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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04D
管理番号 1233100
審判番号 不服2010-3081  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-12 
確定日 2011-03-04 
事件の表示 特願2003- 55749「真空装置および真空ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月24日出願公開、特開2004-263635〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成15年3月3日の出願であって、平成21年11月16日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年2月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書に対する手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成22年8月18日(起案日)付けで審尋がなされ、平成22年10月22日に審尋に対する回答書が提出されたものである。

【2】補正の却下の決定

[結論]
平成22年2月12日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2に対し、以下のような補正を含むものである。なお、下線は、審判請求人が付した補正箇所である。

(1)本件補正前の請求項1及び2(平成21年8月28日付け手続補正)
「【請求項1】 ガス導入口とガス排出口を備えた真空容器と、前記真空容器に接続され、該真空容器内部を減圧すると共に減圧状態を保つための機械構造の複数段の真空ポンプとを有する真空装置において、
前記真空ポンプのうちの最後段の真空ポンプの吐出口に接続され、該最後段の真空ポンプの減圧動作を補助し、該吐出口からの逆拡散を抑制するための非機械構造の補助ポンプを有し、
前記補助ポンプは、その駆動ガスとして不活性ガスを、前記真空装置の稼動時は常時、0.1MPa?0.5MPaの圧力で導入することを特徴とする真空装置。
【請求項2】 前記補助ポンプは、前記最後段のポンプの前記吐出口に付加的に取り付けられたエジェクタポンプである請求項1に記載の真空装置。」

(2)本件補正後の請求項1及び2(平成22年2月12日付け手続補正)
「【請求項1】 ガス導入口とガス排出口を備えた真空容器と、前記真空容器に接続され、該真空容器内部を減圧すると共に減圧状態を保つための機械構造の複数段の真空ポンプとを有する真空装置において、
前記真空ポンプのうちの最後段の真空ポンプの吐出口に接続され、該最後段の真空ポンプの減圧動作を補助し、該吐出口からの逆拡散を抑制するための非機械構造の補助ポンプを有し、
前記最後段の真空ポンプは、吸入圧力10Torr未満で稼動し、 前記補助ポンプは、その駆動ガスとして不活性ガスを、前記真空装置の稼動時は常時、0.1MPa?0.5MPaの圧力で導入することを特徴とする真空装置。
【請求項2】 前記補助ポンプは、前記最後段のポンプの前記吐出口に付加的に取り付けられたエジェクタポンプである請求項1に記載の真空装置。」

2.補正の適否

上記補正は、請求項1を引用する請求項2(以下、単に「請求項2」という。)に記載した発明を特定するために必要な事項について、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0049】、【0063】、及び図5の記載に基づき、本件補正前の真空装置について「前記最後段の真空ポンプは、吸入圧力10Torr未満で稼動し」との限定を付加するものである。
すなわち、上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとして認めることができ、かつ、補正前の各請求項に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲内において行われたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであり、かつ、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
以上のとおり、上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正後の請求項2に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.本願補正発明について

3-1.本願補正発明

本願補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、上記「【2】1.(2)」に示した本件補正後の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

3-2.引用刊行物とその記載事項

刊行物1:特開平9-125227号公報

[刊行物1]
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物1(特開平9-125227号公報)には、「真空排気装置及び真空処理装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、数字の上付き及び下付きの添字は半角数字で表記した。

(ア)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、真空排気装置及び真空処理装置に関する。」

(イ)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上述のドライポンプ17では、気体を圧縮して排気を行っているが、最も大気圧側の第4ポンプ段17dにて大気圧から100Torr程度まで減圧する際に、気体の圧縮に要する仕事量は極めて大きい。従って大きな仕事量を得るために大型のモータが必要となる他、気体の圧縮に伴い発生する熱量も大きくなるため冷却装置が必要となる。・・・」

(ウ)「【0009】本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、例えば粗引き用に用いる真空ポンプの小型化を図ることにあり、また他の目的は前記真空ポンプを真空処理室の近傍に設置することができる真空処理装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、ガスの移送空間を形成するためのポンプ段を排気方向に複数接続し、前段の移送空間内にガスを吸い込むときには当該移送空間と後段の移送空間とは隔離され、最前段の移送空間から最後段の移送空間に順次ガスを受け渡すことにより最後段のポンプ段から最前段のポンプ段に向けて順次圧力を低くする真空ポンプよりなる真空排気装置において、最後段のポンプ段の排気路中に排気方向と同じ方向に吸引用ガスを噴射させるガス噴射手段を設けたことを特徴とする。」

(エ)「【0013】請求項4の発明は、処理ガスを導入して真空雰囲気下で被処理体に対して真空処理を行うための真空処理室と、前記真空処理室に排気路を介して接続された高真空排気用の第1の真空ポンプと、この第1の真空ポンプの後段に接続された第2の真空ポンプとを備え、前記第2の真空ポンプは、ガスの移送空間を形成するためのポンプ段を排気方向に複数接続し、前段の移送空間内にガスを吸い込むときには当該移送空間と後段の移送空間とは隔離され、最前段の移送空間から最後段の移送空間に順次ガスを受け渡すことにより最後段のポンプ段から最前段のポンプ段に向けて順次圧力を低くする真空ポンプであって、最後段のポンプ段の排気路中に排気方向と同じ方向に吸引用ガスを噴射させるガス噴射手段が設けられたことを特徴とする。」

(オ)「【0016】
【発明の実施の形態】図1は本発明の実施の形態に係る真空処理装置の全体構成を示す略平面図であり、図2はその斜視図である。図中2は気密構造の搬送室であり、この搬送室2の中には、例えば関節アームよりなるウエハの搬送手段21と、アライメントステージ22やバッファステージ23が設けられると共に、搬送室2の周囲には、25枚のウエハWを収納するための容器であるウエハカセットCが載置される2個のカセット室24、25、及び3個の真空チャンバよりなる真空処理室3A?3Cが図示しないゲートバルブを介して気密に接続され、こうしてクラスタツールと呼ばれる真空処理装置が構成されている。2個のカセット室24、25は例えば一方が搬入用、他方が搬出用として使用され、例えば上部あるいは正面に図示しないドアが設けられていて、外部との間でカセットCが搬入出されるように構成されている。
【0017】前記真空処理室3Aの下方側には、例えば図2に示すように高真空排気用の第1の真空ポンプ例えばターボ分子ポンプ4Aが介装された排気管41が接続され、ターボ分子ポンプ4Aにはバイパス42が並列に接続されている。V1?V3はバルブである。またターボ分子ポンプ4Aは図示しないが、ケーシング内にてロータを回転させることにより吸気口から排気口まで一気に真空排気を行う構造を有するポンプである。他の真空処理室3B、3Cにも夫々ターボ分子ポンプ4B、4Cが介装された排気管41が接続されており、1つのターボ分子ポンプ4Aの排気側近傍には、共通の粗引き用の第2の真空ポンプ例えばドライポンプ5が接続されている。真空処理室3B、3Cの真空排気系も真空処理室3Aの真空排気系と同一構成である。
【0018】前記ドライポンプ5は、図3(a)に示すように、メカニカルポンプ部P1とエジェクタポンプ部P2とから構成されている。このうちメカニカルポンプ部P1は例えば断面が長円型のケーシング50の内部に、例えば第1ポンプ段5a及び第2ポンプ段5bの2つのポンプ段が形成されている。また第1ポンプ段5aの図中上部には前記排気管41が接続されると共に、第1ポンプ段5aと第2ポンプ段5bとは第1移送管51により接続されており、第2ポンプ段5bには第1移送管52の吸気口が接続されている。ただし第1ポンプ段5aにおいて、排気管41の排気口と第1移送管51の吸気口とは、互いに対向して配置され、また第2ポンプ段5bにおいて、第1移送管51の排気口と第2移送管52の吸気口とは互いに対向して配置されている。」

(カ)「【0020】エジェクタポンプ部P2はガス噴射手段をなすものであり、メカニカルポンプ部P1の排気側に接続されている。エジェクタポンプP2の内部には吸引ガスを通流させる吸引ガス管71が設けられており、この吸引ガス管71の途中には前記第2移送管52の排気口が開口している。また吸引ガス管71の上流側には吸引ガス例えばN2 ガスの供給源であるN2 ガス源72が設けられている。図中V4、V5はバルブを示しており、この第2の真空ポンプ5では、排気管41、第1ポンプ段61、第1移送管51、第2ポンプ段62、第2移送管52、吸引ガス管71により排気路が形成されている。第2の移送管52の径は例えば25mm、吸引ガス管71の第2の移送管52の排気口の上流側の径は例えば40mm、排気口の下流側の径は例えば15mmである。
【0021】次に上述の実施の形態の作用について述べる。先ずバルブV3を開き、バルブV1、V2を閉じておいて、ドライポンプ5により真空処理室3A?3C内を所定の真空度例えば1Torrまで真空排気する。ドライポンプ5ではバルブV4、V5を開き、N2 ガス源72より吸引ガス管71にN2 ガスを例えば5kg/cm2 、20リットル/分の流量で噴射させながら、モータMによりロータ(61a、61b)、(62a、62b)を回転させて真空排気が行なわれる。」

(キ)「【0023】続いてガスは図5にて直線の矢印で示すように、第1移送管51を介して第2ポンプ段5bへ受け渡され、このポンプ段5bにおいても上述と同様に排気動作が行なわれる。即ちこのメカニカルポンプP1では第1ポンプ段5aにおいて排気管41からガスを吸気する際には、ガスはケーシング50とロータ61aとの間に閉じ込められるため、このガスが存在する第1ポンプ段5aで形成される移送空間は、第1移送管51や第2ポンプ段5bにて形成される移送空間とは隔離されており、ガスが第1ポンプ段5aから第2ポンプ段5bへ受け渡されることによって第2ポンプ段5b、第1ポンプ段5aの順番で圧力が低くなる。
【0024】次いで第2ポンプ段5bのガスは第2移送管52を介してエジェクタポンプ部P2へ移送されるが、エジェクタポンプ部P2では、図5に破線の矢印で示すようにN2 ガスが吸引ガス管71内を5kg/m2 、20リットル/分の流量で排気側へ向けて通流しているので、このN2 ガスの流れにより、第2移送管52の排気口は例えば50?100Torr程度まで減圧され、第2移送管52内のガスは吸引される。そして吸引されたガスは、N2 ガスと共に吸引ガス管71内を流れ、ドライポンプ5の外部へ排気される。
【0025】このようなドライポンプ5では、エジェクタポンプ部P2、第2ポンプ段5b、第1ポンプ段5aの順に、順次圧力が低くなり、例えばエジェクタポンプ部P2では大気圧から例えば50Torrまで排気され、第2ポンプ段では例えば10Torr、第1ポンプ段では例えば1Torr程度まで夫々排気される。 このようにドライポンプ5にて例えば1Torr程度まで真空排気した後、バルブV3を閉じ、バルブV1、V2を開いてターボ分子ポンプ4A?4Cにより更に高い真空度例えば0.2Torrまで真空処理室3A?3C内を真空排気し、また搬送室2内を図示しない真空排気系により所定の真空度まで真空排気する。」

(ク)「【0031】次に本発明の他の実施の形態について説明する。図6はドライポンプのエジェクタポンプ部において吸引ガス管を複数本例えば2本並列に設けたものである。2本の吸引ガス管71、73の上流側には夫々バルブV4、V6を介して図示しないN2 ガス源が設けられており、これら吸引ガス管71、73に夫々5kg/cm2 、20リットル/分のガスが噴射されるようになっている。また吸引ガス管71、73の下流側は例えば1本に合流してバルブV5を介して大気に接続されている。さらにこれら吸引ガス管71、73には途中で2本に分岐する第2の移送管53の排気口が夫々接続されている。メカニカルポンプ部の構成は上述のドライポンプと同一である。」

そうすると、上記記載事項(ア)?(ク)及び図面の記載からみて、上記刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「処理ガスを導入して真空雰囲気下で被処理体に対して真空処理を行うための真空処理室(3A、3B、3C)と、前記真空処理室(3A、3B、3C)に排気路を介してポンプ段を排気方向に複数接続した真空処理装置において、真空処理室(3A、3B、3C)の下流側には高真空排気用の第1の真空ポンプ(4A、4B、4C)が接続され、上記第1の真空ポンプ(4A、4B、4C)近傍には第1ポンプ段5a及び第2ポンプ段5bからなるメカニカルポンプ部P1が接続され、上記メカニカルポンプ部P1の排気側にはエジェクタポンプ部P2が接続され、
上記エジェクタポンプ部P2では大気圧から50Torrまで排気され、
上記エジェクタポンプ部P2は、N2 ガスを5kg/cm2 、20リットル/分の流量で噴射させて排気される、真空処理装置。」

3-3.発明の対比

本願補正発明と刊行物1発明を対比する。
刊行物1発明の「処理ガスを導入して真空雰囲気下で被処理体に対して真空処理を行うための真空処理室(3A、3B、3C)」は、その機能からみてガス導入口とガス排出口を備えていることは明らかであるから、本願補正発明の「ガス導入口とガス排出口を備えた真空容器」に相当し、刊行物1発明の「真空処理装置」は本願補正発明の「真空装置」に相当するものであるから、刊行物1発明の「前記真空処理室(3A、3B、3C)に排気路を介してポンプ段を排気方向に複数接続した真空処理装置」は、その機能からみて、本願補正発明の「前記真空容器に接続され、該真空容器内部を減圧すると共に減圧状態を保つための機械構造の複数段の真空ポンプとを有する真空装置」に相当する。
刊行物1発明の「エジェクタポンプ部P2」は、真空ポンプの減圧動作を補助し吐出口からの逆拡散を抑制するための非機械構造の補助ポンプといえるものであるから、本願補正発明の「非機械構造の補助ポンプ」又は「エジェクタポンプ」に相当するものである。
そうすると、刊行物1発明の「真空処理室(3A、3B、3C)の下流側には高真空排気用の第1の真空ポンプ(4A、4B、4C)が接続され、上記第1の真空ポンプ(4A、4B、4C)近傍には第1ポンプ段5a及び第2ポンプ段5bからなるメカニカルポンプ部P1が接続され、上記メカニカルポンプ部P1の排気側にはエジェクタポンプ部P2が接続され」は、その機能からみて、本願補正発明の「前記真空ポンプのうちの最後段の真空ポンプの吐出口に接続され、該最後段の真空ポンプの減圧動作を補助し、該吐出口からの逆拡散を抑制するための非機械構造の補助ポンプを有し」に相当する。

したがって、本願補正発明の用語にならってまとめると、両者は、
「ガス導入口とガス排出口を備えた真空容器と、前記真空容器に接続され、該真空容器内部を減圧すると共に減圧状態を保つための機械構造の複数段の真空ポンプとを有する真空装置において、
前記真空ポンプのうちの最後段の真空ポンプの吐出口に接続され、該最後段の真空ポンプの減圧動作を補助し、該吐出口からの逆拡散を抑制するための非機械構造の補助ポンプを有する、真空装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明は、「前記最後段の真空ポンプは、吸入圧力10Torr未満で稼動」するものであるのに対し、刊行物1発明は、「上記エジェクタポンプ部P2では大気圧から50Torrまで排気され」るものである点。

[相違点2]
本願補正発明は、「前記補助ポンプは、その駆動ガスとして不活性ガスを、前記真空装置の稼動時は常時、0.1MPa?0.5MPaの圧力で導入する」のに対し、刊行物1発明は、「上記エジェクタポンプ部P2は、N2 ガスを5kg/cm2 、20リットル/分の流量で噴射させて排気される」ものである点。

[相違点3]
本願補正発明は、「前記補助ポンプは、前記最後段のポンプの前記吐出口に付加的に取り付けられたエジェクタポンプ」であるのに対し、刊行物1発明は、上記エジェクタポンプ部P2が上記メカニカルポンプ部P1の排気側に接続されているものの、付加的といえるものか明らかではない点。

3-4.当審の判断

(1)相違点1について
刊行物1発明は、粗引き用に用いる真空ポンプの小型化を図ることを目的とするものであるが、「最も大気圧側の第4ポンプ段17dにて大気圧から100Torr程度まで減圧する際に、気体の圧縮に要する仕事量は極めて大きい。従って大きな仕事量を得るために大型のモータが必要となる他、気体の圧縮に伴い発生する熱量も大きくなるため冷却装置が必要となる。」(上記記載事項(イ))との記載に照らせば、真空ポンプの消費エネルギが大きいことも念頭に置いて課題を解決したものと解される。そして、近年においては上記消費エネルギを削減することは普遍的な課題であるから、上記消費エネルギの観点からエネルギの削減を図る程度のことは当業者が必要に応じて試みる動機がある。
そうすると、刊行物1発明は、「上記エジェクタポンプ部P2では大気圧から50Torrまで排気され」るものであるから、最後段の真空ポンプは吸入圧力50Torr程度未満で稼動するものだとしても、上記エジェクタポンプ部P2に接続されている上記メカニカルポンプ部P1をどの程度の圧力で稼働させるかは、複数段の真空ポンプの段数や必要とされる真空度などに加えて、上記消費エネルギなどの観点から適宜設定できる設計事項にすぎない。
したがって、刊行物1発明に適宜設計変更を加えて上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
刊行物1発明は、「上記エジェクタポンプ部P2は、N2 ガスを5kg/cm2 、20リットル/分の流量で噴射させて排気される」ものであり、5kg/cm2 は圧力であることの明示はないが、技術常識に照らせば上記5kg/cm2 は約0.49MPaに相当する圧力であることは明らかであるから、上記エジェクタポンプ部P2は、「その駆動ガスとして不活性ガス」を「0.1MPa?0.5MPa」の範囲である約0.49MPaの「圧力で導入する」ものであり、当該圧力の導入を「真空装置の稼動時は常時」とすることは、単に上記エジェクタポンプ部P2の使い方をいうものであって当業者が適宜決定できる事項にすぎない。また、仮に、刊行物1発明の上記5kg/cm2 が圧力ではないとしても、上記エジェクタポンプ部P2を稼働させる適当な圧力を設定することは、利用に際して当業者が到達させたい真空度に応じて適宜決定できる事項にすぎず、特に「0.1MPa?0.5MPa」の範囲の上限値と下限値に臨界的意義があるわけでもない。
したがって、刊行物1発明に適宜設計変更を加えて上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
刊行物1発明において、上記エジェクタポンプ部P2をどのように取り付けるかは単なる設計事項であって、付加的に取り付けることによってその機能に相違ができるわけではない。
したがって、刊行物1発明に適宜設計変更を加えて上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)効果について
また、本願補正発明が奏する「真空ポンプの消費電力を抑制することができる」といった効果は、刊行物1に記載された発明から当業者が予測できるものである。

(5)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成22年2月12日付け審判請求書において、「引用文献1に開示された技術は、電気式の真空ポンプの消費電力削減といったことを目的としておらず、真空ポンプの消費電力という因子自体にも全く着目していない。・・・このように消費電力削減を目的としておらず、真空ポンプの消費電力という因子自体にも全く注意が向いておらず、当然、消費電力試験も実施していない引用文献1に開示された技術に基づいたとしても、『最後段の真空ポンプの吐出口に接続されたエジェクタポンプが、その駆動ガスを0.1MPa?0.5MPaの圧力で導入することに加え、最後段の真空ポンプが、吸入圧力10Torr未満で稼動する』ことを特徴とする本願発明に想到することは、当業者といえども決してあり得るものではない。」(審判請求書の「III.b)引用文献1の説明ならびに本願発明と引用文献1との対比」の項参照)など、本願は特許されるべき旨主張している。
しかしながら、消費電力を削減することは近年の普遍的課題であって、当業者が必要に応じて着目できる課題であり、真空装置の構成自体は実質的に刊行物1に開示されている以上、上記駆動ガスの圧力や吸入圧力を設定することは設計事項にすぎないことは上述のとおりである。
また、審判請求人は、審尋に対する平成22年10月22日付けの回答書において、同旨のことを主張しているが、上記の判断を左右する主張ではない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

4.むすび

以上のとおり、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項2に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項2に係る発明は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。
したがって、本件補正は、他の補正事項を検討するまでもなく、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成22年2月12日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明は、平成21年8月28日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1を引用する請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「【請求項1】 ガス導入口とガス排出口を備えた真空容器と、前記真空容器に接続され、該真空容器内部を減圧すると共に減圧状態を保つための機械構造の複数段の真空ポンプとを有する真空装置において、
前記真空ポンプのうちの最後段の真空ポンプの吐出口に接続され、該最後段の真空ポンプの減圧動作を補助し、該吐出口からの逆拡散を抑制するための非機械構造の補助ポンプを有し、
前記補助ポンプは、その駆動ガスとして不活性ガスを、前記真空装置の稼動時は常時、0.1MPa?0.5MPaの圧力で導入することを特徴とする真空装置。
【請求項2】 前記補助ポンプは、前記最後段のポンプの前記吐出口に付加的に取り付けられたエジェクタポンプである請求項1に記載の真空装置。」

2.引用刊行物とその記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物は次のとおりであり、その記載事項は、上記【2】3-2.のとおりである。

刊行物1:特開平9-125227号公報

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、「真空装置」についての「前記最後段の真空ポンプは、吸入圧力10Torr未満で稼動し」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定した本願補正発明が、上記「【2】3-3.発明の対比」、及び「【2】3-4.当審の判断」に示したとおり、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記限定を省いた本願発明も実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項2に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項2に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項1及び3?9に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2010-12-24 
結審通知日 2011-01-05 
審決日 2011-01-18 
出願番号 特願2003-55749(P2003-55749)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04D)
P 1 8・ 575- Z (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柏原 郁昭  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 川本 真裕
倉田 和博
発明の名称 真空装置および真空ポンプ  
代理人 福田 修一  
代理人 池田 憲保  

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