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審決分類 審判 訂正 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正しない B05B
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない B05B
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない B05B
管理番号 1232191
審判番号 訂正2010-390086  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2010-08-20 
確定日 2011-02-04 
事件の表示 特許第2519358号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第2519358号に係る出願は、平成3年7月12日に特許出願され、平成8年5月17日に特許権の設定の登録がなされたものであって、平成22年8月20日に本件訂正審判が請求され、平成22年9月24日付けで当審より訂正拒絶理由が通知され、これに対し、平成22年10月29日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで平成22年8月20日付けで提出された審判請求書及び全文訂正明細書を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成22年10月29日付け手続補正の採否
1 本件補正の補正事項
平成22年10月29日付けで提出された手続補正書(以下、単に「補正書」という。
による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成22年8月20日付けで提出された審判請求書(以下、単に「請求書」という。)における請求の趣旨について、
特許第2519358号の特許権の設定の登録がなされたときの明細書(以下、単に「特許明細書」という。)を請求書に添付された全文訂正明細書(以下、単に「訂正明細書」という。)のとおり訂正すること(以下、単に「本件訂正」という。)を認める、との審決を求めることに代えて、
特許明細書を補正書に添付された全文訂正明細書(以下、単に「補正明細書」という。)のとおり訂正することを認める、との審決を求めることに補正することを含むものであって、
本件補正は、以下の(1)ないし(3)のとおり本件訂正における訂正事項dないしfを補正する補正事項dないしf、及び、以下の(4)のとおり新たに訂正事項jを追加する補正事項jを含むものである。

(1)補正事項d
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における、
「該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように、該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」との記載について、
「該ノズルとともに上下方向に移動して該ガラス基板との間隔を算出する光学式変位計を備え、該所定のパターンで該ペーストを該ガラス基板上に塗布しているときには、該光学式変位計の算出結果に基づいて、該ガラス基板と該ノズルの先端との間隔が該ガラス基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように、該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」に訂正する訂正事項dを、
「上下方向に移動するZ軸テーブル部に該ノズルとともに配置されて、該ノズルとともに上下方向に移動して該ガラス基板との間隔を算出する光学式変位計を備え、該ループ状のパターンで該ペーストを該ガラス基板上に塗布しているときには、該光学式変位計の算出結果に基づいて、該ガラス基板と該ノズルの先端との間隔が該ガラス基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように、該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」に訂正するよう補正する(なお、下線は、本件補正により訂正明細書から補正された箇所を示すために当審にて付した。)。

(2)補正事項e
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における
「単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段」との記載について、
「該所定のパターンで該ペーストを該ガラス基板上に塗布しているときには、単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段」に訂正する訂正事項eを、
「該ループ状のパターンで該ペーストを該ガラス基板上に塗布しているときには、単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段」に訂正するよう補正する(なお、下線は、本件補正により訂正明細書から補正された箇所を示すために当審にて付した。)。

(3)補正事項f
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における、
「該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時、該曲線部分の曲率半径に応じて該基板の移動速度を制御することにより、」との記載について、
「該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時、該曲線部分での単位時間当りの該ガラス基板の移動量の各移動区間での該曲線部分上の終点と該曲線部分の曲率半径の中心点とを結ぶ線と該X軸とがなす角度を小刻みに変化させることによって該曲線部分に沿うペーストの塗布をしながら、該曲線部分の曲率半径に応じて該ガラス基板の移動速度を制御することにより、」に訂正する訂正事項fを、
本件補正により、その訂正事項fの対象となる特許明細書の該当箇所を追加し、
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における、
「該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時、該曲線部分の曲率半径に応じて該基板の移動速度を制御することにより、2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分と2個の該テーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とで該ノズルに対する該ガラス基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段」との記載(なお、下線は、本件補正により新たに追加された訂正の対象箇所を示すために当審にて付した。)について、
「該ループ状のパターンの該曲線部分(当審注:補正書の第5ページ第6行、及び、補正書に添付された補正後の請求の理由(以下、単に「補正後請求理由」という。)の第3ページ第7行には、単に「曲線部分」と記載され、補正書の第3ページ第9行、及び、補正明細書の第1ページ第20行における「該曲線部分」との記載と整合していないが、特許明細書において「該」との記載が普通に用いられていることからみて、「該曲線部分」に補正するものと認定する。)でのペースト塗布時、該曲線部分での単位時間当りの該ガラス基板の移動量の各移動区間での該曲線部分上の終点と該曲線部分の曲率半径の中心点とを結ぶ線と該X軸とがなす角度を小刻みに変化させることによって該曲線部分に沿うペーストの塗布をしながら、該曲線部分の曲率半径に応じて該ガラス基板の移動速度を制御することにより、2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該ループ状のパターン(当審注:補正書の第5ページ第11行、及び、補正後請求理由の第3ページ第12行に記載の「該ルーブ状のパターン」との記載は、補正書の第2ページ第22行ないし第3ページ第17行の記載、及び、補正明細書の請求項1の記載からみて、「該ループ状のパターン」の誤記と認定する。)の該直線部分(当審注:上記「該曲線部分」と同様の理由で、「該直線部分」に補正するものと認める。)と2個の該テーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とで該ノズルに対する該ガラス基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段」に訂正するよう補正する(なお、下線は、本件補正により訂正明細書から補正された箇所を示すために当審にて付した。)。

(4)補正事項j
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における、
「ノズルからペーストを吐出させて該基板上に所定のパターンで該ペーストを塗布する」との記載について、
本件訂正の訂正事項bにより、「該基板」を「該ガラス基板」に訂正、言い換えれば、
「ノズルからペーストを吐出させて該ガラス基板上に所定のパターンで該ペーストを塗布する」に訂正するところ、
本件補正により、訂正事項jを新たに追加し、
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における
「ノズルからペーストを吐出させて該基板上に所定のパターンで該ペーストを塗布する」との記載について、
「ノズルから該ガラス基板と他のガラス基板とを貼り合わせるためのシール剤のペーストを吐出させて該ガラス基板上に、該ガラス基板の周辺に沿って直線状に塗布する直線部分と該ガラス基板の角部での曲線状に塗布する曲線部分とからなるループ状のパターンで該ペーストを塗布する」に訂正するよう補正する(なお、下線は、本件補正による訂正事項jにより特許明細書から訂正された箇所を示すために当審にて付した。)。

2 本件補正についての判断
(1)補正事項dについて
補正事項dは、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1において特定されていない「光学式変位計」の配置位置を、「上下方向に移動するZ軸テーブル部に該ノズルとともに配置されて」いると限定するとともに、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1における、ペーストをガラス基板上に塗布している「該所定のパターン」を、「該ループ状のパターン」に限定するものであるといえる。
そうすると、補正事項dは、訂正明細書に係る訂正事項dにおいては特定のされていない「光学式変位計」を配置する位置に関し、「上下方向に移動するZ軸テーブル部に該ノズルとともに配置」するとの新たな特定事項を導入したものであり、また、訂正明細書に係る訂正事項dにおける「該所定のパターン」との発明特定事項に対し、新たに「該ループ状のパターン」と限定を付したものであって、「ループ状」との新たな特定事項を導入したものであるから、当該補正事項dは、本件訂正審判請求書によって訂正を求める事項の一部を変更するものであることは明白であって、本件訂正審判請求書の要旨を変更するものというべきである。

(2)補正事項e及びfについて
補正事項e及びfは、補正事項dと同様に、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1におけるペーストをガラス基板上に塗布している「該所定のパターン」を、「該ループ状のパターン」に限定するものを含むといえる。
そうすると、補正事項e及びfは、補正事項dと同様に、本件訂正審判請求書の要旨を変更するものというべきである。

(3)補正事項jについて
補正事項jは、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1における、ノズルから吐出される「ペースト」を「ガラス基板と他のガラス基板とを貼り合わせるためのシール剤のペースト」に限定するとともに、ペーストを塗布する「所定のパターン」を「該ガラス基板の周辺に沿って直線状に塗布する直線部分と該ガラス基板の角部での曲線状に塗布する曲線部分とからなるループ状のパターン」に限定するものを含むといえる。
そうすると、補正事項jは、特許明細書、及び、訂正明細書における「ペースト」との発明特定事項に対し、新たに「ガラス基板と他のガラス基板とを貼り合わせるためのシール剤のペースト」と限定を付したものであって、新たな特定事項を導入したものであり、また、特許明細書、及び、訂正明細書における「所定のパターン」との発明特定事項に対し、新たに「該ガラス基板の周辺に沿って直線状に塗布する直線部分と該ガラス基板の角部での曲線状に塗布する曲線部分とからなるループ状のパターン」と限定を付したものであって、新たな特定事項を導入したものであるから、当該補正事項jは、本件訂正審判請求書によって訂正を求める事項の一部を変更するものであることは明白であって、本件訂正審判請求書の要旨を変更するものというべきである。
なお、補正事項jのうち、「該基板」を「該ガラス基板」に訂正した点については、本件訂正の訂正事項bと同一であることから、本件訂正審判請求書の要旨を変更するものではない。

3 本件補正についての結論
以上のとおり、上記補正事項dないしf及びjは、平成22年8月20日付けで提出された本件訂正審判請求書の請求の要旨を変更するものであって、特許法第131条の2第1項の規定を満たさず、本件補正を認めることはできない(なお、必要であれば、平成18年(行ケ)第10278号審決取消請求事件における知的財産高等裁判所判決(平成19年5月15日判決言渡)の「第5 当裁判所の判断」の「1 取消事由1(本件手続補正を要旨変更とした誤り)について」の判示事項を参照されたい。)。

第3 審判請求書の要旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許明細書を、請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、本件訂正の内容は、特許請求の範囲については、下記1に示す特許明細書の特許請求の範囲を、下記2に示す訂正明細書の特許請求の範囲に訂正しようとするものであり、本件請求人が請求書の「6.請求の理由」の「(3)訂正の要旨」にて主張する下記3の訂正事項aないしiのとおりである。

1 特許明細書の特許請求の範囲
「【請求項1】 基板が載置されたテーブルを水平面内の任意の方向に移動させ、少なくとも水平方向には移動不能なノズルからペーストを吐出させて該基板上に所定のパターンで該ペーストを塗布するようにしたペースト塗布機において、
該テーブルは、互いに直交する方向に移動する少なくとも2個のテーブル部を有するものであり、
該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように、該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段と、
単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段と、
該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時、該曲線部分の曲率半径に応じて該基板の移動速度を制御することにより、2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分と2個の該テーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とでの該ノズルに対する該基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段とを設けたことを特徴とするペースト塗布機。
【請求項2】 請求項1において、
前記ノズルは前記テーブルの上方に配置されており、
前記第2の手段は前記テーブルを水平な任意の方向に移動されることを特徴とするペースト塗布機。
【請求項3】 請求項2において、
前記第2の手段は、前記テーブルの移動速度を制御することにより、前記ノズルと前記基板との単位時間当りの相対的移動量を前記直線状にペーストを塗布する部分と前記曲線状にペーストを塗布する部分とでほぼ一致させることを特徴とするペースト塗布機。」

2 訂正明細書の特許請求の範囲(なお、下線は訂正箇所を示す。)
「【請求項1】 液晶表示パネル用のガラス基板が載置されたテーブルを水平面内の任意の方向に移動させ、少なくとも水平方向には移動不能なノズルからペーストを吐出させて該ガラス基板上に所定のパターンで該ペーストを塗布するようにしたペースト塗布機において、
該テーブルは、互いに直交するX軸,Y軸方向に移動する少なくとも2個のテーブル部を有するものであり、
該ノズルとともに上下方向に移動して該ガラス基板との間隔を算出する光学式変位計を備え、該所定のパターンで該ペーストを該ガラス基板上に塗布しているときには、該光学式変位計の算出結果に基づいて、該ガラス基板と該ノズルの先端との間隔が該ガラス基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように、該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段と、
該所定のパターンで該ペーストを該ガラス基板上に塗布しているときには、単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段と、
該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時、該曲線部分での単位時間当りの該ガラス基板の移動量の各移動区間での該曲線部分上の終点と該曲線部分の曲率半径の中心点とを結ぶ線と該X軸とがなす角度を小刻みに変化させることによって該曲線部分に沿うペーストの塗布をしながら、該曲線部分の曲率半径に応じて該ガラス基板の移動速度を制御することにより、2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分と2個の該テーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とでの該ノズルに対する該ガラス基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段とを設けたことを特徴とするペースト塗布機。
【請求項2】 請求項1において、
前記ノズルは前記テーブルの上方に配置されており、前記第3の手段は前記テーブルを水平な任意の方向に移動されることを特徴とするペースト塗布機。
【請求項3】 請求項2において、
前記第3の手段は、前記テーブルの移動速度を制御することにより、前記ノズルと前記ガラス基板との単位時間当りの相対的移動量を前記直線状にペーストを塗布する部分と前記曲線状にペーストを塗布する部分とでほぼ一致させることを特徴とするペースト塗布機。」

3 本件訂正による訂正事項
(1)訂正事項a
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における「基板が載置されたテーブル」との記載での「基板」との記載を、「液晶表示パネル用のガラス基板」に訂正する。

(2)訂正事項b
上記訂正事項aの訂正に伴い、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における「該基板」との記載を、「該ガラス基板」に訂正する。

(3)訂正事項c
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における「互いに直交する方向に移動する少なくとも2個のテーブル部」との記載を、「互いに直交するX軸,Y軸方向に移動する少なくとも2個のテーブル部」に訂正する。

(4)訂正事項d
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における「該基板と該ノズルの先端との間隔が該基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように、該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」との記載を、「該ノズルとともに上下方向に移動して該ガラス基板との間隔を算出する光学式変位計を備え、該所定のパターンで該ペーストを該ガラス基板上に塗布しているときには、該光学式変位計の算出結果に基づいて、該ガラス基板と該ノズルの先端との間隔が該ガラス基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように、該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」に訂正する。

(5)訂正事項e
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における「単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段」との記載を、「該所定のパターンで該ペーストを該ガラス基板上に塗布しているときには、単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段」に訂正する。

(6)訂正事項f
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における「該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時、該曲線部分の曲率半径に応じて該基板の移動速度を制御することにより、」との記載を、「該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時、該曲線部分での単位時間当りの該ガラス基板の移動量の各移動区間での該曲線部分上の終点と該曲線部分の曲率半径の中心点とを結ぶ線と該X軸とがなす角度を小刻みに変化させることによって該曲線部分に沿うペーストの塗布をしながら、該曲線部分の曲率半径に応じて該ガラス基板の移動速度を制御することにより、」に訂正する。

(7)訂正事項g
特許明細書の特許請求の範囲の請求項2における「前記第2の手段」との記載を、「前記第3の手段」に訂正する。

(8)訂正事項h
特許明細書の特許請求の範囲の請求項3における「前記第2の手段」との記載を、「前記第3の手段」に訂正する。

(9)訂正事項i
特許明細書の特許請求の範囲の請求項3における「前記基板」との記載を「前記ガラス基板」に訂正する。

第4 訂正拒絶理由の概要
平成22年9月24日付けで通知した訂正拒絶理由は、当審の以下の見解を含むものである。

1 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否について
訂正事項aないしiの訂正の目的は、それぞれ、特許法第126条第1項ただし書第1ないし3号のいずれかに掲げる事項を目的とするものである。
また、上記訂正事項aないしiは、いずれも、特許法第126条第3項及び第4項の規定にも適合する。

2 独立特許要件について
本件訂正後の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「訂正発明1」ないし「訂正発明3」という。)は、下記の刊行物1及び2に記載された発明、並びに、周知技術1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第126条第5項の規定に適合しないので、本件訂正は認められない。
(1)刊行物1:特開平2-187095号公報
(2)刊行物2:加藤俊幸「ハイブリッドICパターン直描装置」電子材料第28巻第5号(工業調査会)1989年5月1日発行 第85ないし92ページ(なお、88ページと89ページとは順序が入れ替わっていると認められる。)
(3)周知技術1:「ペースト塗布機を用いて液晶表示パネル用のガラス基板にペーストを塗布すること。」(文献例:特開昭63-250622号公報)
(4)周知技術2:「ペースト塗布機において、光学式変位計をノズルとともに上下方向に移動させること。」(文献例:特開昭63-278855号公報、及び、特開昭63-278856号公報)
(5)周知技術3:「曲線部分を描画するにあたり、曲線部分を多角形にて近似して描画するために、曲線部分の終点と曲率半径の中心点とを結ぶ線と、X軸とがなす角度を小刻みに変化させることによって描画をすること。」(文献例:実願昭57-131411号(実開昭59-37638号)のマイクロフィルム、特開昭64-82998号公報及び特開昭63-11231号公報)

第5 訂正の適否の判断(独立特許要件について)
上記第4で述べたように、訂正拒絶理由においては、本件訂正は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないと判断したが、平成22年10月29日付けで提出された意見書(以下、単に「意見書」という。)における本件審判請求人の主張も踏まえて、以下に再度検討する。

1 特許法第29条第2項について
(1)訂正発明1について
1)訂正発明1の認定
訂正後の請求項1に係る発明(以下、単に「訂正発明1」という。)は、上記第3 2の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものと認める。

2)刊行物1に記載された発明の認定
(A)刊行物1に記載された事項
本件出願前に頒布され、本件請求人により提示された特開平2-187095号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の(ア)ないし(ウ)の事項が図面と共に記載されている。

(ア)「従来の技術
以下、従来の描画装置を用いた厚膜回路の形成方法を第8図により説明する。同図において、1はノズルで、基板上に膜厚ペースト(当審注:「厚膜ペースト」の誤記と認める。)を吐出するものである。ノズル1と基板2との間隔を基板高さ測定器3によって一定に保ちながら、ノズル1が基板2上を厚膜ペースト4を吐出しながら移動し、描画する。
厚膜ペーストとしては、抵抗体ペースト、導体ペースト、誘電体ペースト等が用いられ、ペースト描画後、乾燥工程、焼成工程を経て、厚膜回路を形成する。」(第1ページ右下欄第15行ないし第2ページ左上欄第6行)

(イ)「第1図は本発明の第1の実施例における描画装置の構成を示すものである。第1図において、1はノズル、3は基板2までの距離(第1図のL_(1))を測定する基板高さ測定器、4は描画された厚膜ペースト、5は厚膜ペースト4までの距離(第1図のL_(2))を測定する膜厚測定器、6はノズル1を前記膜厚測定器5、プリズム12とは独立して上下させることのできるヘッドであり、基板高さ測定器3の測定値L_(2)(当審注:「測定値L_(1)」の誤記と認める。)の増減量と同じ量だけヘッド6が上下駆動されて、ノズル1と基板2の間隔を一定に保っている。ノズル1は基板2上に厚膜ペースト4を、例えば圧力によってノズル1の先端孔部より吐出させる装置である。
基板高さ測定器3及び膜厚測定器5はレーザーによる距離測定装置である。…(中略)…。厚膜ペースト4は、導体・抵抗体等、どの種類のペーストでも可能である。…(中略)…。基板2についても、例えばセラミック基板、ガラエポ基板等、いずれの種類でも可能である。以上の構成により、基板高さ測定器3の測定値L_(1)に対して描画直後の厚膜ペーストの高さである膜厚測定器5の測定値L_(2)との差、L_(1)-L_(2)を計算し、設定膜厚と比較しながら描画する。
…(中略)…さらに、位置(高さ)の精度の向上のため、本実施例においては、従来からのヘッド6側を移動を移動させて(当審注:「ヘッド6側を移動させて」の誤記と認める。)描画する方式に代わり、基板2側を移動させることとした。」(第2ページ右下欄第10行ないし第3ページ右上欄第12行)

(ウ)「第3図は本発明の第2の実施例における描画装置の構成を示すものである。
同図において、第1図と同一物には同一番号を付し、説明を省略する。
同図において第1図と異なる点は、測定された膜厚値L_(1)-L_(2)を膜厚演算部13にとりこみ、下記各制御装置を通じて、設定膜厚値になるよう各アクチュエータの動きにフィードバックする点である。膜厚演算部13は、吐出圧力と膜厚の関係のデータを持ち、吐出量制御装置14を介して吐出圧力を上下させ、膜厚を制御することができる。また、膜厚演算部13は、ノズル1先端と基板2とのギャップ量と膜厚との関係のデータも持ち、ヘッド高さ制御装置15を介してノズル1の高さを変化させ、ギャップの大小により膜厚を制御することができる。更に膜厚演算部13は、描画速度(XYテーブル16の速度)と膜厚の関係のデータも持ち、XYテーブル制御装置17を介して描画速度を変化させ、膜厚を制御することができる。
上記膜厚管理においては、厚膜ペースト4の種類及び粘度等の特性を考慮し、ペースト毎のデータを作成した。…(中略)…。さらにヘッド高さ制御の点においては、例えば圧電アクチュエータを用いると、微小な動きを制御し易い。またXYテーブルの制御においては、ベクトル速度を用い、線の種類(直線・曲線など)にかかわらず、同1条件で描画できるようにした。
また、上記の制御の優先順位は使用者が任意に定めることができ、また各制御の併用も可能である。
従って本実施例によれば、第4図に示すような工程となり実施例1の効果に加えて、高精度の膜厚管理が可能となり、不良数を大幅に減少させることができる。」(第3ページ右下欄第4行ないし第4ページ右上欄第2行)

(B)上記(A)(ア)ないし(ウ)及び図面の記載並びに技術常識から、刊行物1には第2の実施例として次の(カ)ないし(コ)の事項が実質的に記載されているといえる。

(カ)上記(A)(ウ)、第1図及び第3図の記載並びに技術常識から、刊行物1に記載された描画装置における「XYテーブル16」には「基板2が載置され」ており、「XYテーブル16」は「水平面内の任意の方向に移動」するものであるといえる。また、上記(A)(ア)に記載された従来の「ノズル1が基板2上を厚膜ペースト4を吐出しながら移動し、描画する。」方法に対し、上記(A)(イ)における「従来からのヘッド6側を移動させて描画する方式に代わり、基板2側を移動させる」との記載から、刊行物1に記載された描画装置における「ノズル1」は、「少なくとも水平方向には移動不能」であるといえる。さらに、上記(A)(ア)ないし(ウ)及び第1図の記載から、刊行物1に記載された描画装置は、「ノズル1から厚膜ペースト4を吐出させて基板2上に所定のパターンで厚膜ペースト4を塗布する」ものであるといえる。

(キ)技術常識から、刊行物1に記載された描画装置における「XYテーブル16」は、「互いに直交するX軸,Y軸方向に移動する少なくとも2個のテーブル部を有する」ものであるといえる。また、第1図及び第3図の記載から、刊行物1に記載された描画装置における「ノズル1」は「XYテーブル16の上方に配置」されているといえる。

(ク)上記(A)(イ)並びに第1図及び第3図の記載から、刊行物1に記載された描画装置は「基板2との間隔を測定する基板高さ測定器3を備え」ているといえる。また、上記(A)(イ)及び(ウ)並びに第1図及び第3図の記載から、刊行物1に記載された描画装置は「所定のパターンで厚膜ペースト4を基板2上に塗布しているときには、基板高さ測定器3の測定結果に基づいて、基板2とノズル1先端とのギャップ量の大小により膜厚を制御するように、ノズル1の高さ位置を変化させるヘッド高さ制御装置15」を有しているといえる。

(ケ)上記(A)(イ)及び(ウ)並びに第1図及び第3図の記載から、刊行物1に記載された描画装置は「所定のパターンで厚膜ペースト4を基板2上に塗布しているときには、ノズル1の吐出圧力を上下させ、膜厚を制御する吐出量制御装置14」を有しているといえる。

(コ)上記(A)(ウ)並びに第1図及び第3図の記載から、刊行物1に記載された描画装置は「所定のパターンの曲線部分での厚膜ペースト4塗布時、曲線部分に沿う厚膜ペースト4の塗布をしながら、基板2の描画速度をベクトル速度を用いて制御することにより、直線・曲線などの線の種類にかかわらず、同1条件、言い換えれば、同一の描画速度で描画するXYテーブル制御装置17」を有しているといえる。また、上記(A)(ウ)及び上記(キ)並びに技術常識から、刊行物1に記載された描画装置における「XYテーブル制御装置17」は「XYテーブル16を水平な任意の方向に移動させ」るものであって、「XYテーブル16の速度を制御することにより、直線状にペーストを塗布する部分と曲線状にペーストを塗布する部分とで同1条件、言い換えれば、同一の描画速度で描画する」ものであるといえる。

なお、本件審判請求人は、当該(コ)の判断に対し、上記意見書において、
「訂正拒絶理由通知書の第8頁の「(コ)」の記載においては、刊行物1での上記の「XYテーブルの制御においては、ベクトル制御を用い、線の種類(直線・曲線)にかかわらず、同1条件で描画できるようにした」における「同1条件を「同一の描画速度」とされている。
しかしながら、刊行物1の第3頁右下欄第19行?第4頁左上欄第3行での「更に膜厚演算部13は、描画速度(XYテーブル16の速度)と膜厚の関係データも持ち、XYテーブル制御装置17を介して描画速度を変化させ、膜厚を制御することができる。」との記載や上記の刊行物1の第2頁左欄第13行?同欄第19行に記載の課題の記載のように、刊行物1に記載の発明は、吐出圧やノズルの高さ、描画速度の変化が生ずることが前提となっていることからすると、「同1条件」を「同一の描画速度」に解することはできない。そして、このような記載からして、ペーストの描画中描画速度が変化することがあり得、また、膜厚が変化した場合には、描画速度を変化させることもありえるものであるから、描画速度をペーストの描画中一定にするものではなく、従って、上記の「同1条件」を「同一の描画速度」と解されるものではない。
かかる「同1条件」は、直線を描画する場合も、曲線を描画する場合も、XYテーブルの制御において、ベクトル速度を用い、直線部分で膜厚が変化した場合、描画速度を変化させるが、曲線部分で膜厚が変化した場合も、同様に、描画速度を変化させる、というものである。」(意見書第13ページ第7ないし25行)と、主張する。
しかしながら、本件審判請求人の主張には理由がない。すなわち、刊行物1に記載された描画装置は、吐出量、ノズル高さ及び基板の移動速度をいずれも一定の値に制御することによって一定の膜厚のペーストパターンを形成することを目的とし、何らかの事情でその膜厚が変化したときにこれを認識して、もとの膜厚に戻す目的で、フィードバック制御をするために、吐出量、ノズル高さ又は基板の移動速度を適宜変化させるという高精度な膜厚制御装置を開示しているといえることから、フィードバック制御のために移動速度に変化がある技術部分のみを捉えて、描画速度が曲線部分と直線部分とでほぼ等しい訂正発明1の技術思想が開示されていないとする本件審判請求人の主張は、失当である(平成21年(ネ)第10066号の知的財産高等裁判所判決(平成22年6月29日判決言渡)における第18ないし19頁の第3 2(1)アを参照。)。

(C)上記(A)及び(B)並びに図面の記載から、刊行物1には第2の実施例として次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されているといえる。
「基板2が載置されたXYテーブル16を水平面内の任意の方向に移動させ、少なくとも水平方向には移動不能なノズル1から厚膜ペースト4を吐出させて該基板2上に所定のパターンで該厚膜ペースト4を塗布するようにした描画装置において、
該XYテーブル16は、互いに直交するX軸,Y軸方向に移動する少なくとも2個のテーブル部を有するものであり、
該基板2との間隔を測定する基板高さ測定器3を備え、該所定のパターンで該厚膜ペースト4を該基板2上に塗布しているときには、該基板高さ測定器3の測定結果に基づいて、基板2とノズル1先端とのギャップ量の大小により膜厚を制御するように、該ノズル1の高さ位置を変化させるヘッド高さ制御装置15と、
該所定のパターンで該厚膜ペースト4を該基板2上に塗布しているときには、ノズル1の吐出圧力を上下させ、膜厚を制御する吐出量制御装置14と、
該所定のパターンの曲線部分での厚膜ペースト4塗布時、該曲線部分に沿う厚膜ペースト4の塗布をしながら、該基板2の描画速度をベクトル速度を用いて制御することにより、直線・曲線などの線の種類にかかわらず、同一の描画速度で描画するXYテーブル制御装置17とを設け、
前記ノズル1は前記XYテーブル16の上方に配置されており、
前記XYテーブル制御装置17は前記XYテーブル16を水平な任意の方向に移動させ、
前記XYテーブル制御装置17は、前記XYテーブル16の速度を制御することにより、前記直線状にペーストを塗布する部分と前記曲線状にペーストを塗布する部分とで同一の描画速度で描画する描画装置。」

3)訂正発明1と刊行物1に記載された発明との対比
訂正発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明における「XYテーブル16」は、その機能、構造及び技術的意義からみて、訂正発明1における「テーブル」に相当し、以下同様に、「ノズル1」は「ノズル」に、「厚膜ペースト4」は「ペースト」に、「描画装置」は「ペースト塗布機」に、それぞれ相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「基板2」は、所定のパターンでペーストが塗布される「基板」である限りにおいて、訂正発明1における「液晶表示パネル用のガラス基板」に相当する。
刊行物1に記載された発明における「基板2との間隔を測定する基板高さ測定器3」は、上記2)(A)(イ)に摘記したように「レーザーによる」ものであることから、「基板との間隔を算出する光学式変位計」の限りにおいて、訂正発明1における「ノズルとともに上下方向に移動してガラス基板との間隔を算出する光学式変位計」に相当する。
刊行物1に記載された発明における「基板2とノズル1先端とのギャップ量の大小により膜厚を制御するように、ノズル1の高さ位置を変化させるヘッド高さ制御装置15」は、「基板とノズルの先端との間隔に基づいて、ノズルの高さ位置を設定する手段」(以下、「手段A」という。)の限りにおいて、訂正発明1における「ガラス基板と該ノズルの先端との間隔が該ガラス基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように、該ノズルの高さ位置を設定する第1の手段」に相当する。
刊行物1に記載された発明における「ノズル1の吐出圧力を上下させ、膜厚を制御する吐出量制御装置14」は、「ノズルのペースト吐出量を制御する手段」(以下、「手段B」という。)の限りにおいて、訂正発明1における「単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ第2の手段」に相当する。
刊行物1に記載された発明における「該所定のパターンの曲線部分での厚膜ペースト4塗布時、該曲線部分に沿う厚膜ペースト4の塗布をしながら、該基板2の描画速度をベクトル速度を用いて制御することにより、直線・曲線などの線の種類にかかわらず、同一の描画速度で描画するXYテーブル制御装置17」は、「該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時、該曲線部分に沿うペーストの塗布をしながら、該ガラス基板の移動速度を制御することにより、2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分と2個の該テーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とで同一の描画速度で描画する手段」(以下、「手段C」という。)の限りにおいて、訂正発明1における「該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時、該曲線部分での単位時間当りの該ガラス基板の移動量の各移動区間での該曲線部分上の終点と該曲線部分の曲率半径の中心点とを結ぶ線と該X軸とがなす角度を小刻みに変化させることによって該曲線部分に沿うペーストの塗布をしながら、該曲線部分の曲率半径に応じて該ガラス基板の移動速度を制御することにより、2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分と2個の該テーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とでの該ノズルに対する該ガラス基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする第3の手段」に相当する。

してみると、訂正発明1と刊行物1に記載された発明とは、次の<一致点>で一致し、<相違点>で相違する。

<一致点>
「基板が載置されたテーブルを水平面内の任意の方向に移動させ、少なくとも水平方向には移動不能なノズルからペーストを吐出させて該基板上に所定のパターンで該ペーストを塗布するようにしたペースト塗布機において、
該テーブルは、互いに直交するX軸,Y軸方向に移動する少なくとも2個のテーブル部を有するものであり、
該基板との間隔を算出する光学式変位計を備え、該所定のパターンで該ペーストを該ガラス基板上に塗布しているときには、該光学式変位計の算出結果に基づいて、基板とノズルの先端との間隔に基づいて、ノズルの高さ位置を設定する手段Aと、
該所定のパターンで該ペーストを該ガラス基板上に塗布しているときには、ノズルのペースト吐出量を制御する手段Bと、
該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時、該曲線部分に沿うペーストの塗布をしながら、該ガラス基板の移動速度を制御することにより、2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分と2個の該テーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とで同一の描画速度で描画する手段Cとを設けたペースト塗布機。」
<相違点>
(A)訂正発明1においては、ペースト塗布機がペーストを塗布する基板が「液晶表示パネル用のガラス基板」であるのに対し、刊行物1に記載された発明においては、描画装置が厚膜ペースト4を塗布する基板2が「液晶表示パネル用のガラス基板」であるか否かは不明である点(以下、「相違点1」という。)。

(B)訂正発明1においては、「光学式変位計」が「ノズルとともに上下方向に移動」するものであるのに対し、刊行物1に記載された発明における「基板高さ測定器3」は、上記2)(A)(イ)及び第3図に記載されているように、ノズル1を上下させるヘッド6とは独立して設けられている点(以下、「相違点2」という。)。

(C)「手段A」に関し、訂正発明1においては、所定のパターンでペーストをガラス基板上に塗布しているときには、光学式変位計の算出結果に基づいて、「ガラス基板とノズルの先端との間隔がガラス基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しくなるように、ノズルの高さ位置を設定する」のに対し、刊行物1に記載された発明においては、所定のパターンで厚膜ペースト4を基板2上に塗布しているときには、基板高さ測定器3の測定結果に基づいて、「基板2とノズル1先端とのギャップ量の大小により膜厚を制御するように、ノズル1の高さ位置を変化させる」ものであって、ノズル1の高さ位置が「基板2とノズル1の先端との間隔が基板2上に塗布される厚膜ペースト4の厚さにほぼ等し」いか否かは不明である点(以下、「相違点3」という。)。

(D)「手段B」に関し、訂正発明1においては、「単位時間当りの該ノズルのペースト吐出量を一定に保つ」のに対し、刊行物1に記載された発明においては、「ノズル1の吐出圧力を上下させ、膜厚を制御する」点(以下、「相違点4」という。)。

(E)「手段C」に関し、訂正発明1においては、所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時に、「該曲線部分での単位時間当りの該ガラス基板の移動量の各移動区間での該曲線部分上の終点と該曲線部分の曲率半径の中心点とを結ぶ線と該X軸とがなす角度を小刻みに変化させることによって該曲線部分に沿うペーストの塗布をしながら、該曲線部分の曲率半径に応じて該ガラス基板の移動速度を制御する」ものであって、2個のテーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分と2個のテーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とで「ノズルに対する該ガラス基板の単位時間当りの移動量をほぼ等しくする」のに対し、刊行物1に記載された発明においては、所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時に、どのように曲線部分に沿うペーストの塗布を行うのか、その制御が明らかでなく、また、
2個の該テーブル部のうちの一方が直線方向に移動することによって塗布される該所定のパターンの直線部分と2個の該テーブル部がともに直線方向に移動することによって塗布される曲線部分とで「同一の描画速度で描画する」ものの、「ノズル1に対する基板2の単位時間当りの移動量」が「ほぼ等しい」か否かは不明である点(以下、「相違点5」という。)。

4)当審の判断
(A)相違点1について
ペースト塗布機を用いて「液晶表示パネル用のガラス基板」にペーストを塗布することは、例えば、特開昭63-250622号公報に記載されているように、本件出願前において当業者によく知られた周知の技術的事項(以下、「周知技術1」という。)である。
また、加藤俊幸「ハイブリッドICパターン直描装置」電子材料第28巻第5号(工業調査会)1989年5月1日発行 第85ないし92ページ(以下、「刊行物2」という。なお、88ページと89ページとは順序が入れ替わっていると認められる。)の「表2 描画装置の仕様」の「1.描画基板」の「・材質」の欄には、「アルミナセラミックス、シリコンウェハ、金属光学センサで基板のうねりを計測しているので、ガラス基板など、透明、半透明基板の場合は描画品質が悪くなる。」と記載されている。ここで、当該記載は、「ペースト塗布機をガラス基板に用いてはならない」とまで示唆するものとはいえず、むしろ、ペースト塗布機がガラス基板にも用いられることを前提とした上での留意事項であるともいえる。してみると、刊行物2に記載された描画ペーストは、「表2 描画装置の仕様」の「2.描画ペースト」に記載されるように、「導体ペースト」、「抵抗ペースト」及び「誘電体ペースト」を対象とするものであって、当該ペーストをガラス基板にも適用し得るものであることから、刊行物2に記載されたペーストと同様の厚膜ペーストを塗布する刊行物1に記載された発明において、刊行物2に記載された「ガラス基板」に塗布する技術思想(以下、「刊行物2に記載された技術思想1」という。)を適用し、かつそのガラス基板を上記周知技術1のように液晶表示パネル用のガラス基板として用いることで、上記相違点1に係る訂正発明1のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

なお、本件審判請求人は、当該刊行物2に記載された技術思想1に対し、上記意見書において、
「刊行物2の図2(b)には、XYステージにアルミナ基板が載置されていることが示され、第92頁に示される描画装置の仕様を示す表2には、描画基板として、アルミナ系セラミックスやシリコンウェハが示されており、ペーストとして、導体ペーストや抵抗ペースト、誘電体ペーストが示され、抵抗等の電気部品からなる厚膜回路を描画するものであり、また、「ガラス基板など、透明、半透明基板の場合は描画品質が悪くなる」ことが記載されている。このため、この刊行物2に記載の発明は、描画基板として、ガラス基板とするものではなく、上記の基板上厚膜回路を形成するものと解されるものである。」(意見書第15ページ第2ないし9行)と、主張する。
しかしながら、上記第2で述べたとおり、本件補正が認められない以上、訂正発明1における「ペースト」は、その種類をなんら特定されるものでなく、刊行物2に記載された技術思想1における「厚膜ペースト」も含むものである。また、上述のとおり、刊行物2には、「ガラス基板など、透明、半透明基板の場合は描画品質が悪くなる」との記載はあるものの、「ガラス基板を用いてはならない」とまで示唆するものではなく、多少品質は落ちたとしてもその欠点を上回る利便性がある場合には、「ガラス基板」にペーストを塗布することが可能であることを示唆するものであるといえる。したがって、本件審判請求人の当該主張は、失当である。

(B)相違点2について
ペースト塗布機において、「光学式変位計をノズルとともに上下方向に移動させる」ことは、例えば、特開昭63-278855号公報、及び、特開昭63-278856号公報に記載されているように、本件出願前において当業者によく知られた周知の技術的事項(以下、「周知技術2」という。)である。
そして、刊行物1に記載された発明と当該周知技術2とは、いずれもノズルと基板との間隔を測定するペースト塗布機である点で共通の技術分野に属するものであることから、刊行物1に記載された発明に当該周知技術2を採用して、「基板高さ測定器3」をノズル1とともにヘッド6にて上下方向に移動させるようにすることで、相違点2に係る訂正発明1のようにすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。

なお、本件審判請求人は、当該周知技術2の例として示した特開昭63-278855号公報に対し、上記意見書において、
「本件特許発明のように、ガラス基板の周辺に沿うループ状のパターンに他のガラス基板と貼り合わせるためのシール剤のペーストを塗布するものでない。」(意見書第24ページ第9ないし11行)、及び、「本件特許発明では、光学式変位計はノズルが配置されるZテーブル部に配置され、ノズルとともに上下動するものであり、光学式変位計の支持構成が明らかに参考文献2に記載の発明と異なるものである。」(意見書第24ページ第15ないし17行)と、主張し、特開昭63-278856号公報の記載事項についても同様の主張をする。
しかしながら、上記第2で述べたとおり、本件補正が認められない以上、訂正発明1における「ペースト」は、その種類がなんら特定されるものでなく、また、ペーストが塗布される「所定のパターン」も、その形がなんら特定されるものでなく、さらに、光学式変位計が配置される箇所も特定されるものではないことから、本件審判請求人の当該主張は、失当である。

(C)相違点3について
刊行物1に記載された発明においては、刊行物1における上記2)(A)(ウ)において摘記した「ヘッド高さ制御装置15を介してノズル1の高さを変化させ、ギャップの大小により膜厚を制御することができる。」との記載からみて、ノズル1高さを積極的に変化させて、ノズル1と基板2とのギャップを調整することができるものと解される。
しかしながら、刊行物1には、第1の実施例として、上記2)(A)(イ)において摘記したように、「6はノズル1を…上下させることのできるヘッドであり、基板高さ測定器3の測定値L_(2)(当審注:「L_(1)」の誤記と認める。)の増減量と同じ量だけヘッド6が上下駆動されて、ノズル1と基板2の間隔を一定に保っている。」との技術思想(以下、「刊行物1に記載された技術思想1」という。)が開示され、さらに、上記2)(A)(ウ)において摘記したように「上記の制御の優先度は使用者が任意に定めることができ」とも記載されていることから、刊行物1に記載された発明において、ギャップの大小による膜厚の制御の優先順位を低くして、当該「ヘッド高さ制御装置15」により「ノズル1と基板2の間隔を一定に保つ」制御を行うようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、ノズル1と基板2の間隔を一定に保つにあたり、その間隔を設定するための手段を設けることは、本件出願時において技術常識であって(必要であれば、刊行物2の第89ページ左欄の「3.描画条件設定」の欄における、「1,2,4は、それぞれ、吐出エア圧、ワーク移動速度、描画面とペン先のギャップである。」との記載を参照のこと。)、刊行物1に記載された発明においても当然当該手段を有しているものと認められ、また、その設定値として「基板とノズルの先端との間隔が基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しく」なるようにすることは、例えば、前記特開昭63-250622号公報の第5図等にも図示されているように、本件出願時において常套手段であったといえることから、刊行物1に記載された発明においても「基板とノズルの先端との間隔が基板上に塗布されるペーストの厚さにほぼ等しく」なるように、「ノズルの高さ位置を設定する」ことで、相違点3に係る訂正発明1のようにすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

(D)相違点4について
刊行物1に記載された発明においては、刊行物1における上記2)(A)(イ)において摘記した「ノズル1は基板2上に厚膜ペースト4を、例えば圧力によってノズル1の先端孔部より吐出させる装置である。」との記載、及び、上記2)(A)(ウ)において摘記した「吐出量制御装置14を介して吐出圧力を上下させ、膜厚を制御することができる。」との記載からみて、ノズル1の吐出圧力を積極的に変化させるものと解される。
しかしながら、上記(C)においても前述したように、膜厚の制御方法として、吐出圧力を絶えず変動させる必然性はなく、吐出圧力値を一定に保つようにすることも制御の一方法であって、このような制御は簡明な制御方法ともいえる。
そして、吐出圧力値を一定に保つにあたり、その値を設定するための手段を設けることは、本件出願時において技術常識であって(必要であれば、刊行物2の第89ページ左欄の「3.描画条件設定」の欄における、「1,2,4は、それぞれ、吐出エア圧、ワーク移動速度、描画面とペン先のギャップである。」との記載を参照のこと。)、刊行物1に記載された発明において、実際の吐出圧力値が何らかの要因で予め設定した吐出圧力からずれた場合に、当該吐出量制御装置14を介して吐出圧力を調整し、上記相違点4に係る訂正発明1のように単位時間当りのノズル1の厚膜ペースト4の吐出量を一定に保つようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(E)相違点5について
刊行物2の「表1 デジタイズインの機能」には、No.7として「中心と円周上の一点指定の円」、No.8として「中心点と半径指定の円」、No.9として「3点指定の円弧」、No.10として「2点と中心方向指定の円弧」、No.16として「コーナーR」の各項目が記載され、「図3 デジタイザのメニューシート」にも、上記各項目の機能に対応したメニューが図示されていることから、刊行物2には、回路パターンデータにより基板を動かし、厚膜ペーストを基板上に吐出する描画装置において、回路パターンの曲線部分を曲率半径に応じて作成する技術(以下、「刊行物2に記載された技術2」という。)が記載されているといえる。
また、刊行物2の第89ページ左欄の「3.描画条件設定」の欄に、「1,2,4は、それぞれ、吐出エア圧、ワーク移動速度、描画面とペン先のギャップである。」と記載されているように、刊行物2には、ワーク移動速度を所定の速度に設定する技術思想(以下、「刊行物2に記載された技術思想3」という。)が記載されているといえる。
そして、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された技術2及び刊行物2に記載された技術思想3とは、ともに、基板を固定しているXYテーブルを移動させ、直線及び曲線を含む所定のパターンで基板にペーストを塗布して厚膜回路を形成する描画装置である点で、産業上の技術分野が共通し、また、刊行物1における上記2)(A)(ウ)において摘記した「XYテーブルの制御においては、ベクトル速度を用い、線の種類(直線・曲線など)にかかわらず、同1条件で描画できるようにした。」との記載からみて、直線、曲線にかかわらず、同一の描画速度にて描画を行っている点で機能も共通することから、刊行物1に記載された発明において、上記刊行物2に記載された技術2及び刊行物2に記載された技術思想3を適用して、回路パターンの曲線部分を曲率半径に応じて作成するようにすることは、当業者が容易になし得たことである。
さらに、曲線部分を描画するにあたり、曲線部分を多角形にて近似して描画するために、曲線部分の終点と曲率半径の中心点とを結ぶ線と、X軸とがなす角度を小刻みに変化させることによって描画をすることは、例えば実願昭57-131411号(実開昭59-37638号)のマイクロフィルム、特開昭64-82998号公報(例えば、第1ページ右下欄第11行ないし第2ページ左上欄第15行を参照。)及び特開昭63-11231号公報に記載されているように、種々の分野で用いられる周知の技術(以下、「周知技術3」という。)であって、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された技術2及び刊行物2に記載された技術思想3を適用するにあたり、その曲線部分の描画に当該周知技術3を適用することにより、上記相違点5に係る訂正発明1のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

なお、上記相違点3ないし5に関連し、本件審判請求人は、吐出圧やノズルの高さ、描画速度の制御に関して、上記意見書において、
「即ち、刊行物1の第3図において、「膜厚演算部13は、吐出圧力と膜厚の関係のデータを持ち、吐出量調整装置14を介して吐出圧力を上下させ、膜厚を制御することができる。また、膜厚演算部13は、ノズル1先端と基板2とのギャップ量との関係のデータも持ち、ヘッド高さ制御装置15を介してノズル1の高さを変化させ、ギャップの大小により膜厚を制御することができる。更に膜厚演算部13は、描画速度(XYテーブル16の速度)と膜厚の関係のデータも持ち、XYテーブル制御装置17を介して描画速度を変化させ、膜厚を制御することができる」(第3頁右下欄第12行?第4頁左上欄第3行)というものである。このように、刊行物1に記載の第2の発明では、吐出圧を上下させることができるし、ノズルの高さを変化させることができるし、描画速度(XYテーブル16の速度)を変化させることができるものであり、これら吐出圧やノズルの高さ、描画速度を一定に保持できるようにしたものではない。」(意見書第10ページ第21行ないし第11ページ第3行)と、主張する。
しかしながら、刊行物1に記載された描画装置は、吐出量制御装置14、ヘッド高さ制御装置15及びXYテーブル制御装置17を有するものであるが、描画中に上記各制御装置を常に併用して動作させなければならないものではなく、特定の制御装置による制御のみを行ってよいものであり、また、膜厚の制御のために、吐出量(吐出圧力)、基板の移動速度及びノズル高さのそれぞれを絶えず変動させる必然性はなく、刊行物1に記載された描画装置は、これらが絶えず変化するものに限定されるわけではない。
また、ペーストパターンの描画中に、吐出圧力(吐出量)、描画スピード(基板の移動速度)、ギャップ(ノズル高さ)等の数値が変化すると、塗布されるペーストの厚みや幅が変化してしまうという技術常識に照らすならば、刊行物1に接した当業者は、刊行物1に記載された描画装置は、吐出量、基板の移動速度及びノズル高さをいずれも一定の値に制御することによって一定の膜厚のペーストパターンを形成することを基本とし、その上で、より高精度な膜厚制御を行うために、上記各制御装置による制御を行うものであることを理解し、刊行物1の記載から、吐出量、基板の移動速度及びノズル高さをいずれも一定の値に制御することによって一定の膜厚のペーストパターンを形成するという技術思想を把握することができるというべきである(平成20年(ワ)第2387号の東京地方裁判所判決(平成21年9月29日判決言渡)における第74ページ第4行ないし第75ページ第12行を参照。)
したがって、本件審判請求人の上記主張は、採用することができない。

また、本件審判請求人は、上記刊行物2に記載された技術2に関して、上記意見書において、
「刊行物2に記載の発明では、図2(a)に示されるデジタイザにおいて、図面を貼り、上記の図3に示されるメニューシート上の各機能を用いてパターンを入力し(第87頁左欄第41行?同欄第42行)、パターンファイルが得られるようにしているものである。この場合の「パターン」とは、図面上のパターンであって、図3に示されるようなメニューシート上の図形ではない。
…(中略)…。入力されるのは、あくまでもデジタイザ上に貼り付けられた図面に描かれているパターンそのものである。従って、パターンの曲線部分についてみると、この曲線に沿う順次の位置座標がパターンファイルに含まれるものであって、その曲線部分の半径の情報がパターンファイルに含まれるものではない。
…(中略)…、デジタイザで得られるパターンファイルは、パターンの曲線部分に対しては、そこでの半径で表されるものではなく、従って、描画装置本体には、パターンの曲線部分については、その半径の情報は入力されない。
それ故、刊行物2に記載の発明は、本件特許発明での
「該所定のパターンの曲線部分でのペースト塗布時、……、該曲線部分の曲率半径に応じて該ガラス基板の移動速度を制御する」
との構成を備えたものではない。」(意見書第18ページ第10行ないし第19ページ第18行)と、主張する。
しかしながら、刊行物2の第85ページ左欄下から第6ないし4行には、「デジタイザは図面からパターンを入力したり、モニタと対話をしながらパターンを描く場合に必要となる。」と記載され、また、第87ページ左欄第9ないし12行には、「取り込まれたパターンデータはモニタと対話しながら手を加える必要がある。」と記載され、さらに、第87ページ左欄下から第5行ないし第89ページ左欄第6行(当審注:第88ページと第89ページが明らかに入れ替わっているため、上記の範囲に第88ページは含まない。)には、デジタイズインの説明として、「デジタイザ上に図面を貼り、メニューシート上の各機能を用いてパターンを入力する。…(中略)…。ここでの機能を表1に示す。」と記載され、その表1には、No.10として「2点と半径と中心方向指定の円弧」、No.15として「コーナーR」が挙げられているように、図面からパターンを入力するのみならず、モニタと対話をしながら、表1の機能をもとに取り込まれた図面に手を加えることができるものであるといえ、その機能の1つとして、半径を指定して円弧を描くように指示することもできるものであると解される。
また、刊行物2に記載された装置は、オプションで上位CADのデータを受け取ることができるもの(第85ページ左欄下から第1行ないし同ページ右欄第1行)であるが、通常のCAD(コンピュータ支援設計システム)上のデータは、直線を表すときには始点と終点を、円を表すときには始点と終点と半径を用いるものといえ、このような技術常識に基づけば、刊行物2に記載された装置にも、曲率半径のデータが入力され、その半径に応じて曲線部分が塗布されるものであると認められる。そうすると、刊行物2に記載された装置が本件審判請求人が主張するCADデータにおける直線や曲線を連続した点(デジタイザで入力されたXY座標値の点)の列で表すものに限られるとは認められない。(平成21年(ネ)第10066号の知的財産高等裁判所判決(平成22年6月29日判決言渡)における第20ページの第1ないし8行を参照。)。
したがって、本件審判請求人の上記主張は、採用することができない。

さらに、本件審判請求人は、上記周知技術3に関し、上記意見書の第25ページ第4行ないし第29ページ下から第5行において、周知技術3の例として挙げた実願昭57-131411号(実開昭59-37638号)のマイクロフィルム、特開昭64-82998号公報及び特開昭63-11231号公報にそれぞれ記載された技術について、本件特許発明とは全く関係のない発明であると主張する。
しかしながら、これらの文献に示されるように、「曲線部分を描画するにあたり、曲線部分を多角形にて近似して描画するために、曲線部分の終点と曲率半径の中心点とを結ぶ線と、X軸とがなす角度を小刻みに変化させることによって描画をすること」は、種々の分野で用いられる周知の技術であって、刊行物1に記載された発明においてペーストを描画するにあたり、当該周知技術3を適用して描画することになんら困難性は認められない。
したがって、本件審判請求人の上記主張は、採用することができない。

(F)作用・効果について
また、訂正発明1を全体として検討しても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術思想1、刊行物2に記載された技術2及び刊行物2に記載された技術思想3、並びに、周知技術1ないし3から予測される以上の格別な効果を奏するものとは認められない。

5)まとめ
したがって、訂正発明1は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術思想1、刊行物2に記載された技術2及び刊行物2に記載された技術思想3、並びに、周知技術1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2)訂正発明2について
訂正後の請求項2に係る発明(以下、単に「訂正発明2」という。)は、「前記第3の手段は…移動される」が「前記第3の手段は…移動させる」の誤記である点を除いて、上記第2 2の請求項2に記載されている事項により特定されるとおりのものと認める。
刊行物1に記載された発明において、ノズル1はXYテーブル16の上方に配置されており、XYテーブル制御装置17はXYテーブル16を水平な任意の方向に移動させるものである。
したがって、訂正発明2は、訂正発明1と同様に、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術思想1、刊行物2に記載された技術2及び刊行物2に記載された技術思想3、並びに、周知技術1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)訂正発明3について
訂正後の請求項3に係る発明(以下、単に「訂正発明3」という。)は、上記第2 2の請求項3に記載されている事項により特定されるとおりのものと認める。
刊行物1に記載された発明において、基板2はXYテーブル16上に配置され、XYテーブル制御装置17は、XYテーブル16のベクトル速度、言い換えれば、単位時間当りのノズル1と基板2との相対的移動量を制御するものである。
したがって、上記(2)4)(E)における検討事項をも踏まえれば、訂正発明3は、訂正発明1と同様に、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術思想1、刊行物2に記載された技術2及び刊行物2に記載された技術思想3、並びに、周知技術1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおり、上記訂正発明1ないし3に係る本件訂正は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第126条第5項の規定に適合しないので、特許明細書を訂正明細書のとおり訂正する本件訂正は認められない。

よって、結論のとおり審決する。

第7 付言(本件補正後の請求項1に係る発明について)
本件補正については、上記第2のとおり、平成22年8月20日付けで提出された本件訂正審判請求書の請求の要旨を変更するものであって、特許法第131条の2第1項の規定を満たさず、本件補正を認めることはできない。
また、本件補正に基づいて再度の訂正審判を請求するのであれば、次の点にも留意されたい。
1)刊行物1に記載された発明における「厚膜ペースト」を塗布する技術を、「液晶表示パネル用のガラス基板と他のガラス基板とを貼り合わせるためのシール剤のペースト」の塗布に適用することの容易性について
例えば、特開昭63-175667号公報の第2ページ左上欄第17行ないし同ページ右上欄第1行に記載されているように、「液晶パネル用のシール剤の塗布方法」と「印刷配線回路形成用の抵抗体、導電ペーストの塗布方法」とは、同一の技術分野に属するものであって、「液晶表示パネル用のガラス基板と他のガラス基板とを貼り合わせるためのシール剤のペースト」自体も、上記特開昭63-250622号公報のほか、特開平2-198417号公報に記載されているように、周知である。
2)塗布を塗布するパターンを、「ガラス基板の周辺に沿って直線状に塗布する直線部分と、ガラス基板の角部で曲線状に塗布する曲線部分と、からなるループ状のパターン」とすることの容易性について
上記特開昭63-250622号公報の第2図においては、シール剤4を「基板1の周辺に沿って直線状に塗布する直線部分」を有するとともに、基板1の右下角部で「曲線状に塗布する曲線部分」を有するといえる。全ての角部を曲線状に塗布することは、当業者が適宜設計可能な事項である。
3)光学式変位計を、「上下方向に移動するZ軸テーブル部にノズルとともに配置」することの容易性及び実施可能要件について
上記特開昭63-278855号公報及び特開昭63-278856号公報に記載された「変位センサ5」は、ともに「吐出ヘッド2」に配置されたものであるが、当該「吐出ヘッド2」は、その上下位置を支持機構によって調節することによって吐出口3と描画面10との間隔を一定に保持するものであるから、「変位センサ5」も「吐出ヘッド2」とともに間接的に「上下方向に移動する支持機構」(「Z軸テーブル部」に相当。)に配置されているといえる。
 
審理終結日 2010-12-02 
結審通知日 2010-12-06 
審決日 2010-12-17 
出願番号 特願平3-197316
審決分類 P 1 41・ 832- Z (B05B)
P 1 41・ 856- Z (B05B)
P 1 41・ 121- Z (B05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増田 亮子綿谷 晶廣関 美祝  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 金澤 俊郎
鈴木 貴雄
登録日 1996-05-17 
登録番号 特許第2519358号(P2519358)
発明の名称 ペ-スト塗布機  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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