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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q |
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管理番号 | 1232752 |
審判番号 | 不服2008-20712 |
総通号数 | 136 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-08-12 |
確定日 | 2011-02-24 |
事件の表示 | 特願2003- 64722「公営競技決済処理装置、方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月30日出願公開、特開2004-272748〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願出願は,平成15年3月11日の出願であって,平成20年7月10日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年8月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同年9月11日付けで手続補正がなされ、平成22年7月20日付けの審尋に対して、平成22年9月17日付けで回答書が提出されたものである。 第2 平成20年9月11日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成20年9月11日付け手続補正を却下する。 [理由] 1 補正後の本願補正発明について 平成20年9月11日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲についてするものであり,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1、2及び3は,本件補正前の請求項1、4及び5に基づくものであり、また、本件補正前の請求項2,3は削除された。 本件補正後の請求項1については、本件補正前の請求項1に記載された「公営競技決済処理装置」(前段部分)、「前受口座情報記憶手段」、「前受口座情報受信手段」、「前受口座情報処理手段」、「投票情報受付手段」に関する事項を限定している。 そして、本件補正前の請求項1に記載された「上記投票情報受付手段により受け付けた投票情報に基づき、上記前受口座情報記憶手段を参照し、利用者識別情報に対応する取引情報に反映した残高の範囲内で、決済を行う決済処理手段」を、「上記投票情報受付手段により受け付けた投票情報に含まれる投票金額と、利用者識別情報に基づいて、上記前受口座情報記憶手段を参照し、入金金額情報に払戻金額情報の加算、及び、投票金額情報の減算、により算出された残高とを比較し、当該受け付けた投票情報に含まれる投票金額が当該残高の範囲内であると判別した場合に利用者の投票を許可し、上記前受口座情報記憶手段に当該受け付けた投票情報に含まれる投票金額と取引の種類情報を購入として対応付けて記憶する投票可否判別処理手段」と補正している。 ここで、本件補正前の請求項1に記載された上記「決済処理手段」を上記「投票可否判別処理手段」とする補正について検討する。 本件補正前の請求項1には、「取引情報」に関して、「金融機関に設置された前受口座に対して複数の利用者から入金された入金金額と上記入金を行った利用者識別情報を含む前受口座情報と、投票金額と、投票内容を含む投票情報と、投票に対する払戻金額を含む払戻情報と、取引の種類情報と、を取引情報として関連付けて」と記載されており、本件補正前の請求項1に記載された「取引情報に反映した残高」は、前受口座情報、投票金額、投票情報、払戻情報、取引の種類情報と関連した残高ということができる。 そうすると、本件補正後の請求項1に記載された「入金金額情報に払戻金額情報の加算、及び、投票金額情報の減算、により算出された残高」は、本件補正前の請求項1に記載された「取引情報に反映した残高」を限定したものということができる。 また、本件補正後の請求項1に記載された「当該受け付けた投票情報に含まれる投票金額が当該残高の範囲内であると判別した場合に利用者の投票を許可し、上記前受口座情報記憶手段に当該受け付けた投票情報に含まれる投票金額と取引の種類情報を購入として対応付けて記憶する投票可否判別処理手段」は、本件補正前の請求項1に記載された「残高の範囲内で、決済を行う決済処理手段」に含まれる機能に相当している。 したがって、本件補正後の請求項1についてする補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、本件補正後の請求項2、3は、本件補正後の請求項1とカテゴリーが異なる発明であって、当該請求項1と同様の補正がなされていることから、本件補正後の請求項2,3についてする補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 よって、本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。 本願補正発明は,次のとおりである。 「【請求項1】 公営競技に対して投票する利用者から、利用者の識別情報とともに入金を受け付ける前受口座を管理する金融機関システムと、公営競技に投票を行う利用者が使用する利用者端末と、ネットワークを介して通信可能に設置され、公営競技に対して投票する利用者から前受口座に入金された資金の範囲内で、投票情報の投票可否判別処理を行う公営競技決済処理装置であって、 少なくとも利用者識別情報を含む利用者情報を記憶する利用者情報記憶手段と、 金融機関に設置された前受口座に対して複数の利用者から入金された入金金額と当該入金を行った利用者識別情報を含む前受口座情報と、投票金額と投票内容とを含む投票情報と、投票に対する払戻金額を含む払戻情報と、種別である前受、購入、払戻の何れかひとつを含む取引の種類情報と、を取引情報として関連付けて、利用者識別情報毎に記憶する前受口座情報記憶手段と、 上記金融機関システムから上記金融機関の前受口座に利用者から入金があると送信される、少なくとも利用者識別情報と入金金額を含む前受口座情報を受信する前受口座情報受信手段と、 上記前受口座情報受信手段により受信した前受口座情報を、利用者識別情報毎に、利用者から入金された金額と対応付けて、上記前受口座情報記憶手段に取引の種類情報を前受として記憶させる前受口座情報処理手段と、 上記利用者端末から、少なくとも利用者識別情報と、投票金額と投票内容とを含む投票情報をネットワークを介して受け付ける投票情報受付手段と、 上記投票情報受付手段により受け付けた投票情報に含まれる投票金額と、利用者識別情報に基づいて、上記前受口座情報記憶手段を参照し、入金金額情報に払戻金額情報の加算、及び、投票金額情報の減算、により算出された残高とを比較し、当該受け付けた投票情報に含まれる投票金額が当該残高の範囲内であると判別した場合に利用者の投票を許可し、上記前受口座情報記憶手段に当該受け付けた投票情報に含まれる投票金額と取引の種類情報を購入として対応付けて記憶する投票可否判別処理手段と、 を備えたことを特徴とする公営競技決済処理装置。」 2 引用例について 引用例1 特開平08-077410号公報(平成8年3月22日出願公開) 引用例2 特開2002-109120号公報(平成14年4月12日出願公開) (1)引用例1の記載内容 引用例1には,図面とともに,次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付加したものである。 ・【発明の属する技術分野】 「【0001】本発明は、電話、パソコンなどを通じ、競馬、競輪、競艇、オートレース等の公営競技における勝者投票券に関する取引サービスを提供するシステムに関する。」 ・【発明が解決しようとする課題】 「【0008】本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、勝者投票券購入希望者から残高不足に対応するための担保金をとらずに勝者投票券に関する取引を可能とし、かつ勝者投票券購入希望者自身の資金に対して制約を与えないシステムを提供することを課題とする。」 ・【課題を解決するための手段】 「【0009】<本発明の第一の勝者投票券取引システム>本発明の第一の勝者投票券取引システムは、前述した課題を解決するため以下のように構成されている。図1は、本発明の原理図である。」 「【0010】即ち、入金専用の口座である投票専用口座(22)と入出金可能の口座である自由口座(21)を金融機関に予め開設してある利用者に対して、通信回線を介して接続された端末(10)を通じて、勝者投票券に関する取引サービスを提供するシステムにおいて、利用者の投票専用口座(22)の残高範囲内で勝者投票券の購入依頼を受け付け、生じた払戻金を利用者の投票専用口座(22)に振り込み、利用者からの振替・振込依頼を受けた場合にのみ、投票専用口座(22)の資金を自由口座(21)に振り込むことを特徴とする(請求項1に対応)。」 ・【実施例】 「【0020】〔端末〕端末は、電話10を利用する。この電話10から公衆回線40を介して、投票券取引システム30に接続する。 「【0021】〔口座〕口座には、下記の(イ)及び(ロ)の2つがある。 (イ)入出金できる口座である自由口座21。 (ロ)入金できるが、出金できない口座である投票専用口座22。」 「【0022】〔投票券取引システム〕投票券取引システム30は、下記の(イ)?(ホ)のファイルと、これらのファイルを管理する制御装置とから構成される。 (イ)銀行から通知される投票専用口座22の残高情報を格納する残高通知ファイル34。 (ロ)利用者から受けた投票券の購入依頼情報と、利用者の口座間における振替・振込依頼情報と、購入限度額情報を1日分まとめて格納する口座ファイル35。」 「【0023】購入依頼情報とは、どこの競輪場で、いつのどのレースの投票券を、いくら購入するかという情報をいう。 (ハ)利用者が購入した投票券に生じた配当額に関する情報を1日分まとめて格納する総合振込ファイル31。 (ロ)利用者が購入した投票券の購入額に関する情報を1日分まとめて格納する口座振替ファイル32。 (ハ)利用者から受けた、投票専用口座22から自由口座21に対する振替(振込)依頼情報を格納する資金移動振替データファイル33。この資金移動振替データファイル(以下、データファイルという)のレイアウトを図4に示す。」 「【0028】利用者は、銀行に自由口座21と投票専用口座22を開設する(ステップ301)。自由口座21は、既設の普通口座・総合口座で代替することが可能である。」 「【0029】次に、利用者は、投票専用口座22に投票券の購入予定相当金額、例えば10万円を予め入金しておく(ステップ302)。投票専用口座22に入金された金額(残高)は、銀行から投票券取引システム30に通知されて(ステップ303)、残高通知ファイル34と口座ファイル35に格納される。ここまでの例では、10万円分の入金が口座ファイル35に格納されている。」 「【0030】そして、利用者は、電話10を利用して投票券取引システム30と接続する。この時投票券取引システム30は、現時点の購入限度額を利用者へ通知した上で(ステップ304)、投票券の購入依頼を行う(ステップ305)。ここでは、例として4万円分の投票券購入依頼をしたとする。」 「【0031】依頼を受けた投票券取引システム30の制御装置は、購入依頼額が購入限度額内か否かを判断する。そして、購入依頼額が購入限度額内であれば依頼を受け付け、購入依頼額を口座ファイル35に格納する。一方、購入限度額を超えている場合、投票誤りの旨利用者へ通知し購入依頼の再入力を促す。ここまでの例では、4万円の投票券の購入依頼情報が口座ファイル35に格納されている。」 「【0032】全競争が終了した時点で、口座ファイル35に格納されている投票券の購入依頼金額1日分がまとめられて口座振替ファイル32に格納され、購入した投票券が的中して生じた払戻金(配当)は、1日分がまとめられて総合振込ファイル31に格納される。ここでは、6万円の配当金が生じたものとする。」 「【0033】そして、口座振替ファイル32に格納されている投票券購入額4万円と、総合振込ファイル31に格納されている配当金額6万円とが、その日の夜間に1日分まとめられて口座決済され、投票専用口座22に反映される(ステップ307)。即ち、6万円-4万円=2万円分だけ、利用者の投票専用口座22の残高が増える。」 ・【発明の効果】 「【0037】本発明の勝者投票券取引システムによれば、利用者の投票専用口座の残高範囲内で勝者投票券の購入が行われるため、残高不足が発生することはない。更に、投票専用口座にある資金は、利用者からの依頼により自由口座に移されて引き出し可能となるため、担保金としての性格を持たない。このため、利用者にとって心理的負担が楽となり、本システムを通じて勝者投票券を購入する利用者数の増加が見込まれ、競馬、競輪、競艇等の公営競技の売上増大を図ることが可能となる。」 そうすると、引用例1の上記摘記事項及び図面2から,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「入金専用の口座である投票専用口座22を金融機関に予め開設してある利用者に対して、通信回線を介して接続された端末10を通じて、公営競技における勝者投票券に関する取引サービスを提供するシステムであって、利用者の投票専用口座22の残高範囲内で勝者投票券の購入依頼を受け付けるシステムにおいて、 (イ)銀行から通知される投票専用口座22の残高情報を格納する残高通知ファイル34、(ロ)利用者から受けた、どこの競輪場で、いつのどのレースの投票券を、いくら購入するかという情報である投票券の購入依頼情報と、利用者の口座間における振替・振込依頼情報と、購入限度額情報を1日分まとめて格納する口座ファイル35と、(ハ)利用者が購入した投票券に生じた配当額に関する情報を1日分まとめて格納する総合振込ファイル31を有し、 投票専用口座22に入金された金額(残高)が、銀行から投票券取引システム30に通知されて、残高通知ファイル34と口座ファイル35に格納する手段と、 利用者が、電話10を利用して接続した時、現時点の購入限度額を利用者へ通知した上で、投票券の購入依頼を受け付ける投票券取引システム30と、 購入依頼額が購入限度額内か否かを判断し、購入依頼額が購入限度額内であれば依頼を受け付け、購入依頼額を口座ファイル35に格納する投票券取引システム30の制御装置と、 を備えたことを特徴とするシステム。」 (2)引用例2の記載内容 引用例2には,図面とともに,次の事項が記載されている。 「【0001】本発明は、競馬や競輪などの投票を行う競技用投票システムに関する。」 「【0004】本発明は上記問題点を解消するためになされたもので、現金や投票券の授受が回避される競技用投票システムを提供することを目的とする。」 「【0018】カード発行装置14は競技用カードを発行する装置であり、投票参加者各人は、投票に参加するに際して、現金と引き替えに自分の競技用カードを作成、取得する。カード発行装置14は、投票参加者が直接、現金を預け入れ、また必要な事項を入力できるように構成することができる。また、カード発行装置14を受付窓口に配置し、窓口の担当者が現金を受け取って、必要事項をカード発行装置14に入力して競技用カードを作成するようにしてもよい。」 「【0020】参加者管理装置10のシステム管理部34は、カード発行装置14からの通知に基づいて、競技用カードが発行された投票参加者の口座をデータベース部32に作成する。競技用カード作成時に生成された識別情報や預け入れられた現金はこの口座に記録される。さらにシステム管理部34は、参加者管理装置10の各機能の連携及び監視を行う。」 「【0026】投票参加者は、上述のように競技用カード(以下、カード)を取得し、座席に設置された投票端末12のカード読み取り装置50にカードを読み取らせる。カード読み取り装置50は、カードに記録された識別情報(ID)を読み取り、このIDを参加者管理装置10の認証部36へ送信し、IDを照会する(S80)。なお、カードの発行時に、カードに記録されるIDとは別に、パスワードや暗証番号を投票参加者に設定させ、それらをIDと共に登録参加者の認証に利用することによりセキュリティを向上させることができる。設定されたパスワード等は、カードには記録されず、データベース部32にのみ記録される。これにより、カードの記録内容を解読してもパスワードは知ることはできず、カードの本来の持ち主以外の者が当該カードを使用して、投票行為や払い戻しを受けることを防止することができる。このようにパスワードを認証に用いる場合には、投票端末12はカードを読み取ると共に、投票参加者にパスワードの入力を要求し、入力されたパスワードとカードから読み取ったIDとの両方を参加者管理装置10へ送信する。」 「【0029】また、投票参加者が、サービスメニューから投票券の購入(すなわち投票)を選択した場合、投票端末12は購入処理を起動する。購入処理は、投票参加者に購入情報(例えば競技種別、レース番号、買い目、購入金額など)を入力させ、その購入情報を参加者管理装置10へ送信する(S110)。参加者管理装置10では端末通信インタフェース部44が購入情報を投票受付部38に渡し、投票受付部38では投票受付処理部52がデータベース部32に対し、当該投票参加者の口座の預入金額の残高を照会する(S112)。当該残高が投票余力であり、購入情報に指定された購入金額が当該残高以下であれば、購入可能であると判定し、購入を受け付ける。受け付けた購入情報は、投票受付処理部52から投票管理装置インタフェース部30を介して投票管理装置20へ送信される(S114)。投票管理装置20は購入情報に応じて購入処理を行い(S116)、それが完了するとその旨を参加者管理装置10へ通知する(S118)。投票受付処理部52は購入完了の通知を受けると、購入情報を記録すると共に、現在の残高から購入金額分だけ減じた値でデータベース部32の口座の残高を更新する(S120)。そして購入完了が投票端末12に通知される(S122)。」 「【0032】競技が終了すると投票管理装置20は競技結果及び配当金額を参加者管理装置10へ送信し(S130)、参加者管理装置10はこれをデータベース部32に格納する(S132)。投票受付部38では配当振込処理部54が、投票券の購入情報と競技結果とを照合し(S134)、的中している場合には、対応する配当金額を口座に振り込む。すなわち、口座の預け入れ残高を、配当金額を加えた値で更新する(S136)。また配当振込処理部54は的中した旨を投票端末12へ通知し(S138)、投票端末12はこれを画面に表示する(S140)。」 そうすると、引用例2の上記摘記事項及び図面1,2から、引用例2には、次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「競馬や競輪などの投票を行う競技用投票システムにおいて、 投票参加者各人は、投票に参加するに際して、現金と引き替えに自分の競技用カードを作成し、 システム管理部34は、カード発行装置14からの通知に基づいて、競技用カードが発行された投票参加者の口座をデータベース部32に作成し、 投票受付処理部52がデータベース部32に対し、投票参加者の口座の預入金額の残高(投票余力)を照会し、購入情報に指定された購入金額が当該残高以下であれば購入可能であると判定して購入を受け付け、また、投票受付処理部52は購入完了の通知を受けると、現在の残高から購入金額分だけ減じた値でデータベース部32の口座の残高を更新し、 配当振込処理部54は、投票券が的中している場合には、口座の預け入れ残高を配当金額を加えた値で更新する、競技用投票システム。」 3 対比 本願補正発明と引用発明1とを対比する。 引用発明1は、「入金専用の口座である投票専用口座22を金融機関に予め開設してある利用者に対して、通信回線を介して接続された端末10を通じて、公営競技における勝者投票券に関する取引サービスを提供するシステムであって、利用者の投票専用口座22の残高範囲内で勝者投票券の購入依頼を受け付けるシステム」に関するものであることから、これら事項は、本願補正発明における「公営競技に対して投票する利用者から、入金を受け付ける前受口座を管理する金融機関システムと、公営競技に投票を行う利用者が使用する利用者端末と、ネットワークを介して通信可能に設置され、公営競技に対して投票する利用者から前受口座に入金された資金の範囲内で、投票情報の投票可否判別処理を行う公営競技決済処理装置」に相当する。ここで、引用発明1における「投票専用口座22」、「投票専用口座22の残高範囲」は、本願補正発明における「前受口座」、「前受口座に入金された資金の範囲」に対応している。 引用発明1における、残高通知ファイル3に格納される「銀行から通知される投票専用口座22の残高情報」、口座ファイル35に1日分まとめて格納される「どこの競輪場で、いつのどのレースの投票券を、いくら購入するかという情報である投票券の購入依頼情報」、総合振込ファイル31に1日分まとめて格納される「利用者が購入した投票券に生じた配当額に関する情報」は、本願補正発明における「金融機関に設置された前受口座に対して利用者から入金された入金金額を含む前受口座情報」、「投票金額と投票内容とを含む投票情報」、「投票に対する払戻金額を含む払戻情報」に対応している。 引用発明1における「投票専用口座22に入金された金額(残高)が、銀行から投票券取引システム30に通知されて、残高通知ファイル34と口座ファイル35に格納する手段」は、本願補正発明における「上記金融機関システムから上記金融機関の前受口座に利用者から入金があると送信される、入金金額を含む前受口座情報を受信する前受口座情報受信手段」と、「上記前受口座情報受信手段により受信した前受口座情報を、利用者から入金された金額と対応付けて、記憶手段に記憶させる前受口座情報処理手段」に対応している。 引用発明1における「利用者が、電話10を利用して接続した時、現時点の購入限度額を利用者へ通知した上で、投票券の購入依頼を受け付ける投票券取引システム30」は、本願補正発明における「上記利用者端末から、投票金額と投票内容とを含む投票情報をネットワークを介して受け付ける投票情報受付手段」に対応する。 引用発明1における「購入依頼額が購入限度額内か否かを判断し、購入依頼額が購入限度額内であれば依頼を受け付け、購入依頼額を口座ファイル35に格納する投票券取引システム30の制御装置」は、本願補正発明における「上記投票情報受付手段により受け付けた投票情報に含まれる投票金額に基づいて、当該受け付けた投票情報に含まれる投票金額が残高の範囲内であると判別した場合に利用者の投票を許可し、当該受け付けた投票情報に含まれる投票金額を記憶する投票可否判別処理手段」に対応している。ここで、引用発明1における「購入限度額」は、本願補正発明における「残高」に対応している。 以上によれば,本願補正発明と引用発明1の一致点と相違点は,次のとおりと認められる。 (1)一致点 「公営競技に対して投票する利用者から、入金を受け付ける受口座を管理する金融機関システムと、公営競技に投票を行う利用者が使用する利用者端末と、ネットワークを介して通信可能に設置され、公営競技に対して投票する利用者から前受口座に入金された資金の範囲内で、投票情報の投票可否判別処理を行う公営競技決済処理装置であって、 金融機関に設置された前受口座に対して利用者から入金された入金金額を含む前受口座情報と、投票金額と投票内容とを含む投票情報と、投票に対する払戻金額を含む払戻情報と、を記憶する記憶手段と、 上記金融機関システムから上記金融機関の前受口座に利用者から入金があると送信される、入金金額を含む前受口座情報を受信する前受口座情報受信手段と、 上記前受口座情報受信手段により受信した前受口座情報を、利用者から入金された金額と対応付けて、上記記憶手段に記憶させる前受口座情報処理手段と、 上記利用者端末から、投票金額と投票内容とを含む投票情報をネットワークを介して受け付ける投票情報受付手段と、 上記投票情報受付手段により受け付けた投票情報に含まれる投票金額と、上記記憶手段を参照し、残高とを比較し、当該受け付けた投票情報に含まれる投票金額が当該残高の範囲内であると判別した場合に利用者の投票を許可し、上記記憶手段に当該受け付けた投票情報に含まれる投票金額と記憶する投票可否判別処理手段と、 を備えたことを特徴とする公営競技決済処理装置。」 (2)相違点 [相違点1](利用者と利用者識別情報について) 本願補正発明では、公営競技決済処理装置の利用者として「複数の」利用者を対象とし、公営競技決済処理において「利用者識別情報」を用いている。 すなわち、本願補正発明では、金融システムにおいて「利用者の識別情報とともに入金を受け付け」るとともに、 公営決済処理装置は「少なくとも利用者識別情報を含む利用者情報を記憶する利用者情報記憶手段」を備え、 前受口座情報記憶手段は、「複数の」利用者から入金された入金金額と「当該入金を行った利用者識別情報」を含む前受口座情報等を「利用者識別情報毎に」記憶し、 前受口座情報受信手段は、「少なくとも利用者識別情報と」入金金額を含む前受口座情報を受信し、 前受口座情報処理手段は、前受口座情報を「利用者識別情報毎に」前受口座情報記憶手段に記憶させ、 投票情報受付手段は、利用者端末から「少なくとも利用者識別情報」等を受け取り、 投票可否判別手段は、「利用者識別情報に基づいて」前受口座情報記憶手段を参照する、という構成を採用している。 一方、引用発明1では、複数の利用者を対象とした処理については明らかではない点で両者は相違している。 [相違点2](前受口座情報記憶手段について) 本願補正発明では、前受口座情報と、投票情報と、払戻情報と、「種別である前受、購入、払戻の何れかひとつを含む取引の種類情報と、を取引情報として関連付けて、」利用者識別情報毎に記憶する前受口座情報記憶手段を備えているのに対し、引用発明1では、投票専用口座の残高情報、購入依頼情報、配当額に関する情報をそれぞれ格納する別個のファイルを備えており、また、「種別である前受、購入、払戻の何れかひとつを含む取引の種類情報」をファイルに格納するようになっていない点で両者は相違している。 [相違点3](残高の算出について) 本願補正発明では、投票情報受付手段により受け付けた投票情報に含まれる投票金額と、上記前受口座情報記憶手段を参照し、「入金金額情報に払戻金額情報の加算、及び、投票金額情報の減算、により算出された残高とを比較」しているのに対し、引用発明1では、現時点の購入限度額を利用者へ通知した上で、投票券の購入依頼を受け付け、購入依頼額が購入限度額内か否かを判断しているものの、購入限度額をどのように算出しているのかについては明らかではない点で両者は相違している。 4 当審の判断 [相違点1]について 引用発明1は、競馬、競輪といった公営競技における勝者投票券に関する取引サービスを提供するシステムに関するものであり、こういった公営競技には複数の利用者が当該システムを利用することはいうまでもないことであるから、引用発明1が複数の利用者を対象を想定した発明であることは明らかである。 そして、金融システムにおいて利用者の識別情報とともに入金を受け付けることは普通に行われていることであり、また、公営競技用の投票システムにおいて、識別情報に基づいて投票参加者の口座を作成したり、識別情報や預け入れられた現金をその口座に記録したり、あるいは、識別情報や暗証番号等により投票参加者を認証し、投票行為や払戻しを可能とすることは、例えば引用文献2(【0020】段落、【0026】段落)にも示されるように、当業者にとって周知の技術にすぎない。 そうすると、引用発明1を「複数の」利用者を対象としたシステムとするにあたって、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に採択できる設計変更にすぎない。 [相違点2]について 引用発明1では、投票専用口座の残高情報を残高通知ファイル34に、購入金額を含む購入依頼情報を口座ファイル35に、配当額に関する情報を総合振込ファイル31に格納しているが、一般に、複数種別の情報を複数の記憶手段に格納したり、あるいは、一つの記憶手段にまとめて格納したりすることは、当業者にとって普通の創作能力の発揮にすぎない。 また、複数種別の情報を一つの記憶手段にまとめて格納する場合、複数種別の情報の各々を識別するために何らかの「種類情報」を併せて記憶することは、当業者にとって常套手段にすぎない。 そうすると、引用発明1において、残高情報、購入金額情報、配当額に関する情報と、「前受、購入、払戻の何れかひとつを含む取引の種類情報と、を取引情報として関連付けて」記憶する「前受口座情報」記憶手段を設けることは、当業者であれば普通に採択しうる設計的事項にすぎない。 [相違点3]について 引用発明2の競技用投票システムにおいて使用されている口座は、競技用カードの残高情報を表すものであって、金融機関側の口座の残高情報を管理する構成を有するものではないが、投票の代金に応じて投票余力を減少させたり、配当金額に応じて投票余力を増加させることにより投票余力を算出し、その投票余力の範囲内で投票券の購入が可能か否かを判別するという手法を他の公営競技システムに適用しようとすることは、当業者が普通に着想することである。 そうすると、引用発明1において、購入限度額を算出するにあたって引用発明2の上記手法を採用し、上記購入限度額を「入金金額情報に払戻金額情報の加算、及び、投票金額情報の減算、により算出」するように構成することは、当業者が容易に想到できるものである。 そして,本願補正発明の作用効果も,引用例1?2から当業者が予測できる範囲のものである。 以上より、本願補正発明は,引用例1?2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって,本願補正発明は,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5 むすび したがって,本願補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成20年9月11日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願特許請求の範囲の請求項に係る発明は、平成20年6月9日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 公営競技に対して投票する利用者からの入金を受け付ける前受口座を管理する金融機関システムと、公営競技に投票を行う利用者が使用する利用者端末と、通信可能に設置され、公営競技に対して投票する利用者から前受口座に入金された資金の範囲内で、投票情報の決済処理を行う公営競技決済処理装置であって、 少なくとも利用者識別情報を含む利用者情報を記憶する利用者情報記憶手段と、 金融機関に設置された前受口座に対して複数の利用者から入金された入金金額と上記入金を行った利用者識別情報を含む前受口座情報と、投票金額と、投票内容を含む投票情報と、投票に対する払戻金額を含む払戻情報と、取引の種類情報と、を取引情報として関連付けて、利用者識別情報毎に記憶する前受口座情報記憶手段と、 上記金融機関システムから送信された前受口座情報を受信する前受口座情報受信手段と、 上記前受口座情報受信手段により受信した前受口座情報を、利用者識別情報毎に上記口座情報記憶手段に記憶させる前受口座情報処理手段と、 上記利用者端末から、少なくとも利用者識別情報、投票金額、投票内容を含む投票情報を受け付ける投票情報受付手段と、 上記投票情報受付手段により受け付けた投票情報に基づき、上記前受口座情報記憶手段を参照し、利用者識別情報に対応する取引情報に反映した残高の範囲内で、決済を行う決済処理手段と、 を備えたことを特徴とする公営競技決済処理装置。」 2 引用例について 原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2 2」に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明において、「公営競技決済処理装置」(前段部分)、「前受口座情報記憶手段」、「前受口座情報受信手段」、「前受口座情報処理手段」、「投票情報受付手段」に関する事項を限定を解除するとともに、「投票可否判別処理手段」とあったところを「決済処理手段」として限定を解除したものに相当する。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、更に他の要件を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2」に記載したとおり、引用例1?2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1?2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-12-22 |
結審通知日 | 2010-12-24 |
審決日 | 2011-01-12 |
出願番号 | 特願2003-64722(P2003-64722) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G06Q)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 宮地 匡人 |
特許庁審判長 |
井上 正 |
特許庁審判官 |
木方 庸輔 山本 穂積 |
発明の名称 | 公営競技決済処理装置、方法及びプログラム |
代理人 | 粕川 敏夫 |