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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1232760
審判番号 不服2009-20630  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-26 
確定日 2011-02-24 
事件の表示 特願2003-570434「半導体発光装置およびそれを用いた光ディスク装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月28日国際公開、WO03/71642〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成15年2月20日に国際特許出願(優先権主張 平成14年2月21日)したものであって、平成20年7月9日付けで拒絶理由が通知され、同年9月16日に手続補正がなされたが、平成21年7月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、これと同時に手続補正がなされたものである。


2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成21年10月26日になされた手続補正後の特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

「共通基板の主面の隣接する位置に、主出射面が同一方向の少なくとも1組の発光素子を有する半導体発光装置であって、
主出射面(01-1)側から見たその両側面が、結晶軸(100)方向に対して(0-1-1)面から(011)面に向かう方向に所定の角度(オフ角)で傾斜してなる基板と、
前記共通基板の(011)面側に配置され、主出射面側から見て、対向する2つの側面のうち左側が右側よりもなだらかな台形状の断面を有する第1の発光素子と、
前記共通基板の(0-1-1)面側に配置され、前記第1の発光素子と対をなす第2の発光素子とを備え、
前記第1の発光素子および第2の発光素子はともに互いに平行な帯状形状を有し、前記第2の発光素子は帯状形状の中心軸と光軸方向が一致するのに対し、前記第1の発光素子はその光軸が帯状形状の中心軸と一致若しくは前記第2の発光素子の光軸側に接近する
半導体発光装置。」(以下「本願発明」という。)
なお、本願発明は、上記手続補正前の請求項3に係る発明に実質的に対応するものである。


3 原査定の拒絶の理由
(1)平成20年7月9日付け拒絶の理由
平成20年7月9日付けで通知した拒絶の理由は、次に抜粋して示すとおりのものである。

「A.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。


本願明細書及び図面の説明によると、図7、8に関し、AlGaInP系レーザ素子12の光軸L1が離れ目になる理由として、リッジ部の側壁の傾斜角度が非対称になることによって、傾斜のなだらかな方(図7(B)では右側)で光の閉じ込め効果が弱くなり光分布が非対称になる点が記載されている。しかしレーザ光はレーザストライプ内を長手方向に往復しながら共振しており、リッジ部の傾斜角が非対称であったとしても、共振往復は依然長手方向に沿って生起していると理解されるのが通常であって、それが当該長手方向から傾く(さらには傾いた方向に出射される)理由が理解し得ない。
また何故AlGaInP系のレーザ素子(12)の光軸L1は離れ目にそれ、AlGaAs系のレーザ素子(13)の光軸L2は同様の特性を示さないのかも不明である。
したがって実際に本願図7のような構成で図8のような現象が生起しているのか疑わしく、同様に本願発明の構成(図1)で図2に示されているような光軸方向にレーザ光が出射するものか疑わしい。
仮に理論的裏付けが困難であったとしても、実証的に裏付けられることが必要
である。
・・・」

(2)平成21年7月23日付け拒絶査定
平成21年7月23日付け拒絶査定は、本願は上記拒絶の理由によって拒絶すべきものであるというものであって、その備考欄には、次のとおり記載されている。

「出願人は、意見書において、AlGaAs系レーザ素子26及びAlGaInP系レーザ素子24各々の構造部の斜面の非対称性は無関係である旨説明しているが、請求項1、7では第1の発光素子の対向側面のうち左側が右側よりもなだらかな台形状をしていることが本願発明の本質的特徴部分として記載されており、ここでいう対向側面は明細書の記載から図1A、Bにおける24a、24bであることは明らかである以上、かかる斜面の非対称性が無関係であるという説明は意味不明と言わざるを得ない。また参考図において『実際の寸法』を記載し、かかる寸法からして構造部斜面の非対称性の影響はないとしているが、かかる『実際の寸法』に関する開示は当初明細書になく、そのような寸法形状を前提した議論は採用し得ない。また請求項1、7における側面の傾斜に関する基準として単なる『結晶軸方向』では不明確である旨の拒絶理由に対し、今次補正で『結晶軸方向』を削除してきたが、それでは如何なる方向を基準にしてオフ角度傾斜するのかがそもそも不明確であるとの瑕疵を治癒するものではない。
したがって、意見書・補正書によっても依然本願発明の作用・動作原理及び構成が明確に理解しうるものではない。」


4 当審の判断
(1)本願発明の「主出射面側から見て、対向する2つの側面のうち左側が右側よりもなだらかな台形状の断面を有する第1の発光素子」との構成につき、本願明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)には、以下の記載がある(下線は、審決で付与した。以下同じ。)。

ア「【0024】
この基板22上に後述の成長法により形成されるAlGaInP系レーザ素子24は断面が非対称のリッジ(台形)形状となり、主出射面側から見て、対向する2つの側面のうち左側の面24aは右側の面24bよりもなだらかになる。AlGaAs系レーザ素子26も同様に、主出射面側から見て、対向する2つの側面のうち左側の面26aが右側の面26bよりもなだらかになる。」

イ「【0029】
・・・レーザ光の主出射面から見た、AlGaInP系レーザ素子24のAlGaAs系レーザ素子26側、すなわち左側の傾斜面24aは右側の傾斜面24bよりもなだらかになっている。」

ウ「【0038】
まず、第3A図に示したように、例えば、厚さ350μm程度のn型GaAsよりなる基板22(オフ基板)を用意し、この基板22の表面にMOCVD法により、n型InGaP混晶よりなるバッファ層40,n型AlGaInP混晶よりなるn型クラッド層41,Al_(x) Ga_(y) In_(1-x-y) P(但し、x≧0かつy≧0)混晶よりなる活性層42,p型AlGaInP混晶よりなるp型クラッド層43およびp型GaAsよりなるp型コンタクト層44を順次成長させる。
【0039】
次いで、第3B図に示したように、p側コンタクト層44の上に図示しないマスクを形成し、p側コンタクト層44およびp型クラッド層43の上層部を選択的にエッチングしてこれらを細い帯状とし、p型クラッド層43を表面に露出させる。続いて、p側コンタクト層44上の図示しないマスクを利用して、p型クラッド層43およびp側コンタクト層44の側面を覆うように絶縁層(電流ブロック領域)45を形成する。
【0040】
次いで、p型コンタクト層44の上にAlGaInP系レーザ素子24の形成予定領域に対応して選択的にレジスト膜R_(1)を形成する。そののち、このレジスト膜R_(1)をマスクとして、例えば硫酸系のエッチング液を用いてp型コンタクト層44,リン酸系または塩酸系のエッチング液を用いてp型クラッド層43,活性層42およびn型クラッド層41のレジスト膜R_(1)に覆われていない部分をそれぞれ選択的に除去する。そののち、レジスト膜R_(1)を除去する。」

エ「【0041】
これにより、前述の理由から、基板22上に、断面が台形状で、かつ紙面に向かって左側の側面が右側の側面よりもなだらかなAlGaInP系レーザ素子24が得られる。」

オ「【0042】
続いて、第4A図に示したように、例えばMOCVD法により、n型GaAsよりなるバッファ層51,n型AlGaAs混晶よりなるn型クラッド層52,Al_(x) Ga_(1-x) As(但し、x≧0)混晶よりなる活性層53,p型AlGaAs混晶よりなるp型クラッド層54およびp型GaAsよりなるp型コンタクト層55を順次成長させる。
【0043】
そののち、第4B図に示したように、p型コンタクト層55の上にAlGaInP系レーザ素子24の形成予定領域に対応してレジスト膜R_(2)を形成する。続いて、このレジスト膜R_(2)をマスクとして、例えば、硫酸系のエッチング液を用いてp型コンタクト層55を選択的に除去し、フッ酸系のエッチング液を用いてp型クラッド層54,活性層53およびn型クラッド層52をそれぞれ選択的に除去し、塩酸系のエッチング液を用いてバッファ層51を選択的に除去する。そののち、レジスト膜R_(2)を除去する。
【0044】
レジスト膜R_(2)を除去したのち、第5A図に示したように、例えば図示しない細い帯状のマスクを用いて、p型コンタクト層55およびp型クラッド層54の上層部にイオン注入法によりケイ素などのn型不純物を導入する。これにより、不純物が導入された領域は絶縁化され、電流ブロック領域56となる。
【0045】
電流ブロック領域56を形成したのち、第5B図に示したように、p型コンタクト層44,55の表面およびその近傍に、例えば、ニッケル,白金および金を順次蒸着し、p側電極46,57をそれぞれ形成する。更に、基板22の裏面側を例えばラッピングおよびポリッシングすることにより、基板22の厚さを例えば100μm程度とする。
【0046】
続いて、この基板22の裏面側に、例えば、金とゲルマニウムとの合金,ニッケルおよび金を順次蒸着し、2つのレーザ素子24,26に共通のn側電極60を形成する。そののち、加熱処理を行い、p側電極46,57およびn側電極60をそれぞれ合金化する。更に、基板22を例えばp側電極46,57の長さ方向に対して垂直に所定の幅で劈開し、その劈開面に一対の反射鏡膜を形成する。これにより本実施の形態の2波長半導体レーザ20が作製される。」

カ 第1B図


(2)上記(1)によれば、「リッジ」とは、台形状であるそれぞれのレーザ素子の断面形状を表現するものと解される。

(3)また、本願発明の「前記第1の発光素子はその光軸が帯状形状の中心軸と一致若しくは前記第2の発光素子の光軸側に接近する」との構成につき、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

ア「【0014】
また、理由は後述するが、2つの素子を極力近接させたとしても、第8図にも示したようにAlGaInP系レーザ素子12の光軸L_(1)がレーザストライプ14の中心軸14aから外側にずれ、光軸L_(1)と光軸L_(2)との間が離れてしまい、その結果、共通光学系のレンズシフト量が素子間の距離Sよりも大きくなるという問題があった。」

イ「【0030】
本発明者らは、DVDからCD、あるいはCDからDVDに切り換える際のレンズシフト量を小さくする研究の過程で、従来のモノシリック2波長半導体レーザでは、第8図にも示したように、AlGaInP系レーザ素子12の光軸L_(1)がレーザ光の主出射方向に向かって、AlGaAs系レーザ素子13の光軸L_(2)から離間するように、つまり離れ目になっているために、レンズ移動量が大きくなっていることを見いだした。そして、広がりの角度θが大きい場合には、レンズシフト量による調整範囲を超えるために、光ピックアップの性能不良を生ずることもあることが判明した。」

ウ「【0031】
AlGaInP系レーザ素子12の光軸L_(1)が離れ目になる理由は以下のように考えられる。すなわち、前述のように発振波長の短波長化を図るためにオフ基板を使用したとき、ウェットエッチングによりリッジ部を形成すると、リッジ部が非対称になる。これはエッチングを、結晶方位に依存してエッチングレートに選択性のあるエッチャントを用いるためである。このようにリッジ部の側壁の傾斜角度が非対称になることによって、傾斜のなだらかな方(第7B図では右側)で光の閉じ込め効果が弱くなり光分布が非対称になる結果、2つのレーザの光軸が離れ目になる。」

(4)上記(1)ないし(3)を踏まえて、本願発明の「主出射面側から見て、対向する2つの側面のうち左側が右側よりもなだらかな台形状の断面を有する第1の発光素子」との構成と、「第2の発光素子」と、「前記第1の発光素子はその光軸が帯状形状の中心軸と一致若しくは前記第2の発光素子の光軸側に接近する」との構成との関係について検討する。

ア 上記(2)に照らすと、上記(3)ウの「リッジ部」とは、断面がリッジ(台形)形状であるそれぞれのレーザ素子の部分を表現するものとひとまず解される。

イ そして、上記(3)ウには「ウェットエッチングによりリッジ部を形成すると、リッジ部が非対称になる」との記載があるところ、上記(1)ウないしオにおいて、「p型クラッド層43,活性層42およびn型クラッド層41」及び「p型クラッド層54,活性層53およびn型クラッド層52」がウェットエッチングされることが記載されており、いずれのエッチングも半導体レーザ素子の側面を形成するものである。

ウ さらに、上記(1)エは、レーザ素子の形状を説明する記載であるところ、「断面が台形状(審判注、すなわちリッジ形状。)で、かつ紙面に向かって左側の側面が右側の側面よりもなだらか」となる「前述の理由」とは上記(3)ウに記載の「発振波長の短波長化を図るためにオフ基板を使用したとき、ウェットエッチングによりリッジ部を形成すると、リッジ部が非対称になる。これはエッチングを、結晶方位に依存してエッチングレートに選択性のあるエッチャントを用いる」ことによるものと解される。

エ 以上によれば、上記(3)ウの「リッジ部」は、断面が台形状のレーザ素子の部分を表現するものと解するのが相当である。

オ したがって、上記(1)及び(3)の記載においては、半導体レーザ素子の断面が非対称のリッジ(台形)形状であることによって、傾斜のなだらかな方で光の閉じ込め効果が弱くなり光分布が非対称になる結果、2つのレーザの光軸が離れ目又は近接する旨の説明がなされていると認められる。

(5)上記を踏まえて、更に検討する。

ア 上記(1)アの「AlGaAs系レーザ素子26も同様に、主出射面側から見て、対向する2つの側面のうち左側の面26aが右側の面26bよりもなだらかになる。」との記載のとおり、AlGaInP系レーザ素子24と同様の説明がなされているから、AlGaAs系レーザ素子26においても、断面が非対称のリッジ(台形)形状となることが理解される。そして、0024段、第1B図から、AlGaInP系レーザ素子とAlGaAs系レーザ素子とは、同じ側の面が他方の面よりもなだらかになることが読み取れる。

イ すなわち、AlGaInP系レーザ素子24とAlGaAs系レーザ素子26とは、側壁の傾斜角度が非対称である点において差異はないものである。しかるに、なぜAlGaInP系レーザ素子の光軸は離れ目又は近接することになり、AlGaAs系レーザ素子の光軸は同様の特性を示さないのかが、発明の詳細な説明からは理解し得ない。

(6)上記(5)イによれば、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明が解決しようとする課題及びその解決手段について、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとはいえず、本願発明の技術的意義を当業者が理解できる程度に記載したものということはできないから、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところにより記載されたものであるということはできない。

(7)請求人は、平成20年9月16日に提出した意見書、審判請求の理由及び平成22年9月2日に提出した回答書において、るる主張するが、本願明細書及び図面に基づくものではなく、採用の限りではない。


5 むすび
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところにより記載されたものであるということはできない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-24 
結審通知日 2010-12-28 
審決日 2011-01-11 
出願番号 特願2003-570434(P2003-570434)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 崇  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 橿本 英吾
稲積 義登
発明の名称 半導体発光装置およびそれを用いた光ディスク装置  
代理人 藤島 洋一郎  

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