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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  B23H
管理番号 1233548
審判番号 無効2009-800205  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-09-25 
確定日 2011-03-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3050773号発明「細穴放電加工機に対する電極、電極ガイド交換方法及び同方法に使用する交換装置、電極ホルダ、細穴放電加工機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3050773号の請求項13に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許第3050773号の請求項1ないし14に係る発明についての特許出願は、平成7年4月18日になされ、平成12年3月31日に特許の設定登録がされたものである。

2.これに対し、平成21年7月30日に被請求人株式会社エレニックスより、別件である訂正審判が請求され(訂正2009-390094号)、これに対し、当審より平成21年9月17日付けで、「訂正後の請求項13に係る発明は、引用刊行物1である特開平1-246021号公報に記載された発明及び引用刊行物2である特開昭63-120037号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができず、本件訂正審判の請求は、改正前特許法第126条第3項の規定に適合しない」旨の訂正拒絶理由を通知した。

3.平成21年9月25日に請求人株式会社会社アステックより、本件特許第3050773号の請求項13、及び14に係る発明についての特許を無効にするとの審決を求める審判請求(無効2009-800205号)がなされた。

4.別件である訂正2009-390094に係る審判請求は、平成21年11月6日付けで、取り下げられた。

5.被請求人株式会社エレニックスは、平成21年12月10日に無効2009-800205号に対する訂正請求書を提出すると共に、同日付けで無効審判答弁書を提出した。

6.請求人株式会社アステックは、平成22年1月8日に審判事件弁駁書を提出した。

7.当審より平成22年1月18日付けで、「訂正を認めるけれども、訂正後の請求項13に係る発明は、引用刊行物1である特開平1-246021号公報に記載された発明及び引用刊行物2である特開昭63-120037号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」旨の無効理由を通知した。

8.平成22年1月27日に被請求人株式会社エレニックスから、口頭審理に出頭しない旨の口頭審理陳述要領書が提出され、平成22年1月28日に請求人株式会社会社アステックから口頭審理陳述要領書が提出された。
なお、当審からの無効理由通知に関し、被請求人は応答はしなかった。

9.平成22年4月7日に口頭審理が行われ、請求人株式会社アステックは出頭したが、被請求人株式会社エレニックスからの出頭者はいなかった。


第2 訂正の適否について

1.訂正の内容
被請求人の求める平成21年12月10日付けの訂正請求は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容を、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
本件特許明細書における特許請求の範囲の請求項13について、
「電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能のコレットを上記コレット嵌入孔に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間にシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合してなることを特徴とする電極ホルダ。」とあるのを、
「電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能の、体部にスリットを形成したコレットを上記コレット嵌入孔に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間に前記コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合して、当該螺子部材の締付けによって下記(イ)および(ロ)の作用を同時に行うようにしたことを特徴とする電極ホルダ
(イ)シール用弾性部材によるシール
(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定」
と訂正する。
(2) 訂正事項2
本件特許明細書における特許請求の範囲の請求項14を削除する。
(3) 訂正事項3
発明の詳細な説明の欄の段落【0017】について、
「請求項13に記載の発明は、電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能のコレットを上記コレット嵌入孔内に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間にシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合してなる電極ホルダである。」とあるのを、
「請求項13に記載の発明は、電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能の、体部にスリットを形成したコレットを上記コレット嵌入孔内に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間に前記コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合して、当該螺子部材の締付けによって下記(イ)および(ロ)の作用を同時に行うようにしたことを特徴とする電極ホルダである、
(イ)シール用弾性部材によるシール
(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定」と訂正する。
(4) 訂正事項4
発明の詳細な説明の欄の段落【0018】を削除する。
(5) 訂正事項5
発明の詳細な説明の欄の段落【0034】について、
「請求項13に記載の発明は、電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能のコレットを上記コレット嵌入孔内に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間にシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合してなるものであるから、螺子部材によってコレットを締付けると、コレットによる電極の挾持固定が行われると共にシール用弾性部材が圧縮されてシール効果が発揮される。」とあるのを、
「請求項13に記載の発明は、電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能の、体部にスリットを形成したコレットを上記コレット嵌入孔内に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間に前記コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合して、当該螺子部材の締付けによって、(イ)シール用弾性部材によるシールと、(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定とを同時に行うようにしたものであるから、螺子部材によってコレットを締付けると、コレットによる電極の挾持固定が行われると共にシール用弾性部材が圧縮されてシール効果が発揮される。」と訂正する。
(6) 訂正事項6
発明の詳細な説明の欄の段落【0035】を削除する。
(7) 訂正事項7
発明の詳細な説明の欄の段落【0156】について、
「請求項13に記載の発明は、電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能のコレットを上記コレット嵌入孔内に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間にシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合してなるものであるから、螺子部材によってコレットを締付けると、コレットによる電極の挾持固定が行われると共にシール用弾性部材が圧縮されてシール効果が発揮される。」とあるのを、
「請求項13に記載の発明は、電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能の、体部にスリットを形成したコレットを上記コレット嵌入孔内に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間に前記コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合して、当該螺子部材の締付けによって、(イ)シール用弾性部材によるシールと、(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定とを同時に行うようにしたものであるから、螺子部材によってコレットを締付けると、コレットによる電極の挾持固定が行われると共にシール用弾性部材が圧縮されてシール効果が発揮される。」と訂正する。
(8) 訂正事項8
発明の詳細な説明の欄の段落【0157】を削除する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正事項1のうち、「コレット」を「体部にスリットを形成したコレット」に訂正することは、コレットの形状を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかであり、また、特許明細書の段落【0047】に「コレット27は、図3に示すように、電極11を挿通可能の挿通孔27Hを備えていると共に、体部にはスリット27Sが形成してある。」と記載されていることから、当該訂正は、新規事項の追加には該当しない。
イ 訂正事項1のうち、「シール用弾性部材」を「前記コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うシール用弾性部材」に訂正することは、シール用弾性部材の作用を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかであり、また、特許明細書の段落【0053】に「弾性部材31の作用によって、コレット27とコレット装着孔25C、貫通孔25Hとの間およびコレット27と電極11との間のシールが同時に行われる。」と記載され、「コレット装着孔25C」が「コレット嵌入孔」であることは明らかであるので、当該訂正は、新規事項の追加には該当しない。
ウ 訂正事項1のうち、「電極ホルダ」を、「当該螺子部材の締付けによって下記(イ)および(ロ)の作用を同時に行うようにしたことを特徴とする電極ホルダ
(イ)シール用弾性部材によるシール
(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定」に訂正することは、電極ホルダの螺子部材による締付けの作用を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかであり、また、特許明細書の段落【0049】?【0054】に「前記袋ナット29には前記コレット27のテーパ面27Tと係合可能なテーパ状の係合孔29Hが形成してある。
上記構成により、袋ナット29を緩めた状態にあるとき、シール用の弾性部材31の上面から電極11の上端が僅かに突出するように、コレット27の挿通孔27Hに電極11を下側から挿入する。
その後、袋ナット29を締付けると、コレット27のテーパ面27Tに袋ナット29の係合孔29Hが係合し、図2において、コレット27を上方向に押圧すると共に、テーパ面27Tを締付ける態様となる。
上述のごとく、コレット27が外筒25に対して上方向に押圧されると、コレット27の上面に配置した弾性部材31の上面がコレット装着孔25C上面へ圧着され、次第に圧縮されて電極11を次第に締付けることになる。
したがって、弾性部材31の作用によって、コレット27とコレット装着孔25C、貫通孔25Hとの間およびコレット27と電極11との間のシールが同時に行われる。
また、袋ナット29がコレット27のテーパ面27Tを締付けることにより、コレット27による電極11の締付けも同時に行われることになる。」と記載され、「袋ナット29」が「螺子部材」であることは明らかであり、「締付け」が「挟持固定」であることは明らかであるので、当該訂正は、新規事項の追加には該当しない。
エ 以上のとおり、訂正事項1は、全体として特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、かつ、新規事項の追加には該当しないものである。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項14を削除するものであるから、訂正の目的に適合するものであることは明らかである。
(3) 訂正事項3ないし8について
訂正事項3ないし8は、請求項13、14を訂正する訂正事項1、2に伴って、発明の詳細な説明の段落【0017】、【0018】、【0034】、【0035】、【0156】、【0157】の記載を特許請求の範囲と整合させるための訂正であり、明りょうでない記載の釈明を目的する訂正に該当する。
(4) 特許請求の範囲を実質的に拡張するものであるかについて
訂正事項1ないし8は、いずれも特許請求の範囲を実質的に拡張し、または変更するものではないことは明らかである。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法(以下、「改正前特許法」という。)第134条第2項ただし書きに適合し、改正前特許法第134条の2第5項において準用する改正前特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


第3 請求人の主張する無効理由の概要
請求人の主張する審判請求時の無効理由の概要は、「本件の請求項13及び14に係る発明は、本件の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号により、無効とされるべきである。」というものである。
ここで、訂正により請求項14は削除されているので、訂正後における請求人の主張する無効理由の概要は、「本件の請求項13に係る発明は、本件の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号により、無効とされるべきである。」ということになる。

請求人は、上記主張の証拠方法として、下記の証拠を提出している。
甲第1号証:実公平6-34920号公報


第4 被請求人の主張の概要
一方、請求人の主張する無効理由に対する被請求人の主張は、以下のとおりと認められる。
「甲第1号証に記載されたものは、『弾性体はストッパー螺子体に設けた係止凹部に圧入止着されているからストッパー螺子体と弾性体との間から油漏れすることも阻止される。』ものである。本件発明のように締付リング11の回動によって弾性体が圧縮され、シール作用を行うものではない。
また、甲第1号証に記載されたチャック機構は、『締付リング11の回動により押圧リング10でコレット9を拡縮動作させ、工具1の外周面を挟着保持する』作用を有するのみであって、それ以上の作用をするものではない。
これは甲第1号証に記載されたチャック機構の構成をその作用とともに検討すれば明白である。
以上述べたとおり、甲第1号証には、本件発明の特徴とする螺子部材の締付けという一つの動作によって、(イ)シール用弾性部材によるシール、及び(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定、という二つの作用を同時に行うという技術的思想は全く開示されていない。また、それを示唆する具体的記載もない。
したがって、審判請求人の主張は採用されるべきものではない。」


第5 平成22年1月18日付けの無効理由の概要
平成22年1月18日付けの無効理由の概要は、「訂正を認めるけれども、訂正後の請求項13に係る発明は、引用刊行物1である特開平1-246021号公報に記載された発明及び引用刊行物2である特開昭63-120037号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。


第6 訂正後の本件特許発明
本件特許第3050773号の請求項13に係る発明は、訂正後の本件特許明細書の記載からみて、訂正された特許請求の範囲の請求項13に記載されたとおり、次のものと認める。
「【請求項13】 電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能の、体部にスリットを形成したコレットを上記コレット嵌入孔に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間に前記コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合して、当該螺子部材の締付けによって下記(イ)および(ロ)の作用を同時に行うようにしたことを特徴とする電極ホルダ
(イ)シール用弾性部材によるシール
(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定」(以下、「本件特許発明」という。)


第7 特許法第29条に規定する要件についての当審の判断

1.甲第1号証に記載された発明と本件特許発明との対比・判断
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 実用新案登録請求の範囲
「【請求項1】基部から先端部に油通孔2を設けた工具1が挿入される挿入孔7をホルダ3の軸方向に設け、該ホルダ3の先端部に該工具1を保持するチャック機構8を設け、前記挿入孔7に該工具1の挿入固定位置を規制調節するストッパー螺子体12を挿入孔7の内周に設けた雌螺子部7′に螺着してホルダ3の軸方向に対して移動自在に設け、該ストッパー螺子体12の軸芯にオイル通孔を兼ねたレンチ孔13を貫通穿設し、かつストッパー螺子体12の工具1側に圧入係止凹部12′を凹設し、該圧入係止凹部12′に前記レンチ孔13に連通するオイル連通孔15を軸芯に穿設した弾性体14を圧入止着し、この弾性体14の工具側に工具1の基端を支承する円錐状凹部14′を設けたことを特徴とする油孔付工具用チャック。」
イ 第2欄第2行?第3行
「本考案は深穴加工などに用いられる油孔付工具用チャックに係るものである。」
ウ 第3欄第9行?第16行
「本考案は、ストッパー螺子体をホルダの挿入孔に移動自在に螺着して工具を支承する工具固定位置を適正な位置に調節可能にし、かつこのストッパー螺子体に設けた圧入係止凹部に圧入止着した弾性体の円錐状凹部に工具の基端を圧接支承せしめることによりストッパー螺子体と弾性体と工具の基端との間の密着不良を防止して工具の油通孔内に切削油を油洩れなく円滑に供給することのできる油孔付工具用チャックを提案するものである。」
エ 第3欄第18行?第31行
「添付図面を参照して本考案の要旨を説明する。
基部から先端部に油通孔2を設けた工具1が挿入される挿入孔7をホルダ3の軸方向に設け、該ホルダ3の先端部に該工具1を保持するチャック機構8を設け、前記挿入孔7に該工具1の挿入固定位置を規制調節するストッパー螺子体12を挿入孔7の内周に設けた雌螺子部7′に螺着してホルダ3の軸方向に対して移動自在に設け、該ストッパー螺子体12の軸芯にオイル通孔を兼ねたレンチ孔13を貫通穿設し、かつストッパー螺子体12の工具1側に圧入係止凹部12′を凹設し、該圧入係止凹部12′に前記レンチ孔13に連通するオイル連通孔15を軸芯に穿設した弾性体14を圧入止着し、この弾性体14の工具側に工具1の基端を支承する円錐状凹部14′を設けたことを特徴とする油孔付工具用チャックに係るものである。」
オ 第3欄第42行?第4欄第24行
「第1図乃至第3図は本考案の実施の一例を示したもので、1は工具でドリルを使用した場合を図示し、中心に油通孔2を設けている。
3はホルダであって、工作機械の主軸4に引寄部材5でプルスタッド6を引寄せて装着され、中心に工具1を挿入可能な挿入孔7を設けている。
8はチャック機構であって、コレット9、押圧リング10及び締付リング11により構成され、締付リング11の回動により押圧リング10でコレット9を拡縮動作させ、工具1の外周面を挾着保持するように構成されている。
12はストッパー螺子体であって、前記挿入孔7の内周面に設けた雌螺子部7′に螺着され、ストッパー螺子体12の中心には回動用レンチが嵌着可能な六角孔状のレンチ孔13が形成され、かつストッパー螺子体12の工具1当接側に圧入係止凹部12′を設け、この圧入係止凹部12′にこの場合ゴム製の弾性体14を圧入止着する。
符号16はストッパー螺子体12の圧入係止凹部12′の基部に形成した係止凹条、17は弾性体14の基部に設けた係止鍔である。
弾性体14の中心にオイル連通孔15を形成し、弾性体14の工具1側に円錐状凹部14′を形成し、この円錐状凹部14′に工具1の基端を支承せしめる。
この実施例は上記構成であるから、図外の油圧源によりプルスタッド6を介して挿入孔7に切削油Oを供給すると、ストッパー螺子体12のレンチ孔13、弾性体14のオイル連通孔15を経て工具1の油通孔2内に供給され、切削油Oは油通孔2内を通って工具1先端より供給されることになる。
この場合工具1の基端は周縁角部が弾性体14の円錐状凹部14′に弾圧当接しているためレンチ孔13とオイル連通孔15との間及び弾性体14と工具1の基端との間よりの油洩れを防止でき、切削油Oの効率的な噴出作用が可能となる。」
カ 第4欄第26行?第32行
「本考案は上述のように、工具の基端は弾性体の円錐状凹部に食い込むように弾圧当接しているため工具の基端と弾性体との間から油洩れすることが阻止される。また、弾性体はストッパー螺子体に設けた係止凹部に圧入止着されているからストッパー螺子体と弾性体との間から油洩れすることも阻止される。従って、工具から切削油の効率的な噴出作用が可能となる。」
キ 図面の第1図を参照すると、ホルダ3の工具1が挿入される右端部にはテーパ孔が設けられ、このテーパ孔にコレット9が装着されているところが見て取れる。
ホルダ3には、中心に工具1を挿入可能な挿入孔7が設けられていることから、全体として筒状であることが理解できる。
コレットの体部にスリットが形成されていることは技術常識である。図面の第1図を参照すると、コレット9の右端はテーパ状とされ、これに締付リング11内に設けられた押圧リング10のテーパ面が係合し、これにより、コレット9は押圧されて締め付けられるものであることが理解できる。ここで、第1図における右端を下側とすると、コレット9の下部にはテーパ部が設けられたものであることが理解できる。
摘記事項オの「締付リング11の回動により押圧リング10でコレット9を拡縮動作させ」の記載、及び図面の第1図の締付リング11とホルダ3との記載から、締付リング11はホルダ3に調節可能に螺合しているものであることが理解できる。
弾性体14は、工具1の基端部とホルダ3の挿入孔7とストッパー螺子体12の間に設けられているものであることから、この弾性体14により、挿入孔7の内壁と工具1の基端部との間、及び工具1基端部とストッパー螺子体12との間のシールを同時に行うものであることは明らかである。
締付リング11を締め付けると、コレット9に挟持された工具1はコレット9と一体となって動き、工具1の基端部が弾性体14を押圧するものであることから、締付リング11の締め付けにより、弾性体14によるシールとコレット9の体部に形成したスリットの圧縮によるコレット9と工具1との間の挟持固定が同時に行われるものであることが理解できる。
上記アないしカの摘記事項、及びキの認定事項を本件特許発明の表現に沿って整理すると、甲第1号証には、
「工具1の上端部に装着して使用する工具ホルダにして、
工作機械の主軸4に備えた引寄部材5に着脱可能な筒状のホルダ3にコレット9を嵌入するためのテーパ孔を設け、
工具1を挟持固定可能の、体部にスリットを形成したコレット9を上記テーパ孔に嵌入して設けると共に、
前記工具1の基端上面と挿入孔7の途中に設けられたストッパー螺子体12との間に前記ストッパー螺子体12と工具1の基端部との間及び工具1の基端部と挿入孔7の内壁との間のシールを同時に行うゴム製の弾性体14を介在して設け、
かつ上記コレット9下部に形成したテーパ部を締付け可能な締付リング11を前記ホルダ3に調節可能に螺合して、当該締付リング11の締付けによって下記(イ)および(ロ)の作用を同時に行うようにした工具ホルダ。
(イ)ゴム製の弾性体14によるシール
(ロ)コレット9の体部に形成したスリットの圧縮によるコレット9と工具1との間の挟持固定」(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)甲第1号証記載の発明と本件特許発明との対比
本件特許発明と甲第1号証記載の発明とを対比する。
甲第1号証記載の発明における「主軸4」、「引寄部材5」、「ホルダ3」、「テーパ孔」、「ゴム製の弾性体14」、「締付リング11」は、それぞれ、本件特許発明の「主軸」、「チャック」、「外筒」、「コレット嵌入孔」、「シール用弾性部材」、「螺子部材」に相当する。
甲第1号証記載の発明の「工具1」は「加工具」という限りで本件特許発明の「電極」と、甲第1号証記載の発明の「工具ホルダ」は「加工具ホルダ」という限りで本件特許発明の「電極ホルダ」と、甲第1号証記載の発明の「工作機械」は「加工装置」という限りで本件特許発明の「細穴放電加工機」とそれぞれ共通する。
甲第1号証記載の発明の「ストッパー螺子体12と工具1の基端部との間及び工具1の基端部と挿入孔7の内壁との間のシールを同時に行うゴム製の弾性体14」は、「2つのシールを同時に行うシール用弾性部材」であるという限りで、本件特許発明の「コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うシール用弾性部材」と共通する。
したがって、本件特許発明と甲第1号証記載の発明とは、以下の一致点を有し、また、相違点を有している。
<一致点>
「加工具の上端部に装着して使用する加工具ホルダにして、
加工装置の主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、加工具を挟持固定可能の、体部にスリットを形成したコレットを上記コレット嵌入孔に嵌入して設けると共に2つのシールを同時に行うシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合して、当該螺子部材の締付けによって下記(イ)および(ロ)の作用を同時に行うようにした加工具ホルダ
(イ)シール用弾性部材によるシール
(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと加工具との間の挟持固定」
<相違点1>
加工具や加工装置に関して、本件特許発明では、加工装置が「細穴放電加工機」であって、加工具が「電極」であり、加工具ホルダが「電極ホルダ」であるのに対して、甲第1号証記載の発明では、加工装置が工作機械であって、加工具が工具1であり、加工具ホルダが工具ホルダである点。
<相違点2>
シール用弾性部材に関して、本件特許発明では、「コレット上面とコレット嵌入孔との間に介在」するものとし、また、「コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行う」と特定しているのに対して、甲第1号証記載の発明では、工具1の基端上面と挿入孔7の途中に設けられたストッパー螺子体12との間に介在するものとし、前記ストッパー螺子体12と工具1の基端部との間及び工具1の基端部と挿入孔7の内壁との間のシールを同時に行うゴム製の弾性体14である点。
(3)当審の判断
ア <相違点1>について
細穴放電加工機は例示するまでもなく本件特許発明の出願前に周知の事項であるところ、細穴放電加工機も工作機械も共に加工機の技術分野に属するものであることからすれば、工作機械の加工具保持構造を放電加工機の加工具保持構造に適用することは、当業者にとって格別の困難性を有するものではない。そうであるならば、甲第1号証記載の発明における加工具保持構造を細穴放電加工機に適用した場合には、工具1を電極と、工具ホルダを電極ホルダと、工作機械を細穴放電加工機とすることは、甲第1号証記載の発明を細穴放電加工機に転用したことによる当然の変更にすぎない。
イ <相違点2>について
本件特許発明は、コレット上面とコレット嵌入孔との間にシール用弾性部材を介在して設けたものであって、これにより、コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うものである。すなわち、螺子部材の螺合により、本件特許明細書の段落【0052】に記載されているごとく、「コレット27が外筒25に対して上方向に押圧されると、コレット27の上面に配置した弾性部材31の上面がコレット装着孔25C上面へ圧着され、次第に圧縮されて電極11を次第に締付けることになる」ものである。そうすると、コレットの上面がシール用弾性部材を押圧し、これにより、シール用弾性部材が圧縮力を受けるものである。
これに対して甲第1号証記載の発明では、コレット9の上面と弾性体14とは接していないことから、コレット9が締付リング11の締付けにより上昇しても、弾性体14を直接押圧することはできない。また、コレットの上面がシール用弾性部材を直接押圧するという、他の証拠も提示していない。
この点に関して、請求人は、平成22年4月7日に行われた口頭審理において、「訂正後の請求項13に係る発明では、コレット上端がシール用弾性部材と接していることは、構成要件とはなっていない。」(同日付け調書における「請求人の陳述の要領の2」を参照。)と主張している。
しかしながら、本件特許発明では、「コレット上面とコレット嵌入孔との間に・・・シール用弾性部材を介在して設け」と特定しており、「介在」とは、広辞苑(第四版)によると、「両者の間に他のものがはさまってあること」を意味するものであって、本件特許発明においては、シール用弾性部材がコレット上面とコレット嵌入孔の間にはさまれたものであることが特定されていることは明らかであるから、請求人の上記主張は採用することができない。
また、請求人は、平成22年1月28日付け口頭審理陳述要領書において、「甲第1号証の発明においても、コレット9に工具1を通した状態のものをホルダ3のテーパ孔へ挿入し締付リング11を締め付けて行くとコレット9が前進し、その体部に形成したスリットの圧縮によってコレット9と工具1との間の挟持固定が行われる。」(第2頁第15行?第18行)と、また、「テーパ孔に挿入されたコレット9に工具1を、工具1の基端が弾性体14に届く深さで挿入保持し、締付リング11で締め付けて行くとコレット9がテーパ孔中を前進することによりテーパ孔によって締め付けられてスリットの圧縮により工具1を挟持し始め、その後は工具1を挟持した状態で前進するから工具1も前進し、その基端が弾性体14を押すことになり、その結果、甲第1号証の第2頁第4欄第26?27行に記載されているように、『工具の基端は弾性体の円錐状凹部に食い込むように弾圧当接しているため工具の基端と弾性体との間から油漏れすることが阻止される。』ことになるのである。これは、取りも直さず、締付リング11の締付けによってシール用弾性部材によるシールが行われていることに他ならない。」(第2頁第25行?第3頁第8行。)と、締付リング11の締付けによるコレット9の上昇により、間接的に弾性体14が押圧されるものであることを主張している。
また、同じく同口頭審理陳述要領書において、「請求項13の発明ではコレット27に挟持固定される円柱体は細い電極(パイプ電極11)であるので、電極の先端でシール用弾性部材を押し付けることができないため、螺子部材の締付けによって前進するコレットの上端をシール用弾性部材に直接接触させて押し付けるようにしていることによるものである。
ところで、本件特許のような細穴放電加工装置を扱う当業者が、パイプ電極のような細い円柱体の加工液流通孔へのみ加工液を注入し、他へ洩れないようにする構造の実現を考えていたときに、甲第1号証に記載された発明を見たならば訂正後の請求項13の発明の構造に想い到ることは必然的なことである。」(第3頁第27行?第4頁第7行。)と主張し、細い放電加工機の電極であれば、コレット9の上面でシール用弾性部材に直接接触させる構造に想い到ることは必然的なことであると主張している。
しかしながら、コレットの上面をシール用弾性部材に直接接触される従来例を請求人が例示していないことは先に述べたとおりであって、この主張のみによって請求人の主張を採用することはできない。
ウ 作用ないし効果について
本件特許発明は、シール用弾性部材をコレット上面とコレット嵌入孔との間に介在するものとしたことにより、コレットの上昇により、(イ)シール用弾性部材によるシール、と、(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと加工具との間の挟持固定をともに行うものである。
エ 当審の判断のまとめ
したがって、本件特許発明は、甲第1号証記載の発明から当業者が容易になし得たものとすることはできず、請求人の主張する無効理由は、理由がない。

2.当審における無効理由通知に引用された発明と本件特許発明における対比・判断
(1)特開平1-246021号公報に記載された発明
ク 第2頁右上欄第6行?第12行
「〔産業上の利用分野〕
この発明は、超硬合金、焼入鋼等の工作物のワイヤ放電加工用のスタートホール加工、銅、ステンレススチール等の難加工材、曲面、テーパ面を有する工作物に対するワイヤ放電加工及び細穴加工を行うことができる電極交換装置付き放電加工機に関する。」
ケ 第5頁右上欄第15行?右下欄第12行
「次に、この発明による電極交換装置付き放電加工機は、上記のように、パイプ電極を交換することができるが、パイプ電極を交換可能にするためのスタートホール加工装置に適用されたパイプ電極保持装置の一例を第2図を参照して説明する。スタートホール加工装置42の回転スピンドル14に取付けたホルダ部25は、主として、管状のホルダ本体1、スチールボール2、管状のスリーブ3、スプリング4及び管状のガイドリング5から成る。回転スピンドル14には、ホルダ本体lが両者に形成されたねじ12等によって互いに螺入して固定されている。ホルダ本体1には、複数個の係止部材であるスチールボール2が半径方向に移動できるように貫通孔17が形成されている。ホルダ本体1の外周面には、摺動自在にスリーブ3が嵌合し、更に該スリーブ3のガイド及び係止のためのガイドリング5が嵌合している。スリーブ3の内周面即ち大内径部20は、ガイドリング5の外周面上を摺動してガイドされるように構成され、しかも該大内径部20内にガイドリング5の端部に一端が当接したスプリング4が配置されている。該ガイドリング5は、ホルダ本体1に係止したストップリング7によって軸方向移動が規制されている。スリーブ3の小内径部21は、テーパ面18に形成され、該テーパ面18はホルダ本体1の貫通孔17に嵌入したスチールボール2に当接している。それ故に、スリーブ3がスプリング4によって軸方向に付勢されることによって、スリーブ3のテーパ面18がスチールボール2を半径方向内向きに付勢するようになる。更に、ホルダ本体lの内周面にはOリング6が配置されており、ホルダ本体lにチャック本体8が取付けられた時に、該Oリング6はホルダ本体lとチャック本体8との間をシールする。また、ホルダ本体lの外周面に配置されたOリング13は、回転スピンドル14にホルダ本体1が取付けられた時に、回転スピンドル14とホルダ本体1との間をシールする。」
コ 第5頁右下欄第13行?第6頁右上欄第15行
「次に、ホルダ部25に差し込んで取付けられるチャック部28の構造について説明する。チャック部28は、主として、管状のチャック本体8、管状のコレット10、袋ナット11、管状のパッキン15、チャック本体8の内周面に配置されたOリング57、及びパイプ内に加工液を通すことができるパイプ電極16から成る。チャック本体8の一端側は、ホルダ本体1に嵌合するように構成され、該チャック本体8の外周面には、ホルダ本体lに取付けられたスチールボール2が嵌合することができる環状溝22が形成されている。また、チャック本体8の他端側には雄ねじ23が形成され、該雄ねじ23に袋ナツト11の雌ねじ24が螺合される。チャック本体8の内周面には、Oリング6が配置されておりチャック本体8と管状のコレット10との間をシールしており、該コレット10の一端部に形成した突出部26は袋ナット11の端部に当接し、また、コレット10の他端部は、パッキンサポータ9に当接し、該パッキンサポータ9はチャック本体8内に配置されたパッキン15を押圧支持している。即ち、袋ナット11がチャック本体8に螺入されることによってコレット10がチャック本体8内に密封状態に固定されている。また、このコレット10にはパイプ電極16が貫通状態に配置され、パイプ電極16がコレット10に把握されている。しかも、該パイプ電極16の上端部はパッキン15を貫通して上方にパイプ口を開口している。従って、袋ナット11が螺入され、コレット10の端部がパッキンサポータ9を介してパッキン15を押圧してパッキン15は取付けられる。チャック本体8とパイプ電極16とはパッキン15及びOリング57によって密封状態が確保される。即ち、チャック本体8とパイプ電極16との間の密封状態の確保は、ナット11の緊締に加えて、加工液の水圧がパッキン15にかかることによってパッキン15がパイプ電極16に押付けられ、シール効果が生じ、また、チャック本体8とコレット10との間はOリング57によってシール状態が確保されている。従って、ホルダ本体1に導入された高圧水である加工液はパイプ電極16の上端部からパイプ電極16のパイプ内に漏洩することなく導入される。」
サ ここで、図面の第2図を参照すると、チャック部28を有するパイプ電極保持装置は、パイプ電極16の上端部に装着して使用するものであることが見て取れる。
また、ホルダ本体1とチャック本体8とが着脱可能になっていることは明らかである。
さらに、第2図の下半分を参照すると、チャック本体8には、コレット10が入り込む嵌入孔が設けられていることが理解できる。
そして、コレット10は、パイプ電極16の外周を取り巻いていることから、パイプ電極16はコレット10に挟持固定されているものであることも明らかである。また、コレット10の体部にスリットが形成されていることは、技術常識である。
チャック本体8の嵌入孔の入口はテーパ状となっているのに対して、コレット10の下部外周には対応するテーパ部が設けられており、袋ナット11の螺合により、コレット10が締め付けられるものであること、すなわち、コレット10の体部に形成したスリットが圧縮され、パイプ電極16が挟持固定されるものであることが理解できる。そして、袋ナット11の螺合によりコレット10は上方へ押し込まれるので、これにより、パッキンサポータ9を介してパッキン15が押圧され、結果として、パッキン15によるシールの作用が同時に行われるものであることが理解できる。
上記記載事項クないしコ、認定事項サ、及び図面から見て、引用刊行物1には、
「パイプ電極16の上端部に装着して使用するパイプ電極保持装置にして、細穴加工を行うことができる放電加工機の回転スピンドル14を備えたホルダ部25のホルダ本体1に着脱可能な管状のチャック本体8にコレット10が入り込む嵌入孔を設け、パイプ電極16を挟持固定可能の、体部にスリットを形成したコレット10を上記チャック本体8の嵌入孔に嵌入して設けると共に上記コレット10の上面と嵌入孔との間にパッキン15及びパッキンサポータ9を介在して設け、また、コレット10の外周とチャック本体8の嵌入孔内周との間にOリング57を設け、さらに、コレット10下部に形成したテーパ部を締付け可能に袋ナット11をチャック本体8に調節可能に螺合して、これらパッキン15、及びOリング57により嵌入孔とコレット10との間及びコレット10とパイプ電極16の間のシールを行い、また、袋ナット11の締付けにより、(イ)パッキン15によるシール、(ロ)コレット10の体部に形成したスリットの圧縮によるコレット10とパイプ電極16との間の挟持固定を同時に行うようにしたパイプ電極保持装置。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
(2)特開昭63-120037号公報に記載された発明
シ 第1頁左下欄第18行?右下欄第1行
「〔産業上の利用分野〕
この発明は、放電加工装置において、被加工物に細穴加工をする際に、パイプ電極の内部へ加工液を供給する装置に関するものである。」
ス 第2頁右上欄第19行?左下欄第13行
「第1図はこの発明の一実施例である放電加工装置におけるコレットシャンクの構造を示す断面図である。第1図に示すように、パイプ電極1をコレット7に挿した後に、コレット7をナット2によりコレットシャンク3に取り付ける。ここで、電極ホルダ5(第3図参照)とコレットシャンク3との間は、コレットシャンク3の外径部に取り付けたOリング4により加工液15のシールを行っている。また、コレットシャンク3の内部にあるパイプ電極1の外部に、パッキン10と座金9及びスプリング8により構成されるシール構造を設け、このシール構造によって、パイプ電極1の外部へ加工液15が流出することを防止し、パイプ電極1の内部へのみ加工液15が流入するように構成する。」
セ ここで、図面の第1図を参照すると、コレットシャンク3には、嵌入孔が設けられ、この嵌入孔内にコレット7が嵌入されているのが見て取れる。そして、引用刊行物1において認定したのと同様、コレット7の体部にはスリットが形成されていることは、技術常識である。
また、コレット7の下部にはテーパ部が形成されていることが見て取れる。そして、摘記事項スの「コレット7をナット2によりコレットシャンク3に取り付ける。」の記載、及び図面の第1図を参照することにより、ナット2の締付けによって、コレット7の下部のテーパ部が径方向内方及び上方に押圧され、これにより、パッキン10が押圧されてシールすること、およびコレット7の体部に形成したスリットの圧縮によるコレット7とパイプ電極1との間の挟持固定と、が同時に行われるものであることが理解できる。
よって、記載事項シないしス、認定事項セ、及び図面からみて、引用刊行物2には、
「細穴加工する放電加工装置におけるコレットシャンク3に嵌入孔を設け、体部にスリットを形成したコレット7を上記嵌入孔に嵌入して設けるとともに、コレット7上面と嵌入孔との間にパッキン10と座金9とスプリング8とによりシール構造を設け、このシール構造により、パイプ電極1の外部へ加工液15が流出することを防止し、かつコレット7の下部に形成したテーパ部を締付け可能のナット2を前記コレットシャンク2に調節可能に螺合して、当該ナット2の締付けによって(イ)パッキン10が押圧されてシールすること、および(ロ)コレット7の体部に形成したスリットの圧縮によるコレット7とパイプ電極1との間の挟持固定の作用を同時に行うようにしたコレットシャンク。」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
(3)対比
本件特許発明と引用発明1とを比較する。
ア 引用発明1の「パイプ電極16」、「パイプ電極保持装置」、「回転スピンドル14」、「管状のチャック本体8」、「コレット10」、「袋ナット11」は、本件特許発明の「電極」、「電極ホルダ」、「主軸」、「筒状の外筒」、「コレット」、「螺子部材」に、それぞれ相当する。
イ 引用発明1の「細穴加工を行うことができる放電加工機」が、「細穴放電加工機」と言えるものであることは明らかである。
ウ 引用発明1の「回転スピンドル14を備えたホルダ部25のホルダ本体1」は、本件特許発明の「主軸に備えたチャック」に相当する。
エ 引用発明1の「コレット10が入り込む嵌入孔」は、本件特許発明の「コレット嵌入孔」に相当する。
オ 引用発明1の「パッキン15」は、コレット10の上面とチャック本体8の嵌入孔の間に設けられていることから、本件特許発明の「シール用弾性部材」に相当する。
したがって、本件特許発明と引用発明1の両者は、
「電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能の、体部にスリットを形成したコレットを上記コレット嵌入孔に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間にシール用弾性部材を設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合して、当該螺子部材の締付けによって下記(イ)および(ロ)の作用を同時に行うようにした電極ホルダ、(イ)シール用弾性部材によるシール、(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定」の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点3>
シール用弾性部材に関して、本件特許発明では、「コレット上面とコレット嵌入孔との間に介在して」と特定し、また、「コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行う」と特定しているのに対して、引用発明1では、コレット10の上面に直接パッキン15を介在させずに、コレット10の上面と嵌入孔との間にパッキン15及びパッキンサポータ9を介在して設け、また、コレット10の外周と嵌入孔内周との間にOリング57を設け、これらパッキン15、Oリング57により嵌入孔とコレット10との間及びコレット10とパイプ電極16の間のシールを行っている点。
(4)当審の判断
ア <相違点3>について
引用発明1では、コレット10とパッキン15との間にパッキンサポータ9を介在させているが、一般に別部材を介して押圧するところを別部材を介在させずに直接押圧することは例示するまでもなく従来周知の事項であることからすれば、引用発明1において、パッキンサポータ9を介在させずにコレット10の上面で直接パッキン15を押圧することは当業者が容易になし得たものである。
また、引用発明2は、「細穴加工する放電加工装置におけるコレットシャンク3に嵌入孔を設け、体部にスリットを形成したコレット7を上記嵌入孔に嵌入して設けるとともに、コレット7上面と嵌入孔との間にパッキン10と座金9とスプリング8とによりシール構造を設け、このシール構造により、パイプ電極1の外部へ加工液15が流出することを防止し、かつコレット7の下部に形成したテーパ部を締付け可能のナット2を前記コレットシャンク2に調節可能に螺合して、当該ナット2の締付けによって(イ)パッキン10が押圧されてシールすること、および(ロ)コレット7の体部に形成したスリットの圧縮によるコレット7とパイプ電極1との間の挟持固定の作用を同時に行うようにしたコレットシャンク。」である。ここで、シール構造におけるシール部材は「パッキン10」であって、パッキン10がコレット7上面に接して設けられていることは明らかであるから、コレット7の上昇によりパッキン10が押圧され、このパッキン10により、コレットシャンク3の嵌入孔とコレット7の間、及びコレット7とパイプ電極1との間のシールを同時に行われるものであることは明らかである。そして、引用発明1も引用発明2も、共に、細穴加工を行う放電加工における電極保持部に関する技術であるという、技術の共通性を鑑みると、コレットの上面に設けられ、コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うパッキン10の構造を、引用発明1に適用し、そのコレット10の上面に設けられたパッキン15により、コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うものとすることは、当業者が容易になし得たものである。
イ 作用ないし効果について
本件特許発明によってもたらされる効果は、引用刊行物1、2の記載から当業者が予測し得る程度のものである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明は、引用刊行物1に記載された発明に基づいて、あるいは、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第8 むすび
したがって、本件特許発明は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
細穴放電加工機に対する電極、電極ガイド交換方法及び同方法に使用する交換装置、電極ホルダ、細穴放電加工機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】細穴放電加工機における電極交換方法にして、次の各工程を有することを特徴とする電極交換方法、
(a)細穴放電加工機における加工ヘッドを電極交換位置へ位置決めする工程、
(b)電極ストッカに保持されている所望の電極を電極交換位置に割出す工程、
(c)電極交換位置に割出された電極を、電極ホルダ移送装置に往復動可能に備えた一対の挾持爪によって前記加工ヘッドに備えた主軸の下方位置へ水平にかつ直線的に移送し位置決めする工程、
(d)前記主軸を下降せしめて、当該主軸に備えたチャックによって電極の上端部に予め取付けてある電極ホルダを保持すると共に、チャック及び電極を介して放電加工部へ供給される加工液の漏洩を防止すべく、前記主軸に下方向へ付勢して内装したシール部材の下端部に備えたシールリングに前記電極ホルダの上端部を密着せしめる工程。
【請求項2】細穴放電加工機における電極ガイド交換方法にして、次の各工程を有することを特徴とする電極ガイド交換方法、
(a)細穴放電加工機における加工ヘッドに対して着脱交換する複数の電極ガイドを保持した電極ガイドストッカを、電極ガイド着脱交換位置へ位置決めする工程、
(b)着脱交換位置へ位置決めした電極ガイドストッカに保持されている所望の電極ガイドの上方位置に加工ヘッドを位置決めする工程、
(c)加工ヘッドを下降して、当該加工ヘッドに備えた電極ガイド装着部に所望の電極ガイドを係合する工程、
(d)上記電極ガイド装着部に備えたロック装置によって電極ガイドを固定する工程。
【請求項3】水平に走行可能に設けたエンドレスチェーンに、電極の上端部に取付けた電極ホルダを水平方向に着脱可能に支持する複数のホルダ支持部材を設け、所定位置に割出し位置決めされたホルダ支持部材に支持されている電極ホルダを保持して細穴放電加工機の電極交換位置へ移送可能の電極ホルダ移送装置を、前記エンドレスチエーンの下方位置に水平に設けてなることを特徴とする電極交換装置。
【請求項4】ホルダ支持部材に、電極ホルダを固定保持するためのマグネット(永久磁石)を備えていることを特徴とする請求項3に記載の電極交換装置。
【請求項5】細穴放電加工機における加工ヘッドに対して着脱交換する複数の電極ガイドを保持した電極ガイドストッカを、前記細穴放電加工機の電極ガイド交換位置へ移動自在に備えていることを特徴とする請求項3又は4に記載の電極交換装置。
【請求項6】電極ガイドストッカに、電極ガイドを固定保持するためのマグネットを備えていることを特徴とする請求項5に記載の電極交換装置。
【請求項7】ワークテーブルの上方位置において前後左右方向へ移動位置決め自在に設けたスライダに、加工ヘッドを上下位置調節自在に設け、この加工ヘッドに、電極上端部を保持するチャックを備えた主軸を上下動可能に設け、この主軸の下方位置に、前記電極を案内する電極ガイド装置を備えた構成の細穴放電加工機において、前記チャックは、電極の上端部に取付けた電極ホルダを着脱交換自在の構成であり、かつチャックから電極ホルダを介して電極へ流通される加工液の漏洩を防止すべく、前記電極ホルダの上端部に密着するシールリングを下端部に備えたシール部材を下方向へ付勢して前記主軸に内装した構成であることを特徴とする細穴放電加工機。
【請求項8】電極ガイド装置は、電極の下端部を中心に誘導するテーパ孔を備え、このテーパ孔の下側に設けたVブロックのV字形状の溝へ電極を案内する電極ガイドを押圧固定可能かつ着脱交換可能に備えた構成であることを特徴とする請求項7に記載の細穴放電加工機。
【請求項9】ワークテーブルの上方位置において前後左右方向へ移動位置決め自在に設けたスライダに加工ヘッドを上下位置調節自在に設け、この加工ヘッドに、電極の上端部を保持するチャックを備えた主軸を上下動可能に設け、この主軸の下方位置に、前記電極を案内する電極ガイド装置を備えた構成の細穴放電加工機において、前記電極ガイド装置は、電極の下端部を中心に誘導するテーパ孔を備え、このテーパ孔の下側に設けたVブロックのV字形状の溝へ電極を案内する電極ガイドを押圧固定可能かつ着脱交換可能に備えた構成であることを特徴とする細穴放電加工機。
【請求項10】主軸のチャックに電極を取付けるとき水平方向から電極を規制して電極の振れを防止するV字形状の溝を備えた振れ防止部材を備えてなる電極振れ防止装置を備えたことを特徴とする請求項7,8又は9に記載の細穴放電加工機。
【請求項11】電極振れ防止装置は、水平方向から電極を規制するV字形状の溝を備えた振れ防止部材を設け、この振れ防止部材を、前記主軸と一体的に上下動可能かつ所定位置に固定停止可能に設けてなることを特徴とする請求項10に記載の細穴放電加工機。
【請求項12】主軸ヘッド側又は振れ防止部材の一方に、両方を一体化するためのマグネットを設け、前記振れ防止部材又は固定部分の一方に、振れ防止部材を所定位置に固定停止するためのマグネットを設けてなることを特徴とする請求項11に記載の細穴放電加工機。
【請求項13】電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能の、体部にスリットを形成したコレットを上記コレット嵌入孔に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間に前記コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合して、当該螺子部材の締付けによって下記(イ)および(ロ)の作用を同時に行うようにしたことを特徴とする電極ホルダ
(イ)シール用弾性部材によるシール
(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ワークに細穴の放電加工を行う細穴放電加工機に対して電極,電極ガイドの着脱交換を行う交換方法及び同方法に使用する交換装置,細穴放電加工機及び電極ホルダに関する。
【0002】
【従来の技術】
本発明に係る先行例として、例えば特開平3-287318号公報がある。この先行例の構成は、放電加工機における主軸に対して接近離反する方向へ往復動自在に設けたフレームに、円板状のチャック用パレットを回転可能に設け、このチャック用パレットの外周縁付近に設けた多数の支持孔に、パイプ電極の上端部に取付けたチャック部を水平方向に着脱可能に支持した構成である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前述のごとき従来の構成においては、チャック用パレットを旋回して所望のパイプ電極を交換位置に割出した後、放電加工機における主軸の位置へチャック用パレットを移動し、その後にチャック用パレットを上昇せしめて、交換位置に割出されているパイプ電極を、主軸のパイプ電極ホルダに挿入することにより、主軸に対して新しいパイプ電極の装着を行う構成である。
【0004】
すなわち、先行例においては、多数のパイプ電極を支持したチャック用パレット自体を放電加工機の主軸の下方位置へ移動し位置決めする構成であるから、例えば主軸の下方位置に大きな空間が必要であるなど種々の解決すべき問題がある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前述のごとき従来の問題に鑑みてなされたもので、請求項1に記載発明は、細穴放電加工機における電極交換方法にして、細穴放電加工機における加工ヘッドを電極交換位置へ位置決めする(a)工程と、電極ストッカに保持されている所望の電極を電極交換位置に割出す(b)工程と、電極交換位置に割出された電極を、電極ホルダ移送装置に往復動可能に備えた一対の挾持爪によって前記加工ヘッドに備えた主軸の下方位置へ水平にかつ直線的に移送し位置決めする(c)工程と、前記主軸を下降せしめて、当該主軸に備えたチャックによって電極の上端部に予め取付けてある電極ホルダを保持すると共に、チャック及び電極を介して放電加工部へ供給される加工液の漏洩を防止すべく、前記主軸に下方向へ付勢して内装したシール部材の下端分に備えたシールリングに前記電極ホルダの上端部を密着せしめる(d)工程とよりなる電極交換方法である。
【0006】
請求項2に記載の発明は、細穴放電加工機における電極ガイド交換方法にして、細穴放電加工機における加工ヘッドに対して着脱交換する複数の電極ガイドを保持した電極ガイドストッカを、電極ガイド着脱交換位置へ位置決めする(a)工程と、着脱交換位置へ位置決めした電極ガイドストッカに保持されている所望の電極ガイドの上方位置に加工ヘッドを位置決めする(b)工程と、加工ヘッドを下降して、当該加工ヘッドに備えた電極ガイド装着部に前記所望の電極ガイドを係合する(c)工程と、上記電極ガイド装着部に備えたロック装置によって電極ガイドを固定する(d)工程と、よりなる電極ガイド交換方法である。
【0007】
請求項3に記載の発明は、水平に走行可能に設けたエンドレスチェーンに、電極の上端部に取付けた電極ホルダを水平方向に着脱可能に支持する複数のホルダ支持部材を設け、所定位置に割出し位置決めされたホルダ支持部材に支持されている電極ホルダを保持して細穴放電加工機の電極交換位置へ移送可能の電極ホルダ移送装置を、前記エンドレスチエンの下方位置に水平に設けてなる電極交換装置である。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、ホルダ支持部材に、電極ホルダを固定保持するためのマグネット(永久磁石)を備えている電極交換装置である。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載の発明において、細穴放電加工機における加工ヘッドに対して着脱交換する複数の電極ガイドを保持した電極ガイドストッカを、前記細穴放電加工機の電極ガイド交換位置へ移動自在に備えている構成である。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、電極ガイドストッカに、電極ガイドを固定保持するためのマグネットを備えている構成である。
【0011】
請求項7に記載の発明は、ワークテーブルの上方位置において前後左右方向へ移動位置決め自在に設けたスライダに、加工ヘッドを上下位置調節自在に設け、この加工ヘッドに、電極上端部を保持するチャックを備えた主軸を上下動可能に設け、この主軸の下方位置に、前記電極を案内する電極ガイド装置を備えた構成の細穴放電加工機において、前記チャックは、電極の上端部に取付けた電極ホルダを着脱交換自在の構成であり、かつチャックから電極ホルダを介して電極へ流通される加工液の漏洩を防止すべく、前記電極ホルダの上端部に密着するシールリングを下端部に備えたシール部材を下方向へ付勢して前記主軸に内装した構成の細穴放電加工機である。
【0012】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、電極ガイド装置は、電極の下端部を中心に誘導するテーパ孔を備え、このテーパ孔の下側に設けたVブロックのV字形状の溝へ電極を案内する電極ガイドを押圧固定可能かつ着脱交換可能に備えた構成である。
【0013】
請求項9に記載の発明は、ワークテーブルの上方位置において前後左右方向へ移動位置決め自在に設けたスライダに加工ヘッドを上下位置調節自在に設け、この加工ヘッドに、電極の上端部を保持するチャックを備えた主軸を上下動可能に設け、この主軸の下方位置に、前記電極を案内する電極ガイド装置を備えた構成の細穴放電加工機において、前記電極ガイド装置は、電極の下端部を中心に誘導するテーパ孔を備え、このテーパ孔の下側に設けたVブロックのV字形状の溝へ電極を案内する電極ガイドを押圧固定可能かつ着脱交換可能に備えた構成の細穴放電加工機である。
【0014】
請求項10に記載の発明は、請求項7,8又は9に記載の発明において、主軸のチャックに電極を取付けるとき水平方向から電極を規制して電極の振れを防止するV字形状の溝を備えた振れ防止部材を備えてなる電極振れ防止装置を備えた細穴放電加工機である。
【0015】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の発明において、電極振れ防止装置は、水平方向から電極を係合支持するV字形状の振れ防止部材を設け、この振れ防止部材を、前記主軸と一体的に上下動可能かつ所定位置に固定停止可能に設けてなる細穴放電加工機である。
【0016】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の発明において、主軸ヘッド側又は振れ防止部材の一方に、両方を一体化するためのマグネットを設け、前記振れ防止部材又は固定部分の一方に、振れ防止部材を所定位置に固定停止するためのマグネットを設けてなる細穴放電加工機である。
【0017】
請求項13に記載の発明は、電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能の、体部にスリットを形成したコレットを上記コレット嵌入孔内に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間に前記コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合して、当該螺子部材の締付けによって下記(イ)および(ロ)の作用を同時に行うようにしたことを特徴とする電極ホルダである、
(イ)シール用弾性部材によるシール
(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定
【0018】
【0019】
【作用】
請求項1に記載の発明は、細穴放電加工機における電極交換方法にして、細穴放電加工機における加工ヘッドを電極交換位置へ位置決めする(a)工程と、電極ストッカに保持されている所望の電極を電極交換位置に割出す(b)工程と、電極交換位置に割出された電極を、電極ホルダ移送装置に往復動可能に備えた一対の挾持爪によって前記加工ヘッドに備えた主軸の下方位置へ水平にかつ直線的に移送し位置決めする(c)工程と、前記主軸を下降せしめて、当該主軸に備えたチャックによって電極の上端部に予め取付けてある電極ホルダを保持すると共に、チャック及び電極を介して放電加工部へ供給される加工液の漏洩を防止すべく、前記主軸に下方向へ付勢して内装したシール部材の下端部に備えたシールリングに前記電極ホルダの上端部を密着せしめる(d)工程と、よりなるものである。
【0020】
上記構成により、細穴放電加工機における加工ヘッドを電極交換位置へ位置決めすると共に電極ストッカに保持されている所望の電極を電極交換位置に割出した後、当該電極を電極ホルダ移送装置に備えた挾持爪によって加工ヘッドの主軸の下方位置へ水平にかつ直線的に移送し、その後に、前記主軸を下降して、主軸に備えたチャックによって電極の上端部に取付けてある電極ホルダを保持すると、上記主軸に下方向へ付勢して内装したシール部材の下端部に備えたシールリングに電極ホルダの上端部が密着されて、加工液の漏洩が防止される。
【0021】
請求項2に記載の発明は、細穴放電加工機における電極ガイド交換方法にして、細穴放電加工機における加工ヘッドに対して着脱交換する複数の電極ガイドを保持した電極ガイドストッカを、電極ガイド着脱交換位置へ位置決めする(a)工程と、着脱交換位置へ位置決めした電極ガイドストッカに保持されている所望の電極ガイドの上方位置に加工ヘッドを位置決めする(b)工程と、加工ヘッドを下降して、当該加工ヘッドに備えた電極ガイド装着部に前記所望の電極ガイドを係合する(c)工程と、上記電極ガイド装着部に備えたロック装置によって電極ガイドを固定する(d)工程とよりなるものである。
【0022】
上記構成により、複数の電極ガイドを保持した電極ガイドストッカを電極ガイド交換位置へ位置決めすると共に、上記電極ガイドストッカ上の所望の電極ガイドの上方位置に加工ヘッドを位置決めした後に、加工ヘッドを下降して電極ガイド装着部に前記電極ガイドを装着した後、ロック装置を作動することにより電極ガイドを電極ガイド装着部に確実に装着することができる。
【0023】
請求項3に記載の発明は、水平に走行可能に設けたエンドレスチェンに、電極の上端部に取付けた電極ホルダを水平方向に着脱可能に支持する複数のホルダ支持部材を設け、所定位置に割出し位置決めされたホルダ支持部材に支持されている電極ホルダを保持して細穴放電加工機の電極交換位置へ移送可能の電極ホルダ移送装置を、前記エンドレスチエンの下方位置に水平に設けてなるものである。
【0024】
したがって、所定位置に割出し位置決めされたホルダ支持部材に支持されている電極ホルダは、電極ホルダ移送装置によって細穴放電加工機の電極交換位置へ水平に移送でき、細穴放電加工機に装着することができる。
【0025】
請求項4に記載の発明は、ホルダ支持部材に、電極ホルダを固定保持するためのマグネット(永久磁石)を備えた構成であるから、ホルダ支持部材に対する電極ホルダの着脱を容易に行うことができると共に、ホルダ支持部材に対して電極ホルダを確実に固定することができる。
【0026】
請求項5に記載の発明は、細穴放電加工機における加工ヘッドに対して着脱交換する複数の電極ガイドを保持した電極ガイドストッカを、前記細穴放電加工機の電極ガイド交換位置へ移動自在に備えているものであるから、細穴放電加工機に装着する電極の径に対応して電極ガイドの交換を行うことができ、種々の径の電極に対応することができる。
【0027】
請求項6に記載の発明は、電極ガイドストッカに、電極ガイドを固定保持するためのマグネットを備えているものであるから、電極ガイドストッカに対する電極ガイドの着脱が容易であると共に、電極ガイドストッカに対する電極ガイドの固定を確実に行うことができる。
【0028】
請求項7に記載の発明は、ワークテーブルの上方位置において前後左右方向へ移動位置決め自在に設けたスライダに、加工ヘッドを上下位置調節自在に設け、この加工ヘッドに、電極上端部を保持するチャックを備えた主軸を上下動可能に設け、この主軸の下方位置に、前記電極を案内する電極ガイド装置を備えた構成の細穴放電加工機において、前記チャックは、電極の上端部に取付けた電極ホルダを着脱交換自在の構成であり、かつチャックから電極ホルダを介して電極へ流通される加工液の漏洩を防止すべく、前記電極ホルダの上端部に密着するシールリングを下端部に備えたシール部材を下方向へ付勢して前記主軸に内装した構成であるから、電極を交換した場合であっても、その都度、加工液の漏洩が確実に行われるものである。
【0029】
請求項8に記載の発明において、電極ガイド装置は、電極の下端部を中心に誘導するテーパ孔を備え、このテーパ孔の下側に設けたVブロックのV字形状の溝へ電極を案内する電極ガイドを押圧固定可能かつ着脱交換可能に備えた構成であるから、電極の径の変化に対応して電極ガイドを交換して対応することができ、電極ガイド交換後においても電極ガイドへの電極の誘導を確実に行うことができる。
【0030】
請求項9に記載の発明は、ワークテーブルの上方位置において前後左右方向へ移動位置決め自在に設けたスライダに加工ヘッドを上下位置調節自在に設け、この加工ヘッドに、電極の上端部を保持するチャックを備えた主軸を上下動可能に設け、この主軸の下方位置に、前記電極を案内する電極ガイド装置を備えた構成の細穴放電加工機において、前記電極ガイド装置は、電極の下端部を中心に誘導するテーパ孔を備え、このテーパ孔の下側に設けたVブロックのV字形状の溝へ電極を案内する電極ガイドを押圧固定可能かつ着脱交換可能に備えた構成であるから、着脱交換した電極ガイドに対して電極を確実に誘導することができ、電極ガイドによって電極をガイドすることができる。
【0031】
請求項10に記載の発明は、主軸のチャックに電極を取付けるとき水平方向から電極を規制して電極の振れを防止するV字形状の溝を備えた振れ防止部材を備えてなる電極振れ防止装置を備えているものであるから、電極の振れ防止を効果的に行うことができるものである。
【0032】
請求項11に記載の発明は、電極振れ防止装置は、水平方向から電極を係合支持するV字形状の振れ防止部材を設け、この振れ防止部材を、前記主軸と一体的に上下動可能かつ所定位置に固定停止可能に設けてなるものであるから、放電加工時に電極を回転する際には電極の中間部分の振れを効果的に防止し、加工精度がより向上するものである。
【0033】
請求項12に記載の発明は、主軸ヘッド側又は振れ防止部材の一方に、両方を一体化するためのマグネットを設け、前記振れ防止部材又は固定部分の一方に、振れ防止部材を所定位置に固定停止するためのマグネットを設けてなるものであるから、電極の消耗に従う主軸ヘッド側の下降に従って一体的に下降し、かつ主軸ヘッド側の上昇時には一体的に上昇し、所定位置において固定部分に固定されるものである。
【0034】
請求項13に記載の発明は、電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能の、体部にスリットを形成したコレットを上記コレット嵌入孔内に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間に前記コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合して、当該螺子部材の締付けによって、(イ)シール用弾性部材によるシールと、(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定とを同時に行うようにしたものであるから、螺子部材によってコレットを締付けると、コレットによる電極の挾持固定が行われると共にシール用弾性部材が圧縮されてシール効果が発揮される。
【0035】
【0036】
【実施例】
図1に概念的に示すように、本実施例に係る細穴放電加工機1は、ワークWを支持するワークテーブル3を備えており、このワークテーブル3の上方位置には、スライダ5が前後左右方向へ移動位置決め自在に設けられている。
【0037】
そして、上記スライダ5には、加工ヘッド7が上下位置調節自在に装着してあり、この加工ヘッド7には主軸ヘッド9が上下位置調節自在に装着してある。この主軸ヘッド9にはパイプ電極11の上端部を保持固定自在の主軸13が回転自在に設けられている。
【0038】
前記加工ヘッド7における昇降フレーム14の下端部には、前記パイプ電極11を案内支持する電極ガイド装置15が設けられている。
【0039】
以上のごとき概略的構成は既に公知の構成であり、かつ各可動部分を作動する構成も公知であるが、念のためさらに詳細に説明すると、前記ワークテーブル3と一体的な固定フレーム17に装着したサーボモータM1の駆動によってボールネジ機構(図示省略)が作動されて、キャリッジ19が左右方向(X軸方向)へ移動位置決めされるように構成してある。
【0040】
上記キャリッジ19には前記スライダ5が前後方向(Y軸方向)へ移動可能に支持されており、上記キャリッジ19に装着したサーボモータM2の駆動によってスライダ5が前後方向に移動位置決めされるように構成してある。
【0041】
上記スライダ5に、前記加工ヘッド7の昇降フレーム14が上下動可能に支持されており、上記スライダ5に装着したサーボモータM3の駆動によって前記昇降フレーム14の上下方向(Z軸方向)の移動位置決めが行われるように構成されている。
【0042】
前記昇降フレーム14にはサーボモータM4が装着してあり、このサーボモータM4を駆動することにより、前記主軸ヘッド9が昇降フレーム14に沿って上下動するように構成されている。この主軸ヘッド9には前記主軸13を回転するためのモータM5が装着してある。
【0043】
以上のごとき概略的な構成は、既述したように公知の構成であるから、その作用についての説明は省略する。
【0044】
さて、図2を参照するに、本実施例に係る細穴放電加工機における主軸13の下端部には、パイプ電極11の上端部に取付けた電極ホルダ21を着脱可能に保持するチャック23が取付けてある。
【0045】
先ず、上記電極ホルダ21の構成について説明すると、電極ホルダ21は、筒状の外筒25を備えている。この外筒25の軸心には、加工液を流通可能の貫通孔25Hが設けてあると共に、貫通孔25Hより大径のコレット嵌入孔25Cが貫通孔25Hの下側に設けてある。
【0046】
上記外筒25の上端部25Uは小径に形成してあり、下側の大径部分の外周面にはボール係合用の周溝25Gが形成してある。さらに、上記周溝25Gの下方位置にはフランジ25Fが形成してあり、下端外周面には、コレット装着孔25C内に嵌入したコレット27を締付け固定するための螺子部材として袋ナット29が着脱可能に螺着してある。
【0047】
上記コレット27は、図3に示すように、電極11を挿通可能の挿通孔27Hを備えていると共に、体部にはスリット27Sが形成してある。また、コレット27の下端外周面にはテーパ面27Tに形成してある。さらにコレット27の上面には、例えばゴムのごときシール用の弾性部材31(図2参照)が取付けてある。
【0048】
なお、上記弾性部材31は、例えば接着等によってコレット27の上面に一体的に取付ける構成であることが望ましい。しかし、コレット27の上面に弾性部材31を単に載置する構成とすることも可能である。
【0049】
前記袋ナット29には前記コレット27のテーパ面27Tと係合可能なテーパ状の係合孔29Hが形成してある。
【0050】
上記構成により、袋ナット29を緩めた状態にあるとき、シール用の弾性部材31の上面から電極11の上端が僅かに突出するように、コレット27の挿通孔27Hに電極11を下側から挿入する。
【0051】
その後、袋ナット29を締付けると、コレット27のテーパ面27Tに袋ナット29の係合孔29Hが係合し、図2において、コレット27を上方向に押圧すると共に、テーパ面27Tを締付ける態様となる。
【0052】
上述のごとく、コレット27が外筒25に対して上方向に押圧されると、コレット27の上面に配置した弾性部材31の上面がコレット装着孔25C上面へ圧着され、次第に圧縮されて電極11を次第に締付けることになる。
【0053】
したがって、弾性部材31の作用によって、コレット27とコレット装着孔25C、貫通孔25Hとの間およびコレット27と電極11との間のシールが同時に行われる。
【0054】
また、袋ナット29がコレット27のテーパ面27Tを締付けることにより、コレット27による電極11の締付けも同時に行われることになる。
【0055】
上記説明より理解されるように、電極ホルダ21は、電極11の上端部に予め取付けることができるものである。
【0056】
前記チャック23は次のごとく構成してある。すなわち、図2に詳細に示すように、主軸13はパイプ状であって、この主軸13内にはパイプ状のシール部材33が上下動可能に嵌入されている。このシール部材33は、主軸13に内装したスプリング35によって常に下方向へ付勢されており、このシール部材33の外周面にはシール用のOリング37が設けてある。
【0057】
さらに、上記シール部材33の下端部には、前記電極ホルダ21における外筒25の上面に当接可能のゴム等によりなるシールリング39が設けてある。
【0058】
前記主軸13の下端外周には円筒形状のボールホルダ41が螺着固定してあり、このボールホルダ41の下部付近に放射方向のボール孔41Hが設けてある。
そして、このボール孔41H内には、前記電極ホルダ21における外筒25の周溝25Gに係脱自在のボール43が嵌入してある。
【0059】
上記ボールホルダ41の外周には、前記ボール43を内方向へ押圧した状態と解放した状態とに切換え自在のスライドリング45が上下動可能に嵌合してあり、かつボールホルダ41の上下に離隔した位置には、上記スライドリング45の離脱を防止するためのストッパ47U,47Lが設けてある。
【0060】
前記スライドリング45の周面には周溝45Gが形成してあり、この周溝45Gには、シフターレバー49に設けたシフターピン51が係合してある。
【0061】
上記シフターレバー49は、主軸ヘッド9の1部9Pにピン53を介して上下に揺動可能に設けられており、このシフターレバー49の先端部に前記シフターピン51が設けられているものである。なお、図2においては、理解を容易にするために、シフターレバー49及びシフターピン51等は模型的に表示してある。
【0062】
前記主軸ヘッド9には、例えば流体圧シリンダ等のごときアクチュエータ55が装着してあり、このアクチュエータ55において往復動自在の作動杆55Rの先端部と前記シフターレバー49の基部側とが連動連結してある。
【0063】
以上のごとき構成において、アクチュエータ55を作動してスライドリング45を上昇せしめ、上側のストッパ47Uに当接すると、スライドリング45の下端内周面に形成した大径穴部45Hの部分がボール43に対応した位置となり、複数のボール43はボールホルダ41における装着穴41Bの内周面から没入可能になる。
【0064】
上述のごとくスライドリング45が上側へ移動された状態にあるときに、前記電極ホルダ21における外筒25を前記装着穴41Bに下側から嵌入すると、上記外筒25の上端部は、主軸13内に進入し、外筒25の上端面はシール部材33に備えたシールリング39に密着当接してシール部材33をスプリング35に抗して押上げる。
【0065】
したがって、外筒25と主軸13との間のシールが行われる。
【0066】
前述のごとく、ボールホルダ41の装着穴41B内に外筒25を挿入し、外筒25の周面に形成した周溝25Gが前記ボール43と対応した後、スライドリング45を下降せしめると、ボール43は内方向へ移動されて外筒25の周溝25Gに係合し、電極ホルダ21の外筒25を固定する。
【0067】
以上のごとき説明より理解されるように、アクチュエータ55を作動してスライドリング45を上下動することにより、チャック23に対す電極ホルダ21の固定,解放を行うことができ、チャック23に対する電極ホルダ21の着脱交換を行うことができるものである。
【0068】
前述したごとく、主軸ヘッド9における主軸13に電極11を装着した後、加工ヘッド7の昇降フレーム14に対して主軸ヘッド9を下降せしめて、ワークテーブル3上のワークWに電極11によって細穴放電加工を行うものである。
【0069】
上述のごとく、主軸ヘッド9を下降せしめてワークWに細穴放電加工を行う際、電極11を案内支持する前記電極ガイド装置15は次のように構成してある。
【0070】
すなわち、図4,図5に示すように、加工ヘッド7において上下動自在な昇降フレーム14の下端部にはブラケット57が一体的に取付けてあり、このブラケット57の先端部上面には、電極11の下端部を中央に誘導するテーパ孔59Tを備えたガイド駒59が取付けてある。
【0071】
また、前記ブラケット57の先端部の下面には、V字形状の溝61Gを備えたVブロック61が一体的に取付けてあると共に、上記Vブロック61に対向してホルダブロック63が一体的に取付けてある。
【0072】
上記ホルダブロック63がVブロック61のV字形状の溝61Gと対向した対向面は、着脱交換される電極ガイド65の外形寸法より僅かに大径の凹状の円弧部63Cに形成してある。
【0073】
さらに、前記ホルダブロック63には、前記電極ガイド65をVブロック61の溝61Gに押圧固定するための小型シリンダのごときアクチュエータ67が取付けてある。このアクチュエータ67の駆動によって往復動されるロック部材69は、前記ホルダブロック63の凹形状の円弧部63Cに対して出没可能に設けられている。
【0074】
したがって、Vブロック61のV字形状の溝61Gとホルダブロック63の凹形状の円弧部63Cの間へ電極ガイド65を挿入した後、アクチュエータ67を作動し、ロック部材69によって電極ガイド65を前記溝61Gに押圧することにより、電極ガイド65は固定される。
【0075】
逆方向にアクチュエータ67を作動して、ロック部材69による電極ガイド65の押圧を解除することにより、電極ガイド65を下方向へ取り外すことができる。
【0076】
前記電極ガイド65は、下部にフランジ71Fを備えた円筒形状のガイドホルダ71内にガイドピース73を固定した構成である。このガイドホルダ71の外径は全て同寸法であるが。上記ガイドピース73の中心に備えたガイド孔(図示省略)の径は、電極11の径に対応するように種々の寸法に形成してある。
【0077】
したがって、前記主軸13に装着される電極11の径が変る毎に、電極11の径に対応したガイド孔を備えた電極ガイド65に交換する必要があるものである。
【0078】
既に理解されるように、本実施例に係る細穴放電加工機1における主軸ヘッド9に対しては、上端部に電極ホルダ21を予め取付けた状態において電極11の着脱交換を行うことができる。また、電極ガイド装置15においては、電極11の径に対応して電極ガイド65の着脱交換を行うことができるものである。
【0079】
前記主軸ヘッド9に対する電極11の着脱交換及び前記電極ガイド装置15に対する電極ガイド65の着脱交換を自動的に行うためには、前記細穴放電加工機1の側方位置には交換装置75(図1参照)が配置してある。
【0080】
図1に概略的に示すように、交換装置75は、細穴放電加工機1の側方位置に立設したポスト77の上端部に電極交換装置79が設けてあり、この電極交換装置79の下方位置に電極ガイド交換装置81が設けてある。
【0081】
より詳細に説明すると、図6に示すように、ポスト77の上端部には中空部83Cを備えた中空部材83が取付けてあり、この中空部材83の上部には支持本体85が一体に取付けてある。
【0082】
上記支持本体85には、前記細穴放電加工機1方向へ先端部が突出した第1ブラケット87がボルト等によって一体的に取付けてあると共に、先端部が第1ブラケット87と反対方向へ突出した第2ブラケット89が複数のボルト等の取付具91を介して着脱可能に取付けてある。
【0083】
前記第1ブラケット87の先端部には、軸受93を介して回転軸95が垂直にかつ回転自在に支持されており、この回転軸95の上端部には従動プーリ97が取付けてあり、下端部にはチェンスプロケット99が取付けてある。そして、第1ブラケット87に装着したサーボモータM6の駆動軸に取付けた駆動プーリ101と前記従動プーリ97とには、タイミングベルト103が掛回してある。
【0084】
前記第2ブラケット89の先端部には、チェンスプロケット105が回転自在に支持されており、このチェンスプロケット105と前記チェンスプロケット99には、前記支持本体85を囲繞したエンドレスチェン107が水平に掛回してある。
【0085】
したがって、前記サーボモータM6を駆動することによってエンドレスチェン107を水平に走行駆動することができるものである。
【0086】
また、エンドレスチェン107のチェンリンクを増結してエンドレスチェン107を長く構成するときには、取付具91を緩めて第2ブラケット89を取り外し、より長い第2ブラケットに交換し、この長い第2ブラケットに対してチェンスプロケット105を取付けることにより、容易に対応することができるものである。
【0087】
すなわち、種々の寸法の第2ブラケットを準備することにより、エンドレスチェン107を長くする場合や短くする場合に容易に対応可能なものである。
【0088】
前記エンドレスチェン107は複数の電極11を保持する電極ストッカの機能を奏するもので、その外周には、前記電極ホルダ21を着脱可能に支持する複数のホルダ支持部材109が所定ピッチで取付けてある。
【0089】
上記ホルダ支持部材109は、図7に示すように、電極ホルダ21を係合支持する係合凹部109Cが外方向に開口して設けてある。そして、係合凹部109Cの両側壁部には、本実施例においては、電極ホルダ21を固定保持するための固定保持具としてボールプランジャ111が設けられている。
【0090】
したがって、図7において、ホルダ支持部材109に対して電極ホルダ21を左右方向から着脱することができるものである。
【0091】
ところで、本実施例においては、固定保持具としてボールプランジャ111を設けた構成について説明したが、構成をより簡素化するために、前記係合凹部109Cの適宜位置、例えば奥壁部の部分にマグネット113を設けて、上記ボールプランジャ111を省略することもできるものである。
【0092】
なお、固定保持具としてポールプランジャ111又はマグネット113の一方のみ、又は両方を用いてもよく、さらに、板ばねの弾性を利用したクリップを用いることも可能である。
【0093】
前記エンドレスチェン107に取付けた複数のホルダ支持部材109に番地付けを行うために、原点位置を現わすホルダ支持部材109には、図6に示すようにドグ115が取付けてあり、適宜位置には上記ドグ115を検出する適宜のセンサ117が取付けてある。
【0094】
また、前記細穴加工機1に対して電極11の着脱交換を行うための電極交換位置に対応した位置には、前記ホルダ支持部材109に電極ホルダ21が装着されているか否かを検出するためのセンサ119が設けてある。
【0095】
上記電極交換位置に割出されたホルダ支持部材109に支持されている電極ホルダ21を細穴放電加工機1へ供給するために、また細穴放電加工機1に装着されていた電極ホルダ21を電極交換位置に割出された空のホルダ支持部材109へ引込むために、前記エンドレスチエン107の下方位置に電極ホルダ移送装置121が設けられている。
【0096】
より詳細には、図6に示すように前記中空部材83における中空部83Cには流体圧シリンダのごとき往復作動装置123が配置してあり、この往復作動装置123に往復動自在に備えた往復作動杆123Rの先端部にはブラケットを介してスライドバー125が一体的に連結してある。
【0097】
上記スライドバー125は、中空部材83に取付けたスライドガイド127に往復動自在に支持されており、このスライドバー125の先端部には支持ブロック129が取付けてある。
【0098】
そして、上記支持ブロック129の上面には、先端側でもって前記電極ホルダ21を挾持自在の一対の挾持爪131がピン133を介して開閉自在に取付けてあり、上記両挾持爪131の基部側の間には、一対の挾持爪131の開閉を行うためのミニシリンダのごときアクチュエータ135が装着してある。
【0099】
以上のごとき構成により、電極交換装置79においては、サーボモータM6を駆動することによってエンドレスチェン107を循環走行することができる。
【0100】
そして、エンドレスチェン107に取付けた原点位置用のホルダ支持部材109に備えたドグ115をセンサ117が検出した位置を原点位置として設定し、かつサーボモータM6の回転数を検出し管理することにより(例えばサーボモータM6の1回転毎に各ホルダ支持部材109がセンサ119に対応した位置に割出される構成としてある)、センサ119に対応した位置に割出されたホルダ支持部材109の番地を検知することができる。
【0101】
前述のごとく、サーボM6を駆動して所望のホルダ支持部材109を電極交換位置に割出し位置決めすると、センサ119によって電極ホルダ21の有無が検出される。
【0102】
上述のごとく所望のホルダ支持部材109を電極交換位置に割出した後、電極ホルダ移送装置121における挾持爪131を開状態に保持して、往復作動装置123を作動し往復作動杆123Rを前進せしめると、電極交換位置に割出された電極ホルダ21を一対の挾持爪131の間に挾み込む。
【0103】
その後、アクチュエータ135によって挾持爪131を閉じる方向に作動すると、電極ホルダ21は一対の挾持爪131によって挾持される。
【0104】
上述のごとく一対の挾持爪131によって電極ホルダ21を挾持した後、往復作動杆123Rをさらに前進せしめると、ホルダ支持部材109に備えたボールプランジャ111又はマグネット113に抗して電極ホルダ121がホルダ支持部材109の係合凹部109Cから取り外されて、細穴放電加工機1側へ移送され、細穴放電加工機1の主軸13に装着されるものである。
【0105】
上述とは逆に、電極交換位置に空のホルダ支持部材109を割出し位置決めした状態においては、細穴放電加工機1の主軸13から電極ホルダ21を取外して、上記空のホルダ支持部材109に支持せしめることができるものである。
【0106】
再び図1を参照するに、前記電極ガイド交換装置81は、前記電極交換装置75の下方位置において前記ポスト77に上下位置調節可能に装着してある。
【0107】
すなわち、前記ポスト77にはブラケット137が上下位置調節可能に取付けてあり、このブラケット137には、スライドガイド139が取付けてある。このスライドガイド139には、例えば流体圧シリンダ等のごとき往復作動装置(図示省略)によって水平に往復動されスライド部材141が支持されており、このスライド部材141の先端部には、複数の電極ガイド65を着脱可能に支持した電極ガイドストッカ143が設けられている。
【0108】
図9に示すように、電極ガイドストッカ143は板材よりなるものであって、上面には複数の電極ガイド65を磁着保持するための複数のマグネット145が埋設してある。
【0109】
上記構成において、電極ガイド交換装置81における往復作動装置を作動して、後退位置に位置する電極ガイドストッカ143を、細穴放電加工機1側へ前進せしめることにより、ストッカ143を電極ガイド着脱交換位置へ位置決めすることができる。
【0110】
上述のごとく、電極ガイド着脱交換位置へ電極ガイドストッカ143を位置決めした後に、細穴放電加工機1における加工ヘッド7を上記ストッカ143上の所望の電極ガイド65の上方位置に位置決めする。
【0111】
その後、前記加工ヘッド7を下降せしめると、前記電極ガイド装置15におけるVブロック61のV字形状の溝61Gとホルダブロック63の凹状の円弧部63との間の電極ガイド装置部内に前記所望の電極ガイド65が相対的に挿入係合される。したがって、その後にアクチュエータ67を作動してロック部材69によって電極ガイド65を押圧することにより、電極ガイド装置15に対して電極ガイド65が装着されるものである。
【0112】
以上のごとき説明より理解されるように、ガイド装置15に対して、電極11の径に対応して電極ガイド65を着脱交換することができるものである。
【0113】
前述したごとく、細穴放電加工機1における加工ヘッド7の主軸13に対して電極11の着脱交換を行った際における電極11の振れを防止するために、前記加工ヘッド7における昇降フレーム14には電極振れ防止装置147が設けてある。
【0114】
図1に概略的に示すように、上記電極振れ防止装置147は、昇降フレーム14の下部に取付けた上下方向のガイドバー149に、振れ防止部材151が上下動可能に支持された構成である。
【0115】
より詳細には、図10,図11に示すように、加工ヘッド7における昇降フレーム14の側部には上部アーム153U、下部アーム153L及び中間接続部153Mを備えたコ字形状のブラケット153が取付けてあり、上下のアーム153U,153Lの間には前記ガイドバー149が垂直に支持されている。
【0116】
上記ガイドバー149には昇降ブロック155が上下動可能に支持されており、この昇降ブロック155に前記振れ防止部材151が取付けてある。
【0117】
この振れ防止部材151の先端部は前記主軸ヘッド9に備えた主軸13の軸心に対し接近する方向に延伸してあり、先端部には、主軸13に装着された電極11を規制して振れを防止するためのV字形状溝151Gが形成してある。
【0118】
前記主軸ヘッド9の上下動に追従して前記振れ防止部材151を一体的に上下動するために、主軸ヘッド9又は昇降ブロック155の一方に磁着用のマグネット157が取付けてある。
【0119】
また、前記ガイドバー149には、振れ防止部材151の上昇停止位置を設定するためのストッパブロック159が上下動可能に支持されている。このストッパブロック159は、ロックネジ(図示省略)等の固定具によって所望の高さ位置に固定自在であり、かつこのストッパブロック159には前記昇降ブロック155を磁着保持するマグネット161が設けてある。
【0120】
上記構成により、図1に示すように主軸ヘッド9を最上昇せしめた状態において、主軸13に対して電極11を装着すると、上記電極11の下端部付近が振れ防止部材151の溝151Gに係合して振れを規制される。したがって、電極11の大きな振れが防止されるものである。
【0121】
放電加工時に、電極11を回転し乍ら主軸ヘッド9を下降するときには、振れ防止部材151の溝151Gによって電極11の振れを抑制するので、より高精度の細穴放電加工が可能である。
【0122】
前述のごとく主軸ヘッド9が下降して、マグネット157が昇降ブロック155に当接すると、マグネット161による磁着に抗して振れ防止部材151は主軸ヘッド9と一体的に下降する。そして、主軸ヘッド9が上昇するときには、マグネット157に磁着され一体的に上昇する。
【0123】
主軸ヘッド9と一体的に上昇して昇降ブロック155がストッパブロック159に当接すると、マグネット157による磁着に抗して主軸ヘッド9から解放され、マグネット161によってストッパブロック159に磁着保持されるものである。
【0124】
前記ストッパブロック159は高さ位置は調節可能であるので、初期の電極11の長さに対応して電極11の振れ(振幅)の大きくなる部分に対応して予め高さ位置を調節しておくことにより、電極11の振れを効果的に防止することができるものである。
【0125】
以上のごとき構成において、細穴放電加工機1における加工ヘッド7に備えた主軸ヘッド9の主軸13に対する電極11の着脱交換及び電極ガイド装置15に対する電極ガイド65の着脱交換は次のごとく行うものである。
【0126】
すなわち、前記主軸13に電極ホルダ21が装着されている場合には、先ず細穴放電加工機1における加工ヘッド7を細穴放電加工機1の電極交換位置に位置決めする。
【0127】
電極交換装置79においては、エンドレスチェン107を回転して空のホルダ支持部材109をセンサ119に対応した電極交換位置に位置決めする。
【0128】
次に、電極ホルダ移送装置121における作動杆123Rを前進せしめ、主軸13に保持されている電極ホルダ21を一対の挾持爪131によって挾持した後、チャック23による電極ホルダ21の固定を解放し、主軸ヘッド9を上昇せしめて主軸13から電極ホルダ21を取り外す。
【0129】
その後、作動杆123Rを後退せしめて、取り外した電極ホルダ21を空のホルダ支持部材109の係合凹部109Cに係合し、マグネット113に磁着する。そして、一対の挾持爪131を開いて前記作動杆123Rを最後退位置まで後退する。
【0130】
次に、電極交換装置79におけるサーボモータM6を駆動して、所望のホルダ支持部材109を電極交換位置に割出し位置決めした後、電極ホルダ移送装置121における作動杆123Rを前進せしめ、一対の挾持爪131によって上記ホルダ支持部材109に保持されている電極ホルダ21を挾持する。
【0131】
その後、ホルダ支持部材109のマグネット113による磁着に抗して前記作動杆123Rをさらに前進せしめて、前記挾持爪131に保持されている電極ホルダ21を、細穴放電加工機1における主軸ヘッド9の下方位置に位置決めする。そして、主軸ヘッド9を下降して主軸13に備えたチャック23に電極ホルダ21を装着した後、挾持爪131による挾持を解放して作動杆123Rを元の位置に後退する。
【0132】
上述のごとく新しい電極ホルダ21を主軸13に装着したとき、当該電極ホルダ21に吊下された状態にある電極11の下側は、電極振れ防止装置147における振れ防止部材151の溝151G内に位置し振動を規制されるので、電極11の大きな振れが効果的に防止されるものである。
【0133】
主軸ヘッド9に対して着脱交換した電極11の径に対応して電極ガイド65の着脱交換を行うには、先ず、電極ガイド交換装置81における電極ガイドストッカ143を後退位置から前進せしめて電極ガイド着脱交換位置に位置決めする。
【0134】
次に、細穴放電加工機1における加工ヘッド7における電極ガイド装置15を、前記ストッカ143の電極ガイド65のない空所のマグネット145に対応した位置に位置決めし、電極ガイド装置15に装着されている電極ガイド65を前記マグネット145に磁着し解放し、電極ガイド装置15を僅かに上昇せしめる。
【0135】
その後、電極ガイドストッカ143に保持されている所望の電極ガイド65の上方位置に電極ガイド装置15を位置決めし、下降せしめて、所望の電極ガイド65をVブロック61のV字形状の溝61Gとホルダブロック63の凹状の円弧部63Cとの間の装着部に挿入した後、ロック部材69によって電極ガイド65を押圧することにより、電極11の径に対応した電極ガイド65に交換することができるものである。
【0136】
前述したように、電極11を交換し、かつ電極11の径に対応して電極ガイド65を交換した後、加工ヘッド7をワークWの所望位置に対応して位置決めし、かつ主軸ヘッド9を下降せしめると、電極11の下端部は、ガイド駒59のテーパ孔59Tに誘導されて電極ガイド65に挿通される。
【0137】
そして、電極11とワークWとの間に放電が開始され、ワークWに細穴の放電加工が行われるものである。
【0138】
【発明の効果】
以上のごとき実施例の説明より理解されるように、請求項1に記載の発明は、細穴放電加工機における電極交換方法にして、細穴放電加工機における加工ヘッドを電極交換位置へ位置決めする(a)工程と、電極ストッカに保持されている所望の電極を電極交換位置に割出す(b)工程と、電極交換位置に割出された電極を、電極ホルダ移送装置に往復動可能に備えた一対の挾持爪によって前記加工ヘッドに備えた主軸の下方位置へ水平にかつ直線的に移送し位置決めする(c)工程と、前記主軸を下降せしめて、当該主軸に備えたチャックによって電極の上端部に予め取付けてある電極ホルダを保持すると共に、チャック及び電極を介して放電加工部へ供給される加工液の漏洩を防止すべく、前記主軸に下方向へ付勢して内装したシール部材の下端部に備えたシールリングに前記電極ホルダの上端部を密着せしめる(d)工程とよりなるものである。
【0139】
上記構成により、細穴放電加工機における加工ヘッドを電極交換位置へ位置決めすると共に電極ストッカに保持されている所望の電極を電極交換位置に割出した後、当該電極を電極ホルダ移送装置に備えた挾持爪によって加工ヘッドの主軸の下方位置へ水平にかつ直線的に移送し、その後に、前記主軸を下降して、主軸に備えたチャックによって電極の上端部に取付けてある電極ホルダを保持すると、上記主軸に下方向へ付勢して内装したシール部材の下端部に備えたシールリングに電極ホルダの上端部が密着されて、加工液の漏洩が防止される。
【0140】
したがって、電極の変換を繰り返しての細穴放電加工を容易に行うことができる。
【0141】
請求項2に記載の発明は、細穴放電加工機における電極ガイド交換方法にして、細穴放電加工機における加工ヘッドに対して着脱交換する複数の電極ガイドを保持した電極ガイドストッカを、電極ガイド着脱交換位置へ位置決めする(a)工程と、着脱交換位置へ位置決めした電極ガイドストッカに保持されている所望の電極ガイドの上方位置に加工ヘッドを位置決めする(b)工程と、加工ヘッドを下降して、当該加工ヘッドに備えた電極ガイド装着部に前記所望の電極ガイドを係合する(c)工程と、上記電極ガイド装着部に備えたロック装置によって電極ガイドを固定する(d)工程とよりなるものである。
【0142】
上記構成により、複数の電極ガイドを保持した電極ガイドストッカを電極ガイド交換位置へ位置決めすると共に、上記電極ガイドストッカ上の所望の電極ガイドの上方位置に加工ヘッドを位置決めした後に、加工ヘッドを下降して電極ガイド装着部に前記電極ガイドを装着した後、ロック装置を作動することにより電極ガイドを電極ガイド装着部に確実に装着することができる。
【0143】
したがって、電極の径の変化に対応して電極ガイドを容易に着脱変換することができる。
【0144】
請求項3に記載の発明は、水平に走行可能に設けたエンドレスチェンに、電極の上端部に取付けた電極ホルダを水平方向に着脱可能に支持する複数のホルダ支持部材を設け、所定位置に割出し位置決めされたホルダ支持部材に支持されている電極ホルダを保持して細穴放電加工機の電極交換位置へ移送可能の電極ホルダ移送装置を、前記エンドレスチエンの下方位置に水平に設けてなるものである。
【0145】
したがって、所定位置に割出し位置決めされたホルダ支持部材に支持されている電極ホルダは、電極ホルダ移送装置によって細穴放電加工機の電極交換位置へ水平に移送でき、細穴放電加工機に装着することができる。
【0146】
請求項4に記載の発明は、ホルダ支持部材に、電極ホルダを固定保持するためのマグネット(永久磁石)を備えた構成であるから、ホルダ支持部材に対する電極ホルダの着脱を容易に行うことができると共に、ホルダ支持部材に対して電極ホルダを確実に固定することができる。
【0147】
請求項5に記載の発明は、細穴放電加工機における加工ヘッドに対して着脱交換する複数の電極ガイドを保持した電極ガイドストッカを、前記細穴放電加工機の電極ガイド交換位置へ移動自在に備えているものであるから、細穴放電加工機に装着した電極の径に対応して電極ガイドの交換を行うことができ、種々の径の電極に対応することができる。
【0148】
請求項6に記載の発明は、電極ガイドストッカに、電極ガイドを固定保持するためのマグネットを備えているものであるから、電極ガイドストッカに対する電極ガイドの着脱が容易であると共に、電極ガイドストッカに対する電極ガイドの固定を確実に行うことができる。
【0149】
請求項7に記載の発明は、ワークテーブルの上方位置において前後左右方向へ移動位置決め自在に設けたスライダに、加工ヘッドを上下位置調節自在に設け、この加工ヘッドに、電極の上端部を保持するチャックを備えた主軸を上下動可能に設け、この主軸の下方位置に、前記電極を案内する電極ガイド装置を備えた構成の細穴放電加工機において、前記チャックは、電極の上端部に取付けた電極ホルダを着脱交換自在の構成であり、かつチャックから電極ホルダを介して電極へ流通される加工液の漏洩を防止すべく、前記電極ホルダの上端部に密着するシールリングを下端部に備えたシール部材を下方向へ付勢して前記主軸に内装した構成であるから、電極を交換した場合であっても、その都度、加工液の漏洩が確実に行われるものである。
【0150】
請求項8に記載の発明において、電極ガイド装置は、電極の下端部を中心に誘導するテーパ孔を備え、このテーパ孔の下側に設けたVブロックのV字形状の溝へ電極を案内する電極ガイドを押圧固定可能かつ着脱交換可能に備えた構成であるから、電極の径の変化対応して電極ガイドを交換して対応することができ、電極ガイド交換後においても電極ガイドへの電極の誘導を確実に行うことができる。
【0151】
請求項9に記載の発明は、ワークテーブルの上方位置において前後左右方向へ移動位置決め自在に設けたスライダに加工ヘッドを上下位置調節自在に設け、この加工ヘッドに、電極の上端部を保持するチャックを備えた主軸を上下動可能に設け、この主軸の下方位置に、前記電極を案内する電極ガイド装置を備えた構成の細穴放電加工機において、前記電極ガイド装置は、電極の下端部を中心に誘導するテーパ孔を備え、このテーパ孔の下側に設けたVブロックのV字形状の溝へ電極を案内する電極ガイドを押圧固定可能かつ着脱交換可能に備えた構成であるから、着脱交換した電極ガイドに対する電極を確実に誘導することができ、電極ガイドによって電極をガイドすることができる。
【0152】
請求項10に記載の発明は、主軸のチャックに電極を取付けるとき水平方向から電極を規制して電極の振れを防止するV字形状の溝を備えた振れ防止部材を備えてなる電極振れ防止装置を備えているものであるから、電極の振れ防止を効果的に行うことができるものである。
【0153】
請求項11に記載の発明は、電極振れ防止装置は、水平方向から電極を係合支持するV字形状の振れ防止部材を設け、この振れ防止部材を、前記主軸と一体的に上下動可能かつ所定位置に固定停止可能に設けてなるものであるから、放電加工時に電極を回転する際には電極の中間部分の振れを効果的に防止し、加工精度がより向上するものである。
【0154】
請求項12に記載の発明は、主軸ヘッド側又は振れ防止部材の一方に、両方を一体化するためのマグネットを設け、前記振れ防止部材又は固定部分の一方に、振れ防止部材を所定位置に固定停止するためのマグネットを設けてなるものであるから、電極の消耗に従う主軸ヘッド側の下降に従って一体的に下降し、かつ主軸ヘッド側の上昇時には一体的に上昇し、所定位置において固定部分に固定されるものである。
【0155】
したがって、電極を回転しつつ放電加工を行うとき、電極の揺れを効果的に防止でき、精度の良い細穴放電加工を行うことができるものである。
【0156】
請求項13に記載の発明は、電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして、細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け、電極を挾持固定可能の、体部にスリットを形成したコレットを上記コレット嵌入孔内に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間に前記コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うシール用弾性部材を介在して設け、かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合して、当該螺子部材の締付けによって、(イ)シール用弾性部材によるシールと、(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定とを同時に行うようにしたものであるから、螺子部材によってコレットを締付けると、コレットによる電極の挾持固定が行われると共にシール用弾性部材が圧縮されてシール効果が発揮される。
【0157】
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の実施例に係る細穴放電加工機及び交換装置の関係を概念的に示した斜視図ある。
【図2】
細穴放電加工機における主軸に対する電極ホルダの装着状態を示す断面図である。
【図3】
コレットの斜視説明図である。
【図4】
電極ガイド装置を示す平面図である。
【図5】
同上の正面図である。
【図6】
電極交換装置の正面説明図である。
【図7】
ホルダ支持部材の平面説明図である。
【図8】
挾持爪部分の平面説明図である。
【図9】
電極ガイドストッカと電極ガイド装置との関係を示した側面説明図である。
【図10】
電極振れ防止装置の正面説明図である。
【図11】
同上の平面説明図である。
【符号の説明】
1 細穴放電加工機
7 加工ヘッド
9 主軸ヘッド
11 電極
13 主軸
14 昇降フレーム
15 電極ガイド装置
21 電極ホルダ
23 チャック
25 外筒
27 コレット
29 袋ナット
31 シール用の弾性部材
33 シール部材
39 シールリング
59 ガイド駒
61 Vブロック
63 ホルダブロック
65 電極ガイド
69 ロック部材
75 交換装置
79 電極交換装置
81 電極ガイド交換装置
107 エンドレスチェン
109 ホルダ支持部材
121 電極ホルダ移送装置
131 挾持爪
143 電極ガイドストッカ
147 電極振れ防止装置
151 振れ防止部材
155 昇降ブロック
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-04-14 
結審通知日 2010-04-16 
審決日 2010-05-06 
出願番号 特願平7-92559
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (B23H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐々木 正章仲村 靖  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 豊原 邦雄
遠藤 秀明
登録日 2000-03-31 
登録番号 特許第3050773号(P3050773)
発明の名称 細穴放電加工機に対する電極、電極ガイド交換方法及び同方法に使用する交換装置、電極ホルダ、細穴放電加工機  
代理人 八幡 義博  
代理人 三好 秀和  
代理人 岩崎 幸邦  
代理人 伊藤 正和  
代理人 伊藤 正和  
代理人 岩崎 幸邦  
代理人 三好 秀和  

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