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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1233629
審判番号 不服2009-25973  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-28 
確定日 2011-03-10 
事件の表示 特願2004- 67418「機械要素およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月22日出願公開、特開2005-256897〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年3月10日の出願であって、平成21年9月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年12月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成21年12月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年12月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
外方部材と、内方部材と、前記外方部材および内方部材にそれぞれ設けられた転動溝に配置された転動体とを有する機械要素であって、
前記機械要素を構成する少なくとも1つの部品が、C:0.45?0.70重量%、および(V、Nb、Ti)のうち少なくとも1種を合計0.02重量%以上0.3重量%以下含む鋼から形成され、表面硬化処理されていない熱間鍛造ままの部分のミクロ組織において、フェライトが、面積率15?30%であり、粒状フェライトを含む、機械要素。
【請求項2】
前記表面硬化されていない部分のミクロ組織において粒径が6番以上である、請求項1に記載の機械要素。
【請求項3】
前記鋼が、Si:0.15?0.7重量%、Mn:0.1?0.5重量%およびV:0.04?0.15重量%を含む、請求項1または2に記載の機械要素。
【請求項4】
前記機械要素を構成する外方部材および内方部材の前記転動溝のうちの少なくとも一方の転動溝における表面硬化層のオーステナイト粒の粒度番号が7?11番である、請求項1?3のいずれかに記載の機械要素。
【請求項5】
前記機械要素を構成する少なくとも1つの部品が、熱間鍛造後に切削加工されていない非切削加工部分を有する、請求項1?4のいずれかに記載の機械要素。
【請求項6】
前記機械要素において内方部材が第1内方部材と第2内方部材とからなり、そのうちの一方の部材が前記フェライトを含むミクロ組織を有し、当該部品が加締め加工されて他方の部品を加締めている、請求項1?5のいずれかに記載の機械要素。
【請求項7】
外方部材と、内方部材と、前記外方部材および内方部材にそれぞれ設けられた転動溝に配置された転動体とを有する機械要素を製造する方法であって、
前記機械要素を形成する少なくとも1つの部品の製造において、
C:0.45?0.70重量%、および(V、Nb、Ti)のうち少なくとも1種を合計0.02重量%以上0.3重量%以下含む鋼を熱間鍛造により成型し、放冷する工程と、
前記熱間鍛造ままの鋼に切削加工を加える工程と、
前記切削加工された部分の所定部に高周波加熱焼入れを施す工程とを備える、機械要素の製造方法。」と補正された。
上記補正について、審判請求の理由では「上記内容は、特許請求の範囲の減縮であって、…」と説明されている。その説明のとおり、上記補正は、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「表面硬化処理されていない部分のミクロ組織において、」を「表面硬化処理されていない熱間鍛造ままの部分のミクロ組織において、」と限定するものであって、これは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開平11-129703号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0019】
【発明の実施の形態】図1?4は、請求項1?4に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の車輪支持用転がり軸受ユニット1aは、ハブ2bと、内輪3と、外輪4と、複数個の転動体5、5とを備える。このうちのハブ2bの外周面の外端寄り部分には、車輪を支持する為の第一のフランジ6を形成している。又、この第一の内輪部材2bの中間部外周面には第一の内輪軌道7を、同じく内端部には外径寸法が小さくなった段部8を、それぞれ形成している。この様なハブ2bは、炭素の含有率が0.45?1.10重量%である炭素鋼製の素材に鍛造を施す事により、一体に造っている。
【0020】又、この様なハブ2bの一部外周面で図1に斜格子で示した部分、即ち、上記第一の内輪軌道7部分、上記第一のフランジ6の基端部分、及び上記段部8の基半部分(内輪3の突き当て面である段差面12から、この内輪3の嵌合部である円筒状の外周面の一部)には、高周波焼き入れ、浸炭焼き入れ、レーザ焼き入れ等の焼き入れ処理を施して、当該部分の硬度を、Hv550?900程度に高くしている。尚、上記各焼き入れ処理のうち、高周波焼き入れ処理が、処理コストが低廉である為、最も好ましい。これに対して、浸炭焼き入れ処理は硬化させない部分に防炭メッキ処理を施す必要がある為、処理コストが嵩む。又、レーザ焼き入れ処理は設備費が嵩む。」
(い)「【0026】尚、上記ハブ2bは、上述の様な理由で炭素の含有量を0.45?1.10重量%とした炭素鋼に鍛造加工を施す事により造るが、炭素の含有量が0.45?0.60重量%の場合には、鍛造後に焼鈍処理を施す必要はない。即ち、鍛造後の冷却速度を簡易的に制御する事により、少なくとも上記円筒部20の硬度をHv200?300に範囲に収める事が可能である。従って、上記ハブ2bを鍛造加工により造った後、上記円筒部20をかしめ部19に加工する作業を、焼鈍処理を行なう事なく可能になって、このかしめ部19を備えた車輪支持用転がり軸受ユニットを低コストで造れる。」
(う)「【符号の説明】
1、1a 車輪支持用ハブユニット
2、2a、2b、2c、2d ハブ
3 内輪(第二の内輪)
4 外輪
5 転動体
6 第一のフランジ
7 第一の内輪軌道
8、8a 段部
9 第二の内輪軌道
10 雄ねじ部
11 ナット
12、12a 段差面
13 第二の内輪部材
14 係止凹部
15 第一の外輪軌道
16 第二の外輪軌道
17 第二のフランジ
18 ハブ
19、19a かしめ部
20 円筒部
21 テーパ孔
22 押型
23 凸部
24 凹部
25 隙間
26 曲面部
27 空間
28 シールリング
29 蓋体
30 肩部
31 段部
32 トーンホイール
33 カバー
34 センサ
35 雌スプライン部
36 等速ジョイント
37 駆動軸
38 段部
39 本体部分
40 ナット
41 第一の内輪
42 平坦面
43 揺動プレス装置
44 抑え治具
45 ホルダ
46 底部
47 治具素子
48 抑え部
49 通孔
50 取付部」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「外輪4、ハブ2b、内輪3、外輪4及びハブ2bにそれぞれ設けられた第一の外輪軌道15及び第一の内輪軌道7に配置された転動体5、外輪4及び内輪3にそれぞれ設けられた第二の外輪軌道16及び第二の内輪軌道9に配置された転動体5を有する車輪支持用転がり軸受ユニット1a。」
(2-2)引用例2
特開2003-277878号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、機械構造部品の素材として広く使用されている機械構造用炭素鋼よりも優れた耐疲労特性を有し、またかしめ加工などの冷間加工性にも優れた熱間鍛造鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、自動車や産業機械分野では、S48CやS53Cなどの機械構造用炭素鋼を素材として、熱間加工により部品形状に成形後、加工性や疲労強度を向上させるために焼ならし処理などの調質処理を施すのが一般的であった。しかしながら、かような熱処理は、多大の時間およびエネルギーを必要とするため、かかる熱処理を省略することができればコストの大幅な低減が達成でき、また省エネルギーにも有用であることから、これまで様々な非調質鋼が開発されてきた。
【0003】例えば、代表的なものとして、Cを 0.3?0.5 mass%含有する中炭素系Mn鋼に、0.10mass%程度のVを添加したフェライト・パーライト型非調質鋼が知られている。この非調質鋼は、熱間鍛造後の冷却過程でV炭窒化物を析出させて母相のフェライト組織を強化すると共に、パーライトの強度を鋼全体の強度上昇に利用するものである。また、特公平6-6302号公報あるいは特開平4-371547号公報には、C含有量が0.05mass%の低炭素鋼に、Mn,Cr,V等の合金元素を添加したベイナイト型あるいはマルテンサイト型の非調質鋼が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前者のフェライト・パーライト型非調質鋼を用いて製造された熱間鍛造鋼は、フェライト母相をV炭窒化物によって析出強化しているため、冷間加工における加工限界が低いという問題があり、耐疲労強度と加工性の両立は達成できていない。また、後者のベイナイト型およびマルテンサイト型非調質鋼を用いて製造された熱間鍛造鋼は、合金コストが高く、低コスト化のニーズに応え得ないところに問題を残していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の実状に鑑み開発されたもので、その目的は、機械構造部品の素材として広く使用されている機械構造用炭素鋼よりも優れた耐疲労特性を有し、かつ冷間加工性にも優れた熱間鍛造鋼を提案することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】さて、発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に述べる知見を得た。
(1) C含有量が 0.5mass%を超えるフェライト・パーライト鋼では、鋼組織が、旧オーステナイト粒界から生成したフィルム状の初析フェライトとパーライトからなる組織となる。このような組織の場合、疲労亀裂はフィルム状のフェライトを選択的に伝搬する。これを防止するためには、鍛造後のオーステナイト(γ)粒径を50μm 以下とし組織単位を小さくすることが必要である。
【0007】(2) また、100 μm を超える粗大なγ粒が全体の20%を超えて存在すると、耐疲労特性を低下させたり、かしめ加工などの冷間加工時に割れが発生するなどの問題が生じる。
【0008】(3) 熱間鍛造時のγ粒成長を抑制するためには、成分の適正化と鍛造条件の適正化が有効であるが、特に材料組成として、ピンニング粒子の溶解温度の調整が必要である。
【0009】(4) ピンニング粒子としては、TiやNb, V等の炭窒化物の利用が有効と考えられるが、これら化合物は冷間加工時の加工限界を低下させるので、ピンニング粒子として適切ではない。
【0010】(5) 熱間鍛造後、室温まで冷却した時の鋼組織のフェライト分率が5 vol%未満の場合、オーステナイト粒界に生成する初析フェライトがフィルム状となるため、疲労強度や冷間加工時の割れ発生限界を低下させる。また20 vol%を超える場合には、強度が低くなり、耐疲労特性の劣化を招く。
【0011】本発明は、上記の知見に基づいて完成されたもので、その要旨とするところは次のとおりである。すなわち、本発明は、質量%で、C:0.50?0.65%、Si:0.50?15%、Mn:0.50?15%、Cr:0.1?0.6%、Al:0.01?0.05%、S:0.02%以下、P:0.02%以下を含み、かつTi:0.005%以下、Nb:0.005%以下、V:0.005%以下を、(Ti+Nb+V)≦0.01%の範囲で含有し、さらにNを、N:0.015%以下で、かつ下記式(1)を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、熱間鍛造後の平均オーステナイト粒径が50μm以下で、かつ100μmを超える粗大なオーステナイト粒が全体の20%以下で、さらに熱間鍛造ままの鋼組織がフェライト分率:5?20vol%のフェライト・パーライト組織であることを特徴とする耐疲労特性および冷間加工性に優れた熱間鍛造鋼である。

T(℃)=7400/(1.95-log〔Al〕〔N-Ti/3.4-Nb/6.6-V/3.6〕)-273≧1000 --- (1)」
(き)「【0019】Ti:0.005%以下、Nb:0.005%以下、V:0.005%以下で、かつ(Ti+Nb+V)≦0.01%
Ti,NbおよびVの炭窒化物は、熱間鍛造時におけるγ粒の成長を抑制する効果がある。その反面、加工性を劣化させる作用もあるため、それぞれTi:0.005 %以下、Nb:0.005 %以下、V:0.005 %以下で、かつ(Ti+Nb+V)≦0.01%を満足する範囲で含有させるものとした。」
(く)「【0021】以上、成分組成範囲について説明したが、本発明ではその他、鋼組織も重要である。熱間鍛造後の平均γ粒径:50μm 以下で、かつ 100μm を超える粗大γ粒の比率:20%以下
C量が 0.5%を超えるフェライト・パーライト鋼では、旧オーステナイト粒界から生成したフィルム状の初析フェライトとパーライトからなる組織となる。このような組織の場合、疲労亀裂はフィルム状のフェライトを選択的に伝搬することは前述したとおりであるが、かかる亀裂の伝搬を防止するためには、鍛造後のγ粒径を50μm 以下とし組織単位を小さくすることが有効である。また、100 μm を超える粗大なγ粒が全体の20%を超えて存在すると、疲労試験やかしめ加工等において初析フェライト部が亀裂や毛割れの起点となるため、これらを防止するためには、鍛造後のこれら粗大なγ粒の比率を全体の20%以下に制限することが重要である。
【0022】熱間鍛造ままの鋼組織がフェライト分率:5?20 vol%のフェライト・パーライト組織 熱間鍛造後、室温まで冷却した時の鋼組織のフェライト分率が5 vol%に満たない場合には、オーステナイト粒界の初析フェライトがフィルム状となって、疲労強度や冷間加工時の割れ発生限界を低下させる。一方、20 vol%を超えた場合には、強度が低下し、耐疲労特性の劣化を招く。よって、熱間鍛造まま、室温での組織はフェライト分率が5?20 vol%のフェライト・パーライト組織に限定した。」
(け)「【0024】
【実施例】表1,2に示す成分組成になる鋼を、30t電気炉で溶製したのち、連続鋳造および圧延により、50mm角の角棒に圧延した。この角棒を、1200℃に加熱後、小型圧延機により、熱間鍛造相当の1パス圧延(圧延機出側温度:1000℃、加工率:60%)を行い、板厚:20mmの板材としたのち、空冷した。一方、従来鋼については、熱間鍛造相当圧延後に 860℃, 1hの焼ならし処理を行った。 かくして得られた鋼材の板厚中心部から、L方向に、(1) ミクロ引張試験片、(2) 回転曲げ疲労試験片、(3) 完全拘束型冷間鍛造試験片を採取し、各試験に供した。
【0025】疲労強度は、小野式回転曲げ疲労試験により、107 寿命となる疲労強度を求めた。冷間加工性は、300 tプレス機を用いて、圧下率:60%の1パス加工を行い、圧縮加工後の試験片側面を観察し、開口割れおよび毛割れ発生状況を観察した。割れおよび毛割れ発生状況は、試験片5個について試験し、割れ発生率は、全試験片に対する割れや毛割れが発生した個数の比率で求めた。熱間鍛造後のγ粒径は、上記の圧延直後に水冷して組織を凍結し、試験片採取位置に相当する部分から旧γ粒を現出し、画像解析装置により円相当径として測定した。フェライト分率は、圧延材の中央部のミクロ組織について 200倍の倍率で10視野を観察し、画像解析により求めたフェライト面積率を vol%として表した。得られた結果を表3,4に示す。」
(こ)「【0030】表3,4中、No.1?11は発明鋼であるが、これら発明鋼はいずれも、 No.31に示した従来鋼と比較して、疲労強度が25%以上も増大しているにもかかわらず、良好な冷間加工性を呈している。No.12, 13 は、N量が多量に不足し上掲式(1) を満足しない比較鋼であり、この場合は、疲労強度および冷間加工性ともに低かった。No.14 は、Nが若干不足し上掲式(1) を満足しない比較鋼であるが、この場合には、平均γ粒径は50μm以下であったが、100 μm 以上のγ粒の比率が20%を超えていたため、割れはなかったものの、毛割れの発生を余儀なくされた。No.15 は、N量が上限値を超える場合であり、冷間加工性は低下した。No.16 は、C量が下限値に満たない場合であり、冷間加工性は良好であったものの、疲労強度は低値であった。No.17 は、逆にC量が上限値を超える場合であり、冷間加工性の劣化を余儀なくされた。No.18 は、Si量が下限を下回る場合であり、疲労強度が低い。No.19 は、Si量が上限を上回る場合であり、冷間加工性が悪かった。No.20 は、Mn量が下限に満たない場合であり、疲労強度が低い。No.21 は、Mn量が上限値を超える場合であり、冷間加工性が悪い。No.22 は、P量が上限値を超える場合であり、冷間加工性が悪い。No.23 は、S量が上限値を超える場合であり、冷間加工性が悪い。No.24 は、Al量が下限値未満の場合であり、冷間加工性が悪い。No.25 は、Al量が上限値を超える場合であり、疲労強度、冷間加工性ともに低い。No.26 は、Cr量が下限値未満の場合であり、疲労強度、冷間加工性ともに低い。No.27 は、Cr量が上限値を超える場合であり、疲労強度、冷間加工性ともに低い。 No.28?30は、Ti, Nb, V量または合計量が上限値を超える場合であり、いずれも冷間加工性が低い。」
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、後者の「外輪4」は前者の「外方部材」に相当し、以下同様に、「ハブ2b」、「内輪3」は「内方部材」に、「第一の外輪軌道15」、「第二の外輪軌道16」は「前記外方部材」に「設けられた転動溝」に、「第一の内輪軌道7」、「第二の内輪軌道9」は「内方部材」に「設けられた転動溝」に、それぞれ相当する。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「外方部材と、内方部材と、前記外方部材および内方部材にそれぞれ設けられた転動溝に配置された転動体とを有する機械要素。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明は、「前記機械要素を構成する少なくとも1つの部品が、C:0.45?0.70重量%、および(V、Nb、Ti)のうち少なくとも1種を合計0.02重量%以上0.3重量%以下含む鋼から形成され、表面硬化処理されていない熱間鍛造ままの部分のミクロ組織において、フェライトが、面積率15?30%であり、粒状フェライトを含む」のに対して、引用例1発明は、そのような事項を具備していない点。
(4)判断
(4-1)上記相違点について
引用例1発明の車輪支持用転がり軸受ユニット1aを構成する少なくとも1つの部品、例えば、ハブ2bについて、引用例1には上記のように「【0026】尚、上記ハブ2bは、上述の様な理由で炭素の含有量を0.45?1.10重量%とした炭素鋼に鍛造加工を施す事により造るが、炭素の含有量が0.45?0.60重量%の場合には、鍛造後に焼鈍処理を施す必要はない。」と記載されている。これに類似のものを採用したり、あるいはこれに限らず、どのような組成、構造、ないし性状とするかは、用途、使用環境、所要の性能・特性等に応じて適宜設計する事項である。
引用例2には、上記に摘記したとおり、自動車や産業機械分野の機械構造部品の素材として広く使用されている機械構造用炭素鋼よりも優れた耐疲労特性を有し、またかしめ加工などの冷間加工性にも優れた熱間鍛造鋼であって、質量%で、C:0.50?0.65%、Ti:0.005%以下、Nb:0.005%以下、V:0.005%以下を、(Ti+Nb+V)≦0.01%の範囲で含有し、熱間鍛造後の平均オーステナイト粒径が50μm以下で、かつ100μmを超える粗大なオーステナイト粒が全体の20%以下で、さらに熱間鍛造ままの鋼組織がフェライト分率:5?20vol%のフェライト・パーライト組織である熱間鍛造鋼が示されている。引用例1発明のハブ2bを形成する素材として、引用例2の上記熱間鍛造鋼を適用することは、上記のように所要の性能・特性等に応じた適宜の設計的事項にすぎない。
ただ、引用例2の上記熱間鍛造鋼は、Ti:0.005%以下、Nb:0.005%以下、V:0.005%以下を、(Ti+Nb+V)≦0.01%の範囲で含有するという事項を備えており、これについて、引用例2の例えば、上記の【0019】では、「Ti,NbおよびVの炭窒化物は、熱間鍛造時におけるγ粒の成長を抑制する効果がある。その反面、加工性を劣化させる作用もあるため」、上記の数値範囲とした旨、説明されている。しかし、その「熱間鍛造時におけるγ粒の成長を抑制する効果」及び「加工性を劣化させる作用」という記載は、(i)その記載自体、概念的であって、例えば、γ粒の成長をどれだけ抑制すべきなのか、どのような加工のどのような加工性を想定しているのか、必ずしも明確でないとともに、(ii)その「効果」及び「作用」についての数値的な定量的説明ではなく、「Ti、Nb、V量または合計量」による「効果」及び「作用」の動向についてその程度を定性的に述べたものにすぎない。この説明から、ある特定の「効果」(例えばγ粒径)、ある特定の「作用」(例えば「亀裂の発生頻度」)、ないし両者の特定の関連に応じて、「Ti、Nb、V量または合計量」をいかなる値に設定するかについて、客観的かつ明確な基準を看取することはできず、この説明をもって、「Ti、Nb、V量または合計量」に関して、γ粒径の値、加工の種類等の如何を問わず、上記の数値範囲外にすることを全般的に無条件に遮断するという意味での阻害事由が示されていると理解することはできない。むしろ、当業者であれば、引用例2の上記の説明から、一般的に、所要の「効果」と「作用」との考量に応じて「Ti、Nb、V量または合計量」を適宜設定することによって、そのような「効果」と「作用」を達成し得るという技術的事項を認識ないし推知し得るものである。上記の説明は、その文理上、そのような技術的事項を示唆ないし含意しているということもできる。引用例2の上記事項は、そのような技術的事項を前提にして、その出願時における当該発明者の見識に基づく数値範囲をその「発明」事項として開示したものというべきである。
また、引用例2の上記事項に関して、引用例2の上記の【0030】では、「No.28?30は、Ti, Nb, V量または合計量が上限値を超える場合であり、いずれも冷間加工性が低い。」と説明されている。しかし、引用例2の【0025】に記載されているように、表3、4の冷間加工性の評価は特定の加工態様についてであって、冷間加工性全般にわたるものではないこと、割れの有無についての判別基準等の評価手法が必ずしも明確でないこと、サンプル数が比較的少ないことからみると、引用例2の【0030】の上記説明は、上記のような数値範囲に係る引用例2の「発明」事項の一応の説明にはなるとしても、その程度のものにすぎず、上記のような阻害事由を示したものではないことは上述したとおりである。
以上に述べたように、(a)引用例2の上記事項は上阻害事由を示したものではないこと、また、(b)例えば引用例2の【0003】に示されているように、一般に、(Ti+Nb+V)を「0.01%」より大きくすることが当業者にとって格別意外なものではないこと、及び、(c)引用例2には「Ti、Nb、V量または合計量」の上限値について一般的に格別顕著な技術的意義が示されていないこと、以上を合わせ考えると、引用例1発明に引用例2の上記熱間鍛造鋼を適用するにあたって、「Ti、Nb、V量または合計量」をどのように設定するかは、所要の性能・特性に応じて上記の「効果」と「作用」を考量しつつ、適宜設定し得る事項であると認められる。また、(イ)本願の当初の請求項1には「(V、Nb、Ti)のうち少なくとも1種を合計0.3重量%以下含む」と記載され、下限値が限定されていなかったこと、(ロ)本願明細書には、「【0014】…しかし、上記合計が0.01重量%未満では、十分な分散密度でフェライト核生成サイトを形成することができないので0.01重量%以上とすることができる。より確実な効果を得るためには0.02重量%以上としてもよい。」と記載されていること、以上からみて、「0.02重量%」という下限値に格別顕著な技術的意義があるとは認められず、「Ti、Nb、V量または合計量」を本願補正発明の上記数値範囲を充足する値とすることは、上記のように所要の性能・特性に応じて当業者が容易に想到し得たものと認められる。そして、このようにしたものは、(A)高周波焼入れ処理に関する引用例1の「【0020】…この様なハブ2bの一部外周面で図1に斜格子で示した部分、即ち、…」の記載と本願明細書の「【0013】表面硬化処理されていない部分とは、高周波焼入れなどによって表面硬化処理されていない部分をさし、たとえば表層よりも内側の内部をさす。…」の記載を参酌し、また、(B)引用例2の特に「【0021】…このような組織の場合、疲労亀裂はフィルム状のフェライトを選択的に伝搬することは前述したとおりであるが、かかる亀裂の伝搬を防止するためには、鍛造後のγ粒径を50μm 以下とし組織単位を小さくすることが有効である。また、100 μm を超える粗大なγ粒が全体の20%を超えて存在すると、疲労試験やかしめ加工等において初析フェライト部が亀裂や毛割れの起点となるため、これらを防止するためには、鍛造後のこれら粗大なγ粒の比率を全体の20%以下に制限することが重要である。」の記載に留意すると、実質的にみて、相違点に係る本願補正発明の上記事項を具備しているということができる。
そして、本願補正発明の作用効果は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。
したがって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、平成22年8月11日付け回答書において、「ここで、引用文献2には、「Ti:0.005%以下、Nb:0.005%以下、V:0.005%以下で、かつ(Ti+Nb+V)≦0.01%を満足する範囲で含有させるものとした。」との記載があります。一方、引用文献2に記載の鋼のベースとなるS53CなどのJIS規格機械構造用炭素鋼においては、通常V、Nb、Tiが0.001?0.003%程度含まれています。つまり、当業者であれば、上記記載は、V、Nb、Tiの炭窒化物は熱間鍛造時のγ粒の成長を抑制する効果があるものの、V、Nb、Tiを通常の含有レベルに抑えなければ加工性を劣化させるため、通常の含有レベルに抑えるべきことを意味しているものと理解し、添加量を増加させることによりγ粒の成長抑制効果が向上することを意味するものとは理解しません。したがいまして、上記記載は、審査官殿ご指摘のトレードオフの関係を開示したものではなく、ましてや更なるV、Nb、Tiの添加量増加を示唆するものではありません。」(ここでの「引用文献2」は本審決の「引用例2」に相当する。)と主張している。しかし、引用例2の「Ti、Nb、V量または合計量」の上限値は、上記のS53CなどのJIS規格機械構造用炭素鋼に通常含まれていると請求人が主張する量よりも大きいのであって、「当業者であれば」、「通常の含有レベルに抑えるべきことを意味しているものと理解」するとの主張の根拠が必ずしも明確でないとともに、そのような主張に直ちに首肯することはできない。そして、引用例2の上記の説明から、一般的に、所要の「効果」と「作用」に応じて「Ti、Nb、V量または合計量」を適宜設定することによって、その「効果」と「作用」を達成し得るという技術的事項を認識ないし推知し得るものであることは上述したとおりである。
同じく、上記回答書において、「この「フィルム状の初析フェライト」とは、本願明細書における「網目状フェライト」と同義であり、上記引用文献2の鋼の組織は、たとえば本願明細書の比較例1に相当します。一方、本願発明に係る機械要素を構成する鋼においては、(V、Nb、Ti)のうち少なくとも1種を合計0.02重量%以上0.3重量%以下含むことにより、網目状フェライト(フィルム状の初析フェライト)に加えて(旧)オーステナイト(γ)粒内に粒状フェライトが析出します。その結果、当該粒状フェライトにより(旧)オーステナイト粒内に生成したパーライトが分断され、組織が実質的に微細化されることにより強度、靭性および延性に優れた機械要素が得られます(段落番号[0012]参照)。つまり、引用文献2に記載の鋼においては、V、Nb、Tiはオーステナイト粒の粗大化防止のみに作用しているのに対し、本願発明に係る機械要素を構成する鋼においては、その含有量が異なることにより粒状フェライトを析出させ、組織が実質的に微細化するという更なる効果を奏しています。このように、V、Nb、Tiの含有量を本願発明の数値範囲(0.02重量%以上0.3重量%以下)とすることによって得られる効果は、引用文献2の記載から当業者が想定し得る程度のものであるとはいえません。」と主張する。しかし、上記したように、本願の当初の請求項1には下限値が限定されていなかったこと、本願明細書の【0014】には、「しかし、上記合計が0.01重量%未満では、十分な分散密度でフェライト核生成サイトを形成することができないので0.01重量%以上とすることができる。より確実な効果を得るためには0.02重量%以上としてもよい。」と記載されていることみると、「合計0.02重量%」未満では「当該粒状フェライトにより(旧)オーステナイト粒内に生成したパーライトが分断され、組織が実質的に微細化される」という効果を奏し得ず、下限値を「合計0.02重量%」としてはじめてこのような効果を奏し得るとは到底考えられない。そして、「0.02重量%」という下限値に格別顕著な技術的意義があるとは認められず、「Ti、Nb、V量または合計量」を本願補正発明の上記数値範囲を充足する値とすることは当業者が容易に想到し得たものと認められることは、上述したとおりである。

(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成21年12月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明7」という。)は、平成21年9月2日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
外方部材と、内方部材と、前記外方部材および内方部材にそれぞれ設けられた転動溝に配置された転動体とを有する機械要素であって、
前記機械要素を構成する少なくとも1つの部品が、C:0.45?0.70重量%、および(V、Nb、Ti)のうち少なくとも1種を合計0.02重量%以上0.3重量%以下含む鋼から形成され、表面硬化処理されていない部分のミクロ組織において、フェライトが、面積率15?30%であり、粒状フェライトを含む、機械要素。
【請求項2】
前記表面硬化されていない部分のミクロ組織において粒径が6番以上である、請求項1に記載の機械要素。
【請求項3】
前記鋼が、Si:0.15?0.7重量%、Mn:0.1?0.5重量%およびV:0.04?0.15重量%を含む、請求項1または2に記載の機械要素。
【請求項4】
前記機械要素を構成する外方部材および内方部材の前記転動溝のうちの少なくとも一方の転動溝における表面硬化層のオーステナイト粒の粒度番号が7?11番である、請求項1?3のいずれかに記載の機械要素。
【請求項5】
前記機械要素を構成する少なくとも1つの部品が、熱間鍛造後に切削加工されていない非切削加工部分を有する、請求項1?4のいずれかに記載の機械要素。
【請求項6】
前記機械要素において内方部材が第1内方部材と第2内方部材とからなり、そのうちの一方の部材が前記フェライトを含むミクロ組織を有し、当該部品が加締め加工されて他方の部品を加締めている、請求項1?5のいずれかに記載の機械要素。
【請求項7】
外方部材と、内方部材と、前記外方部材および内方部材にそれぞれ設けられた転動溝に配置された転動体とを有する機械要素を製造する方法であって、
前記機械要素を形成する少なくとも1つの部品の製造において、
C:0.45?0.70重量%、および(V、Nb、Ti)のうち少なくとも1種を合計0.02重量%以上0.3重量%以下含む鋼を熱間鍛造により成型し、放冷する工程と、
前記熱間鍛造ままの鋼に切削加工を加える工程と、
前記切削加工された部分の所定部に高周波加熱焼入れを施す工程とを備える、機械要素の製造方法。」

3-1.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例、その記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明の「表面硬化処理されていない熱間鍛造ままの部分のミクロ組織において、」を「表面硬化処理されていない部分のミクロ組織において、」と拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、実質的に同様の理由により、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
したがって、本願発明1は引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明2?7について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-06 
結審通知日 2011-01-11 
審決日 2011-01-24 
出願番号 特願2004-67418(P2004-67418)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔西尾 元宏  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 大山 健
川上 溢喜
発明の名称 機械要素およびその製造方法  
代理人 堀井 豊  
代理人 酒井 將行  
代理人 深見 久郎  
代理人 佐々木 眞人  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 仲村 義平  
代理人 森田 俊雄  

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