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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E02D
管理番号 1233552
審判番号 不服2009-13282  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-24 
確定日 2011-03-11 
事件の表示 特願2001-134064「アンカー工法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月15日出願公開、特開2002-327436〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年5月1日の出願であって、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に係る発明は、平成22年12月6日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明は次のとおりである。
「【請求項1】
基部の台座と地盤中に造成した先端支圧体との間にPC鋼線を設けて引張力伝達がなされるようにするアンカー工法において、前記支圧体の造成に際し、低スランプのグラウトをコンパクショングラウチングにより地盤中に圧入して、周辺地山を圧縮する球根状の支圧体を造成することを特徴とするアンカー工法。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)

2 刊行物及びその記載事項
刊行物1:特開昭62-148717号公報
刊行物2:特開平6-108449号公報

当審の拒絶理由で引用され、本願出願前に頒布された刊行物である上記刊行物1には、図面とともに次のことが記載されている。
(1a)「グラウト型アンカー工法は第5図に示すように、(イ)地盤を削孔機1により削孔し(ロ)その孔に引張り材2を挿入した後、(ハ)グラウト注入装置3によりモルタル、セメントペースト等のグラウトを注入し、同時にコンプレッサにより加圧することにより削孔部を拡孔してアンカー体4を形成し、最後に(ニ)引張り材2にプレストレスを加え台座5に緊張、定着する方式である。」(明細書第1頁右下欄第13行?第20行)
(1b)「一般に、アンカーの極限引抜き力(破壊が生じる場合の破壊に必要な力)は、地盤強度とアンカー材料(引張り材及びアンカ一体)の強度によって決まる。ところが、上記従来のグランドアンカー工法はいずれも、原地盤強度の小さな地盤では極限引抜き力が小さく、例えば浮き基礎のロッキング防止等には使用できず、実際上は採用することが困難であるという問題点を有している。
特にグラウト型アンカー工法においては、削孔を伴うため原地盤の応力開放をもたらし、原地盤強度を弱めるという問題点を有している。」(明細書第2頁右上欄第11行?左下欄1行)
(1c)「そのために本発明においては、地盤改良工法の一種であるサンドコンパクション工法において使用される外管貫入装置に着目している。」(明細書第2頁右下欄第14行?第16行)

上記記載及び第5図の記載からみて、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「地盤を削孔機1により削孔し、その孔に引張り材2を挿入した後、グラウト注入装置3によりモルタル、セメントペースト等のグラウトを地盤中に注入し、同時にコンプレッサにより加圧することにより削孔部を拡孔して球根状のアンカー体4を形成し、最後に引張り材2にプレストレスを加え台座5に緊張、定着するアンカー工法。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

同じく、上記刊行物2には、図面とともに次のことが記載されている。
(2a)「被改善地盤に固結材を圧入充填する地盤改善方法において、固化材及び他の粉粒素材とを設定量配合して混合し、低スランプの非流動性であって自己硬化性の固結材を作製し、削孔を介し所定ステージで相互に接合するブロックを積層させて周囲地山を圧縮させるようにすることを特徴とする地盤改善方法。」(【請求項1】)
(2b)「・・・固結材を圧入充填させて地盤改良させる場合は、圧入材を定量的に圧入出来ること、圧入後、圧入された領域内に材料成分が分離せず、均一の成分を保持すること、及び、周辺地山に対する圧縮性が強く求められるものである。」(段落【0007】)
(2c)「・・・該コンパクショングラウティングにあっては、例えば、図4に示す様な、軟弱地盤改良工事において、表層1,2から中層3’にかけて形成した削孔内に圧入パイプ4を挿入してボトムアップ式に(又はトップダウン式に)固化材のセメントや砂、更に礫等を所定量の水に混合させた0に近い低スランプ(0?6センチ等)の非流動性であって自己硬化性の固結材5をブロック状に所定数複数のステージを介し相互に接合させて積層状にして充填させ、経時的な自己硬化を介し周辺の地山を圧縮させるようにし、該低スランプの固結材5の逸走や迷走を避け、地下水汚染等を避け、又、分離等が生じないことによる成分安定性からくる経時的に早期の固結や施工精度の向上等のメリットを有するようにされた技術が望まれる。」(段落【0011】)
上記記載及び図面の記載からみて、刊行物2には、次の発明が記載されていると認められる。
「軟弱地盤の削孔内に圧入パイプ4を挿入して低スランプの自己硬化性の固結材5をコンパクショングラウティングにより地盤中に圧入し、経時的な自己硬化により周辺地山を圧縮する地盤改良工法。」(以下、「刊行物2記載の発明」という。)

3 対比
本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「アンカー体」、「引張り材」は、それぞれ本願発明1の「先端支圧体」、「PC鋼線」に相当する。
また、刊行物1記載の発明において、注入されたグラウトは、同時にコンプレッサにより加圧することにより削孔部を拡孔して球根状のアンカー体4を形成するものであるから、「地盤中に圧入」されているといえる。
さらに、注入されたグラウトは、地盤中で、削孔部を拡孔して球根状のアンカー体4を形成するものであるから、球根状のアンカー体4の周辺地山を圧縮していることは明らかである。

なお、請求人は、平成22年12月6日付け意見書において、刊行物1における「コンプレッサによる加圧は、『削孔部の拡孔』を目的とするものであって、グラウトの注入に作用的に関与するものではありません。また仮に、コンプレッサによる加圧によってグラウトの「圧入」が行われていると解釈するならば、『周辺地山を圧縮する支圧体』が造成されるはずであり、その場合、『削孔によって原地盤強度を弱める』といった問題点は生じないこととなります。」と主張している。
しかし、刊行物1におけるグラウトの注入と同時に行われるコンプレッサによる加圧は、グラウトを加圧することで、加圧されたグラウトが削孔部を押し拡げて球根状の支圧体を形成するためのものであること、削孔部を押し拡げる際に周辺地山に圧縮力を及ぼしていることは技術常識であり、刊行物1に、球根状体の周辺地山を圧縮することが記載されていないからといって、刊行物1記載の発明が、周辺地山を圧縮するものでないと解釈することはできない。
また、刊行物1の「削孔によって原地盤強度を弱める」とは、削孔部の土砂が取り除かれることにより、削孔部の側壁周囲の地盤強度が弱められることを述べているにすぎず、グラウトを注入し球根状の支圧体を形成することによって原地盤強度が弱められることを言っているのではなく、請求人の主張は採用できない。

したがって、両者は、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「基部の台座と地盤中に造成した先端支圧体との間にPC鋼線を設けて引張力伝達がなされるようにするアンカー工法において、前記支圧体の造成に際し、グラウトを地盤中に圧入して、周辺地山を圧縮して球根状の支圧体を造成するアンカー工法。」
(相違点)
本願発明1では、低スランプのグラウトをコンパクショングラウチングにより地盤中に圧入しているのに対し、刊行物1記載の発明は、グラウトのスランプが不明であり、コンプレッサによりグラウトを加圧しながら削孔部を拡大するものであって、コンパクショングラウチングにより地盤中に圧入するものではない点。

4 判断
上記相違点について検討すると、刊行物2記載の発明には、地盤改良方法ではあるが、軟弱地盤等の被改善地盤中に低スランプのグラウトをコンパクショングラウチングにより圧入することで、圧入された領域内で材料成分が分離せず、周辺地山に対する圧縮性が得られることが示されている。
また、上記刊行物1には、地盤強度の小さな地盤でアンカーの極限引抜き力が小さい場合には、従来地盤改良工法として採用されている工法を用いて、地盤を強化することが示されている(記載事項(1c)参照)。
そうすると、グラウトにより周辺地山を圧縮して球根を形成する刊行物1記載の発明において、上記刊行物2に記載の発明に示される、低スランプのグラウトをコンパクショングラウチングにより地盤中に圧入して地山を圧縮する方法を採用し、地盤を強化してアンカーの引抜き力を高めることは当業者が容易に想到し得るものである。
なお、本願発明1は、PC鋼線をどの時点で挿入するか規定しておらず、明細書にもPC鋼線を何時挿入するか記載されていないが、図面の記載によると、グラウト圧入後にPC鋼線を挿入するものと解される。
刊行物1記載の発明では、PC鋼線(引張り材2)を挿入した後、グラウトを地盤中に注入しているが、低スランプのグラウトをコンパクショングラウチングにより地盤中に圧入するに伴って、グラウト圧入後にPC鋼線を挿入をするようにすることは、当業者が適宜なしうることである。

本願発明1の作用効果について検討すると、刊行物2に記載の発明に示される、低スランプのグラウトをコンパクショングラウチングにおいては、グラウトが地盤中に浸透することがなく高い圧縮力、摩擦力が得られるから、この工法をアンカーの支圧体の形成に採用すれば、軟弱地土層中や、短いアンカーとした場合においても、高耐力のアンカー体が形成されることが予測でき、本願発明1の作用効果は、刊行物1及び2記載の発明から予測できる程度のことである。
したがって、本願発明1は、上記刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1及び2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-28 
結審通知日 2011-01-04 
審決日 2011-01-17 
出願番号 特願2001-134064(P2001-134064)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河原 英雄  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 草野 顕子
伊波 猛
発明の名称 アンカー工法  
代理人 富田 款  
代理人 富田 魂  

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