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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1232716
審判番号 不服2008-6276  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-13 
確定日 2011-02-21 
事件の表示 特願2001-329769「圧電体薄膜素子およびその製造方法,ならびにこれを用いたインクジェット記録ヘッド及びインクジェットプリンタ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月 9日出願公開,特開2003-133604〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成13年10月26日の出願であって,平成19年8月15日付けの拒絶理由通知に対して,平成19年10月15日に意見書が提出されたが,平成20年2月8日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成20年3月13日に審判が請求されるとともに,平成20年4月14日に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成20年4月14日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定。

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正のうち,特許請求の範囲についての補正は,次のとおりである。
ア 補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】下部電極と,該下部電極上に設けられた圧電体薄膜と,該圧電体薄膜上に設けられた上部電極と,を備える圧電体薄膜素子であって,
前記圧電体薄膜は,格子定数のa軸とc軸の長さの比(c/a)が1.000以上,1.0005以下であり菱面体晶系の結晶構造を有するPZT結晶に,周期表のIIA族元素の少なくとも一種類が添加されている圧電体薄膜素子。
【請求項2】前記PZT結晶は,前記圧電体薄膜の厚み方向における(100)面配向度が70%以上である請求項1記載の圧電体薄膜素子。
【請求項3】ZrとTiのモル比(Zr/Ti)が1.0以上,1.28以下である請求項2記載の圧電体薄膜素子。
【請求項4】前記周期表のIIA族元素は,Be,Ca,Mg,又はBaである請求項1ないし3のいずれか一項に記載の圧電体薄膜素子。
【請求項5】前記圧電体薄膜は,周期表のIIA族元素の少なくとも一種類を0.05mol%以上,5.00mol%以下含む請求項1ないし4のいずれか一項に記載の圧電体薄膜素子。
【請求項6】前記下部電極は,Pt及び/又はIrからなる膜に,Tiが均一に分散して構成されている請求項1ないし5のいずれか一項に記載の圧電体薄膜素子。
【請求項7】請求項1ないし6のいずれか一項に記載の圧電体薄膜素子を,インクを吐出させるための圧電アクチュエータとして備えたインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】請求項7記載のインクジェット記録ヘッドを印字手段として備えたインクジェットプリンタ。
【請求項9】下部電極上に,周期表のIIA族元素の少なくとも一種類を含むPZT前駆体を形成した後,これを600℃以上700℃以下で焼成させて格子定数のa軸とc軸の長さの比(c/a)が1.000以上,1.0005以下であり菱面体晶系の結晶構造からなる圧電体薄膜とし,次いで,該圧電体薄膜上に上部電極を形成して圧電体薄膜素子を製造する方法。
【請求項10】前記下部電極は,基板上にTiを含む密着層を形成した後,該密着層上にPt及び/又はIrからなる膜を形成し,次いで,前記焼成によって,該Pt及び/又はIrからなる膜内に前記密着層中のTiを拡散させて得られる請求項9記載の圧電体薄膜素子を製造する方法。」

イ 補正後の特許請求の範囲(下線は補正箇所を示す。)
「【請求項1】下部電極と,該下部電極上に設けられた圧電体薄膜と,該圧電体薄膜上に設けられた上部電極と,を備える圧電体薄膜素子であって,
前記圧電体薄膜は,格子定数のa軸とc軸の長さの比(c/a)が1.000以上,1.0005以下であり菱面体晶系の結晶構造を有するPZT結晶に,周期表のIIA族元素の少なくとも一種類が添加されており,
前記PZT結晶は,前記圧電体薄膜の厚み方向における(100)面配向度が70%以上であり, 前記周期表のIIA族元素は,Be又はCaであり, 前記圧電体薄膜は,周期表のIIA族元素の少なくとも一種類を0.05mol%以上,5.00mol%以下含む圧電体薄膜素子。
【請求項2】ZrとTiのモル比(Zr/Ti)が1.0以上,1.28以下である請求項1記載の圧電体薄膜素子。
【請求項3】前記下部電極は,Pt及び/又はIrからなる膜に,Tiが均一に分散して構成されている請求項1または2に記載の圧電体薄膜素子。
【請求項4】請求項1ないし3のいずれか一項に記載の圧電体薄膜素子を,インクを吐出させるための圧電アクチュエータとして備えたインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】請求項4記載のインクジェット記録ヘッドを印字手段として備えたインクジェットプリンタ。」

(2)補正内容のまとめ
ア 請求項1について
請求項1についての補正は,請求項1に,請求項2,請求項4及び請求項5の限定を加え,さらに,周期表のIIA属元素を,Be又はCaに限定した上で,補正後の請求項1とするものである。
イ 請求項2?8について
請求項2,4,5は,補正後の請求項1に吸収されたことに伴い削除し,請求項3,6,7,8は,項番を繰り上げて,それぞれ,補正後の請求項2,3,4,5とする。
ウ 請求項9,10について
請求項9,10は,削除する。

2 補正目的の適否
(1)以上によれば,特許請求の範囲についての補正は,特許請求の範囲の減縮及び請求項の削除を目的とするものに該当するから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

3 独立特許要件についての検討
以上のとおり,請求項1についての本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものかどうか( 平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する独立要件を満たすかどうか)について,以下,検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は,次のとおりである。
「下部電極と,該下部電極上に設けられた圧電体薄膜と,該圧電体薄膜上に設けられた上部電極と,を備える圧電体薄膜素子であって,
前記圧電体薄膜は,格子定数のa軸とc軸の長さの比(c/a)が1.000以上,1.0005以下であり菱面体晶系の結晶構造を有するPZT結晶に,周期表のIIA族元素の少なくとも一種類が添加されており,
前記PZT結晶は,前記圧電体薄膜の厚み方向における(100)面配向度が70%以上であり,
前記周期表のIIA族元素は,Be又はCaであり,
前記圧電体薄膜は,周期表のIIA族元素の少なくとも一種類を0.05mol%以上,5.00mol%以下含む圧電体薄膜素子。」

(2)引用例の記載と引用発明
(2-1)引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-81016号公報には,図表とともに次の記載がある(下線は当審で付加,以下同じ)。
ア 発明の課題等
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換し,又は,その逆を行う薄膜型の圧電体素子に関する。この圧電体素子は,圧力センサ,温度センサ,インクジェット式記録ヘッド等のアクチュエータに使用される。本発明は,このインクジェット式記録ヘッドに関する。さらに,本発明は,この圧電体薄膜素子の製造方法に関する。
【0012】【発明が解決しようとする課題】1μm以上の膜厚を備えた圧電体薄膜(PZT膜)を形成する場合,前述した高い圧電ひずみ定数を得るために,既述の熱処理を行うと,膜内にクラックが発生する問題がある。特開平3-232755号公報に記載されているように,バルク磁器に於いては,密度が高いほど圧電特性が良いとされているが,非常に緻密な膜をインクジェット記録ヘッド等のアクチュエータとして好適に用いるためには,圧電体膜の膜厚が0.5?25μm程度が良く,この程度の厚みの圧電体膜を一回の製造工程で,製造しようとしたときには,通常,膜にクラックが入ってしまう。クラックが入らないように,薄い膜厚で積層して行く場合に於いては,製造工程が長くなり,工業的に不適合である。
【0013】また,ゾル,又はゲル組成物を基板に塗布して高温で焼成して結晶化させ,これを繰り返すことで,圧電体薄膜の膜厚を厚くする方法が,"Philips J. Res.47(1993') pages 263-285" に開示されている。しかしながら,この方法によって得られた圧電体薄膜は,層状の積層界面を有し,良好な圧電特性を得ることができないとともに,加工性が悪くなるという問題がある。
【0014】圧電体薄膜は,通常,基板上に形成された下電極である金属膜上に形成されるが,この圧電体薄膜を形成する際に行われる熱処理により,基板に反りやひずみが生じるという問題がある。下電極と圧電体薄膜との間に,良好な密着性が得られることも必要である。
【0019】本発明は,このような従来の問題点を解決することを課題とするものであり,従来よりも圧電特性が向上された圧電体薄膜素子,並びにこの製造方法を提供することを目的とする。」

イ 課題解決手段
「【0023】【課題を解決するための手段】・・・圧電体薄膜素子の圧電特性を向上するために,基板上に形成された金属膜と,この金属膜上に形成された,チタン酸ジルコン酸鉛に第3成分を加えたPZT薄膜と,を備えた圧電体薄膜素子において,PZT薄膜は菱面体晶系の結晶構造を備え,かつ,その結晶構造の,X線回折薄膜法で測定した(100)配向度が,30%以上であることを特徴とする。
【0024】配向度をこのようにするために,PZT薄膜のアニーリング温度を750℃より大きく,かつ1000℃より小さく,好ましくは800℃以上1000℃以下とし,さらに,好ましくは,Zr/Tiがモル比で,35/45≦(Zr/Ti)≦45/35とした。
【0025】さらに,好適には,圧電体薄膜の結晶構造がさらに改良されて,多結晶体からなる圧電体膜と,この圧電体膜を挟んで配置される上電極と下電極と,を備えた圧電体薄膜素子において,圧電体膜の結晶体が,電極面に対して略垂直方向に形成される。すなわち,圧電体の結晶体の粒界が,電極面に対して略垂直方向に形成される。
【0026】この圧電体薄膜素子の好適な実施形態では,圧電体膜は,その結晶構造を菱面体晶(rhombohedral)にされ,面方位(111)の結晶面,あるいは面方位(100)の結晶面,あるいは面方位(111)と面方位(100)の結晶面のいずれかに強く配向される。
【0027】また,圧電体膜は,結晶構造を正方晶(tetragonal)にされ,面方位(001)の結晶面に強く配向される。」

ウ 発明の実施例
「【0039】【発明の実施の形態及び実施例】次に,本発明に係る実施の形態及び図面について,以下に,必要に応じて図面を参照しながら説明する。なお,本実施の形態では,圧電体膜としてPZT膜を形成した場合について説明する。
【0040】I.先ず,具体的な薄膜圧電体素子の構造を図面を用いて説明する。図1において,薄膜圧電体素子は,シリコン(Si)基板10と,下電極(例えば,Ptからなる)12と,圧電体膜(例えば,2成分系PZT)14と,上電極16(例えば,Ptからなる)とから構成される。
【0041】図2は,この圧電体薄膜素子の構造をより詳しく示した断面図であり,シリコン基板10と,シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜11と,シリコン酸化膜上に形成されたチタン酸化膜11Aと,チタン酸化膜上に形成された下電極12と,下電極上に形成されたPZT膜(圧電体膜)14と,PZT膜上に形成された上電極16と,を備えて構成されている。
【0042】下電極を例えばプラチナから形成することにより,下電極の格子定数とPZT膜の格子定数を近づけて,下電極と後に形成されるPZT膜との密着性を向上させることができる。
【0043】(実施例1)この実施例1においては,まず,シリコン基板10上に下電極12として白金をスパッタ法で形成した。次に,圧電体薄膜14をゾルゲル法により形成した。ゾルは次のように調製した。酢酸鉛0.105モル,ジルコニウムアセチルアセトナート0.045モル,酢酸マグネシウム0.005モルと30ミリリットルの酢酸を,100℃に加熱して溶解させた。
【0044】このゾルを室温まで冷却し,チタンテトライソプロポキシド0.040モル,ペンタエトキシニオブ0.010モルをエチルセラソルブ50ミリリットルに溶解させて添加した。アセチルアセトンを30ミリリットル添加して安定化させた後,ポリエチレングリコールをゾル中の金属酸化物に対し30重量%添加し,よく攪拌して均質なゾルとした。
【0045】下電極を形成した基板上に調製したゾルをスピンコートで塗布し,400℃で仮焼成し,非晶質の多孔質ゲル薄膜を形成し,さらに,ゾルの塗布と400℃の仮焼成を2度繰り返し,多孔質ゲル薄膜を形成した。この加熱の際に,ゾル中のポリエチレングルコールが蒸発して,多孔質を形成する。
【0046】次に,ペロブスカイト結晶を得るためRTA(Raid Thermal Anneaing)炉を用いて酸素雰囲気中,5秒間で650℃に加熱して1分間保持しプレアニールを行い,緻密なPZT薄膜とした。
【0047】再びこのゾルをスピンコートで塗布して400℃に仮焼成する工程を3度繰り返し,非晶質の多孔質ゲル薄膜を積層した。次に,RTAを用いて650℃でプレアニールして1分間保持することにより,結晶質の緻密な薄膜とした。このプレアニールの際の温度を400乃至800℃,好ましくは,450乃至750℃,さらに好ましくは,550乃至750℃にすることによって,既述の多孔質薄膜の積層界面を一体化することができる。
【0048】さらに,RTA炉を用いて酸素雰囲気中750,800,850,900,950,1000,1050℃の各温度に加熱し1分間保持してアニールした。その結果1.0μmの膜厚の圧電体薄膜14が得られた。
【0049】このようにして得られたPZT薄膜をX線回折薄膜法によって分析を行った。測定は,理学電機製 RINT-1400を用い,銅管球でX線入射角度1゜で行った。
【0050】図3に,900℃でアニールしたPZT薄膜の薄膜法によるX線回折パターンを示す。図4に,750℃でアニールしたPZT薄膜の薄膜法によるX線回折パターンを示す。
【0051】図3,図4に示したX線回折パターンの全てのピークがペロブスカイト構造のPZTの反射ピークである。さらに,このPZT薄膜は結晶系としては菱面体晶あるいは正方晶を採るが,(100),(110)等のピークが分離せず1つの鋭いピークになっていることから,菱面体晶系の結晶である。
【0052】また,圧電薄膜上にアルミニウム電極を蒸着法で形成し,圧電定数d31を測定した。表1にアニール温度と(100)配向度と圧電定数d31の関係を示す。
【0053】ここで,(100)の配向度P(100)は,P(100)=I(100)/ΣI(hkl)で表す。ΣI(hkl)は,X線回折薄膜法で,波長にCuKα線を用いたときの2θが20度?60度のPZTの全回折強度の和を表す。
【0054】ただし,(200)面は(100)面と等価な結晶面であるため,ΣI(hkl)には含めない。具体的には,(100),(110),(111),(210),(211),結晶面反射強度の総和である。I(100)は,同じくPZTの(100)結晶面反射強度を表す。
【0055】【表1】(略)
【0056】(100)の配向度P(100)が高くなるほど,圧電定数d31が大きくなっており,アクチュエーターとして特性が向上する。
【0057】(実施例2)シリコン基板上に下電極として金をスパッタ法で形成した。次に,圧電体薄膜をゾルゲル法により形成した。ゾルは次のように調製した。酢酸鉛0.105モル,ジルコニウムアセチルアセトナート0.030モル,酢酸マグネシウム0.007モルと30ミリリットルの酢酸を,100℃に加熱して溶解させた。
【0058】このゾルを室温まで冷却し,チタンテトライソプロポキシド0.050モル,ペンタエトキシニオブ0.013モルをエチルセラソルブ50ミリリットルに溶解させて添加した。アセチルアセトンを30ミリリットル添加して安定化させた後,ポリエチレングリコールをゾル中の金属酸化物に対し30重量%添加し,よく攪拌して均質なゾルとした(Zr/Ti=30/50)。
【0059】同様にジルコニウムアセチルアセトナート0.035モル,チタンテトライソプロポキシド0.045モル(Zr/Ti=35/45),更にジルコニウムアセチルアセトナート0.040モル,チタンテトライソプロポキシド0.040モル(Zr/Ti=40/40),さらに,ジルコニウムアセチルアセトナート0.045モル,チタンテトライソプロポキシド0.035モル(Zr/Ti=45/35)のジルコニウムとチタンの組成の異なる4種類のゾル液を調製した。
【0060】以降は実施例1と同様に,各ゾル液で積層し圧電体薄膜素子を作製し,評価を行った。表2にZr/Tiと(100)配向度と圧電定数d31の関係を示す。
【0061】【表2】(略)
【0062】実施例1と同様に(100)配向度P(100)が高くなるほど,圧電定数d31が大きくなっており,アクチュエーターとして特性が向上する。
【0063】以上の実施例1及び2に於いて,下部電極として,Pt,Auを用いて説明したが,PZT薄膜の(100)配向度が,30%以上となれば良く,Au,Pt-Ir,Pt-Pd,Pt-Ni,Pt-Ti等他の金属膜でも良い。

エ Ca等の添加について
「【0077】ゾルゲル法に依る場合の,第3成分としてマグネシウムニオブ酸鉛を加えたPZT膜は,例えば,Pb(Mg1/3Nb2/3)0.2ZrxTi0.8-xO3(xが0.35?0.45)からなる組成で表示される。
【0078】さらに,これら二成分系PZT及び三成分系PZTのいずれであっても,その圧電特性を改善するために,微量のBa,Sr,La,Nd,Nb,Ta,Sb,Bi,W,Mo及びCa等が添加されてもよい。とりわけ,三成分系では,0.10モル%以下のSr,Baの添加が圧電特性の改善に一層好ましい。また,三成分系では,0.10モル%以下のMn,Niの添加が,その焼結性を改善するので好ましい。第3成分の一部を第4成分で置き換えても良い。その場合,第4成分は,上記第3成分の内の一つを用いる。
【0079】なお,PZT膜は,前述した配向の他,面方位(100)の結晶面,あるいは面方位(111)と面方位(100)の結晶面のいずれかに強く配向していても良い。また,PZT膜の結晶構造が,正方晶であり,面方位(001)の結晶面に強く配向していてもよい。」

オ 発明の効果
「【0181】【発明の効果】以上述べたように本発明の圧電体薄膜素子は,最適な結晶配向性を持ったPZT薄膜を用いることにより,圧電特性を向上することができる。
【0182】本発明に係る圧電体薄膜素子は,この構成要素である圧電体膜の結晶体の粒界が,電極面に対して略垂直方向に存在しているため,クラックを発生させることなく,圧電ひずみ定数を向上させることができる。この結果,信頼性の高い,高性能な圧電体薄膜素子を提供することができる。」

(2-2)引用発明
上記ア?オによれば,引用例には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「PZT薄膜を挟んで配置される上電極と下電極を備えた圧電体薄膜素子において,PZT薄膜は菱面体晶系の結晶構造であり,その結晶構造の,X線回折薄膜法で測定した(100)配向度が30%以上である,圧電体薄膜素子。」

そして,引用例には,上記PZT薄膜を備えた圧電薄膜素子について,「その圧電特性を改善するために,微量のBa,Sr,La,Nd,Nb,Ta,Sb,Bi,W,Mo及びCa等が添加されてもよい。とりわけ,三成分系では,0.10モル%以下のSr,Baの添加が圧電特性の改善に一層好ましい。」と記載されているから,Ba,Sr,Ca等を微量添加することにより,圧電特性が一層改善されることが示唆されているといえる。

(3)本願補正発明と引用発明の一致点と相違点
引用発明の「上電極」,「下電極」,「PZT薄膜」及び「配向度」は,それぞれ,本願補正発明の,「上部電極」,「下部電極」,「PZT結晶」及び「面配向度」に相当する。
そうすると,本願補正発明と引用発明は,
「下部電極と,該下部電極上に設けられた圧電体薄膜と,該圧電体薄膜上に設けられた上部電極と,を備える圧電体薄膜素子であって,
前記圧電体薄膜は,菱面体晶系の結晶構造を有するPZT結晶である,圧電体薄膜素子。」
である点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]本願発明は,「格子定数のa軸とc軸の長さの比(c/a)が1.000以上,1.0005以下」とされているのに対し,引用発明では,a軸とc軸の長さの比について特定されていない点

[相違点2]本願発明は,「前記PZT結晶は,前記圧電体薄膜の厚み方向における(100)面配向度が70%以上」であるのに対し,引用発明では,「(100)面配向度が30%以上」とされている点

[相違点3]本願発明は,圧電体薄膜が,「周期表のIIA族元素のBe又はCaを0.05mol%以上,5.00mol%以下含む」のに対し,引用発明においては,添加される元素として,周期表IIA属元素では微量のBa,Sr及びCaが挙げられ,具体的な添加量は,SrとBaについて0.10モル%以下とされているにとどまる点。

(4)相違点についての検討
(4-1)相違点1について
ア PZT結晶は,相転移点を境に正方晶と菱面体晶の間を相転移するものである。正方晶ではc/aが1よりも大きく,菱面体晶になると,ほぼ1に近づく。理想的な菱面体晶では,c/aは1である。
イ このことは,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平6-150716号公報の次の記載からも,明らかである。
「【0011】図1において,Zr比49.0でc=4.113,a=4.049オングストローム,軸比(c/a)=1.0158であり,Zr比の増加と伴に,c軸は小さく,a軸は大きくなり,軸比(c/a)が1.0に近づき,Zr比が52.0?52.25付近で正方晶から菱面体晶へ相転移が生じる相境界が存在していることが分かった。このことからZr比が52以下では正方晶系であり,Zr比が52.25以上では菱面体晶系であることが分った。
【0012】図2は本発明に係る強誘電体を含む強誘電体のZr比と歪の関係を示す図であり,前記試料を厚さ1mmに研削し,銀ペースト電極を焼き付けた後に700Vの電圧を印加し,非接触式レーザ変位計及び歪ゲージを用いて歪を測定したものを示す。
【0013】図2によれば,Zr比が52.0?52.25の付近で歪は最大となる。これは相境界付近の組成物が軟かくて歪易い組成であると考えられる。そして,従来,相境界付近の組成物が採用されていたのは,歪が大きいことに起因している。」
ウ そして,PZT結晶が,菱面体晶で良好な圧電特性を生じるものであることは技術常識である(引用発明も菱面体晶である)。そうすると,本願発明において,「格子定数のa軸とc軸の長さの比(c/a)が1.000以上,1.0005以下」とした点は,単に,PZT結晶が菱面体晶であることを,数値の点から規定したというにすぎない。本願の明細書の記載を参照しても,それ以上の技術的意義を見いだすことはできない。
エ そうすると,相違点1は,実質的なものでないか,当業者が適宜設定し得るものである。

(4-2)相違点2について
ア 本願発明では,「前記PZT結晶は,前記圧電体薄膜の厚み方向における(100)面配向度が70%以上」とされている。しかしながら,本願明細書を見ても,段落【0014】に,「前記PZT結晶は,前記圧電体膜の厚み方向における(100))面配向度が70%以上であることが好ましい。」とのみ記載されているだけである。また,段落【0071】では,実施例の記述として「また,圧電体薄膜43の厚み方向における(100)面配向度は80%であった。」とされているだけで,比較例もなく,具体的にどのような手段を採用すればこのような面配向度のものが再現性良く実現できるのかも不明である。
イ 他方で,大きな圧電定数を得るためには,一般に圧電体の結晶の配向がそろっていた方が良いことは技術常識である。そうすると,本願発明において,「前記PZT結晶は,前記圧電体薄膜の厚み方向における(100面配向度が70%以上」とした点には,より好ましい配向度を規定したということ以上の技術的意義を見いだすことができない。
ウ したがって,相違点2は,実質的なものでないか,当業者が適宜設定し得るものである。

(4-3)相違点3
ア 前記(2-2)で述べたように,引用例には,上記PZT薄膜を備えた圧電薄膜素子について,「その圧電特性を改善するために,微量のBa,Sr,La,Nd,Nb,Ta,Sb,Bi,W,Mo及びCa等が添加されてもよい。とりわけ,三成分系では,0.10モル%以下のSr,Baの添加が圧電特性の改善に一層好ましい。」と記載されているから,Ba,Sr,Ca等を微量添加することにより,圧電特性が一層改善されることが示唆されている。Caについては,具体的な添加量が明示されていないが,SrとBaの場合0.10%モル以下とされているから,Caもおおよそこの範囲が好ましいものとものと推定できる。
イ これに対し,本願明細書では,段落【0059】において,包括的に「・・・さらに,Be,Ca,Mg,Ba等のIIA属元素を全体に対して0.05mol%以上5.00mol%以下添加して・・・」と説明さてているにとどまり,実施例の記述をみても,IIA属元素として具体的に何をどの程度の添加した場合の例なのか開示されてない。比較例もない。したがって,包括的に開示されたものの中から,特に,BeやCaを選択したことの技術上の意義を見いだせない。
ウ そうすると,引用例には,圧電体薄膜にBa,Sr,Caを微量添加することにより圧電特性が改善されることが示唆されており,SrとBaの場合については,0.10%モル以下とすることが好ましいとされているのであるから,引用発明において,添加する元素にCaを採用し,その添加量を0.05mol%以上5.00mol%以下としてみることは,当業者が容易になし得たものと判断される。

(4-4)小括
以上のとおりであるから,本願補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができないものである。

4 したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項に違反するので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 以上のとおり本願補正は却下されたので,本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正前の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「下部電極と,該下部電極上に設けられた圧電体薄膜と,該圧電体薄膜上に設けられた上部電極と,を備える圧電体薄膜素子であって,
前記圧電体薄膜は,格子定数のa軸とc軸の長さの比(c/a)が1.000以上,1.0005以下であり菱面体晶系の結晶構造を有するPZT結晶に,周期表のIIA族元素の少なくとも一種類が添加されている圧電体薄膜素子。」

2 本願発明の容易想到性について
前記第2,1(2)で検討したように,本件補正後の請求項1の内容は,本件補正前の請求項1の記載事項を限定的に減縮したものである。
そうすると本願発明の構成要素をすべて含み,これをより限定した本願補正発明が,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 結言
以上のとおり,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明ついて検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-17 
結審通知日 2010-12-20 
審決日 2011-01-11 
出願番号 特願2001-329769(P2001-329769)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 酒井 英夫
小野田 誠
発明の名称 圧電体薄膜素子およびその製造方法、ならびにこれを用いたインクジェット記録ヘッド及びインクジェットプリンタ  
代理人 大賀 眞司  
代理人 田中 克郎  
代理人 稲葉 良幸  
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