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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1233030
審判番号 不服2007-27451  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-05 
確定日 2011-03-02 
事件の表示 特願2002-135407「磁気ヘッドのための薄膜を堆積する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年2月28日出願公開、特開2003- 59016〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成14年5月10日(パリ条約による優先権主張 平成13年(2001年)5月11日 米国)の出願であって、その請求項1ないし26に係る発明は、平成22年9月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし26に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項13に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項13】酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、その混合物およびその層状化構造からなる群から選択されるALD-形成されたヘッドギャップフィルレイヤーを含む、磁気読取りヘッドであって、
前記ALD-形成されたヘッドギャップフィルレイヤーが5nm?30nm(但し、30nmのものを除く)の厚さを有し、かつ前記ヘッドギャップフィルレイヤーが約2%未満の厚み変動を有する、磁気読取りヘッド。」

2.引用例
当審が平成22年2月26日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平11-25426号公報(以下、「引用例1」という。)には、「スピンバルブMRヘッド及び同ヘッドを搭載した磁気ディスク装置」について、図面とともに、次の事項が記載されている。(以下、下線は当審で付加した。)

ア.「【0058】次に、図2に示すスピンバルブMRヘッドのスピンバルブ膜160周辺の素子構造の製造方法について、図7乃至図10の工程図を参照して説明する。
まず、AlTiC(アルテック)等からなる基体(図示せず)上に、例えばNi-Fe(ニッケル・鉄の合金)からなる膜厚が1?4μmの高透過率軟磁性層701、及びAl_(2)O_(3)(アルミナ)からなる膜厚が30?200nmの絶縁層702を、スパッタリング等により順に形成する(図7(a))。この高透過率軟磁性層701、絶縁層702は、図3中の下部シールド183、絶縁層190となる。
【0059】次に、スピンバルブ膜160を構成するフリー層162、非磁性層163、磁化固着層161、反強磁性層164用の、例えばCo-Fe(コバルト・鉄の合金)からなる膜厚が2?10nmの磁性層703、Cu(銅)からなる膜厚が2?10nmの非磁性層704、Co-Feからなる膜厚が2?10nmの磁性層705、Fe-Mn(鉄・マンガンの合金)からなる膜厚が2?10nmの反強磁性層706(イリジウム・マンガンの合金でもよい)を、スピンバルブ膜160を形成すべき領域より広い領域にスパッタリングにより形成する(図7(b))。この工程は、目的とする領域以外にマスクを形成した後、上記4層703?706を順にスパッタリングし、しかる後にマスクを除去することで実現できる。
【0060】次に、スピンバルブ膜160として残す領域にマスク707を形成した後(図7(c))、マスク707が形成されていない部分の層703?706を除去する(図7(d))。この除去操作は、イオン・ミリング(ion milling)と呼ばれる手法でアルゴン・イオンを用いて行われ、これによりフリー層162、非磁性層163、磁化固着層161、及び反強磁性層164からなるスピンバルブ膜160が形成される。ここで、マスク707の断面は、イオン・ミリングによってスピンバルブ膜160に傾斜がつくように、下側ほど狭くなる傾斜がつけられている。なお、スピンバルブ膜160に傾斜をつけるのは、永久磁石184a,184bとの電気的接触を確実にするためのである。
【0061】次に、マスク707を残した状態で、永久磁石184a,184b用の例えばコバルト系合金(Co-Ptなど)からなる膜厚が8?40nmの硬質磁性層801、Ti(チタン)、Cr(クロム)等からなる膜厚が30?100nmのリード185a,185b用の導電層802を、スパッタリング等により順に形成する(図8(a))。
【0062】次に、マスク707を除去する(図8(b))。これにより、スピンバルブ膜160の両側に永久磁石184a,184bとリード185a,185bとが形成される。
【0063】次に、図3中の穴32に相当する領域にマスク803を形成した後(図8(c))、Al_(2)O_(3)からなる絶縁層804を形成する(図8(d))。次に、マスク803の上面が削られる程度の深さまで、表面をラッピング(研磨)により平坦化し、当該マスク803を除去することで(図9(a))、膜厚が30?50nmの図2、図3に示した絶縁層22及び図3に示した穴32を形成す。」

上記記載事項によれば、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が、記載されている。

「アルミナ(Al_(2)O_(3))から、形成された絶縁層を含むスピンバルブMRヘッドであって、絶縁層の厚さが30?200nmまたは30?50nmであるスピンバルブMRヘッド」

同じく、当審が通知した拒絶の理由に引用された、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2000-54134号公報(以下、「引用例2」という。)には、「原子蒸着法を用いた薄膜形成法」について、図面とともに、次の事項が記載されている。

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は薄膜製造方法に係り、特に原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition:以下、”ALD法”と称する)による薄膜製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】一般的に、薄膜は半導体素子の誘電体(dielectric)、液晶表示素子の透明な導電体(transparent conductor)及び電子発光薄膜表示素子の保護層等で多様に使われる。前記薄膜は蒸気法、化学気相蒸着法、ALD法等によって形成される。
【0003】この中から、前記ALD法は表面調節工程であり2次元的な層間(layer by layer)蒸着を用いる。このようなALD法は吸着が常に表面運動領域でなされるので非常に優秀な段差被覆性を有する。また、熱分解ではない各反応物の周期的供給を通した化学置換で反応物を分解するので膜密度が高くて優秀な化学量論的な膜を得ることができる。また、工程中発生する化学置換による副産物は全て気体であるから除去が容易でチャンバの洗浄が容易であり、温度のみ工程変数であるから工程調節と維持が容易である。」
ウ.「【0039】図12は本発明による薄膜製造方法によって製造されたアルミニウム酸化膜のサイクル当厚さを示したグラフである。
【0040】具体的に、X軸はサイクル数を示す。ここで、一つのサイクルは図11に説明されたように第1反応物注入、物理吸着された第1反応物の除去、第1反応物注入、物理吸着された第1反応物除去、第2反応物注入及び物理吸着された第2反応物の除去、第2反応物注入、物理吸着された第2反応物を取り除く段階を示す。また、Y軸はアルミニウム酸化膜の厚さを示す。図12に示されたように本発明の薄膜製造方法によると、アルミニウム酸化膜がサイクル当1.1Åの厚さに成長され、これは理論値と類似な値を示す。」
エ.「【0041】図13は本発明による薄膜製造方法によって製造されたアルミニウム酸化膜の基板内均一度を説明するために示したグラフである。
【0042】具体的に、X軸は8インチ基板の中央点、前記中央点を中心に1.75インチの半径を有する円で90度間隔で4点、前記中央点を中心に3.5インチの半径を有する円で90度間隔で4点を合せて総9点の測定位置を示す。Y軸はアルミニウム酸化膜の厚さを示す。図13に示されたように8インチ基板内で均一度が非常に優秀なことが分かる。」

同じく、当審が通知した拒絶の理由に引用された、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2000-11332号公報(以下、「引用例3」という。)には、「磁気抵抗効果センサおよび磁気記録再生装置」について、図面とともに、次の事項が記載されている。

オ.「【0002】
【従来の技術】現在の磁気ディスク装置には、記録を誘導型薄膜ヘッドで行い、再生を磁気抵抗効果型ヘッドで行う記録再生分離型ヘッドが用いられる。磁気抵抗効果型ヘッドは、外部磁界に依存して電気抵抗が変化する磁気抵抗効果を用いており、図1に示すように、磁気抵抗効果膜,磁区制御膜,電極からなる磁気抵抗効果素子と、不要な磁界を遮断するための上下のシールド層および素子とシールド間を遮断する絶縁層からなる。現在、上記絶縁膜として、Al_(2)O_(3)やSiO_(2)およびこれらの混合膜が使われている。
【0003】磁気ディスク装置の高記録密度化に伴い、上下のシールド間隔が狭くなるため、シールドと磁気抵抗効果素子の間の絶縁膜の厚さが薄くなる。このため、薄い膜厚においても、絶縁耐圧が高い材料が必要となる。特開平6-52517号には、SiO_(2)層とSiN層の複数層により、特開平10-40517号には、Al_(2)O_(3)層とSiO_(2)層との積層構造により、薄くても高い絶縁耐圧が得られると記載されている。」

3.対比
引用例1発明の「アルミナ(Al_(2)O_(3))」は、本願発明の「酸化アルミニウム」に相当する。
本願発明において、「ヘッドギャップフィルレイヤー」とは、発明の詳細な説明の記載(段落[0018]?[0019]など)からみて、酸化アルミニウムから形成される第1ギャップ絶縁層6または第2ギャップ絶縁層30を意味することは明らかであるから、引用例1発明の「絶縁層」は、本願発明の「ヘッドギャップフィルレイヤー」に相当する。
そして、引用例発明の「スピンバルブMRヘッド」は、本願発明の「磁気読取りヘッド」に相当する。

したがって、本願発明と引用例1発明との一致点、相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、その混合物およびその層状化構造からなる群から選択される(材料から)形成されたヘッドギャップフィルレイヤーを含む、磁気読取りヘッド。」である点。

[相違点]
[相違点1]
ヘッドギャップフィルレイヤーの形成が、本願発明では、ALD-形成であるのに対し、引用例1発明では、スパッタリング等により形成される点。
[相違点2]
ヘッドギャップフィルレイヤーの厚さが、本願発明では5nm?30nm(但し、30nmのものを除く)であるのに対し、引用例1発明では、30?200nmまたは30?50nmである点。
[相違点3]
ヘッドギャップフィルレイヤーの厚み変動が、本願発明では約2%未満であるのに対し、引用例1発明では、特定されていない点。

4.相違点につての判断
[相違点1]について
引用例2には、ALD法は各種の薄膜形成に使用できる方法であって、非常に優秀な段差被覆性を有し、膜密度が高くて優秀な化学量論的な膜を得ることができること、アルミニウム酸化膜の形成において、均一度が非常に優秀なこと等が記載されている。(上記イ?エ)
絶縁層の膜密度が向上し、厚さが非常に均一なものとなれば、好ましいことは明らかであるから、絶縁層の特性の向上を期待して、引用例1発明の絶縁層の形成に引用例2に記載されたALD法を採用することは、当業者が容易に想到しうることである。

[相違点2]について
ヘッドギャップフィルレイヤー(絶縁膜)の厚さは、薄すぎれば絶縁膜として機能しないから、しかるべき下限があることは明らかであり、引用例1において、30nmが下限であるとする特段の理由は記載されていない。
一方、引用例3には、磁気ディスク装置の高記録密度化に伴い、上下のシールド間隔が狭くなるため、シールドと磁気抵抗効果素子の間の絶縁膜の厚さが薄くなる傾向にあること(上記オ)が記載されている。
ALD法を採用することにより、絶縁層の膜密度が向上し厚さが非常に均一なものとなれば、絶縁膜の膜厚を薄くしても、ピンホールが生成しにくくなり、絶縁耐圧が低下するおそれが少ないことは、当業者が推考しうることであるといえる。
ところで、本願の発明の詳細な説明には、「ギャップ層は5nm?100nmの厚み、より好ましくは10nm?40nmの厚みである。」(段落[0014]、[0019])と記載され、実施例2における厚さは「30nmのオーダー」であると記載されている(段落[0046])が、ヘッドギャップフィルレイヤーの厚さを5nm?30nm(30nmを除く)とすることによって奏される効果については何ら記載されていない。
そうすると、ヘッドギャップフィルレイヤーの厚さを5nm?30nm(但し、30nmのものを除く)とすることは単なる設計事項にすぎない。

[相違点3]について
引用例2には、ALD法で積層すると膜厚の変動が極めて少ないことが記載されている。(上記エ)
図13から膜厚の変動率の数値を正確に読み取ることはできないが、極めて膜厚の変動が小さいことは明らかである。
一方、本願の発明の詳細な説明には、20nm積層後の膜厚変動が2%未満であったことが記載されている(段落[0042]?[0043])が、膜厚の変動を2%未満とすることによる効果等については何ら記載されていない。
そうすると、厚みの変動が2%未満であることは、厚さの均一度が非常に優秀であることを意味するものであって、単にALD法を採用することによって得られる効果に過ぎないというべきである。

そして、上記各相違点について総合的に検討しても、本願発明が当業者が予測し得ない効果を奏するものということはできない。

したがって、本願発明は、その優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用例1ないし3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、意見書において「そのため、この記載(引用例1)を見た当業者は、形成されるフィルレイヤーによってNi-Fe層の全面が被覆されればよく、例えばそのフィルレイヤーの厚み変動は、絶縁層としての特性に影響を与えないことを想起します。
従って、ALD法で積層すると膜密度が高く、膜厚の変動が極めて少ないことが仮に引用文献2に記載されていたとしても、引用文献1の記載に基づいて、製造コストを犠牲にしてまで、フィルレイヤーの厚み変動が約2%未満になるような手段でフィルレイヤーを形成するだけの動機付けがありません。」と主張している。
しかし、フィルレイヤーの厚みが変動すればその上に積層されるスピンバルブ層の厚さも変動し、スピンバルブMRヘッドの特性に影響することは明らかであるから、フィルレイヤーの厚み変動は、絶縁層としての特性に影響を与えないことを想起することはない。
また、ALD法で積層すると膜密度が高く、膜厚の変動が極めて少ないのであるから、絶縁層としての特性が向上しうることは当業者が予測しうることであり、製造コストがかかることが特段の阻害要因になるということはできない。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項13に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-01 
結審通知日 2010-10-05 
審決日 2010-10-19 
出願番号 特願2002-135407(P2002-135407)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石坂 博明  
特許庁審判長 横尾 俊一
特許庁審判官 関谷 隆一
山田 洋一
発明の名称 磁気ヘッドのための薄膜を堆積する方法  
代理人 八木澤 史彦  
代理人 鈴木 正夫  

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