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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1232425
審判番号 不服2007-34532  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-21 
確定日 2011-02-14 
事件の表示 平成 9年特許願第165232号「固体電解コンデンサの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年12月22日出願公開,特開平10-340831〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成9年6月6日の出願であって,平成18年12月14日付けで拒絶理由が通知され,平成19年2月19日に意見書が提出され,同年5月18日付けで更に拒絶理由が通知され,同年7月23日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年11月21日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年12月21日に審判請求がされるとともに,平成20年1月21日に手続補正書が提出され,その後,平成22年6月3日付けで審尋がされ,同年8月9日に回答書が提出されたものである。

第2 平成20年1月21日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
本件補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容と補正目的の適否
本件補正は,特許請求の範囲についての補正を含むものであるところ,その内容は,補正前の請求項5を削除し,請求項5で規定していた技術的事項(それぞれの熱処理を30分以上施す点)を請求項1に加えてこれを限定し,本件補正後の請求項1とするものである。
したがって,特許請求の範囲についての本件補正は,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項1号(請求項の削除)及び2号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる補正目的に該当する。
そこで,以下,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否か(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項に規定する独立特許要件を満たすものか否か)について検討する。

2 独立特許要件(進歩性)についての検討
(1)本願補正発明
本件補正によれば,特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は,次のとおりである
「エッチングピットを有する陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に3,4-エチレンジオキシチオフェンと溶媒中の酸化剤とを含浸した後,沸点より低い温度での1回目の熱処理による化学重合反応と,沸点より高い温度での化学重合反応との少なくとも2回以上の熱処理による化学重合反応を,それぞれ少なくとも30分以上施すことでポリエチレンジオキシチオフェンを生成する固体電解コンデンサの製造方法。」

(2)引用例1の記載事項と引用発明(下線は当審で付加,以下同じ。)
(2-1)引用例1とその記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平2-159714号公報(以下「引用例1」という。)には,「固体電解コンデンサ」(発明の名称)について,図1?5とともに,次の記載がある。
ア 産業上の利用分野
「この発明は固体電解コンデンサに関し,さらに詳しく言えば,電極箔の巻回体からなるコンデンサ素子を有する固体電解コンデンサに関するものである。」(1頁左欄17?末行)
イ 従来の技術
「第3図にはこの種の固体電解コンデンサに用いられる巻回形のコンデンサ素子1が示されており,第4図にはその横断面が概略的に図解されている。
すなわち,このコンデンサ素子1はアルミニウムなどの弁作用金属からなる一対の電極箔2,3を備えている。各電極箔2,3は例えばエッチング処理され,表面に化成皮膜が形成されたのち,その所定部位に例えばタブ端子形のリード端子4,4がかしめなどにより取付けられる。この各電極箔2,3をセパレータ5を挾んで螺旋状に巻回することにより,コンデンサ素子1が形成され,しかるのちこのコンデンサ素子1に固体電解質が形成される。」(1頁2?14行)
ウ 実施例
「以下,この発明の実施例を第1図および第2図を参照しながら詳細に説明する。なお,これらの図において,さきに説明の第4図と同一の部分には同一の参照符号が付されている。
このコンデンサ素子1′においては,リード端子4,4を同コンデンサ素子1′の巻芯側から見て各電極箔2,3の内面2b,3b側に取付けている。この取付手段としては,それ自体公知のかしめもしくは溶接であってよい。
これによれば,リード端子4は第2図によく示されているように,螺旋状に巻回されるセパレータ5の外面側に配置されることになり,そのエッジがセパレータ5に食い込むおそれはない。
したがって,破損の不安なくセパレータ5を炭化して,同セパレータ5にピロールモノマー液やチオフェンモノマー液あるいはポリフランなどの複素環式ポリマー液などを含浸させ,酸化剤により重合させた導電性高分子からなる固体電解質をより多く含ませることができる。なお,このコンデンサ素子1′は外装ケース内に収納され,ディスクリートタイプもしくはチップタイプに仕上げられる。」(2頁左上欄末行?同左下欄1行)
エ 特許請求の範囲
「(1)リード端子が取付けられた一対の電極箔をセパレータを挟んで巻回したコンデンサ素子を有し,該コンデンサ素子に固体電解質を形成してなる固体電解コンデンサにおいて,
上記リード端子は,上記コンデンサ素子の巻芯側から見て上記電極箔の内面側に取付けられていることを特徴とする固体電解コンデンサ。
(2)上記セパレータは炭化され,それに複素環式化合物のポリマーからなる固体電解質が保持される請求項1記載の固体電解コンデンサ。」(1頁左欄5?14行)

(2-2)引用発明
上記ア?エによれば,引用例1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)
「エッチング処理がされ表面に化成皮膜が形成された金属からなる一対の電極箔2,3をセパレータ5を挟んで螺旋状に巻回したコンデンサ素子1に,ピロールモノマー液やチオフェンモノマー液あるいはポリフランなどの複素環式ポリマー液などを含浸し,酸化剤により重合反応させて,導電性高分子からなる固体電解質を生成する固体電解コンデンサの製造方法。」

(3)引用例2の記載事項とその内容
(3-1)引用例2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平2-15611号公報(以下「引用例2」という。)には,「固体電解質及びそれを含有する固体電解コンデンサー」(発明の名称)について,第1表(6頁左上欄)とともに,次の記載がある。
ア 発明の詳細な説明
・「本発明は電解コンデンサー中の固体電解質としてのある種のポリチオフェンの使用及び固体電解質としてこれらのポリチオフェンを含有する電解コンデンサーに関するものである。」(1頁右下欄10?13行)
・「ここに,特定のチオフェンの酸化重合によって取得することができるポリチオフェンは電解コンデンサー用の固体電解質として特に適していることが見出された。これらの特定のポリチオフェンは,電解コンデンサー中の陽極として用いる金属箔に対して,特に簡単な方法で,伝導率を損なうことなしに密着的に付与することができ,且つ良好な電気的性質,たとえば,高い,実質的に周波数に依存しない容量,によって,且つまた低い誘電損失と低い漏洩電流によって顕著な,コンデンサーを与える。」(2頁左上欄15行?同右上欄5行)
・「本発明に従って使用すべきポリチオフェンは,式
式(II)(略)
のジアルコキシチオフェン及び酸化剤を,好ましくは溶液の形態において,前後して別々に,又は好ましくは一緒に,酸化被覆で被覆してある金属箔の面上に塗被し,且つ,使用する酸化剤の活性に依存して,必要に応じて被覆を加熱することによって酸化重合を完結することによる,式IIの3,4-ジアルコキシ-チオフェンの酸化重合によって,一面上で酸化被覆(たとえば陽極処理した)で被覆してある,陽極として用いる金属箔,好ましくはアルミニウム,ニオブ又はタンタルから成る箔上で,直接に生成せしめる。
本発明に従って使用すべきポリチオフェンの製造に対して必要な式(II)の3,4-ジアルコキシ-チオフェンは,公知であるか又は,3,4-ジヒドロキシ-チオフェン-2,5-ジカルボン酸のアルカリ金属塩を適当なアルキルハロゲン化物又はアルキレンジハロゲン化物と反応させ,次いで遊離の3,4-ジアルコキシ-又は(アルキレン-1,2-ジオキシ)-チオフェン-2,5-ジカルボン酸を脱カルボキシルすることによる,原則として公知の方法によって,収得することができる(たとえば,テトラヒドロン1967,第23巻,2437?2441及びジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサエティー67(1945),2217?2218参照)。
式(II)の3,4-ジアルコキシ-チオフェンの酸化重合は一般に,使用する酸化剤及び望ましい反応時間に依存して,20?+250℃,好ましくは20?200℃の温度において行なう。」(2頁左下欄下から2行?3頁左上欄11行)
・「溶液の塗被後に,簡単な室温における蒸発によって,溶剤を除去することができる。高い加工速度を達成するためには,しかしながら,高い温度で,たとえば20?300℃,好ましくは40?250℃の温度で,溶剤を除去することが一層有利である。高い温度における溶剤の除去は,50?250℃,好ましくは100?200℃の温度における被覆の熱後処理によって,被覆の電気伝導率を,著るしく,すなわち,10倍に至るまで上昇させることができるということが認められているから,さらに一層有利である。熱後処理は直接に溶剤の除去と組合わせてもよいし,あるいは塗被の終了から時間をおいて行なってもよい。
被覆のために用いる重合体の種類に依存して,熱処理は5秒乃至5分間続ける。
熱処理は,たとえば,被覆した金属を,選択した温度において,望ましい滞留時間が達成されるような速度で,望ましい温度の加熱室中を移動させることによって,又は被覆した金属箔を望ましい滞留時間にわたって望ましい温度の熱盤と接触させることによって,行なうことができる。」(4頁右上欄下から3行?同左下欄下から3行)
イ 実施例1
「実施例1
アセトンとイソプロパノールの1:2混合物5g中の2.0gのp-トルエンスルホン酸鉄(III),0.5gの3,4-エチレンジオンキ(審決注:「エチレンジオキシ」の誤記)-チオフェンの溶液約30mg(約60μmの乾燥被覆の厚さに相当)を,組織化(=一面における酸化)が施しであるアルミニウム電極(表面積約1.3×1.3cm^(2))に塗被し,次いで溶剤を室温で定量的に除く。次いでポリチオフェン被覆に導電性の銀から成る接点を付与する。
このようにして取得したコンデンサーの電気的性質[高及び低周波数における容量,tanδ値(誘電変位)及び漏洩電流]を,メツサーズ ゲンラツドによって供給された“デイジタルブリュッケGR1688”測定装置を用いて測定した。実施例後の第1表中にそれらの値を示す。」(4頁右下欄下から3行?5頁左上欄13行)
ウ 実施例5
「実施例5
4gのイソプロパノール中の1.5gのp-トルエンスルホン酸鉄(III)と0.5gの3,4-エチレンジオキシ-チオフェンの溶液を,実施例1と同様にして,組織化が施してあるアルミニウム電極に塗被して,室温で乾燥する。
このようにして得たコンデンサーの電気的性質の数値を第1表中に示す。」(5頁右上欄14行?同左下欄1行)
エ 実施例6
「実施例6
最初に室温で除いた溶剤の残部を被覆フィルムの120℃における5分間の加熱によって除去することを除けば,実施例5に記した手順に従った。
このようにして得たコンデンサーの電気的性質の数値を第1表中に示す。」(5頁左下欄2?7行)

(3-2)引用例2の記載内容
上記アの記載によれば,引用例2には,固体電解質としてポリチオフェンを含有する電解コンデンサの製造方法において,ジアルコキシチオフェンと酸化剤を溶液の形態で金属箔(酸化被覆で被覆してある)の面上に塗被し,酸化重合させることにより,陽極として用いる金属箔上にポリチオフェンを直接に生成させる方法が開示されている。ここにおいて,重合反応は,使用する酸化剤及び望ましい反応時間に依存して20?250℃,好ましくは20?200℃の温度で行われる。
また,上記アの記載によれば,高い温度による熱処理で溶剤を除去することが望ましいこと,さらに,溶剤の除去を,50?250℃,好ましくは100℃?200℃の温度における被覆の熱処理によって,被覆の電気導電率を10倍にまで上昇できることが分かる。この熱後処理は,直接に溶剤の除去と組合わせてもよいし,あるいは塗被の終了から時間をおいて行なってもよいとされている。
上記イ,ウ,エに開示された実施例1,実施例5,実施例6を合わせて読むと(実施例6は実施例5が前提に,実施例5は実施例1が前提となっている),引用例2には,実施例として,イソプロパノール(溶媒)にp-トルエンスルホン酸鉄(酸化剤)と3,4-エチレンジオキシ-チオフェンを加えた溶液を,組織化が施してあるアルミニウム電極に塗被して室温で乾燥し,その後,最初に室温で除いた溶剤の残部を,被覆フィルムの120℃における5分間の加熱によって除去することによる,固体電解コンデンサの製造方法が開示されている。換言すれば,引用例2には,「溶媒(イソプロパノール)中に3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤を加えた溶液を金属箔(組織化が施してあるアルムニウム電極)上に塗被した後,常温により化学重合反応をさせる工程と,その後の比較的高温での熱処理(具体的には120℃の温度で5分間)により最初に室温で除いた溶剤の残部を除去する工程により,ポリエチレンジオキシチオフェンを生成する固体電解コンデンサの製造方法」が開示されているといえる。
そして,上記アの記載から,上記の製造方法によれば,固体電解質であるポリチオフェンが,電解コンデンサー中の陽極金属箔に簡単に伝導率を損なうことなく密着的に付与され,その結果,高く実質的に周波数に依存しない容量と低い誘電損失と低い漏洩電流を有するコンデンサが得られることが分かる。

(4)対比
(4-1)本願補正発明と引用発明と再掲すると,次のとおりである。
ア 本願補正発明
「エッチングピットを有する陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に3,4-エチレンジオキシチオフェンと溶媒中の酸化剤とを含浸した後,沸点より低い温度での1回目の熱処理による化学重合反応と,沸点より高い温度での化学重合反応との少なくとも2回以上の熱処理による化学重合反応を,それぞれ少なくとも30分以上施すことでポリエチレンジオキシチオフェンを生成する固体電解コンデンサの製造方法。」
イ 引用発明
「エッチング処理がされ表面に化成皮膜が形成された金属からなる一対の電極箔2,3をセパレータ5を挟んで螺旋状に巻回したコンデンサ素子1に,ビロールモノマー液やチオフェンモノマー液あるいはポリフランなどの複素環式ポリマー液などを含浸し,酸化剤により化学重合反応させて,導電性高分子からなる固体電解質を生成する固体電解コンデンサの製造方法。」

(4-2)両者の対応関係
・引用発明の「エッチング処理がされ表面に化成皮膜が形成された金属からなる一対の電極箔2,3」は,本願補正発明の「エッチングピットを有する陽極電極箔と陰極電極箔」に相当する。
・本願補正発明の「ポリエチレンジオキシチオフェン」は,「導電性高分子からなる固体電解質」の一種である。
・引用発明における「ビロールモノマー液やチオフェンモノマー液あるいはポリフランなどの複素環式ポリマー液などを含浸し,酸化剤により重合反応させて,導電性高分子からなる固体電解質を生成する」ことと,本願補正発明における「3,4-エチレンジオキシチオフェンと溶媒中の酸化剤とを含浸した後,沸点より低い温度での1回目の熱処理による化学重合反応と,沸点より高い温度での化学重合反応との少なくとも2回以上の熱処理による化学重合反応を,それぞれ少なくとも30分以上施すことでポリエチレンジオキシチオフェンを生成する」こととは,両者とも,「コンデンサ素子に複素環式ポリマー液を含浸し,酸化剤により化学重合反応させて導電性高分子からなる固体電解質を生成する」点で,共通する。

(4-3)一致点と相違点
以上によれば,本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は,次のとおりである。

〈一致点〉
「エッチングピットを有する陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に複素環式ポリマー液を含浸し,酸化剤により化学重合反応させて導電性高分子からなる固体電解質を生成する固体電解コンデンサの製造方法。」

〈相違点〉
本願補正発明は,コンデンサ素子に「複素環式ポリマー液を含浸し,酸化剤により化学重合反応させて導電性高分子からなる固体電解質を生成する」工程が,「3,4-エチレンジオキシチオフェンと溶媒中の酸化剤とを含浸した後,沸点より低い温度での1回目の熱処理による化学重合反応と,沸点より高い温度での化学重合反応との少なくとも2回以上の熱処理による化学重合反応を,それぞれ少なくとも30分以上施すことでポリエチレンジオキシチオフェンを生成する」ものであるのに対し,引用発明においては,化学重合反応の具体的な工程が教示されていない点。

(5)相違点についての検討
ア 上記(3-2)で認定したように,引用例2には,実施例6として,「溶媒(イソプロパノール)中に3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤を加えた溶液を金属箔(組織化が施してあるアルムニウム電極)上に塗被した後,常温により化学重合反応をさせる工程と,その後の比較的高温での熱処理(具体的には120℃の温度で5分間)により最初に室温で除いた溶剤の残部を除去する工程により,ポリエチレンジオキシチオフェンを生成する固体電解コンデンサの製造方法」が開示されている。
そして,引用例2には,溶剤の除去を,50?250℃,好ましくは100℃?200℃の温度における被覆の熱処理によって,被覆の電気導電率を10倍にまで上昇できることと,及び,この熱後処理は,直接に溶剤の除去と組合わせてもよいし,あるいは塗被の終了から時間をおいて行なってもよいことが記載されているから,上記実施例によれば,比較的高温の熱処理の工程を入れることにより,固体電解コンデンサの電気的特性は大きく改善されることが期待できる。
イ そうすると,引用発明の固体電解コンデンサの製造方法において,コンデンサ素子に「複素環式ポリマー液を含浸し,酸化剤により化学重合反応させて導電性高分子からなる固体電解質を生成する」するための具体的な方法として,引用例2に記載された方法を適用することは,当業者が自然に思いつくことといえる。
ウ もっとも,引用例2の実施例6では,比較的高温の熱処理の時間が5分であるのに対し,本願補正発明では,1回目の熱処理と2回目の熱処理は,それぞれ少なくとも30分以上施すとされている。
しかし,引用例2の実施例6でも,1回目の熱処理は少なくとも30分程度施しているものと考えられる(実際,溶媒は異なるが,引用例2の実施例10では,最初に室温で1時間,ついで60℃で1時間乾燥している(引用例2の5頁左下欄11?17行))。そして,化学重合反応や溶剤の除去に要する時間は,処理温度,使用する溶媒,酸化剤,固体電解コンデンサの構造,どの時点で溶液を金属箔に作用させるかなど,具体的な設計条件に依存して変動するものであることは技術常識である(特に,溶剤の除去に要する温度や時間が,コンデンサの大きさや構造に大きく依存するであろうことは,容易が容易に予測できることである)から,引用例2に開示された方法を具体的に適用するにあたっては,それぞれに好適な範囲を見いだす必要があることも,また,当業者に明らかである。
そうすると,引用発明に引用例2に開示された方法を適用するに際して,1回目の熱処理と2回目の熱処理の時間条件を,それぞれ少なくとも30分以上としてみることは,設計事項といえる。
審判請求人は,1回目の熱処理と2回目の熱処理を,それぞれ少なくとも30分以上施したことによる効果を主張する。しかし,本願明細書の表1は,すべて,溶媒にブタノールを用い,かつ,2つ目の例(1回目の熱処理が30分,2回目の熱処理が1時間)を除き,1回目の熱処理と2回目の熱処理をそれぞれ1時間とした場合の特性であり,少なくとも一方が30分以下の場合や他の溶媒を用いた場合との比較がされていない。しかも,2回目の熱処理の温度は,5つめの例を除き,150℃の場合だけである。加えて,表1において,従来例とされているものは,熱処理温度も熱処理時間もばらばらで,参考にならない。
したがって,本願補正発明において,1回目の熱処理と2回目の熱処理を,それぞれ少なくとも30分以上施したという点に,格別の技術的意義を見いだすことはできない。
エ 本願補正発明は,1回目の熱処理は「沸点より低い温度」で,2回目の熱処理は,「沸点より高い温度で」施すとされているが,引用例2の実施例6で用いられている溶媒(イソプロパノール)の沸点は82.4℃であるから,この条件を満たしている。
オ また,引用例2の実施例6の2回目の熱処理の過程においても,溶媒が残っている間は多かれ少なかれ化学重合反応が生じるものと考えられるから,2回目の熱処理過程における化学重合反応の有無で区別することはできない。このことは,本願明細書の段落【0032】において,「次いで,3,4-エチレンジオキシチオフェンと酸化剤とを含浸したコンデンサ素子10に,60℃で1時間の熱処理を施して化学重合反応を促進させる。この時の熱処理では,緩やかに化学重合反応は進み,陽極電極箔1のエッチングピット8の内部にポリマーであるポリエチレンジオキシチオフェンが生成される。一方,溶媒であるブタノールは完全には除去されず,したがって,以降の熱処理でも化学重合反応は進行することになる。次いで,150℃で1時間の熱処理を施し,化学重合反応を更に促進させて重合度を上げるとともに,溶媒を除去し,残留物による電気的特性への悪影響を排除する。」と記載されており,この点,引用例2の実施例6も同じであることからも,裏付けられる。
カ したがって,相違点に係る構成は,引用発明の固体電解コンデンサの製造方法において,コンデンサ素子に「複素環式ポリマー液を含浸し,酸化剤により化学重合反応させて導電性高分子からなる固体電解質を生成する」するための具体的な方法として,引用例2の記載された方法を適用し,必要な数値範囲の調整をすることにより,当業者が容易に到達し得たもの判断される。

(6)小括
以上のとおり,本願補正発明は,引用発明及び引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,特許出願の際独立して特許を受けることができるものでない。

3 結論
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明
1 以上のとおり,本件補正は却下されたので,本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正前の平成19年7月23日に提出された手続補正書に記載された,次のとおりのものである。
「エッチングピットを有する陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に3,4-エチレンジオキシチオフェンと溶媒中の酸化剤とを含浸した後,沸点より低い温度での1回目の熱処理による化学重合反応と,沸点より高い温度での化学重合反応との少なくとも2回以上の熱処理による化学重合反応でポリエチレンジオキシチオフェンを生成する固体電解コンデンサの製造方法。」

2 引用発明と引用例2の記載内容は,それぞれ,前記第2(2-2)及び(3-2)において認定したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明(本件補正後の請求項1に係る発明)は,本願発明(本件補正前の請求項1に係る発明)の「化学重合反応」について,「それぞれ少なくとも30分以上施すこと」との限定を加えたものである。
そうすると,本願発明の構成をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が引用発明及び引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものなのであるから,本願発明も,引用発明及び引用例2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

4 したがって,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結言
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-03 
結審通知日 2010-12-08 
審決日 2010-12-22 
出願番号 特願平9-165232
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01G)
P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸本 泰広  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 近藤 幸浩
酒井 英夫
発明の名称 固体電解コンデンサの製造方法  

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