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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61L
管理番号 1232193
審判番号 無効2010-800056  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-03-31 
確定日 2011-02-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第3749785号発明「脱臭効力増強剤およびこれを用いた脱臭剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3749785号の請求項1?5に係る発明は、平成10年3月10日に特許出願され、平成17年12月9日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、大日本除蟲菊株式会社から平成22年3月31日の差出で請求項1、2及び5係る発明の特許について無効審判の請求がなされたところ、その後の手続の経緯は、次のとおりである。

答弁書: 平成22年 6月21日
弁駁書: 平成22年 8月31日
審判請求書の手続補正書: 平成22年 9月 1日
口頭審理陳述要領書(請求人): 平成22年 9月 3日
口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成22年 9月10日
口頭審理陳述要領書(2)(請求人):平成22年 9月14日(差出日)
口頭審理陳述要領書(3)(請求人):平成22年 9月14日
口頭審理: 平成22年 9月14日
第2答弁書: 平成22年11月 1日
第2答弁書の手続補正書: 平成22年11月10日(差出日)
上申書(請求人): 平成22年11月15日(差出日)
上申書(2)(請求人): 平成22年12月3日

II.本件特許発明
本件無効審判請求の対象となった請求項1、2及び5に係る発明は、本件特許明細書の請求項1、2及び5に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明5」という。)である。

【請求項1】
脱臭効力増強剤として、それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分から選ばれる少なくとも1種からなる、パルプ成形体またはパルプ集合体からなる脱臭剤用の脱臭効力増強剤。
【請求項2】
脱臭効力増強剤として、それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分の組み合わせからなる請求項1記載の脱臭効力増強剤。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載の脱臭効力増強剤を含浸したパルプ成形体またはパルプ集合体からなる脱臭剤。

III.請求人の主張と証拠方法
1.請求人の主張
請求人は、証拠方法として甲第1号証?甲第8号証、参考資料1?参考資料15を提出し、審判請求書、弁駁書、審判請求書の手続補正書、上申書、及び口頭審理(口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書を含む)において、これまで主張したことを整理すると、概ね次のとおり主張している。なお、甲第1号証は本件特許公報である。
本件発明1の特定事項である「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分」とは、「文字どおりの趣旨ではなく、技術慣習上、典型的な脱臭剤としての機能を発揮するものと評価されているわけではないという趣旨に解すべき」ものであって、「本来脱臭機能を有していなければならない」ものであるという前提に立って、
(1)無効理由1:パルプが脱臭機能を有しているという本件特許明細書の技術的前提を採用し、更にはこの点に関する甲第6号証の1、2記載の公知又は周知技術に立脚した場合には、本件発明1、2及び5は、甲第2号証、更には甲第5号証の記載事項を考慮したうえでの甲第2号証との関係において進歩性を欠如しており、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当しこれら発明についての特許は無効とすべきである。
(2)無効理由2:パルプが脱臭機能を有しているという本件特許明細書の技術的前提を採用し、更にはこの点に関する甲第6号証の1、2記載の公知又は周知技術に立脚した場合には、本件発明1、2及び5は、甲第3号証、更には甲第5号証の記載事項を考慮したうえでの甲第3号証との関係において進歩性を欠如しており、特許法第29条第2項により特許を受けることはできないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当しこれら発明についての特許は無効とすべきである。
(3)無効理由3:パルプが脱臭機能を有しているという本件特許明細書の技術的前提を採用し、更にはこの点に関する甲第6号証の1、2記載の公知又は周知技術に立脚した場合には、本件発明1、2及び5は、甲第4号証、更には甲第2号証並びに甲第3号証の記載事項を考慮したうえでの甲第4号証との関係において進歩性を欠如しており、特許法第29条第2項により特許を受けることはできないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当しこれら発明についての特許は無効とすべきである。
(4)無効理由4:パルプが脱臭機能を有しているという本件特許明細書の技術的前提を採用し、更にはこの点に関する甲第6号証の1、2記載の公知又は周知技術に立脚した場合には、本件発明1、2及び5は、甲第5号証、更には甲第2号証並びに甲第3号証の記載事項を考慮したうえでの甲第5号証との関係において進歩性を欠如しており、特許法第29条第2項により特許を受けることはできないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当しこれら発明についての特許は無効とすべきである。

2.甲号証の記載事項・視認事項
(1)甲第2号証:特開平8-231321号公報
(1-1)「【請求項1】有効成分として、刺咬行動を抑制する濃度のピレスロイド系化合物を含有したことを特徴とする害虫の刺咬行動抑制剤。
・・・・・・
【請求項4】請求項1?3のいずれかに記載の害虫の刺咬行動抑制剤を加熱蒸散装置またはファン式拡散装置によって、空気中に存在させることを特徴とする害虫の刺咬行動を抑制する方法。
・・・・・・
【請求項6】前記ファン式拡散装置が、吸気口、通風部、排気口の順に空気が流れる空気流路および送風手段を有し、該空気流路に薬剤を担持しうる担体を備え、送風手段の作動に伴い空気流路に発生する空気流によって担体に担持される薬剤を空気中に拡散させる装置である請求項4記載の害虫の刺咬行動を抑制する方法。」(【特許請求の範囲】)
(1-2)「【産業上の利用分野】本発明は・・・・・・刺咬行動を抑制する濃度のピレスロイド系化合物を有効成分とし、該有効成分を加熱蒸散装置またはファン式拡散装置により空気中に存在させることで害虫の刺咬行動を抑制し、・・・・・・害虫の刺咬行動による被害から保護する害虫の刺咬行動抑制剤および刺咬行動を抑制する方法に関する。」(【0001】)
(1-3)「ここで有効成分を空気中に存在させることは、有効成分を・・・・・・ファン式拡散装置では有効成分を空気中に発揮、拡散させることである。・・・・・・本発明の有効成分としてのピレスロイド系化合物は、次のものが例示される。
・dl-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル dl-シス/トランス-クリサンテマート(一般名アレスリン:商品名ピナミン(以下、「アレスリン」という))
・1-エチニル-2-メチル-2-ペンテニル d-シス/トランス-クリサンテマート(一般名エンペントリン(以下、「エンペントリン」という)
・(+)-2-メチル-4-オキソ-3-(2-プロピニル)-2-シクロペンテニル(+)-シス/トランス-クリサンテマート(一般名d・d-T80-プラレトリン:商品名エトック(以下、「プラレトリン」という))
・dl-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル d-シス/トランス-クリサンテマート(一般名dl・d-T80-アレスリン:商品名ピナミンフォルテ)
・dl-3-アリル-2-メチル-4-オキソ-2-シクロペンテニル d-トランス-クリサンテマート(商品名バイオアレスリン)
・・・・・・」(【0014】、【0015】)
(1-4)「さらに調製された薬液内には通常に用いられる各種の添加剤、例えば、・・・・・・消臭剤および防臭剤、殺菌剤等を必要に応じ任意に含有でき、・・・・・・、消臭剤および防臭剤としては、ラウリル酸メタクリレート、ゲラニルクロトネート、・・・・・・安息香酸エチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、・・・・・・シトロネラ油、・・・・・・レモングラス油等を、殺菌剤としては、2,4,4′-トリクロロ-2′-ハイドロキシジフェニルエーテル、・・・・・・4-イソプロピルトロポロン・・・・・・等を各々挙げることができる。」(【0025】)
(1-5)「また、有効成分や溶媒、その他の添加剤による臭気をマスキングし、好みの香りを付与させるために各種の香料を含有させることができる。例えば・・・・・・動物性香料としては例えばじゃ香、霊猫香、竜延香等を、植物性香料としてはアビエス油、アジョクン油、アルモンド油、アンゲリカルート油・・・・・・また人工香料としては、ピネリン、リモネン等の炭化水素類、リナロール、ゲラニオール、ジトロネロール・・・・・・挙げられる。」(【0026】、【0027】)
(1-6)「ファン式拡散装置の具体例を図2に示す。・・・・・・該装置において、薬液を担持するための担体としては、例えば紙、・・・・・・、木材、パルプ、・・・・・・有機高分子物質・・・・・・、昇華性物質・・・・・・、樹脂類、油性溶剤、水性溶剤などが挙げられ・・・・・・。そして上記の各薬剤が担持できるものであれば、何ら制限されるものではない。担体の形状としては、例えば筒状、ハニカム状、スノコ状、格子状、網状等の構造が通気性、薬剤の十分な保持性などの点から好ましい。」(【0034】、【0035】)
(1-7)「・・・・・・インジケータ機能を付与させるために下記に示すような可変色色素を担体に上記薬剤とともに担持させる場合は、・・・・・・。
ここで可変色色素とは、・・・・・・例えば、電子供与性呈色化合物としては、・・・・・・フルオラン類、・・・・・・スピロピラン類・・・・・・等が挙げられる。」(【0036】、【0037】)

(2)甲第3号証:特開平6-317579号公報
(2-1)「【請求項2】 非水性の揮散性薬剤と非水性の揮散性溶剤と非水系で電子供与性の有る呈色性有機化合物と、非水系で電子受容性の有る顕色剤の四成分を含有する組成物であって、非水性の揮散性薬剤と非水性の揮散性溶剤の揮散性がほぼ同程度であり、かつ、当該薬剤と溶剤の両方あるいは、いずれか一方が減感性のものである薬効指示性組成物を、保持体に含浸、塗布もしくは保持させてなることを特徴とする薬効指示性薬剤保持体。」(【特許請求の範囲】)
(2-2)「本発明の薬効指示性組成物は、・・・・・・前記した非水系で電子供与性の有る呈色性有機化合物と、非水系で電子受容性の有る顕色剤と非水性の揮散性薬剤と非水性の揮散性溶剤(・・・・・・)の四成分を存在せしめることによって、揮散前すなわち上記薬剤、溶剤が充分に残存している間は、上記薬剤及び/又は溶剤の減感作用が顕色剤の作用に勝り、発色を抑える。
上記薬剤、溶剤が揮散して残存率が低くなると、顕色剤と電子供与性呈色性有機化合物との反応が開始し、呈色し始め、さらに薬剤及び/又は溶剤が完全に揮散して残存しなくなった時に電子供与性呈色性有機化合物特有の色調を呈する。・・・・・・」(【0016】、【0017】)
(2-3)「・・・・・・本発明において使用する非水性の揮散性薬剤とは、通常の使用状態(常温常圧下又は加熱下)で揮散するものであり、・・・・・・エンペントリン・・・・・・等のピレスロイド系殺虫剤、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フマル酸ジエチル、N,N-ジエチル-m-トルアミド等の防虫・忌避剤、安息香酸エチル、サフロール、イソサフロール、オイゲノール、シトロネロール、アネトール、l-カルボン等の防虫性香料、シトラール、シトロネラール、ネロール、・・・・・・、酢酸リナリル、アセトフエノン、テルピネオール、メントン、安息香酸ベンジル、フエニル酢酸エチル、酢酸イソアミル、ユーカリプトール等の香料、・・・・・・防虫・防黴剤、などが挙げられる。・・・・・・また、各薬剤は単独で使用してもよく、あるいは2種以上を併用してもよいことはもちろんである。」(【0019】)
(2-4)「本発明において使用する非水系で電子供与性の有る呈色性有機化合物としては、・・・・・・フルオラン類、・・・・・・*1、3、3-トリメチルインドリノ-2,2′-スピロ-6′-ニトロ-8′-メトキシベンゾピラン
*1、3、3-トリメチルインドリノ-7′-クロル-β-ナフトスピロピラン
等が挙げられる・・・・・・」(【0024】)
(2-5)「・・・・・・本発明において使用する顕色剤を例示すると、・・・・・・サリチル酸フェニル・・・・・・、等が挙げられ・・・・・・」(【0027】)
(2-6)「このような揮散性溶剤としては、・・・・・・アルコール類・・・・・・などが挙げられる。」(【0030】)
(2-7)「上記保持体は、薬剤組成物を安定に保持することができ、色変が視覚的に判定できるものであれば何でもよく、紙、不織布、布、木材、パルプ、無機高分子物質、無機多孔質物質(・・・・・・)、有機高分子物質(・・・・・・)、ゲル化物質(・・・・・・)、昇華性物質(・・・・・・)などが挙げられ、・・・・・・マット状、シート状、フィルム状、ゲル状、粉状、粒状、打錠形など任意の剤型で使用できる。」(【0035】)

(3)甲第4号証:特開平5-111528号公報
(3-1)「【請求項1】 パルプ製マットを支持体とし、このマットにイソチオシアン酸アリルおよび/またはイソチオシアン酸アリルを含有するアブラナ科植物の油溶性抽出物を単独に、あるいは油脂および/またはエタノールに溶解して添着することにより構成された消臭剤」(【特許請求の範囲】)
(3-2)「【作用】イソチオシアン酸アリルまたはイソチオシアン酸アリルを含有するアブラナ科植物の油溶性抽出物は、爽快な芳香を示し、かつ本来食品であることから健康上にも害が無く単独でも相当長期にわたり実用効果があるが、パルプ製剤とすることにより使用し易いものとすることができ、不快臭の発生源に設置した場合には発生源において局所的にイソチオシアン酸アリル濃度が高まり、臭気を中和するとともに、有機物の腐敗に起因する臭気発生源については腐敗を惹起している微生物を殺菌してしまい根本的に不快臭を除去することができる。・・・・・・」(【0005】)

(4)甲第5号証:特開平6-54880号公報
(4-1)「【請求項16】 体液吸収用使い捨て吸収性製品であって、
吸収構造の重量を基準として、約30?約100 重量%の溶液重合した水膨潤性水不溶性吸収材料を含む吸収構造、ここで該吸収材料の少なくとも約2%の粒度が約200 マイクロメーターより小さいこと、
該吸収構造の表面層を少なくとも一部被覆する被覆材料、
親水性/親油性バランスが約12より小さい界面活性剤の有効量、ここで該界面活性剤は尿の臭気を減少するのに有効であること、を含む上記吸収性製品。
【請求項17】 該吸収構造が繊維材料をさらに含む、請求項16に記載の使い捨て吸収性製品。
【請求項18】 該繊維材料が木材パルプフラッフである、請求項17に記載の使い捨て吸収性製品。」(【特許請求の範囲】)
(4-2)「ここに使用した“親水性/親油性バランス(HLB)”という語は、相対的な水溶性又は油溶性により界面活性剤をランク付けするためにAtlas Powder Companyで開発され、世界的に使用されているHLBナンバリング方式をいう。一般的に、約12より低い数により表された化合物は、油溶性であり、約12より大きいものは水溶性である。・・・・・・
HLB が12より小さい界面活性剤のすべてが尿の臭気を減らすことが可能なわけではない。・・・・・・」(【0013】、【0014】)
(4-3)「界面活性剤は、吸収される体液の臭気を減少するのに有効な量で吸収性製品に施される。本発明者は、界面活性剤が臭気を減少するという可能性(少なくとも尿に関しては) は、ある制限範囲内で、吸収性製品に存在する界面活性剤の量によるということを示唆するいくつかの証拠を見出した。・・・・・・」(【0017】)
(4-4)「実施例1
・・・・・・
・・・・・・容器に還元尿を4滴加えた。その後、各吸収材料のサンプルを上述の臭気認識試験にあてた。臭気認識試験の結果を以下の表1に示した。・・・・・・。
表1
サンプルNo. 界面活性剤 HLB 臭気ランキング
・・・・・・
2C^(*) 1% Tergitol 15-S-15 15.6 6.7
2D 2% Tergitol 15-S-5 10.6 3.2
3A 1% Span 80 4.3 2.4
3B^(*) 1% Igepal CO-210 4.6 5.0
・・・・・・
3D^(*) 1% Igepal CO-430 8.8 4.8
・・・・・・
4A^(*) 含まず(コントロール)- 4.5
4B 1% Tween 81 10 2.8
・・・・・・
^(*)は、本発明の実施例ではない。
・・・・・・
表1から分かるように、HLB が約12より大きい界面活性剤は、所望の臭気ランキングを一般的に生じない。さらに、すべてではないが、HLB が12より低い界面活性剤は尿の臭気を減らすのに効果的である。」(【0024】?【0027】)
(4-5)「実施例3
木材パルプフラッフ(・・・・・・) 及び水膨潤性、一般的に水不溶性吸収材料を含む吸収構造を、木材パルプフラッフ及び吸収材料が90/10 重量比である混合物をエアレイ(・・・・・・) することにより製造した。エアレイしたバットを切り、6 ×6 インチ(・・・・・・) の大きさのサンプルにした。・・・・・・界面活性剤を、エチルアルコールにTergitol 15-S-5 を10重量%含む溶液を形成することによりバットに施した。その後、エチルアルコールにTergitol 15-S-5 を含む溶液を、様々な量においてバットに噴霧した。・・・・・・その後、2インチ幅2インチ長さの試験サンプルをバットから切り、約6滴の(上述の)還元尿を与え、上述の臭気試験にあてた。この試験の結果を表3に示す。
表3
サンプルNo. 界面活性剤の濃度 臭気ランキング
7A* 含まず(コントロール) 7.0
7B 1.0 % 2.8
7C 1.5 % 2.8
7D 4.75% 1.3
* は、本発明の実施例ではない。
」(【0031】、【0032】)

(5の1)甲第6号証の1:特公昭56-7429号公報
(5の1-1)「パルプまたは紙製造過程に副生する短繊維を原料とし、これを乾燥粉末としたもの、これを粒状となしたもの、またこれらを圧縮成型したものを使用することを特徴とする脱臭剤。」(特許請求の範囲)
(5の1-2)「パルプ原料である木繊維はグルコーズ体の鎖状高分子であって・・・・・・繊維がパルプまたは紙製造過程で副生された短繊維になるとその過程で鎖状分子は切断され鎖状体の一部は空気中の酸素により自己酸化しグルコーズ体は開環し次のようにアルデヒド基や更にカルボキシル基を生成すると考えられる。
・・・・・・
すなわちアルデヒド基はアンモニヤ及び硫化水素と化学的に結合し易いからである。
・・・・・・
次にカルボキシル基はNH_(3)と容易に反応する。・・・・・・
・・・・・・本発明に基く原料パルプは分子中に含まれる活性基であるアルデヒド基や小量であるがカルボキシル基により・・・・・・アンモニヤまたは硫化水素と化合しまたはこれらをパルプ本体の上記のような有機化学的構造の反応性に基ずく活性的吸着作用により脱臭することが考えられる。」(2頁左欄13行?3頁左欄7行)

(5の2)甲第6号証の2:特公昭62-60491号公報
(5の2-1)「又本発明で得られたパルプは人間の室内トイレ用の処理材としても使用できる。この場合腰かけ用便座の中に収納されている汚物容器の底にその粒状パルプを2?3cm程度入れておく。この場合次の利点がある。
(a)使用に際し不快な悪臭がしない。
(b)1度使用してもその上にその粒状パルプを少量かけることにより、悪臭を断つことができる。」(2頁右欄21?29行)

(6)甲第7号証:ミルトンJ.ローゼン原著(坪根和幸、坂本一民監訳)「界面活性剤と界面現象」フレグランスジャーナル社(平成7年6月15日)331?336頁
(6-1)「HLB値が3?6の乳化剤はW/O型エマルションに、HLB値が8?12の乳化剤はO/W型エマルションにそれぞれ適している。」(333頁下から3?2行)

(7)甲第8号証:辻薦著「乳化・可溶化の技術」工学図書株式会社(昭和51年6月20日)1?35頁
(7-1)「ノニルフェノール・ポリオキシエチレン・エーテルのH.L.B.価」として、「EOモル数(酸化エチレン付加モル数)が4のものが8.9、6のものが10.9であること」(13頁の表1・8)
(7-2)13頁の「図1・5各種界面活性剤のH.L.B.価対比」には、「ポリオキシエチレン(2)アルキルエーテルにラウリルアルコールのH.L.B.価が約6.5であること」が見て取れる。
(7-3)「ジエチレングリコールモノステアレート、ジエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレングリコール400モノオレエート、ポリオキシエチレングリコール400モノステアレートのH.L.B.価が、それぞれ、4.7、6.1、9.5、11.4、11.6であること」(14頁の表1・9)

(8)参考資料1:「’97脱臭・消臭・抗菌ビジネス」 株式会社 シーエムシー (1996年12月13日)141?142、158、200?202、215?216頁
(8-1)「表2 消臭剤と消臭原理」における「消臭剤の例」として、「消臭方式」が「化学反応」のものが「過酸化水素、亜硫酸ソーダ、光触媒型酸化チタン、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸鉄、グリオキザール、メタクリル酸エステル、多価カルボン酸、多価フェノール」、「消臭方式」が「物理吸着」のものが「活性炭、ゼオライト」、「消臭方式」が「感覚的消臭」のものが「木酢液、香料、パラジクロルベンゼン、テレピン油、ユーカリ油」、「消臭方式」が「生物的消臭」のものが「加水分解酵素、酵母」が記載されている(141頁の表2)
(8-2)「活性炭は、内部が無数の微細孔を有しその表面積は1g当たり約800?1800m^(2)にもおよびこの無数の微細孔が気相、液相中の物質や異臭を吸着し、脱臭効果などをもたらす。」(200頁5?7行)

(9)参考資料2:竹内節著 「吸着の化学-表面・界面制御のキーテクノロジー-」 産業図書株式会社 (2003年6月20日)93?100頁
(9-1)「活性炭の表面積の大部分はミクロポアの壁の面積で占められ、吸着能力はこのミクロポアの孔径と表面積によることが多い。ガス分子の吸着、液相吸着で比較的小さな分子の吸着では表面積の大きいものほど、吸着力が大きいことが多い。」(95頁4?6行)

(10)参考資料3:特開平7-98134号公報
(10-1)「【請求項1】〔1〕空気の吸込口(9)から吹出口(3)に気流が生じるダクト(16)、〔2〕上記ダクト(16)内において空気の吸込口(9)の後に設けられた1mm以上の塵埃を捕集する粉塵除去層(11)、〔3〕上記粉塵除去層(11)の後に設けられた1000nm以上の物質を捕集する粗微粒子除去層(12)、〔4〕上記粗微粒子除去層(12)の後に設けられた2?1000nmの物質を捕集する中微粒子除去層(13)、および、〔5〕上記中微粒子除去層(13)の直後に2nm以下の物質を捕集する超微粒子除去層(14)を設けることを特徴とする室内の空気浄化装置。」(【特許請求の範囲】)
(10-2)「【請求項17】〔1〕上記中微粒子除去層(13)が親油性の吸着剤で構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項16何れか記載の室内の空気浄化装置。」(【特許請求の範囲】)
(10-3)「・・・・・・中微粒子除去層(13)が親油性の吸着剤で構成されていると、親油性物質の捕集に効果的である。この親油性の吸着剤としては、有機粘土複合物、油紙フィルターの少なくとも1種以上を含ませたものを用いるのが好ましい。」(【0013】)

(11)参考資料4:「化学工学資料のページ」(http://chemeng.on.coocan.jp/)の2010年8月24日印刷
(11-1)「においと脱臭剤のはなし
においのもとはタンパク質
・・・・・・
におい物質の多くはは不揮発性のアミノ酸が分解して、揮発性の物質となったものであることがわかります。」(「においのもとはタンパク質」の項、第2段落)
(11-2)「吸着剤
・・・・・・
反対に活性炭は有機物のもとの炭素でできているので、油(有機物)と親しい性質がある、すなわち疎水性なのです。このため好都合にも、活性炭は空気中にたくさんある水蒸気は吸着せずに有機物であるにおいの気体だけをとることができるのです。」(「吸着剤」の項、第7段落)

(12)参考資料5:"CTFA Cosmetic Ingredient Dictionary Third Edition" The Cosmetic, Toiletry and Fragrance Association, Inc, (January 9, 1982) p.199,247,296
(12-1)「PARETH-15-5
・・・・・・
Definition: Pareth15-5 is a polyethlene glycol ether of a mixture of synthetic C11-15 fatty alcohols with an average of 5 moles of ethylene oxide.
・・・・・・
Other Names:
Tergitol 15-S-5 (Union Carbide)」(199頁右欄下から23?14行)
(12-2)「POLYSORBATE 81
・・・・・・
Definition: Polysorbate 81 is a mixture of oleate esters of sorbitol and sorbitol anhydrides ・・・・・・
Other Names:
・・・・・・
Tween 81 (ICI Americas)」(247頁中欄20行?同頁中欄下から11行)
(12-3)「SORBITAN OLEATE
・・・・・・
Definition: Sorbitan Oleate is the monoester of oleic acid and hexitol anhydrides derived from sorbitol.
・・・・・・
Other Names:
・・・・・・
Span 80 (ICI Americas)」(296頁左欄13行?同頁左欄下から13行)

(13の1)参考資料6の1:特願平10-58246号の平成17年8月25日付け拒絶理由通知書

(13の2)参考資料6の2:特願平10-58246号の意見書
(13の2-1)「(4-2)請求項1にかかる発明と引用文献との相違点
上記のように、引用文献1?4には、脱臭機能を有しない基材に脱臭(消臭)成分を含浸させることが記載されているのであって、脱臭機能を有する基材に脱臭機能を有しない成分を含浸させて、脱臭効力を増強させることは記載されていない。」(3頁2?5行)

(13の3)参考資料6の3:特願平10-58246号の手続補正書

(14)参考資料7:「化学辞典」株式会社東京化学同人(2000年10月2日)112?113、514?515頁
(14-1)「イソチオシアン酸アリル[・・・・・・]・・・・・・CH_(2)=CHCH_(2)N=C=S。天然カラシ油、黒カラシ油中に配糖体として存在。・・・・・・。一般には、ハロゲン化アリルCH_(2)=CHCH_(2)Xとチオシアン酸カリウムより合成されるチオシアン酸アリルの転位反応で得られる。・・・・・・水に難溶。エタノールや他の有機溶媒には易溶。・・・・・」(113頁「イソチオシアン酸アリル」の項)
(14-2)「サフロール・・・・・・特有の香気を有し、有機溶媒に易溶、水には不溶。・・・・・」(514?515頁「サフロール」の項)

(15)参考資料8:「高分子分析ハンドブック」株式会社朝倉書店(2008年9月20日)886頁
(15-1)「3.2 天然繊維
3.2.1 綿
・・・・・・繊維は種子の表皮細胞が伸長成長したもので、紡績に用いられる長い繊維(リント)のほかに平均3?5mmのリンターと呼ばれる短い繊維がついている」(886頁左欄下から4行?同頁右欄19行)

(16の1)参考資料9の1:特開平5-58829号公報
(16の1-1)「【請求項1】 主成分としての酸化銀・AgO_(2)とSiO を付着,焼成させた所要粒径の無機物多孔質体からなることを特徴とする抗菌・防臭剤。」(【特許請求の範囲】)

(16の2)参考資料9の2:特開平5-195438号公報
(16の2-1)「【請求項1】 銀化合物を含有するとともに、その表面を有機防菌防かび剤にて処理したことを特徴とする抗菌防臭繊維。」(【特許請求の範囲】)

(16の3)参考資料9の3:特開平5-201822号公報
(16の3-1)「【請求項1】 イソチオシアン酸アリルと緑茶エキスを含有してなる抗微生物用組成物。」(【特許請求の範囲】)
(16の3-2)「【発明の作用・効果】本発明の抗微生物用組成物は、例えば細菌(・・・・・・)、真菌(・・・・・・)に対して、顕著な抗微生物作用を示し、また消臭効果をも有する。・・・・・・」(【0019】)

(16の4)参考資料9の4:特開平6-65019号公報
(16の4-1)「【発明が解決しようとする課題】本発明はキチン、キトサンを木酢液と組み合わせることによって従来までの木酢液の効果を一挙に強化増大することを目的とするものであり、併せて悪臭公害廃棄物の発生源にこの木酢液の殺菌力、脱臭力、醗酵力を適用することによって悪臭発生源自体を有価物に転化しようとするものである。」(【0003】)

(16の5)参考資料9の5:特開平6-78978号公報
(16の5-1)「【請求項1】活性炭、活性炭に触媒を加味した添着活性炭及びゼオライトから選ばれる少なくとも一種、アルコール系、エステル系、アルデヒド系、ケトン系、ラクトン系及びフェノール系抗菌性香料物質から選ばれる少なくとも一種、高分子吸水剤、及びキトサンを配合することを特徴とする脱臭剤。」(【特許請求の範囲】)

(16の6)参考資料9の6:特開平6-107971号公報
(16の6-1)「【請求項1】 pHが8.0?12.0に調製された0.1?5.0%の安定化二酸化塩素液を、少なくとも50重量%以上の吸水容量をもち、粉末から微小顆粒にいたる粒度分布をもった吸着担体に吸着担持させ、これを皮膜形成能を有し、かつその水溶液または5%水懸濁液のpHが7.0以上を示す樹脂液中に分散させた組成物を主成分としたことを特徴とする二酸化塩素発生塗料組成物。」(【特許請求の範囲】)
(16の6-2)「【発明の効果】実施例から明らかなように、本発明塗料組成物は、塗布された塗布面から長期間にわたって微量ずつ二酸化塩素ガスを揮散し、塗布面の防かび、防菌の効果、または塗布面に接する空間の消臭効果や青果物の鮮度保持効果などを発揮できるもので、その効果はこの種従来品では到底達成し得なかったものである。」【0044】

(16の7)参考資料9の7:特開平7-18565号公報
(16の7-1)「【請求項1】 被洗物を非極性で飽和の有機溶剤に浸漬し、オゾンガスを注入して行なう漂白・脱臭・殺菌方法。」(【特許請求の範囲】)

(16の8)参考資料9の8:特開平7-236504号公報
(16の8-1)「【請求項1】(1)合成ゼオライト及び活性炭等の吸着剤から選ばれる少なくとも一種、(2)カーボンブラック及び遠赤外線セラミック、(3)アルコール系、エステル系、アルデヒド系、ケトン系、ラクトン系及びフェノール系抗菌性香料物質から選ばれる少なくとも一種、(4)高吸水性樹脂及びキトサン、(5)カプサイシン、フラボノイド、プロタミンの抗菌性物質から選ばれる少なくとも一種を配合することを特徴とする坑菌脱臭剤及び発熱剤。」(【特許請求の範囲】)

(16の9)参考資料9の9:特開平7-300769号公報
(16の9-1)「木酢液のもつ強い殺菌力と消臭力は知られている」([発明が解決しようとする課題]の欄)

(16の10)参考資料9の10:特開平8-198717号公報
(16の10-1)「【請求項1】リチュウムを含有することを特徴とする抗菌剤。
【請求項2】リチュウムを含有することを特徴とする消臭吸着剤。
【請求項3】リチュウム化合物、酸化珪素及び酸化アルミニュウムを主成分とする請求項1又は2に記載の抗菌剤又は消臭吸着剤。」(【特許請求の範囲】)

(16の11)参考資料9の11:特開平8-215294号公報
(16の11-1)「【産業上の利用分野】本発明は、松の種子の殻の炭化物を主成分とする吸着・脱臭剤、及びこれを利用した吸着脱臭塗料、脱臭シート、並びに、吸着・脱臭性を有し、かつ、抗菌性、遠赤効果を有し健康増進を果たす吸着マットに関する。」(【0001】)

(16の12)参考資料9の12:特開平9-12726号公報
(16の12-1)「【請求項1】金属イオン0.04?4.3重量%がカチオン交換樹脂粒に吸着されていることを特徴とする粒状または粉末状消臭抗菌剤」(【特許請求の範囲】)

(16の13)参考資料9の13:特開平9-87924号公報
(16の13-1)「【請求項1】アクリル系合成繊維において、平均粒径0.5?10μmのケイ酸金属塩又はアルミノケイ酸金属塩を有効成分とする微粉末を0.5?20.0重量%含有している事を特徴とする消臭・抗菌性アクリル系合成繊維。」(【特許請求の範囲】)

(16の14)参考資料9の14:特開平9-176917号公報
(16の14-1)「【請求項1】アクリロニトリルを主要な構成単位とする共重合体(A)と、該共重合体(A)と混和性がありかつ非相溶性の重合体(B)1?20重量%からなるアクリル系合成繊維において、重合体(B)が相分離状態で存在しており、かつ平均粒径0.5?10μmのケイ酸金属塩又はアルミノケイ酸金属塩を有効成分とする微粉末を0.5?20重量%含有している事を特徴とする消臭・抗菌性アクリル系合成繊維。」(【特許請求の範囲】)

(16の15)参考資料9の15:特開平9-188965号公報
(16の15-1)「【請求項1】スパンポンド法により形成された不織布に、無定形二酸化けい素と無定形酸化亜鉛を微粉化し、複分解して混合した無機系イオン吸着型消臭剤をロール塗布したことを特徴とする消臭抗菌不織布。」(【特許請求の範囲】)

(16の16)参考資料9の16:特開平9-227334号公報
(16の16-1)「【産業上の利用分野】本発明は琥珀を原料とする琥珀溶融組成成分或いはその低沸点抽出物、琥珀の低沸点抽出物又は抽出残渣の溶融組成成分等の琥珀成分含有剤で、抗菌、抗酸化、消臭、手・肌荒れ、抗炎症等に対して有効成分な剤に関する。」(【0001】)

(16の17)参考資料9の17:特開平9-291416号公報
(16の17-1)「【請求項1】アクリロニトリルを主要な構成単位とする共重合体(A)と、該共重合体(A)と混和性がありかつ非相溶性の重合体(B)1?20重量%からなるアクリル系合成繊維において、重合体(B)が相分離状態で存在しており、かつ、平均粒径0.5?10μmのケイ酸金属塩又はアルミノケイ酸金属塩を有効成分とする微粉末を0.5?20重量%含有し、かつ、アミノ化合物を0.1?10重量%含有している事を特徴とする消臭性アクリル系合成繊維。」(【特許請求の範囲】)
(16の17-2)「本発明の繊維は相分離した重合体(B)の中に微粉末が局在化することにより消臭・抗菌効果は著しく向上する。」(【0019】)

(16の18)参考資料9の18:特開平10-7511号公報
(16の18-1)「【請求項1】防虫成分としてのエムペントリンと、防黴成分として、テトラヒドロリナロール、リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、α-テルピネオール、テルピネン-4-オール、ジヒドロミルセノール、ロリトール、シトラール、シトロネラール、L-ペリラアルデヒド及びトリベルタールから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする防虫防黴剤。」(【特許請求の範囲】)

(17)参考資料10:特開平8-84949号公報
(17-1)「化学反応による消臭剤としては、・・・・・・ラウリルメタアクリレート、・・・・・・ゲラニルクロトネート、・・・・・・などが挙げられ」(【0044】)

(18)参考資料11:試験結果報告書
(18-1)「3.試験の経過
・試験は、特許第3749785号の試験例(段落【0031】に記載された方法に準じて行った。
(1)試験材料の準備
1)薬剤(親油性薬剤及び油状液体)
<1>エンペントリン(住友化学社製、商品名:べーパースリン)
<2>2,4,4'-トリクロロ-2'-ハイドロキシジフェニルエーテル(チバガイギー社製、一般名:トリクロサン)
<3>ポリオキシエチレンアルキルエーテル(日光ケミカルズ仕製、商品名:NIKKOL BT-5 )
[甲第5号証記載の界面活性剤 Tergitol 15-S-5 相当品]
<4>安息香酸エチル(ナカライテスク社製試薬)
2)担体の用意
<a>パルプ製板紙(素材:パルプ100%、大きさ:5×9cm、厚さ:1mm、重量:約2g)[・・・・・・]
<b>-1セルロース製ビーズ(レンゴー社製、粒径:3-4mm、重量:約2g)
[・・・・・・]
<b>-2袋入りセルロース製ビーズ:前記<b>-1のセルロース製ビーズに対するポリプロピレン製不織布(目付:50g/m^(2))による包装物[・・・・・・]
<c>ポリプロピレン製不織布(目付:50g/m^(2))
[・・・・・・]
3)ガス発生液
・アンモニアガス発生液:0.84%アンモニア水 50μL
4)ガス濃度測定装置
・アンモニアガス検知管:ガステック社製「3La」[・・・・・・]
・ガス採取器:ガステック社製気体採取器 [・・・・・・]
・ガラス製デシケーター(容量:3L)3個 [・・・・・・]

(2)試験検体の調製
1)試験検体(A、B-1、B-2、及びC)
A、B-1、及びCの試験検体は、親油性薬剤及び油状液体100mgをエタノール2mLに溶解した薬液を、<a>、<b>-1、及び<c>の各担体に含浸後、風乾して調製した。B-2の試験検体については、<b>-1のようにして調整したB-1と同一の試験検体をポリプロピレン製不識布袋に収納後、ヒートシールして調製した。
尚、このような調整とは別に、担体のみの試験のために、<a>、<b>-1、及び<c>の各担体を別途試験検体として準備した。
2)試験検体(D-1、D-2)
エンペントリンと安息香酸エチルについては、その100mgを直径4.8cm及び直径2.8cmのガラスシャーレに略一様に配置し、それぞれ担体を用いない試験検体D-1及びD-2として準備した。
(3)測定の準備及び操作
1)ガラス製デシケーター内に上記(2)によって調製した試験検体を設置した。
2)上部開口部からガス発生液を投入し、上部開口部にパラフィン製フィルムを巻きつけて密封した。
ガラス製デシケーター3個を同時に使用し、1個はガス発生液のみのブランクとして用いた。
[・・・・・・]
3)デシケーター密封1時間後に側部開口部からガス検知管を挿入し、デシケーター内のガス濃度を測定した。
[・・・・・・]
(4)脱臭率の算出
以下の式により、脱臭率を算出した。
ブランクの1時間後の濃度-試験検体の1時間後の濃度
脱臭率(%)=--------------------------
ブランクの1時間後の濃度
×100

(18-2)「4.試験結果
試験結果は別紙表に示すとおりである。
尚、試験検体D-2の場合には、-1.1、-0.5という負の値による脱臭率が算出されたことから、0と見做すことにした。
・・・・・・



当審注:○付き数字(○の中にアラビア数字を入れたもの)及び○付きアルファベット(○の中にアルファベット文字を入れたもの)は、本起案システムの制約のため<>のアラビア数字を及びアルファベット文字入れることにより表記しており、以下、同様の扱いをする。

(19)参考資料12:特開平9-202721号公報
(19-1)「【請求項1】フィチン酸金属錯化合物を含有する消臭・防臭剤。
【請求項2】フィチン酸金属錯化合物が、フィチン酸と、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、マンガン、カルシウム、マグネシウム、コバルトの内の1種又は2種以上の金属イオンとにより生成したキレート錯体である請求項1記載の消臭・防臭剤。」(【特許請求の範囲】)
(19-2)「
[5]制汗・防臭パウダー(重量%)
1. アルミニウムヒドロキシクロライド 2
2. トリクロサン 0.1
3. フィチン酸金属錯化合物 2
4. タルク 89.9
5. 酸化亜鉛 3
常法によりブレンダーで撹拌混合する。」(【0062】なお、当審で各成分ごとに改行して記載した。)
(19-3)「
[8]エアゾール防臭剤(重量%)
1. トリクロサン 0.1
2. フィチン酸金属錯化合物 5
3. 1,3-ブチレングリコール 2
4. 無水エタノール 55
5. 噴射剤(ガス) 残余
1?4を常法により混合し缶に充填し、バルブ装着後噴射剤を充填する。」(【0065】なお、当審で各成分ごとに改行して記載した。)

(20)参考資料13:特開平8-38586号公報
(20-1)「■木炭に吸着されたヒノキチオールの特性により多量の空気を強制的に送風することにより室内の汚れた空気を防虫,防菌,殺菌,防臭,防腐などの空気清浄を確実に行い、秀れた環境向上性を発揮する。」(【0032】)

(21)参考資料14:検索結果
(21-1)「「脱臭 消臭 防臭」に関する技術が149件見つかりました。
・・・・・・
●技術用語 >> 脱臭 消臭 防臭 のいずれかを含んで
・・・・・・
▲検索期間設定:・・・・・・
●期間を指定 H050101 から H100310 まで」(1頁、本起案システムの制約により「検索期間設定」の前にある黒塗りの三角形を「▲」で記載した。)

(22)参考資料15:試験報告書
(22-1)「脱臭効果試験
・・・・・・
2 検体
1)板紙(パルプ100%、5×9cm、2g)無処理
2)板紙(パルプ100%、5×9cm、2g)エムペントリン100mg処理品
3)板紙(パルプ100%、5×9cm、2g)トリクロサン100mg処理品

3 試験概要
検体についてアンモニアの脱臭効果をガス検知管法により試験した。
なお、試験は2回行った。」(2頁4?10行)
(22-2)「4 試験結果
試験結果を表-1・・・・・・に示した。

」(2頁11行?3頁表-1)

IV.被請求人の反論
1.被請求人は、請求人の上記無効理由の主張に対して乙第1?5号証を提出し、答弁書、第2答弁書(手続補正書により補正された内容を含む)、口頭審理(口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書を含む)において、本件発明1、2及び5は、甲第2?8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと、反論している。

2.乙号証の記載事項
(23)乙第1号証:特許第2926616号公報
(23-1)「イソチオシアン酸エステルの持つ抗菌性、防カビ性、鮮度保持性、脱臭性等を利用し」(3頁左欄11?13行)

(24)乙第2号証:特開平9-140366号公報
(24-1)「【請求項1】 イソチオシアン酸アリル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム及びゲル化剤を含有することを特徴とする食品鮮度保持用ゲル組成物。」(【特許請求の範囲】)
(24-2)「・・・・・・アニオン系界面活性剤の1種であるポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム・・・・・・」(【0004】)
(24-4)「実施例4:本発明のゲル組成物の消臭(脱臭)効果試験
・・・・・・本発明のゲル組成物の場合には、2時間の放置時間で各ガス濃度が約50?10%にまで低下することが観察された(消臭率:約50?90%)。」(【0017】)

(25)乙第3号証:「14504の化学商品」化学工業日報社(2004年1月27日)1442頁

(26の1)乙第4号証の1:無効2010-800134号事件の平成22年10月18日付け訂正請求書の写し

(26の2)乙第4号証の2:無効2010-800134号事件の平成22年10月18日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の写し

(27)乙第5号証:試験成績書
(27-1)「【試験方法】
試験は甲第1号証(特許3749785号公報)に記載された試験例(段落【0031】)に記載の方法で行った。
以下に試験方法の詳細について説明する。
・・・・・・
2、試験材料
1)親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分(脱臭効力増強剤)
・ エンペントリン(住友化学社製、商品名:ベーパスリン)
・ d・d-T80-プラレトリン(住友化学社製、商品名:エトック)
・ dl・d-T80-アレスリン(住友化学社製、商品名:ピナミンフォルテ)
・ d-T80-フタルスリン(住友化学社製、商品名:ネオピナミンフォルテ)
・ フェノトリン(住友化学社製、商品名:スミスリン)
・ ベンフルスリン(バイエル社製、商品名:バイオスリン)
・ d-T80-シフェノトリン(住友化学社製、商品名:ゴキラート)
・ フェンプロパトリン(住友化学社製、商品名:ダニトール)
・ ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(日本乳化剤社製、商品名:2エチルヘキシルグリコール(略称:EHDG))以下、EHDGと省略
・ 流動パラフィン(中央化成社製、商品名:流動パラフィン260S)
・ ビオゾール(大阪化成社製、商品名:ビオゾール)
・ ブルー63(山本化成社製、商品名:BLUE-63)
・ 2,4,4’-トリクロロ-2’-ハイドロキシジフェニルエーテル(CIBA社製、商品名:IRGACARE MP(一般名:トリクロサン))・・・・・・
・ 4-イソプロピルトロポロン(高砂香料工業社製、商品名:ヒノキチオール(一般名:ヒノキチオール))・・・・・・
2)パルプ成形体(集合体) …粒状パルプ(北上製紙社製、商品名:粒状パルプ
(粒径:約3-5mm))・・・・・・
・・・・・・
3)多孔質構造を有する脱臭剤(パルプ以外の脱臭剤機能部材)
・ 活性炭・・・・・・
・ ゼオライト・・・・・・
4)不織布 …ポリエチレンテレフタレートとポリプロピレン混抄不織布
・・・・・・
6)ガス検知管 …ガステック社製「3La」
・・・・・・
8)デシケーター …ガラス製デシケーター(内容積3リットル)」(1頁本文7行?3頁6行)
(27-2)「3、試験検体の準備
1)脱臭効力増強剤の準備
<1>上記の脱臭効力増強剤をガラス製シャーレ(直径約8cm)に量りとり、試験検体とした(・・・・・・)。なお、使用量は明細書実施例のエンペントリンの使用量14mgに従い、エンペントリン等のピレスロイド・・・・・・の使用量を14mgとした。また、EHDGは50mg、流動パラフィンは10mg、ビオゾールは5mg、ブルー63は5mgとした。
・・・・・・
3)多孔質構造を有する脱臭剤の試験検体及び対照検体の準備
<1>多孔質構造を有する脱臭剤2.5gをポリエチレンテレフタレートとポリプロピレンとを混抄した通気性のある不織布で作られた包装袋に収納し、開口部をヒートシールし、対照検体とした。
<2>上記<1>とは別に、多孔質構造を有する脱臭剤2.5gに、エンペントリン14mgをエタノール(約5ml)に溶かして、含浸させた。
<3>室温でエタノールを風乾させた後、上記<1>と同様に、不織布製の包装袋に収納したものを試験検体とした(・・・・・・)。」(3頁7行?4頁8行)
(27-3)「4、試験の操作方法
1)市販のアンモニア水(28%)をエタノールで10倍に希釈し、ガス発生液とした。
2)デシケーター内に上記(3、試験検体の準備)で準備した試験検体(もしくは対照検体)を設置し、さらに、ガス発生液投入用のガラス製シャーレ(直径約8cm)を設置した。
3)上記2)のガス発生液用のガラス製シャーレに上記1)のガス発生液50μLを投入し、デシケーターをパラフィン製フィルムで密封(デシケーター蓋と本体の間、および、蓋の上部開口部にパラフィン製フィルムを巻きつけて密封)した。
4)デシケーター密封直後に、デシケーター蓋の上部開口部のパラフィン製フィルムを一部破り、ガス検知管を挿入し、デシケーター内のガス濃度を測定した。その後、パラフィン製フィルムにより、素早く再密封を行った。
5)デシケーター密封1時間後に再び、デシケーター蓋の上部開口部のパラフィン製フィルムを一部破り、ガス検知管を挿入し、デシケーター内のガス濃度を測定した。
6)ガス発生液のみをデシケーター内に入れ、上記4)、5)と同様に密封直後と1時間後にガス濃度を測定し、ブランクのガス濃度とした。」(4頁下から16?1行)
(27-4)「5、脱臭率の算出方法
以下の式より、脱臭率を算出した。
(補正初期濃度^(*)-1時間後の濃度測定値)
脱臭率(%)= -------------------- ×100
補正初期濃度^(* )
^(*)補正初期濃度は以下の式より算出し、検体と同時に測定したブランクの密封直後から1時間後のガス濃度変化率(補正倍率)を用いて、検体の補正初期値濃度を算出した。

補正初期濃度=密封直後の検体のガス濃度測定値×補正倍率

1時間後のブランクのガス濃度測定値
補正倍率= ---------------------
密封直後のブランクのガス濃度測定値
注)ブランクとは、甲第1号証(特許3749785号公報)の試験例(段落【0031】に記載の「脱臭剤サンプルを投入しないブランク」のことであり、このブランクとのガス濃度の比較から脱臭率(%)を算出した。」(5頁下から15?1行)
(27-5)

(27-6)

(27-7)


V.当審の判断
V-1.無効理由の判断に先立って、本件発明1、2及び5の特定事項である「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分」についてみておく。
1.請求人の主張
無効理由1?4の前提となる、「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分」とは、「文字どおりの趣旨ではなく、技術慣習上、典型的な脱臭剤としての機能を発揮するものと評価されているわけではないという趣旨に解すべき」ものであって、「本来脱臭機能を有していなければならない」ものであるという請求人の主張についてまず検討を行う。
請求人は、(a)参考資料1の上記(8-2)、参考資料2の上記(9-1)及び参考資料3の上記(10-1)?(10-3)の記載に基づいて、パルプの脱臭機能の前提をなす吸着作用においては、比表面積を大きくすることが必要不可欠な事項であって、本件発明1、2及び5において、「親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分」をパルプに配合することも比表面積の増大を前提としていることに疑いの余地はないとし、
その理由として、
「親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分」が「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」のであれば、「親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分」のパルプへの配合は、パルプ表面における脱臭機能を減殺する要因となり、配合によって脱臭効力を補強する要因としては、「親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分」が自ら本来の脱臭機能を発揮すること以外あり得ないというものであって、現に、本件特許明細書【0019】、【0020】に記載の「シトロネラ油、レモングラス油、安息香酸エチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル」は、甲第2号証の【0025】では消臭剤及び防臭剤として扱われている、と主張している(平成22年9月1日付けの手続補正書で補正された審判請求書(以下、「補正請求書」という。)8?10頁、弁駁書2?3頁)。

2.請求人・被請求人の試験結果と当審の判断
(あ)参考資料11として提出された「試験結果報告書」の上記(18-1)の記載によれば、請求人は、エンペントリン100mgをエタノールに溶かしてパルプ2gに含浸後風乾させており、脱臭効果の測定について、デシケーターの内容積、ガス発生液、ガス検知管、ガス濃度を求めた時間は、本件特許明細書の【0031】に記載されたとおりであるから、同【0031】に記載された方法で試験を行っており、参考資料11の「試験結果報告書」は本件特許明細書に記載されたものに準じた試験条件で測定されたものといえる。
(い)乙第5号証として提出された「試験成績書」の上記(27-1)の記載によれば、被請求人は、脱臭剤に係る試験検体の準備について、エンペントリン14mgをエタノールに溶かして多孔質構造を有する脱臭剤(活性炭、ゼオライト)2.5gに含浸させ風乾させた後不織布製の包装袋に収納しており、これらは本件特許明細書の【0029】に記載されたとおりであり、脱臭効果の測定は、デシケーターの内容積、ガス発生液、ガス検知管、ガス濃度を求めた時間を含め同【0031】に記載されたものと同じであるから、乙第5号証の「試験結果」は本件特許明細書に記載されたものと同じ試験条件で測定されたものといえる。
(う)脱臭率の算出式について、請求人は「ブランクの1時間後の濃度」を使用して計算を行い、被請求人は「補正倍率」を求め「補正初期濃度」を用いて計算を行っている。
しかし、乙第5号証の上記(27-4)に記載されている「補正倍率」及び「補正初期濃度」の定義をみると、「ブランクの1時間後の濃度」と「補正初期濃度」とは実質的に差がないとみることができ、脱臭率の算出式は、請求人のものも被請求人のものも同じである。
(え)請求人の参考資料11の上記(18-2)に記載の「試験結果報告書」の「試験結果」についてみてみると、甲第6号証の1及び2に記載されているように脱臭剤といえる「試験検体A」の「パルプ製板紙」の脱臭率が「担体のみ」のときに「93.7%」であるのに対し、「試験検体D-1及びD-2」の「エンペントリン」と「安息香酸エチル」は、それぞれ、0.9または0%、1.6%または0%である。
(お)被請求人の乙第5号証の上記(27-5)に記載の「試験成績書」の「表1 脱臭効力増強剤の脱臭試験結果(・・・・・・)」についてみてみると、同表に記載の「エンペントリン」を含む脱臭効力増強剤(「d・d-T80-プラレトリン、dl・d-T80-アレスリン、d-T80-フタルスリン、フェノトリン、ベンフルスリン、d-T80-シフェノトリン、フェンプロパトリン、EHDG、流動パラフィン、ビオゾール、ブルー63、トリクロサンとヒノキチオール」)の脱臭率の最大値は7.8%であり、0%のものが6/14を占める。
また、本件特許明細書の【0032】の表1の比較例1の「不織布のみ」、比較例2の「不織布+粒状パルプ」のアンモニアに対する脱臭率は、それぞれ、11.8%、35.6%である。ここで、仮に、粒状パルプのみの脱臭率が35.6-11.8=23.8%とみることとする。
(か)上記(え)に示される請求人の試験結果は、「エンペントリン」と「安息香酸エチル」の脱臭率は、脱臭剤といえる「パルプ製板紙」の脱臭率に比べてかなり低いといえ、この試験結果に接した当業者は、「エンペントリン」と「安息香酸エチル」は「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ものとの教示を得ることは明らかである。
また、上記(お)に示される被請求人の試験結果は、上記脱臭効力増強剤の脱臭率は「粒状パルプ」の3割以下であるから、粒状パルプの脱臭率に比べて低いといえ、この試験結果に接した当業者も、「エンペントリン」、「安息香酸エチル」及び上記脱臭効力増強剤は「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ものとの教示を得ることは明らかである。
(き)さらに、「エンペントリン」に関する試験結果は、脱臭率の数値自体は異なるものの、請求人及び被請求人の試験結果はパルプに比して脱臭率が低いという事実は同じであるから、請求人の安息香酸メチル、及び被請求人の上記脱臭効力増強剤に関する試験結果は、仮に、請求人、被請求人が同様の実験を行えば、エンペントリンと同様にパルプに比して脱臭率が低いという結果を示すものと推察される。
(く)そうすると、「エンペントリン」、「安息香酸エチル」、及び被請求人の「脱臭効力増強剤」の試験結果を鑑みれば、本件発明1の特定事項である「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」とは、その文言どおり「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」と解するべきものである。
(け)ここで、請求人の「親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分」がそれ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」のであれば、「親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分」のパルプへの配合は、パルプ表面における脱臭機能を減殺する要因となるという主張について検討する。
参考資料1の上記(8-2)及び参考資料2の上記(9-1)において、吸着によって脱臭機能効果をもたらす活性炭について、「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」エンペントリンを含浸させた試験結果である、乙第5号証の上記(27-7)の結果をみると含浸するさせたものは含浸していないものよりも脱臭率が低い値を示していることからみて、「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」「親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分」が、表面における脱臭機能を減殺する要因となる、という請求人の上記主張は、吸着によって脱臭機能をもたらす活性炭等においては当てはまるとみることはできる。
しかし、請求人の試験結果を示す参考資料11の上記(18-2)の「A パルプ製板紙」の脱臭率が、「担体のみ」が「93.7%」であるのに対し、「担体+エンペントリン」が「94.6%」、「担体+トリクロサン」が「94.0%」、「担体+NIKKOL BT-5」が「95.9%」、「担体+安息香酸エチル」が「96.4%」であるから、脱臭率は、担体(パルプ製板紙)のみに比して、エンペントリン、トリクロサン、NIKKOL BT-5を含浸させたものは若干ではあるが向上しているみることができる。
また、参考資料15の上記(22-2)の各検体の10分後のアンモニアガス濃度は、検体1)の無処理のもの(パルプのみ)が32ppm、29ppm、検体2)のエンペントリン処理したものが24ppm、25ppm、検体3)のトリクロサン処理したものが24、25ppm、各検体の60分後のアンモニアガス濃度は、検体1)の無処理のもの(パルプのみ)が4ppm、4ppm、検体2)のエンペントリン処理したものが2ppm、3ppm、検体3)のトリクロサン処理したものが3、4ppmであり、脱臭率はエンペントリン及びトリクロサンで処理、すなわち含浸させたものの方が若干ではあるが向上しているとみることができる。
これらの結果は、本件特許明細書の【0032】の表1、及び乙第5号証の上記(27-6)に示される結果ほどに、脱臭率の向上は大きくないにしても、請求人が提出した参考資料11及び15の試験結果においても、パルプに「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分」を含浸させると脱臭率の向上があるとみることができ、パルプは、吸着によって脱臭機能効果をもたらす活性炭等とは異なったメカニズムによって脱臭を行うと推認され、「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分によって脱臭効力を増強させているといえる。そして、このことは、甲第6号証1の上記(5の1-2)の記載である「本発明に基づく原料パルプは分子中に含まれる活性基であるアルデヒド基や小量であるがカルボキシル基により・・・・・・アンモニヤまたは硫化水素と化合しまたはこれらをパルプ本体の上記のような有機化学的構造の反応性に基ずく活性的吸着作用により脱臭することが考えられる。」なる記載からも窺い知ることができる。
(こ)なお、請求人は上申書の9頁において、
(a)参考資料12の上記(19-2)及び(19-3)には、トリクロサンが消臭剤成分として使用されることが開示されていると主張するが、トリクロサンは一般には殺菌剤として認知され、上記(19-1)の記載をみると参考資料12における消臭・防臭成分はフィチン酸金属錯化合物と解され、
(b)参考資料13の上記(20-1)には、ヒノキチオールが防臭機能を発揮することを開示すると主張するが、ヒノキチオールは、抗菌性を有しているものであって、防臭性をもつものとはいえず(要すれば、下記の当審文献1を参照。)、【防臭剤】とは、「悪臭を消す薬剤。木炭・石炭など臭気を吸収するものと、石炭酸・樟脳油・芳香油など強い芳香で臭気を感じにくくさせるものとがある。臭気止め。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」であるから、参考資料13の記載は、ヒノキチオールが木炭に吸着された結果とみることが自然であり、ヒノキチオール自体が防臭性を有しているとはいえず、
請求人の主張は採用できない。

当審文献1:「化学大辞典7」 共立出版株式会社(1997年9月20日)486?487頁、「ヒノキチオール」の項

V-2.無効理由1について
1.本件発明1について
1-1.甲第2号証発明
(あ)甲第2号証の(1-1)における、請求項1を引用する請求項4をさらに引用する請求項6を、独立形式で記載すると、「ファン式拡散装置が、吸気口、通風部、排気口の順に空気が流れる空気流路および送風手段を有し、該空気流路に刺咬行動を抑制する濃度のピレスロイド系化合物を含有した害虫の刺咬行動抑制剤を担持しうる担体を備え、送風手段の作動に伴い空気流路に発生する空気流によって担体に担持される該刺咬行動抑制剤を空気中に拡散させる装置である害虫の刺咬行動を抑制する方法。」であるといえる。
(い)この「害虫の刺咬行動を抑制する方法」における「刺咬行動を抑制する濃度のピレスロイド系化合物を含有した害虫の刺咬行動抑制剤」は、上記(1-3)に例示されるピレスロイド系薬剤の他に、上記(1-4)の記載によれば、「安息香酸エチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、シトロネラ油、レモングラス油」、上記(1-5)の記載によれば、「じゃ香、霊猫香、竜延香、アビエス油、アジョクン油、アルモンド油、アンゲリカルート油、ピネリン、リモネン、リナロール、ゲラニオール、ジトロネロール」、及び、上記(1-7)の記載によれば、「フルオラン類、スピロピラン類」を含有してもよいといえる。
(う)上記「害虫の刺咬行動を抑制する方法」における「担体」として、上記(1-6)の記載によれば、「紙、木材、パルプ」を用いることができ、その形状は同(1-6)の記載によれば、「筒状、ハニカム状、スノコ状、格子状、網状等の構造」であるとみることができるから、担体として「パルプ成形体」が含まれることは明らかである。
(え)上記(あ)?(う)の検討を踏まえ、本願発明1の記載ぶりに則して、甲第2号証の上記(1-1)?(1-7)の記載事項を整理すると、甲第2号証には、
「害虫の刺咬行動抑制剤として、パルプ成形体に担持する、ピレスロイド系化合物の他に、安息香酸エチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、シトロネラ油、レモングラス油、じゃ香、霊猫香、竜延香、アビエス油、アジョクン油、アルモンド油、アンゲリカルート油、ピネリン、リモネン、リナロール、ゲラニオール、ジトロネロール、フルオラン類、スピロピラン類を含んでよい害虫の刺咬行動抑制剤。」の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されているといえる。

1-2.本件発明1と甲第2号証発明との対比・判断
(お)甲第2号証発明の「ピレスロイド系化合物」は、上記(い)で検討したように上記(1-3)に記載される物質であるから、本件特許明細書の【0012】に記載されるものといえ、「ピレスロイド系化合物」は本件発明1でいう「親油性薬剤」と同じ物質である。
(か)甲第2号証発明の「安息香酸エチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、ピネリン、リモネン、リナロール、ゲラニオール、ジトロネロール」は、本件特許明細書の【0020】に記載される人工香料であり、本件特許明細書では「親油性薬剤」とされているから、上記「安息香酸エチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル」も本件発明1でいう「親油性薬剤」と同じ物質である。
(き)甲第2号証発明の「じゃ香、霊猫香、竜延香」及び「シトロネラ油、レモングラス油、アビエス油、アジョクン油、アルモンド油、アンゲリカルート油」は、それぞれ、本件特許明細書の【0020】に記載される動物性香料及び植物性香料であり、本件特許明細書では「親油性薬剤」とされているから、上記「じゃ香、霊猫香、竜延香、シトロネラ油、レモングラス油」も本件発明1でいう「親油性薬剤」と同じ物質である。
(く)甲第2号証発明の「フルオラン類、スピロピラン類」は、本件特許明細書の【0024】の「3-ジエチルアミノ-6,5-ジメチルフルオラン、3-トリメチルインドリノベンゾスピロピラン」等の親油性色素成分を含むものであるから、上記「フルオラン類、スピロピラン類」は本件特許発明1でいう「親油性色素成分」と同じ物質である。
(け)上記(お)?(く)の検討を踏まえると、甲第2号証発明では、「親油性薬剤であるピレスロイド系化合物に、該ピレスロイド系化合物以外の親油性薬剤および親油性色素成分から選ばれる少なくとも1種をさらに含んもでよい」といえ、甲第2号証発明の剤は、本件発明1と「親油性薬剤であるピレスロイド系化合物に、該ピレスロイド系化合物以外の親油性薬剤および親油性色素成分から選ばれる少なくとも1種をさらに含有してもよい」剤である点で共通している。
(こ)本件特許明細書の【0005】に「パルプ成形体等の脱臭機能を有する部材に含浸させると、当該部材の有する脱臭機能が著しく増強される。」との記載をみると、本件発明1の「脱臭効力増強剤」は、パルプ成形体等に含浸させるものといえる。一方、甲第2号証発明の「害虫の刺咬行動抑制剤」は、「パルプ成形体に担持する」ものであるから、両者の剤は、パルプ成形体に含浸させて使用する点において共通している。
(さ)そうすると、両者は、
「親油性薬剤であるピレスロイド系化合物に、該ピレスロイド系化合物以外の親油性薬剤および親油性色素成分から選ばれる少なくとも1種をさらに含有してもよい、パルプ成形体に含浸させて使用する剤。」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点P:「親油性薬剤であるピレスロイド系化合物に、該ピレスロイド系化合物以外の親油性薬剤および親油性色素成分から選ばれる少なくとも1種をさらに含有してよい」剤につき、
本件発明1では、「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分から選ばれる少なくとも1種からなる」「脱臭効力増強剤」であるのに対し、甲第2号証発明では「害虫の刺咬行動抑制剤として、」「ピレスロイド系化合物の他に、安息香酸エチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、シトロネラ油、レモングラス油、じゃ香、霊猫香、竜延香、アビエス油、アジョクン油、アルモンド油、アンゲリカルート油、ピネリン、リモネン、リナロール、ゲラニオール、ジトロネロール、フルオラン類、スピロピラン類を含んでよい害虫の刺咬行動抑制剤」である点
相違点Q:「パルプ成形体に含浸させて使用する」ことにつき、
本件発明1では、「パルプ成形体またはパルプ集合体からなる脱臭剤用」のものであるのに対し、甲第2号証発明は、「パルプ成形体に担持する」ものではあるが、かかる特定を有していない点
これらの相違点について検討する。
・相違点Pについて
(し)まず、「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ことについて、甲第2号証発明をみてみる。
甲第2号証発明において、「害虫の刺咬行動抑制剤」に含まれるものは、
1)ピレスロイド系化合物
2)安息香酸エチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、シトロネラ油、レモングラス油
3)じゃ香、霊猫香、竜延香、アビエス油、アジョクン油、アルモンド油、アンゲリカルート油、ピネリン、リモネン等の炭化水素類、リナロール、ゲラニオール、ジトロネロール
であり、
このうち、1)に記載のものについては、甲第2号証発明では「害虫の刺咬行動抑制剤」成分として用いられているものであり、また、3)に記載のものについては、上記(1-5)に記載されているように、甲第2号証発明において、「香料」成分として使用されているものである。
2)に記載されているものは、甲第2号証には、上記(1-4)に消臭剤および防臭剤として例示されており、消臭・防臭機能を有するとの記載があるようにとれる。しかし、シトロネラ油、レモングラス油は、甲第2号証の【0026】に植物性香料として、安息香酸エチル、フェニル酢酸メチルは同【0027】に人工香料として例示されており、また、フェニル酢酸エチルについては、例えば、当審文献2に香料としての用途のみが示されていることからみて、これら2)に記載されているものは、一般的に香料として用いられるものであって、甲第2号証発明においてはピレスロイド系化合物とともに空気中に存在させるもの(上記(1-2)及び(1-4))といえるから、これら香料成分を空気中に存在させることによりマスキングという消臭・防臭機能が発揮されるとみることができ、しかも、参考資料1の上記(8-1)に記載されている典型的な消臭剤にも該当しないから、上記(1-4)の記載にかかわらず、2)に記載されたものは香料とみることが自然である。そして、このことは、上記V-1において検討したように、安息香酸メチルが脱臭機能を有しないという実験結果から、安息香酸メチル脱臭剤とはいえないものであるから、甲第2号証において、「安息香酸エチル」と同列に記載されている「フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、シトロネラ油、レモングラス油」も脱臭剤といえないと解するのが自然である。
そうすると、甲第2号証発明の「害虫の刺咬行動抑制剤」として含まれるもの、すなわち、「ピレスロイド系化合物の他に、安息香酸エチル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、シトロネラ油、レモングラス油、じゃ香、霊猫香、竜延香、アビエス油、アジョクン油、アルモンド油、アンゲリカルート油、ピネリン、リモネン、リナロール、ゲラニオール、ジトロネロール、フルオラン類、スピロピラン類を含んでよい」ものは、「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ものといえる。

当審文献2:「化学大辞典7」 共立出版株式会社(1997年9月20日)696頁、「フェニルさくさんエチル」の項

なお、請求人が口頭審理陳述要領書(2)の1?2頁において、参考資料10の(17-1)の記載に基づいて、甲第2号証の【0025】に記載の「ラウリル酸メタクリレート、ゲラニルクロトネート」が甲第2号証発明に含まれるとすると、これらは、消臭剤であるから、「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ものとはいえない。

(す)次に、上記(し)の検討を踏まえて、剤の使途についてみてみると、
甲第2号証発明は「害虫の刺咬行動抑制剤」であって、「脱臭効力増強剤」とは技術分野が大きく異なるものであるから、たとえ、この「害虫の刺咬行動抑制剤」が「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ものであったとしても、この「害虫の刺咬行動抑制剤」は、上記(1-2)の記載によれば、「空気中に存在させることで害虫の刺咬行動を抑制」するためのものであって、パルプ成形体に担持されていても、空気中に存在するように志向されているといえ、パルプ成形体の物性に対して何らかの影響を与えるものために担持されているとはみることができないから、「脱臭効力増強剤」とすることはきわめて困難というべきであり、上記相違点Pに係る本件発明1の特定事項を導き出すことはできない。
・相違点Qについて
(せ)まず、甲第2号証発明においてパルプ成形体が脱臭剤として用いられているか否かについてみてみる。
甲第6号証の1及び甲第6号証の2には、パルプ成形体が脱臭剤として使用されていることが記載されている。このことは、本件特許明細書の【0002】にも、参考資料6の2の上記(13の2-1)にも記載されており、被請求人も認めるところである。
まず、上記(1-6)の記載をみてみると、甲第2号証において、薬液の担持体として、パルプの他に、有機高分子物質、昇華性物質、樹脂類、油性溶剤、水性溶剤などが例示されており、また、「上記の各薬剤が担持できるものであれば、何ら制限されるものではない。」との記載をみると、担持体は害虫の刺咬行動抑制剤を担持できるものであれば、パルプ成形体に限ることはなく、しかも、パルプ成形体も害虫の刺咬行動抑制剤を担持すること以外の他の機能を果たすことは何ら求められていないとみることが自然である。
そうすると、たとえ、パルプが脱臭剤として使用されていることが公知であったとしても甲第2号証に接した当業者は、甲第2号証発明において、「親油性薬剤であるピレスロイド系化合物に、該ピレスロイド系化合物以外の親油性薬剤および親油性色素成分から選ばれる少なくとも1種をさらに含有してよい害虫の刺咬行動抑制剤」の担持体としての機能のみが考慮されているパルプ成形体が「脱臭剤」としても用いられているという事項を導き出すことは困難であるというべきである。
(そ)仮に甲第2号証発明においてパルプ成形体が脱臭剤として用いられているとした場合について、さらに検討する。
上記(す)の検討のところで述べたように、甲第2号証発明の「害虫の刺咬行動抑制剤」は、上記(1-2)の記載によれば、パルプ成形体の物性に対して何らかの影響を与えるものために担持されているとはみることができない。
そうすると、この甲第2号証発明のパルプ成形体に担持されている「害虫の刺咬行動抑制剤」をパルプの物性に何らかの影響を与えるための剤として用いることを推考することはきわめて困難といえる。
(た)相違点Qの検討に関するむすび
そうすると、この甲第2号証発明のパルプ成形体に担持されている「害虫の刺咬行動抑制剤」を「パルプ成形体またはパルプ集合体からなる脱臭剤用」として用いることを導出することは当業者であってもきわめて困難といえ、上記相違点Qに係る本件発明1の特定事項を導き出すことはできない。
そして、他の甲各号証及び各参考資料のいずれにも、甲第2号証発明において上記相違点P及びQに係る本件発明1の特定事項を導き出すものは何ら見当たらない 。

なお、請求人は、補正請求書において、
(a)「パルプの脱臭機能が本件特許明細書のように、当然援用できる技術的機能であることを考慮するならば、甲第2号証に記載の発明においても、本件発明の場合と同じように、採用し得ることに変わりのない」旨及び「甲第2号証に記載の発明において、甲第6号証の1、2のごとき公知又は周知技術に立脚して、パルプ成形体を脱臭剤として使用することは、当業者において容易に想到しうるところであり、しかも刺咬行動抑制という本来の目的効果と何ら矛盾関係にない」旨(15頁)、
(b)「参考資料5の上記(12-1)?(12-3)の記載によれば、甲第5号証の実施例等に記載されているTergitol 15-S-5という名称のHLB値が10.6である界面活性剤は、甲第2号証の【0024】に記載の「非イオン型ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系化合物」であり、また、Span 80というHLB値が4.3である界面活性剤は、Sorbitan Oleateといい、さらに、Tween 81というHLB値が10である界面活性剤は、Polysorbateというから、これら3の界面活性剤は、甲第2号証の【0023】のエステル化合物に該当し、技術慣習上脱臭剤として評価されていないものであるから、甲第2号証の溶剤として採用し、かつパルプに配合することによって、本件発明1を容易に想到しうる」旨(21頁)、
(c)「参考資料4の上記(11-1)?(11-2)の記載によれば、臭い物質の多くはアミノ酸が分解したものであり、また、参考資料3では、親油性の吸着材によって臭気を吸着していることからみて、甲第2号証の【0025】に記載されているシトロネラ油、レモングラス油等と同じ親油性である同【0027】に記載の人工香料もパルプの脱臭機能を増強するものである」旨(19頁)を主張するが、
(a)については、請求人は、パルプが脱臭剤として使用されていることが公知あることを主張するだけであって、いかなる理由により甲第2号証において担持体としての機能のみが考慮されているパルプ成形体が脱臭機能を発揮しているという事項を導き出し得るのかを何ら示していないし、
(c)については、シトロネラ油、レモングラス油等がパルプの脱臭機能を増強することを前提する主張であるから、かかる主張は上記相違点Pの検討のところで述べたように採用できないものである。(b)については、「E.無効理由4についての」ところで述べる。
よって、本件発明1は、甲第2号証、甲第5号証、及び甲第6号証の1、2に記載された発明に基づいて容易発明をすることができたものとはいえない。

2.本件発明2及び5について
本件発明2及び5は、本件発明1の特定事項をすべて含むものであるから、上記本件発明1の検討のところで述べたものと同じ理由により、甲第2号証、甲第5号証、及び甲第6号証の1、2を含む甲各号証及び各参考文献に記載された発明に基づいて容易発明をすることができたものとはいえない。

V-3.無効理由2について
1.本件発明1について
1-1.甲第3号証発明
(あ)甲第3号証の上記(2-1)の「非水性の揮散性薬剤」とは、上記(2-3)の記載によれば、「エンペントリン、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フマル酸ジエチル、N,N-ジエチル-m-トルアミド、安息香酸エチル、サフロール、イソサフロール、オイゲノール、シトロネロール、アネトール、l-カルボン、シトラール、シトロネラール、ネロール、酢酸リナリル、アセトフエノン、テルピネオール、メントン、安息香酸ベンジル、フエニル酢酸エチル、酢酸イソアミル、ユーカリプトール、防虫・防黴剤」であり、これらは、「単独で使用してもよく、あるいは2種以上を併用してもよい」ものといえる。
(い)甲第3号証の上記(2-1)の「非水性の揮散性溶剤」とは、上記(2-6)の記載によれば、「アルコール類」であり、同「非水系で電子供与性の有る呈色性有機化合物」とは、上記(2-4)の記載によれば「フルオラン類、1、3、3-トリメチルインドリノ-2,2′-スピロ-6′-ニトロ-8′-メトキシベンゾピラン、1、3、3-トリメチルインドリノ-7′-クロル-β-ナフトスピロピラン」であり、同「非水系で電子受容性の有る顕色剤」とは、上記(2-5)の記載によれば、「サリチル酸フェニル」であるといえる。
(う)甲第3号証の上記(2-1)の「薬効指示性薬剤保持体」とは、上記(2-7)の記載によれば、「パルプ」であり、「マット状、シート状、フィルム状、ゲル状、粉状、粒状、打錠形など任意の剤型で使用できる。」から、「パルプ成形体」といえる。
(え)上記(2-1)の「薬効指示性薬剤保持体」は「非水性の揮散性薬剤と非水性の揮散性溶剤と非水系で電子供与性の有る呈色性有機化合物と、非水系で電子受容性の有る顕色剤の四成分を含有する組成物であって、非水性の揮散性薬剤と非水性の揮散性溶剤の揮散性がほぼ同程度であり、かつ、当該薬剤と溶剤の両方あるいは、いずれか一方が減感性のものである薬効指示性組成物を、保持体に含浸、塗布もしくは保持させてなる」ものであるから、これを言い換えると、「薬効指示性薬剤保持体に、非水性の揮散性薬剤と非水性の揮散性溶剤と非水系で電子供与性の有る呈色性有機化合物と、非水系で電子受容性の有る顕色剤の四成分を含有する組成物であって、非水性の揮散性薬剤と非水性の揮散性溶剤の揮散性がほぼ同程度であり、かつ、当該薬剤と溶剤の両方あるいは、いずれか一方が減感性のものである薬効指示性組成物を、保持体に含浸、塗布もしくは保持させた」薬効指示性組成物とみることができる。
(お)上記(あ)?(え)の検討を踏まえ、上記(2-1)?(2-7)の事項を本件発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第3号証には、
「パルプ成形体に含浸、塗布もしくは保持させてなる、
エンペントリン、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フマル酸ジエチル、N,N-ジエチル-m-トルアミド、安息香酸エチル、サフロール、イソサフロール、オイゲノール、シトロネロール、アネトール、l-カルボン、シトラール、シトロネラール、ネロール、酢酸リナリル、アセトフエノン、テルピネオール、メントン、安息香酸ベンジル、フエニル酢酸エチル、酢酸イソアミル、ユーカリプトール、防虫・防黴剤の中から選択される少なくとも1種と、
アルコール類と、
フルオラン類、1、3、3-トリメチルインドリノ-2,2′-スピロ-6′-ニトロ-8′-メトキシベンゾピラン、1、3、3-トリメチルインドリノ-7′-クロル-β-ナフトスピロピランの中から選択される1種と、
サリチル酸フェニルの
四成分を含有する組成物であって、非水性の揮散性薬剤と非水性の揮散性溶剤の揮散性がほぼ同程度であり、かつ、当該薬剤と溶剤の両方あるいは、いずれか一方が減感性のものである薬効指示性組成物。」の発明(以下、「甲第3号証発明」という。)が記載されているといえる。

1-2.本件発明1と甲第3号証発明との対比・判断
(か)甲第3号証発明の「エンペントリン」は、本件特許明細書の【0012】に記載されており、この「エンペントリン」は本件発明1でいう「親油性薬剤」と同じ物質である。
(き)甲第3号証発明の「フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フマル酸ジエチル、N,N-ジエチル-m-トルアミド、安息香酸エチル、サフロール、イソサフロール、オイゲノール、シトロネロール、アネトール、l-カルボン」は、本件特許明細書の【0017】に記載されており、これらは本件発明1でいう「親油性薬剤」と同じ物質である。
(く)甲第3号証発明の「シトラール、シトロネラール、ネロール、酢酸リナリル、アセトフエノン、テルピネオール、メントン、安息香酸ベンジル、フエニル酢酸エチル、酢酸イソアミル、ユーカリプトール」は、本件特許明細書の【0020】に記載されており、これらは本件発明1でいう「親油性薬剤」と同じ物質である。
(け)甲第3号証発明の「防虫・防黴剤」は、本件特許明細書の【0018】に記載されており、これらは本件発明1でいう「親油性薬剤」と同じ物質である。
(こ)甲第3号証発明の「フルオラン類、1、3、3-トリメチルインドリノ-2,2′-スピロ-6′-ニトロ-8′-メトキシベンゾピラン、1、3、3-トリメチルインドリノ-7′-クロル-β-ナフトスピロピラン」は、本件特許明細書の【0024】に記載されており、これらは本件発明1でいう「親油性色素成分」と同じ物質である。
(さ)甲第3号証発明の「サリチル酸フェニル」は、本件特許明細書の【0018】に記載されており、これらは本件発明1でいう「親油性薬剤」と同じ物質である。
(し)本件特許明細書の【0029】には、「実施例1
粒径3?5mmの粒状パルプ2.5gに対して、下記に示す防虫剤組成物のエタノール溶液を含浸させた。」との記載がなされているから、本件特許発明1の脱臭効力増強剤は特定事項として記載されていないが、エタノール溶液を溶媒とすることを含むといえるから、甲第3号証発明の「アルコール類」は、この溶媒に相当するものといえる。
(す)上記(か)?(し)の検討を踏まえると、甲第3号証発明では、親油性薬剤と親油性色素成分を含んでいるから、本件発明1と親油性薬剤と親油性色素成分とからなる点で共通している。
(せ)甲第3号証発明の「薬効指示性組成物」は、本件発明1の「脱臭効力増強剤」と「剤」である点で共通している。
(そ)本件特許明細書の【0005】に「パルプ成形体等の脱臭機能を有する部材に含浸させると、当該部材の有する脱臭機能が著しく増強される。」との記載をみると、本件発明1の「脱臭効力増強剤」は、パルプ成形体等に含浸させるものといえる。一方、甲第3号証発明の「薬効指示性組成物」は、「パルプに含浸、塗布もしくは保持させてなる」ものであるから、両者の剤は、パルプ成形体に含浸させて使用する点において共通している。
上記(か)?(そ)の検討を踏まえると、両者は、
「親油性薬剤および親油性色素成分をパルプ成形体に含浸させて使用する剤。」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点R:「親油性薬剤および親油性色素成分からなる剤」につき、本件発明1では、「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない親油性薬剤、油状液体および親油性色素成分から選ばれる少なくとも1種からなる」「脱臭効力増強剤」であるのに対し、甲第3号証発明では、「エンペントリン、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フマル酸ジエチル、N,N-ジエチル-m-トルアミド、安息香酸エチル、サフロール、イソサフロール、オイゲノール、シトロネロール、アネトール、l-カルボン、シトラール、シトロネラール、ネロール、酢酸リナリル、アセトフエノン、テルピネオール、メントン、安息香酸ベンジル、フエニル酢酸エチル、酢酸イソアミル、ユーカリプトール、防虫・防黴剤の中から選択される少なくとも1種と、アルコール類と、フルオラン類、1、3、3-トリメチルインドリノ-2,2′-スピロ-6′-ニトロ-8′-メトキシベンゾピラン、1、3、3-トリメチルインドリノ-7′-クロル-β-ナフトスピロピランの中から選択される1種と、サリチル酸フェニルの
四成分を含有する組成物であって、非水性の揮散性薬剤と非水性の揮散性溶剤の揮散性がほぼ同程度であり、かつ、当該薬剤と溶剤の両方あるいは、いずれか一方が減感性のものである薬効指示性組成物」である点。
相違点S:「パルプ成形体に含浸させる」につき、本件発明1では、「パルプ成形体またはパルプ集合体からなる脱臭剤用」のものであるのに対し、甲第3号証発明では、「パルプ成形体に含浸、塗布もしくは保持させてなる」ものではあるが、かかる特定を有していない点
これらの相違点について検討する。
・相違点Rについて
(た)まず、「薬効指示性組成物」が「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ことについて、甲第3号証発明をみてみる。
甲第3号証発明の「薬効指示性組成物」である「エンペントリン、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フマル酸ジエチル、N,N-ジエチル-m-トルアミド、安息香酸エチル、サフロール、イソサフロール、オイゲノール、シトロネロール、アネトール、l-カルボン、シトラール、シトロネラール、ネロール、酢酸リナリル、アセトフエノン、テルピネオール、メントン、安息香酸ベンジル、フエニル酢酸エチル、酢酸イソアミル、ユーカリプトール、防虫・防黴剤、サリチル酸フェニル」、同「親油性色素成分」である「フルオラン類、1、3、3-トリメチルインドリノ-2,2′-スピロ-6′-ニトロ-8′-メトキシベンゾピラン、1、3、3-トリメチルインドリノ-7′-クロル-β-ナフトスピロピラン」は、通常、脱臭機能を有するものとは認識されておらず、しかも、参考資料1の上記(8-1)に記載されている典型的な消臭剤にも該当しない。
そうすると、甲第3号証発明の「薬効指示性組成物」として含まれるものは、「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない親油性薬剤、親油性色素成分」といえる。
(ち)次に、この検討を踏まえて、剤の使途ついて検討する。
甲第3号証発明は「薬効指示性組成物」であって、「脱臭効力増強剤」とは技術分野が大きく異なるものであるから、たとえ、この「薬効指示性組成物」が「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ものであったとしても「脱臭効力増強剤」とすることはきわめて困難というべきであり、上記相違点Rに係る本件発明1の特定事項を導き出すことはできない。
・相違点Sについて
(つ)上記V-2.の無効理由1の検討のところでも述べたように、甲第6号証の1及び甲第6号証の2には、パルプ成形体が脱臭剤として使用されていることが記載されている。このことは、本件特許明細書の【0002】にも、参考資料6の2の上記(13の2-1)にも記載されており、被請求人も認めるところである。
(て)そこで、上記(2-7)の記載をみてみると、甲第3号証において、保持体として、パルプの他に、無機高分子物質、無機多孔質物質、有機高分子物質、ゲル化物質、昇華性物質が示されており、「薬剤組成物を安定に保持することができ、色変が視覚的に判定できるものであれば何でもよ」いとの記載をみると、保持体は薬剤組成物、すなわち、薬効指示性組成物を安定に保持することができ、色変が視覚的に判定できるものであればパルプ成形体に限ることはなく、しかも、パルプ成形体も薬剤指示性組成物を保持すること以外の他の機能を果たすことは何ら求められていないとみることが自然である。
(と)そうすると、たとえ、パルプが脱臭剤として使用されていることが公知であったとしても甲第3号証に接した当業者は、甲第3号証発明において、「薬効指示性組成物」の保持体としての機能のみが考慮されているパルプ成形体が脱臭剤としても用いられているという事項を導き出すことは困難であるというべきである。
(な)もし、仮に、パルプ成形体が脱臭剤として用いられているとしても、甲第3号証発明の薬剤指示性組成物は、上記(2-2)の記載から明らかなように、「非水性の揮散性薬剤」と「非水性の揮散性溶剤」は揮散し、「非水系で電子供与性の有る呈色性有機化合物」と「非水系で電子受容性の有る顕色剤」とは反応して呈色するものであるから、この「薬剤指示性組成物」をパルプの物性に何らかの影響を与えるための剤として用いることを推考することはきわめて困難といえる。
そして、他の甲各号証及び各参考資料のいずれにも、甲第3号証発明において上記相違点R及びSに係る本件発明1の特定事項を導き出すものは何ら見当たらない 。

なお、請求人は、補正請求書において
(a)「甲第3号証に記載の発明の呈色変化において、薬効の中間点及び終点を認知する目的効果と、パルプ自体が脱臭機能を有するという技術的前提を採用し、かつ甲第6号証の1、2に示されているパルプの脱臭機能を発揮させるという周知又は公知の技術的事項を立脚することとの間には、何ら矛盾関係がなく、甲第3号証に記載の発明は脱臭機能も兼有してしている」旨(25頁)、
(b)「甲第3号証の【0019】に記載されている安息香酸エチル、参考資料7の(14-2)によれば有機溶媒に可溶で水に不溶であるサフロール、フェニル酢酸エチル(これらはリンターマット、すなわち、参考資料8の上記(15-1)に照らせば、平均3?5mmの天然繊維に配合している)はパルプに配合した場合に、比表面積の増大によって脱臭能力向上を発揮する」旨(27頁)、
(c)「甲第5号証に記載の揮発性溶剤として、Tergitol 15-S-5をエーテル類、Span 80及びTween 81をエステル類として選択したうえで、パルプ成形体に配合した場合には、安息香酸エチル、サフロール、フェニル酢酸エチルと同様に比表面積の増大によって脱臭能力向上を発揮することは当業者が容易に想到し得る」旨(29頁)を主張するが、
(a)については、請求人は、パルプが脱臭剤として使用されていることが公知あることを主張するだけあり、(b)及び(c)の主張を鑑みても、いかなる理由により甲第3号証において保持体としての機能のみが考慮されているパルプ成形体が脱臭機能を発揮しているという事項を導き出し得るのかを何ら示していないから、これら主張を採用することはできない。

2.本件発明2及び5について
本件発明2及び5は、本件発明1の特定事項をすべて含むものであるから、上記本件発明1の検討のところで述べたものと同じ理由により、甲第3号証、甲第5号証、及び甲第6号証の1、2を含む甲各号証及び各参考文献に記載された発明に基づいて容易発明をすることができたものとはいえない。

V-4.無効理由3について
1.本件発明1について
1-1.甲第4号証発明
甲第4号証の(3-1)には、「パルプ製マットを支持体とし、このマットにイソチオシアン酸アリルおよび/またはイソチオシアン酸アリルを含有するアブラナ科植物の油溶性抽出物を単独に、あるいは油脂および/またはエタノールに溶解して添着することにより構成された消臭剤」が記載されているから、甲第4号証には、
「パルプ製マットを支持体とし、このマットにイソチオシアン酸アリルを油脂および/またはエタノールに溶解して添着することにより構成された消臭剤。」の発明(以下、「甲第4号証発明」という。)が記載されているといえる。

1-2.本件発明1と甲第4号証発明との対比・判断
(あ)甲第4号証発明のイソチオシアン酸アリルは、油脂および/またはエタノールに溶解しているから本件発明1の「親油性薬剤」といえ(このことは、参考資料7の(14-1)の記載からも明らかである)、本件発明1と「親油性薬剤」を含んでいる点で共通している。
(い)甲第4号証発明の「パルプ製マット」は「パルプ成形体」であることは明らかである。
(う)甲第4号証発明の「消臭剤」は、本件発明1の「脱臭効力増強剤」と「剤」である点で共通している。
(え)本件特許明細書の【0005】に「パルプ成形体等の脱臭機能を有する部材に含浸させると、当該部材の有する脱臭機能が著しく増強される。」との記載をみると、本件発明1の「脱臭効力増強剤」は、パルプ成形体等に含浸させるものといえる。一方、甲第4号証発明の「添着」は「含浸」と同じとみることができるから、両者の剤は、パルプ成形体に含浸させて使用する点において共通している。
(お)上記(あ)?(え)の検討を踏まえると、両者は、
「親油性薬剤であって、パルプ成形体に含浸させて使用する剤。」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点T:剤が、本件発明1では、「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しないパルプ成形体またはパルプ集合体からなる脱臭剤用の脱臭効力増強剤」であるのに対し、甲第4号証発明では、「消臭剤」である点。
そこで、この相違点Tについて検討する。
甲第4号証において、パルプ製マットは、イソチオシアン酸アリルを油脂および/またはエタノールに溶解して添着するための支持体として用いられているものであり、消臭剤として用いられるものでないことは明らかであるから、甲第4号証発明の消臭剤は、「パルプ成形体またはパルプ集合体からなる脱臭剤用の脱臭効力増強剤」とはいえないものである。そして、仮に、上記パルプ製マットが消臭剤として用いられているとしても、甲第4号証の上記(3-2)には、「イソチオシアン酸アリル・・・・・・は、・・・・・・臭気を中和するとともに、有機物の腐敗に起因する臭気発生源については腐敗を惹起している微生物を殺菌してしまい根本的に不快臭を除去することができる。」と記載されており、イソチオシアン酸アリルが脱臭剤であることが明記されており、甲第4号証発明の消臭剤は「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ものではないことは明らかである。
そして、他の甲各号証及び他の各参考文献にも、甲第4号証発明の消臭剤が「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ものであるとする事項を導き出すものは見当たらない。
以上より、甲第4号証発明のパルプ製マットに添着されている「消臭剤」をパルプの脱臭効力の増強させる剤として用いることを導出することは当業者であってもきわめて困難といえ、上記相違点Tに係る本件発明1の特定事項を導き出すことはできない。

なお、請求人は補正請求書の31頁において「イソチオシアン酸アリル」について、甲第4号証の上記(3-2)に「爽快な芳香を示し、かつ本来食品であることから健康上にも害が無く単独でも相当長期にわたり実用効果がある」と記載されていることをもって、イソチオシアン酸アリルが決して技術慣習上の典型的な脱臭剤として評価されておらず、脱臭機能不存在要件(「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しないものであること」)を有する旨を主張するが、同(3-2)には、請求人が摘示した箇所の後に「臭気を中和するとともに、有機物の腐敗に起因する臭気発生源については腐敗を惹起している微生物を殺菌してしまい根本的に不快臭を除去することができる。」と記載され、脱臭剤であることが明記されているし、脱臭剤であることは周知(要すれば乙第1号証の上記(42-1)及び乙第2号証の上記(43-1)?(43-3)の記載)ともいえるから、この主張は採用できない。
さらに、請求人は補正請求書の32?33頁及び上申書31頁において、「参考資料9の1?18及び参考資料14の記載をもとに、多くの殺菌剤又は抗菌剤は脱臭機能を有しており(当審注:参考資料9の1?18のすべてが殺菌剤又は抗菌剤は脱臭機能を有していることを示していないし、参考資料14は、上記(21-1)の記載によれば、脱臭、消臭、防臭のいずれかを含んでいる特許公報が149件見つかったことを示すのみであって、防黴と脱臭、消臭、防臭を兼用することに関する特許文献が149件見つかったことを示してはいない。)、親水性によるパルプに親油性である殺菌剤であるイソチオシアン酸アリルを配合することによって脱臭機能を増強させることは当業者が容易に想到し得るから、甲第2号証の【0025】に記載の殺菌剤を脱臭効力増強機能を有する親油性薬剤として採用し得る」旨を主張しているが、かかる主張の前提は甲第4号証に記載のパルプ製マットが脱臭剤として用いられるということであり、この前提が成り立たないことは上記相違点T検討のところで述べたとおりであって、この主張も採用できない。

なお、請求人は補正前の審判請求書の21頁において、「甲第4号証に記載の発明と甲第2号証に記載の発明又は甲第3号証に記載の発明との結合の場合には、客観的に脱臭効力増強機能を有する親油性薬剤、前記親油性薬剤+油状液体、前記親油性薬剤+親油性色素成分、前記親油性薬剤+油状液体+親油性色素成分の何れかを配合した構成を明らかに示唆している」旨を主張しているが、甲第4号証に記載の発明は「消臭剤」に係るものであり、甲第2号証に記載の発明は「害虫の刺咬行動抑制剤および害虫の刺咬行動を抑制する方法」に係るものであり、また、甲第3号証に記載の発明は「薬効指示性組成物及び薬効指示性薬剤保持体」に係るものであるから、これら発明は技術分野も構成も異なるものであって、これらを結合する動機付けは何ら見当たらない。

2.本件発明2及び5について
本件発明2及び5は、本件発明1の特定事項をすべて含むものであるから、上記本件発明1の検討のところで述べたものと同じ理由により、甲第2?6号証、及び甲第6号証の1、2を含む甲各号証及び各参考文献に記載された発明に基づいて容易発明をすることができたものとはいえない。

V-5.無効理由4について
1.本件発明1について
1-1.甲第5号証発明
(あ)甲第5号証の上記(4-1)の請求項18の記載を独立形式に改めると、
「体液吸収用使い捨て吸収性製品であって、
吸収構造の重量を基準として、約30?約100 重量%の溶液重合した水膨潤性水不溶性吸収材料及び木材パルプフラッフを含む吸収構造、ここで該吸収材料の少なくとも約2%の粒度が約200 マイクロメーターより小さいこと、
該吸収構造の表面層を少なくとも一部被覆する被覆材料、
親水性/親油性バランスが約12より小さい界面活性剤の有効量、ここで該界面活性剤は尿の臭気を減少するのに有効であること、を含む上記吸収性製品」といえ、この「親水性/親油性バランス」は、上記(4-2)のHLBに他ならない。
(い)甲第5号証の上記(4-5)の「木材パルプフラッフ(・・・・・・) 及び水膨潤性、一般的に水不溶性吸収材料を含む吸収構造を、木材パルプフラッフ及び吸収材料が90/10 重量比である混合物をエアレイ(・・・・・・) することにより製造した。エアレイしたバットを切り、6 ×6 インチ(・・・・・・) の大きさのサンプルにした。・・・・・・界面活性剤を、エチルアルコールにTergitol 15-S-5 を10重量%含む溶液を形成することによりバットに施した。その後、エチルアルコールにTergitol 15-S-5 を含む溶液を、様々な量においてバットに噴霧した。」との記載をみると、(あ)で検討した「吸収性製品」の「吸収構造」は、上記「エアレイしたバット」であり、このバットにTergitol 15-S-5 を施しており、甲第5号証の上記(4-4)の表1の記載をみると、このTergitol 15-S-5は請求項18の界面活性剤に含まれるものであるから、(あ)で検討した「吸収性製品」の「被覆材料」とは「界面活性剤」といえ、「エアレイしたバット」には「木材パルプフラッフ」が含まれているから、この「木材パルプフラッフ」にこの「界面活性剤」が含浸されているとみることができる。
(う)上記(あ)及び(い)の検討を踏まえ、甲第5号証の上記(4-1)?(4-5)の記載を本件発明1の記載ぶりに則して整理すると、
「脱臭剤として、木材パルプフラッフに含浸する、HLBが約12より小さい界面活性剤」の発明(以下、「甲第5号証発明」という。)が記載されているといえる。

1-2.本件発明1と甲第5号証発明との対比・判断
(え)甲第5号証発明の「界面活性剤」は「HLBが約12より小さい」ものであって、甲第5号証の上記(4-2)に「油溶性」と記載され、また、甲第7号証の上記(6-1)には、HLB値が12より小さいものはエマルションとなることが記載され、この「界面活性剤」の一つである甲第5号証の上記(4-4)に記載されている「Tergitol 15-S-5 」は、参考資料5の上記(12-1)に「ポリオキシアルキレンアルキルエーテル化合物」と説明されているから、甲第5号証の「界面活性剤」は本件発明1の「親油性」薬剤に相当する。
(お)甲第5号証発明の「木材パルプフラッフ」は、本件発明1の「パルプ成形体またはパルプ集合体」に相当する。
(か)甲第5号証発明の「界面活性剤」は、本件発明1の「脱臭効力増強剤」と剤である点で共通する。
(き)本件特許明細書の【0005】に「パルプ成形体等の脱臭機能を有する部材に含浸させると、当該部材の有する脱臭機能が著しく増強される。」との記載をみると、本件発明1の「脱臭効力増強剤」は、パルプ成形体等に含浸させるものといえる。一方、甲第5号証発明の「界面活性剤」は、「木材パルプフラッフに含浸する」ものであるから、上記(お)及び(か)の検討結果を併せみると、両者の剤は、パルプ成形体またはパルプ集合体に含浸させて使用する点において共通している。
(く)そうすると、両者は、
「親油性薬剤であって、パルプ成形体またはパルプ集合体に含浸させて使用する剤。」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点U:剤が、本件発明1では、「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」「パルプ成形体またはパルプ集合体からなる脱臭剤用」の「脱臭効力増強剤」であるのに対し、甲第5号証発明では、「木材パルプフラッフに含浸する」「界面活性剤」である点。
そこで、この相違点Uについて検討する。
まず、甲第5号証発明の「界面活性剤」が「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ことについてみてみると、甲第5号証の上記(4-3)の「界面活性剤は、吸収される体液の臭気を減少するのに有効な量で吸収性製品に施される。・・・・・・界面活性剤が臭気を減少するという可能性・・・・・・を見出した。」及び同(4-4)の「HLB が12より低い界面活性剤は尿の臭気を減らすのに効果的である。」との記載をみると、「木材パルプフラッフ」が脱臭機能を有するか否かにかかわらず、甲第5号証発明の「界面活性剤」は、「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ものと扱うことは困難である。
そして、他の甲各号証及び他の各参考文献にも、甲第5号証発明の「界面活性剤」が「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ものであるとする事項を導き出すものは見当たらない。
以上より、甲第5号証発明の木材パルプフラッフに含浸されている「界面活性剤」を「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」パルプの脱臭効力の増強させる剤として用いることを導出することは当業者であってもきわめて困難といえ、上記相違点Uに係る本件発明1の特定事項を導き出すことはできない。

なお、請求人は補正請求書において、
(a)「界面活性剤は本来親油基と親水基を有する点に特徴があり、一般的に脱臭機能を有している訳ではない」ものであり、甲第5号証において「界面活性剤独自の脱臭効果に関する試験は行われていない」し、「甲第5号証の【0027】に「HLBが約12より大きい界面活性剤は、所望の臭気ランキングを一般的に生じない」と記載されているから、界面活性剤が一般的に独自の脱臭機能を発揮している訳でない」といえ、甲第5号証において、界面活性剤自体が脱臭機能を有することを直ちに開示及び示唆している訳でない旨(36?37頁)、
(b)甲第2号証の【0023】、【0024】、甲第3号証の【0030】に示す化合物には、甲第8号証の上記(7-1)?(7-3)の記載によればHLB値が12より小さい界面活性剤が包摂されており(甲第7号証の上記(6-1)の記載によれば、HLB値が7より小さいものは油性溶剤である)、甲第5号証の実施例等に記載されているTergitol 15-S-5、Span 80、Tween 81という界面活性剤を含むものであって、親水性であるパルプよりも、臭気を構成している有機物に対し親和性を有している以上、必然的にパルプが有している脱臭機能を増強するものであり、また、甲第5号証において、実施形態でない3B^(*)、3D^(*)の臭気ランキングをみると、甲第5号証の実施形態に該当しないような界面活性剤であっても、客観的には脱臭効力増強機能を発揮するものである旨(38?40頁)
を主張しているので、検討すると、
(a)については、甲第5号証において、「木材パルプフラッフ」に加えるものは、HLB値が12以下の界面活性剤であって、しかも、この界面活性剤は上述のとおり脱臭機能を有するものであり、甲第5号証は、HLB値が12より大きい界面活性剤を含む脱臭機能を有しない界面活性剤を、「木材パルプフラッフ」に加えることまでを示してはいないし、
(b)については、HLB値が12より小さいTergitol 15-S-5、Span 80、Tween 81なる界面活性剤は、上記(4-4)の記載をみると「それ自体では脱臭機能を有しないか、あるいはごくわずかしか脱臭機能を有しない」ものではなく脱臭機能を有するものといえるから、仮に、甲第5号証に記載されているTergitol 15-S-5、Span 80、Tween 81を甲第2号証または甲第3号証と組み合わせても本件発明1を導き出すことはできないし、また、3B^(*)、3D^(*)の臭気ランキングは、界面活性剤を含まない4A^(*) のものの臭気ランキングより大きいから脱臭機能増強を発揮しているとはいえず、
これらの主張は採用できない。

2.本件発明2及び5について
本件発明2及び5は、本件発明1の特定事項をすべて含むものであるから、上記本件発明1の検討のところで述べたものと同じ理由により、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証、及び甲第6号証の1、2を含む甲各号証及び各参考文献に記載された発明に基づいて容易発明をすることができたものとはいえない。

V-6.まとめ
以上のとおり、本件請求項1、2及び5に係る発明についての特許は、請求人の主張する理由によっては、無効とすることができない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-06 
結審通知日 2010-12-09 
審決日 2010-12-28 
出願番号 特願平10-58246
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 慶子  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 斉藤 信人
大黒 浩之
登録日 2005-12-09 
登録番号 特許第3749785号(P3749785)
発明の名称 脱臭効力増強剤およびこれを用いた脱臭剤  
代理人 赤尾 直人  
代理人 深井 敏和  

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