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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G01N
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  G01N
管理番号 1233530
審判番号 無効2009-800215  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-10-13 
確定日 2011-02-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3293717号発明「分析装置」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許3293717号に係る出願は,平成6年9月29日に特許出願され,平成14年4月5日にその請求項1に係る発明について特許の設定登録がなされたものであり,その後,平成18年3月16日付けで訂正審判の請求(訂正2006-39042号)がなされ,同年5月10日に訂正することを認めるとの審決が確定し,さらに,平成19年6月26日付けで訂正審判の請求(訂正2007-390082号)がなされ,同年8月31日に訂正することを認めるとの審決が確定したものである。
これに対して,株式会社キーエンス(以下,「請求人」という。)から平成21年10月13日付けで請求項1に係る発明の特許について,無効審判の請求がなされたものであり,その後の手続の経緯は,以下のとおりである。

平成21年11月 4日 上申書(被請求人)
平成21年12月 8日 上申書(請求人)
平成22年 1月 8日 答弁書
平成22年 1月12日 訂正請求書
平成22年 2月15日 弁駁書
平成22年 3月10日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成22年 3月17日 上申書(請求人)
平成22年 3月24日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成22年 3月24日 口頭審理
平成22年 3月24日 審理終結

第2 平成22年1月12日付け訂正請求(以下,「本件訂正請求」という。)について

1 本件訂正請求の内容
(1)訂正事項1
訂正事項1は,本件特許の請求項1において,

「分析手段側から得られる画像データの任意の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段と」

とあるのを,

「物質表面の原子配列や表面形状の測定結果として分析手段側から得られる画像データの任意の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段と」

と訂正するものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は,本件特許の請求項1において,

「前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示する手段と」

とあるのを,

「前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示するとともに,前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する手段と」

と訂正するものである。

(3)訂正事項3
訂正事項3は,本件特許明細書の段落【0004】において,

「本発明は,分析装置において,分析手段側から得られる画像データの任意の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段と」

とあるのを,

「本発明は,分析装置において,物質表面の原子配列や表面形状の測定結果として分析手段側から得られる画像データの任意の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段と」

と訂正するものである。

(4)訂正事項4
訂正事項4は,本件特許明細書の段落【0004】において,

「前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示する手段と」

とあるのを,

「前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示するとともに,前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する手段と」

と訂正するものである。

2 当審の本件訂正請求についての判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,訂正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「分析手段側から得られる画像データ」を,「物質表面の原子配列や表面形状の測定結果として分析手段側から得られる画像データ」と訂正して下位概念に限定するものである。
そして,本件特許明細書の

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,走査型プローブ顕微鏡等の分析装置に関し,特に測定した画像データをカラー表示する画像データ表示装置を備えた分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば,走査型プローブ顕微鏡等の分析装置においては,物質表面の原子配列や,物質表面の表面形状の測定結果を画像データとして取得し,該画像データを表示装置に表示している。この走査型プローブ顕微鏡として,例えば,プローブと試料表面との間に流れるトンネル電流を用いる走査型トンネル顕微鏡(STM)や,プローブと試料表面間に働く原子間力を測定する原子間力顕微鏡(AFM)が知られている。・・・このような走査型プローブ顕微鏡等の分析装置が備える画像表示装置においては,一般に,分析装置から得られる画像データは必ずしもコントラストが良好ではない。・・・」

との記載からみて,同明細書に「物質表面の原子配列や表面形状の測定結果として分析手段側から得られる画像データの任意の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段と」が記載されていることは明らかであり,訂正事項1は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
してみると,上記訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,新規事項を追加するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,訂正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示する手段」を,「前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示するとともに,前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する手段」と訂正して下位概念に限定するものである。
そして,本件特許明細書には以下の記載がある。

「【0008】
【作用】・・・この求めた輝度分布は,表示部中において,例えば,ヒストグラム等の表示形態によって表すことができる。表示部には,前記輝度分布を表す部分と共に,カラーテーブルを表す部分が形成され,画像データ表示部で表示される画像データの色の分布を,例えば柱状の形態によって,ヒストグラムで表された輝度分布と対応できるように表示している。そして,カラーテーブル割り当て指定手段によって画像データの輝度分布における表示範囲を指定して,カラーテーブルによって色付さけれる輝度分布中の範囲を設定する。これによって,所望の輝度分布範囲におけるカラー表示を設定することができる。」
「【0013】・・・また,レンジ・バー12は,画像データ表示部10におけるカラー表示の状態を変更して設定する手段であり,例えば,マウス等のカラーテーブル割り当て指定部4等の入力手段により入力することができる。カラーテーブル割り当て指定部4によって,このレンジ・バー12をヒストグラム表示部13に対して移動し,輝度分布に対して色付けを行なう範囲を設定する。図1では,横方向の実線で示される2本のレンジ・バー12により設定される輝度分布の間において,カラーテーブル表示部11で示される色分布によってカラー表示が行なわれることになる。したがって,このレンジ・バー12を移動させることにより,色付けされる輝度分布の範囲を変更することができる。・・・」
「【0015】カラーテーブル割り当て範囲メモリ23は,カラーテーブル割り当て指定部4が指定した割り当て範囲を記憶するメモリである。表示部1中のレンジ・バー12,及びカラーテーブル表示部11の表示範囲は,このメモリ23の記憶内容に応じて行なわれる。・・・」

上記の各記載によれば,「カラーテーブル」は「ヒストグラムで表された輝度分布と対応できるように表示」されるものであり,「横方向の実線で示される2本のレンジ・バー12により設定される輝度分布の間において」,「色分布」が「カラーテーブル表示部11で示される」ものであるから,本件特許明細書に「前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する」ことが記載されていることは明らかであり,訂正事項2は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
してみると,上記訂正事項2は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,新規事項を追加するものではなく,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

なお,請求人は弁駁書において,「図1は,『図1では,ヒストグラム表示によって測定画像データ中の輝度分布を表しているが・・・』という段落【0013】の記述から明らかなとおり,カラー表示の状態を変更して設定する前の画面を表している。そして,その後に続く『図1では,横方向の実線で示される2本のレンジ・バー12により設定される輝度分布の間において,カラーテーブル表示部11で示される色分布によってカラー表示が行なわれることになる。したがって,このレンジ・バー12を移動させることにより,色付けされる輝度分布の範囲を変更することができる。』は,上記カラー表示の状態を変更する前の画面上に表示された『レンジ・バー』によって,カラーテーブルを割り当てる『輝度分布』の範囲を設定すること,そして当該設定の結果として,変更した割り当てに従いカラー表示が行われることになることを説明しているにすぎず,『カラーテーブルを表す部分は,レンジ・バー12で設定される輝度分布の範囲と対応する範囲内に表示されており,その対応関係は,レンジ・バー12で設定される輝度分布の上限・下限と対応する位置関係にあること』まで示しているものではない。」(9頁4?15行)と主張している。
しかしながら,弁駁書においては,「測定画像データ中の輝度分布を表している」ことと,「カラー表示の状態を変更して設定する前の画面を表している」こととがどのような関係にあるかが示されておらず,「測定画像データ中の輝度分布を表している」からといって,「カラー表示の状態を変更して設定する前の画面を表している」ともいえないから,請求人の上記主張は採用することができない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は,上記訂正事項1の訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるためのものであって,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は,上記訂正事項2の訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるためのものであって,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(5)まとめ
したがって,上記訂正事項1乃至4は,特許法第134条の2第1項に掲げる事項を目的とし,かつ,同条第5項で読み替えて準用する同法126条第3項及び第4項の規定に適合するから,当該訂正を認める。

第3 本件発明
以上のように,本件訂正請求が認められることから,本件請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は,本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「物質表面の原子配列や表面形状の測定結果として分析手段側から得られる画像データの任意の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段と,前記輝度分布に対して,前記輝度分割数と実質的に1対1で対応させることができる任意のカラー分割数に分割されたカラーテーブルの割り当て範囲を,輝度分布表示に対して移動可能な表示画面上のレンジ・バーを用いて指定して色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する手段と,前記カラーテーブルの割り当てに従って画像データを表示用画像データに変換する手段と,前記表示用画像データを記憶する手段と,前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示するとともに,前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する手段とを備えた分析装置であって,
前記設定された輝度分布の範囲の上限以上,また,下限以下についてはそれぞれカラーテーブルの上限また下限と同一の色付けを行うことを特徴とする分析装置。」

第4 請求人の主張と証拠方法
1 請求人の主張
請求人は,特許第3293717号の請求項1に係る特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,審判請求書,弁駁書,口頭審理(口頭審理陳述要領書及び第1回口頭審理調書を含む)及び上申書において,下記「2 証拠方法」に示した証拠を提出して,次に示す無効理由を主張している。無効理由について,これまでの主張を整理すると次のとおりである。

(無効理由)
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」)は,甲第1号証(米国特許第5333244号特許公報)に記載された発明に甲第2号証(MACWORLD Photoshop2.5大全 1994年2月28日初版第1刷),甲第3号証(PHOTOSHOP BIBLE For Adobe Photoshop 2.5J 平成5年12月25日初版第1刷)を適用し,その際甲第4号証(特開平5-282422号公報)を参照することで,出願時当業者が容易に想到できた発明であるから,本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,従って,本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定に基づき無効とされるべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証 米国特許第5333244号特許公報
甲第2号証 MACWORLD Photoshop2.5大全
甲第3号証 PHOTOSHOP BIBLE For Adobe
Photoshop 2.5J
甲第4号証 特開平5-282422号公報
甲第5号証 特開昭57-66479号公報
甲第6号証 特開平4-294467号公報
甲第7号証 表面科学の基礎と応用
甲第8号証 医学・分子生物学研究のためのMacintoshハン
ドブック2
甲第9号証 審判事件答弁書(無効2008-800272)
甲第10号証 審決書(無効2008-800272)
甲第11号証 訂正請求書(無効2008-800272)
甲第12号証 被請求人作成のプレゼンテーション資料(第1次無効審
判の乙第2号証)
甲第13号証 請求人作成の技術説明資料(第1次無効審決に対する審
決取消訴訟(平成21年(行ケ)第10280号)の甲
第28号証)
甲第14号証 無効2008-800272審判事件答弁書
甲第15号証 無効2008-800272審判事件平成21年6月2
6日付け被請求人審判事件上申書
甲第16号証 Desktop computer-based management of images and
digital electronics for scanning tunneling
microscopy, Journal of Vacuum Science &
Technology B, March/April 1991
甲第17号証 Macintoshによるスライド作成:
医療におけるマルチメディアプレゼンテーション,
映像情報MEDICAL,1993年11月
甲第18号証 Review And Now, Mac Visualization :
Computer Graphics World,1990年8月
甲第19号証 査定不服審判平11-19337における被請求人の平
成11年12月28日付審判理由補充書
甲第20号証 知財高裁平成21年(行ケ)第10280号審決取消請
求事件被告第2準備書面
甲第21号証 技術説明資料CD-R(請求人)
甲第22号証 技術説明資料(請求人)

第5 被請求人の主張と証拠方法
1 被請求人の主張
被請求人は,請求人の上記主張に対して,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,答弁書,口頭審理(口頭審理陳述要領書及び第1回口頭審理調書を含む)及び上申書において,下記「2 証拠方法」に示した証拠を提出して,請求人の主張する無効理由は理由がなく,本件発明に係る特許は,特許法第123条第1項第2号の規定により無効にされるものではない,と反論している。

2 証拠方法
乙第1号証 甲第1号証の出願経過書類
乙第2号証 平成21年(行ケ)第10280号審決取消請求事件に
おいて請求人が提出した「準備書面(1)」
乙第3号証 技術説明CD-ROM
乙第4号証 プレゼンテーション資料

第6 各甲号証の記載内容
1 甲第1号証について
本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(米国特許第5333244号特許公報)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(記載事項1-1)
「The present invention relates to a method of, and a system for, displaying the distribution of the magnitudes of a scalar quantity. By way of example, the scalar quantity distributions include analytical results obtained using computers, such as the results of structural analyses and other scientific and technological computations, the analyzed results of meteorologic data and geographic data sent from artificial satellites, and the analyzed results of data obtained with measuring instruments in the fields of engineering, physics, chemistry, medical science etc.」(1欄5?15行)

(請求人仮訳:「本発明は,スカラ量強度分布表示方法及び表示システムに関する。例えばスカラ量分布には構造解析を始めとする科学技術計算,人工衛星を利用した気象,地理データ,工学や物理学,化学,医学等の分野での計測機器による測定データ等,計算機を用いた解析結果等が含まれる。」)

(記載事項1-2)
「In still another aspect of performance, there is provided a scalar quantity distribution displaying system, characterized by comprising map display means for displaying contour lines and/or a color map on the basis of shape information of an object to be displayed having a certain shape, and magnitudes of a scalar quantity at sampling points lying on the object to be displayed; graph display means for displaying a graph on the basis of said magnitudes of said scalar quantity; and control means for controlling said graph display means and said map display means so as to display said contour lines and/or said color map, corresponding to said graph.
In this case, said graph should preferably be a histogram. Also, it is allowed that the scalar quantity distribution displaying system further comprises interval designation means for designating an arbitrary interval of said histogram, wherein said control means has a function of controlling said graph display means so as to display a histogram for only said interval designated by said interval designation means.」(3欄24?43行)

(請求人仮訳:「他の態様としては,ある形状を待った表示対象物の形状情報と,該表示対象物上のサンプリング点におけるスカラ量の大きさとに基づき等高線および/またはカラーマップを表示するマップ表示手段と,上記スカラ量の大きさに基づきグラフを表示するグラフ表示手段と,該グラフ表示手段と該マップ表示手段とを制御し,上記グラフに対応する等高線および/またはカラーマップを表示させる制御手段とを備えたことを特徴とするスカラ量分布表示装置が提供される。
この場合,上記グラフは,ヒストグラムであることが好ましい。また,スカラ量分布表示システムは,更に,該ヒストグラムの任意の区間を指定する区間指定手段を有して,制御手段は,該区間指定手段により指定された区間についてのみのヒストグラムを表示させるため,グラフ表示手段を制御する機能を有するものであっても良い。」)

(記載事項1-3)
「As shown in FIG. 1, the scalar quantity distribution displaying system of this embodiment is functionally constructed of color map display alteration means 104 being control means, graph display means 101 for displaying a histogram, color map display means 103 for displaying a color map, intragraphic interval designation means 102 including a pointing device such as the mouse 6 in FIG. 11, means 105 for writing display condition information to be stored in, e.g., the RAM 3, and means 106 for reading out the display condition information.
Images in this embodiment are displayed by the display device 9 in FIG. 11, for example, a CRT.」(5欄63行?6欄9行)

(請求人仮訳:「本実施例のスカラ量分布表示装置は,第1図に示すとおり,その表示処理を,制御手段たるカラーマップ表示変更手段104と,ヒストグラムの表示を行うグラフ表示手段101と,カラーマップを表示するカラーマップ表示手段103と,マウス等のポインティングデバイスを含むグラフ内区間指定手段102と,例えば,RAM3に格納される表示条件情報を書き込む手段105と表示条件情報を読み込む手段106とを含んで構成される。
そして,その画像の表示は,図11の表示装置9,例えば,CRT等に対して行われるものである。」)

(記載事項1-4)
「The graph display means 101 keeps shape information items 21 and corresponding scalar quantity magnitudes 22 stored in a memory 20 in one-to-one correspondence.
Incidentally, the shape information items 21 are the IDs (identifiers) of the shape elements of the shape of an object to be analyzed, for example, the IDs of the nodes of meshes constituting the shape.
Herein, with regard to the stored data, an interval division processing portion 23 finds the maximum value Smax and minimum value Smin of the scalar quantity magnitudes corresponding to all of the shape elements, and it equally divides the interval between the maximum and minimum value, by a preset dividing number. Subsequently, a count processing portion 24 counts the number of those shape elements existent within the interval which possess the scalar quantity 22 as an attribute, every divisional subinterval. A result thus obtained is displayed in the form of the histogram by a histogram display processing portion 25.
In this way, before the contour line display or the color map display is actually presented, the histogram which expresses the distribution situation of the magnitudes of the scalar quantity can be checked, and it can be judged if the analytical result is valid and appropriate.
The display example shown in FIGS. 4(a) and 4(b) elucidates an operation in which the graph display means 101, intragraphic interval designation means 102 and color map display means 103 are interlocked under the control of the color map display alteration means 104.
Owing to the interlocking operation, when one or more points of one or more arbitrary intervals are designated in a histogram expressive of the scalar quantity distribution of an analyzed result by the use of the intragraphic interval designation means 102, herein the pointing device such as mouse, the scalar quantity distribution corresponding to the designated interval(s) is displayed as a detailed color map by the color map display alteration means 104.
This display processing will be described in more detail.
Referring to FIG. 4(a), the left button of the mouse is clicked once within the area of the histogram 30 displayed by the graph display means 101 (the position of a mouse cursor on this occasion is indicated by a mouse cursor 31). Then, the designation of the interval is started. Subsequently, the right button of the mouse is clicked once (the position of the mouse cursor on this occasion is indicated by a mouse cursor 32). Then, the designation of the interval is completed.
Next, the maximum value Smax1 and minimum value Smin1 of the designated interval are derived, and this interval is equally divided again by a preset dividing number (the number of display colors), as seen from FIG. 4(b). Besides, the number of those shape elements existent in each subinterval which have the scalar quantity as an attribute is counted. A result thus obtained is redisplayed as a new histogram 33.
Moreover, a more detailed contour-line display or color-map display can be presented by repeating the above processing in a range in which the shape elements being a display alternative are existent.」(6欄34行?7欄28行)

(請求人仮訳:「グラフ表示手段101は,形状情報21と,該形状情報21に対応するスカラ量22とを,一対一に対応づけてメモリ20内部に格納している。
なお,形状情報21とは,解析対象となる形状の形状要素,例えば該形状を構成するメッシュの節点のID等,である。
そして,該データに対して,区間分割処理部23により全形状要素に対応するスカラ量の最大値S_(max)と最小値S_(min)とを求め,この区間をあらかじめ設定済みの分割数で等分割する。続いて,カウント処理部24は,分割された各小区間毎に,該区間内に存在するスカラ量22を属性としてもつ形状要素の個数をカウントする。そして,その結果をヒストグラム表示処理部25によりヒストグラムの形状で表示する。
これにより,実際に等高線,あるいはカラーマップ表示する前に,スカラ量の分布状況を表したヒストグラムをチェックすることができ,解析結果が現実に即した,妥当なものであるかどうかを判断できる。
第4(a)図と第4(b)図に示した表示例は,カラーマップ表示変更手段104による制御の下,グラフ表示手段101と,グラフ内区間指定手段102と,カラーマップ表示手段103とを,連動させたものである。
これにより,グラフ内区間指定手段102,この場合,マウス等のポインティングデバイス,を用いて,解析結果のスカラ量分布を表すヒストグラムの任意の1区間,あるいは任意の複数区間の少なくとも1点以上を指示することにより,カラーマップ表示変更手段104は,指示された区間に対応するスカラ量分布を,詳細にカラーマップに表示する。
該表示処理をより詳細に説明する。
第4(a)図において,グラフ表示手段101により表示されたヒストグラム30の領域内で,マウスの左ボタンを1回クリックする(このときのマウスカーソルの位置をマウスカーソル31とする)と,区間の指定が開始される。続いて,マウスの右ボタンを1回クリックする(このときのマウスカーソルの位置をマウスカーソル32とする)ことで区間の指定が完了する。
次に,この指定された区間の最大値S_(max)1とS_(min)1とが取り出され,第4(b)図に見られるとおりあらかじめ設定済みの分割数(表示色数)で,再度,等分割される。そして,各小区間に存在するスカラ量を属性としてもつ形状要素の個数がカウントされる。この結果が,再度,ヒストグラム33として表示される。
また,上記処理を表示候補の形状要素が存在する範囲で繰り返し行うことにより,さらに詳細な等高線表示,あるいはカラーマップ表示が可能となる。」)

(記載事項1-5)
「Now, the example in which a histogram and the color bar of a color map are correspondingly displayed in the same frame will be described with reference to FIG. 3.
The color bar 41 and the histogram 42 are simultaneously displayed in a parallel arrangement on the frame 40 by the color map display means 103 as well as the graph display means 101. Further, the respective intervals of the histogram 42 are displayed in the same colors as the corresponding colors of the color bar 41.」(7欄29?37行)

(請求人仮訳:「ヒストグラムと,カラーマップのカラーバーとを対応付けて,同一画面に表示する例について第5図を用いて説明する。
カラーマップ表示手段103とグラフ表示手段101とにより,画面40上にカラーバー41とヒストグラム42とを,並列的に配置して,同時に表示する。さらにヒストグラム42の各区間を,対応するカラーバー41の色と同色で表示する。」)

(記載事項1-6)
「FIGS. 6(a) and 6(b) illustrate the example in which the same display as in FIG. 5 is presented by interlocking the graph display means 101, intragraphic interval designation means 102 and color map display means 103 under the control of the color map display alteration means 104, and in which also the arbitrary interval of the histogram in the display is designated using the pointing device such as a mouse, whereby a scalar quantity distribution corresponding to the interval is displayed as a color map in detail.
In this way, the method of designating the interval by the use of the mouse is the same as in the case of FIGS. 4(a) and 4(b).
Further, in this example, display conditions etc. at individual stages can be stored and fetched by the display condition information write means 105 and the display condition information read means 106, respectively. As seen from FIG. 6(b), buttons 58 and 59 for actuating the means 105 and 106 are displayed within a frame 54.
Accordingly, even after the color map 55 has been displayed through several detailing operations, the display condition information kept stored can be fetched by clicking the button 58 for "Previous State" or the button 59 for "Initial State" which is displayed in the frame 54. In this manner, a color map 51 last displayed as shown in FIG. 6(a) or a color map initially displayed can be directly resumed on the basis of the display condition information.」(7欄44?8欄4行)

(請求人仮訳:「第6(a)図と第6(b)図は,カラーマップ表示変更手段104による制御の下,グラフ表示手段101と,グラフ内区間指定手段102と,カラーマップ表示手段103とを連動させて,第5図と同様の表示を行い,さらに,該表示に対して,マウス等のポインティングデバイスを用いてヒストグラムの任意の区間を指定し,この区間に対応するスカラ量分布を詳細にカラーマップ表示した例である。
なお,マウスによる区間の指定方法は,第4(a)図と第4(b)図の場合と同様である。
さらに,この例においては,表示条件情報書き込み手段105と,表示条件情報読み込み手段106とにより,各段階での表示の条件等を記憶し,読み出すことが可能となっている。また,画面54内には,手段105と106等を作動させるためのボタン58,59が表示されている。
従って,何度かの詳細化を行ってカラーマップ55を表示した後であっても,画面54内に表示させた『前状態』のボタン58や,『初期状態』のボタン59をクリックして,記憶されている表示条件情報を読み出すことができる。そして,該表示条件情報に基づいて,図6(a)に示す一つ前のカラーマップ51や初期のカラーマップに,直接,戻ることが可能である。」)

(記載事項1-7)
「FIG. 7 shows the example in which, as to a color bar 57 or a histogram 56 in FIG. 6(b), the magnitude of the scalar quantity for the graduations of the color bar is changed by dragging the boundary line of the intervals of the color bar with the mouse or clicking the mouse buttons in the corresponding intervals.
The magnitude Sk of the scalar quantity is changed in such a way that the boundary line 61 of the scalar quantity to be changed in the color bar 60 is picked and is vertically dragged by the intragraphic interval designation means 102, namely, the mouse.
By way of example, in a case where the boundary line 61 is dragged upwards, the scalar quantity magnitude Sk is incremented at preset step widths, that is, the scalar quantity magnitude Sk is enlarged. To the contrary, in a case where the boundary line 61 is decremented, the scalar quantity magnitude Sk is made smaller.
Also, in a case where the scalar quantity magnitude Sk is to be changed at smaller step widths, the incremental or decremental change is designated by dragging the boundary line 61 with the left button of the mouse, while at the same time, the right button is clicked, whereby the magnitude Sk can be incremented or decremented every preset step each time the right button is clicked once.・・・」(8欄5?30行)

(請求人仮訳:「第7図は,第6(b)図のカラーバー57またはヒストグラム56について,各区間の境界線をマウスを用いてドラッギングまたは各区間内でクリックすることにより,カラーバーの目盛りとなるスカラ量を変更した例である。
スカラ量Skの変更は,グラフ内区間指定手段102,例えばマウスにより,カラーバー60において,変更したいスカラ量の境界線61をピックし,上下方向にドラッギングすることで行う。
例えば,境界線61を上方にドラッギングした場合は,設定されるステップ幅でスカラ量Skはインクリメントされる。つまり,スカラ量Skは大きくされる。逆に,下方にドラッギングした場合にはデクリメントされる。つまり,スカラ量Skは小さくされる。
また,細かいステップ幅で変更したい場合には,マウスの左ボタンを用いて境界線61をドラッギングすることでインクリメントかデクリメントかを指定し,同時に右ボタンを1度クリックする毎に,設定された1ステップ分ずつインクリメント,あるいはデクリメントすることも可能である。・・・」

(記載事項1-8)
「8. A scalar quantity distribution display method wherein shape information of an object to be displayed having a certain shape, and scalar quantity magnitudes at a plurality of sampling points lying on said object to be displayed are used for displaying scalar quantity magnitude distribution on said object to be displayed in terms of at least one of contour lines and a color map, said scalar quantity distribution displaying method comprising the steps of:
displaying,in terms of at least one of contour 1ines and a color map, said scalar quantity magnitudes by a first histogram over a range which covers said scalar quantity magnitudes at all of said sampling points;
designating at arbitrary interval of said histogram;
dividing said designated interval into sub-intervals;
and
displaying, simultaneously with said first histogram, a second histogram for scalar quantity magnitudes of said sub-intervals in terms of at least one of contour 1ines and a color map,
wherein boundary values of said sub-intervals obtained by said dividing step can be altered by a user.」(12欄22?45行)

(請求人仮訳:「請求項8. ある形状を待った表示対象物の形状情報と,当該表示対象物上の複数のサンプリング点におけるスカラ量とを用いて,等高線およびカラーマップのうち少なくとも一つにより当該表示対象物上のスカラ量分布を表示するスカラ量分布表示方法において,
等高線およびカラーマップのうち少なくとも一つの表現形式で,前記サンプリング点全てのスカラ量を含む範囲の第1ヒストグラムによる前記スカラ量を表示する,
前記ヒストグラムの任意の区間を指定する,
前記指定された区間をサブ区間に分割する,
等高線およびカラーマップのうち少なくとも一つの表現形式でのスカラ量であって,前記サブ区間のスカラ量のための第2ヒストグラムを,前記第1ヒストグラムと同時に表示する,
分割ステップで得られる前記サブ区間の境界値は,ユーザによって変更可能である」)

2 甲第2号証について
本件出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(MACWORLD Photoshop2.5大全)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(記載事項2-1)
「レベル補正とトーンカーブ
Photoshopには,色補正のための2つのプロ用のコマンド,“レベル補正”と“トーンカーブ”が用意されている。一般的な色補正に適した“レベル補正”は,選択範囲全体や,カラーチャンネル別に,ハイライト,シャドウ,ガンマ(中間調)の調整ができる。そして,“レベル補正”ではカバーできない特殊効果や色補正には,“トーンカーブ”を使う。“トーンカーブ”コマンドは,各カラーチャンネルの明るさを変えることができる。
“レベル補正”コマンド
“イメージ”メニュー→“色調補正”→“レベル補正(command-L)コマンドを選択すると,Figure16-8のようなダイアログボックスが開く。ここには,『2階調化』の項で説明したヒストグラムが表示されている。また,2つのスライダと3種類のスポイトツール・アイコンがある。“入力レベル”スライダで画像の明るさの分布域の幅を調整し,その明るさを“出力レベル”スライダを使って新しい明るさに割り当てる。
・・・・・
“レベル補正”ダイアログボックスの各オプションの内容は次の通りだ。
チャンネル:このポップアップメニューで,編集の対象となるチャンネルを選択する。チャンネルごとに入出力レベルを変えることも可能だが,ダイアログボックスの右側に並んだオプションは,どのチャンネルが選択されていても,選択範囲内のすべての色に影響する。
入力レベル:画像の選択範囲内の,最も暗い部分と,最も明るい部分を選択して,画像のハイライトとシャドウ間のダイナミックレンジを上げることができる。“入力レベル”の3つの欄は,ヒストグラムのすぐ下のスライダと連動している。ピクセルを黒(または出力レベルの最も暗い値)に変えるには,最初の欄に0?255の値を入力するか,黒い三角のスライダをドラッグする。たとえば,値を『55』に設定すると,明るさが55以下のピクセルは黒に変わる。Figure16-9の左側の画像がその例だ。
ピクセルを白に変える(または出力レベルの最も明るい値)には,3番目の欄に0?255を入力するか,白い三角のスライダをドラッグする。たとえば『200』と入力すれば,明るさが200以上のピクセルは白に変わる。これを示した例がFigure16-9の中央。Figure16-9の右側は,先の2つの設定を組み合せて画像のコントラストを上げたものだ。」(600頁下から6行?602頁4行)

(記載事項2-2)
「プレビュー:選択すると,ダイアログボックスの設定内容をリアルタイムで画像ウインドウに表示することができる。」(606頁15?16行)

3 甲第3号証について
本件出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(PHOTOSHOP BIBLE For Adobe Photoshop 2.5J)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(記載事項3-1)
「それではイメージメニューから『ヒストグラム』を選択してみましょう。ヒストグラムは画像が複数のチャンネルから構成されている場合はチャンネルごとにヒストグラムを表示します。・・・表示される数値は0から255の間の数値(0から255で256階調に分けられる)になります。」(131頁15?27行)

(記載事項3-2)
「入力レベルの下にグレーのチャートが表示されている部分が出力レベルの調整です。この出力レベルを調整することによって,画像自体は真黒の0から真白の255までの256階調を含んでいていても,この出力レベルで階調を制限することが可能です。左側のシャドー部のスライダを右にずらしていくと画像の黒い部分はグレーに置き換えられていきます。置き換えられるグレーの濃さはこのスライダの位置により決まります。」(136頁1?10行)

4 甲第4号証について
本件出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開平5-282422号公報)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(記載事項4-1)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,CT(Computed Tomography)装置等から得られる画像を処理し,解析する画像処理装置に関するものである。
・・・・・
【0005】また,医療画像処理においては,原画像のピクセル値に対応して色表示をすることが行われるが,使用するカラーマップはフルカラーであることが要求されることが多い。色表示を種々変更して原画像の検討をする場合,フルカラーそのままで種々変更して表示する場合には,少なからず時間がかかっていた。」

(記載事項4-2)
「【0076】実施例5
一般に,医療画像は1ピクセル当たり16ビット程度の情報を持つ。医療画像表示装置はこのデータの値に応じて適当な色付けを行い表示する。この時,表示のコントラストを調整し,診断などがしやすい表示を得ることが重要である。このため,複数の医療画像を同一の画面上に同時に表示する場合には,それぞれの医療画像の特性に従った,別々のカラールックアップテーブルを用意する必要がある。任意個の画像を表示することを考えると,ハードウェア的なカラールックアップテーブルを用いてこれを実現することは困難である。
【0077】本実施例では,図26に示すように,2の16乗=65536エントリを持つカラールックアップテーブル81をソフトウェア的に用意し,画像データ82をフレームバッファ83上に転送する際に,ルックアップテーブル81をサーチをして,色データに置き換える。カラールックアップテーブル81は,ハードウェアの制約を受けずに任意の個数作成できるので,ピクセルの持つデータ85と色情報86の対応が異なる複数の医療画像を同時に画面上に描画することができる。
【0078】表示上のコントラスト調整は,図27に示すように行われる。すなわち,カラールックアップテーブル81の書き換えと画像の再転送により行われる。もととなるカラールックアップテーブル84を,65536エントリのカラールックアップテーブル81の一部分に当てはめ,この位置を変化させることにより,任意のコントラストを実現するカラールックアップテーブル81を作成することができる。
【0079】例えば,全体を暗くしたい場合には,図28に示すように,図27中のupper,lowerの位置をそれぞれ上げればよい。また,濃淡を強調したい場合には,図29に示すように,upper,lowerの差を小さくすればよい。
【0080】ユーザは,このような調整を,例えば次のようなインターフェイスで行うことができる。図30に示すように,画面上の医療画像91の脇に,予め色付けの対応を示すカラーバー92を表示する。ユーザがこのカラーバーをマウスなどのポインティング・デバイスを用いて指示すると,図31に示すようなコントラスト調整用のメニューが画面上に現れる。このメニュー内のupper,lower位置を示す横線をポインティング・デバイスで指示し,上下への移動を指定すると(図32),それに応じて,もとのカラールックアップテーブル84がカラールックアップテーブル81のように書き換えられる。最適な表示が得られたならば,図33に示すように,コントラスト調整の終了を指定するボタン表示をポインティング・デバイスで指示すると,コントラスト調整用のメニューが消える。」

5 甲第5号証について
本件出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開昭57-66479号公報)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(記載事項5-1)
「本発明は,医用画像をはじめとした画像処理技術の分野に属するものであり,特に2次元階調性画像を表示するための画像表示方式に関するものである。」(1頁左下欄11?14行)

(記載事項5-2)
「濃淡像を表示する場合,例えば第1図に示すように単に相対的に濃淡の差をもつ画像を表示するだけでなく,各濃度(階調)のレベルが実質的にどういう値(例えばシンチレーションカメラのカウント値とか,CTスキャナーのCT値とか)を有しているのかの対応をつけるためのスケール(濃淡と絶対値との関係を示すいわば『ものさし』?グレースケールバー,カラースケールバーなどと称する)を並べて表示することが多い。
すなわち,第1図は通常の画像処理装置における表示フォーマットの一例であり,中央に濃淡像C1,左側に最大および最小輝度並びに中心輝度における濃度レベルの値を対応させて付した濃淡スケールすなわちグレースケールバーSB,そして右端に当該画像に関する識別情報(日付,患者名)その他のデータIDを表示している。」(1頁左下欄19行?右下欄15行)

(記載事項5-3)
「ところで,一般に濃淡像を表示する場合,できるだけコントラストをつけて表示することが望まれる。この時,ふつうは試行錯誤で,濃淡のゲイン(濃度変換の利得)や,中心輝度を決めて行っている。この中心輝度や濃淡のゲインを決めるのに,濃度ヒストグラムを用いることは,合理的であり,最適な輝度,ゲインを客観的に求める方法の一つである。
すなわち,第2図のヒストグラムにおいて,最頻値(最も頻度の高い値)のカウント200?249のレベルを中心輝度とし,カウント50以下を最小輝度,カウント500以上を最大輝度とする様なゲインに設定すれば,最もコントラストのついた画像が得られる。・・・」(2頁左上欄8行?右上欄1行)

(記載事項5-4)
「すなわち,本発明の特徴とするところは,階調性画像と階調のスケールをあらわすスケールバーとを同時に表示するに当り,さらに前記スケールバーに対応させて各階調レベルの頻度(対応する画素数に応じた値)を同時表示させるようにすることにある。」(2頁右上欄13?18行)

(記載事項5-5)
「また,濃淡階調表示に限らずカラー階調表示等にも同様にして実施することができる。」 (2頁右下欄8?9行)

6 甲第6号証について
本件出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開平4-294467号公報)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(記載事項6-1)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,二次元画像の強調処理に係り,特に電子顕微鏡およびその類似装置の観察像に好適な画像処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】電子顕微鏡像の画像強調法は,従来から色々行われている。たとえば,画像をフ-リエ変換してフィルタリングを行なって強調する手法である。しかし,処理に長時間を要するという問題やア-チファクトの問題があり,ほとんど実用化されていない。このような問題を解決するために,特開昭61-47046号公報に開示されているような手法がある。すなわち図5に示すように,画像の強調したい部分(たとえば画像の暗い部分)を指定し,その部分のみ強調する手法である。この手法は,画像の強調したい部分とその強調の程度を人為的に指定できるために,実時間で所望の強調処理像が得られるという特徴があった。」

(記載事項6-2)
「【0009】一般に,SEMでは一次電子線1の照射により試料2から出てきた二次電子3を検出器4で検出して画像信号としている。この画像信号を走査信号発生器16による一次電子線1の試料2上の二次元走査と同期してブラウン管6上に表示したのが試料表面のSEM像といわれているものである。本実施例では,この画像信号の信号強度を16bitA/D変換器7によりデジタル化し,画像信号強度I_(mn)としてメインメモリ8に格納する。もちろんこの際には,走査信号発生器16によって決められた試料2上の一次電子線1の位置信号はA/D変換器17によりデジタル化されて画素位置信号としてこのメインメモリ8に与えられており,画像信号強度I_(mn)は一次電子線1の試料位置と対応するように二次元的に格納されている。本実施例では,この二次元画素を1024×1024で行った。」

(記載事項6-3)
「【0013】以上,本発明の構成ならびに動作原理について述べた。ここで,本発明にしたがって実施した処理画像を図6に示す。この原画像は走査型電子顕微鏡により得られたもので,試料はラットの肝細胞である。原画像にたいして明度画像は画像全体の大まかな明るさを示しており,全体の立体情報が主に表されたものとなっている。一方,微細構造画像は画像の微細構造のみが抽出されており,立体情報の乏しい平面的な画像になっている。この微細構造情報をヒストグラム平坦化処理により強調した画像が微細構造強調画像であり,微細構造が鮮明に強調されていることが分かる。ただ,このままでは立体感のない画像になっているので,分離されていた明度画像を加えあわせて画像本来の立体感ある強調画像を再生している。この強調画像を原画像と比較すると,本発明の効果は一目瞭然である。」

(記載事項6-4)
「【0015】本発明の実施例として図1ではSEMに適用した。しかし,本発明はこのSEMに限ることなく一般の画像強調処理として使用できることはいうまでもない。たとえば,電子線の応用装置としては時系列的に信号の得られる走査形透過電子顕微鏡(STEM)や走査形トンネル顕微鏡(STM)の類似装置はいうまでもなく,広く用いられている透過形電子顕微鏡(TEM)にも用いることができる。一般にTEMの画像は時系列的ではないが,結像面に撮像素子を置いて時系列的に信号を得られるようにしておけばよい。また,電子顕微鏡以外でもレ-ザ顕微鏡のような光学顕微鏡のような画像はじめ,X線CT,MRI等の診断画像やあらゆる分野の画像強調処理として用いることができる。」

7 甲第7号証について
本件出願前に頒布された刊行物である甲第7号証(表面科学の基礎と応用)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(記載事項7-1)
「表面科学に関する実験には,多種多様の科学計測機器が駆使されることは言うまでもないが,新しい現象や知見への遭遇の可能性が,道具立てにより左右されるという点,他の分野に比して大きいのではなかろうか。使用する計測器によって,“表面”の定義すら変わると言っても過言ではなかろう。“面”であるから情報の二次元分布が必要であるし,“表”を知るためには逆にミクロな深さ情報を得なければならない。・・・」(934頁左欄2?9行)

(記載事項7-2)
「・・・不可視光や光以外の情報の空間分布が,可視光の強度分布という目に訴えうる形で表示されたものが画像である。・・・」(935頁右欄14?16行)

(記載事項7-3)
「・・・二次元データは,画像データも含めて,平面上に展開された情報の大きさの分布であり,画像としては光の濃淡やカラーの分布で表示される。これをより定量的に示すために,図2にあるように三次元的な立体表示が行われる。厳密に言えば,(b)は(a)という二次元データの三次元表示である。画像を構成する最小単位を一般にピクセルという。」(936頁左欄1?7行)

(記載事項7-4)
「・・・二次元データの中でも画像処理と呼ばれる場合,できるだけ目で判別しやすくするという目的が含まれるため,特殊な処埋がつけられていることも多い。ここではそれらを含め,一次元,二次元データに対するいくつかの処理法を説明しておく。」(937頁右欄17行?938頁左欄4行)

(記載事項7-5)
「4.4 ヒストグラム等価
画像全体を鮮明にするための処理である。画像強度の頻度図(ヒストグラム)は,画像によって特徴のある形状をとる。これを均等化するもので,その原理を示したのが図5である。・・・」(939頁左欄1?5行)

(記載事項7-6)
「情報の画像化はいうまでもなく重要である。ここでいう画像化というのは分析結果をグラフィック表現するというのではなく,生データ自体を二次元的に得るということを意味する。つまり,試料の場所による違いをデータ化することであって,SEM・EPMA・AES・IMA・STMなどは当然のこととして行われており,XPSなども急速に進んできている(1989年現在)。・・・」(945頁右欄7?13行)

(記載事項7-7)
「・・・またフレームメモリを利用している利点として,メモリの深さ(ビット数)分だけの積算が可能であり,測定中であっても常時TVモードでの読み取りが可能なので,リアルタイム表示やリアルタイム画像処理が可能である。さらに,市販の画像解析装置との接続が非常に簡単である(多くの場合ビデオインプットのケーブル1本で可能)。」(946頁左欄下から2行?右欄5行)

(記載事項7-8)
「データ処理の内容は大別すると,〔1〕(当審注:原文は丸付き数字。以下,同様に,丸付き数字は括弧〔〕で囲んで表記する。)波形処理,〔2〕数値処理,〔3〕画像処理である。そしてそれぞれは,〔4〕生データの処理,〔5〕各種演算計算,〔6〕アウトプットおよび記憶によって構成される。波形処理・画像処理については次項で記述される。・・・」(946頁右欄7?11行)

(記載事項7-9)
「画像処理の目的として次のようなことがある。・・・目的とする情報が明瞭に見えるように,伝わるように,濃淡コントラストを強調すること・・・画像の特徴を抽出して画像データに含まれる情報の解析を容易にすること」(952頁左欄21?30行)

(記載事項7-10)
「コンピュータ画像処理をすることで,電子顕微鏡写真が鮮明になりデータ解析が容易になる例を示す。この図1に示す例では,サマリウム・コバルト合金における規則正しい原子配列や原子配列の乱れを観察することを目的として,細かいところを調べるために大きく拡大して画像ノイズが目立った原画像を処理して原子配列が鮮明に観察できるようにしたものである。」(952頁右欄24?30行)

(記載事項7-11)
「走査型電子顕微鏡は試料表面の凹凸の程度を濃淡度に変換して試料の表面を観察する分析装置である。」(953頁右欄23?24行)

8 甲第8号証について
本件出願前に頒布された刊行物である甲第8号証(医学・分子生物学研究のためのMacintoshハンドブック2)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(記載事項8-1)
「5.レベル補正
イメージメニュー(図9)の色調補正からレベル補正…を選択すると,明るい部分と暗い部分の幅(ダイナミックレンジ)を調節するダイアログボックスが現れる(図11).
・入力レベル:3種類のテキストボックスに数値を入力,もしくはヒストグラムの下にあるスライドバーをドラッグさせることにより,明るい部分(ハイライト),暗い部分(シャドウ),その中間の部分(中間調)のレベルを定義できる.RGB(Red,Green,Blueの略)の各色を0?255(0が黒,255が白)の256階調で表現してフルカラーを表示しているので,ここで表示される数値は0?255の間になる.
・出力レベル:左のスライドバーを右にドラッグすると黒の部分をグレーに,右のスライドバーを左にドラッグすると白の部分をグレーに置き換えていく.」(213頁下から3行?214頁7行)

9 甲第9号証について
甲第9号証は,本件特許に係る別の無効審判事件(無効2008-800272号)の審判事件答弁書であり,当該答弁書の内容を示すものである。

10 甲第10号証について
甲第10号証は,本件特許に係る別の無効審判事件(無効2008-800272号)の審決書であり,当該審決書の内容を示すものである。

11 甲第11号証について
甲第11号証は,本件特許に係る別の無効審判事件(無効2008-800272号)の訂正請求書であり,当該訂正請求書の内容を示すものである。

12 甲第12号証について
甲第12号証は,本件特許に係る別の無効審判事件(無効2008-800272号)において乙第2号証として提出された被請求人作成のプレゼンテーション資料であり,当該資料の内容を示すものである。

13 甲第13号証について
甲第13号証は,本件特許に係る別の無効審判事件(無効2008-800272号)の審決に対する審決取消訴訟(平成21年(行ケ)第10280号)において甲第28号証として提出された請求人作成の技術説明資料であり,当該資料の内容を示すものである。

14 甲第14号証について
甲第14号証は,本件特許に係る別の無効審判事件(無効2008-800272号)の審判事件答弁書であり,甲第9号証と同じものである。

15 甲第15号証について
甲第15号証は,本件特許に係る別の無効審判事件(無効2008-800272号)において被請求人から平成21年6月26日付けで提出された審判事件上申書であり,当該上申書の内容を示すものである。

16 甲第16号証について
本件出願前に頒布された刊行物である甲第16号証(Desktop computer-based management of images and digital electronics for scanning tunneling microscopy, Journal of Vacuum Science & Technology B, March/April 1991)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(記載事項16-1)
「V. IMAGE DISPLAY SOFTWARE
For flexible operation, the image display software was designed to allow simultaneous display of multiple images in resizable windows.・・・Most image processing operations were controlled through a "dialog box" window, where a summary of operations applied to each displayed file is given. The selected editing or filtering operations are applied to the frontmost window; all functions could be applied to the entire image or a portion selected with the mouse. A histogram of the tip displacements is shown displayed to the right of each image along with scaling information;・・・」(634頁右欄7?21行)

(請求人仮訳:「V.画像表示ソフトウェア
柔軟性のあるオペレーションのために,画像表示ソフトウェアはサイズ可変ウィンドウ内に複数画像の同時表示が可能に設計された。・・・大半の画像処理オペレーションは,各表示ファイルに対する操作一覧を示す”ダイアログボックス”ウィンドウを介して制御される。選択された編集あるいはフィルタ操作は最前面ウィンドウが用いられる。全ての機能は全画像あるいはマウスで選択された部分に適用される。探針の変位のヒストグラムは各画像の右にスケール情報に沿って示される。・・・」)

17 甲第17号証について
本件出願前に頒布された刊行物である甲第17号証(Macintoshによるスライド作成:医療におけるマルチメディアプレゼンテーション,映像情報MEDICAL,1993年11月)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(記載事項17-1)
表1「マッキントッシュ用画像入力システム」(1358頁)中に「画像処理ソフト Adobe Photoshop(Adobe:システムソフト)」と記載されている。

18 甲第18号証について
本件出願前に頒布された刊行物である甲第18号証(Review And Now, Mac Visualization : Computer Graphics World,1990年8月)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(記載事項18-1)
「At a glance, the Spyglass Transform user can see which value in a data set array (lower left) corresponds to which points in an image (upper left). The Notebook window (upper right) provides room for annotations and equations that can generate new data sets while a color bar (lower right) shows how colors are assigned to values.」(142頁図の下部)

(当審訳:「一目見ただけで,スパイグラス・トランスフォームのユーザーは,データセット配列(左下)中のどの値が画像(左上)中のどの点に対応するかを知ることができる。ノートブックのウィンドウ(右上)は,新しいデータセットを生成する注釈及び式のためのスペースを提供する一方,カラーバー(右下)は,各色がどのように各値に割り当てられるかを示す。」)

19 甲第19号証について
甲第19号証は,本件特許に係る拒絶査定不服審判事件(不服平11-19337号)において被請求人から平成11年12月28日付けで提出された審判理由補充書であり,当該審判理由補充書の内容を示すものである。

20 甲第20号証について
甲第20号証は,本件特許に係る別の無効審判事件(無効2008-800272号)の審決に対する審決取消訴訟(平成21年(行ケ)第10280号)において被請求人から提出された被告第2準備書面であり,当該準備書面の内容を示すものである。

21 甲第21号証について
甲第21号証は,平成22年3月24日期日の口頭審理において請求人が行ったプレゼンテーションに用いられた技術説明資料の電子データを記録したCD-Rであり,甲第22号証のスライド部分と同じ内容を記録したものである。

22 甲第22号証について
甲第22号証は,平成22年3月24日期日の口頭審理において請求人が行ったプレゼンテーションに用いられた技術説明資料であり,当該資料の内容を示すものである。

第7 当審の判断
1 甲第1発明について
上記記載事項1-1?1-8及びFIG.1?11の内容を総合すると,甲第1号証には,次の発明(以下,「甲第1発明」という。)が記載されていると認められる。

「ある形状を持った表示対象物の形状情報と,該表示対象物上のサンプリング点における工学や物理学,化学,医学等の分野での計測機器による測定データ等のスカラ量の大きさとに基づきカラーマップを表示するマップ表示手段と,上記スカラ量の大きさに基づきあらかじめ設定済みの分割数で等分割されたヒストグラムを表示するグラフ表示手段と,該グラフ表示手段と該マップ表示手段とを制御し,上記ヒストグラムに対応するカラーマップを表示させる制御手段とを備え,該ヒストグラムの任意の区間をマウスカーソルを用いて指定する区間指定手段を有して,制御手段は,該区間指定手段により指定された区間についてのみのヒストグラムを表示させるため,グラフ表示手段を制御する機能を有し,カラーマップ表示手段とグラフ表示手段とにより,同一画面上にカラーマップのカラーバーとヒストグラムとを対応付けて,並列的に配置して,同時に表示し,さらにヒストグラムの各区間を,対応するカラーバーの色と同色で表示するとともに,指定された区間に対応するスカラ量分布をカラーマップ表示するスカラ量分布表示装置。」

2 対比
本件発明と甲第1発明とを対比する。
甲第1発明の「カラーマップ」,「ヒストグラム」,「カラーバー」は,それぞれ本件発明の「表示用画像データ」,「輝度分布」,「カラーテーブル」に相当する。
甲第1発明は,「形状情報と・・・スカラ量の大きさとに基づきカラーマップを表示する」ものであるから,「形状情報」及び「スカラ量の大きさ」は「画像データ」ということができる。そうすると,甲第1発明の「ある形状を持った表示対象物の形状情報と,該表示対象物上のサンプリング点における工学や物理学,化学,医学等の分野での計測機器による測定データ等のスカラ量の大きさ」と,本件発明の「物質表面の原子配列や表面形状の測定結果として分析手段側から得られる画像データ」とは,「測定結果として分析手段側から得られる画像データ」という点で共通する。
甲第1発明は,「上記スカラ量の大きさに基づきあらかじめ設定済みの分割数で等分割されたヒストグラムを表示するグラフ表示手段」を備えるものであるが,スカラ量の大きさに基づきヒストグラムを表示する以上は,その前に当該スカラ量の大きさからヒストグラムを演算により求めることは当然である。そして,本件発明は,「画像データの任意の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段」を備えるものであるから,両発明は,「画像データの複数の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段」を備える点で共通する。

甲第1発明は,「カラーマップのカラーバーとヒストグラムとを対応付け」るものであり,「ヒストグラムの各区間を,対応するカラーバーの色と同色で表示する」ものであって,本件発明は,「前記輝度分割数と実質的に1対1で対応させることができる任意のカラー分割数に分割されたカラーテーブル」を有するものであるから,両発明は,「前記輝度分割数と実質的に1対1で対応させることができる複数のカラー分割数に分割されたカラーテーブル」を有する点で共通する。
また,甲第1発明は,「該ヒストグラムの任意の区間をマウスカーソルを用いて指定する区間指定手段」を有するものであり,本件発明の「輝度分布表示に対して移動可能な表示画面上のレンジ・バーを用い」たものは,「カラーテーブルの割り当て範囲を」「指定」するものであるから,両発明は,「範囲指定手段」を有する点で共通する。
そして,甲第1発明は,「該区間指定手段により指定された区間についてのみのヒストグラムを表示させるため,グラフ表示手段を制御する機能を有し」,「同一画面上にカラーマップのカラーバーとヒストグラムとを対応付けて,並列的に配置して,同時に表示し」,「指定された区間に対応するスカラ量分布をカラーマップ表示する」ものである。
そうすると,甲第1発明の「該ヒストグラムの任意の区間をマウスカーソルを用いて指定する区間指定手段」と,本件発明の「前記輝度分布に対して,前記輝度分割数と実質的に1対1で対応させることができる任意のカラー分割数に分割されたカラーテーブルの割り当て範囲を,輝度分布表示に対して移動可能な表示画面上のレンジ・バーを用いて指定して色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する手段」とは,「前記輝度分布に対して,前記輝度分割数と実質的に1対1で対応させることができる複数のカラー分割数に分割されたカラーテーブルの割り当て範囲を,範囲指定手段により指定して色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する手段」である点で共通するといえる。

甲第1発明は,「指定された区間に対応するスカラ量分布をカラーマップ表示する」ものである以上,本件発明と同様に「前記カラーテーブルの割り当てに従って画像データを表示用画像データに変換する手段と,前記表示用画像データを記憶する手段」を有することが明らかである。
甲第1発明は,「同一画面上にカラーマップのカラーバーとヒストグラムとを対応付けて,並列的に配置して,同時に表示し」,「指定された区間に対応するスカラ量分布をカラーマップ表示する」ものであり,本件発明は,「前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示するとともに,前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する手段」を有するものであるから,両発明は,「輝度分布,カラーテーブル,及び表示用画像データを表示する手段」を有する点で共通する。
甲第1発明の「スカラ量分布表示装置」は,「計測機器による測定データ等」に基づきスカラ量分布を表示する装置であるから,本件発明の「分析装置」に相当する。

してみると,両発明は,

(一致点)
「測定結果として分析手段側から得られる画像データの複数の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段と,前記輝度分布に対して,前記輝度分割数と実質的に1対1で対応させることができる複数のカラー分割数に分割されたカラーテーブルの割り当て範囲を,範囲指定手段により指定して色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する手段と,前記カラーテーブルの割り当てに従って画像データを表示用画像データに変換する手段と,前記表示用画像データを記憶する手段と,輝度分布,カラーテーブル,及び表示用画像データを表示する手段とを備えた分析装置。」

である点で一致し,以下の点で相違している。

(相違点1)
「複数の輝度分割数」及び「複数のカラー分割数」が,本件発明では「任意」の数値であるのに対し,甲第1発明では「あらかじめ設定済みの」数値である点。

(相違点2)
「範囲指定手段」が,本件発明では,「輝度分布表示に対して移動可能な表示画面上のレンジ・バーを用いたもの」であるのに対して,甲第1発明では,「マウスカーソルを用いて指定するもの」である点。

(相違点3)
本件発明では,「前記設定された輝度分布の範囲の上限以上,また,下限以下についてはそれぞれカラーテーブルの上限また下限と同一の色付けを行う」のに対して,甲第1発明では,そのような構成かどうか明らかでない点。

(相違点4)
「測定結果」が,本件発明では,「物質表面の原子配列や表面形状の測定結果」であるのに対して,甲第1発明では,「工学や物理学,化学,医学等の分野での計測機器による測定」の結果である点。

(相違点5)
表示される「輝度分布」が,本件発明では「前記輝度分布」であるのに対して,甲第1発明では,「区間指定手段により指定された区間についてのみのヒストグラム」であり,「輝度分布,カラーテーブル,及び表示用画像データを表示する手段」が本件発明では,「前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する」ものであるのに対して,甲第1発明では,そのような構成であるかどうか明らかでない点。

3 相違点についての判断
(1)相違点1について
本件発明の「任意の輝度分割数」及び「任意のカラー分割数」に関して,請求項1においては,それぞれの「任意」が「設計者にとって任意」であるか「操作者にとって任意」であるかは特定されていない。
また,これらに関連して,本件訂正明細書には,以下の事項が記載されている。

「【0007】・・・本発明の第6の実施態様は,画像データの輝度の分割個数とカラーテーブルの色分割の個数とが実質的に一致しているものであり,これによって,ビットマップデータで表される表示用画像データの値とカラーテーブルの各色を表す値とを実質的に1対1で対応させることができ,これによって,画像データのカラー表示を容易に行なうことができ,また,カラーテーブルを変更することによりカラー表示の変更を容易に行なうことができる。・・・」
「【0012】・・・そして,このカラーテーブル表示部11は,例えば,256個に分割されている。・・・」
「【0014】・・・カラーテーブルメモリ21は,画像データ表示部10にカラー表示を行なうための色情報を格納している部分であり,例えば,256色の色付けを行なう場合には,各色に対するR,G,Bの強度の組み合わせを記憶している。・・・なお,この例では,カラーテーブルを256色としているが,表示のビット数を増やすことによって増色することもできる。また,使用するR,G,B信号の組み合わせを変更することにより,カラー表示の色状態を変更することもできる。・・・」
「【0018】・・・前記ステップS11で求めた最大輝度(Pmax)と最小輝度(Pmin)の区間〔Pmax,Pmin〕をn分割する。この分割数nは任意であるが,カラー表示を行なう場合の色数と対応させて設定する方が後の信号処理において望ましい。n分割による輝度の一つの区間間隔は(Pmax-Pmin)/nである。そして,このn分割に対応して,輝度区分を設定する。・・・このnの数は,前記したカラー表示の色数に対応して例えば256とすることができる(ステップS12)。・・・」
「【0022】・・・なお,前記例では,輝度分布とカラーレンジとを共にn分割して1対1の対応付けを行なっているが,分割数及び対応付けの比率は任意とすることができる。(ステップS16)。・・・」

これらの記載によれば,本件発明の「任意の輝度分割数」及び「任意のカラー分割数」の「任意」という用語の意味について,「設計者にとって任意」という意味と,「操作者にとって任意」という意味とのいずれかに特定して解釈できる記載部分はないと言うべきである。
確かに,「表示のビット数を増やす」(段落【0014】)や「後の信号処理において望ましい」(段落【0018】)のように分析装置内部の機械処理に関する記載であって,一見すると「設計者にとって任意」という意味に推測できる根拠とも思われる記載もあるが,「使用するR,G,B信号の組み合わせを変更することにより,カラー表示の色状態を変更することもできる」(段落【0014】)のように,「使用するR,G,B信号の組み合わせを変更する」という機械処理に関する記載があっても,「カラー表示の色状態を変更することもできる」と操作者によることが明らかな記載もあるので,機械処理に関する記載があるからといって,必ずしも「任意」を「操作者にとって任意」という意味に解釈すべきものとまでは言うことができない。
そうすると,本件発明において「任意」という用語は,「設計者にとって任意」であってもよいし,「操作者にとって任意」であってもよいものと解釈すべきである。
そして,甲第1発明において,「上記スカラ量の大きさに基づきあらかじめ設定済みの分割数で等分割されたヒストグラム」の「あらかじめ設定済みの分割数」は,「設計者があらかじめ任意に設定した分割数」といえるから,「任意の輝度分割数」と言うことができるし,甲第1発明は「ヒストグラムの各区間を,対応するカラーバーの色と同色で表示する」ものであり,輝度分割数とカラー分割数とが対応関係にあるものであるから,「輝度分割数」が「任意」の数値である以上,「カラー分割数」も当然に「任意」の数値と言うことができる。
してみると,相違点1は,実質的な相違点とはいえないものである。

(2)相違点2について
上記記載事項2-1によれば,甲第2号証に記載された「スライダ」は,「画像の明るさの分布域の幅を調整」,すなわち,「輝度分布の領域の幅を調整」するものであり,「ヒストグラムのすぐ下」に複数配置されて,「ドラッグ」して使用するものであるから,甲第2号証には,「範囲指定手段」として「輝度分布表示に対して移動可能な表示画面上のスライダを用いたもの」が記載されているといえる。
そして,棒(バー)状のものを並べて表示して,その棒に挟まれた区間として範囲を表すことは,例えば甲第4号証の段落【0080】及び図32にも記載されているように常套手段である。
そうすると,甲第1発明において,「範囲指定手段」として,「マウスカーソルを用いて指定するもの」に替えて,甲第2号証に記載された「輝度分布表示に対して移動可能な表示画面上のスライダを用いたもの」を採用し,かつ,そのスライダの形状を棒状のものとする,すなわち,「レンジ・バー」として,相違点2における本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到できたことである。

(3)相違点3について
上記記載事項2-1中の「ピクセルを黒(または出力レベルの最も暗い値)に変えるには,最初の欄に0?255の値を入力するか,黒い三角のスライダをドラッグする。たとえば,値を『55』に設定すると,明るさが55以下のピクセルは黒に変わる。」との記載において,「明るさが55以下」は「設定された輝度分布の範囲の下限以下」であり,「黒(または出力レベルの最も暗い値)」は「カラーテーブルの下限と同一の色付け」であることが明らかである。
また,同様に上記記載事項2-1中の「ピクセルを白に変える(または出力レベルの最も明るい値)には,3番目の欄に0?255を入力するか,白い三角のスライダをドラッグする。たとえば『200』と入力すれば,明るさが200以上のピクセルは白に変わる。」との記載において,「明るさが200以上」は「設定された輝度分布の範囲の上限以上」であり,「白」「(または出力レベルの最も明るい値)」は,「カラーテーブルの上限と同一の色付け」であることが明らかである。
そうすると,甲第2号証には,「設定された輝度分布の範囲の上限以上,また,下限以下についてはそれぞれカラーテーブルの上限また下限と同一の色付けを行う」との技術的事項が記載されているといえるから,甲第1発明に対して甲第2号証に記載された上記の技術的事項を適用して,相違点3における本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到できたことである。

(4)相違点4について
「工学や物理学,化学,医学等の分野での計測機器」として,走査型トンネル顕微鏡等の走査型プローブ顕微鏡は従来周知のものである。そして,走査型トンネル顕微鏡等の走査型プローブ顕微鏡は,例えば甲第6号証や甲第7号証にも記載されているとおり,物質表面の原子配列や表面形状を測定して輝度分布として表示するものである。なお,走査型プローブ顕微鏡等が「物質表面の原子配列や表面形状」を測定するものであることは,本件訂正明細書の段落【0002】にも記載のあるとおりである。
そうすると,甲第1発明において,「測定結果」としての「工学や物理学,化学,医学等の分野での計測機器による測定」の結果を,より具体的に「物質表面の原子配列や表面形状の測定結果」として,相違点4における本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到できたことである。

(5)相違点5について
ア 相違点5における本件発明の構成
まず相違点5における本件発明の構成である「前記輝度分布,カラーテーブル,」「及び表示用画像データを表示するとともに,前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する手段」が,どのような手段を意味するか,その用語の意味解釈について検討する。

(ア) 「前記輝度分布」について
本件訂正明細書の請求項1の「・・・分析手段側から得られる画像データの任意の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段と,前記輝度分布に対して,・・・カラーテーブルの割り当て範囲を,輝度分布表示に対して移動可能な表示画面上のレンジ・バーを用いて指定して色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する手段と,・・・前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示するとともに,・・・」との記載からみて,相違点5における本件発明の構成中の「前記輝度分布」は,「分析手段側から得られる画像データの任意の輝度分割数に分割された輝度分布」であると解することができる。
そして,同請求項1に「前記輝度分布に対して,・・・カラーテーブルの割り当て範囲を,輝度分布表示に対して移動可能な表示画面上のレンジ・バーを用いて指定して色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する手段」と記載されていることから,この「前記輝度分布」は,色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する前に作成されているものであることが分かる。
そうすると,「前記輝度分布」,すなわち,「分析手段側から得られる画像データの任意の輝度分割数に分割された輝度分布」は,「分析手段側から得られる画像データに基づいて,色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する前に作成された輝度分布」を意味し,設定された輝度分布の範囲に対応して新たに作成される輝度分布を意味しないと解釈するのが相当である。
また,「前記輝度分布」に関連して,本件訂正明細書には以下の記載がある。

「【0018】前記ステップS1によって,画像データファイル3から読み込んだ画像データを基にして,その画像データの輝度信号から最大輝度(Pmax)と最小輝度(Pmin)を求める。・・・前記ステップS11で求めた最大輝度(Pmax)と最小輝度(Pmin)の区間〔Pmax,Pmin〕をn分割する。・・・次に,前記求めた輝度区分に対応する輝度強度を有する画素の個数を計数し,輝度分布のデータを形成する。図4では,輝度区分L_(1)についてはm_(1)個の画素数を計数し,輝度区分L_(2)についてはm_(2)個の画素数を計数し,輝度区分L_(n)については,m_(n)個の画素数を計数し,その値は図1中のヒストグラムデータメモリ24に格納している(ステップS13)。
【0019】(フルカラーレンジによるカラー表示)次に,はじめに測定された画像データの輝度分析の全体を観察するために,輝度区間〔Pmax,Pmin〕をフルカラーレンジとする。・・・・
【0020】前記ステップS13及びステップS15によって,輝度分布のデータ(ヒストグラムのデータ)及び表示用画像データが求められてメモリに格納され,また,カラーテーブルは,あらかじめカラーテーブルメモリ21に格納されている。そこで,これらのデータを表示部1中のそれぞれの画像データ表示部10,ヒストグラム表示部13,及びカラーテーブル表示部11に表示する。・・・」
「【0023】(設定カラーレンジによるカラー表示)カラー表示の色範囲を変更する場合には,レンジ・バー12をヒストグラム表示部13に対して移動して,カラーレンジを指定し変更を行なう(ステップS18)。前記ステップS18においてカラーレンジの指定範囲が変更すると,例えば図6に示す設定カラーレンジ及び輝度区分となる。図6において,フルカラーレンジより狭い範囲に設定し,その狭い設定範囲をカラーレンジとして前記ステップS12と同様にn分割し,輝度区分(L_(1)?L_(n))を求める(ステップS19)。
【0024】そして,前記ステップS15と同様にして,画像データを表示部1の画像データ表示部10に表示するためのビットマップデータを求める。・・・また,ビットマップデータCをカラーテーブルEを用いてカラー表示する場合には,前記ステップS16と同様に,ビットマップデータCに対してカラーテーブルEを用いて対応するR,G,Bの色データを用いて行ない,色付けは,前記ステップS19において輝度範囲をn分割して求めた輝度区分(L_(1)?L_(n))に対して,フルカラーレンジを同じくn分割した代表値(以下,カラー値(C_(1)?C_(n))という)を1対1で対応させて定め,ビットマップデータC中の輝度区分Lに対応したカラー値Cを求めることにより行なわれる。このとき,カラーテーブル及びヒストグラム表示については,フルカラーレンジにおける表示と同一のデータを用いて同様に行なうことができる。」

これらの記載によれば,フルカラーレンジによるカラー表示で表示される輝度分布は,画像データファイルから読み込んだ画像データを基にして,最大輝度と最小輝度の区間,すなわち,フルカラーレンジを分割して形成された輝度分布であり,カラー表示の色範囲を変更した場合(設定カラーレンジによるカラー表示の場合)の輝度分布表示については,「フルカラーレンジにおける表示と同一のデータを用いて同様に行なうことができる」(段落【0024】)ものである。そうすると,これらの記載は,上述の「前記輝度分布」の解釈と整合しており,この解釈を裏付けるものということができる。
また,この解釈は,本件特許の【図3】のフローチャートにおいて,ステップ「S13」でヒストグラムを作成した後には,ヒストグラムを作成し直す工程がないこととも整合する。

(イ) 「表示用画像データ」について
本件発明は,「カラーテーブルの割り当て範囲を・・・指定して色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する手段」と,「前記カラーテーブルの割り当てに従って画像データを表示用画像データに変換する手段」を有するものであるから,相違点5における本件発明の構成中の「表示用画像データ」は,「設定後のカラーテーブルの割り当てに従って画像データから変換された」ものであると解することができる。

(ウ) 「前記カラーテーブル」について
相違点5における本件発明の構成中の「前記カラーテーブル」が何を意味するかについて検討すると,本件訂正明細書の請求項1に記載された「前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示する」の「カラーテーブル」は,「前記カラーテーブル」に先行して記載されたものであるから,「前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示する」の「カラーテーブル」と「前記カラーテーブル」が同じものを意味するものと解釈するのが自然である。また,念のため同明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載をみても,表示部にカラーテーブルは1箇所しか表示されておらず,カラーテーブルを複数表示するとの記載もない。そうすると,請求項5における本件発明の構成は,「前記輝度分布」及び「表示用画像データ」とともに表示される「カラーテーブル」を,「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限」と対応する範囲内に表示する手段を意味していると解釈すべきである。

(エ) 「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限」について
本件訂正明細書の請求項1には,「前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限に対応する範囲内に表示する」と記載されていることから,「範囲内」は表示画面上の位置を表すものであり,「範囲内に表示する」は表示位置を特定するものであるといえる。そして,「前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する」の「上限・下限」が,表示画面上の位置ではなく単に内部データを意味するものであるとすれば,もともと「前記カラーテーブルの割り当て」によってカラーテーブルは輝度分布の内部データと対応しているものであるから,そもそも本件発明にこのような限定を付す必要がないし,「範囲内に表示する」と表現しながら,表示位置を特定することにもならない。そうすると,相違点5における本件発明の構成中の「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限」については,表示画面上の位置を意味するものと解釈すべきであって,単に内部データを意味すると解釈する余地はないというべきである。
それに,本件発明においては,輝度分布の範囲の設定は,「輝度分布表示に対して移動可能な表示画面上のレンジ・バーを用いて指定して」行うものであって,輝度分布表示に対して上限・下限を指定して行うものであるといえるから,「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限」は,「輝度分布表示」,すなわち,表示された「前記輝度分布」上における「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限」を意味すると解釈するのが相当である。
また,本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載をみても,この解釈に矛盾するような記載はない。

(オ) まとめ
以上の解釈をまとめれば,相違点5における本件発明の構成は,「前記輝度分布」すなわち「分析手段側から得られる画像データに基づいて,色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する前に作成された輝度分布」及び「設定後のカラーテーブルの割り当てに従って画像データから変換された表示用画像データ」とともに表示される「カラーテーブル」を,表示された「前記輝度分布」上における「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限」と対応する範囲内の位置に表示する手段を意味するものである。
そこで,この相違点5における本件発明の構成が,各甲号証に基づいて当業者が容易に想到できたものであるかについて,以下に検討する。

イ 甲第2号証及び甲第3号証について
甲第2号証のFigure16-8及び16-9によれば,入力レベルの範囲を変更しても,“レベル補正”のコマンド選択直後の状態からヒストグラムの表示が変わらないことが示されている。そして,甲第2号証は,「“入力レベル”スライダで画像の明るさの分布域の幅を調整し,その明るさを“出力レベル”スライダを使って新しい明るさに割り当てる」ものだから,「入力レベルの範囲を変更」することは,本件発明の「色付けを行う輝度分布の範囲を設定する」ことに相当するものである。
また,同Figure16-8及び16-9に出力レベルのスライダとともに表示された横長状の帯は,出力レベルの明るさ分布を示すものであることが明らかであるから,本件発明の「カラーテーブル」に相当するものである。
さらに,上記記載事項2-2によれば,甲第2号証には,「プレビュー:選択すると,ダイアログボックスの設定内容をリアルタイムで画像ウインドウに表示することができる。」と記載され,プレビューのチェックボックスを選択することにより,ヒストグラム等の表示されるダイアログボックスと同時に,設定内容を反映させた画像が表示されることが開示されている。
そうすると,甲第2号証には,色付けを行う輝度分布の範囲を設定する前に作成された輝度分布と,設定後のカラーテーブルの割り当てに従って画像データから変換された表示用画像データと,カラーテーブルを表示することが記載されているといえる。
しかし,甲第2号証には,カラーテーブルを,表示された「色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する前に作成された輝度分布」上における設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に表示することは記載されていない。
また,甲第3号証も,甲第2号証と同じく「Adobe Photoshop」というソフトウェアの解説書であって,カラーテーブルを,表示された「色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する前に作成された輝度分布」上における設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に表示することが記載されていない点では同様である。
したがって,甲第1発明に甲第2号証又は甲第3号証に記載された構成を適用しても,相違点5における本件発明の構成を得ることはできない。

なお,請求人は審判請求書において,「そして,甲第2号証には,入力レベルの“△”,“▲”および出力レベルの“△”,“▲”が対応的に表現され,設定された入力レベルの“△”に対応する出力レベルの“△”と,設定された入力レベルの“▲”に対応する出力レベルの“▲”との範囲内にカラーテーブルが表示されており,甲第1号証に甲第2号証の・・・技術を適用することで,当業者が容易に想到できた事項である。」(53頁19?26行)と主張している。
しかしながら,甲第2号証のFigure16-9等によれば,入力レベルの“△”,“▲”と出力レベルの“△”,“▲”とは,横方向に位置がずれているから,両者の位置が対応しているとはいえず,甲第2号証に,「カラーテーブル」を,表示された「前記輝度分布」上における「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限」と対応する範囲内の位置に表示することが記載されているということはできない。
したがって,請求人の上記主張は採用することができない。

ウ 甲第4号証について
上記記載事項4-2によれば,甲第4号証の段落【0080】には,「図30に示すように,画面上の医療画像91の脇に,予め色付けの対応を示すカラーバー92を表示する。ユーザがこのカラーバーをマウスなどのポインティング・デバイスを用いて指示すると,図31に示すようなコントラスト調整用のメニューが画面上に現れる。このメニュー内のupper,lower位置を示す横線をポインティング・デバイスで指示し,上下への移動を指定すると(図32),それに応じて,もとのカラールックアップテーブル84がカラールックアップテーブル81のように書き換えられる。最適な表示が得られたならば,図33に示すように,コントラスト調整の終了を指定するボタン表示をポインティング・デバイスで指示すると,コントラスト調整用のメニューが消える。」と記載されている。
そして,図30?33も併せみれば,甲第4号証には,カラーテーブルの割り当て範囲を指定する範囲指定手段として,画像とともに表示されるカラーテーブルをマウスを用いて指示すると,画像とは独立した表示部であるメニュー中に,変更前のカラーテーブル,変更後のカラーテーブル及び移動可能なレンジ・バーが表示され,当該レンジ・バーを用いて範囲を指定するものであって,変更前のカラーテーブル上における設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に変更後のカラーテーブルを表示する構成が記載されているといえる。
しかし,甲第4号証には,輝度分布を表示することは記載されておらず,「カラーテーブル」を,表示された「前記輝度分布」上における「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限」と対応する範囲内の位置に表示することも記載されていない。
また,ヒストグラム(輝度分布)をカラーマップ(画像)とともに表示する構成の甲第1発明において,カラーテーブルの割り当て範囲を指定する範囲指定手段として,甲第4号証に記載された上記の構成を採用したとしても,画像や輝度分布とは独立した表示部であるメニュー中に,変更前のカラーテーブル,変更後のカラーテーブル及びレンジ・バーが表示される構成が得られるだけであって,「カラーテーブル」を,表示された「前記輝度分布」上における「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限」と対応する範囲内の位置に表示する構成を得ることはできない。
さらに,甲第4号証に記載された,画像とは独立した表示部であるメニュー中に表示されるレンジ・バー及び変更後のカラーテーブルを,甲第1発明において,画像や輝度分布とは独立した表示部であるメニュー中ではなく,画像や輝度分布と同じ表示部上に直接表示するように組み合わせるための動機付けになるような記載は,甲第1号証にも甲第4号証にも見当たらない。

なお,請求人は審判請求書において,「なお,カラーテーブルの割り当て範囲の設定の際に,2本の横線をマウス等のポインタで指定して設定し,その2本の横線の範囲内に対応的に変化するカラーバーを表示することは,例えば甲第4号証に記載されるとおり周知の構成にすぎない。」(58頁25?27行)と主張している。
しかしながら,請求人が周知と主張する構成について,その例としては甲第4号証がただ一つ示されているだけであり,当該構成が周知であるとの技術常識もないから,請求人の上記主張は採用することができない。

エ 甲第1号証の請求項8に記載された構成について
上記記載事項1-8によれば,甲第1号証には請求項8として,「サブ区間のスカラ量のための第2のヒストグラム」を「サンプリング点全てのスカラ量を含む範囲の第1ヒストグラム」と「同時に表示する」ことが記載されており,ここで,「サンプリング点全てのスカラ量を含む範囲の第1ヒストグラム」は,本件発明の「前記輝度分布」,すなわち,「分析手段側から得られる画像データに基づいて,色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する前に作成された輝度分布」に相当するものと認められる。
しかしながら,甲第1号証の請求項8には,第1のヒストグラムと第2のヒストグラムを同時に表示した際のカラーマップ(画像)の表示について,
「displaying, simultaneously with said first histogram, a second histogram for scalar quantity magnitudes of said sub-intervals in terms of at least one of contour 1ines and a color map」(等高線およびカラーマップのうち少なくとも一つの表現形式でのスカラ量であって,前記サブ区間のスカラ量のための第2ヒストグラムを,前記第1ヒストグラムと同時に表示する)
と記載されているのみであって,第1のヒストグラムに対応した画像だけを表示するのか,第2のヒストグラムに対応した画像だけを表示するのか,それとも,両方の画像を表示するのかについて記載されておらず,甲第1号証の他の記載をみても請求項8に対応した構成の記載が全くなされていない。
そうすると,甲第1号証の請求項8には,「前記輝度分布」すなわち「分析手段側から得られる画像データに基づいて,色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する前に作成された輝度分布」,「カラーテーブル」及び「設定後のカラーテーブルの割り当てに従って画像データから変換された表示用画像データ」を表示することが記載されているということはできない。
また,仮に甲第1号証の請求項8にそのようなことが記載されていたとしても,同請求項8には,「前記輝度分布」及び「設定後のカラーテーブルの割り当てに従って画像データから変換された表示用画像データ」とともに表示される「カラーテーブル」を,表示された「前記輝度分布」上における「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限」と対応する範囲内の位置に表示することが記載されていないことは明らかである。

なお,請求人は審判請求書において,「また,『前記輝度分布』を表示する表示手段については,甲第1号証に『また,スカラ量分布表示システムは,更に,該ヒストグラムの任意の区間を指定する区間指定手段を有して,制御手段は,該区間指定手段により指定された区間についてのみのヒストグラムを表示させるため,グラフ表示手段を制御する機能を有するものであっても良い』と記載され,この記載から該区間指定手段により指定される前のヒストグラムを表示させる機能を有しても良いことが示唆されるほか・・・,『サブ区間のスカラ量の大きさのための第2のヒストグラム』を『サンプリング点全てのスカラ量の大きさを含む範囲の第1ヒストグラム』と『同時に表示する』ことが記載されており,ここで,『サンプリング点全てのスカラ量の大きさを含む範囲の第1ヒストグラム』は,本件発明の『前記輝度分布』,すなわち,『分析手段側から得られる画像データに基づいて,色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する前に作成された輝度分布』に相当することは明らかである。甲第1号証には,例えば,第6(a)図と第6(b)図とが同時に表示することが開示されているのである。」(44頁7?20行)と主張している。
しかしながら,上記記載事項1-6によれば,甲第1号証には,
「Accordingly, even after the color map 55 has been displayed through several detailing operations, the display condition information kept stored can be fetched by clicking the button 58 for "Previous State" or the button 59 for "Initial State" which is displayed in the frame 54. In this manner, a color map 51 last displayed as shown in FIG. 6(a) or a color map initially displayed can be directly resumed on the basis of the display condition information.」(従って,何度かの詳細化を行ってカラーマップ55を表示した後であっても,画面54内に表示させた「前状態」のボタン58や,「初期状態」のボタン59をクリックして,記憶されている表示条件情報を読み出すことができる。そして,該表示条件情報に基づいて,図6(a)に示す一つ前のカラーマップ51や初期のカラーマップに,直接,戻ることが可能である。)
と記載されており,「図6(a)に示す一つ前のカラーマップ51や初期のカラーマップに,直接,戻ることが可能である」という表現振りから,図6(a)と図6(b)とが同時に表示されるものでないことが明らかである。
そうすると,図6(a)及び図6(b)は,請求項8に記載された,第1のヒストグラムと第2のヒストグラムを同時に表示する構成と対応するものではなく,両者がどのような関係にあるかは明らかでない。
また,前述のとおり,請求項8には,第1のヒストグラムと第2のヒストグラムを同時に表示した際の画像の表示について,第1のヒストグラムに対応した画像だけを表示するのか,第2のヒストグラムに対応した画像だけを表示するのか,それとも,両方の画像を表示するのかについて記載されていない。
さらに,上記記載事項1-2によれば,甲第1号証には,
「Also, it is allowed that the scalar quantity distribution displaying system further comprises interval designation means for designating an arbitrary interval of said histogram, wherein said control means has a function of controlling said graph display means so as to display a histogram for only said interval designated by said interval designation means.」(また,スカラ量分布表示システムは,更に,該ヒストグラムの任意の区間を指定する区間指定手段を有して,制御手段は,該区間指定手段により指定された区間についてのみのヒストグラムを表示させるため,グラフ表示手段を制御する機能を有するものであっても良い。)
と記載されているところ,この記載は,それに先行して記載された「a scalar quantity distribution displaying system」(スカラ量分布表示システム)が,グラフ表示手段を制御する機能を有するものであっても有しないものであっても良いこと示したものと解釈するのが自然であって,該区間指定手段により指定される前のヒストグラムを表示させる機能を有しても良いことを示唆するものとまではいえない。
してみると,甲第1号証には,第6(a)図と第6(b)図とを同時に表示することが開示されているということはできないから,請求人の上記主張は採用することができない。

オ 相違点5における本件発明の構成による作用効果について
本件訂正明細書の請求項1に記載された「前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示するとともに,前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する手段」が,「前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する」タイミングについて検討すると,「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲」という表現振りから,色付けを行う輝度分布の範囲が設定された後のタイミングで当該対応する範囲内にカラーテーブルが表示される構成が特定されていることが明らかであって,レンジ・バーを用いてカラーテーブルの割り当て範囲を指定する操作中に,レンジ・バーの位置に合わせて(設定予定の輝度分布範囲の上限・下限と対応する範囲内に)カラーテーブルを表示するか否かについては,何ら特定されていないというべきである。
また,カラーテーブルを用いて表示した画像のコントラスト調整等を行う画像処理の技術分野においては,所望の画像が得られるように,試行錯誤的に画像データの再構成と画像表示を繰り返すことは技術常識である。このことは,例えば本件訂正明細書の段落【0002】に記載された「そのため,従来,その画像データの輝度分布を表すヒストグラムを基にして,測定画像データに対してヒストグラムの平坦化やヒストグラムの部分拡張等を行うデータ加工を行って測定画像データを再構成し,その再構成した測定画像データに対してカラーテーブルを割り当てて色付けを行ってカラー表示し,その画像表示を確認し,再び測定画像データのデータ加工を行うという操作を,所望の表示状態となるまで繰り返して行っている。」,甲第1号証の7欄25?28行に記載された「Moreover, a more detailed contour-line display or color-map display can be presented by repeating the above processing in a range in which the shape elements being a display alternative are existent.」(また,上記処理を表示候補の形状要素が存在する範囲で繰り返し行うことにより,さらに詳細な等高線表示,あるいはカラーマップ表示が可能となる。)等からも明らかである。
そして,本件発明の「前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示するとともに,前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する手段」等の構成を用いても,輝度分布は画像上の位置情報を有するものではなく,色付けを行う輝度分布の範囲を設定する前に,設定後の表示用画像を完全に予測することは不可能であるから,本件発明においても,所望の画像が得られるように,試行錯誤的に画像データの再構成と画像表示を繰り返す必要があることは,当業者にとって自明の事項である。
さらに,本件発明においては,画像データの再構成,すなわち,「前記カラーテーブルの割り当てに従って画像データを表示用画像データに変換する」ことを行うたびに,その前に色付けを行う輝度分布の範囲の設定が必要なことも明らかである。
なお,本件特許の【図3】のフローチャートにおいても,「レンジ・バーによりレンジを指定する」ステップ(S18)や「ビットマップデータを求め記憶する」ステップ(S15),「画像データ,カラーテーブル,ヒストグラムを表示する」ステップ(S16)等が繰り返し行われることが図示されている。
そうすると,本件発明は,色付けを行う輝度分布の範囲の設定と画像表示とを繰り返し,色付けを行う輝度分布の範囲の設定がなされるたびに,少なくとも設定された後のタイミングで設定された輝度分布範囲の上限・下限と対応する範囲内にカラーテーブルが表示されるものであるということができる。
そして,このような構成を有することにより,本件発明は,いったん色付けを行う輝度分布の範囲を設定して画像表示した後に,さらに輝度分布範囲を変更調整して設定する場合に,表示用画像に対応したカラーテーブルの「前記輝度分布」に対する割り当て対応関係,すなわち,輝度分布のどの辺りの位置にどのような色が割り当てられているかの概略を表示画面上で確認することが可能であり,さらに,設定された輝度分布の範囲外の輝度分布も視認しながら,輝度分布範囲の変更調整を行うことが可能となり,例えばいったん輝度分布範囲を縮めて設定した後に,当該範囲を少し広げるように調整して再設定する場合等の操作性を向上させることが可能となる。
すなわち,本件発明は,「装置画像データの表示状態の調整のための操作が容易な分析装置を提供することができる」との作用効果,例えば,全輝度範囲(フルカラーレンジ)のヒストグラムに対するカラーテーブルの割り当て対応関係を表示画面上で確認しながら,色付けを行う輝度分布の範囲の設定調整を可能にするとの作用効果を奏するものである。

カ 相違点5に係る判断のまとめ
以上のとおり,相違点5における本件発明の構成は,甲第1号証に記載がないのみならず,甲第2号証乃至甲第4号証にも記載がないし,これらの甲号証から当業者が容易に想到できたものともいえない。また,当該構成が他のいずれの甲号証にも記載されておらず,これらの甲号証から当業者が容易に想到できたものでないことも明らかである。

4 まとめ
したがって,本件発明は,相違点5において,甲第1発明及び甲第2号証乃至甲第4号証などの各甲号証に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものではないので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえず,請求人の主張する無効理由には理由がない。

第8 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件発明に係る特許を無効とすることができない。また,本件発明に係る特許を無効とすべき他の理由を発見しない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
分析装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】物質表面の原子配列や表面形状の測定結果として分析手段側から得られる画像データの任意の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段と、前記輝度分布に対して、前記輝度分割数と実質的に1対1で対応させることができる任意のカラー分割数に分割されたカラーテーブルの割り当て範囲を、輝度分布表示に対して移動可能な表示画面上のレンジ・バーを用いて指定して色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する手段と、前記カラーテーブルの割り当てに従って画像データを表示用画像データに変換する手段と、前記表示用画像データを記憶する手段と、前記輝度分布、カラーテーブル、レンジ・バー、及び表示用画像データを表示するとともに、前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する手段とを備えた分析装置であって、
前記設定された輝度分布の範囲の上限以上、また、下限以下についてはそれぞれカラーテーブルの上限また下限と同一の色付けを行うことを特徴とする分析装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、走査型プローブ顕微鏡等の分析装置に関し、特に測定した画像データをカラー表示する画像データ表示装置を備えた分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば、走査型プローブ顕微鏡等の分析装置においては、物質表面の原子配列や、物質表面の表面形状の測定結果を画像データとして取得し、該画像データを表示装置に表示している。この走査型プローブ顕微鏡として、例えば、プローブと試料表面との間に流れるトンネル電流を用いる走査型トンネル顕微鏡(STM)や、プローブと試料表面間に働く原子間力を測定する原子間力顕微鏡(AFM)が知られている。例えば、走査型トンネル顕微鏡は、探針を試料表面に近づけて探針または試料の何れかを3次元方向に移動可能とし、探針と試料表面との間に流れるトンネル電流が一定となるように試料表面と探針先端部との間をサブナノメータオーダーで制御することにより原子レベルの分解能で得られる3次元形状の情報によって、物質表面の原子配列の観察や、物質表面の表面形状の観察等を行うものであり、原子間力顕微鏡は、例えば探針及び探針を支持するカンチレバー等と、レバーの曲がりを検出する変位測定系からなり、探針と試料との間の原子間力(引力または斥力)を検出してこれが一定になるように制御することによって、試料表面の凹凸像等を観察するものであり、生物,有機分子,絶縁物等の非導電物質の観察を行うことができる顕微鏡である。このような走査型プローブ顕微鏡等の分析装置が備える画像表示装置においては、一般に、分析装置から得られる画像データは必ずしもコントラストが良好ではない。そのため、測定されたままの未処理の測定画像データに対してカラーテーブルを割り当てて色付けを行っても、明瞭なカラーの画像表示が行われるとは限らない。また、良好なコントラストが得られている場合であっても、分析の必要性から輝度の表示範囲を限定して表示を行いたいという要請が生じる場合がある。そのため、従来、その画像データの輝度分布を表すヒストグラムを基にして、測定画像データに対してヒストグラムの平坦化やヒストグラムの部分拡張等を行うデータ加工を行って測定画像データを再構成し、その再構成した測定画像データに対してカラーテーブルを割り当てて色付けを行ってカラー表示し、その画像表示を確認し、再び測定画像データのデータ加工を行うという操作を、所望の表示状態となるまで繰り返して行っている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の分析装置では、カラー表示のための測定データのデータ処理が円滑に行えないという問題がある。従来の測定画像データのカラー表示においては、前記したように分析装置から得られた測定画像データのデータ加工による再構成と、該加工画像データの表示確認という操作を繰り返す必要があるため、カラー表示のための測定データのデータ処理に時間を要し、操作が煩雑となっている。これは、従来の分析装置において行われるデータ加工はヒストグラム自体を所望の特性とするデータ処理であり、このデータ処理によって結果的に再構成される測定画像データを用いてカラー表示を行うものであるため、カラー表示におけるカラーテーブルの割り当てと、測定画像データのデータ加工とが必ずしも対応しているものとなっていないためである。例えば、走査型トンネル顕微鏡では、試料と探針との間に流れるトンネル電流を用いて得られる物質表面の原子配列や表面形状についての三次元データを、カラー表示によって画像表示する場合がある。例えば、表面の高さ情報をカラー表示によって画像表示する場合、この高さ方向の頻度を表すヒストグラム自体が所望の特性となるよう行うヒストグラムのデータ加工と、カラー表示を行うためのカラーテーブルの割り当てとの間には充分な対応がとられておらず、ヒストグラムのデータ加工を行ったとしても,必ずしも適切なカラー表示が行われるとは限らなかった。そこで、本発明は前記した従来の分析装置の問題点を解決し、測定画像データの表示状態の調整のための操作を容易に行うことができる分析装置を提供することを目的とし、また、トンネル電流を用いて得られる画像データのカラー表示のための調整を容易に行うことができる走査トンネル顕微鏡を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、分析装置において、物質表面の原子配列や表面形状の測定結果として分析手段側から得られる画像データの任意の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段と、前記輝度分布に対して、前記輝度分割数と実質的に1対1で対応させることができる任意のカラー分割数に分割されたカラーテーブルの割り当て範囲を、輝度分布表示に対して移動可能な表示画面上のレンジ・バーを用いて指定して色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する手段と、前記カラーテーブルの割り当てに従って画像データを表示用画像データに変換する手段と、前記表示用画像データを記憶する手段と、前記輝度分布、カラーテーブル、レンジ・バー、及び表示用画像データを表示するとともに、前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する手段手段とを備えた分析装置であって、前記設定された輝度分布の範囲の上限以上、また、下限以下についてはそれぞれカラーテーブルの上限また下限と同一の色付けを行うことによって、測定画像データの表示状態の調整のための操作を容易に行うことができる。
【0005】本発明における分析装置は、分析手段から得られる測定データを画像として表示する表示手段を備えた装置であり、さらに、その表示手段は測定画像データのカラー表示を行うことができるものである。本発明における画像データの輝度分布は、測定した画像データの輝度の強度に対する頻度分布を表すものである。また、本発明におけるカラーテーブルは、画像データをカラー表示する際の色分布を表す表であり、割り当て指定手段はこの色分布を輝度分布中の輝度範囲に対する割り当て範囲を指定し、設定する手段である。本発明における表示用画像データは、測定画像データをカラーテーブルの割り当て区分に対応するように変換することにより得られ、この表示用画像データに対してカラーテーブルの各色を対応させることによって、カラー表示を行うことができるものである。
【0006】本発明の第1の実施態様は、走査型トンネル顕微鏡において、探針を通して得られるトンネル電流を用いて得られる表面状態に関連する画像データの輝度分布を求める手段と、輝度分布に対するカラーテーブルの割り当て範囲を指定する手段と、カラーテーブルの割り当てに従って表面状態に関連する画像データを表示用画像データに変換する手段と、変換した表示用画像データを記憶する手段と、輝度分布、カラーテーブル、及び表示用画像データを表示する手段とを備えることによって、トンネル電流を用いて得られる画像データのカラー表示のための容易な調整を可能とする。本発明の第2の実施態様は、画像データは画素単位の輝度強度であり、該輝度強度を複数個の輝度区間に分割して区分し、各輝度区間に分布する画素の個数を求めることによって画像データの輝度分布を求めるものであり、これによって、該輝度分布を任意の表示形態で表示することができる。本発明の第3の実施態様は、輝度分布をヒストグラムの表示形態で表示するものであり、これによって、柱状の形態で表示したカラーテーブルと輝度分布との対応を容易に行なうことができる。本発明の第4の実施態様は、画像データの輝度強度をカラーテーブルの割り当て範囲に対応して区分し、区分した値を画素単位のビットマップデータとして記憶するものであり、これによって、設定したカラー表示範囲に対応した表示用の画像データを得ることができる。
【0007】本発明の第5の実施態様は、ビットマップデータで表される表示用画像データの値と、カラーテーブルの各色を表す値とを対応させることによって画像データのカラー表示を行うものであり、これによって、画像データのカラー表示を容易に行なうことができ、また、カラーテーブルを変更することによりカラー表示の変更を容易に行なうことができる。本発明の第6の実施態様は、画像データの輝度の分割個数とカラーテーブルの色分割の個数とが実質的に一致しているものであり、これによって、ビットマップデータで表される表示用画像データの値とカラーテーブルの各色を表す値とを実質的に1対1で対応させることができ、これによって、画像データのカラー表示を容易に行なうことができ、また、カラーテーブルを変更することによりカラー表示の変更を容易に行なうことができる。本発明の第7の実施態様は、輝度分布、カラーテーブル、及び表示用画像データを実質的に一つの表示面上に表示するものであり、これによって、輝度分布に対するカラーテーブルの割り当て範囲、及び画像データの表示確認を同時に行なうことができる。
【0008】
【作用】本発明の分析装置において、分析手段側から得られる画像データは、例えば、画素単位の輝度強度によって表されている。この輝度強度を複数個の輝度区間に分割して区分し、各輝度区間に分布する画素の個数を求めることによって、画像データの輝度分布を求めることができる。この求めた輝度分布は、表示部中において、例えば、ヒストグラム等の表示形態によって表すことができる。表示部には、前記輝度分布を表す部分と共に、カラーテーブルを表す部分が形成され、画像データ表示部で表示される画像データの色の分布を、例えば柱状の形態によって、ヒストグラムで表された輝度分布と対応できるように表示している。そして、カラーテーブル割り当て指定手段によって画像データの輝度分布における表示範囲を指定して、カラーテーブルによって色付さけれる輝度分布中の範囲を設定する。これによって、所望の輝度分布範囲におけるカラー表示を設定することができる。
【0009】また、画像データを表示用画像データに変換する手段は、測定画像データをカラーテーブルの割り当て区分に対応させ、その対応する色に該当するカラー値を画素単位で求め、さらに、表示用画像データを記憶する手段は、該値をビットマップデータとして記憶する。表示用画像データによって画像データのカラー表示を行なう場合には、表示用画像データのカラー値に対して対応するカラーテーブルの色を選択し、該色によってその画素に対応する部分を表示する。したがって、表示部には、画像データとカラーテーブルと輝度分布が同時に表示される。そして、該表示状態を観察して、カラーテーブルの輝度分布に対する範囲を、表示された画像データの表示状態に応じてカラーテーブル割り当て指定手段によって変更することができる。このカラーテーブルの割り当て範囲の変更により、前記したように、画像データを表示用画像データに変換し、カラー表示を行なう。
【0010】画像データの輝度の分割個数とカラーテーブルの色分割の個数とを一致させたり、あるいは、それらの個数関係に例えば整数倍等の一定の関係をもたせることによって実質的に一致させると、ビットマップデータで表される表示用画像データのカラー値と画像データ表示部において実際にカラー表示を行なう際のカラーテーブル中のR,G,Bの色データとを実質的に1対1で対応させることができる。そして、このR,G,Bの色データを、対応する画素に入力することによって、設定したカラーテーブルの割り当てに対応したカラー表示が行なわれる。このカラーテーブルにおいて、異なる組み合わせのR,G,Bの色データを使用することによって、カラー表示を変更することもできる。走査型トンネル顕微鏡においては、表示部において、ヒストグラム等の表示形態は、探針を通して得られるトンネル電流を用いて得られる表面状態に関連する画像データの輝度分布を表し、カラーテーブル割り当て指定手段によって表面状態に関連した画像データについての色付けの割当てを行って、所望の輝度分布範囲におけるカラー表示を設定する。そして、表示用画像データ記憶手段中の記憶してある表面状態に関連するビットマップデータに対して、対応するカラーテーブルの色を選択し、該色によって対応画素を表示する。
【0011】
【実施例】以下、本発明の実施例を図を参照しながら詳細に説明する。
〔本発明の実施例の構成〕はじめに、図1の構成図を用いて、本発明の分析装置の一実施例の構成について説明する。図1において、本発明の分析装置は、通常の分析を行なう分析手段(図示していない)、画像データ等の表示を行なう表示部1、画像データ等のデータの処理や記憶を行なうデータ処理部2を備えている。なお、図では、表示部1及びデータ処理部2の概略を示し、分析装置が備える分析手段等のその他の部分については省略して示している。なお、以下に示す例では、輝度分布表示としてヒストグラム表示を例として説明する。表示部1は、画像データ表示部10とカラーテーブル表示部11とレンジ・バー12とヒストグラム表示部13とを備えている。画像データ表示部10は、分析手段が測定した測定データを画像データとして表示する部分であり、例えば、512×512個の複数の画素に区分した表示手段により構成することができ、各画素に対して画像データを入力することによって画像表示を行なうものであり、R,G,Bのカラーデータに対応することによるカラー表示機能も備えている。分析装置が走査型トンネル顕微鏡の場合には、前記画像データはトンネル電流を用いて得られる表面状態に対応した画像データとなり、例えば、表面の三次元情報を有した画像データである。
【0012】カラーテーブル表示部11(ビデオルックアップテーブルという名称で呼ばれる場合もある)は、画像データ表示部10におけるカラー表示に使用するカラーの分布状態を表示する部分であり、図では柱状の形態で示されている。そして、このカラーテーブル表示部11は、例えば、256個に分割されている。各分割された区分に対応するピクセル値(以下、カラー値という)に対して、データ処理部2は後述するカラーテーブルメモリ21中に格納されているカラーテーブルの色情報を対応させることにより、色表示を行なう。ヒストグラム表示部13は、測定画像データ中の輝度分布を表す部分であり、例えば、最小の輝度から最大の輝度の間を分割し、その分割した区分内にある測定画像データ中の画素の個数をヒストグラムによって表示するものである。このヒストグラム表示においては、最大の画素数で各区分内の画素数を除することによって、規格化することができる。
【0013】図1では、ヒストグラム表示によって測定画像データ中の輝度分布を表しているが、その他の周知の表示形態によって表すこともできる。また、レンジ・バー12は、画像データ表示部10におけるカラー表示の状態を変更して設定する手段であり、例えば、マウス等のカラーテーブル割り当て指定部4等の入力手段により入力することができる。カラーテーブル割り当て指定部4によって、このレンジ・バー12をヒストグラム表示部13に対して移動し、輝度分布に対して色付けを行なう範囲を設定する。図1では、横方向の実線で示される2本のレンジ・バー12により設定される輝度分布の間において、カラーテーブル表示部11で示される色分布によってカラー表示が行なわれることになる。したがって、このレンジ・バー12を移動させることにより、色付けされる輝度分布の範囲を変更することができる。データ処理部2は、分析手段からの画像データ等のデータを処理や記憶を行ない前記表示部1に表示のための信号を出力する部分であり、処理部20、カラーテーブルメモリ21、表示用画像データメモリ22、カラーテーブル割り当て範囲(レンジ)メモリ23、及びヒストグラムデータメモリ(輝度分布データメモリ)24、表示ドライバ25を備えている。
【0014】処理手段20には、分析手段から得られた画像データを格納している画像データファイル3とカラーテーブル割り当て指定部4が、データ処理部2の外部から接続され、データ処理部2内部において、カラーテーブルメモリ21、表示用画像データメモリ22、カラーテーブル割り当て範囲メモリ23、及びヒストグラムデータメモリ24と接続されており、輝度分布形成のためのデータ処理やカラーテーブル割り当てのための処理や表示用画像データ(ビットマップデータ)の作成処理、及び表示ドライバ25の制御等を行なっている。カラーテーブルメモリ21は、画像データ表示部10にカラー表示を行なうための色情報を格納している部分であり、例えば、256色の色付けを行なう場合には、各色に対するR,G,Bの強度の組み合わせを記憶している。そして、各色を指定するカラー値に対応したR,G,B信号が画像データ表示部10に送られると、該画像データ表示部10はカラー表示を行なうことになる。なお、この例では、カラーテーブルを256色としているが、表示のビット数を増やすことによって増色することもできる。また、使用するR,G,B信号の組み合わせを変更することにより、カラー表示の色状態を変更することもできる。表示用画像データメモリ22は、画像データ表示部10に表示を行なうための画像データを格納しておくメモリであり、画像データファイル3から入力される分析手段からの画像データを、カラーテーブルの割り当て区分に対応したカラー値を画素単位で記憶するメモリであり、ビットマップデータを形成している。画像データ表示部10におけるカラー表示は、画像データファイル3中の画像データではなく、この表示用画像データメモリ22に格納されているビットマップデータに基づいて行なわれる。
【0015】カラーテーブル割り当て範囲メモリ23は、カラーテーブル割り当て指定部4が指定した割り当て範囲を記憶するメモリである。表示部1中のレンジ・バー12、及びカラーテーブル表示部11の表示範囲は、このメモリ23の記憶内容に応じて行なわれる。ヒストグラムデータメモリ24は、最小輝度と最大輝度間を分割した区分内にある測定画像データの画素の個数を記憶するメモリであり、この記憶内容に応じて、ヒストグラム表示部13に表示が行なわれる。表示ドライバ25は、カラーテーブルメモリ21、前記表示用画像データメモリ22、カラーテーブル割り当て範囲メモリ23、ヒストグラムデータメモリ24の記憶内容を表示部1に表示するための駆動部分であり、処理手段20によって制御される。また、走査型トンネル顕微鏡による分析装置の場合には、前記画像データは、トンネル電流を用いて得られる表面状態に関連した画像データとなる。
【0016】〔本発明の実施例の作用〕次に、本発明の分析装置の作用について、図2,図3のフローチャート、図4のビットマップデータ及びヒストグラムの形成を説明する図、図5のフルカラーレンジによるカラー表示を説明する図、及び図6の設定カラーレンジによるカラー表示を説明する図を用いて説明する。本発明の分析装置における画像データの表示のための概略手順は、図2に示すフローチャートに従って行なわれる。なお、図2のフローチャートでは、ステップSの符号を用いて説明する。はじめに、分析手段によって測定して得られた画像データの入力を行なう(ステップS1)。この画像データの入力は、画像データファイル3に格納しておいた画像データを処理手段20に読み込むことによって行なわれる。この場合、アナログの画像データを読み込んで、処理手段20においてデジタル信号にA/D変換することも、あるいは、デジタル信号に変換した画像データを画像データファイル3に格納しておき、デジタル信号を読み込むようにすることもできる。
【0017】そして、読み込んだ画像データを用いて、輝度分布(ヒストグラム)を求める(ステップS2)。カラー表示を行なう場合のカラーレンジを設定する(ステップS3)。このカラーレンジの設定は、輝度分布に対応して色付けを行なう範囲を定めるものであり、定められた範囲内をフルカラーレンジとして輝度分布に対応したカラー表示を行なうものである。また、前記読み込んだ画像データを処理して表示用の画像データを作成する。本発明の分析装置においては、分析手段で得られた画像データそのものではなく、表示用に形成した画像データによって画像表示を行なう(ステップS4)。前記ステップS2及びステップS4で形成した輝度分布、表示用画像データ、及びカラー表示のためのカラーテーブルを表示部1上に同時に表示する(テップS5),ステップS5における表示を観察して、カラー表示を行なう範囲(カラーレンジ)を変更する場合には、前記ステップS3に戻ってステップS4及びステップS5を繰り返す。次に、図4,図5,及び図6を用いるとともに、図3に示す本発明の分析装置における画像データの表示のためのより詳細な手順に従って、ステップSの10番台の符号を用いて説明する。
【0018】前記ステップS1によって、画像データファイル3から読み込んだ画像データを基にして、その画像データの輝度信号から最大輝度(Pmax)と最小輝度(Pmin)を求める。図4において、画像データファイル3から読み込まれる画像データは、画像元データとして表されている。図中において、画像元データは4×4のマトリックスAによって示されているが、例えば512×512のマトリックス状の画素により実現される。この各画素中に表記される「Pn」は、当該画素における輝度強度を表している。このマトリックス状の画素の輝度は表Bによって表わされる。この各画素中の輝度強度の中から、最大輝度(Pmax)と最小輝度(Pmin)を求める。図4中では、画素Iにおいて最大輝度(Pmax)を持ち、画素Jにおいて最小輝度(Pmin)を持っている(ステップS11)。前記ステップS11で求めた最大輝度(Pmax)と最小輝度(Pmin)の区間〔Pmax,Pmin〕をn分割する。この分割数nは任意であるが、カラー表示を行なう場合の色数と対応させて設定する方が後の信号処理において望ましい。n分割による輝度の一つの区間間隔は(Pmax-Pmin)/nである。そして、このn分割に対応して、輝度区分を設定する。この輝度区分の各輝度の代表値をそれぞれL_(1)?L_(n)とする。このnの数は、前記したカラー表示の色数に対応して例えば256とすることができる(ステップS12)。次に、前記求めた輝度区分に対応する輝度強度を有する画素の個数を計数し、輝度分布のデータを形成する。図4では、輝度区分L_(1)についてはm_(1)個の画素数を計数し、輝度区分L_(2)についてはm_(2)個の画素数を計数し、輝度区分L_(n)については、m_(n)個の画素数を計数し、その値は図1中のヒストグラムデータメモリ24に格納している(ステップS13)。
【0019】(フルカラーレンジによるカラー表示)次に、はじめに測定された画像データの輝度分析の全体を観察するために、輝度区間〔Pmax,Pmin〕をフルカラーレンジとする。このカラーレンジは、色付けを行なう際のカラーテーブルの割り当て範囲を設定するものである(ステップS14)。次に、画像データを表示部1の画像データ表示部10に表示するためのビットマップデータを求める。このビットマップデータは、前記ステップS14で設定したカラーレンジ(カラーテーブルの割り当て範囲)に対応して、各画素の輝度強度がいずれの輝度区分となるかを判定し、その区分値を示したものである。図4のマトリックスCは4×4のビットマップデータを示しており、その区分値は、L_(1)?L_(n)によって表示している。このビットマップデータが、表示用画像データとなり、図1中の表示用画像データメモリ22に格納される(ステップS15)。
【0020】前記ステップS13及びステップS15によって、輝度分布のデータ(ヒストグラムのデータ)及び表示用画像データが求められてメモリに格納され、また、カラーテーブルは、あらかじめカラーテーブルメモリ21に格納されている。そこで、これらのデータを表示部1中のそれぞれの画像データ表示部10、ヒストグラム表示部13、及びカラーテーブル表示部11に表示する。輝度分布のデータの表示は、例えば、図4中のヒストグラムDに示されるようにステップS13による画像素数を、各対応する輝度区分の位置に表示することにより形成される。このヒストグラムの表示あるいはステップS13のヒストグラムの形成において、最大の画素数で各区分内の画素数を除することによって、規格化することができる。
【0021】また、フルカラーレンジにおける画像データのカラー表示においては、図5に示すように、ビットマップデータCに対してカラーテーブルEを用いて対応するR,G,Bの色データを用いて行なう。このときの色付けは、前記ステップS12において輝度範囲をn分割して求めた輝度区分(L_(1)?L_(n))に対して、フルカラーレンジを同じくn分割した代表値(以下、カラー値(C_(1)?C_(n))という)を1対1で対応させて定め、前記ステップS15で求めたビットマップデータC中の輝度区分Lに対応したカラー値Cを求めることにより行なわれる。一般に、カラーテーブルEは、R,G,Bの各色の強度の組み合わせによって、ソフトウェアにより色表示を行なうことができるものであり、それらの組み合わせを示すカラーテーブルE中においてカラー値Cを指定することによって、該色を表示することができる。
【0022】したがって、ステップS15で求めたビットマップデータとあらかじめ用意してあるカラーテーブルとによって、カラー表示を行なうことができる。また、該カラーテーブル自体の表示については、図5中に示すカラーテーブルEのカラー値(C_(1)?C_(n))に対応する色をカラーテーブル表示部11に表示することにより行なうことができる。なお、前記例では、輝度分布とカラーレンジとを共にn分割して1対1の対応付けを行なっているが、分割数及び対応付けの比率は任意とすることができる。(ステップS16)。次に、前記ステップS16による表示を観察し、カラー表示の色範囲を変更するか否かの判定を行なう(ステップS17)。
【0023】(設定カラーレンジによるカラー表示)カラー表示の色範囲を変更する場合には、レンジ・バー12をヒストグラム表示部13に対して移動して、カラーレンジを指定し変更を行なう(ステップS18)。前記ステップS18においてカラーレンジの指定範例が変更すると、例えば図6に示す設定カラーレンジ及び輝度区分となる。図6において、フルカラーレンジより狭い範囲に設定し、その狭い設定範囲をカラーレンジとして前記ステップS12と同様にn分割し、輝度区分(L_(1)?L_(n))を求める(ステップS19)。
【0024】そして、前記ステップS15と同様にして、画像データを表示部1の画像データ表示部10に表示するためのビットマップデータを求める。このビットマップデータは、前記ステップS18で設定したカラーレンジ(カラーテーブルの割り当て範囲)に対応して、各画素の輝度強度がいずれの輝度区分となるかを判定し、その区分値を示したものとなる。図6のマトリックスCは4×4のビットマップデータを示しており、その区分値は、L_(1)?L_(n)によって表示している。このビットマップデータにおいては、表示される輝度の上限が下げられ、また、下限が上げられているため、L_(1)以下の輝度はL_(1)として表示され、L_(n)以上の輝度はL_(n)として表示される。また、ビットマップデータCをカラーテーブルEを用いてカラー表示する場合には、前記ステップS16と同様に、ビットマップデータCに対してカラーテーブルEを用いて対応するR,G,Bの色データを用いて行ない、色付けは、前記ステップS19において輝度範囲をn分割して求めた輝度区分(L_(1)?L_(n))に対して、フルカラーレンジを同じくn分割した代表値(以下、カラー値(C_(1)?C_(n))という)を1対1で対応させて定め、ビットマップデータC中の輝度区分Lに対応したカラー値Cを求めることにより行なわれる。このとき、カラーテーブル及びヒストグラム表示については、フルカラーレンジにおける表示と同一のデータを用いて同様に行なうことができる。
【0025】また、走査型トンネル顕微鏡による分析装置の場合には、前記と同様の工程によって、トンネル電流を用いて得られる表面状態に関連した画像データをカラー表示することができる。
【0026】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、装置画像データの表示状態の調整のための操作が容易な分析装置を提供することができる。また、トンネル電流を用いて得られる画像データのカラー表示調整が容易な走査トンネル顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の分析装置の一実施例の構成を説明するブロック図である。
【図2】本発明の分析装置における画像データの表示のための概略手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の分析装置における画像データの表示のためのより詳細な手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明のビットマップデータ及びヒストグラムの形成を説明する図である。
【図5】本発明のフルカラーレンジによるカラー表示を説明する図である。
【図6】本発明の設定カラーレンジによるカラー表示を説明する図である。
【符号の説明】
1…表示部、2…データ処理部、3…画像データファイル、4…カラーテーブル割り当て指定部、11…カラーテーブル表示部、12…レンジ・バー、13…ヒストグラム表示部、20…処理手段、21…カラーテーブルメモリ、22…表示用画像データメモリ、23…カラーテーブル割り当て範囲メモリ、24…ヒストグラムデータメモリ、25…表示ドライバ、A…画像元データ、B…画素-輝度表、C…ビットマップデータ、D…ヒストグラム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2010-03-30 
出願番号 特願平6-234802
審決分類 P 1 113・ 832- YA (G01N)
P 1 113・ 121- YA (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 恵一  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 小島 寛史
岡田 孝博
登録日 2002-04-05 
登録番号 特許第3293717号(P3293717)
発明の名称 分析装置  
代理人 喜多 俊文  
代理人 内田 敏彦  
代理人 喜多 俊文  
代理人 田上 洋平  
代理人 青山 剛  
代理人 内田 敏彦  
代理人 宮原 正志  
代理人 宮原 正志  
代理人 岩坪 哲  

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