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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1232173
審判番号 不服2010-8513  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-22 
確定日 2011-02-09 
事件の表示 平成 8年特許願第512152号「抗新形成性のココア抽出物の製造および使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 4月11日国際公開、WO96/10404、平成10年 7月 7日国内公表、特表平10-506903〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯 ・本願発明
本願は、1995年10月 3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1994年10月 3日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1?6に係る発明は、平成21年 9月 3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)

「少なくとも1つの4量体から12量体のココアプロシアニジンオリゴマーを含有するココア抽出物、および担体を含む、経口投与用の固体組成物。」

2 引用刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である1992年 7月 9日に頒布された特開平4-190774号公報(以下「引用例1」という。)には、次の(1)?(6)の事項が記載されている。

(1)「1 プロアントシアニジンオリゴマーを有効成分とする抗変異原性剤。
2 プロアントシアニジンオリゴマーが、一般式


(式中、R_(1)は水素又は水酸基、R_(2)、R_(3)、R_(4)は水素、水酸基又はメトキシル基、R_(5)は水素、ガロイル基又はグリコピラノシル基である)で表されるフラバン-3-オール又はフラバン-3,4-ジオールを構成単位として結合した2?10量体の群より選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の抗変異原性剤。」(特許請求の範囲請求項1-2)

(2)「そしてまた該変異原性抑制作用はその縮合度又は重合度が増す程強くなることをも見出した。」(第2頁左下欄第2-4行)

(3)「先ず、本発明において、プロアントシアニジンオリゴマーとは、各種の植物体に存在する縮合型タンニン、すなわち、フラバン-3-オール又はフラバン-3,4-ジオールを構成単位として縮合若しくは重合により結合した化合物群であって、・・・。
従って、該プロアントシアニジンオリゴマーとしては、前記構成単位の2量体、3量体、4量体、さらには10量体以上の高分子のプロシアニジン、プロデルフィニジン、プロベラルゴニジンなどのプロアントシアニジンオリゴマー及びこれらの立体異性が全て含まれる。」(第2頁右上欄第2-16行)

(4)「そしてまた、プロアントシアニジンオリゴマーは、通常粉末あるいは溶液の状態でそのまま又は可食性のもの(例えばグルコース、デキストリンなど)を加えて抗変異原性剤とし、これを食品に添加混合して使用される。」(第3頁左上欄第7-11行)

(5)「ここで、本発明に用いるプロアントシアニジンオリゴマーにつき、さらに具体的に示す。
前記一般式で表されるフラバン-3-オール又はフラバン-3,4-ジオールを構成単位として結合した2?l0量体などのプロアントシアニジンオリゴマーは、公知方法すなわち合成法あるいは各種植物体よりの抽出などにより得ることができる。後者の場合についていうと、例えば各種の植物体を溶媒を用いて抽出処理し、得た抽出物をさらに液体クロマトグラフィーなどにより分別精製するか、・・・によって得られる。」(第3頁左上欄第16行-同頁右上欄第11行)

(6)「実施例
I.Trp P-2(3-アミノ-1-メチル-5H-ピリド[4,3-b]インドール)に対するカテキン、プロアントシアニジンオリゴマーの変異原性抑制作用
変異原性物質Trp P-2 0.066%(W/V)含有水溶液50μl(該物質33ng含有)に、第1表に示す添加量のカテキン(市販品)、プロアントシアニジンオリゴマーの1つである2量体プロシアニジンB-4(表において2量体PCという)及びC_(4)-C_(8)結合の4量体プロシアニジン(表において4量体PCという)(下記製法により得たもの)の各試料50μl、S-9mix500μl及びTA98株の前培養液100μlを加えた。この混合液を直ちに37℃で20分間インキュベーションし、次いでこれに0.5mMのヒスチジン及び0.5mMのビオチンを含む軟寒天液2mlを加え、最少グルコース寒天培地に拡げた。そして37℃で48時間静置培養後、プレートのコロニー数を数えた。その結果を第1表に示す。
プロアントシアニジンオリゴマーの製法:
・・・
(2)C_(4)-C_(8)結合の4量体プロシアニジン(C_(4)-C_(8)結合Catechin-Catechin-Catechin-Catechin);
白ぶどう(品種 シャルドンネ)搾汁粕を篩で分別して得た白ぶどう種子1kgに対し、水2lを加え、85℃で2時間抽出した。固液分離して得られた抽出液をポリスチレン系樹脂SP207(三菱化成製)カラム(φ1.8×50cm)にて濾過し、ポリフェノールをカラムに吸着させた。このカラムを水1.5l、15%エタノール1.5lにて洗浄後、30%エタノール1.5lにて溶出した。この溶出液を、減圧濃縮した後、凍結乾燥し、粗プロアントシアニジンオリゴマー20.4g(プロアントシアニジンオリゴマ-2?6量体含有量51%)を得た。この粉末の2gを取り、セファデックスLH-20(φ2.5×66cm)を担体とし、エタノール2600 ml及びメタノール2600mlを展開溶媒(2段階溶出)とし、紫外部(OD_(280nm))で検出するカラムクロマトグラフィーを行なった。この溶出液のうち、3200?3400mlの画分を分取し、前記A.G.H.Leaの方法に準じて、目的物157mgを得た。
・・・
第1表

※自然復帰コロニー数/プレート:23

第1表から、プロアントシアニジンオリゴマーのTrpP-2に対するラット肝ホモジネート存在下での変異原性抑制率(抗変異原性)は、顕著に認められ、カテキンに比しても極めて高いことがわかる。」(第4頁左下欄下から3行-第6頁左上欄第2行)

また、同様に原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である1992年に頒布されたJ.Clapperton et al,Polyphenols and Cocoa Flavour,Presented at the XVIth International Conference of the Group Polyphenols,1992年(以下「引用例2」という。)には、次の(7)?(10)の事項が記載されている(英文のため日本語訳で摘示する。)。

(7)「液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた分析は、プロシアニジンがココア豆とココアマスの典型的な渋みに関与する主要な化合物類であることを示した。」(第1頁「要約」の第4-6行)

(8)「プロシアニジンの分離。 プロシアニジンは、脱脂され発酵されていない凍結乾燥された豆から、JalalおよびCollin(1977)の方法の改良型を用いて抽出された。プロシアニジンは、セファデックスLH-20(28×2.5cm)上での液体クロマトグラフィーと、それに続く10μ μBondapak C18(100×8mm)を用いた半調製的HPLCにより精製された。両クロマトグラフィー技法は、分離を補助するためにメタノール/水の段階的勾配を含む。精製された分離物は、FAB-MSにより、VGZ AB-T高解像度MSシステム上で、液体2次イオン質量分析(LSIMS)技術を陽および陰イオンモードで用い、セシウムイオン銃をイオン化源として30kVで用い、「Magic Bullet Matrix」(1:1ジチオスレイトール/ジチオエリスリトール)をプロトンドナーとして用いて、分析された。」(第2頁第12-19行)

(9)「LSIMSによるこれらの画分の分析的研究は、いくつかのフラバン-3-オールオリゴマーの存在を明らかにした(表1参照)。」(第3頁第11-12行)

(10)「表1:濃縮されたココアプロシアニジン画分からのLSIMS(陽イオン)データ

オリゴマー (M+1)^(+) (M+Na)^(+) MW
m/z m/z
--------------------------------
1量体(カテキン) 291 313 290
2量体 577/579 599/601 576/578
3量体 865/867 887/889 884/866
4量体 1155 1177 1154
5量体 1443 1465 1442
6量体 1731 1753 1730
7量体 - 2041 2018
8量体 - 2329 2306 」(第3頁の表1)

前記の記載事項(1)及び(6)からみて、引用例1には「白ぶどう種子の抽出物から得た4量体プロシアニジンを有効成分とする抗変異原性剤」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
本願発明と引用発明を対比する。
本願明細書の第10頁第24行-第11頁第4行の「抽出物は、一般的に、ココア豆を粉末に還元し、粉末を脱脂し、活性な化合物(群)を脱脂された粉末から抽出することにより調製される。・・・活性な化合物(群)の抽出は溶媒抽出技術で可能である。抽出物は精製できる;例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーによるかまたは調製的高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)技術によるか、またはこれらの技術の組合せによる。活性を有する抽出物は、何れかの特定の理論に必ず拘束されることを望まないが、プロシアニジン等のココアポリフェノール(群)であると同定された。」の記載を含む、本願の発明の詳細な説明の記載全体からみて、本願発明の「少なくとも1つの4量体から12量体のココアプロシアニジンオリゴマーを含有するココア抽出物」は、ココア豆の抽出物を精製して得たものである。
一方、引用例1の前記記載事項(6)からみて、引用発明の「白ぶどう種子の抽出物から得た4量体プロシアニジン」は、白ぶどう種子の抽出物を精製して得た4量体のプロシアニジンオリゴマーであるから、本願発明と引用発明は「4量体のプロシアニジンオリゴマーを含有する植物体抽出物」の点で一致し、両者は、(a)前記「植物体抽出物」が、本願発明は「ココアプロシアニジンオリゴマーを含有するココア抽出物」であるのに対して、引用発明は「プロシアニジンオリゴマーを含有する白ぶどう種子抽出物」である点、(b)本願発明は、前記「植物体抽出物」、および担体を含む、経口投与用の固体組成物であるのに対し、引用発明は、前記「植物体抽出物」を有効成分とする抗変異原性剤である点で、相違する。

4 当審の判断
上記相違点(a)について検討する。
前記記載事項(1)、(3)、(5)にあるように、引用例1には、引用発明の抗変異原性剤の有効成分である「4量体のプロシアニジンオリゴマー」は、種々の植物体から得た抽出物を精製して得た、2?10量体の群より選ばれた少なくとも1種又は10量体以上の高分子のプロアントシアニジンオリゴマー及びこれらの立体異性であってもよいことが記載されている。
一方、前記記載事項(7)?(10)にあるように、引用例2には、ココア豆の抽出物を精製して、2?8量体のプロシアニジンオリゴマーを含むココアプロシアニジン画分を得たことが記載されている。
ここで、平成21年 9月 3日付け意見書に添付された「参考資料(i)ココアプロシアニジンオリゴマーの説明」の第1頁第2-3行及び同頁下から6行にも記載されているとおり、「プロシアニジン」は、プロアントシアニジンクラス内のポリフェノール化合物の亜群であって、専らカテキンおよびエピカテキンに由来するプロアントシアニジンを指すものであるところ、引用例2に記載された前記ココアプロシアニジン画分が、引用例1に記載された、種々の植物体から得た抽出物を精製して得た、2?10量体の群より選ばれた少なくとも1種のプロアントシアニジンオリゴマーに相当することは当業者に明らかであるから、引用発明の「プロシアニジンオリゴマーを含有する白ぶどう種子抽出物」に代えて引用例2に記載された前記ココアプロシアニジン画分を用いることは、引用例1及び2から当業者にとって容易である。

上記相違点(b)について検討する。
前記記載事項(4)にあるように、引用例1には、プロアントシアニジンオリゴマーは粉末又は液体の状態でよく、グルコース、デキストリンなどの可食性のものを加えて抗変異原性剤とし、食品に添加混合して使用してよいことが記載されている。
ここで、本願の発明の詳細な説明の記載全体を参照しても、本願発明の「担体」が具体的に何であるか明らかではないが、経口投与用の固体組成物に配合される「担体」は、通常、可食性のものであるから、本願発明の「担体」は、引用例1に記載された可食性のものを含むと解される。
そして、固体組成物が食品の取り得る一般的な形態の1つであることは当業者に周知であり、且つ、そのような固体組成物が経口投与されることは当然であるから、引用発明において、プロシアニジンオリゴマーを含有する植物体抽出物に可食性のものを加えて抗変異原性剤とし、これを添加混合した経口投与用の固体組成物を調製することは、引用例1及び周知技術から、当業者にとって容易である。

加えて、本願発明が、引用例1-2及び周知技術から予測できない格別の効果を奏するものとも認められない。

なお、請求人は審判請求書にて、本願発明は、高い抗癌活性を有する4量体から12量体のココアプロシアニジンオリゴマーを含有するココア抽出物を用いることによって、4量体未満のプロシアニジンオリゴマーを含む同様の組成物では得られない、顕著な作用効果(技術的利点)をもたらすことができる旨主張するが、引用発明は、4量体のプロシアニジンオリゴマーを含有する植物体抽出物を用いる点で本願発明と一致するし、且つ、前記記載事項(2)にあるように、引用例1には、プロアントシアニジンオリゴマーの変異原性抑制作用はその縮合度又は重合度が増す程強くなることも記載されているところ、本願の発明の詳細な説明の記載全体を参照しても、「少なくとも1つの4量体から12量体のココアプロシアニジンオリゴマーを含有するココア抽出物」が他の植物体の抽出物から得られた同様の縮合度又は重合度を有するプロシアニジンオリゴマーに比して当業者の予測を超えた有利な効果を奏するものであることは記載されていないから、請求人の前記主張を採用することはできない。

5 むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-16 
結審通知日 2010-09-21 
審決日 2010-09-28 
出願番号 特願平8-512152
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
天野 貴子
発明の名称 抗新形成性のココア抽出物の製造および使用方法  
代理人 柳田 征史  
代理人 佐久間 剛  

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