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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1232026
審判番号 不服2008-31432  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-11 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 特願2004-517580「プラズマ処理システム内のアーク抑制方法およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月 8日国際公開、WO2004/003968、平成18年 3月 2日国内公表、特表2006-507662〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年 6月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2002年6月28日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成20年5月29日付けの拒絶理由が通知され、同年8月4日付けの手続補正がなされ、同年11月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成21年1月13日付けの手続補正がなされたものである。


第2 平成21年1月13日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年1月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理 由]
1.補正前及び補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲についてするもので、特許請求の範囲の請求項1については、補正前に

「【請求項1】
プラズマの形成を容易にするように構成された処理反応装置と、
前記処理反応装置に結合され、前記プラズマに関連する少なくとも1つの信号を発生するように構成された少なくとも1つのセンサと、前記少なくとも1つのセンサに結合されたコントローラとを備えるアーク抑制システムと、を具備するプラズマ処理システムであって、
前記コントローラは、前記少なくとも1つの信号を使用して前記プラズマ処理システム内のアークの発生の確率の状態を決定し、前記状態によりアーク事象の発生の確率を減少するために前記プラズマ処理システムを制御するように構成されるプラズマ処理システム。」

とあったものを、

「【請求項1】
プラズマの形成を容易にするように構成された処理反応装置と、
前記処理反応装置に結合され、前記プラズマに関連する少なくとも1つの信号を発生するように構成された少なくとも1つのセンサと、前記少なくとも1つのセンサに結合されたコントローラとを備えるアーク抑制システムと、を具備するプラズマ処理システムであって、
前記コントローラは、前記少なくとも1つの信号を使用して、前記少なくとも1つの信号と基準信号との間の少なくとも1つの差信号を決定し、前記少なくとも1つの差信号を目標差と比較することから前記プラズマ処理システム内のアークの発生の確率の状態を決定し、前記状態によりアーク事象の発生の確率を減少するために前記プラズマ処理システムを制御するように構成されるプラズマ処理システム。」
と補正しようとするものである。

次に、補正の適否について検討する。

本件補正は、請求項1における「プラズマ処理システム内のアークの発生の確率の状態を決定」する事項について、「少なくとも1つの信号と基準信号との間の少なくとも1つの差信号を決定し、前記少なくとも1つの差信号を目標差と比較することから」との特定事項を付加するものであって、プラズマ処理システム内のアークの発生の確率の状態を決定する事項において、信号処理の観点でさらに限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。


2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特表2001-516940号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

刊行物1:特表2001-516940号公報(拒絶理由通知の引用文献1)

(1a)「 【0003】
【従来の技術】
・・・・。プラズマ処理システムは、例えば、プラズマ(処理)を開始しかつ保持するための無線(RF)電力を、誘導性および/または容量性のプラズマ結合素子(plasma coupling element)により気体内に送られるRF電力とともに用いる。・・・・。」 (【0003】)

(1b)「 【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、特に高密度プラズマを用いたプラズマ処理の実行中においてアーキングの発生を制御しかつ防ぐことができるように、アーキングを検出し、特徴づけ、かつ/または、低減させることができるシステムおよび方法を提供することである。
【0014】
・・・・
【0015】
本発明のある特徴によれば、・・・・。同様に、神経回路網については、アーキングを検出または予測し、かつ、アーキングを生じさせる素子を識別し、かつさらに、処理の近似的リアルタイム制御(near-real time control)をもたらすために訓練することができる。」 (【0013】?【0015】)

(1c)「 【0021】
以下、図を参照すると(これらの図において、同一の参照番号は、幾つかの図を通して、同一のまたは対応する部分を示している)、図1Aおよび図1Bは、RF発生式(RF-generated)プラズマ処理を実行する処理チャンバの例を概略的に示す。・・・・RF電力は、前記チャンバの領域2においてプラズマを形成し、かつ、プラズマは、ウェーハ4のような加工物と反応する。・・・・。」(【0021】)

(1d)「 【0022】
・・・・ 電気プローブまたは感知素子を、プラズマ発生回路22の少なくとも1つのノードに接続することにより、プラズマ状態に関する情報を、このノードに存在する電気信号から得ることができる。・・・・。あるいはまた、電気信号については、プラズマに結合されているがプラズマに電力を供給しない他の信号感知素子により受け取ることができる。例えば、誘導性ループまたはコイル(例えば、ループアンテナ)または容量性プローブ(例えば、ワイヤまたはダイポールアンテナ)を信号感知素子として用いてもよい。
【0023】
図5A?図5Cに示されるように、受信された信号は、通常は、プラズマの非線形性により生じる幾つかの大きな高調波成分・・・・の他に、RFソースの基本周波数fFにおいて大きな成分を有する。アーキングが生じていないときには、図5Aに示されるように、他の重要な成分は通常は存在しない。しかしながら、アーキング波形の形状は、RFソースにより生成される波形の形状とは一般的に関連していないので、アーキング信号は、通常は、RFソースの基本波および高調波には関連していない周波数における成分を有する。幾つかの場合には、図5Bに示されるように、アーキング信号は広帯域特性を有し、かつ、周波数の広範囲にわたって存在している。・・・・。
【0024】
本発明のある特徴によれば、基本波および高調波以外の受信された信号の成分が、アーキングを検出するために測定される。・・・・現在好ましい実施形態においては、プラズマ制御装置77は、受信された信号を得てかつ該信号をディジタル形式に変換する変換器77Aを有している。周波数スペクトルの前述部分の周波数において受信された信号成分の振幅が所定の第1閾値よりも大きければ、プラズマ制御装置は、・・・・、アーキングイベントが検出されたという表示を与える。前述の受信された信号成分の振幅が、より高い第2閾値よりも大きければ、プラズマ制御装置は、処理を停止することがある。
【0025】
さらに、図11に示されるように、プラズマ制御装置は、RF電源を制御する電力制御装置77Cの他に、変換器から振幅情報を受け取る中央処理装置77Bを有することができる。受信された信号の成分の振幅が、前述の第2閾値のような所定値を超えると、中央処理装置77Bは、1つ以上のRF電源から供給される電力を低下させるかまたは1つ以上のRF電源を停止するように、電力制御装置77Cに命令することができる。」
(【0022】?【0025】)

(1e)「 【0040】
本発明の神経回路網の特徴によれば、図7は、プラズマ制御装置77の一部として用いられる神経回路網の構成を示す。・・・・本発明の訓練段階において、神経回路網は、入力層において、一連の入力を受信し、かつ、これらの入力に、(例えば、ランダムな、一様な)初期の重み付けに従って重み付けをする。入力値は、正常な処理の間に集められ、かつ、訓練中に記憶される。示されているように、他に可能性のある入力としては、各々の副帯のためのエネルギー、・・・・がある。・・・・次に、神経回路網については、エラーを予測/検出するために、さらには、アーキング前にRF電力入力を低下させることによりエラーを回避するためにさえも用いることができる。・・・・」 (【0040】)


(ア)前記記載事項(1c)における「RF発生式(RF-generated)プラズマ処理を実行する処理チャンバの例を概略的に示す。 ・・・・ RF電力は、前記チャンバの領域2においてプラズマを形成し、かつ、プラズマは、ウェーハ4のような加工物と反応する。」との記載から、「処理チャンバ」は、「プラズマの形成を容易にするように構成され」ているものといえる。

(イ)前記記載事項(1d)の「電気信号については、プラズマに結合されているがプラズマに電力を供給しない他の信号感知素子により受け取ることができる。」との記載から、信号感知素子は、プラズマに結合されていることは明らかであり、また、プラズマは処理チャンバ内に発生していることから、プラズマに結合されている信号感知素子は、処理チャンバにも結合されていると見るのが自然である。
さらに、同記載事項(1d)の「電気プローブまたは感知素子を、プラズマ発生回路22・・・・ノードに接続することにより、プラズマ状態に関する情報を、このノードに存在する電気信号から得ることができる。」との記載から、感知素子はプラズマ状態に関する情報を電気信号から得ていることは明らかであり、当然、信号を発生しているものと解すことができる。
よって、「信号感知素子」は、「処理チャンバに結合され、プラズマに関連する少なくとも1つの信号を発生するように構成された」少なくとも1つのものであるといえる。

(ウ)前記記載事項(1d)の「プラズマ状態に関する情報を、・・・電気信号から得ることができる。・・・・。あるいはまた、電気信号については、プラズマに結合されているがプラズマに電力を供給しない他の信号感知素子により受け取ることができる。
・・・・
受信された信号は、通常は、プラズマの非線形性により生じる幾つかの大きな高調波成分・・・・の他に、RFソースの基本周波数fFにおいて大きな成分を有する。」との記載から、受信された信号は、信号感知素子により受け取られたものであることは明らかであり、また、同記載事項(1d)の「プラズマ制御装置77は、受信された信号を得てかつ該信号をディジタル形式に変換する変換器77Aを有している。」との記載から、プラズマ制御装置での一部である変換器は、信号感知素子より受信された信号を得ることができる、つまり、「プラズマ制御装置」は、「少なくとも1つの信号感知素子に結合された」ものであることは明らかである。

(エ)前記記載事項(1d)の「プラズマ制御装置は、RF電源を制御する電力制御装置77Cの他に、変換器から振幅情報を受け取る中央処理装置77Bを有することができる。受信された信号の成分の振幅が、前述の第2閾値のような所定値を超えると、中央処理装置77Bは、・・・・、電力制御装置77Cに命令することができる。」との記載から、プラズマ制御装置は、少なくとも1つの信号を使用して、RF電源を制御するように構成され」ているのは明らかであり、また、前記記載事項(1a)の「プラズマ処理システムは、例えば、プラズマ(処理)を開始しかつ保持するための無線(RF)電力を、誘導性および/または容量性のプラズマ結合素子(plasma coupling element)により気体内に送られるRF電力とともに用いる。」との記載から、プラズマ処理システムは、RF電源からのRF電力を用いているので、「プラズマ制御装置は、少なくとも1つの信号を使用して、プラズマ処理システムを制御するように構成され」ていると見るのが自然である。
さらに、前記記載事項(1e)の「プラズマ制御装置77の一部として用いられる神経回路網の構成を示す。・・・・次に、神経回路網については、エラーを予測/検出するために、さらには、アーキング前にRF電力入力を低下させることによりエラーを回避するためにさえも用いることができる。」との記載における「エラー」とは、前記記載事項(1a)の「神経回路網については、アーキングを検出または予測し、」との記載から「アーキング」であると解される。
よって、刊行物1に記載されたものは、プラズマ制御装置の一部として用いられる神経回路網、つまり、「プラズマ制御装置は、少なくとも1つの信号を使用して、アーキング前にアーキングを回避するためにプラズマ処理システムを制御する」ものであるといえる。


そこで、上記(ア)?(エ)の検討を踏まえて、記載事項(1a)?(1e)を本願補正発明の記載ぶりに則して整理すると、刊行物1には、
「プラズマの形成を容易にするように構成された処理チャンバと、
前記処理チャンバに結合され、前記プラズマに関連する少なくとも1つの信号を発生するように構成された少なくとも1つの信号感知素子と、前記少なくとも1つの信号感知素子に結合されたプラズマ制御装置とを備えるアーキングを検出しかつ防止するための装置と、を具備するプラズマ処理システムであって、
プラズマ制御装置は、前記少なくとも1つの信号を使用して、アーキング前にアーキングを回避するために前記プラズマ処理システムを制御するように構成されるプラズマ処理システム。」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

3.対比・判断
本願補正発明と刊行物1発明を対比すると、
(1)刊行物1発明における、「処理チャンバ」、「信号感知素子」、「プラズマ制御装置」、及び「アーキング前にアーキングを回避する」は、本願補正発明における「処理反応装置」、「センサ」、「コントローラ」、及び「アーク事象の発生の確率を減少する」にそれぞれ相当する。

(2)刊行物1発明における「アーキングを検出しかつ防止するための装置」は、アーキングを防止する機能を有する装置であるから、アークを抑制しているものと解すことができる。ゆえに、刊行物1発明における「アーキングを検出しかつ防止するための装置」は、本願補正発明における「アーク抑制システム」に相当するといえる。

そうすると、両者は、「プラズマの形成を容易にするように構成された処理反応装置と、
前記処理反応装置に結合され、前記プラズマに関連する少なくとも1つの信号を発生するように構成された少なくとも1つのセンサと、前記少なくとも1つのセンサに結合されたコントローラとを備えるアーク抑制システムと、を具備するプラズマ処理システムであって、
前記コントローラは、前記少なくとも1つの信号を使用して、アーク事象の発生の確率を減少するために前記プラズマ処理システムを制御するように構成されるプラズマ処理システム。」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
コントローラが、少なくとも1つの信号を使用して、アーク事象の発生の確率を減少するためにプラズマ処理システムを制御する事項について、本願補正発明では「少なくとも1つの信号と基準信号との間の少なくとも1つの差信号を決定し、前記少なくとも1つの差信号を目標差と比較することから前記プラズマ処理システム内のアークの発生の確率の状態を決定し、前記状態により」アーク事象の発生の確率を減少するためにプラズマ処理システムを制御するのに対し、刊行物1発明では、プラズマ制御装置は、アーキング前にアーキングを回避するためにプラズマ処理システムを制御するものであるが、その際少なくとも1つの信号をどのように使用しているのか不明である点。

前記相違点について検討する。
[相違点について]
半導体製造装置において、データに基づいて、突発的な不良に対して発生確率などを推測し、突発的な不良に対処することは、下記周知文献1にも記載されたように、従来から周知の事項である。
また、プラズマ処理装置において、検出した信号の処理手段として、検出した信号と基準信号の減算器にて減算すること、つまり、差信号を生成し、つぎに、生成した差信号を予め設定された基準電圧値と、電圧比較器で比較してアーク放電等が発生する前の微少な異常放電を検出することは、下記周知文献2に記載されているように従来から周知の技術である。
よって、刊行物1発明において、プラズマ処理装置が、少なくとも1つの信号と基準信号との間の少なくとも1つの差信号を決定し、前記少なくとも1つの差信号を目標差と比較することから前記プラズマ処理システム内のアークの発生の確率の状態を決定し、前記状態によりアーク事象の発生の確率を減少するためにプラズマ処理システムを制御するものとすることは、当業者においては容易に想到し得るものであり、そのことによる作用効果も当業者が予想しうるものにすぎない。


周知文献1:特開2000-269108号公報
(周1)「【0085】4.管理情報から生産管理への運用方法
つぎに、本実施の形態に係る半導体製造装置の管理システムによる管理情報から生産管理への運用方法について説明する。
【0086】上述のように得られた管理情報から、次の5種類の生産管理を行うことができる。
【0087】・・・・
【0088】〔2〕突発的な不良の発生原因を解明する
製造装置9を常時監視することから、突発的な不良に対して、発生の確認、発生原因、発生時刻、他の要因との関係性、発生確率、発生条件の分布などをデータに基づいて推測することができる。ゆえに、突発的な不良の発生原因として高確率で推測される要因から順に確認試験を行って、発生原因を解明することができる。よって、突発的な不良への対処方法を効率的に選択することができる。」 (【0085】?【0088】)

周知文献2:特開平9-266097号公報
(周2-1)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、スパークやアーク放電が発生する前には、局部的に微少な異常放電が生じている。この微少な異常放電は、スパークやアーク放電等のプラズマ放電異常の初期状態であると考えられる。・・・・
【0005】上述したRFプラズマ処理装置においては、スパークやアーク放電の発生を検出することができるが、このスパークやアーク放電の前の微少な異常放電の発生を検出することはできない。
【0006】・・・・従って、スパークやアーク放電などの異常放電を未然に防止することが切望されていた。
【0007】しかしながら、微少な異常放電を検出できない以上、それに引き続いて生ずるスパークやアーク放電等の異常放電を未然に防止することはできなかった。
【0008】本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、プラズマ放電異常の初期状態である微少な異常放電を検出することができるプラズマ処理方法を提供することにある。」
(【0004】?【0008】)

(周2-2)「【0055】交流増幅器21の出力は、検波器22で検波され、電圧比較器23に供給される。電圧比較器23には、所定の基準電圧値を予め設定するための検出感度設定ボリュウム24が接続されている。電圧比較器23では、検出感度設定ボリュウム24で予め設定された電圧値と、検波器22からの電圧値とが比較される。」(【0055】)

(周2-3)「【0069】次に、図1のプラズマ処理装置の他の実施例の概略的な構成を図8に示す。
【0070】図1と図8との相違点は、図8の構成においては、・・・・プラズマ放電の高調波の電圧を検出するための割算器20、交流増幅器21、及び検波器22の代わりに、減算器40を搭載していることである。
【0071】図8のプラズマ処理装置では、検波器19からの第6高調波レベルより、高周波電源3からの進行波(Pf)電力モニター電圧を減算器40にて減算している。
【0072】・・・・
【0073】・・・・
【0074】図8のプラズマ処理装置では、上述の高調波電力と第6高調波レベルとの関係を利用して、プラズマ正常時には減算器40よりローが出力され、プラズマ放電異常の初期状態に移行した後はハイが出力される。この減算器40の出力を電圧比較器23に入力させれば、上述の実施例と同様にして、プラズマ放電異常の初期状態に移行したことを検出できる。」
(【0069】?【0074】)


4.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び従来より周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることはできない。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成21年1月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?64に係る発明は、平成20年8月4日付けの手続補正書により補正された請求項1?64に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
プラズマの形成を容易にするように構成された処理反応装置と、
前記処理反応装置に結合され、前記プラズマに関連する少なくとも1つの信号を発生するように構成された少なくとも1つのセンサと、前記少なくとも1つのセンサに結合されたコントローラとを備えるアーク抑制システムと、を具備するプラズマ処理システムであって、
前記コントローラは、前記少なくとも1つの信号を使用して前記プラズマ処理システム内のアークの発生の確率の状態を決定し、前記状態によりアーク事象の発生の確率を減少するために前記プラズマ処理システムを制御するように構成されるプラズマ処理システム。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は前記「第2 [理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]」で検討した本願補正発明から、プラズマ処理システム内のアークの発生の確率の状態を決定する事項において、「少なくとも1つの信号と基準信号との間の少なくとも1つの差信号を決定し、前記少なくとも1つの差信号を目標差と比較することから」との限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含む本願補正発明が前記「第2 [理由]3.」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び従来からの周知の事項に基いて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び従来の周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.審判請求書及び回答書の主張について
審判請求人は審判請求書の「(3)刊行物に係る発明と本願発明との対比」の欄において「引用文献1は、アークの間に生成される調和周波数に基づいてアークを検出するものでありますが、この引用文献1は、アークが起こったあとに、アークの発生を検出することができるだけであります。引用文献1はアークの「予測」について言及しておりますが、この予測は、少ないながらも存在するひどいアークの実際の検出に基づいて、更なるよりひどいアークの予測をすることであり得るだけであります。それゆえに、刊行物1も、本願の目的とするアークの発生の確率を決定することを開示するものではないことがご理解頂けると思います。」と主張し、回答書においても同様の主張をしている。
しかし、刊行物1の前記記載事項(1e)の「アーキング前にRF電力入力を低下させることによりエラーを回避するためにさえも用いることができる。」との記載から、刊行物1には、アーキング前にエラー(アーキング)を回避するものも明記されているといえる。
してみれば、刊行物1に記載されたものは、審判請求人が主張するような「アークが起こったあとに、アークの発生を検出することができるだけであります。引用文献1はアークの「予測」について言及しておりますが、この予測は、少ないながらも存在するひどいアークの実際の検出に基づいて、更なるよりひどいアークの予測をすることであり得るだけであります。」との審判請求人の主張するものではなく、よって、審判請求人の主張を採用することはできない。


5.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び従来の周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許を受けることができないものであり、他の請求項2?64に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-02 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-20 
出願番号 特願2004-517580(P2004-517580)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 淳一  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 田中 永一
加藤 友也
発明の名称 プラズマ処理システム内のアーク抑制方法およびシステム  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 勝村 紘  
代理人 佐藤 立志  
代理人 峰 隆司  
代理人 福原 淑弘  
代理人 野河 信久  
代理人 堀内 美保子  
代理人 市原 卓三  
代理人 村松 貞男  
代理人 岡田 貴志  
代理人 河野 哲  
代理人 河井 将次  
代理人 竹内 将訓  
代理人 砂川 克  
代理人 河野 直樹  
代理人 山下 元  
代理人 白根 俊郎  
代理人 中村 誠  
代理人 風間 鉄也  

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