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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1232147
審判番号 不服2010-4274  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-26 
確定日 2011-02-07 
事件の表示 特願2004-282042「駆動力伝達装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月13日出願公開、特開2006- 97733〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成16年9月28日の出願であって、平成21年11月26日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年2月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

【2】平成22年2月26日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年2月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明

平成22年2月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
二軸の交差角が変化してもその二軸間で回転力を伝達し得る自在軸継手を前記二軸間に着脱可能に介装すると共に、前記自在軸継手と少なくとも一方の軸との間を密封するシール部材を配設した駆動力伝達装置であって、前記シール部材は、自在軸継手の一方の軸側に設けられ、凸球面が外周に部分的に形成された凸球面部材と、自在軸継手の一方の軸側に前記凸球面部材に対して軸方向に離間させて設けられ、凹球面が内周に部分的に形成された凹球面部材と、自在軸継手の他方の軸側に設けられて前記凸球面部材と凹球面部材との間に延びるように配され、前記凸球面部材の凸球面と接する凹球面が内周に部分的に形成されると共に前記凹球面部材の凹球面と接する凸球面が外周に部分的に形成されて前記凸球面部材および前記凹球面部材との間で摺接する中間部材とで構成された二重の球面メカニカルシール構造を具備したことを特徴とする駆動力伝達装置。」
と補正された。(なお、下線は補正箇所を示す。)

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である中間部材について、「前記凸球面部材および前記凹球面部材との間で摺接する」との限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に日本国内において頒布された刊行物は、次のとおりである。

刊行物1:特開2002-340010号公報
刊行物2:実願平2-102307号(実開平4-62466号)
のマイクロフィルム

(1)刊行物1(特開2002-340010号公報)の記載事項

刊行物1には、「ロール駆動力伝達装置」に関し、図面(特に図1?4)とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は一対の等速自在継手間に中間軸を用いたロール駆動力伝達装置に関し、特に、鉄鋼設備のロール駆動など劣悪な条件下で使用される場合に好適なロール駆動力伝達装置に関する。」

(イ) 「【0030】図1は、上記のロール駆動力伝達装置20a,20bの実施形態の一部正断面図で、上ピンチロール21と下ピンチロール22とが、所定の間隔寸法で対向設置されており、各ピンチロール21,22の回転軸21a,22aはそれぞれ軸受23,23および24,24によって回転自在に支持されている。各ピンチロール21,22の回転軸21a,22aには、それぞれ取り付けフランジ25,26および等速自在継手27,28を介して、中間軸29,30に連結されている。この中間軸29,30は、等速自在継手31,32および取り付けフランジ33,34を介して駆動軸35,36に連結されている。なお、図1における37は劣悪な雰囲気であるロール加工域Aと、駆動域Bとを仕切っているチャンバであり、前記中間軸29,30は、それぞれチャンバ37に形成した孔37a,37bを通して連結されている。
【0031】上記の構成において、駆動軸35,36を同期して逆方向に回転駆動すると、等速自在継手31,32を介して中間軸29,30が回転動作し、中間軸29,30の回転動作によって、等速自在継手27,28を介して回転軸21a,22aが回転動作して、ピンチロール21,22が逆方向に回転動作して、ピンチロール21,22間で鋳造品38が成形あるいは残留応力が矯正されながら、連続的に送られていく。
【0032】図3は上記図1における等速自在継手27,中間軸29および等速自在継手31からなるロール駆動力伝達装置20aの断面図である。ここで、前記取り付けフランジ25と等速自在継手27とは、従来と同様に一体溶接部39によって連結され、等速自在継手31と取り付けフランジ33とは、従来と同様に一体溶接部40によって連結されている。しかしながら、本実施形態のロール駆動力伝達装置20aでは、等速自在継手27と中間軸29とは、一体溶接部によらないで取り付けフランジ41,42および取り付けボルト43によるフランジボルト締結によって、また、前記中間軸29と等速自在継手31とは、取り付けフランジ44,45および取り付けボルト46によるフランジボルト締結によって、それぞれ着脱可能に連結されている。なお、前記中間軸29側の取り付けフランジ42,44と中間軸29とは、それぞれ一体溶接部47,48によって連結されている。」

(ウ) 「【0033】図4は、本発明の第1実施形態のロール駆動力伝達装置20aにおける等速自在継手31と、この等速自在継手31および取り付けフランジ33,45の連結部分との拡大断面図を示す。等速自在継手31は、内周面に軸方向の複数のトラック溝を有する外側継手部材311と、外周面に軸方向の複数のトラック溝を有する内側継手部材312と、前記両トラック溝によって形成されるトラックに収容された複数のトルク伝達ボール313と、これらのボール313を保持する保持器314とで構成されている外側継手部材311には、前述のように、取り付けフランジ33が一体溶接部40により連結されている。また、内側継手部材312には、取り付けフランジ45がねじ結合に加えて取り付け部材49およびボルト50により、一体に取り付けられているとともに、Oリング51を介して金属製のメカニカルシール内環52が取り付けられている。このメカニカルシール内環52は、Oリング53を介して金属製のメカニカルシール外環54と接している。メカニカルシール外環54はボルト55によって、外側継手部材311に取り付けられている。
【0034】なお、図中、符号56は、内側継手部材312とメカニカルシール内環52との間に圧縮状態で介在させたコイルバネで、メカニカルシール内環52をメカニカルシール外環54に押し付けて、高いシール性を確保している。
【0035】また、メカニカルシール外環54と取り付けフランジ45とにまたがって、縫製蛇腹57が取り付けられており、その両端はそれぞれブーツバンド58a,58bおよびブーツクランプ59a,59bによって、メカニカルシール外環54および取り付けフランジ45に固定されている。
【0036】この第1実施形態においては、メカニカルシール52,54で内側シール装置60を構成し、縫製蛇腹57で外側シール装置61を構成しており、二重シール構造を有している。
【0037】したがって、上記のロール駆動力伝達装置20aは、内側シール装置60によって、等速自在継手31からの潤滑材の漏洩を防止しているとともに、外側シール装置61によって、内側シール装置60を劣悪な雰囲気から保護している。」

上記記載事項(ア)?(ウ)及び図面(特に、図1?4)の記載を総合すると、刊行物1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「中間軸29は、等速自在継手31および取り付けフランジ33を介して駆動軸35に連結され、上記駆動軸35を回転駆動すると、上記等速自在継手31を介して上記中間軸29が回転動作し、上記中間軸29と上記等速自在継手31とは、取り付けフランジ44,45および取り付けボルト46によるフランジボルト締結によって、それぞれ着脱可能に連結されると共に、二重シール構造を有するロール駆動力伝達装置20aであって、上記二重シール構造は、内側継手部材312に取り付けられたメカニカルシール内環52と、外側継手部分311に取り付けられて上記メカニカルシール内環52と接するメカニカルシール外環54と、上記メカニカルシール外環54と上記取り付けフランジ45とにまたがって取り付けられた縫製蛇腹57とで構成された二重シール構造を有するロール駆動力伝達装置20a。」

(2)刊行物2(実願平2-102307号(実開平4-62466号)のマイクロフィルム)の記載事項

刊行物2には、「自在継手のシール装置」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

(エ) 「〔産業上の利用分野〕
本考案は、各種産業機械に使用される自在継手のシール装置に関する。」(明細書第1ページ第14?16行)

(オ) 「〔従来の技術〕
自在継手は、角度をなす2軸間の動力伝達用に用いられる。継手内部の潤滑のために封入されたグリース等の漏洩、および外部からの異物の侵入を防止するため、従来、クロロプレンゴム等のゴム材料で形成されたゴムブーツが使用されていた。しかし、ゴムブーツは、製鉄工場内等の劣悪な環境下での使用には適さないため、ゴムブーツに代わるものとし、第2図に示すようなシール装置が用いられていた。このシール装置は、開口部(22a)で外輪(23)の外径部を覆う球面部材(22)、一端を外輪(23)に固定され、他端の摺接面(25a)で球面部材(22)の内周面(22b)に摺接する金属製のシール部材(25)で構成される。球面部材(22)は、内輪軸(21)に摺動可能に装着されており、コイルバネ(26)によりシール部材(25)側に押圧付勢される。このため、長期間使用によってシール部材(25)の摺接面(25a)が摩耗した場合には、摩耗した分だけ球面部材(22)がシール部材(25)側に摺動するため、摺接面(25a)と内周面(22b)との密着性が確保される。」(明細書第1ページ第17行?第2ページ第18行)

(カ) 「このシール部材は軸方向に2列配置されると、開口部側(外側)のシール部材が、主に外部からの異物侵入を防止する役割をなし、内側のシール部材が主に継手内部からのグリース漏洩を防止する役割をなすため、シール性は一層向上する。特に、球面部材の開口部側内周面には塵埃等の異物が付着しやすく、この付着した異物が継手の屈曲動作に伴って、シール部材の摺接面を通って継手内部に侵入したり、あるいは摺接面の摩耗を促進したりする。しかし、シール部材を2列配置することによって、外側のシール部材が一種のダストワイパー的な作用をなし、内側シールは異物と接することがなくなるため、異物の侵入、摺接面の摩耗増大が防止される。」(明細書第5ページ第2?15行)

(キ) 「本実施例に係るシール装置は、軸方向に2列配置されるため、開口部(2a)側のシール部材(5)が主に外部からの異物侵入を防止する役割をなし、内側のシール部材(5)が主に継手内部のグリースを密封する役割をなす。」(明細書第7ページ第5?9行)

上記記載事項(エ)?(キ)及び図面の記載から、刊行物2には次の技術事項(a)、(b)が記載されているものと認められる。
(a)製鉄工場内等の劣悪な環境下では、外部からの異物が継手内部に侵入することを防止するため、ゴムブーツに代えて、内輪軸(21)に摺動可能に装着されて、内周面(22b)が形成された球面部材(22)と、外輪(23)に固定されて、上記球面部材(22)の内周面(22b)に摺接する摺接面(25a)が形成された金属製のシール部材(25)とで構成されるシール装置が用いられる。
(b)上記のようなシール装置は軸方向に2列配置されるとシール性は一層向上する(第1図に記載された実施例を参照)。

3.発明の対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「中間軸29」及び「駆動軸35」は、その機能からみて、本願補正発明の「二軸」に相当し、また、等速自在継手は、二軸の交差角が変化してもその二軸間で回転力を伝達し得るものであることは技術常識であるから、引用発明の「等速自在継手31」は、本願補正発明の「二軸の交差角が変化してもその二軸間で回転力を伝達し得る自在軸継手」に相当する。
引用発明の「上記中間軸29と上記等速自在継手31とは、取り付けフランジ44,45および取り付けボルト46によるフランジボルト締結によって、それぞれ着脱可能に連結される」ものであり、刊行物1の図4の記載をみると、右側の取り付けフランジ45と同様に、左側の取り付けフランジ33にもボルト孔が設けられているから、上記中間軸29と同様に上記駆動軸35と上記等速自在継手31とは、それぞれ着脱可能に連結されるものと認められる。すなわち、引用発明の「等速自在継手31」は、本願補正発明の「自在軸継手を前記二軸間に着脱可能に介装する」構成を有するものである。
引用発明の「二重シール構造」は、その機能からみて、本願補正発明の「前記自在軸継手と少なくとも一方の軸との間を密封するシール部材」に相当し、以下同様に、「有する」は「配設した」に、「ロール駆動力伝達装置20a」は「駆動力伝達装置」に、それぞれ相当する。
引用発明の「内側継手部材312」は、その機能からみて、本願補正発明の「自在軸継手の一方の軸側」に相当し、以下同様に、「取り付けられた」は「設けられ」に、「メカニカルシール内環52」は「凸球面部材」に、それぞれ相当する。また、等速自在継手の機能及び図4の記載からみて、上記メカニカルシール内環52の外周は、凸球面が部分的に形成されているといえるものである。よって、引用発明の「内側継手部材312に取り付けられたメカニカルシール内環52」は、実質的に、本願補正発明の「自在軸継手の一方の軸側に設けられ、凸球面が外周に部分的に形成された凸球面部材」に相当する。
引用発明の「外側継手部分311」は、その機能からみて、本願補正発明の「自在軸継手の他方の軸側」に相当し、また同様に、「取り付けられて」は「設けられて」に相当する。また、等速自在継手の機能及び図4の記載からみて、引用発明の「メカニカルシール外環54」の上記メカニカルシール内環52の凸球面と接する内周には、凹球面が部分的に形成されているものと認められる。よって、引用発明の「外側継手部分311に取り付けられて上記メカニカルシール内環52と接するメカニカルシール外環54」は、その機能の相違を相違点において検討することとすると、少なくとも本願補正発明の「自在軸継手の他方の軸側に設けられて、前記凸球面部材の凸球面と接する凹球面が内周に部分的に形成される」ものである限りにおいて、本願補正発明の「中間部材」に相当する。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
[一致点]
「二軸の交差角が変化してもその二軸間で回転力を伝達し得る自在軸継手を前記二軸間に着脱可能に介装すると共に、前記自在軸継手と少なくとも一方の軸との間を密封するシール部材を配設した駆動力伝達装置であって、前記シール部材は、自在軸継手の一方の軸側に設けられ、凸球面が外周に部分的に形成された凸球面部材と、自在軸継手の他方の軸側に設けられて、前記凸球面部材の凸球面と接する凹球面が内周に部分的に形成される中間部材とで構成されたシール構造を具備した駆動力伝達装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
本願補正発明は、シール部材が「自在軸継手の一方の軸側に前記凸球面部材に対して軸方向に離間させて設けられ、凹球面が内周に部分的に形成された凹球面部材」を有するとともに、中間部材が「前記凸球面部材と凹球面部材との間に延びるように配され」、「前記凹球面部材の凹球面と接する凸球面が外周に部分的に形成されて前記凸球面部材および前記凹球面部材との間で摺接する」ものであることから、「二重の球面メカニカルシール構造を具備」しているのに対して、引用発明は、二重シール構造が、「上記メカニカルシール外環54と上記取り付けフランジ45とにまたがって取り付けられた縫製蛇腹57」とで構成されるものであることから、メカニカルシール外環54が本願補正発明の中間部材の上記の構成を備えるものではない点。

4.当審の判断

(1)相違点について
本願補正発明は、劣悪な雰囲気下で使用される等速自在継手のシール部材が劣化しやすく、シール性能および耐久性能の低下を招来することから、引用発明のような内側シール部材に金属メカニカルシールと外側シール部材に縫製蛇腹を使用している二重構造のシール部材では、外側シール部材が損傷すると金属メカニカルシールが腐食したり摺動部分に異物を噛み込む問題があることを課題の一つとしているものである。そして、そのための解決手段として、上記二重構造のシール部材として、二重の球面メカニカルシール構造を採用することにより、高いシール性を有するようにしたものである。
ところで、刊行物2には、上記のような劣悪な雰囲気下で使用されるシール部材は、ゴムブーツに代えて、メカニカルシールを使用することが示唆されている(上記技術事項(a))。そして、上記メカニカルシールは、軸方向に2列配置されるとシール性は一層向上するものである(上記技術事項(b)。そうすると、刊行物1と刊行物2に接した当業者であれば、引用発明の縫製蛇腹57が上記ゴムブーツに類似するものであることから、上記縫製蛇腹57に代えてメカニカルシールを使用し、シール部材に求められるシール性に応じて軸方向に2列配置することは容易に推考できることである。
ところで、上記刊行物2の第1図に記載されたシール装置は、二重の球面メカニカルシール構造といえるものであるが、一般に、相対回転する二軸に用いられるメカニカルシールにおいては、シール性を向上するため2列配置して、いわゆるダブルシールとして使用することは広く知られており、その配置の態様は2つのメカニカルシールを直列に並べるもの(直列型ダブルシール)、対面して並べるもの(対面型ダブルシール)、背あわせにするもの(背合せ形ダブルシール)などが本願出願前に周知の技術として知られている(例えば、鷲田彰「メカニカルシール」6版(昭和50年11月25日)日刊工業新聞社 p.159の「図4.25?4.28」に記載されたダブルシールの種類を参照)。このうち、上記対面型ダブルシールは、2つのメカニカルシールを対面させて回転部材の両側から挟み込むようにシールする構造を有するものであるが、当該構造は相対回転する二軸のみならず自在軸継手と軸との間を密封するシール部材にも適用できることは当業者であれば直ちに理解できることである。してみると、軸方向に2列配置するメカニカルシールは、刊行物2の第1図に記載されたように球面部材の片側に2つのシールを配置するか、球面部材の両側から挟み込むようにシールを配置するかということは二軸間のレイアウトや使用環境などを考慮して決定できる設計事項ということができるから、引用発明に刊行物2に記載された技術事項(a)、(b)を適用して、縫製蛇腹57に代えてメカニカルシールを用いることにより、球面部材の両側から挟み込むように2つのメカニカルシールを有するシール部材とすることは当業者が容易に推考できることである。
さらに、2つのメカニカルシールを上記のように球面部材の両側から挟み込むように設けた場合、当該2つのメカニカルシールの中間に位置する球面部材は上記相違点に係る「中間部材」に相当することは明らかである。このことは、刊行物2の図面の第2図をみると、球面部材(22)は「凹球面部材」といえるものであり、シール部材(25)の摺接面(25a)は凸球面といえるものであるから、上記シール部材(25)は、上記相違点に係る本願補正発明の、自在軸継手の他方の軸側に設けられて、「前記凹球面部材の凹球面と接する凸球面が外周に部分的に形成され」たものであることからも理解できる。
したがって、引用発明に上記刊行物2に記載された技術事項及び上記周知の技術を適用して、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)作用効果について

本願補正発明が奏する作用効果は、いずれも刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。

(3)まとめ

したがって、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)審判請求人の主張について

審判請求人は、平成22年2月26日付けで提出した審判請求書の請求の理由において、刊行物1及び2には、凸球面部材及び凹球面部材との間で摺接する二つの摺接面が内外周に形成された中間部材という技術思想は記載されていない旨を主張し、また、当審における審尋に対する平成22年10月12日付けの回答書においても同趣旨の主張をしている。
しかしながら、刊行物2には、上記技術事項(a)、(b)を含む発明が記載されており、また、一般に、相対回転する二軸のダブルシールとして、対面型ダブルシールを用いることが、本願出願前に周知の技術であることを考慮すれば、二つの摺接面が内外周に形成された中間部材を有するメカニカルシールは技術思想として周知の技術に位置づけられるものであるから、上記「(1)相違点について」で説示したとおり、本願補正発明は、引用発明に上記刊行物2に記載された技術事項及び上記周知の技術を適用して当業者が容易に想到し得たものといわざるを得ない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成22年2月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成21年6月23日付けの手続補正書によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
二軸の交差角が変化してもその二軸間で回転力を伝達し得る自在軸継手を前記二軸間に着脱可能に介装すると共に、前記自在軸継手と少なくとも一方の軸との間を密封するシール部材を配設した駆動力伝達装置であって、前記シール部材は、自在軸継手の一方の軸側に設けられ、凸球面が外周に部分的に形成された凸球面部材と、自在軸継手の一方の軸側に前記凸球面部材に対して軸方向に離間させて設けられ、凹球面が内周に部分的に形成された凹球面部材と、自在軸継手の他方の軸側に設けられて前記凸球面部材と凹球面部材との間に延びるように配され、前記凸球面部材の凸球面と接する凹球面が内周に部分的に形成されると共に前記凹球面部材の凹球面と接する凸球面が外周に部分的に形成された中間部材とで構成された二重の球面メカニカルシール構造を具備したことを特徴とする駆動力伝達装置。」

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び2とその記載事項は、上記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、中間部材についての限定事項である「前記凸球面部材および前記凹球面部材との間で摺接する」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本件補正によってさらに構成を限定的に減縮した本願補正発明が、上記【2】3.及び【2】4.に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2ないし6に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2010-12-14 
結審通知日 2010-12-15 
審決日 2010-12-28 
出願番号 特願2004-282042(P2004-282042)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
P 1 8・ 575- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 克久  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 大山 健
常盤 務
発明の名称 駆動力伝達装置  
代理人 田中 秀佳  
代理人 城村 邦彦  
代理人 熊野 剛  

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