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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1232647
審判番号 不服2007-28721  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-22 
確定日 2011-02-25 
事件の表示 特願2000-535745「新規G蛋白質共役型レセプター蛋白質」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 9月16日国際公開、WO99/46378〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う1999年(平成11年)3月11日(優先日 1998年3月12日 特願平10-60245号、1999年2月3日 特願平11-26774号)を国際出願日とする国際出願であって、その請求項1及び6に係る発明は、平成19年8月28日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】配列番号:4記載のアミノ酸配列を有するG蛋白質共役型レセプター蛋白質。」(以下、「本願発明1」という。)
「【請求項6】請求の範囲1記載のG蛋白質共役型レセプター蛋白質と被験化合物とを接触させ、当該G蛋白質共役型レセプター蛋白質作用薬をスクリーニングする方法。」(以下、「本願発明6」という。)
2.原査定の理由・当審の判断
(1)原査定の理由
原査定における拒絶の理由の一つは、本願の発明の詳細な説明は、本願請求項1?6に記載の発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、というものである。

(2)実施可能要件
本願発明1は、レセプター蛋白質という化学物質に係る発明であり、化学物質に係る発明を当業者が実施することができるとは、当該発明に係る物質を作ることができ、かつ、使用することができることである。
すわなち、化学物質としての蛋白質にどのような有用性(機能)があるかが明細書に記載され、あるいは明細書の記載から類推できなければ、その化学物質をどのような産業上の利用ができるか、使用できるかについて記載されていないことになり、該発明について当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に、発明の詳細な説明に記載されていないことになる。

(3)明細書の記載
本願発明1のG蛋白質共役型レセプター蛋白質(以下、「GPCR蛋白質」という。)は、本願明細書においてSREB2と命名され、SREB2に関して、実施例1には、SREB2をコードする遺伝子をヒト脳由来のpolyA+RNA(Clotech社)をtemplateとしてRT-PCRにより取得したことが、実施例2には、ノーザン分析によるSREB2遺伝子の発現が、脳、精巣、胎盤、脾臓、小腸で検出され、脳の中でも扁桃体、尾状核、海馬、黒質、視床下核、視床、小脳、大脳皮質群、被殻で多く検出され、脳梁、延髄、脊髄ではあまり検出されなかったことが、実施例3では、SREB2をコードする遺伝子を293-EBNA細胞に導入して発現させ、ウエスタン分析により42kDaの蛋白質の発現を確認したことが、実施例4では、ラットSREB2をコードする遺伝子を単離し、その予測アミノ酸配列がヒトSREB2のものと100%一致することが、実施例5では、SREB1に対する抗体がSREB2に結合することが、実施例6では、SREB2をコードする遺伝子を導入した293-EBNA細胞で転写活性の変化が見いだされたことから、SREB2が機能的GPCRであることが、それぞれ記載されている。
一方、本願明細書におけるSREB2の機能、有用性に関する記載としては、
「本発明の中枢神経系に発現しているGPCR蛋白質の活性を特異的に修飾する化合物、ペプチド及び抗体を有効成分とする医薬は、中枢神経系の機能性/器質性疾患の治療薬剤等としての有用性が期待できる。また、本発明のGPCRファミリー蛋白質は中枢神経系のみならず、泌尿器生殖器系で発現していることから、その活性を特異的に修飾する化合物、ペプチド及び抗体を有効成分とする医薬は泌尿器生殖器系に関わる疾患の治療薬剤等としての有用性が期待できる。 …(途中省略)…
本発明新規GPCRファミリーSREB1、SREB2またはSREB3はヒトとラットでアミノ酸の保存率が極めて高い。この保存率は既存のGPCRファミリーの中で最も高く、このことは新規GPCRファミリーSREB1、SREB2、及びSREB3の生体内での役割、特に中枢神経系での生理的役割の重要性を示していると考えられる。また、ヒトとラットでアミノ酸配列が97%以上の保存率を示していることから、本新規GPCRファミリーSREB1、SREB2またはSREB3に作用する薬物の活性には種差が殆ど無いと考えられる。従って、本発明のGPCRは、それ自体又は当該レセプターを用いたスクリーニングから得られた化合物又は蛋白質を医薬として開発する際、ヒトに対する薬理効果を試験するに先立って、予め、例えばラット等の動物実験を行うことができるという利点があり、動物実験データからヒトの臨床データを予測することが容易である点で有用である。
本発明のGPCR蛋白質に対する抗体は、該GPCR蛋白質の臓器での発現およびその変動をELISAアッセイ、ラジオイムノアッセイ、ウエスタンブロット法等によって検出することが可能であり。診断薬として有用である。また、該新規GPCR蛋白質の活性を修飾する抗体は該新規GPCR蛋白質が関与する疾患の治療薬として、さらに該レセプター蛋白質の分離精製の道具としても有用である。」(産業上の利用可能性の項第9行?最終行)と記載されている。

(4)当審における判断
以上のことから、本願明細書には、新規ヒトGPCR遺伝子としてクローニングされ、配列番号4記載のアミノ酸配列を有するGPCR(以下、「SREB2」という。)蛋白質は、脳、精巣、胎盤、脾臓、小腸で発現していること、及びヒトとラット間のアミノ酸配列が100%一致することが記載されているが、そのSREB2の機能、活性についての具体的な記載はなく、また、該SREB2は、リガンドが未知のオーファン受容体である。
そして、上記発現部位と、ヒトとラット間のアミノ酸配列が100%同一性を示すという事実は、特に中枢神経系での生理的役割の重要性を示すものであり、該SREB2は、中枢神経系の機能性/器質性疾患の治療薬剤または泌尿器生殖器系に関わる疾患の治療薬剤の標的になるという推定が、本願明細書に記載されている。
しかし、その記載は、「有用性が期待できる。」という、考え得る可能性を示した単なる希望程度にすぎないものである。また仮に、中枢神経系において重要な情報伝達を担っているものであるとしても、本願明細書において、SREB2の機能、活性については何ら解明されていないのであるから、具体的に中枢神経系におけるどのような情報の伝達に関与しているか、あるいは、どのような疾患に関連しているかの手がかりさえなく、かかる具体性に欠く本願明細書の記載からでは、その機能、活性を解明し、それを具体的な疾患の治療の標的とするためには、当業者であってもさらに多くの実験を行わなければならず、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるものである。
またたとえ、SREB2のアゴニスト、アンタゴニストがスクリーニングできたとしても、何の活性に対するアゴニスト、アンタゴニストであるかは不明なままであるから、その活性を解明するためにさらに多くの実験を行う必要であることも、同様である。
さらに、ヒトとラット間のアミノ酸配列が100%同一であることによる動物実験データの利点に関する有用性についても、SREB2の何らかの活性がわかって初めて、その活性に関連する医薬を開発できるものであり、活性が何もわからない時点ではそのような動物実験さえできないのであるから、この利点だけで有用性があるとはいえない。
以上のように、本願発明1が、産業上利用できる程度に使用できることが記載されているというためには、その具体的な有用性が解明される必要があり、そのためには、さらに当業者にとって過度な実験を要するものである。

これに対して、審判請求人は、平成20年1月9日付で提出した審判請求の理由の手続補正書において、「当業者であれば、ヒトとラットで100%アミノ酸配列が一致しており、脳内で広く中枢神経系に発現するSREB2について、本明細書は、優先日当時の技術常識に基づき実施することができる程度に明確かつ十分に記載されており、また、SREB2が中枢性疾患治療剤の標的になることは明細書で十分に裏付けられていると考えるであろう。」と主張し、その根拠として、以下の2点を挙げている。
(ア)「ヒトとラット間の配列相同性が高い受容体は、生体内で非常に重要な役割を担っていることは当業者には周知な事項です(平成19年 8月28日意見書 参考資料1 Biochem.J. 279, 129-134, 1991)、参考資料2 人類遺伝学331-332)。また、アセチルコリン受容体、グルタミン酸受容体は、いずれも中枢神経系で発現し、神経伝達において大変重要な役割を果たし、中枢性疾患治療剤の標的として周知なGPCR(平成19年 8月28日意見書 参考資料3 NEW薬理学88-97、参考資料4 Eur Arch Psychiatry Clin. Neurosci. 240, 121-133, 1990)であり、それらのヒト及びラットの配列は本願優先日前に公知でした(平成19年 8月28日意見書 参考文献5 Science 237 527-532 1987、参考文献6 The EMBO Journal 6 3923-3929 1987、参考文献7 Molecular Brain Research 40 165-170 1996)。優先日前にヒト及びラットのアミノ酸配列が公知のGPCRのうち、ヒトとラットのアミノ酸配列同一性が99%以上という非常に類似した配列を有するGPCRは、アセチルコリン受容体(CHRM1 99%)、グルタミン酸受容体(mGluR7 99%)のみでした。
以上より、当業者であれば、ヒトとラットで100%アミノ酸配列が一致しており、脳内で広く中枢神経系に発現するGPCRであれば、中枢性疾患治療剤の標的と考えるものと思料いたします。」(手続補正書第5頁第5行?第20行)
(イ)「過剰発現トランスジェニックマウスを作成することにより、過剰発現させた蛋白質の機能を確認する手法は周知慣用技術です。早期審査に関する事情説明書にお示しした本発明に周知慣用技術を適用した下記実験より、認知機能の定量的解析法として知られている恐怖条件付け試験等により、SREB2過剰発現トランスジェニックマウスが中枢性疾患である認知機能の障害を呈することが確認されています。」(同第3頁第21行?第25行)、「上記実験結果は、SREB2が中枢性疾患である統合失調症、認知症、アルツハイマー、精神遅延等、認知機能にかかわる幅広い中枢性疾患の治療標的になることを裏付けており、中枢性疾患治療剤のスクリーニングツールとして使用できることが明らかであると思料いたします。」(同第4頁下から第7行?下から第4行)

まず、上記(ア)については、種間で保存されたアミノ酸配列を有する蛋白質は、一般的に生体内で重要な機能を担っていることが多いものの、生体内で重要な機能を担う蛋白質であれば、必ず種間で保存されたアミノ酸配列を有するとはいえないし、種間で保存の度合いが高ければ高いほど、生体内での機能が重要であるという技術常識はない。
このことは、請求人が上記(ア)の主張中で示した参考資料1の第132頁の左欄第25行?第31行に、神経伝達物質をリガンドとするヒトGPCRは、ヒトと哺乳動物間で保存されており、例えば、ドーパミンD2受容体で96%、ムスカリンアセチルコリン受容体のサブタイプで93?97%であることが記載され、同じく参考文献7には、ヒト代謝型グルタミン酸受容体のサブタイプはmGluR1-7が知られており、ヒトとラット間でアミノ酸レベルで、mGluR7が97%、mGluR1が93%、mGluR2-4が97%、mGluR5が95%保存されていることが記載されており、種間でのアミノ酸配列の保存の度合いと生体内での機能の重要性が一致しているとはいえない。
確かに、審判請求人のいう中枢性疾患治療剤の標的として周知の、上記3つの神経伝達物資をリガンドとするGPCRの種間のアミノ酸の保存性は93%以上という高いものであるが、上記のごとくサブタイプにより異なるものであるから、アセチルコリン受容体(CHRM1 99%)、グルタミン酸受容体(mGluR7 99%)の保存性が99%以上であるからといって、サブタイプによってはそれ以下のものもあり、このように99%以上、本願発明の100%という種間の高い保存性と、中枢神経系における機能の重要性との相関関係があるという根拠に欠ける。

また、そもそもGPCRが神経伝達制御に関わっていることは周知の事項であり、その生理的機能は重要であり、中枢性疾患治療剤の標的と考えるとしても、その具体的機能が不明であれば、そのことだけでは、当業者が実施できる程度に記載されているとはいえない。
一方、上記(イ)の過剰発現トランスジェニックマウスを作成した実験については、その実施日が記載されていないが、早期審査に関する事情説明書の提出日が平成19年5月9日であり、本願出願後かなり経過してから実施されたものと考えられる。このことは、本願出願後9年経過した2008年に頒布された刊行物であり、本発明者の共著文献であるProc.Natl.Acad.Sci.USA(2008)Vol.105,No.16,p.6133-6138に、SREB2のリガンドの同定に成功しなかったため、過剰発現トランスジェニックマウスとノックアウトマウスを作成した結果、SREB2が脳の大きさ、行動及び統合失調症の脆弱性に影響を及ぼすことがわかったことが記載されていることからも、うかがえる。
そして、本願明細書にはそのような具体的な機能、活性は記載されていないので、上記の後付の実験の結果を参酌することはできないし、そのような機能が本願明細書から類推できるとはいえない。むしろ、その活性、機能を解明するためには約9年という年月を有したこと、即ち、当業者であっても過度な実験を要することが証明されているといえ、本願発明を実施するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要であるものであることは明らかである。

以上のように、本願発明1に係るGPCRに、どのような有用性(機能)があるかは明細書に記載されておらず、かつ明細書の記載から類推できるものでもないので、このようなGPCRの機能、活性についての具体的記載を欠く本願明細書には、そのGPCRを使用できるように記載されているとはいえず、本願の発明の詳細な説明には、本願発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
また、有用性の不明な本願発明1に係るGPCRを用いた、当該GPCR作用薬をスクリーニングする方法に係る本願発明6についても、本願発明1と同様な理由により、本願の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

3.むすび
したがって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、請求項2?5に係る発明については検討するまでもなく、本願は特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-01 
結審通知日 2010-11-30 
審決日 2010-12-13 
出願番号 特願2000-535745(P2000-535745)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊達 利奈  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 鵜飼 健
吉田 佳代子
発明の名称 新規G蛋白質共役型レセプター蛋白質  
代理人 鈴木 ▲頼▼子  
代理人 矢野 恵美子  
代理人 濱井 康丞  
代理人 森田 拓  

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