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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1232430
審判番号 不服2008-5843  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-07 
確定日 2011-02-14 
事件の表示 特願2000-104782「不飽和単量体の重合方法及びコポリマー」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月13日出願公開、特開2001- 64311〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年4月6日の出願(優先権主張 平成11年4月6日 平成11年6月22日)であって、平成19年10月29日付けで拒絶理由が通知され、同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年1月28日付けで拒絶査定がなされた。それに対して、平成20年3月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年4月2日に手続補正書及び審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年6月17日付けで前置報告がなされ、当審において平成22年6月29日付けで審尋がなされ、同年8月25日に回答書が提出されたものである。


第2.平成20年4月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定
1.補正の却下の決定の結論
平成20年4月2日付けの手続補正を却下する。

2.理由
[1]補正の内容
平成20年4月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を、補正前の
「 【請求項1】 下記一般式〔1〕で表される重合触媒を用いて、炭素数3?20のアクリロニトリル及びそのαまたはβ?置換体およびα、β?ジ置換体、または活性水素を有する不飽和単量体を単独重合、または共重合することを特徴とする重合方法。
【化1】
MR^(1)_(k)R^(3)_(n)Q_(h) 〔1〕
(式中、R^(1)は配位基として1?2置換のアニオン性窒素原子を少なくとも1つ含有するリガンドから選ばれ、R^(3)は水素原子、アルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アリールシリル基のリガンドから選ばれ、Mは周期表第3族から選ばれた金属である。Qはハロゲン原子、または中性の電子供与性配位子から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよい。kは1?4の整数、n及びhは0または1?4の整数である。)
【請求項2】 請求項1において、一般式〔1〕のR^(1)が、一般式〔2〕、一般式〔3〕または一般式〔4〕のいずれかで表されるリガンドである重合触媒を用いることを特徴とする重合方法。
【化3】


(式中、R^(4)は水素原子、アルキル基またはアリール基から選ばれ、R^(5)およびR^(6)はアルキル基、アリール基、アルキルシリル基またはアリールシリル基から選ばれ、X^(1)は炭素原子またはケイ素原子から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよく、iは1?6の整数である。)
【化4】


(式中、R^(7)、R^(8)およびR^(9)はアルキル基、アリール基、アルキルシリル基またはアリールシリル基から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよく、jは0または1?4の整数である。)
【化5】


(式中、R^(10)は水素原子、アルキル基またはアリール基から選ばれ、R^(11)、R^(12)、R^(13)およびR^(14)はアルキル基、アリール基、アルキルシリル基またはアリールシリル基から選ばれ、X^(2)は炭素原子またはケイ素原子から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよく、l、p及びqは、0または1?4の整数である。)
【請求項3】 炭素数3?20のアクリロニトリル及びそのαまたはβ?置換体及びα、β?ジ置換体から選択される不飽和単量体を単独重合、または炭素数3?20のアクリロニトリル及びそのαまたはβ?置換体及びα、β?ジ置換体を少なくとも1つ含む不飽和単量体を共重合することを特徴とする請求項1又は2に記載の重合方法。
【請求項4】 炭素数3?20のアクリルアミド及びそのαまたはβ?置換体およびα、β?ジ置換体から選択される不飽和単量体を単独重合、または炭素数3?20のアクリルアミド及びそのαまたはβ?置換体およびα、β?ジ置換体の少なくとも1つ含む不飽和単量体を共重合することを特徴とする請求項1又は2に記載の重合方法。
【請求項5】 炭素数3?20のアクリルアミド及びそのαまたはβ?置換体及びα、β?ジ置換体の少なくとも1つ含む不飽和単量体と炭素数3?20のアクリロニトリル及びそのαまたはβ?置換体及びα、β?ジ置換体の少なくとも1つ含む不飽和単量体を共重合することによって得られた、ポリマー主鎖にポリアミド結合を有することを特徴とするコポリマー。
【請求項6】 一般式〔1〕において、R^(1)がN-トリメチルシリル-2,6-ジイソプロピルフェニルアミドまたはビス(トリメチルシリル)アミドまたはビス(イソプロピル)アミドであり、kが2、nが0であり、Mがサマリウム、Qがテトラヒドロフラン、hが1または2である重合触媒を用いることを特徴とする請求項3又は4に記載の重合方法。
【請求項7】 一般式〔1〕において、R^(1)がN,N’-ジ(2,6-ジイソプロピルフェニル)-プロピレン-1,3-ジアミド、またはN,N’-ジ(トリメチルシリル)-1,2-フェニレンジアミドである重合触媒を用いることを特徴とする請求項1に記載の重合方法。」から、補正後の
「 【請求項1】 下記一般式〔1〕で表される重合触媒を用いて、炭素数3?20のアクリロニトリル及びそのαまたはβ?置換体およびα、β?ジ置換体、または炭素数3?20のアクリルアミド及びそのαまたはβ?置換体およびα、β?ジ置換体から選択される不飽和単量体を単独重合、または共重合することを特徴とする重合方法。
【化1】
MR^(1)_(k)R^(3)_(n)Q_(h) 〔1〕
(式中、R^(1)はアルキルシリル基または炭化水素基で1?2置換されたアミド、または一般式〔2〕、一般式〔3〕または一般式〔4〕のいずれかで表されるリガンドであり、R^(3)はアルキルシリル基、Mは周期表第3族から選ばれた酸化数2または3の金属であり、Qはエーテルである。kは1?4の整数、n及びhは0または1?4の整数である。)
【化3】


(式中、R^(4)は水素原子、アルキル基またはアリール基から選ばれ、R^(5)およびR^(6)はアルキル基、アリール基、アルキルシリル基またはアリールシリル基から選ばれ、X^(1)は炭素原子またはケイ素原子から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよく、iは1?6の整数である。)
【化4】


(式中、R^(7)、R^(8)およびR^(9)はアルキル基、アリール基、アルキルシリル基またはアリールシリル基から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよく、jは0または1?4の整数である。)
【化5】


(式中、R^(10)は水素原子、アルキル基またはアリール基から選ばれ、R^(11)、R^(12)、R^(13)およびR^(14)はアルキル基、アリール基、アルキルシリル基またはアリールシリル基から選ばれ、X^(2)は炭素原子またはケイ素原子から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよく、l、p及びqは、0または1?4の整数である。)
【請求項2】 炭素数3?20のアクリロニトリル及びそのαまたはβ?置換体及びα、β?ジ置換体から選択される不飽和単量体を単独重合、または炭素数3?20のアクリロニトリル及びそのαまたはβ?置換体及びα、β?ジ置換体を少なくとも1つ含む不飽和単量体を共重合することを特徴とする請求項1に記載の重合方法。
【請求項3】 炭素数3?20のアクリルアミド及びそのαまたはβ?置換体およびα、β?ジ置換体から選択される不飽和単量体を単独重合、または炭素数3?20のアクリルアミド及びそのαまたはβ?置換体およびα、β?ジ置換体の少なくとも1つ含む不飽和単量体を共重合することを特徴とする請求項1に記載の重合方法。
【請求項4】 炭素数3?20のアクリルアミド及びそのαまたはβ?置換体及びα、β?ジ置換体の少なくとも1つ含む不飽和単量体と炭素数3?20のアクリロニトリル及びそのαまたはβ?置換体及びα、β?ジ置換体の少なくとも1つ含む不飽和単量体を共重合することによって得られた、ポリマー主鎖にポリアミド結合を有することを特徴とするコポリマー。
【請求項5】 一般式〔1〕において、R^(1)がN-トリメチルシリル-2,6-ジイソプロピルフェニルアミドまたはビス(トリメチルシリル)アミドまたはビス(イソプロピル)アミドであり、kが2、nが0であり、Mがサマリウム、Qがテトラヒドロフラン、hが1または2である重合触媒を用いることを特徴とする請求項2又は3に記載の重合方法。
【請求項6】 一般式〔1〕において、R^(1)がN,N’-ジ(2,6-ジイソプロピルフェニル)-プロピレン-1,3-ジアミド、またはN,N’-ジ(トリメチルシリル)-1,2-フェニレンジアミドである重合触媒を用いることを特徴とする請求項1に記載の重合方法。」へと補正するものである。

すなわち、本件補正は、補正前の請求項1について以下のとおり補正する補正事項1?5を含むものである。

(補正事項1)
補正前の「活性水素を有する不飽和単量体」を、補正後の「炭素数3?20のアクリルアミド及びそのαまたはβ?置換体およびα、β?ジ置換体から選択される不飽和単量体」に補正する補正事項。

(補正事項2)
R^(1)を、補正前の「配位基として1?2置換のアニオン性窒素原子を少なくとも1つ含有するリガンドから選ばれ」るものから、「アルキルシリル基または炭化水素基で1?2置換されたアミド、または一般式〔2〕、一般式〔3〕または一般式〔4〕のいずれかで表されるリガンド」に補正する補正事項。

(補正事項3)
R^(3)を、補正前の「水素原子、アルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アリールシリル基のリガンドから選ばれ」るものから、補正後の「アルキルシリル基」に補正する補正事項。

(補正事項4)
Mを、補正前の「周期表第3族から選ばれた金属」から、補正後の「周期表第3族から選ばれた酸化数2または3の金属」に補正する補正事項。

(補正事項5)
Qを、補正前の「ハロゲン原子、または中性の電子供与性配位子から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよい」ものから、補正後の「エーテル」に補正する補正事項。

[2]補正の適否
2-1.補正の目的
補正事項1は、「活性水素を有する不飽和単量体」を、具体的に「炭素数3?20のアクリルアミド及びそのαまたはβ?置換体およびα、β?ジ置換体から選択される不飽和単量体」に限定するものである。
したがって、補正事項1は、補正前の請求項1に記載された発明(以下、「補正前発明」という。)の発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)を概念的に下位の発明特定事項に限定するものであり、また、補正前と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではない。
よって、補正事項1は、いわゆる請求項の限定的減縮を目的とするものである。

補正事項2は、「『配位基として1?2置換のアニオン性窒素原子を少なくとも1つ含有するリガンドから選ばれ』るもの」を、具体的に「アルキルシリル基または炭化水素基で1?2置換されたアミド、または一般式〔2〕、一般式〔3〕または一般式〔4〕のいずれかで表されるリガンド」に限定するものである。
したがって、補正事項2は、補正前発明の発明特定事項を概念的に下位の発明特定事項に限定するものであり、また、補正前と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではない。
よって、補正事項2は、いわゆる請求項の限定的減縮を目的とするものである。

補正事項3は、「『水素原子、アルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アリールシリル基のリガンドから選ばれ』るもの」において、「アルキルシリル基」以外の選択肢を削除するものである。
したがって、補正事項3は、補正前発明の発明特定事項を概念的に下位の発明特定事項に限定するものであり、また、補正前と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではない。
よって、補正事項3は、いわゆる請求項の限定的減縮を目的とするものである。

補正事項4は、「周期表第3族から選ばれた金属」を、具体的に「周期表第3族から選ばれた酸化数2または3の金属」に限定するものである。
したがって、補正事項4は、補正前発明の発明特定事項を概念的に下位の発明特定事項に限定するものであり、また、補正前と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではない。
よって、補正事項4は、いわゆる請求項の限定的減縮を目的とするものである。

補正事項5は、「『ハロゲン原子、または中性の電子供与性配位子から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよい』もの」を、具体的に「エーテル」に限定するものである。
したがって、補正事項5は、補正前発明の発明特定事項を概念的に下位の発明特定事項に限定するものであり、また、補正前と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではない。
よって、補正事項5は、いわゆる請求項の限定的減縮を目的とするものである。

したがって、補正事項1?5による補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「特許法」という。)第17条の2第4項第2号の規定に適合する。

2-2.独立特許要件
請求項1についての補正事項1?5は、いわゆる請求項の限定的減縮を目的とするものであるから、本件補正により補正された請求項1に係る発明(以下、「補正後の本願発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(1)補正後の本願発明
補正後の本願発明は、補正後の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】 下記一般式〔1〕で表される重合触媒を用いて、炭素数3?20のアクリロニトリル及びそのαまたはβ?置換体およびα、β?ジ置換体、または炭素数3?20のアクリルアミド及びそのαまたはβ?置換体およびα、β?ジ置換体から選択される不飽和単量体を単独重合、または共重合することを特徴とする重合方法。
【化1】
MR^(1)_(k)R^(3)_(n)Q_(h) 〔1〕
(式中、R^(1)はアルキルシリル基または炭化水素基で1?2置換されたアミド、または一般式〔2〕、一般式〔3〕または一般式〔4〕のいずれかで表されるリガンドであり、R^(3)はアルキルシリル基、Mは周期表第3族から選ばれた酸化数2または3の金属であり、Qはエーテルである。kは1?4の整数、n及びhは0または1?4の整数である。)
【化3】


(式中、R^(4)は水素原子、アルキル基またはアリール基から選ばれ、R^(5)およびR^(6)はアルキル基、アリール基、アルキルシリル基またはアリールシリル基から選ばれ、X^(1)は炭素原子またはケイ素原子から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよく、iは1?6の整数である。)
【化4】


(式中、R^(7)、R^(8)およびR^(9)はアルキル基、アリール基、アルキルシリル基またはアリールシリル基から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよく、jは0または1?4の整数である。)
【化5】


(式中、R^(10)は水素原子、アルキル基またはアリール基から選ばれ、R^(11)、R^(12)、R^(13)およびR^(14)はアルキル基、アリール基、アルキルシリル基またはアリールシリル基から選ばれ、X^(2)は炭素原子またはケイ素原子から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよく、l、p及びqは、0または1?4の整数である。)」

(2)特許法第36条第6項第2号
請求人は、平成19年12月27日に提出された意見書において、以下のとおり主張している。

「4)記載不備(理由3)について
・・・・・・
(5)まず、第3族遷移金属原子Mの酸化数に関して、審査官殿は3価を超えるものは認められないとされておりますが、例えば、セリウムは水溶液中及び固体として安定に存在する4価ランタノイドであることは、一般の教科書等に記載されております。また、アクチノイド系列の元素も4価で安定に存在することが知られております。従って、R^(1)が1個のアニオン性窒素原子を有するリガンドの場合、kは4個までの範囲を取り得るものであります。
また、金属への配位を考える場合、まず酸化数(金属カチオン)と同数のアニオンが必要であり、金属によってはさらに中性の配位子を配位することが可能であります。例えば、サマリウム(Sm)の場合、4配位の錯体を形成しやすいため、酸化数が3価であれば、アニオン性の配位子を3つに中性の配位子が1つ、2価であれば、アニオン性の配位子を2つと中性の配位子2つを有するものとなります。具体的に明細書【0042】の例示では、[TMS_(2)N]_(2)Sm(THF)_(2)は2価のサマリウムに対して1価のR^(1):[TMS_(2)N]が2つと中性の配位子であるQ:THFを2つ有する化合物であり、[TMS_(2)N]_(2)Sm[CH(TMS)_(2)](THF)は、3価のサマリウムに対して1価のR^(1):[TMS_(2)N]が2つと、アニオンの数が足りないのでさらに1価のアニオン性のR^(3):[CH(TMS)_(2)]が1つと中性のQ:THFが1個ついた錯体です。従って、配位子が1価のアニオン性か中性の場合、k+n+h=金属の配位数、R^(1),R^(3),Q(ハロゲンの場合)の和=金属の酸化数となります。一般式〔2〕?〔4〕のように2価のアニオン性配位子の場合、当然、kの取り得る値は半分の1又は2となることは明らかであります。
このように、金属種によって酸化数と配位数は種々異なり、アニオン性または中性の配位子がその金属固有の酸化数と配位数を満たすように組み合わせることは当業者に周知であり、そのうちの最大数を記載しておけば、当業者はその範疇において適宜錯体を選択可能であると思料いたします。」

すなわち、上記主張は、一般式〔1〕において、アニオン性又は中性の配位子は、金属Mの固有の酸化数と配位数を満たすような組み合わせで配位するものであり、かつ、アニオン性配位子は該酸化数を満たすように配位するものであるから、アニオン性及び中性の配位子の個数の最大値が決まれば、当業者は、一般式〔1〕で表される錯体を適宜理解できるというものである。
そこで、上記主張及び本願優先日における技術常識を参酌して、補正後の本願発明における一般式〔1〕について検討する。
一般式〔1〕において、Mの酸化数は「2または3」に特定されている。
そして、Qは、「エーテル」であるから、中性の配位子である。
また、R^(1)は、「アルキルシリル基または炭化水素基で1?2置換されたアミド、または一般式〔2〕、一般式〔3〕または一般式〔4〕のいずれかで表されるリガンド」であるから、1価又は2価のアニオン性配位子である。
また、R^(3)は「アルキルシリル基」であるから、上記主張における「1価のアニオン性のR^(3):[CH(TMS)_(2)]」(当審注:「TMS」は「トリメチルシリル」の略)とは異なる基であり、本願優先日における技術常識を考慮しても、該「アルキルシリル基」がアニオン性配位子であるか否かは明らかでない。
そうすると、仮に、R^(3)がアニオン性配位子でないとすれば、一般式〔1〕中のアニオン性配位子はR^(1)のみであるから、Mの酸化数を満たすR^(1)の個数の最大値は3である。
そして、仮に、R^(3)がアニオン性配位子であるとすると、一般式〔1〕中のアニオン性配位子はR^(1)及びR^(3)であり、R^(3)の個数が0である場合を考慮すると、Mの酸化数を満たすR^(1)の個数の最大値は3である。
したがって、Mの酸化数が「2または3」であることから導き出されるR^(1)の個数の最大値は3である。
一方で、一般式〔1〕において、R^(1)の個数を意味するkは「1?4の整数」に特定されており、その範囲には、上記最大値の3を超える4が含まれている。
したがって、一般式〔1〕は、Mの酸化数の特定とkの特定とが整合していないから、R^(1)がどのように配位するのかが明確に特定されているとはいえない。
そして、上記主張及び本願優先日における技術常識からみて、R^(3)の価数及び個数n並びにQの個数hは、R^(1)の価数及び個数k並びにMの酸化数及び配位数との関係において決まるものと解されるから、一般式〔1〕において、R^(1)がどのように配位するのかが明確に特定されていない以上、R^(3)及びQがどのように配位するのかも明確に特定されているとはいえない。
したがって、当業者は、一般式〔1〕で表される重合触媒を明確に理解できない。
よって、補正後の本願発明は、明確でない。

[3]むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明
上記のとおり、平成20年4月2日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成19年12月27日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】 下記一般式〔1〕で表される重合触媒を用いて、炭素数3?20のアクリロニトリル及びそのαまたはβ?置換体およびα、β?ジ置換体、または活性水素を有する不飽和単量体を単独重合、または共重合することを特徴とする重合方法。
【化1】
MR^(1)_(k)R^(3)_(n)Q_(h) 〔1〕
(式中、R^(1)は配位基として1?2置換のアニオン性窒素原子を少なくとも1つ含有するリガンドから選ばれ、R^(3)は水素原子、アルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アリールシリル基のリガンドから選ばれ、Mは周期表第3族から選ばれた金属である。Qはハロゲン原子、または中性の電子供与性配位子から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよい。kは1?4の整数、n及びhは0または1?4の整数である。)」


第4.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた平成19年10月29日付けの拒絶理由通知書に記載した理由3は、「この出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項第1号または第2号に規定する要件を満たしていない。」というものであり、上記拒絶理由通知書には、以下のとおり記載されている。

「II.理由3について
・・・・・・
(6)遷移金属化合物を使用した重合触媒の技術分野では、触媒成分である遷移金属化合物の中心金属及びその価数、配位子の構造、単量体の種類等の条件が、触媒性能に大きく影響することは、当業者の技術的常識の範疇の事項である。そのため、この分野では、明細書において使用可能な触媒の構成やその他の諸条件について、具体的かつ十分に説明がなされていることが必要である。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明の欄には、アルキルシリル基または炭化水素基のみを置換基に有するアミンと共有結合した第3族遷移金属原子または請求項2に記載の配位子における2つの窒素原子と共有結合した第3族遷移金属原子に、エーテルまたはトリアルキルシリルアルキル基が結合した酸化数が2または3価の遷移金属化合物を用いた場合以外について具体的な実施効果を認識し得る記載はない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の欄及び本願出願時の技術常識を参酌しても、上記第3族の遷移金属化合物を用いて得られた結果をもって、それ以外の窒素原子、硫黄原子、リン原子または酸素原子を少なくとも1つ含有するリガンドが配位子した遷移金属化合物を用いた場合、π電子を有する環状炭化水素のリガンドが配位した遷移金属化合物を用いた場合、ハロゲン原子が配位した遷移金属化合物を用いた場合、酸化数が2または3以外の遷移金属化合物を用いた場合または、全ての不飽和単量体にまで、拡張または一般化できるものとは認められない。
したがって、本願請求項1-10に係る発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の欄の記載内容では、技術的に十分に裏付けられていない。」

そして、平成20年1月28日付け拒絶査定には、以下のとおり記載されている。

「遷移金属化合物を使用した重合触媒の技術分野では、触媒成分である遷移金属化合物の中心金属及びその価数、配位子の構造、単量体の種類等の条件が、触媒性能に大きく影響することは、当業者の技術的常識の範疇の事項である。そのため、この分野では、明細書において使用可能な触媒の構成やその他の諸条件について、具体的かつ十分に説明がなされていることが必要である。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明の欄には、アルキルシリル基または炭化水素基のみを置換基に有するアミンと共有結合した第3族遷移金属原子または請求項2に記載の配位子における2つの窒素原子と共有結合した第3族遷移金属原子に、エーテルまたはトリアルキルシリルアルキル基が結合した酸化数が2または3価の遷移金属化合物を用いた場合以外について具体的な実施効果を認識し得る記載はない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の欄及び本願出願時の技術常識を参酌しても、上記第3族の遷移金属化合物を用いて得られた結果をもって、それ以外の1-2置換のアニオン性窒素原子を少なくとも1つ含有するリガンドを有した遷移金属化合物を用いた場合、酸化数が2または3以外の遷移金属化合物を用いた場合にまで、拡張または一般化できるものとは認められない。
したがって、本願請求項1、3-4に係る発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の欄の記載内容では、技術的に十分に裏付けられていない。」


第5.当審の判断
1.特許法第36条第6項第1号
[1]本願明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の記載
発明の詳細な説明には、以下のとおり記載されている。

摘示ア: 「本発明において一般式〔1〕のR^(1)は、配位基として1?2置換のアニオン性窒素原子を少なくとも1つ含有するリガンドから選ばれる。例えば、アミド、・・・などが挙げられ、アミドとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基またはシクロヘキシル基等の炭素数1?20のアルキル基、・・・またはトリメチルシリル基、ジメチルシリル基、ジメチルエチルシリル基、トリエチルシリル基、シクロヘキシルジメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリメチルシリルメチル基、ビス(トリメチルシリル)メチル基、ジメチルフェニルシリルメチル基等の炭素数1?20のアルキルシリル基・・・から選ばれた1つまたは2つの基で置換された1?2置換アミド、または2つ以上の窒素を含有する架橋されたアミドが挙げられる。
2つ以上の窒素が架橋されたアミドの具体例として、一般式〔1〕におけるR^(1)が、・・・一般式〔3〕・・・で表されるリガンドが挙げられる。
・・・・・・
【化11】


(式中、R^(7)、R^(8)およびR^(9)はアルキル基、アリール基、アルキルシリル基またはアリールシリル基から選ばれ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよく、jは0または1?4の整数である。)
・・・・・・
・・・また、・・・一般式〔3〕におけるR^(7)、R^(8)およびR^(9)・・・としては、例えば、・・・トリメチルシリル基、ジメチルシリル基、ジメチルエチルシリル基、トリエチルシリル基、シクロヘキシルジメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリメチルシリルメチル基、ビス(トリメチルシリル)メチル基、ジメチルフェニルシリルメチル基等の炭素数1?20のアルキルシリル基・・・が挙げられ、これらのうち同一または異なる組合せで選んでもよい。」(段落【0020】?【0028】)

摘示イ: 「実施例1
〔重合触媒の合成〕
(1)触媒A:[((CH_(3))_(3)Si)_(2)N]_(2)Sm(OC_(4)H_(8))_(2)の合成
窒素下、攪拌しながら2価のヨウ化サマリウム(10mmol)のTHF溶液100mlにナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド(20mmol)の20mlのTHF溶液を室温下で滴下し、6時間攪拌した。その溶液から溶媒を留去して、紫色の固体を得た。その固体をペンタンで抽出し、ガラスフィルターで白色沈殿物をろ過した。ろ液を濃縮し、-30℃で一晩冷却し、析出した結晶をろ別し、真空乾燥して 5.4 gの深紫色固体を得た。・・・^(1)H-NMRスペクトル(400MHz,C_(6)D_(6))δ4.42(12H),-0.46(6H)
(2)触媒B:[((CH_(3))_(2)C)_(2)N]_(2)Sm(OC_(4)H_(8))_(2)の合成
窒素下、攪拌しながら2価のヨウ化サマリウム(1mmol)10mlのTHF溶液にカリウムビス(イソプロピル)アミド(2mmol)の2mlのTHF溶液を室温下で滴下し、6時間攪拌した。その溶液から溶媒を留去して、黄色の固体を得た。その固体をペンタンで抽出し、ガラスフィルターで白色沈殿物をろ過した。ろ液を濃縮し、析出した固体を冷ペンタンで洗浄し、真空乾燥して0.43 gの濃黄色の固体を得た。・・・
(3)触媒C:[(2,6-iPrC_(6)H_(3)((CH_(3))_(3)Si)N]_(2)Sm(OC_(4)H_(8))_(2)の合成
窒素下、攪拌しながら2価のヨウ化サマリウム(1mmol)10mlのTHF溶液にカリウムN-トリメチルシリル-2、6-イソプロピルフェニルアミド(2mmol)の固体を-30℃で徐々に加え、室温で8時間攪拌した。その溶液から溶媒を留去して、深緑色の固体を得た。その固体をペンタンで抽出し、ガラスフィルターで白色沈殿物をろ過した。ろ液からペンタンを留去し、ジエチルエーテルから-30℃で再結晶し、ろ別し固体を冷ジエチルエーテルで洗浄し、真空乾燥して0.42 gの深緑色の固体を得た。・・・
実施例2
十分に窒素置換した50 mlのシュレンクフラスコに100 mgのアクリルアミドとトルエン10mlを入れ、実施例1の触媒A10mgを溶解したトルエン溶液を加え、110℃で2時間重合した。メタノール0.5mlを加えて重合を停止した後、アセトンを加え、懸濁しているポリマーをろ別し、塩酸/メタノール、メタノールで良く洗浄し、得られたポリマーを減圧下80℃、6時間乾燥した。得られたポリマーは98 mgであり、35℃ギ酸での比粘度(ηsp/c)(c はギ酸に溶解したポリマー濃度0.1g/dlで測定した)は0.504 dl/g、DSCでのポリマー融点(Tm)は321℃であり、NMRスペクトル分析結果からポリ-β-アラニンであった(図2)。
実施例3
十分に窒素置換した50 mlのシュレンクフラスコに300 mgのメタクリル酸メチルとトルエン5 mlを入れ、実施例1の触媒A8mgを溶解したトルエン溶液を加え、80℃で2時間重合した。メタノール0.5mlを加えて重合を停止した後、塩酸/メタノールに加え、沈殿したポリマーをろ別し、メタノールで良く洗浄し、得られたポリマーを減圧下80℃、6時間乾燥した。得られたポリマーは253 mgであり、ポリスチレン標準で重量平均分子量(Mw)は13000であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.51であった。DSCでのポリマーのガラス転移点(Tg)は93℃であった。
実施例4
実施例2に於いて触媒A10 mgに代わって触媒B15 mgを使用した以外は実施例2と同様にアクリルアミドの重合を行った。得られたポリマーは85 mgであり、ηsp/c=0.275 dl/g、Tm=314℃であり、NMR分析結果からポリ-β-アラニンであった。
実施例5
実施例2に於いて触媒A10 mgに代わって触媒Cを15 mg使用した以外は実施例2と同様にアクリルアミドの重合を行った。得られたポリマーは95 mgであり、ηsp/c=0.490 dl/g、Tm=325℃であり、NMR分析結果からポリ-β-アラニンであった。
実施例6
窒素下で50 mlのシュレンクフラスコに6gのアクリロニトリルを入れ、攪拌しながら重合温度40℃で、実施例1で得られた触媒A5 mgを含むトルエン溶液を加え、1 時間重合した。メタノール0.5mlを加えて重合を停止した後、メタノール中で懸濁させたポリマーをろ別し、塩酸/メタノール、メタノールで良く洗浄し、得られたポリマーを減圧下80℃、6時間乾燥した。得られたポリマーは0.7 gであった。GPCで測定した重量平均分子量Mwは2,000,000、Mw/Mnが2.24であった。(NMRスペクトルを図3に示す)
実施例7
実施例6に於いて、重合温度80℃にしたこと以外は実施例6と同様にアクリロニトリルの重合を行った。得られたポリマーは1.3 gであり、重量平均分子量Mwは700,000、Mw/Mnが2.85であった。
実施例8
窒素下で50 mlのシュレンクフラスコに2gのアクリロニトリルと4gのスチレンを入れ、攪拌しながら重合温度40℃で、実施例1で得られた深紫色固体5mgを含むトルエン溶液を加え、1 時間重合した。メタノール0.5mlを加えて重合を停止した後、メタノール中で懸濁させたポリマーをろ別し、塩酸/メタノール、メタノールで良く洗浄し、得られたポリマーを減圧下80℃、6時間乾燥した。さらに、得られたポリマーをクロロホルムで抽出し、クロロホルム不溶のポリマーを0.3g得た。このポリマーのNMR(図4)、IRスペクトル分析(図5)から7%のスチレン含有率であった。GPCで測定した重量平均分子量Mwは300,000、Mw/Mnが3.62であった。
実施例9
十分に窒素置換した50 mlのシュレンクフラスコに1.05gのアクリルアミドと0.75gのアクリロニトリルをトルエン30mlに入れ、触媒A50mgを溶解したトルエン溶液を加え、110℃で1時間重合した。メタノール0.5mlを加えて重合を停止した後、アセトンを加え、懸濁しているポリマーをろ別し、塩酸/メタノール、メタノール、熱水で良く洗浄し、得られたポリマーを減圧下80℃、6時間乾燥した。得られたポリマーは0.480gであった。このポリマーのH-NMR(図6)、IRスペクトル分析(図7)およびC13-NMRスペクトルのケミカルシフト(アミドCO;179.6、177.4、174.2ppm及びCN;129.1、128.4ppm)から9%のアクリロニトリル含有率のβ?アラニンとアクリロニトリルコポリマーであった。GPCで測定した重量平均分子量Mwは16,000、Mw/Mnが1.65であった。また、DSCでのポリマーのTmは300℃であった。
実施例10
〔重合触媒の合成〕
(1)触媒D:[1,3-(2,6-iPr_(2)C_(6)H_(3)N)_(2)C_(3)H_(6)]Y[CH_(2)(TMS)]の合成
窒素下、N,N'-ジ(2,6-ジイソプロピルフェニル)-プロピレン-1,3-ジアミン(1,3-(2,6-iPr_(2)C_(6)H_(3)NH)_(2)C_(3)H_(6))(7.9g)のTHF溶液300mlに窒素下、0℃で、n-BuLiのn-ヘキサン溶液を2.1当量滴下した。室温で一晩攪拌した後、溶媒を減圧除去後、ペンタンで洗浄し、得られた白色粉末のを減圧乾燥し1,3-(2,6-iPr_(2)C_(6)H_(3)N)_(2)C_(3)H_(6)ジリチウム・2THF化合物 10.9 g を得た。THF20mlに懸濁した三塩化イットリウム(586mg,3.0mmol)を55℃で30分間加熱し、この懸濁液に0℃でジリチウム(1.65g,3.0mmol)のTHF溶液を滴下し、2時間撹拌し、室温で一晩撹拌した。その溶液から溶媒を留去して、淡黄色の油状残留物を得た。さらにペンタンで抽出し、不溶部を濾別した。濾液を濃縮し、-30℃で冷却し析出し、濾別し後、加熱真空乾燥して1.0gの淡黄色固体を得た。さらに、この白色固体のトルエン溶液20mlに、2.0mmolのトリメチルシリルメチルリチウムのペンタン溶液を0℃で加え、3時間撹拌した。溶液を濾過した後、濾液を減圧濃縮し、残留物をペンタンで抽出、濾過し、濾液を減圧濃縮し、-30℃のペンタンから淡黄色固体0.9gを得た。・・・
(2)触媒E:[N,N'-(TMS)_(2)-PldN]Y[CH_(2)(TMS)]の合成
窒素下で1,2-フェニレンジアミン(10g,92.5 mmol)、トリエチルアミン(22g,220mmol)のトルエン(130ml)溶液を120℃に加熱し、トリメチルシリルクロリド(20g,180mmol)を滴下した。これを1時間加熱し、生成塩を濾別し、得られた濾液から溶媒を除去した後、減圧蒸留して淡黄色液体18.6g(120-121℃/6mmHg 収率80%)を得た。^(1)H-NMRスペクトル(270MHz,CDCl_(3))δ6.93(2H),6.88(2H),0.16(18H) 得られた液体(18.6g)のTHF溶液300mlに窒素下、-78℃で、n-BuLiのn-ヘキサン溶液を2当量滴下した。室温で一晩攪拌した後、溶媒を減圧除去後、ペンタンで洗浄し、得られた白色粉末のを減圧乾燥しN,N'-(TMS)_(2)-PldNジリチウム化合物18.6g(収率97%)を得た。得られた白色粉末(5g,19mmol)と三塩化イットリウム(3.7g,18.9mmol)をTHF150mlに溶解し、室温で1晩撹拌した。溶液を濾過した後、濾液を減圧濃縮し、残留物をエーテル、次いでペンタンで洗浄後、減圧乾燥し、白色粉末錯体6.78gを得た;^(1)H-NMRスペクトル(270MHz,C_(6)D_(6))δ7.35(2H,bs),7.03(2H),0.81(18H)。さらに、 この白色粉末錯体2.0g(5.3mmol)のTHF溶液50mlに、6.4mmolの塩化トリメチルシリルメチルマグネシウムのエーテル溶液を加え、室温で1晩撹拌した。溶液を濾過した後、濾液を減圧濃縮し、残留物をエーテル、次いでペンタンで洗浄後、減圧乾燥し、-30℃のヘキサン/THFから再結晶し、濾別、真空乾燥しで白色固体1.0gを得た。・・・
(3)触媒F:[N,N'-(TMS)_(2)-PldN]Sm(THF)_(2)の合成
上記で合成した白色粉末のN,N'-(TMS)_(2)-PldNジリチウム化合物(2.0g,7.6mmol)に2価のヨウ化サマリウム(7.6mmol)のTHF溶液7.6mlを加え、室温で1晩撹拌した。溶液から溶媒を除去し、塩化メチレンで抽出し、さらにトルエンで抽出した後、ペンタンから析出させ、真空乾燥して0.5gの茶褐色の固体を得た。・・・
(4)触媒G:[N,N'-(TMS)_(2)-BinN]Y[CH_(2)(TMS)](THF)の合成
窒素下でN,N'-ジ(トリメチルシリル)-1,1'-ビナフタレン-2,2'-ジアミン(N,N'-(TMS)_(2)-BinNH)(10g,23.3mmol)のTHF溶液300mlに窒素下、-78℃で、n-BuLiのn-ヘキサン溶液を2当量滴下した。室温で一晩攪拌した後、溶媒を減圧除去後、ペンタンで洗浄し、得られた白色粉末のを減圧乾燥しN,N'-(TMS)_(2)-BinNジリチウム化合物9.9g を得た。得られた白色粉末(4.9g,11.1mmol)と三塩化イットリウム(2.1g,10.7mmol)をTHF150mlに溶解し、室温で1晩撹拌した。溶液を濾過した後、濾液を減圧濃縮し、残留物をエーテル、次いでペンタンで洗浄後、減圧乾燥し、白色粉末錯体6.0gを得た。さらに、この白色粉末錯体2.0g(3.2mmol)のTHF溶液50mlに、3.5mmolの塩化トリメチルシリルメチルマグネシウムのエーテル溶液を加え、室温で1晩撹拌した。溶液を濾過した後、濾液を減圧濃縮し、残留物をエーテル、次いでペンタンで洗浄後、減圧乾燥し、-78℃のヘキサン/THFから再結晶し、濾別、真空乾燥しで白色固体0.67gを得た。・・・
実施例11
窒素下で20mlのフラスコに6gのアクリロニトリルを入れ、攪拌しながら重合温度25℃で、実施例10で得られたの触媒D6 mgを含むTHF溶液を加え、2時間重合した。メタノール0.5mlを加えて重合を停止した後、メタノール中で懸濁させたポリマーをろ別し、塩酸/メタノール、メタノールで良く洗浄し、得られたポリマーを減圧下80℃、6時間乾燥した。得られたポリマーは1.50 gであった。GPCで測定した重量平均分子量Mwは3100,000、Mw/Mnが2.12であった。
実施例12
実施例11に於いて、重合触媒D6 mgに代えて重合触媒E5mgにしたこと以外は実施例11と同様にアクリロニトリルの重合を行った。得られたポリマーは1.4 gであり、重量平均分子量Mwは2300,000、Mw/Mnが2.35であった。
実施例13
実施例11に於いて、重合触媒D6 mgに代えて重合触媒F5mgにしたこと以外は実施例11と同様にアクリロニトリルの重合を行った。得られたポリマーは0.9gであり、重量平均分子量Mwは2500,000、Mw/Mnが2.20であった。
実施例14
実施例11に於いて、重合触媒D6 mgに代えて重合触媒G6mgにしたこと以外は実施例11と同様にアクリロニトリルの重合を行った。得られたポリマーは0.7gであり、重量平均分子量Mwは1800,000、Mw/Mnが2.56であった。
実施例15
十分に窒素置換した50 mlのシュレンクフラスコに100 mgのアクリルアミドとトルエン10mlを入れ、実施例10の触媒D10mgを溶解したトルエン溶液を加え、110℃で2時間重合した。メタノール0.5mlを加えて重合を停止した後、アセトンを加え、懸濁しているポリマーをろ別し、塩酸/メタノール、メタノールで良く洗浄し、得られたポリマーを減圧下80℃、6時間乾燥した。得られたポリマーは89mgであり、35℃ギ酸での比粘度(ηsp/c)(c はギ酸に溶解したポリマー濃度0.1g/dlで測定した)は0.46 dl/g、DSCでのポリマー融点(Tm)は304℃であり、NMRスペクトル分析結果からポリ-β-アラニンであった。
実施例16
実施例15に於いて、重合触媒D10 mgに代えて重合触媒E10mgにしたこと以外は実施例15と同様にアクリルアミドの重合を行った。得られたポリマーは100 mgであり、35℃ギ酸での比粘度(ηsp/c)は0.38 dl/g、DSCでのポリマー融点(Tm)は289℃であり、NMRスペクトル分析結果からポリ-β-アラニンであった。
実施例17
実施例15に於いて、重合触媒D10 mgに代えて重合触媒F10mgにしたこと以外は実施例15と同様にアクリルアミドの重合を行った。得られたポリマーは97 mgであり、35℃ギ酸での比粘度(ηsp/c)は0.51 dl/g、DSCでのポリマー融点(Tm)は317℃であり、NMRスペクトル分析結果からポリ-β-アラニンであった。
実施例18
実施例15に於いて、重合触媒D10 mgに代えて重合触媒G10mgにしたこと以外は実施例16と同様にアクリルアミドの重合を行った。得られたポリマーは88 mgであり、35℃ギ酸での比粘度(ηsp/c)は0.402 dl/g、DSCでのポリマー融点(Tm)は306℃であり、NMRスペクトル分析結果からポリ-β-アラニンであった。」(段落【0063】?【0080】)

(当審注:THFはテトラヒドロフランの略、iPrはイソプロピルの略、TMSはトリメチルシリルの略、PldNは1,2-フェニレンジアミドの略、BinNは1,1'-ビナフタレン-2,2'-ジアミドの略)

さらに、以下の【図1】?【図7】(摘示省略)が記載されている。

【図1】実施例1で得られた深紫色個体の^(1)H-NMRスペクトル
【図2】実施例2で得られたポリマーの熱水不溶部の^(1)H-NMRスペクトル(溶媒は重水素化トリフルオロ酢酸)
【図3】実施例6で得られたポリマーの^(1)H-NMRスペクトル(溶媒は重水素化DMF)
【図4】実施例8で得られたポリマーの^(1)H-NMRスペクトル(溶媒は重水素化DMF)
【図5】実施例8で得られたポリマーのIRスペクトル
【図6】実施例9で得られたポリマーの^(1)H-NMRスペクトル(溶媒は重水素化トリフルイリ酢酸)
【図7】実施例9で得られポリマーのIRスペクトル

[2]判断
摘示イに記載された触媒A?C及びFの化学構造と一般式〔1〕は、以下のとおり対応している。

(1)触媒A?C
・触媒A?C共通
k=h=2,n=0
M=2価のSm
Q=OC_(4)H_(8)
・触媒AのR^(1)=((CH_(3))_(3)Si)_(2)N
・触媒BのR^(1)=((CH_(3))_(2)C)_(2)N
・触媒CのR^(1)=(2,6-iPrC_(6)H_(3)((CH_(3))_(3)Si)N

(2)触媒F
k=1,n=0,h=2
R^(1)=N,N'-(TMS)_(2)-PldN
M=2価のSm
Q=THF

そして、上記「((CH_(3))_(3)Si)_(2)N」、「((CH_(3))_(2)C)_(2)N」及び「(2,6-iPrC_(6)H_(3)((CH_(3))_(3)Si)N」は、「炭素数1?20のアルキル基または炭素数1?20のアルキルシリル基から選ばれた1つまたは2つの基で置換された1?2置換アミド」(摘示ア)に該当し、上記「N,N'-(TMS)_(2)-PldN」は、「一般式〔3〕で表されるリガンド」(摘示ア)に該当し、また、上記「OC_(4)H_(8)」及び「THF」は、Qの選択肢である「中性の電子供与性配位子」に該当する。
すなわち、触媒A?C及びFによって、本願発明における「一般式〔1〕で表される重合触媒」について、n=0であり、R^(1)が「炭素数1?20のアルキル基または炭素数1?20のアルキルシリル基から選ばれた1つまたは2つの基で置換された1?2置換アミド」又は「一般式〔3〕で表されるリガンド」であり、Mが酸化数2の「周期表第3族から選ばれた金属」であり、Qが「中性の電子供与性配位子」である場合の具体例が示されている。
また、触媒D?E及びGは、CH_(2)(TMS)なる配位子を含んでおり、該配位子がアルキルシリルアルキル基であることから、触媒D?E及びGの化学構造式は、一般式〔1〕に該当しないので、触媒D?E及びGは、本願発明における「一般式〔1〕で表される重合触媒」の具体例ではない。
そうすると、触媒A?C及びFを用いた重合方法である実施例2?9、13及び17は、本願発明の重合方法の具体例であり、また、その重合の結果として、得られたポリマーの比粘度、重量平均分子量、分子量分布、融点、ガラス転移点、NMRスペクトル、IRスペクトル等が記載されている。
すなわち、発明の詳細な説明には、本願発明の重合方法において、一般式〔1〕中のnが0であって、R^(1)が「炭素数1?20のアルキル基または炭素数1?20のアルキルシリル基から選ばれた1つまたは2つの基で置換された1?2置換アミド」又は「一般式〔3〕で表されるリガンド」であり、Mが酸化数2の「周期表第3族から選ばれた金属」であり、Qが「中性の電子供与性配位子」である場合の結果が、実施例2?9、13及び17として具体的に記載されているが、それ以外の場合については、結果を具体的に確認する記載がない。
ここで、一般に、遷移金属化合物を使用した重合触媒においては、触媒成分である遷移金属化合物の中心金属及びその酸化数、配位子の構造等が、触媒性能に大きく影響することは本願優先日における技術常識であるから、通常、該重合触媒においては、遷移金属化合物の中心金属の酸化数及び配位子の構造が異なれば、その触媒性能も異なると解するのが相当である。
そして、通常、重合触媒を用いる重合方法においては、該重合触媒の触媒性能が異なれば、重合の結果として得られるポリマーの収率、化学構造、特性等も異なると解するのが相当である。
そうすると、当業者は、本願優先日における技術常識に照らしても、発明の詳細な説明の記載から、本願発明において、一般式〔1〕中のnが0であって、R^(1)が「炭素数1?20のアルキル基または炭素数1?20のアルキルシリル基から選ばれた1つまたは2つの基で置換された1?2置換アミド」又は「一般式〔3〕で表されるリガンド」であり、Mが酸化数2の「周期表第3族から選ばれた金属」であり、Qが「中性の電子供与性配位子」である場合以外の場合については、実施例2?9、13及び17に記載の重合方法と同様の結果が得られると理解することはできない。
したがって、本願優先日における技術常識に照らしても、実施例2?9、13及び17に記載の重合方法を、本願発明の重合方法の全範囲に拡張ないし一般化できるとはいえない。

[3]まとめ
よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。


第6.請求人の主張
請求人は、平成19年12月27日に提出された意見書において、以下のとおり主張している。

「4)記載不備(理由3)について
(1)まず、一般式〔1〕のR^(1)については、実施例にて効果の確認されている窒素原子、特に1?2置換のアニオン性の窒素原子を少なくとも1個含有するリガンドに限定いたしました。これは、明細書【0020】?【0032】の記載に基づくものであります。
これに対して、Qについては、中性の電子供与性配位子と致しました。従って、アニオン性の電子供与性配位子であるR^(1)と区別可能となったものと思料いたします。
また、今回の補正では、重合触媒並びに遷移金属化合物を請求するものではなく、重合方法に補正しておりますで、R^(1)で表されるリガンドを少なくとも一つ有する3族遷移金属原子が本発明に効果を奏することを規定するものであって、ことさら詳細に重合触媒を限定する必要はないと思料いたします。
・・・・・・
(6)また、審査官殿は、アルキルシリル基又は炭化水素基のみを置換基に有するアミンと共有結合した第3族遷移金属原子または請求項2に記載の配位子における2つの窒素原子と共有結合した第3族遷移金属原子にエーテル又はトリアルキルシリルアルキル基が結合した酸化数2又は3価の遷移金属化合物を用いた場合以外について具体的な実施効果を認識し得る記載が無いとし、その他の一般式〔1〕の化合物の触媒としての効果が確認されていないとご指摘されております。しかし、本願の特徴は、第3族遷移金属化合物に少なくとも一つの1又は2置換アニオン性窒素原子を有する配位子R^(1)が置換した化合物を触媒に用いることにあり、R^(3)やQとしてのハロゲン原子は本願発明における特定の単量体の重合反応においては不活性であり、これらを有していても反応を阻害するものではないと確信いたします。」

すなわち、請求人の主張は、本願発明は、第3族遷移金属化合物に少なくとも一つの1又は2置換アニオン性窒素原子を有する配位子R^(1)が置換した化合物を触媒に用いることによって効果を奏するものであり、R^(3)及びQは本願発明における特定の単量体の重合反応においては不活性であるから、R^(3)及びQを詳細に限定する必要はない、というものである。

以下、上記主張について検討する。
請求人は、上記主張を裏付ける技術的な説明を示していない。
そして、第5.1.[2]で教示したように、当業者は、本願優先日における技術常識に照らしても、発明の詳細な説明の記載から、本願発明において、一般式〔1〕中のnが0であって、R^(1)が「炭素数1?20のアルキル基または炭素数1?20のアルキルシリル基から選ばれた1つまたは2つの基で置換された1?2置換アミド」又は「一般式〔3〕で表されるリガンド」であり、Mが酸化数2の「周期表第3族から選ばれた金属」であり、Qが「中性の電子供与性配位子」である場合以外の場合については、実施例2?9、13及び17に記載の重合方法と同様の結果が得られると理解することはできない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載及び本願優先日における技術常識を参酌しても、請求人の主張は、根拠を見いだせないものである。
よって、請求人の主張は採用できない。


第7.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-02 
結審通知日 2010-12-08 
審決日 2010-12-21 
出願番号 特願2000-104782(P2000-104782)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C08F)
P 1 8・ 537- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 亨  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 内田 靖恵
小野寺 務
発明の名称 不飽和単量体の重合方法及びコポリマー  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 石橋 政幸  
代理人 宮崎 昭夫  

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