように周知技術である。
してみると、引用発明に上記周知技術を適用して、キャパシタとインダクタとからなるインピーダンス整合回路を共通外部信号端子T_(0) と共通接続部の間に設けて、相違点Dの構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(5)本願発明の作用効果について
本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基いて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-03 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-21 
出願番号 特願2005-14496(P2005-14496)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 和志  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 池田 聡史
飯田 清司
発明の名称 分波器  

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