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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1233156
審判番号 不服2008-14358  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-06 
確定日 2011-03-03 
事件の表示 平成10年特許願第 17794号「シリコンエピタキシャルウェーハの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月30日出願公開、特開平11-204534〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年1月14日の出願であって、平成19年7月4日付けの拒絶理由通知に対して同年9月10日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、同年11月22日付けの拒絶理由通知に対して平成20年2月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月25日付けで同年2月4日に提出された手続補正書による補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされた。
これに対して、同年6月6日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年7月4日に手続補正書が提出され、その後、平成22年7月7日付けで審尋がなされ、同年9月13日に回答書が提出された。


2.補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年7月4日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成20年7月4日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正1」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?6を補正後の特許請求の範囲の請求項1?6に補正するとともに、明細書の0016段落を補正するものであって、補正前後の請求項1及び6は、各々以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】 抵抗値が0.1Ωcm?10Ωcmの半導体デバイス用シリコンウェーハにおいて、炭素濃度が0.1?2.5×10^(16)atoms/cm^(3) (New ASTM法)、酸素濃度が10?19×10^(17)atoms/cm^(3) (Old ASTM法)の範囲に制御してCZ法もしくはMCZ法にて引き上げられたシリコン単結晶をシリコンウェーハに切り出した後、ウェーハの片面又は両面を鏡面研磨仕上げし、さらにその表面にシリコンのエピタキシャル膜を膜厚5μm以下で成膜した後、前記シリコン結晶の内部に微小欠陥を形成する熱処理を行うもので、
前記引き上げ時に、前記熱処理後においてゲッタリングに必要なBMD密度0.5×10^(5)cm^(-2 )以上を満足するように、前記炭素濃度と酸素濃度とが、
酸素濃度が10×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、または、酸素濃度が12×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3)以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.1×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、に相当する範囲であるか、あるいは、
炭素濃度が2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が10×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が12×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.1×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、に相当する範囲に設定されることを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。」

「【請求項6】 請求項1または請求項2において、
1100℃でシリコンエピタキシャル膜を1μm?3μm成長させた後に、600℃で4時間の熱処理を行い、前記低温のデバイス製造プロセス相当の熱処理を施すことを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。」

(補正後)
「【請求項1】 抵抗値が0.1Ωcm?10Ωcmの半導体デバイス用シリコンウェーハにおいて、炭素濃度が0.1?2.5×10^(16)atoms/cm^(3) (New ASTM法)、酸素濃度が10?18×10^(17)atoms/cm^(3) (Old ASTM法)の範囲に制御してCZ法もしくはMCZ法にて引き上げられたシリコン単結晶をシリコンウェーハに切り出した後、ウェーハの片面又は両面を鏡面研磨仕上げし、さらにその表面にシリコンのエピタキシャル膜を膜厚5μm以下で成膜した後、前記シリコン結晶の内部に微小欠陥を形成する熱処理を行うもので、
前記引き上げ時に、前記熱処理後においてゲッタリングに必要なBMD密度1×10^(5)cm^(-2 )以上を満足するように、前記炭素濃度と酸素濃度とが、
酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、に相当する範囲であるか、あるいは、
炭素濃度が2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 以上18×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 以上18×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、または、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、に相当する範囲に設定されることを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。」

「【請求項6】 請求項1または請求項2において、
1100℃でシリコンエピタキシャル膜を1μm?3μm成長させた後に、600℃で4時間の熱処理を施すことを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。」

(2)補正事項の整理
本件補正1の補正事項を整理すると、以下のとおりである。

(2-1)補正事項1
補正前の請求項1の「酸素濃度が10?19×10^(17)atoms/cm^(3) 」を、補正後の請求項1の「酸素濃度が10?18×10^(17)atoms/cm^(3)」と補正すること。

(2-2)補正事項2
補正前の請求項1の「BMD密度0.5×10^(5)cm^(-2 )以上」を、補正後の請求項1の「BMD密度1×10^(5)cm^(-2 )以上」と補正すること。

(2-3)補正事項3
補正前の請求項1の「酸素濃度が10×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、または、酸素濃度が12×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3)以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下」を削除すること。

(2-4)補正事項4
補正前の請求項1の「酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下」を、補正後の請求項1の「酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下」と補正すること。

(2-5)補正事項5
補正前の請求項1の「酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下」を、補正後の請求項1の「酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.1×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下」と補正すること。

(2-6)補正事項6
補正前の請求項1の「炭素濃度が2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が10×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下」を、補正後の請求項1の「炭素濃度が2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 以上18×10^(17)atoms/cm^(3) 以下」と補正すること。

(2-7)補正事項7
補正前の請求項1の「炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が12×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下」を、補正後の請求項1の「炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 以上18×10^(17)atoms/cm^(3) 以下」と補正すること。

(2-8)補正事項8
補正前の請求項1の「炭素濃度が0.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下」を、補正後の請求項1の「炭素濃度が0.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 以下」と補正すること。

(2-9)補正事項9
補正前の請求項1の「炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下」を、補正後の請求項1の「炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 以下」と補正すること。

(2-10)補正事項10
補正前の請求項1の「炭素濃度が0.1×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下」を削除すること。

(2-11)補正事項11
補正前の請求項6の「600℃で4時間の熱処理を行い、前記低温のデバイス製造プロセス相当の熱処理を施す」を、補正後の請求項6の「600℃で4時間の熱処理を施す」と補正すること。

(2-12)補正事項12
補正前の明細書の0016段落を、補正後の明細書の0016段落と補正すること。

(3)補正の目的の適否、及び新規事項の追加の有無について
(3-1)補正事項2について
補正事項2は、補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「BMD密度」の数値である「0.5×10^(5)cm^(-2 )以上」を「1×10^(5)cm^(-2 )以上」に減縮する補正であるから、特許法第17条の2第4項(平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、「BMD密度」を「1×10^(5)cm^(-2 )以上」とすることは、本願の最初に添付した明細書の0041段落、及び図4に記載されているものと認められるから、補正事項2は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正事項2は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項(平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たすものである。

(3-2)補正事項1、及び3?10について
補正事項1、及び3?10は、いずれも補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「酸素濃度」及び「炭素濃度」の数値を減縮する補正であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、補正後の請求項1における「酸素濃度」及び「炭素濃度」の数値は、本願の最初に添付した明細書の0040?0044段落、及び図4に記載されているものと認められるから、補正事項1、及び3?10は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正事項1、及び3?10は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(3-3)補正事項11について
補正事項11は、補正前の請求項6の「前記低温のデバイス製造プロセス相当の熱処理」という不明りょうな記載を削除するものであり、特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(3-4)補正事項12について
補正事項12は、特許請求の範囲の補正と整合を取るためのものであり、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであることは明らかである。
したがって、当該補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

(3-5)以上検討したとおり、本件補正1は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものであり、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものを含んでいるから、本件補正1による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正1がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて、以下において更に検討する。

(4)独立特許要件について
(4-1)補正後の発明
本件補正1による補正後の本願の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、本件補正1により補正された明細書及び図面の記載からみて、以下のとおりのものと認められる。

「【請求項1】 抵抗値が0.1Ωcm?10Ωcmの半導体デバイス用シリコンウェーハにおいて、炭素濃度が0.1?2.5×10^(16)atoms/cm^(3) (New ASTM法)、酸素濃度が10?18×10^(17)atoms/cm^(3) (Old ASTM法)の範囲に制御してCZ法もしくはMCZ法にて引き上げられたシリコン単結晶をシリコンウェーハに切り出した後、ウェーハの片面又は両面を鏡面研磨仕上げし、さらにその表面にシリコンのエピタキシャル膜を膜厚5μm以下で成膜した後、前記シリコン結晶の内部に微小欠陥を形成する熱処理を行うもので、
前記引き上げ時に、前記熱処理後においてゲッタリングに必要なBMD密度1×10^(5)cm^(-2 )以上を満足するように、前記炭素濃度と酸素濃度とが、
酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、に相当する範囲であるか、あるいは、
炭素濃度が2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 以上18×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 以上18×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、または、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、に相当する範囲に設定されることを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。」

なお、請求項1の「炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上以上」という記載は、「炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上」の誤記であることは明らかであるから、補正発明を上記のように認定した。

また、本件補正1による補正後の本願の請求項2?6に係る発明は、本件補正1により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2?6に記載されている事項により特定されるとおりのものと認められる。

(4-2)引用刊行物に記載された発明
(4-2-1)本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された特開平4-61343号公報(以下「引用例」という。)には、第1図とともに以下の記載がある(なお、下線は当合議体にて付加したものである。)。
なお、特許庁におけるシステムの都合上、丸付き数字を使用できないので、数字の前に「○」を付加することにより、丸付き数字の代用とする。

a.「この発明は、エピタキシャル成膜した半導体ウェーハにイントリンシックゲッタリング(IG)能力を付与するための酸素析出物を形成処理する方法に係り、半導体ウェーハの所要面にエピタキシャル成膜した後、500℃?1000℃の温度範囲の熱処理を施すことにより、エピタキシャル層の結晶性を劣化させることなく、IG効果を付与できる半導体ウェーハの製造方法に関する。」(第1頁右下欄第3?10行)

b.「従来の技術
シリコンウェーハに気相成長装置にてシリコンエピタキシャル層を形成する、通常の方法で製造される所謂エピタキシャルウェーハは、その基板の品質特性により、デバイスプロセスで形成される酸素析出物が不安定であり、安定したIG効果が得られなかった。」(第1頁右下欄第11?17行)

c.「この発明は、エピタキシャル層の結晶性を劣化させることなく、安定したIG効果を得る方法を目的に、熱処理方法について種々検討した結果、IG処理はエピタキシャル層成長後でも何等不都合はないことに着目し、エピタキシャル成長後のウェーハに所要のIG処理を施すと、良質なエピタキシャル層と安定したIG層が得られることを知見し、この発明を完成したものである。
すなわち、この発明は、
微量酸素を含有させて製造された半導体ウェーハの所要面に、エピタキシャル成長にて所要の薄膜を成膜して、エピタキシャルウェーハを製造した後、該エピタキシャルウェーハに、500℃?1000℃の温度範囲の熱処理を施し、
前記薄膜を除く酸素を含む基板にのみ、酸素析出物を形成してイントリンシックゲッタリング能力を付与することを特徴とする半導体ウェーハの製造方法である。」(第2頁左下欄第1?19行)

d.「実施例1
通常のCZで酸素濃度 14×10^(17)atoms/cc、炭素濃度 1×10^(16)atoms/cc(OLDASTM)、SbドープN型、0.03Ωcm(100)の基板に、10μmのN-層をエピタキシャル成長させる。
析出物の形成状態は、以下の条件のIG処理の後、1000℃×16hrの酸化を施して評価した。
○1IG処理なし(従来法1)
○2基板→IG処理→エピタキシャル成長(従来法2)
○3基板→DZ処理→IG処理→エピタキシャル成長(従来法3)
○4基板→エピタキシャル成長→IG処理(本発明1)
析出物の形成状態を、第1図の析出物密度、表面欠陥密度との関係で示す如く、○1(従来法1)では、均一なIG層は得られず、○2(従来法2)では、均一なIG層は得られているが表面近傍の高密度の酸素析出核がエピタキシャル領域に引き継がれ、転位及び積層欠陥が高密度に形成される。
また、○3(従来法3)では、均一なIG層は形成されEPI領域の欠陥も低減するが、低密度の積層欠陥が残留する。
これに対して、○4(本発明1)では、均一なIG層並びに良好なエピタキシャル領域の結晶性が得られている。」(第3頁右上欄第7行?左下欄第10行)

(4-2-2)上記「従来の技術」の記載からみて、実施例1の「本発明1」における「基板」は「シリコンウェーハ」であり、エピタキシャル成長される「N-層」は「シリコンエピタキシャル層」であることは明らかである。
また、第1図の記載から、「本発明1」において「析出物密度」が10^(5)?10^(6 )個/cm^(2 )の範囲にあることも明らかである。

(4-2-3)また、第1頁右下欄第3?10行の記載からみて、「本発明1」のIG処理は、「500℃?1000℃の温度範囲の熱処理」であることも明らかである。

(4-2-4)したがって、引用例には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「CZで形成された酸素濃度14×10^(17)atoms/cc、炭素濃度1×10^(16)atoms/cc(OLDASTM)のSbドープN型、0.03Ωcm(100)のシリコンウェーハに、10μmのシリコンエピタキシャル層を成長させた後、500℃?1000℃の温度範囲の熱処理を施して、析出物密度を10^(5)?10^(6 )個/cm^(2 )とする半導体ウェーハの製造方法。」

(4-3)補正発明と引用発明との対比
(4-3-1)補正発明の「シリコンウェーハ」は、当然、半導体デバイスを製造するためのものである。したがって、引用発明の「シリコンウェーハ」は、補正発明の「半導体デバイス用シリコンウェーハ」に相当する。

(4-3-2)引用発明の「シリコンウェーハ」は、CZ法で形成されるものであるが、技術常識からみて、当然、CZ法で形成された単結晶を切り出して形成されるものである。
したがって、引用発明の「CZで形成された」「シリコンウェーハ」は、補正発明のように「CZ法もしくはMCZ法にて引き上げられたシリコン単結晶をシリコンウェーハに切り出」されて形成されたものと認められる。

(4-3-3)補正発明における酸素濃度の「14×10^(17)atoms/cc」なる数値は、「14×10^(17)atoms/cm^(3)」と同義であることは明らかである。また、補正発明における炭素濃度の「1×10^(16)atoms/cc」なる数値は、OLDASTM法により測定されたものであるが、これをNew ASTM法に換算すると、およそ0.8×10^(16)atoms/cm^(3 )となることは当業者において自明である。
したがって、引用発明における「酸素濃度14×10^(17)atoms/cc、炭素濃度1×10^(16)atoms/cc(OLDASTM)」は、補正発明における「炭素濃度が0.1?2.5×10^(16)atoms/cm^(3) (New ASTM法)、酸素濃度が10?18×10^(17)atoms/cm^(3) (Old ASTM法)の範囲」に属し、かつ、「前記炭素濃度と酸素濃度とが、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、に相当する範囲であるか、あるいは、
炭素濃度が2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 以上18×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 以上18×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、または、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、に相当する範囲」のうち「酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下」の範囲にも属することは明らかである。

(4-3-4)引用発明における「析出物」は、補正発明における「微小欠陥」及び「BMD」に相当する。
また、引用発明における「500℃?1000℃の温度範囲の熱処理を施して、析出物密度を10^(5)?10^(6 )個/cm^(2 )とする」構成は、補正発明における「前記シリコン結晶の内部に微小欠陥を形成する熱処理を行うもので、」「前記熱処理後においてゲッタリングに必要なBMD密度1×10^(5)cm^(-2 )以上を満足する」構成に相当する。
また、引用発明における炭素濃度及び酸素濃度の制御は、当然に、単結晶の引き上げ時に行われるものである。

(4-3-5)引用発明における「半導体ウェーハ」は、「シリコンウェーハ」上に「シリコンエピタキシャル層」を形成したものである。したがって、引用発明の「半導体ウェーハの製造方法」は、補正発明の「シリコンエピタキシャルウェーハの製造方法」に相当する。

(4-3-6)以上を総合すると、補正発明と引用発明とは、
「半導体デバイス用シリコンウェーハにおいて、炭素濃度が0.1?2.5×10^(16)atoms/cm^(3) (New ASTM法)、酸素濃度が10?18×10^(17)atoms/cm^(3) (Old ASTM法)の範囲に制御してCZ法もしくはMCZ法にて引き上げられたシリコン単結晶をシリコンウェーハに切り出した後、さらにその表面にシリコンのエピタキシャル膜を成膜した後、前記シリコン結晶の内部に微小欠陥を形成する熱処理を行うもので、
前記引き上げ時に、前記炭素濃度と酸素濃度とが、
酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、に相当する範囲であるか、あるいは、
炭素濃度が2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 以上18×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 以上18×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、または、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、に相当する範囲に設定されることを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。」

である点で一致し、以下の3点で相違している。

(相違点1)
補正発明は、シリコンウェーハの抵抗値が「0.1Ωcm?10Ωcm」であるのに対して、引用発明は、シリコンウェーハの抵抗値が「0.03Ωcm」である点。

(相違点2)
補正発明は、エピタキシャル層の厚みが「5μm以下」であるのに対して、引用発明は、エピタキシャル層の厚みが「10μm」である点。

(相違点3)
補正発明は、シリコン単結晶をシリコンウェーハに切り出した後、「ウェーハの片面又は両面を鏡面研磨仕上げし」ているのに対して、引用発明は、そのような特定をしていない点。

(4-4)相違点についての当審の判断
(4-4-1)相違点1について
(4-4-1-1)一般に、いわゆるイントリンシック・ゲッタリング効果を付与するために用いるシリコンウェーハにおいて、「0.1Ωcm?10Ωcm」程度の抵抗値を有するものは、例えば、本願の出願前に日本国内において頒布された以下の周知例1及び2に記載されているように当業者において周知である。

a.周知例1:特開昭59-75637号公報
上記周知例1には、以下の記載がある。
「本発明はシリコン基板のイントリンシック・ゲッタリング方法に関する。」(第1頁左下欄第17?18行)

「CZシリコン基板はn型の(100)のものを用い、ドーパントとしては、P、As、Sbであり、その抵抗率は1?2、0.5?0.6、0.1?0.2、0.05?0.06、0.01?0.02Ωcmのものである。」(第2頁右下欄第4?7行)

b.周知例2:特開昭59-84432号公報
上記周知例2には、以下の記載がある。
「本発明はイントリンシック・ゲッタリング効果を有するN型の単結晶シリコン基板に関するものである。」(第1頁左下欄第12?14行)

「本発明者はまずN型不純物であるSbやPが添加された単結晶シリコン基板についてIG効果の基礎検討を行った。不純物濃度としては、1?2Ω・cm、0.1?0.2Ω・cm、0.01?0.02Ω・cmの三通りとした。」(第2頁左上欄第13?17行)

(4-4-1-2)また、本願の発明の詳細な説明の0030段落の「エピタキシャルウェーハの基板となるシリコンウェーハの比抵抗値については特に限定しないが、0.1Ωcm程度以上の基板において、エピタキシャル成長によるゲッタリング不足が生じていることにより、この発明方法は前記比抵抗値以上のシリコンウェーハに対する効果が顕者である。」という記載によれば、補正発明における「0.1Ωcm?10Ωcm」という高い抵抗値は、ゲッタリング不足が生じやすい基板の基準として特定されたにすぎないものと認められる。
しかし、上記周知例1の「この内部欠陥密度と基板の抵抗率との相関特性図を第5図に示す。このグラフにみられる著しい特徴は、内部欠陥密度が抵抗率に大きく依存することである。つまり、抵抗率が0.01?0.02Ωcmのサンプルにおいては、内部欠陥がほとんど発生せず、また二段の低温アニールを施したものでは、明らかなドーパント依存性が認められる。」(第3頁左下欄第1?7行)という記載、及び、上記周知例2の「内部欠陥密度は第1図に示すように、Sb及びP共に添加不純物濃度が増すにつれて減少し、0.01?0.02Ω・cmのウエーハではSb及び共に内部欠陥が生成されていないことが明らかとなった。」(第2頁右上欄第6?10行)という記載によれば、不純物としてSbを添加した場合には、該Sbの添加量が多く、抵抗値が小さいウェーハほど内部欠陥が少なくなるため、ゲッタリング不足が生じやすくなることが明らかである。すなわち、不純物としてSbを添加した場合には、上記0030段落の記載とは逆の挙動を示すことが、本願の出願前より周知であったといえ、ゲッタリング不足が生じるか否かは、単にシリコンウェーハの抵抗値の大小のみにより決まるものではないことは明らかであるのだから、補正発明においてシリコンウェーハの抵抗値を「0.1Ωcm?10Ωcm」としたことによる格別な効果を認めることはできない。
したがって、引用発明において、補正発明のように、「0.1Ωcm?10Ωcm」程度の抵抗値を有するシリコンウェーハを採用することは、当業者が適宜になし得たことである。

(4-4-2)相違点2について
(4-4-2-1)エピタキシャルウェーハにおけるエピタキシャル膜の厚みとして、5μm以下程度の数値は、通常用いられる程度のものにすぎない。

(4-4-2-2)また、本願の発明の詳細な説明の0021段落に、「シリコンエピタキシャル膜の膜厚が厚い場合でも、酸素濃度、炭素濃度、熱処理条件を最適化すれば十分なBMD密度が得られ、しかもBMDのサイズの制御範囲を広くとれることを確認したが、エピタキシャル成長時間が長くなり、生産性が低下しその結果製造コストが上昇する問題が考えられる。従って、シリコンエピタキシャル膜の膜厚は5μm以下が望ましい。」と記載されているとおり、補正発明において「5μm以下」なる膜厚を採用することによっては、単に成長時間が長くなることによる生産性の低下を避けるという当業者にとって自明の課題が解決されるにすぎないものであり、格別な効果を奏するものとは認めることができない。
したがって、引用発明においてエピタキシャル層の厚みを「5μm以下」とすることは、当業者が適宜になし得たものである。

(4-4-3)相違点3について
引き上げ後のシリコン単結晶をシリコンウェーハに切り出した後には、ウェーハの片面又は両面が鏡面研磨されることは、当業者における技術常識にすぎないものであるから、引用発明においても当然に行われているものである。したがって、相違点3は実質的なものではない。
また、仮に、上に述べたような鏡面研磨が当然に行われているとまではいえず、相違点3が実質的なものであったとしても、当該相違点3は、技術常識に基づいて当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものにすぎない。

(4-4-4)以上検討したとおり、補正発明は、周知例1及び2に記載された周知技術を勘案することにより、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4-5)独立特許要件についてのまとめ
以上検討したとおり、本件補正1は、補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項をいう。以下同じ。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。

(5)補正の却下についてのむすび
本件補正1は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するが、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.平成19年9月10日に提出された手続補正書による補正について
(1)補正の内容
平成20年7月4日に提出された手続補正書による補正は上記のとおり却下された。そして、平成19年9月10日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正2」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?5(本願の願書に最初に添付した明細書に記載された特許請求の範囲の請求項1?5をいう。以下同じ。)を補正後の特許請求の範囲の請求項1?6と補正するとともに、発明の詳細な説明を補正するものであり、補正前後の請求項1は各々以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】半導体デバイス用シリコンウェーハにおいて、炭素濃度が0.1?2.5×10^(16)atoms/cm^(3)(New ASTM法)、酸素濃度が10?18×10^(17)atoms/cm^(3)(Old ASTM法)の範囲に制御してCZ法もしくはMCZ法にて引き上げられたシリコン単結晶をシリコンウェーハに切り出した後、ウェーハの片面又は両面を鏡面研磨仕上げし、さらにその表面にシリコンのエピタキシャル膜を成膜した後、前記シリコン結晶の内部に微小欠陥を形成する熱処理を行うシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。」

(補正後)
「【請求項1】 抵抗値が0.1Ωcm?10Ωcmの半導体デバイス用シリコンウェーハにおいて、炭素濃度が0.1?2.5×10^(16)atoms/cm^(3) (New ASTM法)、酸素濃度が10?19×10^(17)atoms/cm^(3) (Old ASTM法)の範囲に制御してCZ法もしくはMCZ法にて引き上げられたシリコン単結晶をシリコンウェーハに切り出した後、ウェーハの片面又は両面を鏡面研磨仕上げし、さらにその表面にシリコンのエピタキシャル膜を膜厚5μm以下で成膜した後、前記シリコン結晶の内部に微小欠陥を形成する熱処理を行うもので、
前記引き上げ時に、前記熱処理後においてゲッタリングに必要なBMD密度0.5×10^(5)cm^(-2 )以上を満足するように、前記炭素濃度と酸素濃度とが、
酸素濃度が10×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、または、酸素濃度が12×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3)以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.1×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、に相当する範囲であるか、あるいは、
炭素濃度が2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が10×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が12×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.1×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、に相当する範囲に設定されることを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。」

(2)補正事項の整理
本件補正2における補正事項を整理すると、以下のとおりである(ここにおいて、下線は当合議体にて付加したものである。)。

(2-1)補正事項1
補正前の請求項1の「半導体デバイス用シリコンウェーハ」を、補正後の請求項1において「抵抗値が0.1Ωcm?10Ωcmの半導体デバイス用シリコンウェーハ」と補正すること。

(2-2)補正事項2
補正前の請求項1の「酸素濃度が10?18×10^(17)atoms/cm^(3)(Old ASTM法)」を、補正後の請求項1の「酸素濃度が10?19×10^(17)atoms/cm^(3)(Old ASTM法)」と補正すること。

(2-3)補正事項3
補正前の請求項1の「シリコンのエピタキシャル膜を成膜した」を、補正後の請求項1において「エピタキシャル膜を膜厚5μm以下で成膜した」と補正すること。

(2-4)補正事項4
補正前の請求項1において、補正後の請求項1の「前記引き上げ時に、前記熱処理後においてゲッタリングに必要なBMD密度0.5×10^(5)cm^(-2 )以上を満足するように、前記炭素濃度と酸素濃度とが、
酸素濃度が10×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、または、酸素濃度が12×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3)以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が14×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、または、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 、炭素濃度が0.1×10^(16)atoms/cm^(3) 以上2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 以下、に相当する範囲であるか、あるいは、
炭素濃度が2.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が10×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.8×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が12×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.5×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.3×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が16×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、または、炭素濃度が0.1×10^(16)atoms/cm^(3) 、酸素濃度が18×10^(17)atoms/cm^(3) 以上19×10^(17)atoms/cm^(3) 以下、に相当する範囲に設定される」なる事項を追加すること。

(2-5)補正事項5
補正前の請求項2の「エピタキシャル膜の膜厚が5μm以下」を、補正後の請求項2の「エピタキシャル膜の膜厚が1μm?3μm」と補正すること。

(2-6)補正事項6
補正前の請求項3?5に、それぞれ、補正後の請求項3?5の「酸素又は窒素もしくはこれらの混合ガス雰囲気で」なる事項を追加すること。

(2-7)補正事項7
請求項6を追加すること。

(2-8)補正事項8
補正前の明細書の0016段落を、補正後の明細書の0016段落と補正すること。

(3)新規事項の追加の有無についての検討
(3-1)上記補正事項2について検討する。
本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、本願の願書に最初に添付した明細書、本願の願書に最初に添付した図面を、各々「当初明細書」、「当初図面」といい、これらをまとめて「当初明細書等」という。)には、補正後の請求項1の「酸素濃度が10?19×10^(17)atoms/cm^(3) (Old ASTM法)」という事項に関連して、図4とともに以下の記載がある。

「【0040】
実施例3
CZ法によって直径6インチのシリコン単結晶を育成する際にボロンを添加して、基板抵抗値が7?10Ωcmで、酸素濃度が8、9、10、12、14、15、16、18、19×10^(17)atoms/cm^(3)、炭素濃度が0.1×10^(16)atoms/cm^(3)未満(フーリエ変換型赤外吸収法による検出下限値)、0.1、0.3、0.5、0.8、2.5、5.0×10^(16)atoms/cm^(3)にそれぞれ制御されて引き上げられたシリコン単結晶より切り出されたシリコンウェーハを準備し、これらの基板に1100℃でシリコンエピタキシャル膜を3μm成長させた後に、600℃で4時間の熱処理を行い、前記低温のデバイス製造プロセス相当の熱処理を施した。
【0041】
その後、それらのサンプルを短冊状に劈開した後に、化学的選択エッチング(Wrightエッチング)にて片面で2μmのエッチングを施し、BMDを顕在化させたものを光学顕微鏡を用いて、発生密度の測定を実施した。その結果を図4に示す。図4に示される如く、炭素濃度を上げるとゲッタリングに必要なBMD密度1×10^(5)cm^(-2)を満足するようになる。
【0042】
また、酸素濃度が8×10^(16)atoms/cm^(3)と低いサンプルは炭素濃度が高くてもほとんどBMD密度の増加は認められない。炭素濃度が0.06×10^(16)atoms/cm^(3)以下(放射化分析装置による)と低いサンプルは酸素濃度が高くてもほとんどBMDの増加は認められないことが判る。
【0043】
酸素濃度については、例えばシリコン単結晶中に取り込まれる最大値27×10^(17)atoms/cm^(3)近傍でも問題がないと考えられるが、通常の半導体デバイス基板用として用いられている結晶の酸素濃度の上限がおおよそ18×10^(17)atoms/cm^(3)であり、そのため安定して引き上げられる酸素濃度範囲が18×10^(17)atoms/cm^(3)以下であるため、この値を上限とした。」

(3-2)そこで、補正後の請求項1における酸素濃度を10?19×10^(17)atoms/cm^(3)とすることが、当初明細書等に記載されている、又は当業者にとって当初明細書等に記載されているに等しいといえるか否かについてみると、当初明細書の0040段落、及び当初図面の図4には、酸素濃度を19×10^(17)atoms/cm^(3)とすることが記載されていると認められる。
しかしながら、当初明細書等のうちの図4には、19×10^(17)atoms/cm^(3)なる酸素濃度によっては、1×10^(4)cm^(-2)以下のBMD密度しか実現できていないことが記載されており、19×10^(17)atoms/cm^(3)なる酸素濃度によって、補正後の請求項1において特定された0.5×10^(5)cm^(-2)以上のBMD密度を実現することが可能であることについては、当初明細書等には何ら記載されていない。
また、当初明細書の0043段落には、「通常の半導体デバイス基板用として用いられている結晶の酸素濃度の上限がおおよそ18×10^(17)atoms/cm^(3)であり、そのため安定して引き上げられる酸素濃度範囲が18×10^(17)atoms/cm^(3)以下であるため、この値を上限とした」と記載されていることからも、所期の課題を解決するためには酸素濃度の上限は18×10^(17)atoms/cm^(3)であることが必須であり、19×10^(17)atoms/cm^(3)という酸素濃度は、当初明細書等において所期の課題を解決することのできない「比較例」として示されたものにすぎないことが明らかである。
したがって、当初明細書等には、むしろ、酸素濃度範囲が18×10^(17)atoms/cm^(3 )を超える場合には、安定した引き上げができず、所期の課題を解決することができないことが記載されているものと認められるから、19×10^(17)atoms/cm^(3)という酸素濃度を有するウェーハを用いることが、当初明細書等の記載から当業者にとって自明であるといえないことは明らかである。

(3)したがって、補正後の請求項1の「酸素濃度が10?19×10^(17)atoms/cm^(3) 」は、当初明細書等に記載されておらず、かつ、それらの記載から当業者にとって自明なものとも認められないから、補正事項2は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものではなく、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものではない。

(4)以上検討したとおり、上記補正事項2は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものではないから、本件補正2は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の補正事項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-27 
結審通知日 2011-01-04 
審決日 2011-01-20 
出願番号 特願平10-17794
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和瀬田 芳正  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 小野田 誠
酒井 英夫
発明の名称 シリコンエピタキシャルウェーハの製造方法  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  
代理人 高橋 詔男  

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