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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C03C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C03C
管理番号 1233077
審判番号 不服2008-8533  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-07 
確定日 2011-02-09 
事件の表示 平成11年特許願第510597号「ガラスセラミックプレート及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 2月11日国際公開、WO99/06334、平成13年 1月30日国内公表、特表2001-501168〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1998年7月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年8月1日、仏国)を国際出願日とする出願であって、平成19年1月26日付けで拒絶理由が起案され(発送日は同年2月6日)、平成19年8月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月19日付けで拒絶査定が起案され(発送日は平成20年1月8日)、これに対し、平成20年4月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年5月7日付けで手続補正書が提出され、平成22年1月6日付けで特許法第164条第3項に基づく報告書を引用した審尋が起案され(発送日は同年同月12日)、平成22年7月12日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成20年5月7日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年5月7日付け手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)平成20年5月7日付け手続補正は、平成19年8月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲
「 1.特に加熱体をカバーすることを目的とする、基本組成として63?70重量%の二酸化ケイ素、18?22重量%の酸化アルミニウム、2.5?4.5重量%の酸化リチウムを含み、結晶相としてβ-スポジューメンの結晶固溶体を有するガラスセラミックプレートにおいて、550nmの波長における全透過光に対する拡散透過光の比で定義されるくもりが、50%以上の、好ましくは70%を上回り、有利には90%を上回るくもりを呈し、かつ光透過率T_(L)が5?40%であることを特徴とするガラスセラミックプレート。
2.5?10%、好ましくは6?9%の間に含まれる光透過率T_(L)を呈することを特徴とする請求項1に記載のプレート。
3.唯一の結晶相として、β-スポジューメンの結晶固溶体を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のプレート。
4.β-スポジューメンの結晶の個々の晶子のサイズが100nm未満であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のプレート。
5.20℃?700℃の温度領域内で15・10^(-7)/℃未満、特に9・10^(-7)/℃に等しい熱膨張率を示すことを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のプレート。
6.特に加熱体をカバーすることを目的とするケイ素、アルミニウム、リチウムの酸化物ベースの請求項1?5のいずれか1項に記載のガラスセラミックプレートの製造方法において、ガラスプレートの結晶化サイクルを少なくとも1回行ない、このサイクルは、β-石英結晶相を生成する結晶化サイクルにおける温度T及び/又は持続時間tの結晶化段階と比べて、少なくとも5%それぞれ増大させられた持続時間t’及び/又は温度T’でガラスプレートの結晶化サイクルを実施することを特徴とする製造方法。
7.(T’-T)の差が少なくとも40℃であり、好ましくは100℃に等しいことを特徴とする請求項6に記載の方法。
8.(t’-t)の差が少なくとも15分であることを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
9.請求項1?5のいずれか1項に記載のガラスセラミックプレートと、放射又はハロゲン加熱体及び/又は単数又は複数の大気圧ガスバーナー及び/又は単数又は複数の誘導式加熱手段といった単数又は複数の加熱要素と、を有する加熱調理及び/又は高温維持装置。」を
「 【請求項1】 特に加熱体をカバーすることを目的とする、基本組成として63?70重量%の二酸化ケイ素、18?22重量%の酸化アルミニウム、2.5?4.5重量%の酸化リチウムを含み、結晶相としてβ-スポジューメンの結晶固溶体を有するガラスセラミックプレートにおいて、550nmの波長における全透過光に対する拡散透過光の比で定義されるくもりが、70%を上回り、有利には90%を上回るくもりを呈し、かつ光透過率T_(L)が5?40%であることを特徴とするガラスセラミックプレート。
【請求項2】 5?10%、好ましくは6?9%の間に含まれる光透過率T_(L)を呈することを特徴とする請求項1に記載のプレート。
【請求項3】 唯一の結晶相として、β-スポジューメンの結晶固溶体を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のプレート。
【請求項4】 β-スポジューメンの結晶の個々の晶子のサイズが100nm未満であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のプレート。
【請求項5】 20℃?700℃の温度領域内で15・10^(-7)/℃未満、特に9・10^(-7)/℃に等しい熱膨張率を示すことを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のプレート。
【請求項6】 特に加熱体をカバーすることを目的とするケイ素、アルミニウム、リチウムの酸化物ベースの請求項1?5のいずれか1項に記載のガラスセラミックプレートの製造方法において、ガラスプレートの結晶化サイクルを少なくとも1回行ない、このサイクルは、β-石英結晶相を生成する結晶化サイクルにおける温度T及び/又は持続時間tの結晶化段階と比べて、少なくとも5%それぞれ増大させられた持続時間t’及び/又は温度T’でガラスプレートの結晶化サイクルを実施することを特徴とする製造方法。
【請求項7】 (T’-T)の差が少なくとも40℃であり、好ましくは100℃に等しいことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】 (t’-t)の差が少なくとも15分であることを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】 請求項1?5のいずれか1項に記載のガラスセラミックプレートと、放射又はハロゲン加熱体及び/又は単数又は複数の大気圧ガスバーナー及び/又は単数又は複数の誘導式加熱手段といった単数又は複数の加熱要素と、を有する加熱調理及び/又は高温維持装置。」と補正するものである。
そして、本件補正は、請求項1の「50%以上の、好ましくは70%を上回り、有利には90%を上回るくもりを呈し」を「70%を上回り、有利には90%を上回るくもりを呈し」と、くもりの下限を補正するもので、発明を特定するために必要な事項を限定する、いわゆる限定的減縮を目的とする補正を行ったものであることは明らかである。
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、補正の要件を満たしているといえる。
(2)本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものかについて検討する。
(i) 原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された特開平4-214046号公報)(以下、「引用文献1」という。)には次の事項が記載されている。
(ア)「700 Pa.sを超える液相粘度を示す熱的に結晶化し得るガラスであって、主結晶相としてβ- 石英固溶体を含む、線膨脹係数(20-700 ℃)が0±3x10^(-7)/℃である透明なガラスセラミック製品に、あるいは主結晶相としてβ- スポジューメン固溶体を含む白色不透明ガラスセラミックにその場で熱的に結晶化することができ、非常に短い熱的結晶化処理を行った時にひずみがその対角線の0.1%未満である板形状にその場で結晶化することができ、該ガラスが本質的に、酸化物として重量%で表して、
SiO_(2) 65-70 MgO+BaO+SrO 1.1-2.3
Al_(2)O_(3) 18-19.8 ZrO_(2) 1.0-2.5
Li_(2)O 2.5-3.8 As_(2)O_(3) 0-1.5
MgO 0.55-1.5 Sb_(2)O_(3) 0-1.5
ZnO 1.2-2.8 As_(2)O_(3)+Sb_(2)O_(3) 0.5-1.5
TiO_(2) 1.8-3.2 Na_(2)O 0-〈1.0
BaO 0-1.4 K_(2)O 0-〈1.0
SrO 0-1.4 Na_(2)O+K_(2)O 0-〈1.0
BaO+SrO 0.4-1.4
2.8Li_(2)O+1.2ZnO/5.2MgO 〉1.8
からなることを特徴とする熱的に結晶化し得るガラス。」(【請求項1】)
(イ)「本発明は、ガラスセラミックの前駆物質であるガラス、その様なガラスからなる製品から、熱膨脹が非常に小さい、または熱膨張がゼロであるガラスセラミック製の製品へ転換する方法、およびその様なガラスから得たガラスセラミック製品、特にクックトップ板に関する。」(段落【0001】)
(ウ)「クックトップ板としての用途では、可視領域におけるガラスセラミックの光の透過は、その下におく加熱素子により使用者の目が眩まないように十分に低くなければならない(これは特にハロゲンランプを使用する場合に当てはまる)が、加熱素子の使用中にそれを目で確認できる様に、安全性の理由から、十分に高い必要もある。その上、加熱および調理の効率を最適化するためには、赤外の透過率が高くなければならない。」(段落【0006】)
(エ)「また、本発明は、本発明のガラス製品を短期間の熱処理によりガラスセラミック製品に転換する方法をも提供する。
本発明のもう一つの目的は、可視および赤外領域における透過率が高く、熱膨張係数が非常に低いまたはゼロであるガラスセラミック製品、特に耐熱性板(例えばウッドストーブの窓または防火窓)または調理道具を提供することである。
また、本発明は、可視光線の透過率が低く、赤外透過率が高く、熱膨脹係数が非常に低い、またはゼロである、透明ガラスセラミック製の製品、特にクックトップ板にも関する。」(段落【0009】?【0011】)
(オ)「さらに、このガラスセラミック群に対してすでに知られているように、上に規定するよりも高い温度、一般に1050-1200 ℃でセラミングすることにより、透明なβ- 石英固溶体結晶相から、β- スポジューメン固溶体として知られる、他のシリカに由来する結晶に転換し、材料に白い不透明な外観を与える。この透明ガラスセラミックの転換は、美観上の理由、等から、材料の不透明さおよび白さが望まれるような用途に使用される。その様な用途の例としては、電子レンジの底部トレー、クックトップ板(例えば誘導加熱用の)、または調理道具がある。また、通常は白色の不透明ガラスセラミックに、酸化バナジウムの様な特殊な着色剤を前駆物質ガラスの基本組成に添加することによって、他の色合いを与えることもできる。
請求項に記載する範囲内の組成を有するガラスは、下記の仕様を有するガラスセラミック板に圧延およびセラム処理できる。前駆物質であるガラスは、液相粘度が700 Pa.sよりも高いので、失透の欠陥を生じること無く、板またはシートに圧延することができる。このガラス板は、2時間未満、一般には約1時間以内で高結晶化製品にセラム処理することができる。得られたガラスセラミックは透明である。この透明度は、結晶の性質、β- 石英の固溶体、およびそれらのサイズから、通常は0.5 ミクロン未満である。このガラスセラミックの可視光線透過率(3mm厚で測定し、波長380-780 nmで積分)は、酸化バナジウムの含有量を変えることによって、約0.01-88%の間で調節することができる。」(段落【0018】?【0019】)

(ii)対比・判断
引用文献1の記載事項(ア)には、「主結晶相としてβ- スポジューメン固溶体を含む白色不透明ガラスセラミックにその場で熱的に結晶化することができ、・・・酸化物として重量%で表して、
SiO_(2) 65-70
Al_(2)O_(3) 18-19.8
Li_(2)O 2.5-3.8
・・・からなる」ことが記載され、記載事項(イ)には、「本発明は、・・・特にクックトップ板に関する」ことが記載され、記載事項(ウ)には、「クックトップ板としての用途では、可視領域におけるガラスセラミックの光の透過は、その下におく加熱素子により使用者の目が眩まないように十分に低くなければならない(これは特にハロゲンランプを使用する場合に当てはまる)が、加熱素子の使用中にそれを目で確認できる様に、安全性の理由から、十分に高い必要もある」ことが記載されている。これらを本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると「主結晶相としてβ- スポジューメン固溶体を含む白色不透明ガラスセラミックにその場で熱的に結晶化することができ、酸化物として重量%で表して、
SiO_(2) 65-70
Al_(2)O_(3) 18-19.8
Li_(2)O 2.5-3.8
を含み、可視領域におけるガラスセラミックの光の透過は、その下におく加熱素子により使用者の目が眩まないように十分に低くなければならないが、加熱素子の使用中にそれを目で確認できる様に、安全性の理由から、十分に高い必要もあるクックトップ板。」(以下、「引用発明」という。)が引用文献1には記載されていると認められる。
そこで、本願補正発明と引用発明を対比すると、本願補正発明の「プレート」は、引用発明の「板」がこれに相当することは明らかであり、本願補正発明の「加熱体」は、ハロゲン又は放射発熱源であるから、引用発明の「その下におく加熱素子により使用者の目が眩まないように十分に低くなければならないが、加熱素子の使用中にそれを目で確認できる様に、安全性の理由から、十分に高い必要もあるクックトップ板」は、本願補正発明の「特に加熱体をカバーすることを目的とする、・・・ガラスセラミックプレート」に相当するということができる。そして、引用発明の「主結晶相としてβ- スポジューメン固溶体を含み、酸化物として重量%で表して、
SiO_(2) 65-70
Al_(2)O_(3) 18-19.8
Li_(2)O 2.5-3.8
を含」むことは、本願補正発明の「基本組成として63?70重量%の二酸化ケイ素、18?22重量%の酸化アルミニウム、2.5?4.5重量%の酸化リチウムを含み、結晶相としてβ-スポジューメンの結晶固溶体を有する」ことに相当し、「65?70重量%の二酸化ケイ素、18?19.8重量%の酸化アルミニウム、2.5?3.8重量%の酸化リチウム」の組成で一致するといえる。
そうすると、本願補正発明と引用発明とは、「特に加熱体をカバーすることを目的とする、基本組成として65?70重量%の二酸化ケイ素、18?19.8重量%の酸化アルミニウム、2.5?3.8重量%の酸化リチウムを含み、結晶相としてβ-スポジューメンの結晶固溶体を有するガラスセラミックプレート。」である点で一致し、以下の点で相違する。
本願補正発明においては、ガラスセラミックプレートが「550nmの波長における全透過光に対する拡散透過光の比で定義されるくもりが、70%を上回り、有利には90%を上回るくもりを呈し、かつ光透過率T_(L)が5?40%である」のに対して、引用発明は、クックトップ板が「白色不透明ガラスセラミックにその場で熱的に結晶化することができ」、「可視領域におけるガラスセラミックの光の透過は、その下におく加熱素子により使用者の目が眩まないように十分に低くなければならないが、加熱素子の使用中にそれを目で確認できる様に、安全性の理由から、十分に高い必要もある」ものの「くもり」及び「光透過率T_(L)」の数値範囲については特定されていない点(以下、「相違点」という。)。
そこで、上記相違点について以下検討する。
まず、光透過率については、引用文献1の記載事項(オ)には、「得られたガラスセラミックは透明である。この透明度は、結晶の性質、β- 石英の固溶体、およびそれらのサイズから、通常は0.5 ミクロン未満である。このガラスセラミックの可視光線透過率(3mm厚で測定し、波長380-780 nmで積分)は、酸化バナジウムの含有量を変えることによって、約0.01-88%の間で調節することができる。」が記載され、透明度が「約0.01-88%の間で調節することができる」こと、及び、「上に規定するよりも高い温度、一般に1050-1200 ℃でセラミングすることにより、透明なβ- 石英固溶体結晶相から、β- スポジューメン固溶体として知られる、他のシリカに由来する結晶に転換し、材料に白い不透明な外観を与える」ことが記載されていることから、引用発明における「可視領域におけるガラスセラミックの光の透過は、その下におく加熱素子により使用者の目が眩まないように十分に低くなければならないが、加熱素子の使用中にそれを目で確認できる様に、安全性の理由から、十分に高い必要もある」という要請及び「約0.01-88%の間で調節することができる」ことから、光透過率T_(L)が5?40%とすることは、数値限定に臨界的意義を見いだすことができないので、当業者であれば適宜なし得る設計事項にすぎないものといえる。
一方、「くもり」については、例えば、米国特許第3625718号明細書には、本願補正発明と同様な「SiO_(2) 64-74,Al_(2)O_(3) 15-23,Li_(2)O 3.3-4.8」(第2欄第58行)重量%のガラス組成のガラスセラミックに関し、「There is a demand for such low expansion glass-ceramics in three general forms, namely, transparent, translucent and opaque. Highly transparent glass-ceramics are in demand, for instance, in the form of telescope mirror blanks and transparent windows for ovens in the home, as well as for home cooking ware. Translucent glass-ceramics are highly desired for cooking stove tops or covers for burners of both electoric and gas home cooking stoves. Opaque low expansion glass-ceramics are in demand for the use as cooking vessels in the home for both the oven and for use on top of the gas or electric burner, for building materials such as wall panels, and for counter tops to give another instance.」(第2欄第1?13行)「当審訳:低膨張ガラスセラミックには3つの形態の需要がある。すなわち、透明、半透明、不透明である。高度に透明なガラスセラミックの需要は、例えば望遠鏡の鏡素材や家庭の調理道具と同様に家庭のオーブンの透明窓の形態である。半透明ガラスセラミックは、調理用の炉の上板や電気やガス焜炉のバーナーの覆いとして強く望まれている。不透明の低膨張ガラスセラミックは、オーブンやガスや電気のバーナーの上で使われる調理器具の用途、壁板のような建築材料や、他の例ではカウンタートップ(天板)として需要がある。」が記載され、「For a given glass, it will be understood, time and temperature conditions intermediate those which produce opaque and those which result in transparent glass-ceramics will result in translucent glass-ceramics.」(第6欄第8?12行)「当審訳:所与のガラスに対して不透明をもたらすものと透明をもたらすものの中間の時間と温度条件は、半透明のガラスセラミックの結果となる。」こと、及び「Thus, most products of the present invention that are transparent have this porperty because the crystals are so small that they scarcely diffract visible light.」(第5欄第69?72行)「当審訳:かようにして、本発明の大抵の製造物は、結晶が大変小さくて、可視光をほとんど回折できないくらい小さいので、透明である。」ことは知られており、結晶を成長することにより可視光を回折するようにして半透明にすること、すなわち、「くもり」をガラスセラミックに生じさせることは、周知技術であるということができる。そして、引用発明における「可視領域におけるガラスセラミックの光の透過は、その下におく加熱素子により使用者の目が眩まないように十分に低くなければならないが、加熱素子の使用中にそれを目で確認できる様に、安全性の理由から、十分に高い必要もある」という要請から、可視の透過光を目が眩まないような程度に減らす、すなわち、550nmの波長における全透過光に対する拡散透過光の比で定義されるくもりを70%を上回り、有利には90%を上回るようにすることは、数値限定に臨界的意義を見いだすことができないので、上記周知技術に基づいて、当業者であれば、適宜採用する設計事項というべきである。
また、相違点に係る本願補正発明の特定事項を採用することにより得られる効果についても、格別顕著であるとは認められない。
したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(iii)
以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。そうすると、平成20年5月7日付けで提出された手続補正書によりなされた補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものである。
(3)むすび
したがって、平成20年5月7日付けで提出された手続補正書によりなされた補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成20年5月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年8月6日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。

4.引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平4-214046号公報)及びその記載事項は、前記2.(2)(i)に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明は、本願補正発明に関して、くもりについての限定事項を「70%を上回り、有利には90%を上回るくもりを呈し」から「50%以上の、好ましくは70%を上回り、有利には90%を上回るくもりを呈し」と拡張するものである。
してみると、本願発明の構成を含み、さらに前記の限定事項を付加したものである本願補正発明が、前記2.(2)(ii)に記載したとおり、上記引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、上記引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.回答書の主張について
なお、請求人は、回答書において
「しかしながら、審判請求人は、前置報告書にかかわらず、本件発明は特許性を有すると確信しますが、さらに、下記補正を提案します。
すなわち、本件発明の最も好ましい「くもり」と「光透過率」へ限定します。これらの数値範囲は出願時の特許請求の範囲に記載されています。また、「くもり」と「光透過率」の測定が厚さ4mmについての値であることは実施例に記載されています。」と補正案を提示しているが、「くもり」と「光透過率」を更に好ましい値に限定したとしても、これら数値限定が臨界的意義を有するものとは依然として認められず、ガラスセラミックプレートの厚さを限定しても、審判請求書の補正書における「本件発明のガラスセラミック製品の厚さは問題ではないと考えます」という主張から本願補正発明に進歩性が生じるものと判断することはできない。
したがって、係る補正案を採用することはできない。

7.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-10 
結審通知日 2010-09-14 
審決日 2010-09-27 
出願番号 特願平11-510597
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C03C)
P 1 8・ 575- Z (C03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柿崎 美陶  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 深草 祐一
中澤 登
発明の名称 ガラスセラミックプレート及びその製造方法  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 永坂 友康  
代理人 小林 良博  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  

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