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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1232690
審判番号 不服2010-8219  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-19 
確定日 2011-02-23 
事件の表示 特願2009-116404号「広帯域コントラスト偏光ガラス」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月24日出願公開、特開2009-217280号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成9年11月18日(パリ条約による優先権主張1996年12月4日、米国)を国際出願日とする特願平10-525615の一部を平成19年1月4日に新たな特許出願とした特願2007-33号の一部を平成21年5月13日に更に新たな特許出願としたものであって、平成21年12月4日付けで手続補正がなされ、平成21年12月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成22年4月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
本願の特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「偏光ガラス品において、輻射スペクトルの赤外領域で広帯域の高コントラスト偏光特性を示し、大きさが200?5000Åの範囲にある銀、銅、または銅-カドミウムのハロゲン化物結晶の前記ガラス内での析出により相分離され、前記ハロゲン化物結晶上または結晶内に形成された、延伸アスペクト比が少なくとも2:1の、銀、銅、または銅-カドミウムの延伸金属粒子を含有し、波長600nmから1200nmまでの600nmの波長幅に亘って100,000以上のコントラスト比を有することを特徴とする偏光ガラス品。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶理由に引用された特開平2-248341号公報(以下「引用例」という。)には、以下の技術事項が記載されている。

記載事項ア.特許請求の範囲の欄の請求項1
「AgCl、AgBrおよびAgIから成る群より選択されるハロゲン化銀粒子を中に存在させることを通して、相分離性ガラスまたはフォトクロミック特性を示すガラスから、輻射線スペクトルの赤外線領域において比較的広いバンドに亘って大きなコントラストの偏光特性を示すガラス品を製造する方法であって、
(a)塩化物、臭化物およびヨウ化物から成る群より選択される1つ以上のハロゲン化物と銀とを含むガラスのバッチを溶融し、
(b)前記溶融体を冷却し、所望の形状のガラス品へと付形し、
(c)少くとも前記ガラスの歪点より高くかつ前記ガラスの軟化点より上に75℃を越えない温度で、AgCl、AgBrおよびAgIから成る群より選択される約200?5000Åの範囲の大きさを有するハロゲン化銀粒子を中に生じさせるのに十分な時間、前記ガラス品を加熱処理し、
(d)前記ガラスのアニール点より高くかつ前記ガラスが約10^(8)ポアズの粘度を示す温度より低い温度で、応力下において、前記ハロゲン化銀粒子が少くとも5:1のアスペクト比まで伸長されかつ応力の方向に整列されるように前記ガラス品を伸長し、その後、
(e)約250℃より高い温度でありかつそのガラスのアニール点より上に約25℃を越えない温度において、前記伸長されたハロゲン化銀粒子の少くとも一部がそれら伸長された粒子中および/またはそれらの粒子上に沈積した2:1より大きいアスペクト比を有する銀元素粒子に還元されておりかつ10ミクロン以上の厚さを有する還元表面層を前記ガラス品上に形成するのに十分な時間、大気圧より大きい圧力で、前記伸長されたガラス品を還元雰囲気にさらし、それによって、輻射線スペクトルの赤外線領域において比較的広い範囲に亘って大きいコントラストの偏光特性を示すガラス品を形成する、
各工程を含むことを特徴とする方法。」

記載事項イ.第3頁左上欄第2行?5行
「(産業上の利用分野)
本発明は、輻射線スペクトルの赤外線領域において比較的広いバンドで高コントラスト偏光特性を示すガラス品の製造に関する。」

記載事項ウ.第4頁左下欄第5行?17行
「通常、還元の程度が大きくなる程コントラストのレベルは大きくなる。より高い還元焼成温度および/またはより長い焼成時間を用いることによってコントラストを大きくすることができる。しかし、そのようなプラクティスは制限される。と言うのは、より高い温度および/またはより長い焼成時間を用いると、伸長された粒子が収縮および/または分裂して球を形成するハロゲン化銀粒子の再球状化を引き起すからである。このような再球状化は、コントラストの低下および/またはピーク吸収バンドの狭窄化またはピーク吸収バンドの短い波長方向へのシフトをまねく。」

記載事項エ.第5頁左上欄第19行?同右上欄第8行
「本発明の方法においては、通常の大気圧で焼成を行う従来のプラクティスのかわりに加圧還元雰囲気中で還元焼成工程(前記工程(4))を行う。本発明の方法では、同じ時間同じ温度で行う場合には大気圧下での焼成よりガラスの還元度が大きくなる。そのため、再球状化を起こさせることなく大きなコントラストが得られる。本発明の方法から得られるさらなる利点は、ガラスの偏光作用が機能する有効なバンド幅が広がり、それによってガラスの価値が向上することである。」

記載事項オ.第6頁左下欄第14行?同右下欄第12行
「図面は、本発明の方法により得られた大きいコントラストおよび大きいコントラストが得られる広いバンド幅を示している。曲線Aは、従来のプラクティス(すなわち425℃、0psigで4時間水素焼成を行った)によって処理されたガラス試料のコントラストを波長の関数として示したものである。曲線B、CおよびDは、加圧雰囲気を利用して処理されたガラス試料のコントラストを示したものである。ここで、曲線Bは、425℃、約58psigの水素圧で1時間焼成した後コントラストを波長の関数として示したものであり、曲線Cは、425℃、約58psigの水素圧で4時間焼成した後コントラストを示したものであり、曲線Dは、425℃、約58psigの水素圧で7時間焼成した後のコントラストを示したものである。加圧還元雰囲気の使用がコントラストを著しく大きくしかつ有効な偏光作用を示すバンド幅を顕著に広くすることがこの図面より明らかである。さらに、上述した効果がより短い焼成時間で得られたことがわかる。」

記載事項カ.引用例の図面には、偏光コントラストと偏光挙動のバンド幅とを波長の関数として表したグラフが記載されており、該グラフから、曲線Dでは、少なくとも波長6500Åから10000Åの波長範囲に亘って20000以上100000以下のコントラストを有することが読み取れる。




記載事項ア?カの記載内容の記載からして、引用例には、
「AgCl、AgBrおよびAgIから成る群より選択されるハロゲン化銀粒子を中に存在させることを通して、相分離性ガラスから製造された、輻射線スペクトルの赤外線領域において比較的広いバンドに亘って大きなコントラストの偏光特性を示すガラス品であって、下記の(a)?(e)の各工程を含む方法にて製造され、少なくとも波長6500Åから10000Åの波長範囲に亘って20000以上100000以下のコントラストを有する前記偏光特性を示すガラス品。
(a)塩化物、臭化物およびヨウ化物から成る群より選択される1つ以上のハロゲン化物と銀とを含むガラスのバッチを溶融する工程
(b)前記溶融体を冷却し、所望の形状のガラス品へと付形する工程
(c)少くとも前記ガラスの歪点より高くかつ前記ガラスの軟化点より上に75℃を越えない温度で、AgCl、AgBrおよびAgIから成る群より選択される約200?5000Åの範囲の大きさを有するハロゲン化銀粒子を中に生じさせるのに十分な時間、前記ガラス品を加熱処理する工程
(d)前記ガラスのアニール点より高くかつ前記ガラスが約10^(8)ポアズの粘度を示す温度より低い温度で、応力下において、前記ハロゲン化銀粒子が少くとも5:1のアスペクト比まで伸長されかつ応力の方向に整列されるように前記ガラス品を伸長する工程
(e)約250℃より高い温度でありかつそのガラスのアニール点より上に約25℃を越えない温度において、前記伸長されたハロゲン化銀粒子の少くとも一部がそれら伸長された粒子中および/またはそれらの粒子上に沈積した2:1より大きいアスペクト比を有する銀元素粒子に還元されておりかつ10ミクロン以上の厚さを有する還元表面層を前記ガラス品上に形成するのに十分な時間、大気圧より大きい圧力で、前記伸長されたガラス品を還元雰囲気にさらし、それによって、輻射線スペクトルの赤外線領域において比較的広い範囲に亘って大きいコントラストの偏光特性を示すガラス品を形成する工程」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3.対比
本願発明と引用発明を対比する。

(1)引用発明の「輻射線スペクトルの赤外線領域において比較的広いバンドに亘って大きなコントラストの偏光特性を示すガラス品」は、本願発明の「輻射スペクトルの赤外領域で広帯域の高コントラスト偏光特性を示」す「偏光ガラス品」に相当する。

(2)引用発明の(c)の工程における「AgCl、AgBrおよびAgIから成る群より選択される約200?5000Åの範囲の大きさを有するハロゲン化銀粒子を中に生じさせる」ことは、本願発明の「大きさが200?5000Åの範囲にある銀」「のハロゲン化物結晶の前記ガラス内での析出」に相当する。

(3)引用発明の(e)の工程における「約250℃より高い温度でありかつそのガラスのアニール点より上に約25℃を越えない温度において、前記伸長されたハロゲン化銀粒子の少くとも一部がそれら伸長された粒子中および/またはそれらの粒子上に沈積した2:1より大きいアスペクト比を有する銀元素粒子に還元され」たものは、本願発明の「前記ハロゲン化物結晶上または結晶内に形成された、延伸アスペクト比が少なくとも2:1の、銀」「の延伸金属粒子」に相当する。
また、引用発明の(e)の工程における「銀元素粒子に還元され」たものは、(c)の工程において、ハロゲン化銀粒子を(ガラス品)中に生じさせることにより相分離されたものであることは明らかである。

(4)引用発明の「コントラスト」は、本願の発明の詳細な説明の【0010】の記載を参酌すると本願発明の「コントラスト比」に相当するといえる。そうすると、引用発明の「少なくとも波長6500Åから10000Åの波長範囲に亘って20000以上100000以下のコントラストを有する」ことと、本願発明の「波長600nmから1200nmまでの600nmの波長幅に亘って100,000以上のコントラスト比を有する」ことは、「少なくとも波長650nmから1000nmの波長範囲に亘って20000以上100000以下のコントラスト比を有する」である点で共通している。

上記(1)?(4)に記載したことからして、本願発明と引用発明は、
「偏光ガラス品において、輻射スペクトルの赤外領域で広帯域の高コントラスト偏光特性を示し、大きさが200?5000Åの範囲にある銀のハロゲン化物結晶の前記ガラス内での析出により相分離され、前記ハロゲン化物結晶上または結晶内に形成された、延伸アスペクト比が少なくとも2:1の、銀の延伸金属粒子を含有し、少なくとも波長650nmから1000nmの波長範囲に亘って20000以上100000以下のコントラスト比を有する偏光ガラス品。」
である点で一致し、次の相違点において相違する。

相違点
本願発明は、少なくとも波長650nmから1000nmの波長範囲に亘って20000以上100000以下のコントラスト比を有するのみならず、さらに波長600nmから1200nmまでの600nmの波長幅に亘って100,000以上のコントラスト比を有するのに対して、引用発明は、コントラスト比に関する後者の条件を満たしていない点。

4.当審の判断
前記相違点について検討する。

4-1.判断1
偏光ガラス品は、より広い帯域でより高いコントラスト比を有した方がよいことは当業者には自明(引用例の記載事項エ参照)である。
引用発明の偏光特性を示すガラス品(偏光ガラス品)では、波長6500Åから10000Å(波長650nmから1000nm)の波長範囲で20,000以上100,000以下のコントラスト(コントラスト)を有しているところ、この波長範囲がより広く、かつ、コントラスト(コントラスト比)がより高い方がよいことは上述したとおり当業者には自明であるし、原査定の拒絶理由において先行技術文献として挙げられている特開平5-208844号公報(以下「周知例」という。)の【0055】の【表1】、【0056】の【表2】にも記載されているように、消光比が60dB以上、すなわちコントラスト比が1,000,000以上の偏光ガラス品も従来より知られているのであるから、引用発明の偏光特性を示すガラス品(偏光ガラス品)においてコントラスト(コントラスト比)を全体的に高くしてコントラスト(コントラスト比)が100,000以上の波長域を有するようにすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。そして、コントラスト(コントラスト比)が全体的に高くなれば、コントラスト(コントラスト比)が100,000以上の波長域も拡大することは自明である。
してみれば、引用発明においてコントラスト(コントラスト比)を全体的に高くして上記相違点に係る本願発明の特定事項を得ることは、当業者であれば容易になし得ることであるといえる。

4-2.判断2
偏光ガラス品において、A:コントラスト比を高くするためには、(1)延伸により偏光子の粒子が揃った方がよいこと(上記周知例の【0003】?【0005】参照)、(2)還元時の熱処理により伸長された粒子の再球状化が起きないようにした方がよいこと(引用例の記載事項ウ及びエ、周知例の【0024】参照)、B:広帯域にするためには、(1)そもそもコントラスト比が高い方がよいこと(引用例の記載事項エ参照)、(2)アスペクト比が異なる粒子が適切に存在した方がよいこと(上記周知例の【0011】参照)、の条件を満たす必要があることは技術常識である。
引用発明が本願発明と上記相違点を有する要因について、上記技術常識を踏まえて、引用発明の具体的実施例と本願発明の実施例を比較して検討すると、本願発明では、上記A(1)(2)、B(1)(2)の各要素の状態がより理想的な状態になっているのに対して、引用発明では、上記A(1)(2)、B(1)(2)の各要素の状態が本願発明に比べて劣っているからであると認められる。
しかし、上記周知例では波長帯域は不明であるものの、本願発明のコントラスト比よりもさらに高いコントラスト比である1000,000以上が達成されているという状況や上記技術常識を踏まえれば、引用発明において上記A(1)(2)、B(1)(2)の各要素をより理想的な状態に設定できれば、コントラスト比をより高く、かつより広帯域にして上記相違点に係る本願発明の特定事項を得ることができるであろうことは当業者であれば容易に理解できるはずである。そして、本願発明は製造方法に関する発明ではなく、「物」に関する発明であるところ、具体的に上記A(1)(2)、B(1)(2)の各要素の状態を理想的な状態として本願発明に包摂される具体物を製造する実際の製造方法は想到困難であったとしても、「物」に関する技術的思想の創作である本願発明の概念範囲に包摂される物の具体的な構造は、上記のとおり容易に想到することができると認められる以上、「物」に関する技術的思想の創作である本願発明は、当業者であれば容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。


以上、「4-1」又は「4-2」で述べたことからして、本願発明は、引用例に記載された発明に基いて、又は引用例に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基いて、又は引用例に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-22 
結審通知日 2010-09-28 
審決日 2010-10-12 
出願番号 特願2009-116404(P2009-116404)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 理弘  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 岡田 吉美
村田 尚英
発明の名称 広帯域コントラスト偏光ガラス  
代理人 柳田 征史  
代理人 佐久間 剛  

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