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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1233169
審判番号 不服2009-17988  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-25 
確定日 2011-03-03 
事件の表示 特願2004- 79487「疲労寿命にすぐれた溶接継手」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月29日出願公開、特開2005-262281〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
この出願は、平成16年3月19日の特許出願であって、同19年11月13日付の拒絶理由通知に対して同20年1月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同21年6月26日付で拒絶をすべき旨の査定がされたものである。これに対し、同21年9月25日に本件審判の請求がされるとともに特許請求の範囲及び明細書に対する手続補正(以下「本件補正」という。)がされ、当審の同22年9月27日付審尋に対して同22年11月29日に回答書が提出されたものである。

2.本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
2.1 補正の内容の概要
補正前後の請求項1の記載を、補正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。
<補正前>
「溶接止端部にイルミナイト系溶接材料を用いて化粧溶接を施した溶接継手であって、母材は繰返し軟化パラメータが0.95以下の鋼材であり、化粧溶接による余盛止端部の弾性応力集中係数K_(t)が2.0以下であることを特徴とする疲労強度にすぐれた溶接継手。」
<補正後>
「溶接止端部にイルミナイト系溶接材料を用いて化粧溶接を施した溶接継手であって、母材は繰返し軟化パラメータが0.95以下の鋼材であり、化粧溶接による余盛止端部の弾性応力集中係数K_(t)が2.0以下であること、および疲労き亀裂発生強度にすぐれていることを特徴とする溶接継手。」

2.2 補正の適否
請求項1における補正は、溶接継手について、疲労き亀裂発生強度がすぐれている旨の限定事項を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する。

2.3 補正発明
補正発明は、本件補正により補正がされた明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記2.1の<補正後>に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

2.4 刊行物記載事項
この出願前に頒布された刊行物である特開2003-251489号公報(以下「刊行物1」という。)及び特開2004-27355号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載が認められる。
2.4.1 刊行物1
a.(2欄20-29行)
「【請求項6】 溶接材料を用いて低合金鉄鋼材料同士を溶接により固着して形成した低合金鉄鋼材料の溶接継手であって、
前記溶接により形成された溶接止端部に付加溶接を施し、
該付加溶接によって生成される溶接止端部の溶接金属のマルテンサイト変態開始温度が120℃以上400℃以下であり、かつ前記溶接止端部において下記(1)式で表される応力集中係数K_(t)値が1.3以上2.8以下であることを特徴とする低合金鉄鋼材料の溶接継手。」
b.(2欄46-末行)
「【発明の属する技術分野】本発明は、船舶、橋梁、貯槽、建設機械等の大型構造物に用いて好適な低合金鉄鋼材料の溶接継手及びその溶接方法、特に、溶接材料を用いて溶接を行う際に溶接継手の疲労強度を向上できる、低合金鉄鋼材料の溶接継手及びその溶接方法に関する。」
c.(5欄8行-6欄1行)
「【0013】また、本発明者らは、溶接止端部において応力集中係数K_(t)値を1.3以上2.8以下とすることにより、圧縮残留応力の導入によって得た疲労強度向上効果をさらに高めることができるとの知見も得た。また、本発明者らは、前記知見に加えて、溶接材料を用いて低合金鉄鋼材料同士を溶接により固着して形成した溶接継手において、疲労破断の起点となりうる溶接止端部に付加溶接を施せば、疲労が問題となる溶接止端部の疲労強度がさらに向上するとの知見も得た。」
上記摘記事項より、刊行物1には次の発明が記載されていると認める。
「溶接止端部に溶接材料を用いて付加溶接を施した溶接継手であって、被溶接材料は船舶、橋梁、貯槽、建設機械等の大型構造物に用いて好適な鉄鋼材料であり、付加溶接によって生成される溶接止端部の応力集中係数K_(t)値が1.3以上2.8以下であり、疲労強度が向上している溶接継手。」(以下「刊行物1記載の発明」という。)

2.4.2 刊行物2
a.(2頁3-6行)
「最大引張・圧縮歪で±0.012、繰り返し速度0.5Hz、最大歪までの波数12の漸増・漸減繰り返し負荷を15回与えたときの、1回目の最大歪時の応力σ_(1)と15回目の最大歪時の応力σ_(15)との比σ_(15)/σ_(1)で示される繰り返し軟化パラメータが0.65以上0.95以下である疲労き裂進展抵抗特性に優れた鋼材。」
b.(2頁43-45頁)
「本発明は、船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、タンク、産業用・建設用機械などに用いる鋼材であって繰り返し荷重下で使用される鋼材とその製造方法に関し、より詳述すれば、疲労き裂進展抵抗特性に優れた構造用鋼材とその製造方法に関する。」
c.(3頁12-15行)
「溶接構造物では、応力集中部としての溶接止端部が多数存在しており、疲労き裂の発生を完全に防止することは技術的にも不可能に近く、また経済的にも得策ではない。すなわち、き裂が既に存在している状態からのき裂進展寿命を大幅に延長させる必要があり、そのためにはき裂の進展速度をできるだけ遅くすることが重要になってくる。」
d.(4頁14-17行)
「ここに、本発明では、繰り返し歪を与える条件下での軟化挙動を含めた耐疲労特性改善のための研究開発を進めて、疲労き裂進展抵抗特性に優れた鋼材を見出した。さらに本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、タンクなど構造用鋼に最適な強度・靭性および溶接性を兼ね備えた鋼材を得、本発明に至ったものである。」
上記摘記事項より、刊行物2には、次の事項が記載されていると認める。
「繰り返し軟化パラメータが0.65以上0.95以下である船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、タンク等に最適な強度・靭性及び溶接性を兼ね備えた鋼材。」(以下「刊行物2記載の技術的事項」という。)

2.5 対比
補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「付加溶接」は、前者の「化粧溶接」に相当しており、以下同様に、「被溶接材料」は「母材」に、「鉄鋼材料」は「鋼材」に、「付加溶接によって生成される溶接止端部」は「化粧溶接による余盛止端部」に、「応力集中係数K_(t)値」は「弾性応力集中係数K_(t)」にそれぞれ相当している。
また、後者の発明の疲労強度が向上している鋼材が、疲労き亀裂発生強度にすぐれていることは、技術常識より明らかであり、前者と後者の余盛止端部の弾性応力集中係数は、2.8以下である限りにおいて共通する。
以上のとおりであるので、両者の一致点及び相違点は、次のとおりのものとなる。
<一致点>
「溶接止端部に溶接材料を用いて化粧溶接を施した溶接継手であって、母材は鋼材であり、化粧溶接による余盛止端部の弾性応力集中係数が2.8以下であり、疲労き亀裂発生強度にすぐれている溶接継手。」である点。
<相違点1>
鋼材の繰返し軟化パラメータが、前者では0.95以下であるのに対し、後者ではこのような特定がない点。
<相違点2>
化粧溶接に用いる溶接材料が、前者ではイルミナイト系溶接材料であるのに対し、後者ではこのような特定がない点。
<相違点3>
余盛止端部の弾性応力集中係数が、前者では2.0以下であるのに対し、後者では1.3以上2.8以下である点。

2.6 判断
そこで、上記各相違点について、以下検討する。
2.6.1 相違点1について
刊行物1記載の発明の鋼材は、船舶、橋梁、貯槽、建設機械等の大型構造物に用いて好適な鋼材であり、また、上記刊行物2には、上記2.4.2のとおりの技術的事項、即ち、繰り返し軟化パラメータが0.65以上0.95以下である船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、タンク等に最適な強度・靭性及び溶接性を兼ね備えた鋼材が記載されている。
刊行物1記載の発明の鋼材と刊行物2記載の技術的事項の鋼材とは、船舶、橋梁、タンク等に好適な鋼材である点で一致しており、さらに、刊行物2記載の技術的事項の鋼材は、最適な溶接性をも兼ね備えたものであるので、刊行物1記載の発明の溶接継手の母材である鋼材に刊行物2記載の技術的事項の鋼材を採用することに格別の困難性はなく、鋼材を繰返し軟化パラメータが0.95以下のものとすることは、当業者が容易に想到することができたことである。

2.6.2 相違点2について
イルミナイト系溶接材料は、例示するまでもなく従来周知であるので、刊行物1記載の発明における化粧溶接に上記従来周知なイルミナイト系溶接材料用いることに格別の困難性はない。

2.6.3 相違点3について
疲労き亀裂発生強度にすぐれる溶接継手を形成するうえで、余盛止端部の弾性応力集中係数を小さい値に抑えることが有効であることは、当業者間の技術的な常識である。したがって、刊行物1記載の発明において該応力集中係数を2.8以下からさらに2.0以下へと限定することは、当業者であれば容易に想到し得るものである。

2.6.4補正発明の作用効果について
補正発明が奏する作用効果は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の技術的事項及び上記従来周知の事項から当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。
したがって、補正発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の技術的事項及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2.7 まとめ
以上のとおりであるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
3.1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1及び2に係る発明は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、平成20年1月9日付手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、上記2.1の<補正前>に示したとおりである。

3.2 刊行物記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由には、上記刊行物1及び刊行物2が引用されており、その記載事項は、上記2.4に示したとおりである。

3.3 対比・判断
本件発明は、上記2.2で述べたとおり、補正発明の発明特定事項から、上記限定事項が省かれたものである。
そうすると、上記2.6で検討したとおり、補正発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の技術的事項及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、補正発明の発明特定事項から上記限定事項が省かれた本件発明も、補正発明と同様の理由により、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の技術的事項及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.4 むすび
以上のとおり、この出願の請求項1に係る発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の技術的事項及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、この出願の請求項2に係る発明について判断するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
.
 
審理終結日 2010-12-28 
結審通知日 2011-01-04 
審決日 2011-01-17 
出願番号 特願2004-79487(P2004-79487)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 豊原 邦雄
特許庁審判官 菅澤 洋二
刈間 宏信
発明の名称 疲労寿命にすぐれた溶接継手  
代理人 千原 清誠  
代理人 穂上 照忠  
代理人 杉岡 幹二  

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