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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1233886
審判番号 不服2008-20127  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-07 
確定日 2011-03-18 
事件の表示 特願2001-366316「薄膜トランジスタ基板」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月13日出願公開,特開2003-168800〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成13年11月30日の出願であって,平成20年4月23日付けの拒絶理由通知に対して,同年6月9日に手続補正書及び意見書が提出されたが,同年7月2日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年8月7日に審判請求がされるとともに,同年9月8日に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成20年9月8日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1. 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであり,以下のとおりである。

〈補正事項a〉
補正前の請求項1を削除するとともに,補正前の請求項2を独立請求項の形式で記載して,補正後の請求項1とすること。

〈補正事項b〉
補正前の請求項2が引用する補正前の請求項1の「Φは2価の芳香族基である」を,補正後の請求項1の「Φは4,4'-ジアミノジフェニルエーテル,4,4'-ジアミノジフェニルメタン,4,4'-ジアミノジフェニルスルホン及び2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパンからなる群から選ばれる芳香族ジアミンの2価の芳香族残基である」と補正すること。

2. 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無について
・〈補正事項a〉は,請求項の削除を目的とするものである。
・〈補正事項b〉は,補正前の「2価の芳香族基」を具体的に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

したがって,本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。
そして,〈補正事項a〉及び〈補正事項b〉は,本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるから,本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものである。

そこで,以下,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかを,請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)について検討する。

3. 独立特許要件を満たすかどうかの検討
(1)補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(補正発明)は,次のとおりである。
「【請求項1】
下記の一般式Iで示される繰り返し単位を有するポリイミドのフィルムからなる基板上にアモルファスシリコン薄膜トランジスタが形成された薄膜トランジスタ基板であって,該アモルファスシリコン薄膜の成膜温度が250℃以上である薄膜トランジスタ基板。
【化1】

(式中,Rは4価のシクロヘキサン環であり,Φは4,4'-ジアミノジフェニルエーテル,4,4'-ジアミノジフェニルメタン,4,4'-ジアミノジフェニルスルホン及び2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパンからなる群から選ばれる芳香族ジアミンの2価の芳香族残基である)」

(2)刊行物に記載された発明
(2-1) 特開平11-60732号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平11-60732号公報(以下「引用例1」という。)には,以下の記載がある。(下線は当合議体において付加。以下同様。)

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,低配向複屈折性,低応力複屈折性及び無色透明性を同時に満たすポリイミド系樹脂に関するものであり,このポリイミド系樹脂は,精密光部品,レンズ,液晶ディスプレー用部品,光ファイバー,光導波路,光半導体などの光学用素子に用いる基材,フィルム材,封止材,被覆材,接着剤等として活用することができる。」

イ 「【0002】
【従来の技術】従来,レンズ,プリズム,光ディスク,光ファイバー,LCD用基板などの光学用素子にはガラスが使用されていた。しかし,近年,軽量・小型化の需要から無色透明プラスチックが使用されるようになってきている。これらの光学用素子には,光学用プラスチックとしてポリスチレン,ポリカーボネート,ポリメタクリル酸メチル,スチレン・メタクリル酸メチル共重合体などが使用される。
【0003】しかし,最近の光学用素子においては,わずかな複屈折による偏光特性の変化や外部環境の変化に敏感に影響を受けるために,非常に高い精度が要求される。特にLCD用基板,偏光板用支持フィルム,光ファイバー,光導波回路,光半導体などは,高い耐熱性を保持した上で低複屈折性と無色透明性が必要とされる。このため,従来から光学用プラスチックとして用いられてきたポリメタクリル酸メチルにおいては,低複屈折性と無色透明性をもつが耐熱性が不足しているために,上記に記した光学用素子には使用することが出来ない。また,ポリカボネートは比較的高いガラス転移温度を持つが,上記の光学用素子等に必要とされる耐熱性を満足せず複屈折も大きいために高精度を必要とする光学用素子には適用できない。」

ウ 「【0004】そこで,近年,光学素子に必要とされる高温耐熱性を満足する樹脂の一つであるポリイミド系樹脂に関して,低複屈折化の研究が行われるようになった。その方法として,ジアミンのベンゼン環上のオルト位の双方に置換基を導入する方法(特開平4-288331号公報),メタ位にアミノ基をもつジアミンを導入する方法(特開平8-134211号公報),ポリイミドフィルムを製造する時に使用する基板をポリイミドフィルムにする方法(特開平9-15608号公報)などが提案されている。」

エ 「【0010】このように,ポリイミド系樹脂の光学特性の問題は,複屈折に関しては直接応力複屈折を低減化したものではなく,また配向複屈折と応力複屈折を同時に低減化したものでもない。また,光線透過率の問題は複屈折の問題と連動する。このため,配向複屈折及び応力複屈折を同時に低減することにより,ポリイミド系樹脂に発生する低複屈折性と高光線透過率を同時に満足できると考えられる。しかし,ポリイミド系樹脂の配向複屈折と応力複屈折の測定は,一般の光学用樹脂のように簡単に測定できるわけではないので,両複屈折を明らかにしてポリイミド系樹脂に発生する複屈折を小さくすることは難しい。」

オ 「【0012】上記の複屈折に関する基礎的な検討結果より,本発明者らは,ポリイミド系樹脂に脂環式基などの非芳香族性基をもつ酸成分や塩基成分を適当に高分子内に導入することにより,無色透明性が高く,配向複屈折および応力複屈折を同時に低減化したポリイミド,ポリイミド共重合体またはポリイミド混合物を用いるポリイミド系樹脂が得られることを見出し,本発明に至った。また本発明はこのポリイミド系樹脂の特性を生かした光学用素子を提供するものでもある。」

カ 「【0015】
【発明の実施の形態】本発明のポリイミド系樹脂を製造するにあたって使用できる酸成分としては,脂環式基または脂肪族基を有するカルボン酸またはその誘導体としての酸無水物,酸塩化物,エステル化物として次のものがあげられる。酸無水物の例として下記の化合物が挙げられる。
【0016】
【化15】

ビス(エキソ?ビシクロ(2,2,1)ヘプタンー2,3-ジカルボン酸無水物」

キ 「【0018】
【化17】

1,2,4,5?シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物」

ク 「【0023】上記の脂環式基または脂肪族基を有する酸成分はそれぞれ単独で用いてもよいし,適宜組み合わせて用いてもよい。
【0024】塩基成分としては,脂環式基または脂肪族基を有するジアミン化合物およびジイソシアネート化合物が用いられるが,ジアミン化合物の例をあげれば,・・・等がある。
【0025】上記の脂環式基または脂肪族基を有する塩基成分はそれぞれ単独で用いてもよいし,適宜組み合わせて用いても良い。」

ケ 「【0026】上記の脂環式基または脂肪族基を有する酸成分および/または塩基成分は反応させる全成分に対して25?100モル%の範囲で用いることが好ましく,50?100モル%の範囲で用いることがさらに好ましい。
【0027】この場合において,脂環式基または脂肪族基を有する酸成分と塩基成分の含有量が多ければ多いほど得られるポリイミド樹脂より作製される光学用素子の低配向複屈折性及び低応力複屈折性と無色透明性は高まるが,脂環式基または脂肪族基を有する成分が全成分に対して25?100モル%の範囲で用いられれば少なくともこの発明で求められる低配向複屈折性及び低応力複屈折性と無色透明性を同時に満足するので,上記の脂環式または脂肪族成分を有する酸成分や塩基成分以外の酸成分や塩基成分を用いることができる。」

コ 「【0029】上記のその他の塩基成分として,ジアミンとしての例を挙げれば,
・・・,
4,4’?ジアミノジフェニルエーテル,
・・・,
4,4’?ジアミノジフェニルメタン,
・・・,
2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン,
・・・,
4,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルなどが挙げられる。これらは単独でまたは併せて用いることができる。」

サ 「【0030】本発明に使用するポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の製造方法は,通常のポリアミド酸の製造条件と同じでよく,反応溶媒にはN?メチルピロリドン,N,N?ジメチルアセトアミド,N,N?ジメチルホルムアミドなどの極性有機溶媒を使用するが,モノマーや生成するポリマーの溶解性や溶媒による着色等を考慮し,上記の有機溶媒を混合して,また上記以外の有機溶媒を単独で又は上記の有機溶媒を組み合わせて使用することができる。また,重合溶液において,その溶液の濃度は3?50重量%が好ましく,5?40重量%がより好ましい。」

シ 「【0036】本発明のポリイミド系樹脂の成形体の製造法としては,目的とする成形体の形状により異なるが,例えばポリイミドフィルムを得る場合には石英板,ステンレス板,カプトンフィルムなどの光学用基板に上記ポリアミド酸溶液を一定の厚みになるように流延し,70℃から350℃まで段階的に加熱し(100℃で30分,200℃で30分,350℃で60分),脱水閉環させ,ポリアミド酸溶液から溶媒を除くと同時にイミド化することができる。・・・」

ス 「【0037】このようにして得られる本発明のポリイミド系樹脂を用いたフィルム,光部品等の光学用素子は,複屈折も小さく無色透明であるために,厚膜であってもそれらの物性は極めて良好である。」

セ 「【0040】本発明におけるポリイミド系樹脂を用いた光学用素子としては,例えば,・・・,LCD用基板,偏光板用支持フィルム,透明樹脂シート,位相差フィルム,光拡散フィルム,プリズムシート,LCD用接着剤,LCD用スペーサ,LCD用電極基板等の液晶素子用部材,・・・などが挙げられる。」

ソ 「【0045】実施例1?14,比較例1?3で得られた樹脂についてフィルム化を行い,光線透過率および複屈折等を調べ,表1に示した。なお,評価は下記に示す方法により行った。
・・・
【0047】評価結果
【表1】

表1において,HAC-SO_(2) はビス(エキソ)?ビシクロ(2,2,1)ヘプタンー2,3?ジカルボン酸無水物,・・・,BAPBは4,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル,FBAPPは2,2’-ビス(4ーフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン,・・・を表す。また表1において,酸成分と塩基成分のモル比は1:1である。」

・ここで,上記ア?オ,ス,セの記載から,引用例1に記載されたポリイミド系樹脂が,耐熱性と無色透明性が必要なLCD用基板,すなわち,液晶表示装置用基板に用いられることは明らかである。
・上記オの記載から,引用例1に記載されたポリイミド系樹脂は,ポリイミド系樹脂に脂環式基などの非芳香族性基をもつ酸成分や塩基成分を適当に高分子内に導入されたものであるところ,上記ケの記載によれば,脂環式基または脂肪族基を有する成分は,全成分に対して25?100モル%の範囲で用いられ,その他に上記の脂環式または脂肪族成分を有する酸成分や塩基成分以外の酸成分や塩基成分を用いられたものであることが分かる。
・さらに,上記ソの記載中の,実施例3及び5に注目すると,これらの実施例においては,酸成分であるHAC-SO_(2)は,上記カに「脂環式基または脂肪族基を有するカルボン酸またはその誘導体としての酸無水物,酸塩化物,エステル化物」として挙げられた,「ビス(エキソ?ビシクロ(2,2,1)ヘプタンー2,3-ジカルボン酸無水物」である。また,前記実施例3及び5における唯一の塩基成分であるBAPP及びFBAPPは,上記コに「上記のその他の塩基成分として,ジアミンとして」挙げられた,「4,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル」及び「2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」である。これらは芳香族ジアミンであって,「脂環式基または脂肪族成分」を有しないジアミンであることは明らかであるから,「脂環式基または脂肪族基を有するカルボン酸またはその誘導体としての酸無水物,酸塩化物,エステル化物」と,「脂環式基または脂肪族成分」を有しないジアミンとを反応させても,低配向複屈折性及び低応力複屈折性と無色透明性を備えるポリイミド樹脂が得られることが分かる。
・また,上記コに摘記した,「4,4’?ジアミノジフェニルエーテル」及び「4,4’?ジアミノジフェニルメタン」についても,ともに芳香族ジアミン,すなわち「脂環式基または脂肪族成分」を有しないジアミンであることは明らかである。
・上記カ?コの記載によれば,低配向複屈折性及び低応力複屈折性と無色透明性を同時に満足するポリイミド樹脂は,上記ソに記載された実施例に限られず,上記カ?ク,コに例示された酸及び塩基の各成分を適宜組み合わせて得られるものと読める。

したがって,引用例1には,以下の発明が記載されているものと認められる。
「ポリイミド樹脂からなる液晶表示装置用基板であって,
前記ポリイミド樹脂が,脂環式基または脂肪族基を有するカルボン酸またはその誘導体としての酸無水物,酸塩化物,エステル化物を酸成分とし,脂環式基または脂肪族成分を有しないジアミンを塩基成分として製造されたものである,ポリイミド樹脂からなる液晶表示装置用基板。」

(3)補正発明と引用発明との比較
・ポリイミド樹脂が,繰り返し単位を有する高分子であることは明らかである。また,補正発明にかかる「ポリイミドのフィルム」がポリイミド樹脂からなることも明らかである。
したがって,補正発明と引用発明とは,
「繰り返し単位を有するポリイミドからなる基板。」
である点で一致する。

一方,両者は,以下の点で相違する。
・相違点1
補正発明は,「フィルムからなる基板上にアモルファスシリコン薄膜トランジスタが形成された薄膜トランジスタ基板であって,該アモルファスシリコン薄膜の成膜温度が250℃以上である薄膜トランジスタ基板」であるのに対して,引用発明は「液晶表示装置用基板」である点。
・相違点2
補正発明においては,ポリイミドの繰り返し単位である一般式が

(式中,Rは4価のシクロヘキサン環であり,Φは4,4'-ジアミノジフェニルエーテル,4,4'-ジアミノジフェニルメタン,4,4'-ジアミノジフェニルスルホン及び2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパンからなる群から選ばれる芳香族ジアミンの2価の芳香族残基である)
と特定されているのに対して,引用発明においてはそのような特定がなされていない点。

(4)当審の判断
以下,上記各相違点について検討する。
(4-1)相違点1について
引用発明に係る液晶表示装置用基板の厚さは,適宜に設定しうる事項であるところ,ポリイミドをフィルム状のものとすることは,引用例1(前記「(2-1) 特開平11-60732号公報」のシを参照)にも記載されているように従来より周知の技術であるから,引用発明に係る液晶表示装置用基板をポリイミドのフィルムにより構成することも,当業者が適宜になし得たことである。
また,以下の周知例1及び2にも示されているように,液晶表示装置用基板にアモルファスシリコンからなる薄膜トランジスタを形成する点は,従来より周知の技術であり,該周知技術において,前記アモルファスシリコンの成膜温度として250℃以上の温度は,ごく普通に採用される値である。
・ 周知例1:特開平8-172195号公報
本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平8-172195号公報には,図2?4とともに次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】図2は,前記アクティブマトリクス型の液晶表示装置に用いられる典型的な従来技術の薄膜トランジスタ1の構造を示す断面図である。この薄膜トランジスタ1は,樹脂またはガラスなどの透明で,かつ電気絶縁性を有する基板上に,クロム等の金属膜から成る帯状のゲート電極3と,SiNxから成るゲート絶縁膜4と,アモルファスシリコンから成る半導体層5と,リン等の不純物をドープしたオーミックコンタクト層6,7と,クロム等の金属から成るソース電極8およびドレイン電極9とが,この順で積層されて構成されている。この薄膜トランジスタ1では,ゲート絶縁膜4上に形成された半導体層5およびオーミックコンタクト層6,7に,フォトエッチング法によって,チャネル10の形成などのパターニングが行われた後,ソース電極8およびドレイン電極9が形成される。
【0003】上述のような基板2上にまずゲート電極3の形成される構造の薄膜トランジスタ1は,逆スタガー型と呼ばれており,これに対して図3の薄膜トランジスタ11で示すように,基板2上にソース電極8およびドレイン電極9を形成するようにした順スタガー型の薄膜トランジスタが用いられることもある。なお,図3において,前記図2の構成に対応する部分には同一の参照符を付して示す。また,この他にも,逆コプレナ型および順コプレナ型と称される構造を有する薄膜トランジスタが用いられることもある。
【0004】さらにまた,前述の薄膜トランジスタ1において,オーミックコンタクト層6,7および半導体層5のエッチング時に,チャネル10部分から半導体層5が腐食してしまうことを防止するために,図4の薄膜トランジスタ21で示すような,半導体層5上でチャネル10に臨む領域に,エッチングストッパ層22を形成するようにした構成も用いられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述の各薄膜トランジスタ1,11,21では,半導体層5には主に多結晶シリコンまたはアモルファス(非晶質)シリコンが用いられ,広く実施されている。しかしながら多結晶シリコンは,高い電子移動度(?約100cm^(2) /V・sec)を有するけれども,プロセスに約1000°Cの高温が必要であり,安価なガラスや樹脂などの基板には使用できないという問題がある。これに対してアモルファスシリコンは,成膜温度は約250°C程度とあまり高くはなく,前記安価なガラスや樹脂などの基板に使用可能であるけれども,前記電子移動度が低く(0.1?1cm^(2) /V・sec),高品質な表示装置には適用しにくいという問題がある。」

・ 周知例2:特開平1-236654号公報
本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平1-236654号公報には,第1図,第2図及び第6図とともに次の記載がある。
「最近,液晶やエレクトロルミネセンス(EL)を用いた表示装置は,テレビ表示やグラフィックディスプレィ等を指向した大容量,高密度のアクティブマトリックス型表示装置として開発,実用化が盛んである。
このような表示装置では,クロストークのない高いコントラストの表示が行えるように,各画素の駆動,制御を行なう手段としてアクティブ素子が用いられている。
このアクティブ素子としては,単結晶Si基板上に形成されたMOSFETや,最近では,透過型表示が可能であり,大面積化も容易である等の理由から透明絶縁基板上に形成されたTFTのアレイが用いられている。
第6図は,このようなTFTのアレイを備えたアクティブマトリックス型液晶表示装置を示すもので,ガラス或いはプラスチックからなる第1の基板1上には,ゲート線とゲート電極2が形成され,これを覆うようにゲート絶縁膜である絶縁層3が形成されている。そして,この絶縁層3上の所定の位置には,半導体層4例えば水素化アモルファスシリコン(以下,a-Si:Hと記す)が形成され,この半導体層4を挾むようにデータ線と一体のドレイン電極5や,例えばITO(Indium Tin Oxide)からなる表示画素電極6と一体のソース電極7が形成されている。」(第1ページ左下欄13行?第2ページ左上欄19行)
「第1図及び第2図は,この製造方法により得られたアクティブマトリックス型液晶表示装置を示す断面図と等価回路図であり,第1図においては前述した第6図と同様に構成される透明対向電極22を有する第2の基板及び液晶23は省略されている。又,第2図中のXi(i=1,2,3,・・・m)は複数のデータ線,Yj(j=1,2,3,・・・m)は複数のゲート線であり,これらデータ線Xiとゲート線Yjの各交点位置にTFT20が構成されている。更に,21は表示画素電極であり,各TFT20のソース電極に接続され,この表示画素電極21と透明対向電極22との間に液晶23が挟持されている。
さて,このようなアクティブマトリックス型液晶表示装置を製造方法するには,ガラス或いはプラスチックからなる第1の基板24上に,先ずゲート電極25を所定パターンに形成する。
次に,ゲート電極25が形成された第1の基板24をプラズマCVD装置内に装着し,ヒータにより基板温度が330℃になるように電圧・電流を調整し,加熱する。
・・・
次に,反応ガスをシラン(SiH_(4)),水素(H_(2))に切り換え,基板温度を300℃とし,窒化シリコン膜27が形成された基板24上に,a-Si:H膜を堆積し,半導体層28を形成する。
次に,半導体層28を所定形状に形成後,この半導体層28を含む窒化シリコン膜27上に例えばITOを堆積し,これを所定形状にエツチングして表示画素電極21を形成する。
次に,表示画素電極21,半導体層28を含む窒化シリコン膜27上に,例えばアルミニウムを堆積し,更にエツチングして半導体層28を挾んでデータ線Xiと一体のドレイン電極29及び表示画素電極21と一体のソース電極30を形成する。」(第3ページ右上欄1行?同ページ左下欄11行)

それゆえ,引用発明に係る液晶表示装置用基板上に,アモルファスシリコン薄膜トランジスタを形成して薄膜トランジスタ基板とすること,及び,該アモルファスシリコン薄膜の成膜温度を250℃以上とすることは当業者が適宜になし得たことである。
よって,相違点1は,当業者が適宜になし得たことである。

(4-2)相違点2について
一般に,ポリイミド樹脂は,酸成分(典型的にはカルボン酸二無水物)と塩基成分(典型的にはジアミン)を重合させてポリアミド酸を得て,これを脱水閉環(脱水環化)することにより製造されることは,引用例1(前記「(2-1) 特開平11-60732号公報」のカ?シを参照)のほか,以下の周知例3にも記載されているように,従来より周知の技術である。さらに,この際のポリイミド樹脂の一般式が,前記酸成分を構成する有機基と,前記塩基成分を構成する有機基を含む,補正発明の式[I]と同じ構造となることも,前記周知例3にも示されているように技術常識である。なお,補正発明の式[I]と,周知例3に記載された式[I]とは一見異なるが,これらの式を各々繰り返し連ねたものに差異がないことは明らかである。
・ 周知例3:特開2001-72768号公報
本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-72768号公報には次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】
・・・
ポリイミドは一般に極性溶媒中でジアミンとカルボン酸二無水物を反応させることによりポリアミド酸とした後,熱もしくは触媒を用いることにより脱水環化し対応するポリイミドとすることができる。
・・・。」
「【0007】即ち,本発明は一般式[I]
【化5】

(式中,繰り返し単位数mは正の整数を表し,R^(1)は脂肪族テトラカルボン酸を構成する4価の有機基を表し,R^(2)はジアミンを構成する2価の有機基を表す。)で表される繰り返し単位を含有し, ・・・ であるところのポリイミド・・・。」

ここで,引用発明に係るポリイミド樹脂は,「脂環式基または脂肪族基を有するカルボン酸またはその誘導体としての酸無水物,酸塩化物,エステル化物を酸成分とし,脂環式基または脂肪族成分を有しないジアミンを塩基成分として製造されたものである」。そして,引用例1には酸成分として,「1,2,4,5?シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物」(前記「(2-1) 特開平11-60732号公報」のキを参照),すなわち,脂環式基としてシクロヘキサン基を有するカルボン酸の無水物が例示されており,これは,本願明細書に記載された実施例において用いられているものでもある。
一方,引用例1には塩基成分として,「4,4’?ジアミノジフェニルエーテル」及び「4,4’?ジアミノジフェニルメタン」(前記「(2-1) 特開平11-60732号公報」のコを参照),すなわち共に芳香族基を有する芳香族ジアミンが例示されている。これらの芳香族ジアミンは,補正発明に記載された芳香族ジアミンの群に含まれるものでもある。
これらの例示された酸成分及び塩基成分を選択してポリイミドを製造することにより,前記周知例3に記載された一般式[I]中のR^(1)に相当する有機基がシクロヘキサン環となり,同式中のR^(2)に相当する有機基が,前記各芳香族ジアミンの芳香族基が残ったものとなることは明らかである。また,同式より,R^(1)に相当する有機基が4価となり,R^(2)に相当する有機基が2価となることも明らかである。
また,脂肪族系ポリイミド及び脂環式ポリイミドであって,300℃を越えるガラス転移温度を有するものは,前記周知例3のほか,以下の周知例4にも示されているように,従来より周知であるから,本願明細書に記載された実施例におけるガラス転移温度(315℃)は格別なものとはいえず,この点についての請求人の主張は採用できない。
・ 上記周知例3(特開2001-72768号公報)には,さらに次の記載がある。
「【0023】実施例1 ・・・
(2)ガラス転移温度:385℃」

・ 周知例4:特開昭63-205640号公報
本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭63-205640号公報には次の記載がある。
「本発明は,このような問題点を解決するため芳香族ポリイミドと同等の耐熱性を有していながら,低温で製膜が可能である特定の脂環式ポリイミド重合体を配向制御膜として用いる液晶表示素子を提供することを目的とする。」
「実施例2 ・・・又,ガラス転移温度は305℃であった。」
「実施例4 ・・・,ガラス転移温度は335℃であった。」

したがって,前記引用例1に例示された各成分を選択して,一般式I
【化1】

(式中,Rは4価のシクロヘキサン環であり,Φは4,4'-ジアミノジフェニルエーテル,4,4'-ジアミノジフェニルメタン,4,4'-ジアミノジフェニルスルホン及び2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパンからなる群から選ばれる芳香族ジアミンの2価の芳香族残基である)
で示される繰り返し単位を有するポリイミドとすることは当業者が適宜になし得たことである。
よって,相違点2は,当業者が適宜になし得たことである。

(5)小括
上述したように,補正発明は,引用例1及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1. 本願発明
平成20年9月8日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成20年6月9日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載から見て,その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
下記の一般式Iで示される繰り返し単位を有するポリイミドのフィルムからなる基板にアモルファスシリコン薄膜トランジスタが形成された薄膜トランジスタ基板であって,該アモルファスシリコン薄膜の成膜温度が250℃以上である薄膜トランジスタ基板。
【化1】

(式中,Rは4価のシクロヘキサン環,シクロブタン環またはシクロペンタン環であり,Φは2価の芳香族基である)」
(以下「本願発明」という。)

2. 引用発明
引用発明は,前記第2の3.「(2) 刊行物に記載された発明」に記載したとおりのものである。

3.対比・判断
前記第2「1. 本件補正の内容」及び第2「2. 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無について」において示したように,補正発明は,本件補正前の請求項1(本願発明)について,補正前の請求項2に係る限定,及び前記〈補正事項b〉に係る限定を付したものである。言い換えると,本願発明は,本願補正発明から前記各限定を除いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである補正発明が,前記第2の3.「(3)補正発明と引用発明との比較」?第2の3.「(5) 小括」において検討したとおり,引用発明及び従来周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-12 
結審通知日 2011-01-19 
審決日 2011-02-01 
出願番号 特願2001-366316(P2001-366316)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 輝河本 充雄  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 近藤 幸浩
松田 成正
発明の名称 薄膜トランジスタ基板  

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