• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1233609
審判番号 不服2009-10977  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-12 
確定日 2011-03-10 
事件の表示 特願2002-265171「印刷機」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月 3日出願公開、特開2003- 94607〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願は、平成14年9月11日(パリ条約による優先権主張:平成13年9月11日、独国)の出願であって、平成20年8月15日付け(発送日:同年8月20日)の拒絶理由通知に対して、同年10月21日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成21年3月13日付け(発送日:同年3月17日)で拒絶査定がなされたものである。
これに対して、平成21年6月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されると共に、同日付けで、明細書についての手続補正がなされ、その後、当審において、平成22年4月2日付け(発送日:同年4月7日)で審判審尋を行ったところ、同年6月2日付けで回答書が提出された。

第2 平成21年6月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成21年6月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項1に係る発明
平成21年6月12日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された(以下、「本件補正発明」という。)。
「凹部(11)から構成された模様を外周面上に備える、ローラ(7)と協働するスクリーンローラであって、前記凹部(11)は印刷媒体で満たすことができるスクリーンローラ(5)と、駆動装置を備えるインキユニット(3)、特に簡易型インキユニットを有する印刷機(1)において、前記スクリーンローラ(5)と前記ローラ(7)は、前記スクリーンローラ(5)が回転する毎に前記印刷媒体によって前記ローラ(7)上に印刷媒体塊(15)の形態で写し取られた前記模様が、前記スクリーンローラ(5)の、前の回転時に前記ローラ(7)上に写し取られた前記模様に対し、新しい印刷媒体塊(15)を、前記ローラ(7)上の、隣接する各印刷媒体残余塊(17)の、前記印刷媒体が存在しない、または前記印刷媒体が実質的に存在しない空所(19)に配置できる程度にわずかに周方向にずれるように、多段式の駆動用伝動装置(21)、または重なり伝動装置(61)を介して、互いに駆動可能に接続されていることを特徴とする印刷機。」
(下線は補正箇所を示し、本件補正において付されたとおりである。)

本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「駆動用伝動装置(21)」についての特定事項であった「1段式もしくは」なる事項を削除し、「多段式」のもののみとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、即ち、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下、検討する。

ところで、上記請求項1の1?4行の「凹部(11)から構成された模様を外周面上に備える、ローラ(7)と協働するスクリーンローラであって、前記凹部(11)は印刷媒体で満たすことができるスクリーンローラ(5)と、駆動装置を備えるインキユニット(3)、特に簡易型インキユニットを有する印刷機(1)において、」について、当該記載を読点の区切りから解釈すると、本件補正発明の「印刷機」は、「ローラ(7)と協働するスクリーンローラ(5)」と「駆動装置を備えるインキユニット(3)」(「特に簡易型インキユニット」は記載を略す。)を有するものと認められる。
しかしながら、本願明細書の段落【0014】の「インキユニット3は、ローラ7に接触する、アニロックスローラとも称されるスクリーンローラ5を含んでおり、すなわち、スクリーンローラ5とローラ7は互いに接して回転する。」(3?6行)との記載、及び、図1を参酌すると、「インキユニット3」は、「スクリーンローラ5」と「ローラ7」とを含むものであり、この点を、インキユニット3に置き換えて記載すると、印刷機は、「ローラ(7)と協働するスクリーンローラ(5)」と「駆動装置を備えるスクリーンローラ(5)とローラ(7)」とを有するものとなり、これでは、スクリーンローラ5、ローラ7について二重記載となり、印刷機の構成が、却って、曖昧なものとなる。
そこで、更に、本願明細書の段落【0016】の「スクリーンローラ5とローラ7は、図1で図示しない駆動装置によって駆動でき、」(1?2行)との記載を参酌すると、駆動装置は、スクリーンローラ5とローラ7と同様に、インキユニット3に含まれるものと認められるから、上記請求項1の1?4行の内、特に3行目の「駆動装置を備えるインキユニット(3)」は、「駆動装置と、を備えるインキユニット(3)」と記載するのが相当であり、又、そのように記載すると、本件補正発明の「印刷機」は、「ローラ(7)と協働するスクリーンローラ(5)と駆動装置」を備える「インキユニット」を有するものとなり、上記の曖昧な点はなくなり、更に、矛盾する点なく、本件補正発明を認定することができる。
したがって、本審決では、上記1?4行を「凹部(11)から構成された模様を外周面上に備える、ローラ(7)と協働するスクリーンローラであって、前記凹部(11)は印刷媒体で満たすことができるスクリーンローラ(5)と、駆動装置と、を備えるインキユニット(3)、特に簡易型インキユニットを有する印刷機(1)において、」と認定して、原審における拒絶査定の是非を判断する(当該記載の下線は審決で付すものである。)。

2.引用刊行物とそれに記載された事項及び発明
(1)原審における拒絶理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である、特開昭59-138456号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面(特に第1図参照)と共に、次の事項が記載されている。
なお、以下、下線は審決において付すものである。
ア.公報2頁右上欄20行?左下欄7行
「本発明は、版の有効動作直径と一致する直径を持ち、ゴム製外皮を備えかつ版の周速と一致する速度でこの版面上を転がるインキ着けローラと、互いに転動し、異なる速度で駆動可能で、インキ溜めを区画しかつ鋼製外皮を備えた少なくとも2つの別のローラとを持ち、粘性の高いインキを処理する、硬い版を有する印刷機用のインキ装置に関する。」
イ.同2頁右下欄6?11行
「したがつて本発明の課題はこのことから出発して、冒頭に述べたようなインキ装置を簡単なしたがつてコスト的に有利な手段により改良して、操作が非常に有利に実現され、しかもインキ溜めから取り出されるインキ量の正確な計量が保証されるようにすることである。」
ウ.同2頁右下欄12行?3頁左上欄4行
「この課題は本発明によれば、インキ溜めを区画するローラのうち版に近い方のローラが計量ローラとして構成され、この計量ローラの鋼製外皮が、インキ収容凹所と、これらのインキ収容凹所の間に設けられた突片とによつて形成された網目を持ち、インキ溜めを区画するローラのうち版から遠い方のローラが、版に近い方のローラにより形成された計量ローラに付属するかき取りローラとして構成され、このかき取りローラの鋼製外皮が圧力により、このかき取りローラとは異なる速度で回転する、版に近い方のローラの鋼製外皮に押圧可能であることによつて解決される。」
エ.同4頁左上欄7?10行
「第1図に示したインキ装置は、ゴム製外皮を備えたインキ着けローラ1と、インキ溜め2を区画する別の2つのローラ3または4とから成る。」
オ.同4頁左上欄16?19行
「インキ着けローラ1は版胴6に接触しており、この版胴に、版を形成する印刷版が取り付けられている。すべてのローラが互いに転動する。」
カ.同4頁右上欄9?14行
「版に近い方のインキ溜めローラ3の鋼製外皮は、第1図に拡大して示したインキ収容凹所7と、これらのインキ収容凹所の間に存在する、拡大して示した突片とによつて形成された網目を持つている。」
キ.同4頁右上欄17行?左下欄1行
「インキ溜め2を区画する両ローラ3または4は突片8のかき取りおよびインキ収容凹所7の充填(審決注:新字で記載した。)のために圧力を受けて互いに近づけられかつ異なる速度で駆動される。したがつて、この場合ローラはかき取りローラとして働く。」
ク.同4頁左下欄13行?右下欄2行
「圧力により近づけるために、両方のインキ溜めローラ3,4の一方を適切な操作装置と結合することができる。これは版から遠い方の後部インキ溜めローラ4であるのが有利である。網目ローラとして構成された、版に近い方のインキ溜めローラ3がこのインキ溜めローラと共同作用する、版から遠い方のインキ溜めローラ4より少し速く回転するように駆動を行なうことができる。実験においては3倍の速度で良好な結果が得られている。」
ケ.同4頁右下欄3?8行
「両ローラ3または4の速度差により、インキ収容凹所7へ押し込まれたインキがかき取られ、そのことが網目による確実なインキ連行を保証する。かき取り効果によりインキ収容凹所7のインキの僅かの部分のみが、平滑な表面を持つローラ4へ分裂する。」
コ.同4頁右下欄8?16行
「その後もインキ収容凹所7に滞留するインキは、第1図において直接網目ローラと共同作用するインキ着けローラ1へ移され、その際再度のインキ分裂が行なわれる。この場合、…(略)…、非常に薄いが、しかし完全なインキ膜がこのインキ着けローラ上に得られる。」
サ.同4頁右下欄16行?5頁左上欄3行
「網目ローラとして構成されたローラ3の直径は、同じ周速で回転するインキ着けローラ1の直径より小さい。このことによつて、網目ローラはインキ着けローラ1の1回転ごとに、網目が均等化されかつそれによつて均一なインキ着けが実現されるように、互いに転動することができることが保証される。」

上記記載事項(特に、ア、コ、サ参照)及び第1図からみて、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載発明」という。)が開示されていると認められる。
「版胴6に接触する、ゴム製外皮を備えたインキ着けローラ1と、互いに転動し、異なる速度で駆動可能な、インキ溜め2を区画する2つのローラ3、4とを有する印刷機用のインキ装置であって、
ローラ3は、インキ収容凹所7と突片8とにより形成された、網目を備える網目ローラとして構成され、ローラ4より少し速く回転するように駆動を行なうことができ、
ローラ4は、かき取りローラとして働き、
インキ溜め2から網目ローラ3の凹所に充填されたインキは、網目ローラ3と共同作用するインキ着けローラ1へ移され、
網目ローラ3の直径は、同じ周速で回転するインキ着けローラ1の直径より小さく形成され、
インキ着けローラ1の1回転ごとに、網目が均等化され、かつ、それにより、均一なインキ着けが実現され、インク着けローラ上に完全なインキ膜が得られる、インキ装置。」

3.対比
本件補正発明と引用文献記載発明とを対比する。
引用文献記載発明の「インキ収容凹部7」及び「インキ」は、本件補正発明の「凹部(11)」及び「印刷媒体」にそれぞれ相当する。
引用文献記載発明の「網目ローラ」は、インキ(「印刷媒体」である。)を収容する「インキ収容凹所」(以下、単に「凹所」という。)を、その外周面に備えるものであるから、本件補正発明の「スクリーンローラ」に相当する。
又、本件補正発明の「ローラ(7)」は、本願明細書の段落【0014】に「ローラ7は、ここでは、弾性を有する外套を備える、図1では図示しない版胴と協働するインキ着けローラによって構成されている。」(7?9行)と記載されるものであるところ、引用文献記載発明の「インキ着けローラ」も、ゴム製外皮を備え、版胴に接する、即ち、版胴と協働するものであるから、引用文献記載発明の「インキ着けローラ」は、本件補正発明の「ローラ(7)」に相当する。
さらに、本件補正発明の「インキユニット、特に簡易型インキユニット」は、上記本件補正発明の認定のとおり、ローラ(7)と協働するスクリーンローラ(5)と駆動装置とを備えるものであるところ、引用文献記載発明の「インキ装置」において、「網目ローラ(ローラ3)」と「かき取りローラ(ローラ4)」とは、異なる速度で駆動可能であり(「網目ローラ」は「かき取りローラ」より少し速く回転する。)、又、「網目ローラ」と「インキ着けローラ」とは同じ周速で回転するものであるから、引用文献記載発明の「インキ装置」が「駆動装置」を備えていることは明らかである。
即ち、引用文献記載発明の「インキ装置」は、本件補正発明の「インキユニット、特に簡易型インキユニット」に相当する。
又、引用文献記載発明において、網目ローラとインキ着けローラとは同じ周速で回転するものであるから、引用文献記載発明は、網目ローラとインキ着けローラとが、互いに駆動可能である点で、本件補正発明と共通するものである。
さらに、引用文献記載発明において、インキは、網目ローラの凹所に充填され、該凹所から、インキ着けローラの表面に移されるものであるから、インキ着けローラの表面に移されるインキは、網目ローラの凹所の形成位置に対応する位置に配置されることは明らかであり、又、網目ローラの直径が、インキ着けローラの直径より小さいため、インキ着けローラの次の回転時に移されるインキは、前の回転時の配置位置とは、周方向にずれた位置に配置されることも明らかである。
この点について、請求人は、審判請求書において「引用例1のローラ3はインキ着けローラ1と同じ周速で回転し、その直径がインキ着けローラ1よりも小さいことから、インキ着けローラ1のローラ3との接触位置(接触角度位置)は回転に従い、ローラ3に対してずれていきます。」(5頁17?20行)と記載し、インキの配置位置が周方向にずれることを認めている。
ただ、請求人が、審判請求書において、更に「しかし、この「ずれ」の具体的な態様についてはなんらの開示もありません。」(5頁20?21行)と主張するように、前の回転時に移されるインキの間の空所に、次の回転時の新しいインキが配置されるか否かは定かではないので、この点は相違点として検討する。
そして、引用文献記載発明は、「印刷機用のインキ装置」であるから、引用文献記載発明は「インキ装置を有する印刷機」と言い換えることができる。
なお、本件補正発明の「ローラ(7)」は、付記番号を省略すると、単なる「ローラ」となり識別性に欠けるため、本審決においては、本願明細書の段落【0014】の「ローラ7は、ここでは、弾性を有する外套を備える、図1では図示しない版胴と協働するインキ着けローラによって構成されている。」(7?9行)との記載に倣い、便宜的に「インキ着けローラ」と記載する。

以上の点からみて、本件補正発明と引用文献記載発明とは、次の点で一致する一方、次の点で相違している。
《一致点》
「凹部から構成された模様を外周面上に備える、インキ着けローラと協働するスクリーンローラであって、前記凹部は印刷媒体で満たすことができるスクリーンローラと、駆動装置と、を備えるインキユニット、特に簡易型インキユニットを有する印刷機において、
前記スクリーンローラと前記インキ着けローラは、前記スクリーンローラが回転する毎に前記印刷媒体によって前記インキ着けローラ上に印刷媒体塊の形態で写し取られた前記模様が、前記スクリーンローラの、前の回転時に前記インキ着けローラ上に写し取られた前記模様に対し、わずかに周方向にずれるように互いに駆動可能である印刷機。」
《相違点1》
周方向のずれが、本件補正発明では、「新しい印刷媒体塊を、前記インキ着けローラ上の、隣接する各印刷媒体残余塊の、前記印刷媒体が存在しない、または前記印刷媒体が実質的に存在しない空所に配置できる程度」であるのに対して、引用文献記載発明では、どの程度であるか定かでない点。
《相違点2》
スクリーンローラとインキ着けローラが、本件補正発明では、「多段式の駆動用伝動装置、または重なり伝動装置を介して、互いに駆動可能に接続されている」のに対して、引用文献記載発明では、どのような構成で互いに駆動するのか定かでない点。

4.判断
(1)相違点1について
引用文献記載発明において、インキ着けローラの1回目の回転時に転移されるインキは、凹所の形成位置に対応するものであるから、転移されたインキ塊の間には空所が形成されることは明らかである。
念のため付記するに、本審決において記載する「1回目」及び「2回目」は、上記のとおり、「インキ着けローラの」回転回数に係るものであるが、以下、「インキ着けローラの」なる記載は省略する。
そして、引用文献記載発明においては、網目ローラから転移されたインキにより、(最終的に)均一なインキ着けが実現され、完全なインキ膜がこのインク着けローラ上に得られるのである。
してみると、2回目の回転時に転移されるインキは、上記した空所の少なくとも一部を埋めるように転移される、換言すれば、新しいインキは少なくともその一部が、空所に配置されることは明らかであり、そして、最終的に、インキ着けローラ上に完全なインク膜が形成されるのであるから、仮に、2回目の回転時に、全ての空所に新しいインキが配置されないとしても、回転を数回繰り返せば、完全なインキ膜が形成されることは自明であり、又、2回目の回転時に空所が完全に埋まるように、網目ローラとインキ着けローラとの径の比、空所の設置間隔等を設定することは、当業者が容易に想到しえる設計事項である。

ところで、請求人は、審判請求書において、上記インキのずれに関して、概略、次のように主張する(6頁4?26行参照)。
a.引用例1には、具体的にどのように付着角度位置が変化するか記載がないから、ずれの角度によっては、2回にわたって同じ角度範囲にインキが付着する一方、ある角度には1度もインキが付着せず、均一なインキ付けは実現できない。
b.本願発明は、「前記印刷媒体が存在しない、または実質的に存在しない空所に配置」するものであり、段落【0018】、図1に示唆されるように、新しいインキは空所の中心付近に配置され、連続したインキ薄膜が確実に形成され、これを実現するための具体的な構成の一例が明細書の段落【0009】に開示されている。

そこで、上記主張について、bから検討する。
[bについて]
本願の図1には、1回目の回転時に転移した印刷媒体残余塊の間の空所に、2回目の回転時に転移した印刷媒体塊が配置された、2回目の回転途中のインキ着けローラが記載されており、インキ着けローラの表面は、2回目の回転途中で、スクリーンローラと接する部分までがインキで埋まっている状態が示されている。
しかしながら、図1は、本件補正発明の一実施例を示しているにすぎず、必ずしも、該実施例そのものが、特許請求の範囲において特定されているとは言えない。
本件補正発明は、この点に関し、「前記スクリーンローラの、前の回転時に前記インキ着けローラ上に写し取られた前記模様に対し、新しい印刷媒体塊を、前記インキ着けローラ上の、隣接する各印刷媒体残余塊の、前記印刷媒体が存在しない、または前記印刷媒体が実質的に存在しない空所に配置できる」と特定している(相違点1に係る特定事項である。)。
上記特定事項において、「前の回転時」は、必ずしも「1回目の回転時」に限定されるものではなく、同様に、「新しい印刷媒体塊」も「2回目の回転時に転移される印刷媒体塊」に限定されるものではない。あくまで、前の回転時と次の回転時の、印刷媒体塊の配置関係、それも、単に、新しい印刷媒体塊が空所に配置されることを特定しているにすぎず、次の回転終了時に全ての空所が埋まることまでをも特定しているとは到底認められない。
即ち、図1に示される実施例が本件補正発明として特定されているとは言えない。
さらに、請求人が主張bの根拠とする、本願明細書の段落【0018】には「スクリーンローラ5とローラ7の回転比は、空所19がスクリーンローラ5のローラ間隙の領域でスクリーンローラ5に沿って通過して移動する際に新しいインキ塊15がローラ7上の、インキ残余塊17の間の空所19に正確に配置されるように、すなわち移されるように選択されている。」と記載されており、該記載によれば、スクリーンローラ5とローラ7の回転比は、新しいインキ塊が、インキ残余塊17の間の空所19に正確に配置されるように選択されなければならないものである。
しかしながら、請求項1において、回転比の選択(具体的な回転比)については何ら特定されていない。
さらに、本願明細書の段落【0019】には「隣接するインキ残余塊17の間の、印刷媒体が完全に存在しない空所19は、結局、ローラ7が最初に回転した後にだけ形成される。空所19がローラ間隙を通過した後、以前にはインキが存在しなかった空所19には、インキ塊15が供給され、その結果、図1で、ローラ7の外周面13の、ローラ間隙の後方に位置する部分に示されているように、隙間を埋められたインク薄膜が形成される。」と記載されており、この記載は正に、図1に示される実施例に係るものであるところ、このように隙間が埋められるためには、上記段落【0018】記載のとおり、インキ塊が正確に配置されるように、スクリーンローラとインキ着けローラとの回転比を選択しなければならないのである。
なお付記するに、凹部の設置間隔によっては、回転比を選択しても、2回目の回転時に、全ての空所が全て埋まるとは限らない。本件補正発明は、2回目の回転時に、全ての空所を全て埋めるための技術事項(例えば、凹部の設置間隔等)について、何ら特定していない。
以上のとおり、請求人の上記主張bは、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって、採用できない。

[aについて]
上記(1)の前段に記載したとおり、引用文献記載発明は、インキ着けローラ上に、均一なインキ着けが実現され、完全なインキ膜が形成されるものであり、仮に2回目の回転時に完全なインキ幕が形成されないとしても、例えば、回転を数回繰り返せば、完全なインキ膜が形成されることは明らかであるから、或いは、1回目の回転時の空所を、次の回転時に埋めるように、各ローラの径を設定することは当業者が容易に設定し得るものであるから、引用文献に具体的な態様が開示されていないことを理由として、均一なインキ着けが実現できない、と言う請求人の主張aは採用できない。
上記[bについて]に記載したとおり、本件補正発明は、空所を正確に埋めるための回転比の選択、或いは、「前の回転時」、「次の回転時」が、何回目の回転時であるのか、又、空所を完全に埋めるための回転回数等、何ら特定されておらず、単に、新しい印刷媒体塊が、前の回転時に形成された印刷媒体残余塊の空所に配置されることを特定しているにすぎない。
上記(1)の前段に記載したとおり、引用文献記載発明も、前の印刷時に形成された空所に、次の回転時のインキ(新しいインキ)が配置されるものであるから、結局、相違点1は、本件補正発明と引用文献記載発明との実質的な相違点とは言えず、仮に、相違点であったとしても、上記のとおり、当業者が容易に設定し得る設計事項である。

(2)相違点2について
駆動用伝動装置に関して、本件補正発明では、「多段式の駆動用伝達動置」と「重なり伝動装置」とが選択的記載となっており、どちらか一方の装置で検討すれば足りるところ、審判請求人(以下、「請求人」という。)は、平成22年6月2日付け回答書において、駆動用伝動装置を多段式に限定する用意がある、との提案(2頁最下行参照)を行っているため、本審決では、相違点の検討に当たって、駆動用伝動装置を「多段式の駆動用伝達動置」として検討する。
本件補正発明の「多段式の駆動用伝動装置」が、何を意味するか曖昧であるので、本願明細書を参酌する。
本願明細書の段落【0020】に「図2は、他の実施形態の印刷機1の一部、すなわち多段式の駆動用伝動装置21を介して互いに接続されたスクリーンローラ5とローラ7を示している。」と記載され、更に、段落【0020】の他の記載、及び、図2をみると、スクリーンローラ5とローラ7とは、複数の歯車29、31等を介して、接続されているものである。
なお、図2において、番号21は、これら複数の歯車を指示していると認められる。
即ち、本件補正発明に言う「多段式の駆動用伝動装置」とは、複数の歯車を用いた駆動用伝動装置のことであるのは明らかである。
そこで検討する。
2つのローラを互いに駆動する手段として、歯車は当たり前のものであり、又、その形式についても、1つの歯車対1つの歯車で伝達するもの(一段式)、複数の歯車を介して伝達するもの(多段式)の何れも、運動伝達手段の技術常識と言うべきものであるから、引用文献記載発明において、インキ着けローラとそれより直径の小さい網目ローラ(スクリーンローラ)とを、同じ周速で回転させるために、多段式の駆動用伝動装置を採用することは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。

なお、請求人は、上記回答書において、
1)駆動用伝達装置を多段式に限定する用意があること(2頁最下行参照)、
2)インキユニットはドクタ装置を有している、と減縮補正を行う用意があること(3頁16?18行参照)、
3)相違点1に係る特定事項を「新しい印刷媒体塊(15)を、前記ローラ上(7)上の、隣接する各印刷媒体残余塊(17)の空所(17)に配置できる程度に」と補正する用意があること(3頁22?25行参照)、
の3点について、提案する。

しかしながら、上記3点の提案については、次の理由により、補正案を採用する意義が認められない。
1)について
「(2)相違点2について」において、「多段式」に係る技術事項は判断している。
2)について
引用文献に記載されたローラ4は、かき取りローラとして働くものであり、この「かき取りローラ」は、所謂「ドクタローラ」のことであるから、引用文献には、「ドクタ装置」が記載されている。
仮に、「ドクタ装置」を、引用文献に記載されるようなローラタイプではなく、本願の図2に記載されるような「ドクタ装置45」に、更に限定するとしても、そのような「ドクタ装置」は、当該技術分野において、本願優先日前に周知の技術事項である(例えば、査定時に示した特開2000-85108号公報:図1の「溜め底板6」参照)。
3)について
「(1)相違点1について」において、補正案3)に係る技術事項は、実質的に、判断している。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、上記各相違点に係る特定事項は、当業者が適宜想到可能なものであり、それにより得られる作用効果も当業者であれば容易に推察可能なものであって、格別なものとは言えない。
したがって、本件補正発明は、引用文献記載発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成20年10月21日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「凹部(11)から構成された模様を外周面上に備える、ローラ(7)と協働するスクリーンローラであって、前記凹部(11)は印刷媒体で満たすことができるスクリーンローラ(5)と、駆動装置を備えるインキユニット(3)、特に簡易型インキユニットを有する印刷機(1)において、前記スクリーンローラ(5)と前記ローラ(7)は、前記スクリーンローラ(5)が回転する毎に前記印刷媒体によって前記ローラ(7)上に印刷媒体塊(15)の形態で写し取られた前記模様が、前記スクリーンローラ(5)の、前の回転時に前記ローラ(7)上に写し取られた前記模様に対し、新しい印刷媒体塊(15)を、前記ローラ(7)上の、隣接する各印刷媒体残余塊(17)の、前記印刷媒体が存在しない、または前記印刷媒体が実質的に存在しない空所(19)に配置できる程度にわずかに周方向にずれるように、1段式もしくは多段式の駆動用伝動装置(21)、または重なり伝動装置(61)を介して、互いに駆動可能に接続されていることを特徴とする印刷機。」

2.引用刊行物及びその記載事項と発明
原審における拒絶理由に引用された刊行物及びその記載事項と発明は、上記「第2 2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2」において検討した「駆動用伝動手段」について、更に「1段式もしくは」なる特定事項を付加するものであるところ、「1段式もしくは」なる特定事項は選択的事項であるから、当該事項が付加されても、本願発明は、本件補正発明を、その一例として含むものである。
そうすると、実質的に、本願発明に含まれる発明に相当する本件補正発明が、上記「第2 4.」に記載したとおり、引用文献記載発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-08 
結審通知日 2010-10-13 
審決日 2010-10-26 
出願番号 特願2002-265171(P2002-265171)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41F)
P 1 8・ 575- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國田 正久  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 藏田 敦之
鈴木 秀幹
発明の名称 印刷機  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 石橋 政幸  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ