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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1232445
審判番号 不服2009-19314  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-09 
確定日 2011-02-14 
事件の表示 特願2003-415256「内燃機関の始動法、内燃機関、該内燃機関を制御するための制御装置並びに該制御装置の演算装置で進行可能なコンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月15日出願公開、特開2004-197736〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成15年12月12日(パリ条約による優先権主張2002年12月13日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成20年10月15日付けで拒絶理由が通知され、平成21年2月2日付けで意見書が提出されたが、平成21年6月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年10月9日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成22年1月26日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成22年4月27日付けで回答書が提出されたものである。


第2.平成21年10月9日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年10月9日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正について
(1)平成21年10月9日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、願書に最初に添付された)特許請求の範囲の以下の(a)に示す請求項1を、(b)に示す請求項1に補正する内容を含むものである。(なお、下線部は補正箇所を示す。)

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
少なくとも1つのシリンダ(2)と、該シリンダ内で可動に案内されたピストン(3)と、シリンダ(2)内に形成された燃焼室(4)と、燃料を燃焼室(4)に直接にもたらすことのできる直接噴射装置(9)と、内燃機関(1)を制御及び/又は調整するため、特に直接噴射装置(9)を制御及び/又は調整するための制御装置(20)とを備えた内燃機関(1)の始動法において、
内燃機関(1)の始動段階開始前の第1の混合物形成のために燃焼室(4)内で必要とされる燃料質量を、複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室(4)にもたらすことを特徴とする、内燃機関の始動法。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
少なくとも1つのシリンダ(2)と、該シリンダ内で可動に案内されたピストン(3)と、シリンダ(2)内に形成された燃焼室(4)と、燃料を燃焼室(4)に直接にもたらすことのできる直接噴射装置(9)と、内燃機関(1)を制御及び/又は調整するため、特に直接噴射装置(9)を制御及び/又は調整するための制御装置(20)とを備えた内燃機関(1)の始動法において、
内燃機関(1)の始動段階開始前の、スタート・ストップ機能のストップ機能実施中に、第1の混合物形成のために燃焼室(4)内で必要とされる燃料質量を、複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室(4)にもたらすことを特徴とする、内燃機関の始動法。」


(2)本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1において、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「内燃機関(1)の始動段階開始前の第1の混合物形成のために燃焼室(4)内で必要とされる燃料質量を」を、本件補正後の請求項1における「内燃機関(1)の始動段階開始前の、スタート・ストップ機能のストップ機能実施中に、第1の混合物形成のために燃焼室(4)内で必要とされる燃料質量を」と補正するものであり、実質的に、内燃機関(1)の始動段階開始前の燃料噴射の時期について、本件補正前の「内燃機関(1)の始動段階開始前」を、本件補正後の「内燃機関(1)の始動段階開始前の、スタート・ストップ機能のストップ機能実施中に」とさらに限定するものである。
したがって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における請求項1に関する補正事項は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2-1.特開2002-4929号公報(平成14年1月9日公開。以下、「引用文献1」という。)
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付した。)

(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、筒内噴射型内燃機関を始動させるのに適した始動装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】この種の筒内噴射型内燃機関の始動に関する技術としては、例えば特開平11-159374号公報に記載された内燃機関のスタート方法が挙げられる。この公知のスタート方法は、内燃機関の始動に際して膨張(作業)行程をとっている燃焼室に燃料を噴射して、点火させることによりスタータなしの起動を可能とするものである。」(段落【0001】及び【0002】)

(b)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の筒内噴射型内燃機関の始動装置(請求項1)は、内燃機関の運転が停止した状態で膨張行程にある気筒を検出しておき、所定の始動信号に応じて膨張行程中の気筒内に燃料を噴射した後、所定の遅延時間が経過してから点火を行って内燃機関を始動させるものとしている。
【0006】本発明の始動装置によれば、噴射後に遅延時間が経過するまでの間に燃焼室内で燃料の気化が促進されるので、その後の点火により確実に着火が可能となる。なお、遅延時間の設定は検出した内燃機関の状態、例えばピストン位置、筒内温度、燃圧等に応じて可変することが可能である。本発明の筒内噴射型内燃機関の始動装置は、排気弁についての可変バルブタイミング機構およびその開弁制御手段を更に備えることができ(請求項2)、開弁制御手段は少なくとも膨張行程にある気筒について排気弁の開弁時期を遅らせるべく可変バルブタイミング機構を制御する。これにより、膨張行程にある気筒のピストンが下死点に達するまでの間は排気弁の開弁を抑制することで、燃焼ガスの効率的な膨張仕事を促進することが可能となる。」(段落【0005】及び【0006】)

(c)「【0007】
【発明の実施の形態】本発明の筒内噴射型内燃機関の始動装置は、例えば車両に搭載される内燃機関の始動装置としての実施形態をとることができる。ただし、本発明を適用可能な内燃機関の用途を車両用に限定する意図ではない。図1を参照すると、筒内噴射型の内燃機関であるエンジン1はその筒内、つまり、燃焼室2内に直接燃料を噴射することができる燃料噴射弁4を備えている。またエンジン1は例えば、クランク角でみて180゜CA毎に等間隔で爆発する直列4気筒型のレイアウトを有しており、その個々の気筒毎に燃料噴射弁4および点火栓6が設けられている。」(段落【0007】)

(d)「【0016】また、ECU8には例えば、エンジン1の自動アイドル停止・始動制御システムを別途組み込むことができ、この制御システムにてエンジン1の自動始動条件が成立したとき、ECU8は上述した始動信号を形成することができる。例えば、ECU8には車速センサから入力される車速信号、シフト位置センサから入力されるシフト位置信号、クラッチ位置センサから入力されるクラッチペダルの踏み込みまたは解除を表すクラッチ位置信号等の各種の情報が入力可能となっている。ECU8はこれらセンサ信号から車両の運転状態を検出し、その運転状態に基づいてエンジン1の自動停止条件および自動始動条件の成立を判定することができる。
【0017】例えば、車速が0で、シフト位置がニュートラルにあり、かつ、クラッチペダルの踏み込みが解除されている場合、ECU8は自動停止条件の成立を判定する。この自動停止条件が成立したとき、ECU8は燃料噴射および点火を停止してエンジン1を自動的に停止させる。一方、エンジン1の自動停止後に例えばクラッチペダルの踏み込みが検出されると、車両の発進に備えて自動始動条件の成立を判定することができる。」(段落【0016】及び【0017】)

(e)「【0020】先ず、ECU8はステップS1においてエンジン1の回転速度が所定値Ne_(0)(例えば30rpm,min^(-1))以下となったか否かを判定し、この判定が成立する場合(Yes)はエンジン1が停止したものとみなしてステップS2に進む。このエンジン1の停止は、例えば運転者がイグニションスイッチをオフにした場合や、上述した自動停止条件の成立の場合に行われる。
【0021】ステップS2では、ECU8は所定の噴射後タイマがカウントを停止(=0)しているか否かを判断する。エンジン1の停止後に噴射後タイマが作動していなければタイマカウント値は0であるため(Yes)、次のステップS3に進む。なお、この噴射後タイマおよび後述する点火後タイマは、何れもECU8内に組み込むことができ、その起動とともに経過時間をカウントする機能を有する。
【0022】ステップS3では、ECU8はエンジン1の始動条件が成立したか否かを判断し、成立していなければ制御ルーチンをリターンして上記の手順を繰り返し実行する。ステップS3でエンジン1の始動条件が成立した場合(Yes)、ECU8はステップS4に進み、上述した始動信号に基づき膨張行程で停止している気筒に対して燃料噴射を指令し、続いてステップS5で噴射後タイマの作動を開始する。このとき、ECU8は既に膨張行程にある気筒を検出しているので、その気筒に対応する燃料噴射弁4に噴射パルス信号を出力し、対応する燃料噴射弁4から燃焼室2内に燃料が噴射される(噴射制御手段)。より好ましくは、ECU8は検出したピストン位置から筒内の空気量を正確に求め、その噴射するべき燃料を適切に調量することができる。なお、発明者等の検証によれば、この場合の空燃比は例えば14近傍に設定することが好ましいとされている。」(段落【0020】ないし【0022】)

(f)「【0023】次のステップS6では、ECU8は点火後に所定時間が経過したか否かを判断するが、この時点では未だ点火を行っていないため(No)、そのまま制御ルーチンをリターンする。この後、ECU8がステップS2に戻ると、噴射タイマが既に作動しているためステップS2からステップS9に進む。ステップS9では、ECU8は燃料の噴射後に所定の遅延時間が経過したか否かを判断する。この遅延時間は燃料を噴射した後、その気化を確実にするための所要時間として設定することができ、この遅延時間の経過が確認されるまでの間(No)は、燃料の気化が不充分であるとしてECU8は制御ルーチンを繰り返しリターンする。好ましくは、状態検出手段の出力に応じて遅延時間を変更することができる。例えば筒内温度が高い場合、燃料が気化しやすいため遅延時間を短く設定し、逆に筒内温度が低い場合には燃料が気化しにくいため、遅延時間を長く設定する。
【0024】ステップS9で遅延時間の経過が確認されると(Yes)、燃料が充分に気化したものとしてステップS10に進み、点火が行われたか否かを点火後タイマのカウント値から判断する。この時点ではカウント値=0であって点火前と判断できるから、ECU8はステップS11に進んで点火を指令する。この指令は、既に燃料を噴射した膨張行程にある気筒に対してなされ、具体的には点火栓6に対して点火信号が出力される(点火制御手段)。なお、エンジン1の運転停止により筒内圧が低下していることを考慮すれば、このとき着火に充分な熱エネルギを確保するため多重点火を行うことが好ましい。
【0025】次に、ECU8はステップS12で点火後タイマの作動を開始し、ステップS6に進んで点火後に所定時間が経過したか否かを判断する。この所定時間が経過するまで(No)、ECU8は制御ルーチンをリターンし、ステップS11,S12を迂回してステップS6の判断を繰り返す(ステップS10=No)。点火後に所定時間が経過したと判断すると、ECU8はステップS7でエンジン回転速度が所定値Nesを超えているか否かを判断する。この所定値Nesは、例えばエンジン1の始動が成功したか否かを判定するための閾値として設定されており、ECU8はエンジン1の回転速度がこの所定値Nesを超えていれば始動状態が成功であるものとして判定し、一方、所定値Nes以下であれば始動状態が不完全であるものとして判定する。
【0026】なお、図2のフローチャートには明示されていないが、ECU8はステップS11で点火を指令した後にピストン20が動き出すと、そのとき圧縮行程にある気筒についても燃料噴射を指令し、更にその上死点で点火を指令する。これにより、エンジン1の停止時に圧縮行程にあった気筒で完爆が起こり、通常のクランキングを行うことなくエンジン1が始動する。」(段落【0023】ないし【0026】)

(2)上記(1)(a)ないし(f)及び図面の記載から分かること

(ア)上記(1)(a)ないし(f)及び図面の記載から、引用文献1には、少なくとも1つの気筒と、該気筒内で可動に案内されたピストン20と、気筒内に形成された燃焼室2と、燃料を燃焼室に直接もたらすことのできる燃料噴射弁4と、内燃機関を制御するため、特に燃料噴射弁4を制御するためのECU8とを備えた内燃機関の始動方法が記載されていることが分かる。

(イ)上記(1)(a)ないし(f)及び図面の記載から、引用文献1に記載された内燃機関の始動方法において、エンジン1の点火前の自動アイドル停止・始動制御システムによる自動停止中に、空気と燃料の混合物形成のために燃焼室2内で必要とされる燃料を、燃焼室2内に噴射することが分かる。

(3)引用文献1に記載された発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1に記載された発明」という。)が記載されているといえる。

「少なくとも1つの気筒と、該気筒内で可動に案内されたピストン20と、気筒内に形成された燃焼室2と、燃料を燃焼室に直接もたらすことのできる燃料噴射弁4と、内燃機関を制御するため、特に燃料噴射弁4を制御するためのECU8とを備えた内燃機関の始動方法において、
エンジン1の点火前の自動アイドル停止・始動制御システムによる自動停止中に、空気と燃料の混合物形成のために燃焼室2内で必要とされる燃料を、燃焼室2に噴射する、内燃機関の始動方法。」

2-2.特開2000-73823号公報(以下、「引用文献2」という。)
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献2には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付した。)

「【0004】そこで、特開平4-183948号公報に記載されている燃料噴射制御装置では、直噴エンジンにおいて、機関始動時に要求燃料量を複数回に分けて間欠的に噴射することにより噴射燃料の気化促進を図り、始動性を向上することが提案されている。より具体的に、この燃料噴射制御によれば、吸気行程噴射量と圧縮行程噴射量とをそれぞれ求めて、吸気行程噴射量を所定の噴射量によって除算することによって算出された回数だけ、吸気行程において分割噴射が行われると共に、圧縮行程噴射量を所定の噴射量によって除算することによって算出された回数だけ、圧縮行程において分割噴射が行われる。」(段落【0004】)

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること

上記(1)及び図面の記載から、引用文献2には、直噴エンジンにおいて、噴射燃料の気化促進を図るために、機関始動時に、要求燃料量を複数回に分けて噴射する技術が記載されていることが分かる。

(3)引用文献2に記載された技術
上記(1)及び(2)及び図面の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されているといえる。

「直噴エンジンにおいて、機関始動時に、要求燃料量を複数回に分けて噴射する技術。」


2-3.本願補正発明と引用文献1に記載された発明との対比
本願補正発明と引用文献1に記載された発明とを対比するに、引用文献1に記載された発明における「気筒」は、その技術的意義からみて、本願補正発明における「シリンダ(2)」に相当し、以下同様に、「ピストン20」は「ピストン(3)」に、「燃焼室2」は「燃焼室(4)」に、「制御する」は「制御及び/又は調整する」に、「燃料噴射弁4」は「直接噴射装置(9)」に、「ECU8」は「制御装置(20)」に、「エンジン1」及び「内燃機関」は「内燃機関(1)」に、「空気と燃料の混合物」は「第1の混合物」に、「燃料」は「燃料」及び「燃料質量」に、「噴射する」は「もたらす」に、「始動方法」は「始動法」に、それぞれ相当する。
また、本願補正発明における「内燃機関の始動段階開始」とは、「空気・燃料混合物の点火」を意味する(本願明細書の段落【0003】及び平成21年2月2日付け意見書の【意見の内容】1.の項を参照。)から、引用文献1に記載された発明における「エンジン1の点火前」は、本願補正発明における「内燃機関の始動段階開始前」に相当する。
また、引用文献1に記載された発明における「自動アイドル停止・始動制御システム」は、その技術的意義からみて、本願補正発明における「スタート・ストップ機能」に相当する。
また、本願補正発明における「ストップ機能実施中」とは、「内燃機関の運転の停止動作中」を意味する(審判請求書の第5ページ第20行ないし第23行を参照。)から、引用文献1に記載された発明における「自動停止中」は、「ストップ機能を実施するとき」である限りにおいて、本願補正発明における「ストップ機能実施中」に相当する。

してみると、本願補正発明と引用文献1に記載された発明は、

「少なくとも1つのシリンダと、該シリンダ内で可動に案内されたピストンと、シリンダ内に形成された燃焼室と、燃料を燃焼室に直接もたらすことのできる直接噴射装置と、内燃機関を制御及び/又は調整するため、特に直接噴射装置を制御及び/又は調整するための制御装置とを備えた内燃機関の始動法において、
内燃機関の始動段階開始前の、スタート・ストップ機能のストップ機能を実施するときに、第1の混合物形成のために燃焼室内で必要とされる燃料質量を、燃焼室にもたらす、内燃機関の始動法。」

である点で一致し、次の(a)の点で相違する。

(a)「内燃機関の始動段階開始前の、スタート・ストップ機能のストップ機能を実施するときに、第1の混合物形成のために燃焼室内で必要とされる燃料質量を、燃焼室内に噴射する」点について、本願補正発明においては、「内燃機関(1)の始動段階開始前の、スタート・ストップ機能のストップ機能実施中に、第1の混合物形成のために燃焼室(4)内で必要とされる燃料質量を、複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室(4)にもたらす」のに対し、引用文献1に記載された発明においては「内燃機関の始動段階開始前の、スタート・ストップ機能のストップ機能を実施するときに、第1の混合物形成のために燃焼室内で必要とされる燃料質量を、」燃料噴射によって「燃焼室内に」もたらすものではあるが、「ストップ機能実施中」に「複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室にもたらす」のかどうか明らかでない点(以下、「相違点」という。)。


2-4.相違点についての検討
(a)相違点について
内燃機関の始動段階開始前の、前回の内燃機関の運転の停止動作中であるスタート・ストップ機能のストップ機能実施中に燃料噴射を行う技術は、従来周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、特開昭62-255558号公報の特許請求の範囲、第1ページ左下欄第19行ないし右下欄第3行及び第5ページ左上欄第12行ないし右上欄第17行並びに図面、特開2002-4985号公報(平成14年1月9日公開。)の段落【0020】ないし【0022】、【0025】及び【0026】並びに図面の記載を参照。)にすぎない。
次に、本願補正発明と引用文献2に記載された技術とを対比すると、引用文献2に記載された技術における「直噴エンジン」は、その技術的意義からみて、本願補正発明における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「要求燃料量」は「必要とされる燃料質量」に、「複数回に分けて噴射する」は「複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室にもたらす」に、それぞれ相当する。
そうすると、引用文献2に記載された技術は、本願補正発明の技術用語を用いて、
「内燃機関において、機関始動時に、必要とされる燃料質量を、複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室にもたらす技術。」
と書き換えることができる。
なお、内燃機関において、燃料を「複数回に分けて噴射する」ことは、従来周知の技術(以下、「周知技術2」という。)でもある。

そして、引用文献1に記載された発明と、引用文献2に記載された技術及び周知技術1は、いずれも、「筒内直接噴射型内燃機関の始動」という共通の技術分野に属するものであるから、引用文献1に記載された発明において、燃料噴射の時期として周知技術1を採用すると共に、噴射燃料の気化促進を図るために、引用文献2に記載された技術ないし周知技術2を採用し、それにより、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

また、本願補正発明を全体としてみても、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術並びに周知技術1及び2から想定される以上の格別の作用効果を奏するものとは認められない。
以上のように、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術並びに周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


2-5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.まとめ
よって、結論のとおり決定する。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成21年10月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.の[理由]の1.(a)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2.引用文献
2-1.引用文献1
原査定の拒絶理由に引用された引用文献1(特開2002-4929号公報)の記載事項及び引用文献1に記載された発明は、前記第2.の[理由]2.2-1.の(1)ないし(3)に記載したとおりである。

2-2.引用文献2
原査定の拒絶理由に引用された引用文献2(特開2000-73823号公報)の記載事項及び引用文献2に記載された技術は、前記第2.の[理由]2.2-2.の(1)ないし(3)に記載したとおりである。

3.対比
本願発明と引用文献1に記載された発明とを対比するに、引用文献1に記載された発明における「気筒」は、その技術的意義からみて、本願発明における「シリンダ(2)」に相当し、以下同様に、「ピストン20」は「ピストン(3)」に、「燃焼室2」は「燃焼室(4)」に、「制御する」は「制御及び/又は調整する」に、「燃料噴射弁4」は「直接噴射装置(9)」に、「ECU8」は「制御装置(20)」に、「内燃機関」は「内燃機関(1)」に、「空気と燃料の混合物」は「第1の混合物」に、「始動方法」は「始動法」に、「燃料」は「燃料」及び「燃料質量」に、「噴射する」は「もたらす」に、それぞれ相当する。
また、引用文献1に記載された発明における「エンジン1の点火前」は、その技術的意義からみて、本願発明における「内燃機関の始動段階前」に相当する。

してみると、本願発明と引用文献1に記載された発明は、

「少なくとも1つのシリンダと、該シリンダ内で可動に案内されたピストンと、シリンダ内に形成された燃焼室と、燃料を燃焼室に直接にもたらすことのできる直接噴射装置と、内燃機関を制御及び/又は調整するため、特に直接噴射装置を制御及び/又は調整するための制御装置とを備えた内燃機関の始動法において、
内燃機関の始動段階開始前の第1の混合物形成のために燃焼室内で必要とされる燃料質量を、燃焼室にもたらす、内燃機関の始動法。」

である点で一致し、次の(a’)の点で相違する。

(a’)「燃料噴射」について、本願発明においては燃料質量を、「複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室にもたらす」のに対し、引用文献1に記載された発明においては燃料を、「複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室にもたらす」のかどうか明らかでない点(以下、「相違点A」という。)。

4.相違点Aについての検討
本願発明と引用文献2に記載された技術とを対比すると、引用文献2に記載された技術における「直噴エンジン」は、その技術的意義からみて、本願発明における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「要求燃料量」は「必要とされる燃料質量」に、「複数回に分けて噴射する」は「複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室にもたらす」に、それぞれ相当する。
そうすると、引用文献2に記載された技術は、本願発明の技術用語を用いて、
「内燃機関において、機関始動時に、必要とされる燃料質量を、複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室にもたらす技術。」
と書き換えることができる。
そして、引用文献1に記載された発明と、引用文献2に記載された技術とは、いずれも、「筒内直接噴射型内燃機関の始動」という共通の技術分野に属するものであるから、噴射燃料の気化促進を図るために、引用文献1に記載された発明において、「燃料噴射」について、引用文献2に記載された技術を採用し、それにより、上記相違点Aに係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

なお、内燃機関において、燃料を「複数回に分けて噴射する」ことは、従来周知の技術(前記「周知技術2」)でもある。

また、本願発明を全体としてみても、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術2から想定される以上の格別の作用効果を奏するものとは認められない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、その優先日前に日本国内において頒布された引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。


第4.付言
1.平成22年4月27日付け回答書における補正案について
本件請求人は、平成22年4月27日付けで提出された回答書において、特許請求の範囲を次のとおり補正することを希望している。
[請求項1] 少なくとも1つのシリンダ(2)と、該シリンダ内で可動に案内されたピストン(3)と、シリンダ(2)内に形成された燃焼室(4)と、燃料を燃焼室(4)に直接にもたらすことのできる直接噴射装置(9)と、内燃機関(1)を制御及び/又は調整するための制御装置(20)とを備えた内燃機関(1)の始動法において、
内燃機関(1)の始動段階開始前の、スタート・ストップ機能の動作中に、第1の混合物形成のために燃焼室(4)内で必要とされる燃料質量を、複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室(4)にもたらすことを特徴とする、内燃機関の始動法。
[請求項2] 第1の混合物形成のために必要とされる燃料質量の第1の噴射(VE1)を、内燃機関(1)の始動段階開始の少なくとも100ms前に燃焼室(4)にもたらす、請求項1記載の方法。
[請求項3] 内燃機関(1)の始動段階の間の燃焼室(4)における燃焼のために必要とされる燃料質量を、複数回の連続した噴射によって燃焼室(4)にもたらす、請求項1又は2記載の方法。
[請求項4] 少なくとも1つのシリンダ(2)と、該シリンダ内で可動に案内されたピストン(3)と、シリンダ(2)内に形成された燃焼室(4)と、燃料を直接に燃焼室(4)にもたらすことのできる直接噴射装置(9)と、内燃機関(1)を制御及び/又は調整するための制御装置(20)とを備えた内燃機関(1)において、
制御装置(20)が直接噴射装置(9)に指示して、内燃機関(1)の始動段階の開始前の、スタート・ストップ機能の動作中に、第1の混合物形成のために燃焼室(4)内で必要とされる燃料質量が、複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室(4)にもたらされるようになっていることを特徴とする、内燃機関。
[請求項5] 制御装置(20)が直接噴射装置(9)に指示して、第1の混合物形成のために必要とされる燃料質量の第1の噴射(VE1)が、内燃機関(1)の始動段階開始の少なくとも100ms前に燃焼室(4)にもたらされるようになっている、請求項4記載の内燃機関。
[請求項6] 制御装置(20)が直接噴射装置(9)に指示して、内燃機関(1)の始動段階の間の混合物形成のために燃焼室(4)内で必要とされる燃料質量が、複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室(4)にもたらされるようになっている、請求項4又は5記載の内燃機関。
[請求項7] 内燃機関(1)を制御及び/又は調整するための制御装置(20)において、
該制御装置(20)が直接噴射装置(9)に指示して、内燃機関(1)の始動段階の開始前の、スタート・ストップ機能の動作中に、第1の混合物形成のために燃焼室(4)内で必要とされる燃料質量が、複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室(44)にもたらされるようになっていることを特徴とする、内燃機関を制御及び/又は調整するための制御装置。
[請求項8] 制御装置(20)が直接噴射装置(9)に指示して、第1の混合物形成のために必要とされる燃料質量の第1の噴射(VE1)が、内燃機関(1)の始動段階開始の少なくとも100ms前に燃焼室(4)にもたらされるようになっている、請求項7記載の制御装置。
[請求項9] 制御装置(20)が直接噴射装置(9)に指示して、内燃機関(1)の始動段階の間の混合物形成のために燃焼室(4)内で必要とされる燃料質量が、複数回の連続した燃料噴射によって燃焼室(4)にもたらされるようになっている、請求項7又は8記載の制御装置。
[請求項10] 内燃機関(1)を制御及び/又は調整するための制御装置(20)の演算装置(20)において進行可能なコンピュータプログラムにおいて、該コンピュータプログラムが、前記演算装置(20)において進行すると、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法を実施するために適していることを特徴とする、制御装置の演算装置において進行可能なコンピュータプログラム。
[請求項11] コンピュータプログラムが、メモリエレメント(22)にメモリされている、請求項10記載のコンピュータプログラム。

2.補正案の請求項1に係る発明(以下、「補正案発明」という。)の特許性について
特許法第29条第2項について
(1)引用文献1
前記引用文献1(特開2002-4929号公報)の記載は、前記第2.の[理由]2.2-1.(1)ないし(3)のとおりである。

(2)引用文献2
前記引用文献2(特開2000-73823号公報)の記載は、前記第2.の[理由]2.2-2.(1)ないし(3)のとおりである。

(3)対比・判断
補正案発明は、実質的に、本願補正発明における発明特定事項のうち一部の発明特定事項(「特に直接噴射装置(9)を制御及び/又は調整するための」及び「ストップ機能」)を省いたものに相当する。
そうすると、補正案発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の[理由]1.ないし3.に記載したとおり、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、補正案発明も、同様の理由により、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、補正案発明は、その優先日前に日本国内において頒布された引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、仮に補正の機会があるとしても、補正案発明は特許を受けることができないことから、補正の機会を設けることなく、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-16 
結審通知日 2010-09-17 
審決日 2010-09-30 
出願番号 特願2003-415256(P2003-415256)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 祐介畔津 圭介  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 八板 直人
金澤 俊郎
発明の名称 内燃機関の始動法、内燃機関、該内燃機関を制御するための制御装置並びに該制御装置の演算装置で進行可能なコンピュータプログラム  
代理人 杉本 博司  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  
代理人 矢野 敏雄  

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