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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B29C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1233035
審判番号 不服2008-4334  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-22 
確定日 2011-02-28 
事件の表示 特願2003-127050「電子機器筐体とその成形方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日出願公開、特開2004-330509〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成15年5月2日の出願であって、平成18年12月21日付けで拒絶理由が通知され、平成19年2月23日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年1月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年2月22日に拒絶査定不服審判が請求され、同年3月21日に手続補正書とともに審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年4月18日付けで前置報告がなされ、それに基いて当審において平成22年5月11日付けで審尋がなされ、それに対して同年7月12日に回答書が提出されたものである。

第2.平成20年3月21日提出の手続補正書による補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年3月21日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成20年3月21日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容は、平成19年2月23日提出の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1について、

「電子機器収納のため加工された金属ケースを金型に設置する工程と、
この金属ケース表面の所定位置に成形して設けられた独立した島であり、前記表面に接着される接着部、及び前記電子機器を設けるための取付部とを有する合成樹脂体を接着させるためのキャビティを金型に区画する区画工程と、
前記キャビティに前記合成樹脂を射出して電子機器筐体を成形する成形工程と
からなる電子機器筐体の成形方法において、
前記成形工程は、1つのスプールから複数の前記キャビティに対して均一に成形可能な形状の複数のランナーを介して均一に各前記キャビティに合成樹脂を射出するように、前記スプールから前記キャビティの各ゲートへの前記ランナーの長さが実質的に同一になるようにしたものであり、
前記キャビティは、一つの前記島及び一つの前記接着部に複数の前記取付部を形成する
ことを特徴とする電子機器筐体の成形方法。 」

を、

「電子機器収納のため加工された金属ケースを金型に設置する工程と、
この金属ケース表面の所定位置に成形して設けられた独立した島であり、前記表面に接着される接着部、及び前記電子機器を設けるための取付部とを有する合成樹脂体を接着させるためのキャビティを金型に区画する区画工程と、
前記キャビティに前記合成樹脂を射出して電子機器筐体を成形する成形工程と
からなる電子機器筐体の成形方法において、
前記成形工程は、1つのスプールから複数の前記キャビティに対して均一に成形可能な形状の複数のランナーを介して均一に各前記キャビティに合成樹脂を射出するように、前記スプールから前記キャビティの各ゲートへの前記ランナーの長さが実質的に同一になるようにしたものであり、
前記キャビティは、一つの前記島及び一つの前記接着部に複数の前記取付部を形成し、前記複数のランナーを介して前記合成樹脂が射出される
ことを特徴とする電子機器筐体の成形方法。 」

とする補正(以下、「本件補正1」という。)を含むものであり、本件補正1は、具体的には、本件補正前の「前記キャビティは、一つの前記島及び一つの前記接着部に複数の前記取付部を形成する」を「前記キャビティは、一つの前記島及び一つの前記接着部に複数の前記取付部を形成し、前記複数のランナーを介して前記合成樹脂が射出される」と補正するものである。

2.補正の適否について
(1)新規事項の追加の有無について

上記本件補正1に係るキャビティ、ランナーについて、本願の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。

a)「図3は、取付部8aを構成する合成樹脂体8を金属ケース6に成形する金型構成の断面を示している。本実施の形態でいう取付部8aは、ビスをねじ込むためのタップ穴、軸に嵌り込むボス、ピンを挿入するピン穴、プリント基板を位置決めするためのスペーサ、金属ケース6の補強用のリブ、金属ケース6内部空間を区画のための隔壁等を意味する。可動金型9は金属ケース6の外形形状に合わせた形状に凹部が形成されており、この中に成形加工された金属ケース6が合致するように挿入される。固定金型10には合成樹脂体8の溶融樹脂を射出するスプール13が配置されていて、取付部8aと金属ケース6に接着する部分の接着部8bに相当するキャビティが区画されている。
このキャビティに導通する状態でゲート11が設けられ、このゲート11にランナー12とスプール13が連なっている。キャビティは、取付部8aと接着部8bを構成するように区画された空間である。可動金型9が閉じられた後、このキャビティにゲート11を介して熱可塑性樹脂である合成樹脂体8を射出して取付部8aを成形する。金属ケース6の表面に対しては、取付部8aよりやや面積の大きい接着部8bを構成する。
取付部8aの接着部8bは、金属ケース6全体に跨って接着することはしない。この取付部8aの接着面は従来の場合に比し極めて小さいものであるが、前述の表面処理を行っているので、接着は強固に行われる。複数の取付部8aがある場合には、各取付部8aに熱可塑性樹脂である合成樹脂体8が均一に射出されるようにランナー12の長さ、直径等の寸法が決められる。
即ち、1つのスプール13から複数のランナー12に対し、キャビティの大きさに合わせて均等に各取付部8aが冷却され固まるようにランナー12の形状を設定する。より具体的には、スプール13から各ゲート11への各長さL1とL2の長さが実質的に同一にすると一般的な成形条件としては良いことが知られている。各取付部8aが金属ケース6の表面に島状に点在して配置されているために、スプール13からゲートまでの長さL1とL2が実質的に同一に設計し易い。」(段落【0027】?【0030】)

b)「

」(図3)

c)「図4は、同一の接着部8bにタップ穴等の複数の取付部8aが設けられた例である。ゲート11は接着部8bに設けられるので、本例ではゲート数は1つである。この場合は、取付部8aが多くてもゲート11の数を少なくすることができ、それに伴いランナー12の数が少なくなり、製造効率の面では効果的である。近接している取付部8aのある構成のものは、1つの接着部8bに複数の取付部8aをまとめて、1つのゲート11から合成樹脂を射出するようにすればよい。
図5はその例を示した他の例である。島Aは5個の取付部8aを1つの接着部8bでまとめたもので,島Bは3個の取付部8aを1つの接着部8bでまとめたものである。接着部8bの大きさは、取付部8aの大きさに合わせ、好ましくは実質的に同一の大きさ(樹脂の容量)で必要最小限度の大きさにする。又、この構成においても、各接着部8bに合成樹脂体8が可能な限り均一に同時間に射出されるように、ゲート数、ランナーの直径、長さ等を変化させる。
図5に示すものは、1つのスプール13から2つのランナー12に分岐され、島A、島Bで示される合成樹脂体8が成形されるが、同時に射出を終了させるために、島A部分の大きさと島B部分の容量は同一が好ましいが、例えば島A部分に必要な樹脂量とのランナーは島B部分に必要な樹脂量とが違う場合、一方のランナー12、ゲート11の大きさを若干変えるとかして島A及び島Bに同時に樹脂が流れ充填されるようにしても良い。」(段落 【0031】?【0033】)

d)「

」(図4、図5)

e)「図6は、他の実施の形態を示すもので、取付部21がモバイル型の電子機器の金属フレーム20の枠側に配置された場合の構成例である。金属フレーム20はアルミニウム合金等のプレスされた薄板状のフレームで、合成樹脂の取付部21が成形により取り付けられたものである。配置された各取付部21は、離間して独立した島状に設けられている。図7、図8は、この金属フレーム20に接着部22を介して取付部21が成形される形態の構成を示したものである。図7は、1つのスプール23から接着部22の数に応じて設けられた複数のランナー24を介して複数の接着部22に射出する形態を示した図である。金属フレーム20に合成樹脂を射出する形態を模式的にスケルトンで示した外観図である。
図8は、その金型構成の部分断面図を示している。部分的に1つの接着部22に複数のランナー24が設けられた構成になっているが、ランナー24は均一に合成樹脂が射出され取付部21及び接着部22が固まるように設置されている。このように、金属フレーム20に対して、1つのスプール23から島状に離間した接着部22に同時に射出することが出来、しかも前述の処理によって強固に接着が出来る。結果的に金属フレーム20全体を合成樹脂で被覆する必要がなく、必要な一部のみの成形で可能になったので成形された製品が軽量化できる。」(段落 【0034】?【0035】)

f)「

」(図6、図7、図8)

上記摘示事項a)及びb)の記載においては、「複数の取付部8aがある場合には、各取付部8aに熱可塑性樹脂である合成樹脂体8が均一に射出されるようにランナー12の長さ、直径等の寸法が決められる」とされ、図3において、複数のキャビティへのランナーの長さL1及びL2を等しくした具体例が示されている。
上記摘示事項c)及びd)の記載においては、「各接着部8bに合成樹脂体8が可能な限り均一に同時間に射出されるように、ゲート数、ランナーの直径、長さ等を変化させる」と記載されており、図4には、複数の取付け部を有する接着部に対して1つのスプールが示されており、「1つのスプールから2つのランナー12に分岐され」ているとされている図5に関しては、「島A部分に必要な樹脂量とのランナーは島B部分に必要な樹脂量とが違う場合、一方のランナー12、ゲート11の大きさを若干変える」と記載されている。
上記摘示事項e)及びf)の記載においては、図7において「1つのスプール23から接着部22の数に応じて設けられた複数のランナー24を介して複数の接着部22に射出する形態」が示されており、「部分的に1つの接着部22に複数のランナー24が設けられた構成になっているが、ランナー24は均一に合成樹脂が射出され取付部21及び接着部22が固まるように設置されている」とされている。

そうすると、「キャビティは、1つの島及び1つの接着部に複数の取付部を形成し、複数のランナーを介して合成樹脂が射出される」態様が、当初明細書等に記載されていたことは明らかであるから、本件補正1は、当初明細書等の記載の範囲内でしたものと認められる。

(2)補正の目的について
上記本件補正1は、本件補正前の請求項1に「前記キャビティは、前記複数のランナーを介して前記合成樹脂が射出される」点を新たに追加するものである。しかし、本件補正前の請求項1には「1つのスプールから複数の前記キャビティに対して均一に成形可能な形状の複数のランナーを介して均一に各前記キャビティに合成樹脂を射出するように」と記載されており、このことは「キャビティは、複数のランナーを介して射出される」と同義であることから、当該本件補正1により、本件補正前の特許請求の範囲を実質的に減縮するものとは認められない。
そして、上記本件補正1が、特許法第17条の2第4項各号に補正の目的とし得る事項として掲げられた「請求項の削除」(1号)、「誤記の訂正」(3号)、「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」(4号)のいずれにも該当しないことは、明らかである。

したがって、本件補正1を含む本件補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
平成20年3月21日提出の手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?2に係る発明は、平成19年2月23日提出の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載されたとおりのものであり、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「電子機器収納のため加工された金属ケースを金型に設置する工程と、
この金属ケース表面の所定位置に成形して設けられた独立した島であり、前記表面に接着される接着部、及び前記電子機器を設けるための取付部とを有する合成樹脂体を接着させるためのキャビティを金型に区画する区画工程と、
前記キャビティに前記合成樹脂を射出して電子機器筐体を成形する成形工程と
からなる電子機器筐体の成形方法において、
前記成形工程は、1つのスプールから複数の前記キャビティに対して均一に成形可能な形状の複数のランナーを介して均一に各前記キャビティに合成樹脂を射出するように、前記スプールから前記キャビティの各ゲートへの前記ランナーの長さが実質的に同一になるようにしたものであり、
前記キャビティは、一つの前記島及び一つの前記接着部に複数の前記取付部を形成する
ことを特徴とする電子機器筐体の成形方法。」

第4.原査定の理由の概要
原査定の理由とされた、平成18年12月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由2は、以下のとおりである。
「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


<理由1、2について>
・請求項 1、3、5、7
・引用文献等 1
・備考
引用文献1には、電子機器筐体の製造方法において、アルミニウム合金の表面をトリアジンチオール誘導体(本願発明における「水溶性アミン系化合物」に相当)で処理(塗布)し、その処理されたアルミニウム合金の表面に、機械的な強度を有する樹脂(ポリエステル樹脂等)を、リブ等の形で、リブ等を含めその近傍(本願発明における「独立した島」に相当)に充填、固着させる旨の記載がある(特許請求の範囲、【0024】?【0028】、【0037】、図面等参照)。
なお、本願請求項1に係る発明における「金属ケースの表面」とはトリアジンチオール誘導体等で処理(塗布)された金属ケースの表面も包含していると認められる(本願明細書【0021】には、「金属ケース6は、…塗布等の周知の方法による表面処理がなされている。」と記載されている。)

<理由2について>
・請求項 2、6
・引用文献等 1
・備考
引用文献1には、「筐体内部形状、構造も複雑な形状とすることができる」(【0038】)と記載されていることからすれば、引用文献1に記載された発明をもとに請求項2、6に係る発明とすることは、当業者が適宜なし得る。
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2002-225073号公報
2.省略 」

第5.当審の判断
1.刊行物
刊行物:特開2002-225073号公報
(平成18年12月21日付け拒絶理由通知の引用文献1)

2.刊行物の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-225073号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【発明の属する技術分野】本発明は、電子機器等の筐体とその製造方法に関する。更に詳しくは、プリス加工された金属板、ダスキャスト品等の金属製のケースを補強したり、電子機器を取り付けたり、内装、外装を容易とするために合成樹脂を一体化して樹脂部品を固着した電子機器筐体とその製造方法に関する。」(段落 【0001】)

(1b)「・・・さらに、前記樹脂部品が、ビス、ツメ、リブ、ボス等のように、機械要素的な機能のための構造部分であってもよい。
本発明の電子機器筐体の製造方法は、金属ケースを含む電子機器筐体の製造方法であって、前記金属ケースを射出成形金型にインサートする工程と、前記金属ケースと一体化した樹脂部品を成形するため前記射出成形金型にポリアミド樹脂(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル樹脂、ABS樹脂から選択される一種以上の熱可塑性樹脂に請求項1の変性α?オレフィン樹脂を含有した樹脂を射出する工程とを含むことを特徴としている。」(段落 【0016】?【0017】)

(1c)「[実施の形態1]以下、本発明の実施の形態1を図面に従って説明する。本発明の電子機器の筐体を携帯用電話器に採用した例で説明する。図1に示すものは、本発明の筐体を備えた携帯用電話器の正面図である。携帯用電話器1は、合成樹脂製の電話器本体2から構成されており、この電話器本体2内には電話の機能を実現するIC等の電子機器が内装されている。
電話器本体2は、2体からなりその厚さ方向の中心の分割面で2分割される。電話器本体2の上面にはケースカバー3が配置され、この裏面には裏面本体4が配置されている。ケースカバー3は、制御パネルの機能と電話器本体2としての両方の機能を果たすものであり、複数の押ボタン5が配置されキー群を構成する。押ボタン5は、電話器本体2内に配置された接点類(図示せず)を駆動する。ケースカバー3と裏面本体4とは、ビス又はノッチ等の固定手段(図示せず)で一体に固定されている。
図2は、図1のII-II線で切断したときのケースカバーの断面図である。ケースカバー3の外表面は、マグネシウム合金で作られた金属ケース6から形成されている。金属ケース6は、射出成形機を使ってマグネシウム合金を金型内に射出して作られるが、この製造方法については、公知でありここでは詳記しない。また、比較的簡素な形状のものはプレス加工により製造される。プレス加工の場合は低コストで製造が可能である。金属ケース6は、IC等の電子部品から発生する電磁波、又は他の電子機器等からの電磁波を効率良く遮蔽する。
金属ケース6は、耐腐食性、耐摩耗性、装飾性の向上等の要請から化成処理、金属メッキ等の周知の方法による表面処理が通常なされている。金属ケース6の内面には、隔壁と補強のために熱可塑性樹脂製のリブ7(樹脂部品)が一体に固着されている。この固着は後述する方法により熱融着されて金属ケース6と一体化されている。」(段落 【0019】?【0022】)

(1d)「この処理された金属ケース6は、リブ7を射出するための射出成形金型にインサートされる。図3は、金属ケース6の表面に射出成形により熱可塑性合成樹脂が充填される射出成形金型の断面図である。可動側型板10のキャビティ11に、前処理された金属ケース6を挿入配置する。
金属ケース6をキャビティ11に挿入した状態で固定側型板15を閉じる。キャビティ11は、可動側型板10と固定側型板15とを閉めた状態で、金属ケース6、可動側型板10、固定側型板15で形成された空間である。このキャビティ11は、部分的な空間として設けられている。即ち、金属ケース6全体に跨るものでなく、構造物となる部分のみ、例えば、リブ、ボス、フック等となるための空間として設けられている。
このキャビティ11にランナ17、ゲート16を介してリブ7等を構成する熱可塑性合成樹脂の溶融樹脂が供給され、リブ7等の成形を行う。この溶融樹脂はリブ7等を含めその近傍のみ充填される。この溶融樹脂を部分的に供給するのは、供給する樹脂の収縮力が強いので、薄い金属ケース6の広い面積に溶融樹脂を供給し固着させると、収縮力のため変形してしまうおそれがありそれを避けるためである。また、余分な溶融樹脂の供給をしないので、生産量が多い場合はコスト面で有利である。
完成されたケースカバー3の筐体は、金属ケース6と熱可塑性合成樹脂で作られたリブ7とが一体に接合されて、強度的にも、外観のデザイン上も金属の特徴を活かし、しかも筐体内部の形状、構造も複雑な形状とすることができる。なお、ケースカバー3と共に電話器本体2を構成する裏面本体4も同様に製造される。以上樹脂部品をリブ7を中心に説明してきたが、リブに限定されることはなく、ビス、ツメ、ボスにおいても同様である。」(段落 【0035】?【0038】)

(1e)「[実施の形態2]前記実施の形態1は、金属ケース6の裏面にのみリブ7を形成するものであったが、このリブ7は必ずしも裏面にのみでなくても良い。即ち、金属ケース6の機械的な強度が不足するときには、金属ケース6の一部を型曲げして断面係数を増加させる方法、又は部分的に絞り加工してここに孔を形成して樹脂を金属ケースの表裏に貫通させる方法等がある。
図4に、実施の形態2による金属ケースと射出成形金型を示し、射出成形により熱可塑性合成樹脂が充填される前の断面図が示されている。この金属ケース12は、金属ケース12を塑性加工により成形し、かつ貫通孔8を形成したものである。この金属ケース12は、絞り加工により張出し加工を行って筐体内部に突出する凸部9を必要な複数個所に形成し、更にこの凸部9にポンチ加工により貫通孔8を加工したものである。この加工の後、前述した表皮層30が塗布硬化された後、射出成形金型内にインサートされる。
ゲート16介して射出された溶融樹脂は、金属ケース12の外側に形成された凹部13近傍のみを満たす。また、リブ7を形成する部分である金属ケース12の内側のキャビティ18については、個別に空間が設けられており、ゲート16aを介して溶融樹脂が供給される。金属ケース12は、貫通孔8が必要個所に開けられているので、射出成形時に溶融樹脂が円滑に流れる効果もある。」(段落 【0039】?【0041】)

(1f)「

」(7頁の図3)

(1g)「

」(7頁の図4)

3.刊行物に記載の発明
引用文献には、上記摘示事項(1a)?(1g)の記載からみて、

「金属ケースを射出成形金型にインサートする工程と、ゲート介して射出された溶融樹脂は、金属ケースの外側に形成された凹部近傍13のみを満たし、リブを形成する部分である金属ケースの内側のキャビティ18については、個別に空間が設けられており、ゲートを介して溶融樹脂が供給された、金属ケースと熱可塑性合成樹脂で作られた電子機器筐体の製造方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

4.対比・判断
引用発明における「射出成形金型」、「インサートする」、「熱可塑性合成樹脂」、「金属ケースと熱可塑性合成樹脂で作られた電子機器筐体」、「製造方法」は、それぞれ、本願発明1の「金型」、「配置する」、「合成樹脂」、「電子機器筐体」、「成形方法」に相当する。
引用発明における「リブ」は金属ケースに一体化される樹脂形成部品であるが、上記摘示事項(1b)には、電子機器筐体に一体化される樹脂形成部品として「前記樹脂部品が、ビス、ツメ、リブ、ボス等のように、機械要素的な機能のための構造部分であってもよい」とされ、機械要素的な機能が例示されている。ここで例示されているビス、ボス、ツメは、取付部の機能の一体を担うものであるから、引用発明における「リブ」は、本願発明1の「電子機器を設けるための取付部」に相当する。
引用発明における「金属ケース」は、上記摘示事項(1c)及び(1e)の記載から、電子機器収納のため加工されているといえるから、本願発明1の「電子機器収納のため加工された金属ケース」に相当する。
また、引用発明の「ゲート介して射出された溶融樹脂は、金属ケースの外側に形成された凹部近傍13のみを満たし、リブを形成する部分である金属ケースの内側のキャビティ18については、個別に空間が設けられて」の記載は、上記摘示事項(1e)及び(1g)の記載からみて、「ゲートを介して溶融樹脂が供給」される射出成形金型(本願発明1の「金型」に相当)には、金属ケースに一体化される樹脂が充填されるキャビティとして、独立した「金属ケースの外側に形成された凹部近傍13」のキャビティと「リブを形成する部分である金属ケースの内側のキャビティ18」が形成されているといえるから、引用発明においても、それぞれの「キャビティ」が、「金属ケースの表面の所定位置に形成して設けられた独立した島を形成している」ということができる。
さらに、引用発明においても、上記摘示事項(1c)、(1d)及び(1e)から、キャビティで金属ケースと熱可塑性樹脂で作られたリブとが一体に接続されていることから、該キャビティは「金属ケース表面に接着させる接着部を有している」といえる。
そして、引用発明において「溶融樹脂が供給された、金属ケースと熱可塑性合成樹脂で作られた電子機器筐体」を得るには、射出成形金型に一体化する熱可塑性合成樹脂を接着させるためのキャビティを金型に区画する工程を有さない限り製造できないことは明らかである。
これらのことから、引用発明の「ゲート介して射出された溶融樹脂は、金属ケースの外側に形成された凹部近傍13のみを満たし、リブを形成する部分である金属ケースの内側のキャビティ18については、個別に空間が設けられており、ゲートを介して溶融樹脂が供給された、金属ケースと熱可塑性合成樹脂で作られた電子機器筐体の製造方法」は、「この金属ケース表面の所定位置に成形して設けられた独立した島であり、前記表面に接着される接着部を有する合成樹脂体を接着させるためのキャビティを金型に区画する区画工程と、前記キャビティに前記合成樹脂を射出して電子機器筐体を成形する成形工程とからなる電子機器筐体の成形方法」に相当する。
さらに、引用発明の前記それぞれのキャビティには、ゲートを介して溶融樹脂が供給されるのであるから、射出成形における技術常識からみて、引用発明の製造方法も「複数のキャビティに対して複数のランナーを介して射出成形するもの」ということができる。
そうすると、本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、

「電子機器収納のため加工された金属ケースを金型に設置する工程と、
この金属ケース表面の所定位置に成形して設けられた独立した島であり、前記表面に接着される接着部、及び前記電子機器を設けるための取付部とを有する合成樹脂体を接着させるためのキャビティを金型に区画する区画工程と、
前記キャビティに前記合成樹脂を射出して電子機器筐体を成形する成形工程とからなる電子機器筐体の成形方法において、
前記成形工程は、複数の前記キャビティに対して複数のランナーを介して合成樹脂を射出するようしたものである電子機器筐体の成形方法。」

で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
金属ケース表面の所定位置に成形して設けられた独立した島に、本願発明1においては、「一つの接着部に複数の前記取付部を形成」されているのに対して、引用発明においては、取付部が複数設けられていない点。

<相違点2>
ランナーに関して、本願発明1においては、「1つのスプールから複数の前記キャビティに対して均一に成形可能な形状の複数のランナーを介して均一に各前記キャビティに合成樹脂を射出するように、前記スプールから前記キャビティの各ゲートへの前記ランナーの長さが実質的に同一になるようにしたもの」と特定しているのに対して、引用発明においては、この点について規定されていない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1について
引用文献1の上記摘示事項(1d)及び(1f)には、金属ケースと熱可塑性合成樹脂で作られたリブ等とが一体に接合された電子機器筐体の合成樹脂構成部分の一例として、リブ等が少なくとも2箇所に形成されているものが例示されているといえる。
そうであれば、引用発明の電子機器筐体の種類に応じ、引用発明の独立した島に設けられている2つのリブに代えて、電子機器を取り付けるための複数の取付部とすることは、当業者が必要性に応じ適宜行い得た設計的事項といえる。

相違点2について
当業者において、射出成形に用いられる1つの金型に設けられた1つのスプールから複数のキャビティに対して溶融樹脂が射出される場合には、成形条件が同一となるようにするため、均一に形成可能な形状の複数のランナーを介して均一に各キャビティに合成樹脂を射出するようにし、1つのスプールから各キャビティの各ゲートへのランナーの長さを実質的に同一になるようにすることは、周知の技術といえる(必要ならば、特開平10-100202号公報、特開2003-39495号公報、特開2001-353755号公報等参照のこと)。引用発明においても、1つの金型に設けられた複数のキャビティにランナーから樹脂を供給して成形を行うのであるから、1つのスプールから樹脂が供給されていると考えるのが相当であり、その場合に、成形条件を均一とするために、複数のランナーを均一に形成可能な形状の複数のランナーを介して均一に各キャビティに合成樹脂を射出するようにし、1つのスプールから各キャビティの各ゲートへのランナーの長さを実質的に同一になるようにすることは、当業者が周知技術に基づき容易になし得たことである。
そして、そのことによる効果に格別のものがあるとはいえない。

第6.請求人の主張について
審判請求人は、平成20年3月21日に提出した審判請求書の手続補正書(方式)及び審尋に対する平成22年7月12日提出の回答書において、審判請求時の補正について、以下のような主張を行っている。
「2.補正の趣旨
2-1.請求項1の「前記複数のランナーを介して前記合成樹脂が射出される」の補正は、キャビティへ合成樹脂を供給する方法の限定です。この補正は、図7及び「部分的に1つの接着部22に複数のランナー24が設けられた構成になっている」(本願発明の[0035]参照)等の記載を根拠とする補正である。
・・・
4.請求項1に係る発明と各引用文献との対比
4-2.引用文献1との対比
・・・
また、構成f中の「一つの前記島及び一つの前記接着部に…前記複数のランナーを介して前記合成樹脂が射出される」ものであり、ランナーの本数を調節して射出量を調節するものである。即ち、ランナーの本数を調節することにより、各取付部で、必要とされる異なる容量の樹脂の固化を同時に行うことができたのである(本願発明の[0035]参照)
これに対して、引用文献1には、本出願人に係る電子機器筐体とその製造方法が記載されている。この電子機器筐体は、金属ケース6に射出成形により、樹脂部品7を一体にするものであり、この意味において、本願発明と引用文献1に記載されたものとは一致することは認める。
しかしながら、引用文献1に記載されたランナー(引用文献1では、ゲートと称している。)16は、少なくとも本願発明の構成である「1つのスプールから…前記キャビティの各ゲートへの前記ランナーの長さが実質的に同一になる」ようにしたものではない。また、構成f中の「一つの前記島及び一つの前記接着部に…前記複数のランナーを介して前記合成樹脂が射出される」点の記載もない。
従って、請求項1に係る本願発明は、引用文献1に記載されたものとは異なる。
・・・
5.原審の審査官の説示
・・・
射出成形金型の技術において、金属製の筐体の表面上に、リブ、ボス、フック等を成形するためには、それぞれを独立させて筐体の表面上に配置し、そのそれぞれに1本のランナーを、それぞれに配置するのが一般的な設計思想である。その理由は、リブ、ボス、フック等は、その筐体の用途、種類、設計思想によって、必要とされる樹脂の量が異なるためである。樹脂の量が異なると、射出成形の条件によってはショートし、即ち樹脂量が少なくなりショートしたり、あるいは場合によっては樹脂量が過剰になったりすることがある。少なくとも、本願発明者は、本願発明の出願以前は、そのような設計思想で射出金型を設計していた。
そこで、各リブ、ボス、フック等を均一に成形するためには、それぞれを独立させて筐体の表面上に配置し、それらを成形するため配置される1本のランナーは、それぞれの直径、長さが異なるようにして、供給される樹脂量、時間を調節して成形するようにして、それぞれに配置するのが一般的な設計思想であった。
・・・更に、補正した構成fで限定したように、「前記キャビティは、一つの前記島及び一つの前記接着部に複数の前記取付部を形成し、前記複数のランナーを介して前記合成樹脂が射出される」ものである。言い換えると、必要とされる樹脂量がそれぞれ異なる「取付部」に、均一にかつ同時に樹脂が流れ込むように、樹脂の量はランナーの数で調整し、かつそのランナーの長さはほぼ同一にしたものである。従って、微調整を除けば、樹脂量は、ランナーの本数でほぼ調整が可能になったものである。
この結果、請求項1に係る本願発明は、「各取付部8aでの冷却等の成形条件が実質的に同一になり、金型の設計も容易となる」(本願発明の[0030]参照)、また、「部分的に1つの接着部22に複数のランナー24が設けられた構成になっているが、ランナー24は均一に合成樹脂が射出され取付部21及び接着部22が固まるように設置されている。」(本願発明の[0035]参照)というものである。
これらの技術思想は、引用文献1及び2には、一切記載がない。記載がないものから、当業者であれば適宜なし得たものとは言えない。」

「1.補正に対して
前置報告書で原審の審査官は、「出願人は、『前記複数のランナーを介して前記合成樹脂が射出される』構成を追加する補正を行った。当該補正について、…中略…当該補正は出願当初明細書及び図面の範囲内においてしたものと認められる。
しかしながら、当該補正前の特許請求の範囲である平成19年2月23日付手続の補正書の請求項1の『1つのスプールから複数の前記キャビティに対して・・・複数のランナーを介して均一に各前記キャビティに合成樹脂を射出する・・』の同義のことを追加したにすぎないので、当該補正は特許請求の範囲を実質的に限縮するものではなく、また、明瞭でない記載の釈明にも該当するとは認められない。」と説示した。
これは審査官の誤解である。平成19年2月23日付の請求項1の「1つのスプールから複数の前記キャビティに対して・・・複数のランナーを介して均一に各前記キャビティに合成樹脂を射出する」場合の「複数のランナーを介して」は、一般的な「ランナー」の本数を限定したものである。
平成19年2月23日付の請求項1の本願発明は、「一つの島及び一つの前記接着部」に、複数のランナーを介して溶融している合成樹脂を供給するものまで限定されたものではない。即ち、実施の形態で説明すると、図7に示されているように、接着部22に2本のランナー24で溶融樹脂を供給することを限定したものではない。
言い換えると、本件審判の請求時の補正である平成20年3月21日付の請求項1の本願発明の補正である、「前記複数のランナーを介して前記合成樹脂が射出される」は、「接着部」に2本以上の「ランナー」で溶融樹脂を供給することを限定したものである。従って、審査官が説示した「『複数のランナーを介して均一に各前記キャビティに合成樹脂を射出する・・』の同義のことを追加したにすぎないので、当該補正は特許請求の範囲を実質的に限縮するものではなく、また、明瞭でない記載の釈明にも該当するものとは認められない。」との説示は間違いである。」

上記主張について検討するに、審判請求人の「引用文献1に記載されたランナー(引用文献1では、ゲートと称している。)16は、少なくとも本願発明の構成である「1つのスプールから…前記キャビティの各ゲートへの前記ランナーの長さが実質的に同一になる」ようにしたものではない」との主張については、上記第4.4.における相違点2において検討したとおりであり、当業者が周知技術に基づき容易になし得たことである。
その余の主張は、上記第2における「平成20年3月21日提出の手続補正書による補正の却下の決定」により却下された特許請求の範囲の記載に基づくものであるので、採用できない。
なお、特許請求の範囲が審判請求時に補正された記載内容であったとしても、審判請求時の特許請求の範囲の請求項1の補正は、
「前記キャビティは、一つの前記島及び一つの前記接着部に複数の前記取付部を形成し、前記複数のランナーを介して前記合成樹脂が射出される」(下線部は当審において付与した。)の部分における下線部を挿入した補正であり、前記補正事項は、「前記キャビティは、前記複数のランナーを介して前記合成樹脂が射出される」と特定しているのみである。
そうすると、審判請求時における前記補正により特定される特許請求の範囲の請求項1に記載の発明が、審判請求人が主張する
「一つの前記島及び一つの前記接着部に…前記複数のランナーを介して前記合成樹脂が射出される」もの、
「ランナーの本数を調節して射出量を調節する」もの、
「必要とされる樹脂量がそれぞれ異なる「取付部」に、均一にかつ同時に樹脂が流れ込むように、樹脂の量はランナーの数で調整し、かつそのランナーの長さはほぼ同一にした」もの、
「必要とされる樹脂量がそれぞれ異なる「取付部」に、均一にかつ同時に樹脂が流れ込むように、樹脂の量はランナーの数で調整し、かつそのランナーの長さはほぼ同一にした」もの、
「「接着部」に2本以上の「ランナー」で溶融樹脂を供給する」もの、
と認めることはできないものである。

第7.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-04 
結審通知日 2011-01-06 
審決日 2011-01-18 
出願番号 特願2003-127050(P2003-127050)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (B29C)
P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉江 渉井上 能宏  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
大島 祥吾
発明の名称 電子機器筐体とその成形方法  
代理人 富崎 元成  
代理人 円城寺 貞夫  

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