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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16K
管理番号 1232476
審判番号 不服2008-30104  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-27 
確定日 2011-02-18 
事件の表示 特願2004-46445「電動弁における全開保持装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年9月2日出願公開、特開2005-233383〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成16年2月23日の出願であって、平成20年10月22日付けで拒絶査定がされたところ、これに対し、平成20年11月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年12月22日付けで明細書及び特許請求の範囲の手続補正がなされたものである。

II.平成20年12月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年12月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
弁本体を貫通する流路を開閉する回転弁と、
回転弁を閉方向に付勢する弁リターンスプリングと、
弁リターンスプリングのバネ力に抗し、回転弁を開方向へ動作する電動機と、
を備える電動弁において、
回転弁(3)と同期的に回転する弁軸(4)の端部(4a)を、弁本体(1)上に配置されるケース(5)より突出して配置するとともに前記端部には、弁軸(4)の長手軸心線(X)-(X)に直交する支持孔(4b)が貫通して穿設され、
一方、保持部材(10)は、
支持孔(4b)に移動自在に挿入配置される挿入軸部(10a)と、
挿入軸部(10a)より係止段部(10c)を介して先端(10e)方向に向かって連設され、挿入軸部(10a)より大径をなす係止軸部(10b)と、
挿入軸部(10a)の後端(10f)に形成されるスプリング係止鍔部(10d)と、を備え、
前記保持部材の挿入軸部(10a)を弁軸(4)の支持孔(4b)内に挿入配置するとともに弁軸(4)の他側面(4c)と保持部材(10)のスプリング係止鍔部(10d)との間に、弁リターンスプリング(8)のバネ力より弱いバネ力を有する保持用スプリング(11)を縮設することにより、保持部材(10)の係止段部(10b)を弁軸(4)の一側面(4d)に弾性的に当接配置し、
更にケース(5)には、
保持部材(10)の係止段部(10c)が弁軸(4)の一側面(4d)に当接した状態で、
且つ回転弁(3)の全閉から全開に至る回転範囲内において、前記係止軸部が当接することがなく、一方回転弁(3)の全開時において、保持用スプリング(11)のバネ力に抗して保持部材(10)を先端(10e)側に押圧して係止段部(10c)を弁軸(4)の一側面(4d)から離反した状態において、係止軸部(10b)の閉方向回転側の側部(10b1)に対して間隙(S)をもって対向配置される規制部(12)を設けたことを特徴とする電動弁における全開保持装置。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
弁本体を貫通する流路を開閉する回転弁と、回転弁を閉方向に付勢する弁リターンスプリングと、弁リターンスプリングのバネ力に抗し、回転弁を開方向へ動作する電動機と、を備える電動弁において、
回転弁(3)と同期的に回転する弁軸(4)の端部(4a)を、弁本体(1)上に配置されるケース(5)より突出して配置するとともに前記端部には、弁軸(4)の長手軸心線(X)-(X)に直交する支持孔(4b)が貫通して穿設され、
一方、保持部材(10)は、支持孔(4b)に移動自在に挿入配置される挿入軸部(10a)と、挿入軸部(10a)より係止段部(10c)を介して先端(10e)方向に向かって連設され、挿入軸部(10a)より大径をなす係止軸部(10b)と、挿入軸部(10a)の後端(10f)に形成されるスプリング係止鍔部(10d)と、を備え、
前記保持部材の挿入軸部(10a)を弁軸(4)の支持孔(4b)内に挿入配置するとともに弁軸(4)の他側面(4c)と保持部材(10)のスプリング係止鍔部(10d)との間に、弁リターンスプリング(8)のバネ力より弱いバネ力を有する保持用スプリング(11)を縮設することにより、保持部材(10)の係止段部(10b)を弁軸(4)の一側面(4d)に弾性的に当接配置し、
更にケース(5)には、保持部材(10)の係止段部(10c)が弁軸(4)の一側面(4d)に当接した状態で、且つ回転弁(3)の全閉から全開に至る回転範囲内において、前記係止軸部が当接することがなく、
一方、電動機(6)への通電による回転弁(3)の全開時において、保持用スプリング(11)のバネ力に抗して保持部材(10)を先端(10e)側に押圧して係止段部(10c)を弁軸(4)の一側面(4d)から離反した状態において、係止軸部(10b)の閉方向回転側の側部(10b1)に対して間隙(S)をもって対向配置される規制部(12)を設け、
電動機(6)への通電による回転弁(3)の全開において、保持用スプリング(11)のバネ力に抗して保持部材(10)を先端(10e)側に押圧した状態で通電を遮断した際に、間隙(S)の距離だけ弁リターンスプリング(8)により回転弁(3)が閉方向に回転し係止軸部(10b)の閉方向回転側の側部(10b1)と規制部(12)が当接することで、回転弁(3)を全開状態よりわずかに閉塞された略全開状態に保持できるようにしたことを特徴とする電動弁における全開保持装置。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「回転弁(3)の全開時」に関し「電動機(6)への通電による回転弁(3)の全開時」(下線部のみ)とその構成を限定するとともに、同じく「係止軸部(10b)の閉方向回転側の側部(10b1)」と「規制部(12)」の関係について「電動機(6)への通電による回転弁(3)の全開において、保持用スプリング(11)のバネ力に抗して保持部材(10)を先端(10e)側に押圧した状態で通電を遮断した際に、間隙(S)の距離だけ弁リターンスプリング(8)により回転弁(3)が閉方向に回転し係止軸部(10b)の閉方向回転側の側部(10b1)と規制部(12)が当接することで、回転弁(3)を全開状態よりわずかに閉塞された略全開状態に保持できるようにした」とその構成を限定的に減縮するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、
「【0016】
上記の如く電動機6に通電され、回転弁3が電動機6によって全開状態に付勢された状態において、保持部材11は手動操作により保持用スプリング11を圧縮する側に押圧作動される。
すなわち保持部材11は図3において右方へ押圧され、図4に示される状態に手動で保持される。
以上によると、保持部材11の係止軸部10bは図4において右方へ突出して移動保持されるもので、このとき係止軸部10bはケース5の上面5aに設けた規制部12の図4における上端面12aに微少間隙Cをもって対向配置される。
【0017】
次に前記図4の保持部材11を手動押圧保持した状態において電動機6の通電が遮断される。
これによると、保持部材11を含む弁軸4は弁リターンスプリング8のバネ力によって即座に時計方向Aに向かって回転するもので、この時計方向Aの回転は、係止軸部10bが微少間隙Cを移動して規制部12の上端面12aに当接して停止する。この状態は図5に示される。
以上によると、回転弁3は全開状態からほんのわずかに閉方向側に移動した略全開状態に保持されるもので、電動機6の通電が遮断された後において継続して回転弁3の略全開状態を保持する。」(段落【0016】及び【0017】参照)と記載されている。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に該当するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:実願平2-12943号(実開平3-104575号)のマイクロフィルム

(刊行物1)
刊行物1には、「電動操作機の出力軸保持装置」に関して、図面(特に、第6及び7図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、丸付き数字をカッコ付き数字として表記した箇所がある。
(a)「本考案は、例えばガスの緊急遮断弁又は空調機器に内設される冷温水遮断弁等のスプリングリターン型電動操作機に関するものである。」(第2頁第5?7行)
(b)「第1図?第5図により、本考案の一実施例を説明する。
この実施例は、通電時開型の電動弁を示しているが、通電時閉型の場合も、本考案の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。
10はロータリー型電動操作機であり、ボール弁11に搭載して、ボール弁体12を回動駆動し、流体流路を開閉制御するものである。ボール弁11には流入口13から流出口14へ連通する流体流路が連通しており、固定配置された2枚のシート15に挟持された球状のボール弁体12には穴16が貫通している。ボール弁体12に係止された弁棒17は回動自在にボール弁11に配置され、2本のO-リング18およびテフロンパッキン19が弁棒17の外周に配置され、流体の外部洩れを防止している。
弁棒17の上端は電動操作機10の出力軸下端20と連結され、出力軸の回動と共に弁棒17およびボール弁体12が90度回動して流体流路が開閉制御される。電動操作機10は、内部に電動機およびスプリングを配置しており、電気配線部21に通電していない時にはスプリング力にて弁閉位置に回動付勢されており、電気配線部21に通電された時のみ、電動機の回動力によって弁開位置に回動付勢されるものである。
そして、回動する出力軸の上端は、電動操作機の上部に突出しており、上端は二面取りの手動操作部2が形成される。この面取りの下部には、十字穴付なべ小ねじ5がねじ込まれて固着されている。更に操作機の上面には円柱ボス形状の突起部4が形成されている。
なお、操作機上面には回転方向を示す矢印および、S(SHUT)およびO(OPEN)マークが表示されている。
実施例の作用を説明すると、第1図?第3図は弁閉状態を示しており、スプリングの力にて出力軸はS方向へ押圧付勢されている。次に電気配線部21に通電すると、電動機の力によって出力軸はO方向へ回動し、第4図に示す様に弁開位置となる。又、電源を切ると、S方向へ回動し、第3図の状態にもどる。今、停電時もしくは電気工事前に手動操作する場合には、出力軸の上端の手動操作部2の二面取り部分にスパナを掛けて、スプリングの力に抗して手動にて任意に弁開操作が可能である。
次に弁開位置で保持したい場合には、第5図に示す様に弁開位置状態で十字穴付なべ小ねじ5をゆるめて、突出させ、突起部4と保持部材としての小ねじ5とを係止させるものである。なお、係止を解除させたい時は、再度小ねじ5をねじ込み、保持部材としての小ねじと突起部4との係止を解除すれば良いものである。
更に、本考案の他の実施例を第6図?第7図にて説明すると、操作機上端に突出した出力軸1の上端には二面取りの手動操作部2を形成している。そして、出力軸の貫通穴に棒6が摺動自在に嵌合配置され、該棒6は、ばね7の力によって一定方向へ押圧付勢されている。
通常の弁開閉操作時は第6図に示す様に棒6はばね7の力によって押圧され、棒6は突起部4と係止することはない。次に、停電時等に弁開保持したい場合には、第7図に示す様に弁開位置状態において、棒6をばね7の力に抗して押圧操作し、棒6と突起部4とを係止させるものである。この時、出力軸1は、スプリング力に抗して、弁開状態に保持できるものである。
実施例の効果を説明すると、出力軸は回動のみであるので、出力軸の上端および下端部は、操作機内部にO-リング22,23を配置して、防水構造をとることができる。そして、手動操作部分と、弁開保持機構とを操作機の上端にコンパクトに集約したので、弁本体および操作機の下部を保温部材(グラスウール,ロークウール,ポリスチレンフォーム等)で巻回した場合においても、(1)弁開閉表示が容易に目視確認できる。(2)弁開閉操作が容易にできる。(3)弁開保持が可能であり、解除も容易である。(4)防水構造をとることが容易である。(5)手動開保持機構がコンパクトで安価に量産できる。等の優れた効果を有するものである。」(第3頁第16行?第7頁第13行)
(c)「以上詳述した様に、本考案は、
(1)停電時あるいは電気配線工事前に、出力軸をスプリング力に抗して操作可能であると共に、
(2)その操作位置でスプリング力に抗して出力軸を保持することが出来、更に解除することができる、
スプリングリターン型電動操作機の出力軸保持装置を提供できたものである。」(第7頁第15行?第8頁第2行)
(d)図6から、棒6の先端鍔部(図6の左側の鍔部)の出力軸1側の側面部(以下、「先端鍔部側面部」という。)を出力軸1の一側面(図6の左側の側面)に弾性的に当接配置している構成が看取できる。
(e)図7から、棒6の先端鍔部の閉方向回転側(図7の左側)の角縁部が突起部4と係合している構成が看取できる。
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
ボール弁11を貫通する流体流路を開閉するボール弁体12と、ボール弁体12を閉方向に付勢するスプリングと、スプリングのバネ力に抗し、ボール弁体12を開方向へ動作する電動機と、を備える電動操作機において、
ボール弁体12と同期的に回転する弁棒17と連結されている出力軸1の上端を、ボール弁11上に配置されるロータリー型電動操作機10のケースより突出して配置するとともに前記上端には、出力軸1の長手軸心線に直交する貫通穴が貫通して穿設され、
一方、棒6は、貫通穴に摺動自在に嵌合配置される軸部と、軸部の先端に形成され軸部より大径をなす先端鍔部と、軸部の後端に形成される後端鍔部と、を備え、
前記棒6の軸部を出力軸1の貫通穴内に摺動自在に嵌合配置するとともに出力軸1の他側面と棒6の後端鍔部との間に、スプリングのバネ力より弱いバネ力を有するばね7を縮設することにより、棒6の先端鍔部側面部を出力軸1の一側面に弾性的に当接配置し、
更にケースには、棒6の先端鍔部側面部が出力軸1の一側面に当接した状態で、且つボール弁体12の全閉から全開に至る回転範囲内において、前記先端鍔部が当接することがなく、
一方、ばね7のバネ力に抗して棒6を先端側に押圧して先端鍔部側面部を出力軸1の一側面から離反した状態において、先端鍔部の閉方向回転側の角縁部に対して対向配置される突起部4を設け、
先端鍔部の閉方向回転側の角縁部と突起部4が係合することで、ボール弁体12を保持できるようにした電動操作機の出力軸保持装置。

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「ボール弁11」は本願補正発明の「弁本体」に相当し、以下同様に、「流体流路」は「流路」に、「ボール弁体12」は「回転弁」に、「スプリング」は「弁リターンスプリング」に、「電動操作機」は「電動弁」に、「弁棒17と連結されている出力軸1」又は「出力軸1」は「弁軸4」に、「上端」は「端部4a」に、「ロータリー型電動操作機10のケース」は「ケース5」に、「長手軸心線」は「長手軸心線X-X」に、「貫通穴」は「支持孔4b」に、「棒6」は「保持部材10」に、「摺動自在」は「移動自在」に、「嵌合配置」は「挿入配置」に、「軸部」は「挿入軸部10a」に、「後端」は「後端10f」に、「後端鍔部」は「スプリング係止鍔部10d」に、「他側面」は「他側面4c」に、「ばね7」は「保持用スプリング11」に、「一側面」は「一側面4d」に、「突起部4」は「規制部12」に、「係合」は「当接」に、「電動操作機の出力軸保持装置」は「電動弁における全開保持装置」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「先端鍔部」は、その有する機能からみて、「係止手段」である限りにおいて、本願補正発明の「係止軸部10b」にひとまず相当するので、両者は、下記の一致点、及び相違点1?3を有する。
<一致点>
弁本体を貫通する流路を開閉する回転弁と、回転弁を閉方向に付勢する弁リターンスプリングと、弁リターンスプリングのバネ力に抗し、回転弁を開方向へ動作する電動機と、を備える電動弁において、
回転弁と同期的に回転する弁軸の端部を、弁本体上に配置されるケースより突出して配置するとともに前記端部には、弁軸の長手軸心線に直交する支持孔が貫通して穿設され、
一方、保持部材は、支持孔に移動自在に挿入配置される挿入軸部と、挿入軸部より大径をなす係止手段と、挿入軸部の後端に形成されるスプリング係止鍔部と、を備え、
前記保持部材の挿入軸部を弁軸の支持孔内に挿入配置するとともに弁軸の他側面と保持部材のスプリング係止鍔部との間に、弁リターンスプリングのバネ力より弱いバネ力を有する保持用スプリングを縮設することにより、保持部材の係止手段側面部を弁軸の一側面に弾性的に当接配置し、
更にケースには、保持部材の係止手段側面部が弁軸の一側面に当接した状態で、且つ回転弁の全閉から全開に至る回転範囲内において、前記係止手段が当接することがなく、
一方、保持用スプリングのバネ力に抗して保持部材を先端側に押圧して係止手段側面部を弁軸の一側面から離反した状態において、係止手段の閉方向回転側の部分に対して対向配置される規制部を設け、
係止手段の閉方向回転側の部分と規制部が当接することで、回転弁3を保持できるようにした電動弁における全開保持装置。
(相違点1)
前記係止手段に関し、本願補正発明は、前記保持部材が、「挿入軸部(10a)より係止段部(10c)を介して先端(10e)方向に向かって連設され、挿入軸部(10a)より大径をなす係止軸部(10b)」を備えるのに対し、引用発明は、棒6が、軸部の先端に形成され軸部より大径をなす先端鍔部を備える点。
(相違点2)
本願補正発明は、前記規制部(12)が、「電動機(6)への通電による回転弁(3)の全開時において」、「係止軸部(10b)の閉方向回転側の側部(10b1)に対して間隙(S)をもって対向配置される」のに対し、引用発明は、突起部4が先端鍔部の閉方向回転側の角縁部に対して対向配置される点。
(相違点3)
本願補正発明は、「電動機(6)への通電による回転弁(3)の全開において、保持用スプリング(11)のバネ力に抗して保持部材(10)を先端(10e)側に押圧した状態で通電を遮断した際に、間隙(S)の距離だけ弁リターンスプリング(8)により回転弁(3)が閉方向に回転し係止軸部(10b)の閉方向回転側の側部(10b1)と規制部(12)が当接することで、回転弁(3)を全開状態よりわずかに閉塞された略全開状態に保持できるようにした」のに対し、引用発明は、先端鍔部の閉方向回転側の角縁部と突起部4が係止することで、ボール弁体12を保持できるようにした点。
以下、上記相違点1?3について検討する。
(相違点1について)
引用発明の先端鍔部側面部(先端鍔部の出力軸1側の側面部)も、出力軸1の一側面に弾性的に当接配置されるものであり、引用発明の先端鍔部の軸方向寸法を適宜の長さとして、軸部より係止段部を介して先端方向に向かって連設され、軸部より大径をなす係止軸部とすることは、当業者が適宜なし得る設計変更の範囲内の事項にすぎない。
してみれば、引用発明の先端鍔部の構成を変更して、軸部より係止段部を介して先端方向に向かって連設され、軸部より大径をなす係止軸部として、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点2について)
刊行物1には、第6及び7図の記載からみて、ケースには、棒6の先端鍔部側面部が出力軸1の一側面に当接した状態で、且つボール弁体12の全閉から全開に至る回転範囲内において、棒6の先端鍔部が当接することがなく、一方、電動機への通電によるボール弁体12の全開時において、ばね7のバネ力に抗して棒6を先端側に押圧して先端鍔部側面部を出力軸1の一側面から離反した状態において、先端鍔部の閉方向回転側の角縁部に対して間隙をもって対向配置される突起部4を設けた電動操作機の出力軸保持装置が記載又は示唆されている。
この点について、更に詳細に述べると、引用発明は、刊行物1の第6及び7図の記載からみて、電動機への通電による回転力によって出力軸1を全開位置まで回動し、この全開位置でばね7のバネ力に抗して棒6を先端側に押圧して先端鍔部側面部を棒6の一側面から離反させると共に、先端鍔部を突起部4の位置を超えて移動させているが、その際、先端鍔部の閉方向回転側の角縁部と突起部4との間に隙間がなければ、先端鍔部が突起部4に衝突してしまい、滞りなく先端鍔部を突起部4の位置を超えて移動させることはできないから、突起部4の位置を超えて移動する棒6の先端鍔部の閉方向回転側の角縁部と突起部4との間に隙間が存在することは技術的に自明である。
仮に、引用発明において、そのような隙間が存在しないとしても、先端鍔部が突起部4に衝突しないで、滞りなく先端鍔部が突起部4の位置を超えて移動できるように、突起部4の位置を超えて移動する棒6の先端鍔部の閉方向回転側の角縁部と突起部4との間に隙間を設けることにより、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点3について)
引用発明は、刊行物1の第6及び7図の記載からみて、電動機への通電によるボール弁体12の全開において、ばね7のバネ力に抗して棒6を先端側に押圧して棒6の先端鍔部を突起部4の位置を超えて移動させ、その状態で電動機への通電を遮断してスプリングのバネ力でボール弁体12を閉方向に回転させる際、棒6の先端鍔部の閉方向回転側の角縁部と突起部4が当接することで、ボール弁体12を全開状態よりわずかに閉塞された略全開状態に保持できるようにしたものであることは、上記(相違点2について)において述べたことから技術的に自明である。
また、引用発明の先端鍔部の閉方向回転側の角縁部と突起部4が当接する構成に変えて、上記(相違点1について)における判断の前提下において、引用発明の先端鍔部の閉方向回転側の側部と突起部4が当接するようにして、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。

本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明が奏する効果以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由を補正した平成20年12月22日付けの手続補正書(方式)において、「本願発明(審決注:本審決の「本願補正発明」に対応する。以下同様。)は、上記各構成が有機的に結合することによって、明細書に記載した通りの次のような格別の効果を達成することができます。
効果a『特に回転弁が略全開状態に保持された状態において、回転弁を駆動する電動機に向けて通電し、次いで即座に通電を遮断することによって瞬時に回転弁を全閉状態へ復帰させることが可能となったもので、その回転弁の全閉復帰を自動的に行なうことができたことにより配管内に複数の電動弁が配置されたもの、あるいは離れた位置に配置された電動弁における前記操作を瞬時にして且つ同時に行なうことができ、その操作性、作業性を大きく向上できたものである。』」(「(3)本願発明が特許されるべき理由」「(イ)本願発明の説明」の項参照)などと本願補正発明が奏する効果について主張している。
しかしながら、上記(相違点1について)?(相違点3について)において述べたように、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるところ、審判請求人が主張する本願補正発明が奏する上記の作用効果は、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものにすぎず、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の作用効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の上記主張は採用することができない。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成20年12月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成20年6月27日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
弁本体を貫通する流路を開閉する回転弁と、
回転弁を閉方向に付勢する弁リターンスプリングと、
弁リターンスプリングのバネ力に抗し、回転弁を開方向へ動作する電動機と、
を備える電動弁において、
回転弁(3)と同期的に回転する弁軸(4)の端部(4a)を、弁本体(1)上に配置されるケース(5)より突出して配置するとともに前記端部には、弁軸(4)の長手軸心線(X)-(X)に直交する支持孔(4b)が貫通して穿設され、
一方、保持部材(10)は、
支持孔(4b)に移動自在に挿入配置される挿入軸部(10a)と、
挿入軸部(10a)より係止段部(10c)を介して先端(10e)方向に向かって連設され、挿入軸部(10a)より大径をなす係止軸部(10b)と、
挿入軸部(10a)の後端(10f)に形成されるスプリング係止鍔部(10d)と、を備え、
前記保持部材の挿入軸部(10a)を弁軸(4)の支持孔(4b)内に挿入配置するとともに弁軸(4)の他側面(4c)と保持部材(10)のスプリング係止鍔部(10d)との間に、弁リターンスプリング(8)のバネ力より弱いバネ力を有する保持用スプリング(11)を縮設することにより、保持部材(10)の係止段部(10b)を弁軸(4)の一側面(4d)に弾性的に当接配置し、
更にケース(5)には、
保持部材(10)の係止段部(10c)が弁軸(4)の一側面(4d)に当接した状態で、
且つ回転弁(3)の全閉から全開に至る回転範囲内において、前記係止軸部が当接することがなく、一方回転弁(3)の全開時において、保持用スプリング(11)のバネ力に抗して保持部材(10)を先端(10e)側に押圧して係止段部(10c)を弁軸(4)の一側面(4d)から離反した状態において、係止軸部(10b)の閉方向回転側の側部(10b1)に対して間隙(S)をもって対向配置される規制部(12)を設けたことを特徴とする電動弁における全開保持装置。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の回転弁(3)の全開時に関する限定事項である「電動機(6)への通電による」の構成を省くことにより拡張するとともに、同様に、「係止軸部(10b)の閉方向回転側の側部(10b1)」と「規制部(12)」の関係に関する限定事項である「電動機(6)への通電による回転弁(3)の全開において、保持用スプリング(11)のバネ力に抗して保持部材(10)を先端(10e)側に押圧した状態で通電を遮断した際に、間隙(S)の距離だけ弁リターンスプリング(8)により回転弁(3)が閉方向に回転し係止軸部(10b)の閉方向回転側の側部(10b1)と規制部(12)が当接することで、回転弁(3)を全開状態よりわずかに閉塞された略全開状態に保持できるようにした」の構成を省くことにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
結局、本願の請求1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2及び3に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-07 
結審通知日 2010-09-14 
審決日 2010-12-28 
出願番号 特願2004-46445(P2004-46445)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16K)
P 1 8・ 575- Z (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 刈間 宏信  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
藤村 聖子
発明の名称 電動弁における全開保持装置  

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