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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C09J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 C09J
管理番号 1232877
審判番号 不服2008-15506  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-19 
確定日 2011-03-15 
事件の表示 特願2003-424086「二剤型アクリル系接着剤組成物とそれを用いた接合体」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月 7日出願公開、特開2005-179548、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年12月22日に出願され、平成20年2月13日付けで拒絶理由通知がなされ、同年4月17日に意見書の提出及び手続補正がなされ、同年5月12日に上申書の提出がなされ、同年5月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月19日に審判請求がなされるとともに手続補正がなされ、平成22年9月24日付けで審尋がなされ、同年11月18日に回答書の提出がなされたものである。

第2 平成20年6月19日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年6月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成20年6月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、同年4月17日付けの手続補正により補正された本件補正前の請求項1?5の
「【請求項1】
(1)(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、(2)重合開始剤、(3)還元剤、(4)ジエン系コアシェル重合体を含有してなるアクリル系接着剤組成物であって、前記ジエン系コアシェル重合体がMBS樹脂であって、前記(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに膨潤可能であり、且つ25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上であることを特徴とする二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載の二剤型アクリル系接着剤組成物に、(5)(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに可溶なエラストマーを含有してなることを特徴とする二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項3】
前記(4)ジエン系コアシェル重合体のコアの部分が、ポリブタジエンを主成分とし、シェルの部分がスチレンおよび(メタ)アクリル酸誘導体の共重合体を主成分とすることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項4】
(5)(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに可溶なエラストマーが、ジエン系共重合体であることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1?4項記載のうちのいずれか1項に記載の二剤型アクリル系接着剤組成物により接合してなることを特徴とする接合体。」

「【請求項1】
(1)(メタ)アクリル酸誘導体モノマー100質量部、(2)重合開始剤0.1?20質量部、(3)還元剤0.05?15質量部、(4)ジエン系コアシェル重合体5?40質量部を含有してなるアクリル系接着剤組成物であって、前記ジエン系コアシェル重合体がMBS樹脂であって、前記(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに膨潤可能であり、且つ25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上であることを特徴とする二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載の二剤型アクリル系接着剤組成物に、(メタ)アクリル酸誘導体モノマー100質量部に対して、(5)(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに可溶なエラストマー5?40質量部を含有してなることを特徴とする二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項3】
前記(4)ジエン系コアシェル重合体のコアの部分が、ポリブタジエンを主成分とし、シェルの部分がスチレンおよび(メタ)アクリル酸誘導体の共重合体を主成分とすることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項4】
(5)(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに可溶なエラストマーが、ジエン系共重合体であることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1?4項記載のうちのいずれか1項に記載の二剤型アクリル系接着剤組成物により接合してなることを特徴とする接合体。」
に改めるものである。

2 補正の適否
本件補正後の請求項2についての補正は、本件補正前の請求項2において、「(5)(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに可溶なエラストマー」の含有量を「(メタ)アクリル酸誘導体モノマー100質量部に対して・・・5?40質量部」とする限定を付したものといえる。
しかし、本願の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。なお、本願に図面は添付されていない。)には、「(5)(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに可溶なエラストマー」の含有量を「(メタ)アクリル酸誘導体モノマー100質量部に対して・・・5?40質量部」とすることは記載されておらず、段落【0040】において、「(メタ)アクリル酸誘導体モノマー100質量部に対して、ジエン系コアシェル重合体との総和で5?40質量部」とすることが記載されているにすぎない。
また、上記「ジエン系コアシェル重合体」の含有量として当初明細書等に記載されているのは、「(メタ)アクリル酸誘導体モノマー100質量部に対して5?40質量部」(段落【0037】)である。
そして、補正が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである(平成18年(行ケ)第10563号)ところ、本件補正後の請求項2についての補正は、「(5)(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに可溶なエラストマー」の含有量が、(メタ)アクリル酸誘導体エラストマー100質量部に対して、「ジエン系コアシェル重合体との総和で5?40質量部」とならない場合、すなわちジエン系コアシェル重合体との総和で40重量部を超え、80質量部以下となる場合を含むことを追加するものであるから、そのような補正は、「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである」とはいえない。
よって、本件補正後の請求項2についての補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
したがって、本件補正後の請求項2についての補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成20年6月19日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、平成20年4月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載によれば、本願の請求項1?5は次のとおりである。
「 【請求項1】
(1)(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、(2)重合開始剤、(3)還元剤、(4)ジエン系コアシェル重合体を含有してなるアクリル系接着剤組成物であって、前記ジエン系コアシェル重合体がMBS樹脂であって、前記(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに膨潤可能であり、且つ25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上であることを特徴とする二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載の二剤型アクリル系接着剤組成物に、(5)(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに可溶なエラストマーを含有してなることを特徴とする二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項3】
前記(4)ジエン系コアシェル重合体のコアの部分が、ポリブタジエンを主成分とし、シェルの部分がスチレンおよび(メタ)アクリル酸誘導体の共重合体を主成分とすることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項4】
(5)(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに可溶なエラストマーが、ジエン系共重合体であることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の二剤型アクリル系接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1?4項記載のうちのいずれか1項に記載の二剤型アクリル系接着剤組成物により接合してなることを特徴とする接合体。」

第4 原査定の拒絶の理由
原査定における拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

[理由1]
この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

[理由2]
この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

そして、原査定の備考欄には以下の記載がある。

「<理由1について>
発明の詳細な説明には、請求項1に係る二剤型アクリル系接着剤組成物のうち、「25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上である」MBS樹脂として、「M-1」乃至「M-3」という市販のMBS樹脂を用いたものについて、チキソトロピック性に優れたものであることが実験結果に基づいて記載されている。
しかしながら、上記具体的に記載されたMBS樹脂の詳細が不明であることから、請求項1に係る二剤型アクリル系接着剤組成物を製造するに際して、「25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上である」MBS樹脂として具体的にどのようなものを用いれば、チキソトロピック性に優れた二剤型アクリル系接着剤組成物が得られるのか、本願の発明の詳細な説明を参酌しても当業者が理解することができるとはいえない。
また、同じMBS樹脂同士であっても、その組成や製造時の重合方法等によって25℃でのトルエン中での膨潤度は互いに大きく異なるものであるし、どのような組成を有し、且つどのような方法で重合して得られたMBS樹脂であれば当該膨潤度が9.5以上になるのか、本願の発明の詳細な説明には具体的に記載されていないから、「25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上である」MBS樹脂全般の具体的な入手手段は、本願の発明の詳細な説明を参酌しても当業者が理解することができない。
以上のとおり、発明の詳細な説明を参酌しても、「25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上である」MBS樹脂全般の入手手段の手がかりを当業者は理解することができない。
また、意見書を詳細に検討しても、意見書には「25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上である」MBS樹脂全般を入手する手段として、当業者に過度の試行錯誤を要求する方法しか記載されていない。したがって、本願発明のMBS樹脂全般の入手手段の具体的な手がかりは、意見書を参酌したとしても不明であると言わざるを得ない。
したがって、発明の詳細な説明は、このMBS樹脂を含有する請求項1?5に係る二剤型アクリル系接着剤組成物を当業者が製造することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

よって、発明の詳細な説明は、依然として当業者が請求項1?5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

<理由2について>
請求項1には、同項記載のMBS樹脂が「25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上である」という物性を有することが記載されている。
しかしながら、このような膨潤度によるジエン系コアシェル重合体の規定は、二剤型アクリル系接着剤組成物の技術分野において通常用いられるものとはいえないし、また、MBS樹脂が必ず上記特定の膨潤度を有するものとはいえないことから、請求項1に規定されたジエン系コアシェル重合体を当業者が具体的に想定することができない。
また、請求項3には、上記MBS樹脂が特定の組成を有することが記載されているが、これら特定の組成を有するMBS樹脂が必ず上記特定の膨潤度を有するとはいえないことから、請求項3に規定されたMBS樹脂も当業者が具体的に想定することができない。

よって、請求項1?5に係る発明は依然として明確でない。」

第5 当審の判断

1 [理由1]について
ア 審判請求人が平成20年4月17日付け意見書において提示した参考資料1(特許第3723576号公報)の第7頁42-43行には、「グラフト共重合体(C)は、10から40、ことに12から35の膨潤度SIを示すのが好ましい。この膨潤度は、室温におけるトルエン中の膨潤を測定して決定される。」と記載されており、同じ内容が参考資料1の公表特許公報に対応する特表平11-511492号公報(平成11年10月5日公表)の第14頁9-11行にも記載されている。
さらに、審判請求人が審判請求書において提示した参考資料5(特開平8-48704号公報,平成8年2月20日公開)には、「少なくとも1層がゴム状ポリマーからなる多層構造ポリマーであって、・・・かつトルエン膨潤度が50?500%の多層構造ポリマーを液状分散媒に分散させてなることを特徴とする多層構造ポリマー分散体。」(請求項1)が記載されている。
以上のことからみて、トルエン中での膨潤度を用いてポリマーを特定することは、本願の出願時において当業者が必要に応じて行う技術常識であったといえる。

イ 平成20年4月17日付けの手続補正により補正された本願の明細書(以下「本願明細書」という。)の段落【0049】には、
「[膨潤度]25℃にて、試料1gをトルエン100ml中で24時間静置し、その後トルエン中に膨潤したゲルを100メッシュの金網(質量A)にて濾過する。1分後、膨潤したゲルと金網の質量Bを測定し、室温にて一昼夜風乾後、真空乾燥を行い、乾燥したゲルと金網の質量Cを測定した。
膨潤度は以下の式により求めた。
膨潤度(倍)=(B-A)/(C-A)」
と記載されている。
したがって、請求項1に記載されている「25℃でのトルエン中での膨潤度」の測定条件は明確であり、その内容も試料をトルエンに浸して乾燥前後の重量比を求めるだけの単純なものであるといえる。

ウ 審判請求人は、平成20年5月12日付けの上申書において、本願明細書の段落【0048】に記載されている市販のMBS樹脂の商品名を以下のとおり開示した。

M-1:MBS樹脂(市販品) 膨潤度:10.8(倍) カネカ社製MBS樹脂B12
M-2:MBS樹脂(市販品) 膨潤度:11.5(倍) カネカ社製MBS樹脂B28
M-3:MBS樹脂(市販品) 膨潤度:14.1(倍) デンカ社製MBAS樹脂BL20
M-4:MBS樹脂(市販品) 膨潤度: 7.9(倍) カネカ社製MBS樹脂B59
M-5:MBS樹脂(市販品) 膨潤度: 7.2(倍) カネカ社製MBS樹脂B58

そして、「25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上」となるMBS樹脂に相当するM-1及びM-2が本願の出願時において市販されていたことは、審判請求人が審判請求書に添付した参考資料3(プラスチックス,1992年,Vol.43,No.11,71?75頁)の72頁第2表に記載されている。
そうすると、「25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上」となるMBS樹脂は、少なくとも本願出願時に市販されており、当業者に入手可能であると認められる。

エ 以上のとおり、トルエン中での膨潤度を用いてポリマーを特定することは本願の出願時において当業者の技術常識であり、請求項1に記載されている「25℃でのトルエン中での膨潤度」の測定条件は明確であり、その内容も試料をトルエンに浸して乾燥前後の重量比を求めるだけの単純なものであり、「25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上」となるMBS樹脂は、少なくとも本願出願時に市販されており、当業者に入手可能なものであると認められる。
したがって、当業者であれば、「25℃でのトルエン中での膨潤度が9.5以上」となるMBS樹脂を入手したければ、MBS樹脂の製造販売者に膨潤度9.5以上のものを指定することによって、当該膨潤度を有するMBS樹脂を入手することは容易にできることと認められるし、たとえそうでないとしても、市販されているMBS樹脂において、本願明細書の段落【0049】に記載された条件で膨潤度を測定し、9.5以上となるものを見いだすことに過度の試行錯誤を要するとまではいえない。

オ 小括
以上のとおりであるから、発明の詳細な説明の記載が、経済産業省令で定めるところにより、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということはできない。

2 [理由2]について
上記1のイで示したように、請求項1に記載されている「25℃でのトルエン中での膨潤度」の測定条件は明確である。
よって、その条件に従って膨潤度を測定することにより、9.5以上のものとそうでないものを明確に区別することができるから、特許請求の範囲に記載された、特許を受けようとする発明が明確でないということはできない。
なお、原査定では、「このような膨潤度によるジエン系コアシェル重合体の規定は、二剤型アクリル系接着剤組成物の技術分野において通常用いられるものとはいえない」旨、及び「請求項1に規定されたジエン系コアシェル重合体を当業者が具体的に想定することができない」旨をいうが、上記1のアで示したように、トルエン中での膨潤度を用いてポリマーを特定することは、本願の出願時において当業者が必要に応じて行う技術常識であったといえるから、そのような手段により特定された請求項1のジエン系コアシェル重合体を当業者が具体的に想定することができないとはいえず、特許を受けようとする発明が明確でないということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとも、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものでないともいうことはできないから、特許を受けることができないものであるということはできない。
また、ほかに本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-02-28 
出願番号 特願2003-424086(P2003-424086)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (C09J)
P 1 8・ 537- WY (C09J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中西 聡齋藤 恵  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 齊藤 真由美
小出 直也
発明の名称 二剤型アクリル系接着剤組成物とそれを用いた接合体  

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