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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G |
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管理番号 | 1232144 |
審判番号 | 不服2009-25520 |
総通号数 | 136 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-12-24 |
確定日 | 2011-02-07 |
事件の表示 | 特願2005- 32494「植物の生育促進方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月 6日出願公開、特開2005-270098〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成17年2月9日の出願(優先権主張 平成16年2月23日)であって、平成21年10月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月24日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。 その後、平成22年6月21日付けで、審尋を行ったところ、同年8月11日付けで回答書が提出された。 第2 平成21年12月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成21年12月24日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容、補正後の本願発明について 平成21年12月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を、次のとおりに補正しようとする補正事項を含むものである。 「【請求項1】 植物の生育環境を、NO_(X)発生手段とNO_(X)除去手段とを用いて、NO_(X) 10?200ppbの範囲内で植物に応じて生育促進に適した濃度の環境に調整し、該濃度を一定に維持し、この環境下に植物を生育させることを特徴とする、植物の生育促進方法であって、前記植物がアブラナ科植物である、植物の生育促進方法。」 上記補正事項は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定する「植物」について、「アブラナ科植物」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。 2 独立特許要件の判断 (1)刊行物及びその記載内容 刊行物:Mansfield, T.A., et al.,Effects of nitrogen oxides on plants: Two case studies., Air Pollution by Nitrogen Oxides,1982年,Page.511-520 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物には、概略次の事項が記載されている。 (1a)テーブル1には、極度に汚染された状況でのNO_(X)の量の例が示され、ケロシンバーナーにより環境中のCO_(2)を1100ppmにした温室内においては、NO濃度は300ppb、NO_(2)濃度は50-100ppbであることが記載されている(512ページのテーブル1)。 (1b)「窒素代謝・・・トマトにおいて、土壌中の窒素が少ない場合(refs.6と9)、NO_(X)を含む燻蒸は、植物に有効であり生長を促進することができることが知られている。 NO_(X)に対するトマトの異なる品種のレスポンスの差は、近年の栽培品種が通常NO_(X)汚染下の栽培で優位を獲得したものが選択されたことを示唆している。窒素源としてNO_(X)を使用する能力によって、意図せずにNO_(X)に対する耐性を備えたものかもしれない(ref.9)。」(515ページ16?23行) (1c)「いくつかの予備試験では、農業用あるいは観賞用草の4つの種が、10月から3月(ref.17-19)の間の20週間の間、68ppbのNO_(2)、68ppbのSO_(2)、及び68ppbのNO_(2)と68ppbのSO_(2)の濃度の装置にさらされた。牧場や牧草地の重要なコンポーネントであるPhleum pratense(チモシー)の結果が、テーブル2(ref.19からのデータ)に示される。」(516ページ22?26行) (1d)テーブル2には、68ppbで汚染された空気中で10月から3月の間に140日間さらされた後のPhleum pratenseの成長の増加または抑制の程度が、清潔な空気中をコントロールとした場合のパーセンテージで表され、68ppbのNO_(2)にさらされたものは、葉の面積が30%増加し、葉の乾物重が14%増加したことが記載されている(516ページのテーブル2)。 (1e)「低濃度のNO_(2)にさらされることによる生長を促進は、私たち自身の研究で頻繁に観察された。」(517ページ1?2行) (1f)「等量のSO_(2)が存在する毒性のある状態に、この有益な効果を還元する方法が、最近、セルレベルで研究された。Wellburnら(ref.20)は、68ppbのNO_(2)にさらされた葉は、数日で亜硝酸還元酵素の活動が向上したことを見出した。このような亜硝酸塩のアンモニアへの還元が活性化されることが解毒メカニズムとして表われている。」(517ページ2?8行) 上記記載によれば、刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。 「植物の生育環境を、NO_(2) 68ppbに調整し、この環境下にチモシー(Phleum pratense)を生育させる、チモシーの葉の面積及び乾物重を増大する方法。」(以下「刊行物記載の発明」という。) (2)対比 そこで、補正発明と刊行物記載の発明とを対比すると、刊行物記載の発明の「チモシー」、と補正発明の「アブラナ科植物」とは「植物」で共通する。 また、刊行物記載の発明における「NO_(2) 68ppb」と補正発明の「NO_(X)10?200ppbの範囲」とは「低濃度NO_(X)」である点で共通する。 さらに、刊行物記載の発明において「チモシーの葉の面積及び乾物重を増大する方法」とは、「生育促進方法」ということができる。 したがって、両者は、次の点で一致する。 「植物の生育環境を、低濃度のNO_(X)の環境に調整し、この環境下に植物を生育させる植物の生育促進方法。」 また、両者は次の点で相違する。 相違点1:植物が、補正発明では「アブラナ科植物」であるのに対し、刊行物記載の発明では「チモシー(Phleum pratense)」である点。 相違点2:NO_(X)の濃度の調整が、補正発明では「NO_(X)発生手段とNO_(X)除去手段とを用いて」行うものであり、「NO_(X)10?200ppbの範囲内で植物に応じて生育促進に適した濃度の環境に調整し、該濃度を一定に維持」するものであるのに対し、刊行物記載の発明は、NO_(X)の濃度の調整がどのようにして行われているのか、一定に維持されているのか不明であり、また、NO_(2) 68ppbとした理由は不明で、植物に応じて生育促進に適した濃度の環境に調整したものか否か不明な点。 (3)判断 上記相違点1について検討すると、刊行物記載の発明は、特にチモシーを目的としたものではなく、上記刊行物には、トマトにおいても、土壌中の窒素が少ない環境ではあるが、NO_(X)を含む燻蒸は、植物の生長を促進すること知られていることが記載され(記載事項(1b)参照)、さらに、低濃度のNO_(2)にさらされることによる生長の促進は、頻繁に観察されたことが記載されているから(記載事項(1e)参照)、他の植物においても生長促進効果を期待して、NO_(X)を処理することは当業者が容易に想到しることであり、アブラナ科植物を選択してNO_(X)を処理して、同様の効果を確認することは当業者が容易になしうることである。 上記相違点2について検討する。 まず、濃度について検討すると、刊行物記載の発明における、NO_(2) 68ppbは、チモシーの生長を促進する濃度であるから、チモシーの生育促進に適した濃度といえる。そして、植物が異なれば、生育促進に適した濃度も異なることが考えられるから、植物としてアブラナ科植物を選択した際に、NO_(2) 68ppbを参考に、アブラナ科植物の種類及びNO_(X)の種類に応じて生育促進に適した濃度を実験により求めることに困難性はなく、NO_(X)10?200ppbの範囲内で植物に応じて生育促進に適した濃度の環境に調整することは当業者が容易になしうることである。 次に、NO_(X)の濃度調整手段について検討すると、刊行物には温室内でケロシンバーナを燃焼させると、NOが300ppb、NO_(2) が50?100ppb程度となることが記載されており(記載事項(1a)参照)、NO_(2) 処理を行うためにケロシンバーナのようなNO_(X)発生手段を用いることは刊行物の記載に基いて当業者が容易になしうることであり、さらに濃度を調整するために、過剰なNO_(X)を除去する排気手段や吸着手段等のNO_(X)除去手段とを用いることも、当業者が適宜になしうることである。 そして、刊行物記載の発明には、低濃度のNO_(2)にさらすことによる植物の生長が促進されることが示されているのであるから、生長が促進されるNO_(X)濃度を一定に維持しようとすることは当業者が容易に想到しうることである。 なお、請求人は、平成21年9月10日付け意見書において、刊行物記載のNO_(2)の濃度は、刊行物が引用する参照文献19によれば、月曜日の朝9時30分から金曜日の17時まで110ppb濃度のNO_(X)を供給後、週末はNO_(X)を殆ど含まないclean airを供給することにより調整された環境であり、68ppbは、月曜から金曜日に供給された量を一週間に供給された総量として、7日間の平均値を算出したものである旨、主張しているが、生長促進効果があるのであれば、常時一定の濃度で供給してみようとすることに困難性はなく、また、それにより、刊行物記載の供給方法に比較して格別顕著な効果が生じるとは認められない。 また、請求人は、審判請求書において、刊行物の記載事項(1f)に関して、刊行物の記載では、NO_(X)は植物の体内に取り込ませるものであり、取り込まれたNO_(X)が亜硝酸還元酵素を活性化して、ひいては細胞の解毒メカニズムを活性化して成長が促進されるというものであるのに対し、補正発明は、一定濃度のNO_(X)を維持して曝露するという方法により、アブラナ科植物の生育を促進させるというものであり、曝露されたNO_(X)は概して植物体に吸収されるものではないから、アブラナ科植物に対する生育促進方法は、刊行物から容易に想到するものではない旨、主張している。 しかし、アブラナ科植物が、NO_(X)をほとんど吸収しないことは従来から知られていたことではないから、刊行物記載の発明に、低濃度のNO_(X)の環境でチモシーの生育が促進されることが示されているのであれば、この発明をアブラナ科植物に適用してみようとすることが困難であるとはいえない。 そして、補正発明の効果である、特定濃度のNO_(X)の環境で植物を生育させることによりアブラナ科植物の生育が促進されるとの効果は、刊行物記載の発明から当業者が予想しうる効果が、実際に得られたものであって格別なものとはいえない。 なお、アブラナ科植物においては、NO_(X)をほとんど吸収することなく生長が促進されることが観察されたとしても、低濃度のNO_(X)の環境で植物の生育が促進されるとの作用効果そのものは予測できるものである。 よって、補正発明は、刊行物記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 補正の却下の決定のむすび 以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成21年12月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成21年9月10日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明は、次のとおりである。 「【請求項1】 植物の生育環境を、NO_(X)発生手段とNO_(X)除去手段とを用いて、NO_(X)10?200ppbの範囲内で植物に応じて生育促進に適した濃度の環境に調整し、該濃度を一定に維持し、この環境下に植物を生育させることを特徴とする、植物の生育促進方法。」 2 刊行物及び刊行物の記載内容 刊行物:Mansfield, T.A., et al.,Effects of nitrogen oxides on plants: Two case studies., Air Pollution by Nitrogen Oxides,1982年,Page.511-520 原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された上記刊行物の記載内容は、前記「第2 2(1)」に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願の請求項1に係る発明は、前記「第2」で検討した補正発明における「植物」についての「アブラナ科植物」との限定を省略したものである。 そうすると、請求項1に係る発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定を付加したものに相当する補正発明が、前記「第2 2(3)」に記載したとおり、上記刊行物記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明も、同様の理由により、上記刊行物記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-12-08 |
結審通知日 | 2010-12-09 |
審決日 | 2010-12-21 |
出願番号 | 特願2005-32494(P2005-32494) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A01G)
P 1 8・ 575- Z (A01G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 坂田 誠 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
伊波 猛 草野 顕子 |
発明の名称 | 植物の生育促進方法 |
代理人 | 細田 芳徳 |