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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
管理番号 1233916
審判番号 不服2007-20569  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-25 
確定日 2011-03-14 
事件の表示 特願2001-550494号「体積流およびエネルギー流のための3次元的に配置された伝導/接続構造の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年7月12日国際公開、WO01/50198、平成15年6月17日国内公表、特表2003-519039号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年12月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年12月31日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成19年3月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同年8月24日付けで手続補正がなされ、その後、平成22年4月22日付けで当審による拒絶の理由が通知され、平成22年9月28日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成17年10月28日付け、平成19年8月24日付け及び平成22年9月28日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、該請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。なお、平成19年1月12日付け手続補正は、原審において平成19年3月8日付けで決定をもって却下されている。

「【請求項1】 層を形成するためにさまざまな光硬化材料を使用する、体積流およびエネルギー流のための3次元的に配置された伝導/接続構造を製造する方法において、
a)選択された物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料を硬化することにより構造化層を生成するステップと、
b)該構造化層から硬化されなかった材料を洗浄プロセスにより洗い流し、別の物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料で充填し、液体状の光硬化材料から成る所定の厚さの新たな層で覆うステップと、
c)新たな層の領域を同様に構造化して硬化するステップと、
d)該構造化層の硬化されなかったすべての領域を洗浄プロセスにより洗い流し、その後、別の物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料で充填し、液体状の光硬化材料から成る所定の厚さの第2の層で覆うステップと、
e)構造化して凝固させることにより第2の層の充填領域内および上記新たな層内の領域を構造化して硬化し、これにより同じ物理的、化学的または生物学的特性を有する材料の接続または該材料の絶縁を行うステップと、
f)直前の構造化で硬化されなかった材料を洗浄プロセスにより洗い流すステップと、
g)材料で充填されていない領域に、製造すべきシステムに応じて、電子的、機械的、光学的または化学的素子を設けるステップと、
h)前記諸構造化層および素子を、別の物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料で充填し、液体状の光硬化材料から成る所定の厚さの層で覆い、再び構造化して硬化し、これにより同じ物理的、化学的または生物学的特性を有する材料の接続または絶縁、ならびに素子間の接続を行うステップと、
i)aからhのステップを繰り返して3次元構造を形成するステップとを有し、
ただし、上記各層は2つの面平行なプレートの間の少量の光硬化合成物質により形成され、尚前記2つの面平行なプレートのうちの少なくとも一方は電磁波を通し、少量の光硬化合成物質は表面張力により保持されており、薄層は形成すべき構造の層状に構成された3次元モデルに従って電磁波によって露光され、尚このモデルは計算機に記憶されており、電磁波はこのモデルに従って露光される場所で1層ずつ構造化された硬化を行い、その際、各ステップにおいて層厚に応じてプレート間の間隔を広げることにより、新たな合成物質を隙間に流入させる、ことを特徴とする体積流とエネルギー流のための3次元的に配置された伝導/接続構造を製造する方法。」

3.引用例
これに対して、当審により平成22年4月22日付けで通知した拒絶の理由に引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例は以下のとおりである。
(1)特開平9-277384号公報(以下、「引用例1」という。)
(2)特開平11-337752号公報(以下、「引用例2」という。)
(3)特表平8-512146号公報(以下、「引用例3」という。)
(4)特開平10-73591号公報(以下、「引用例4」という。)

3-1.引用例1
引用例1には、「三次元構造体の製造装置と製造方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光硬化性流動樹脂を用いた光造形技術に関する。特に、本発明は、光像照射手段により光硬化性流動樹脂層に二次元像を照射して光硬化層を造形し、前記光硬化層を順次複数層積み重ねて所望の三次元構造体を製造するための三次元構造体の製造装置と該三次元構造体の製造方法に関する。」
(い)「【0002】
【従来の技術】近年マイクロマシーンの研究が盛んであり、特に三次元部品加工及び組立技術のニーズは大きく、多種の微細加工技術が研究されている。これらの微細加工技術の1つに、切削工程を必要としない三次元構造物の製造技術として近年注目されている光造形技術がある・・・略・・・。光造形法により三次元構造物を造形する具体的な製法を第1図の工程フローチャートに示した。各工程は以下に説明するとおりである。1)三次元CADに三次元構造物の図面を入力する。2)該三次元構造物から一定の厚みごとに水平方向のスライス図形データ群を作成する。3)光硬化性流動樹脂、例えばオリゴマー(エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートなど)、反応性希釈剤(モノマー)、光重合開始剤(ベンゾイン系、アセトフェノン系など)の三要素からなる光硬化性流動樹脂内に上下方向に移動するエレベータを設置し、光硬化性流動樹脂が一定の積層厚みになる様に位置させる。4)レーザビーム、例えば紫外線の波長領域を持つエキシマレーザ(308nm)、He-Cdレーザ(325nm)、Arレーザ(351?346nm)を目的形状の水平断面に沿って走査させ、光硬化性流動樹脂を硬化させる。5)再度エレベータを一定の積層厚みになる様に位置させて、未硬化の光硬化性流動樹脂を流入させる。6)目的形状の三次元構造物が完成するまで4)と5)を繰り返す。7)三次元構造物を取り出し、表面に付着している未硬化の光硬化性流動樹脂を洗浄する。8)後露光を行う。」
(う)「【0082】一般に、二種類の異なる光硬化性流動樹脂を用いて三次元構造体を造形する場合、・・・略・・・。このような方法では、光硬化性流動樹脂を変えるごとに未硬化部の余分な光硬化性流動樹脂を取り除き、洗浄、乾燥及び後露光を行う必要があり、加えて、これを積層回数繰り返さなければならない。・・・略・・・。」
(え)【0090】次に、図12を参照して、三次元構造体の製造方法の第二の態様を以下に説明する。図12は、異種材料より構成される三次元構造体の規制液面法による製造方法の例である。・・・略・・・。
【0091】図12(A)に示されるように、先ず、エレベータ151を粉末混合光硬化性流動樹脂A156内に浸漬し挿入し、エレベータ151と硬化物を剥離させるための剥離材153との間に一定のクリアランスを設定した後、光154を照射し、所望の三次元構造体の第一層を造形する。・・・略・・・。
【0092】光源からの光は、石英レンズ等により集光させ粉末混合光硬化性流動樹脂に照射する。照射は、光源からの光をXYステージのようなスキャンニング手段でパターン照射することにより行う。図12(A)は、このようなパターン照射により硬化物155を造形したところを表す。
【0093】次にエレベータ151をタンクAから取り出し、硬化物を洗浄、乾燥及び後露光し(各工程は図示せず)所望の第一の硬化物155を製造する。次に、エレベータ(151)の位置に、粉末混合光硬化性流動樹脂Aとは異なる粉末混合光硬化性流動樹脂Bを導入した別のタンクB145を移動し、第二の硬化物を光造形する。以下に、この第二の硬化物159を造形する過程を図12(B)を参照して述べる。先ず、エレベータ151を粉末混合光硬化性流動樹脂B158内に浸漬させ、剥離材153との間に一定のクリアランスを設定する。この後、粉末混合光硬化性流動樹脂B158を硬化させる適切な露光量に設定された光157をパターン照射することにより、光硬化層を造形する。次に、エレベータ151を一定積層厚分上昇させ、光157をパターン照射し第二の硬化物159の第二層目を造形する。この操作を繰り返し、所望の硬化物を得る。図12(B)では三層より成る硬化物(159)を2つ造形した例を示した。該光硬化物は必ずしも三層である必要はなく、一層でも、複数層でもよい。また、硬化物(159)数も二以上であってもよい。・・・略・・・。次いで、エレベータ151をタンクB(145)から取り出し、洗浄、乾燥及び後露光を行う(各工程は図示せず)ことにより第二の硬化物(159)が得られる。これにより、光硬化物(155)と光硬化物(159)より成る構造体が造形される。
【0094】次に、エレベータ(151)の位置に再度タンクA(150)を移動し、第三の硬化物を造形する。これを図12(C)に示す。エレベータ(151)を粉末混合光硬化性流動樹脂A(156)内に浸漬し、剥離材(153)から光硬化物169の厚み分のクリアランスを設定した後、光160をパターン照射して光硬化物(169)を造形する。図12(C)では、前記硬化した2つの三層の光硬化物(159)の間に、これらの積層面の側面に三層分の厚みで光硬化性流動樹脂(156)を硬化させたところを示している。・・・略・・・。
【0095】このようにして硬化物(155)、硬化物(159)及び硬化物(169)が接合された構造体が造形される。次に、エレベータ(151)を所望の光硬化層分だけ上方に移動させ、構造体と剥離材との間にクリアランスを設ける。光168をパターン照射し、粉末混合光硬化性流動樹脂A158を硬化し、硬化物を造形する。図12(D)は、光のパターン照射により構造物165を造形したとことを示している。・・・略・・・。また、本例示では、第三及び第四の硬化物の造形に粉末混合光硬化性流動樹脂Aを用いたが、第三の粉末混合光硬化性流動樹脂Cなど、種々の粉末混合光硬化性流動樹脂を用いることもできる。この場合は、光源、露光量調節手段等は、粉末今後光硬化性流動樹脂C等に合わせて適切に選択する。
【0096】・・・略・・・。また、上述の例では、粉末混合光硬化性流動樹脂を使用したが、これに代えて、光硬化性流動樹脂を使用することもできる。
【0097】以上の方法を用いることによって、異なる材料特性の光硬化層からなる複合構造の三次元光硬化構造体を組立を必要とせずに形成することができる。本発明の製造方法によれば、使用する光硬化性流動樹脂の種類や硬化させる形状によって露光量を変化させることにより、特定の光硬化物に平行な方向や垂直な方向に新たな硬化物を追加造形することができ、種々の複雑な組成又は構造の三次元構造体を造形することができる。従って、本発明の方法は、非常の自由度の高い三次元構造体の製造方法である。また、本発明の製造方法を用いることによって、異なる材料特性の光硬化物からなる複合構造の三次元構造体を組立を必要とせずに形成することができる。また、本発明の製造方法は、二つの材料を部分的に接合させるだけではなく、図12で説明した三次元構造体の製造方法のように複雑な溝等の形状を有する構造体にも硬化物を接合造形できる。」
(お)上記記載事項(え)及び図12からみて、粉末混合光硬化性流動樹脂Bからなる光硬化物159の層内に粉末混合光硬化性流動樹脂Aからなる光硬化物169が垂直に造形され、該粉末混合光硬化性流動樹脂Aからなる光硬化物169が、粉末混合光硬化性流動樹脂Aからなる、光硬化物155の層及び光硬化物165の層と接続されている態様が看取される。
(か)上記記載事項(え)及び図12からみて、光硬化物155,159,169,165の各層は2つの面平行なエレベータ151とガラス板147の間の粉末混合光硬化性流動樹脂により形成され、ガラス板147は照射光154,157,160,168を通し、粉末混合光硬化性流動樹脂は2つの面平行なエレベータ151とガラス板147の間に保持されており、各層は目的形状の三次元構造体が得られるようにパターン照射によって1層ずつ硬化されるように露光され、その際、所定の層厚に応じてエレベータ151とガラス板147との間の間隔を広げることにより粉末混合光硬化性流動樹脂を流入させるものであるものといえる。

以上の記載及び図面(特に、図12)を総合すると、引用例1には、次の発明が記載されているものと認める(以下、「引用例1発明」という。)。

「異なる粉末混合光硬化性流動樹脂を用いて三次元構造体を製造する方法において、
a’)エレベータ151をタンクA150内に浸漬し、粉末混合光硬化性流動樹脂Aを硬化することにより光硬化物155の層を製造し、
b’)エレベータ151をタンクAから取り出し硬化物を洗浄した後に、エレベータ151をタンクB145内に浸漬し粉末混合光硬化性流動樹脂Bで充填し、粉末混合光硬化性流動樹脂Bからなる所定の厚さの層で覆い、
c’)粉末混合光硬化性流動樹脂Bからなる所定の厚さの層を硬化して光硬化物159の層を製造し、
d’)エレベータ151をタンクB145から取り出し硬化物を洗浄し、その後、エレベータ151をタンクA150内に浸漬し粉末混合光硬化性流動樹脂Aで充填し、粉末混合光硬化性流動樹脂Aからなる所定の厚さの層で覆い、
e’)粉末混合光硬化性流動樹脂Aを硬化して光硬化物169の層が製造されることにより、粉末混合光硬化性流動樹脂Bからなる光硬化物159の層内に粉末混合光硬化性流動樹脂Aからなる光硬化物169が垂直に追加造形され、粉末混合光硬化性流動樹脂Aからなる光硬化物155の層と接続され、
h’)光硬化物155,159,169が造形された構造体を、粉末混合光硬化性流動樹脂Aからなる所定の厚さの層で覆い硬化して光硬化物165の層を製造し、これにより粉末混合光硬化性流動樹脂Aからなる光硬化物155,169,165が接続され、
i’)これを目的形状の三次元構造体が得られるまで繰り返し、
ただし、上記光硬化物の各層は2つの面平行なエレベータ151とガラス板147の間の粉末混合光硬化性流動樹脂により形成され、ガラス板147は照射光154,157,160,168を通し、粉末混合光硬化性流動樹脂は2つの面平行なエレベータ151とガラス板147の間に保持されており、各層は目的形状の三次元構造体が得られるようにパターン照射によって1層ずつ硬化されるように露光され、その際、所定の層厚に応じてエレベータ151とガラス板147との間の間隔を広げることにより粉末混合光硬化性流動樹脂を流入させるものである、三次元構造体を製造する方法。」

3-2.引用例2
引用例2には、「光導波路およびその作製方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(き)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、一般光学や微小光学分野で、さらに光通信や光情報処理の分野で用いられる種々の光集積回路または光配線板等に利用できる光導波路と、その作製方法とに関するものである。」
(く)「【0042】次に、図8に示したような導波路パターンを有するマスク7を介して、図7に示すように、UV光4を照射した。照射量は2,000mJ/cm^(2)であった。その後、この試料を有機溶剤で現像したところ、マスク7のパターンに従い、光照射部のみ液状のエポキシオリゴマーが硬化し、図9に示すような形状の40μm幅のリッジパターン8が作製できた。
【0043】その後、図10に示すように、このリッジパターン8および下部クラッド層5の上に、硬化後の屈折率が波長0.85μmで1.52になる粘度1,500cpsの感光性樹脂材料(C)を塗布してUV光4を照射して硬化させ、光導波路を作製した。この操作により屈折率1.52のUV効果エポキシ樹脂からなる下部クラッド層5と上部クラッド層10、および屈折率1.535のUV硬化エポキシ樹脂からなるコア9を有するマルチモードチャンネル導波路が作製できた。」

3-3.引用例3
引用例3には、「熱的に安定な光高分子組成物と光伝送デバイス」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(け)「1.発明の分野
本発明は、光重合性組成物およびそれより製造される熱的に安定な光高分子(photopolymer)組成物に関する。本発明のもう一つの態様は、本発明の光高分子組成物から作られる導波路のような光透過性光学デバイスに関する。」(第4頁第4?7行)
(こ)「支持基材は、シリコン、酸化ケイ素、ヒ化ガリウム、チッ化ケイ素、ガラス、石英、プラスチックス、セラミックス、結晶性材料およびそれらに類する材料のような半導体材料を含めて、導波路をその基材上に形成することが望まれる任意の材料であることができる。この支持基材は、溝(groove)若しくは電気回路、またはレーザ・ダイオードのような電子‐光学デバイスのようないずれかの微細地形的特徴(topographical features)の他のデバイスを含んでいることもできるし、含んでいないこともできる。」(第15頁第17?23行)
(さ)「図1はガラスまたは溶融石英のような支持基材10を示しており、その表面に本発明の光重合性組成物が付いて層12を形成している。この光重合性材料の組成は最終デバイスで希望の導波特性を生じるように変えることができるが、重合した時400?1600nmの範囲の光波を透過し、約1.40から約1.60の範囲の屈折率を有する本発明の光高分子を生成することが望ましい。この方法で本発明のデバイスは様々な屈折率を有する光ファイバーを収容できる。有機層12は、例えば、感光性組成物の溶液に支持基材10を浸漬するなどの任意の適切な従来法で付着させることができる。この光重合性組成物は、通常直径5から500ミクロンの光搬送コアを有する従来のガラスおよびプラスチック・ファイバーとなじむデバイスを形成させるために、5から500ミクロンの厚みに付着される。この付着された光重合性組成物は、図1に示された支持基材10の裏(若しくは底)側から、その面をアセトンで洗うことにより除去することができる。場合によっては、支持基材の裏側に付着されたこの光重合性組成物を所定の場所に残すこともできる。
次いで、例えば、成書:“光レジスト材料と方法”マックロウ-ヒル社、ニューヨーク(1975)の中でウイリアム エス.デフォレストが説明しているような既知の光リソグラフ法を用いて、図1の構造物を支持基材10から1?10ミクロン離して置かれ、そして図1に示されたような最終デバイスの所望の幾何学的形状を画成する非接触マスク14を通して紫外線のビーム16に曝して光重合性組成物を重合させ、導波性光高分子を形成する。この付着され、照射された層12を適切な溶剤を用いて現像して所望とされない未重合部分を除く。支持基材10に付着したまま残った露光された光重合性組成物は、マスク14で画成された構造を有している。
図2は、そのデバイスの予め決められた平面幾何学形状の透過路が“Y”字形をしている本発明の一つの望ましい態様を示している。その支持基材10はその上に、図1のマスク14用のY字形のマスクを用いて、図1で説明したような方法で形成された導波パターン18を付着している。図2に示されたこのデバイスは導波カップラーとして有用なことが示された。」(第17頁第20行?第18頁第19行)

3-4.引用例4
引用例4には、「微小流路素子」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
(し)「【0017】本発明の微小流路素子は、上記光硬化性流動樹脂組成物が、二枚の上記親水性の基板の間で光硬化され、親水性基板に挟まれた硬化樹脂層を形成しており、該樹脂層に流路が形成されている。この流路は、分析機器用の流体流路であるため、分析装置に合わせた種々の形状を取りうる。例えば、二枚の親水性基板に挟まれた樹脂層内を蛇行するように流路を設けうる。
【0018】本発明の微小流路素子は、二枚の親水性基板の間に上記光硬化性流動樹脂組成物を挟み、所望の流路形状のマスクを介して光照射することにより該組成物を硬化して硬化樹脂層を形成すると供に、未硬化の光硬化性流動樹脂組成物部分より成る流路に相当する部分を形成させ、次いで、この未硬化部分を洗浄除去することによって製造される。但し、この製造方法は一例であり、発明の実施の形態で具体的に説明するように、他の製造方法も用いることができる。このように、本発明の微小流路素子は、硬化樹脂層が光硬化されたものであることを特徴とする。」

4.対比
技術常識やそれぞれの機能などを考慮して、本願発明1と引用例1発明とを対比すると、三次元構造体の用途などに応じて樹脂が選択された所望の特性を有することは明らかであるから、引用例1発明における「粉末混合光硬化性流動樹脂A,B」は本願発明1における「選択された物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料」に相当し、以下同様に、「エレベータ151をタンクA,Bから取り出し硬化物を洗浄」することは「硬化されなかった材料を洗浄プロセスにより洗い流し」することに、「照射光」は「電磁波」に、「パターン照射」は「形成すべき構造の層状に構成された3次元モデルに従って電磁波によって露光され、尚このモデルは計算機に記憶されており、電磁波はこのモデルに従って露光される場所で1層ずつ構造化された硬化を行」うことに、それぞれ実質的に相当する。
してみると、引用例1発明における「a’)エレベータ151をタンクA150内に浸漬し、粉末混合光硬化性流動樹脂Aを硬化することにより光硬化物155の層を製造し」は本願発明1における「a)選択された物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料を硬化することにより構造化層を生成するステップ」に相当し、以下同様に、「b’)エレベータ151をタンクAから取り出し硬化物を洗浄した後に、エレベータ151をタンクB145内に浸漬し粉末混合光硬化性流動樹脂Bで充填し、粉末混合光硬化性流動樹脂Bからなる所定の厚さの層で覆い」は「b)該構造化層から硬化されなかった材料を洗浄プロセスにより洗い流し、別の物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料で充填し、液体状の光硬化材料から成る所定の厚さの新たな層で覆うステップ」に、「c’)粉末混合光硬化性流動樹脂Bからなる所定の厚さの層を硬化して光硬化物159の層を製造し」は「c)新たな層の領域を同様に構造化して硬化するステップ」に、「d’)エレベータ151をタンクB145から取り出し硬化物を洗浄し、その後、エレベータ151をタンクA150内に浸漬し粉末混合光硬化性流動樹脂Aで充填し、粉末混合光硬化性流動樹脂Aからなる所定の厚さの層で覆い」は「d)該構造化層の硬化されなかったすべての領域を洗浄プロセスにより洗い流し、その後、別の物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料で充填し、液体状の光硬化材料から成る所定の厚さの第2の層で覆うステップ」に、「e’)粉末混合光硬化性流動樹脂Aを硬化して光硬化物169の層が製造されることにより、粉末混合光硬化性流動樹脂Bからなる光硬化物159の層内に粉末混合光硬化性流動樹脂Aからなる光硬化物169が垂直に追加造形され、粉末混合光硬化性流動樹脂Aからなる光硬化物155の層と接続され」は「e)構造化して凝固させることにより第2の層の充填領域内および上記新たな層内の領域を構造化して硬化し、これにより同じ物理的、化学的または生物学的特性を有する材料の接続または該材料の絶縁を行うステップ」に、「i’)これを目的形状の三次元構造体が得られるまで繰り返し」は「i)aからhのステップを繰り返して3次元構造を形成するステップ」に、「ただし、上記光硬化物の各層は2つの面平行なエレベータ151とガラス板147の間の粉末混合光硬化性流動樹脂により形成され、ガラス板147は照射光154,157,160,168を通し、粉末混合光硬化性流動樹脂は2つの面平行なエレベータ151とガラス板147の間に保持されており、各層は目的形状の三次元構造体が得られるようにパターン照射によって1層ずつ硬化されるように露光され、その際、所定の層厚に応じてエレベータ151とガラス板147との間の間隔を広げることにより粉末混合光硬化性流動樹脂を流入させるものである」は「ただし、上記各層は2つの面平行なプレートの間の少量の光硬化合成物質により形成され、尚前記2つの面平行なプレートのうちの少なくとも一方は電磁波を通し、少量の光硬化合成物質は表面張力により保持されており、薄層は形成すべき構造の層状に構成された3次元モデルに従って電磁波によって露光され、尚このモデルは計算機に記憶されており、電磁波はこのモデルに従って露光される場所で1層ずつ構造化された硬化を行い、その際、各ステップにおいて層厚に応じてプレート間の間隔を広げることにより、新たな合成物質を隙間に流入させる」に、それぞれ相当するといえる。
また、引用例1発明における「異なる粉末混合光硬化性流動樹脂を用いて三次元構造体を製造する方法」と、本願発明1の「層を形成するためにさまざまな光硬化材料を使用する、体積流およびエネルギー流のための3次元的に配置された伝導/接続構造を製造する方法」とは、用途に関する相違は下記に相違点で挙げるとして、少なくとも、「層を形成するためにさまざまな光硬化材料を使用する、3次元的に配置された構造を製造する方法」では共通している。
さらに、引用例1発明における「h’)光硬化物155,159,169が造形された構造体を、粉末混合光硬化性流動樹脂Aからなる所定の厚さの層で覆い硬化して光硬化物165の層を製造し、これにより粉末混合光硬化性流動樹脂Aからなる光硬化物155,169,165が接続され」と、本願発明1における「h)前記諸構造化層および素子を、別の物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料で充填し、液体状の光硬化材料から成る所定の厚さの層で覆い、再び構造化して硬化し、これにより同じ物理的、化学的または生物学的特性を有する材料の接続または絶縁、ならびに素子間の接続を行うステップ」とは、素子に関する相違は下記に相違点で挙げるとして、少なくとも「h)前記諸構造化層を、別の物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料で充填し、液体状の光硬化材料から成る所定の厚さの層で覆い、再び構造化して硬化し、これにより同じ物理的、化学的または生物学的特性を有する材料の接続を行うステップ」の点では共通している。

してみれば、本願発明1と引用例1発明とは、本願発明1の表記にならえば、次の点で一致する。
「層を形成するためにさまざまな光硬化材料を使用する、3次元的に配置された構造を製造する方法において、
a)選択された物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料を硬化することにより構造化層を生成するステップと、
b)該構造化層から硬化されなかった材料を洗浄プロセスにより洗い流し、別の物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料で充填し、液体状の光硬化材料から成る所定の厚さの新たな層で覆うステップと、
c)新たな層の領域を同様に構造化して硬化するステップと、
d)該構造化層の硬化されなかったすべての領域を洗浄プロセスにより洗い流し、その後、別の物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料で充填し、液体状の光硬化材料から成る所定の厚さの第2の層で覆うステップと、
e)構造化して凝固させることにより第2の層の充填領域内および上記新たな層内の領域を構造化して硬化し、これにより同じ物理的、化学的または生物学的特性を有する材料の接続または該材料の絶縁を行うステップと、
h)前記諸構造化層を、別の物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料で充填し、液体状の光硬化材料から成る所定の厚さの層で覆い、再び構造化して硬化し、これにより同じ物理的、化学的または生物学的特性を有する材料の接続を行うステップと、
i)aからhのステップを繰り返して3次元構造を形成するステップとを有し、
ただし、上記各層は2つの面平行なプレートの間の少量の光硬化合成物質により形成され、尚前記2つの面平行なプレートのうちの少なくとも一方は電磁波を通し、少量の光硬化合成物質は表面張力により保持されており、薄層は形成すべき構造の層状に構成された3次元モデルに従って電磁波によって露光され、尚このモデルは計算機に記憶されており、電磁波はこのモデルに従って露光される場所で1層ずつ構造化された硬化を行い、その際、各ステップにおいて層厚に応じてプレート間の間隔を広げることにより、新たな合成物質を隙間に流入させる、3次元的に配置された構造を製造する方法。」

一方、本願発明1と引用例1発明とは、次の点で相違する。
[相違点1]
層を形成するためにさまざまな光硬化材料を使用する、3次元的に配置された構造の用途に関して、本願発明1は「体積流およびエネルギー流のための3次元的に配置された伝導/接続構造」とされているのに対し、引用例1発明は、三次元構造体が体積流およびエネルギー流のための伝導/接続の用途に用いられるのか不明な点。
[相違点2]
製造すべきシステムに応じて設けられる、電子的、機械的、光学的または化学的素子に関連して、本願発明1は、「f)直前の構造化で硬化されなかった材料を洗浄プロセスにより洗い流すステップと、g)材料で充填されていない領域に、製造すべきシステムに応じて、電子的、機械的、光学的または化学的素子を設けるステップと、h)前記諸構造化層および素子を、別の物理的、化学的または生物学的特性を有する液体状の光硬化材料で充填し、液体状の光硬化材料から成る所定の厚さの層で覆い、再び構造化して硬化し、これにより同じ物理的、化学的または生物学的特性を有する材料の接続または絶縁、ならびに素子間の接続を行うステップ」を備えているのに対し、引用例1発明は、三次元構造体に素子が設けられておらず、そのようなステップを備えていない点。

5.当審の判断
次に、相違点について検討する。

5-1.[相違点1]について
一般的に三次元構造体等の各種構造体は各種用途に用いられるものであり、該構造体をどのような用途に用いるかは選択的事項にすぎないものであるが、さらに、光硬化材料を用いて形成される構造体の分野においても、該構造体を体積流やエネルギー流の接続の用途に用いることは従来周知の技術(例えば、引用例2の上記記載事項(く)の「光導波路」、引用例3の上記記載事項(さ)及び図1,2の「導波パターン18」、引用例4の上記記載事項(し)の「未硬化の光硬化性流動樹脂組成物部分より成る流路」を参照。)である。
そして、引用例1の上記記載事項(え)の段落【0097】に「本発明の製造方法によれば、使用する光硬化性流動樹脂の種類や硬化させる形状によって露光量を変化させることにより、特定の光硬化物に平行な方向や垂直な方向に新たな硬化物を追加造形することができ、種々の複雑な組成又は構造の三次元構造体を造形することができる。従って、本発明の方法は、非常の自由度の高い三次元構造体の製造方法である。」と記載されているように、引用例1発明の三次元構造体は、特定の光硬化物に平行な方向や垂直な方向に新たな硬化物を追加造形することができるような非常に自由度の高い三次元構造体であるところ、該引用例1の三次元構造体中の構造体(光硬化物)を、用途等に応じて上記従来周知の技術を適用して、体積流やエネルギー流の接続の用途に用いることは当業者が容易になし得たものである。

5-2.[相違点2]について
三次元構造体が用途に応じた装置や素子を内部に含むことは一般的に行われていることにすぎないが、さらに、光硬化材料を用いて形成される構造体の分野においても、その構造体が内部に用途に応じた素子を含むことは従来周知の技術(例えば、引用例3の上記記載事項(こ)を参照。)であり、該素子を三次元構造体の内部にどのように配置するかは、用途や製造容易性等を考慮した設計的事項であり、また光硬化材料が未硬化の部分を洗浄して、光硬化材料で充填されていない領域が形成されることは自明の事項である。
してみると、引用例1発明に上記従来周知の技術を適用して、三次元構造体において、用途に応じた素子を内部に含むように構成し、該素子のための領域を光硬化材料が未硬化の部分を洗浄して取り除いて形成することは、当業者が容易になし得たものであり、該素子をどの光硬化樹脂の層の内部に配置するかは、用途や製造容易性等を考慮した設計的事項である。

また、本願発明1が奏する効果として、当業者が予想できないような格別顕著なものを見いだすこともできない。

なお、審判請求人は、平成22年9月28日付け意見書の「2.理由1について」において、「これら引用例(審決注:本審決の引用例2ないし引用例4。以下、同様。)に記載された構造体はいずれも本願発明で言う「体積流およびエネルギー流のための3次元的に配置された伝導/接続構造」に相当しません。というのも、引用例2-4に記載の発明は、本願請求項1に記載されているステップa?hの繰り返しに想到する工程を有しておらず、構造体は単に基板上に1回きりの硬化ステップで形成されているに過ぎず、ステップの繰り返しによって構造体を縦横高さの3方向に成長させていくという思想はまったく示されていません。引用例2-4に記載された構造体はたしかにそれ自体は3次元立体であるものの、「3次元的に配置された伝導/接続構造」とは呼べません。引用例2-4の構造体が「3次元的に配置された伝導/接続構造」されていないというのは、言い換えれば、引用例2-4の構造体の断面はすべて等しいということであります。これに対して、本願発明は、すべての断面が等しいのではない3次元的に配置された伝導/接続構造、例えば複雑な配管のように、縦横に張り巡らされた形の3次元的な伝導/接続構造を形成することを目的としています。しかし、上で述べましたように、このような「3次元的に配置された伝導/接続構造」は引用例2-4には示されていません。したがって、引用例1の発明に引用例2-4に記載された周知技術を適用しても本願発明に到ることはできません。」と主張している。
しかしながら、上記「5-1.[相違点1]について」で同様の趣旨を述べたが、引用例1発明の三次元構造体は、特定の光硬化物に平行な方向や垂直な方向に新たな硬化物を追加造形することができるような非常に自由度の高い三次元構造体であり、その引用例1発明の三次元構造体中の構造体(光硬化物)を、用途等に応じて上記従来周知の技術を適用して、体積流やエネルギー流の接続の用途に用いることは当業者が容易になし得たものであるから、審判請求人の上記主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、引用例1に記載された発明及び従来周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-20 
結審通知日 2010-10-22 
審決日 2010-11-02 
出願番号 特願2001-550494(P2001-550494)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 晋也  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 大山 健
山岸 利治
発明の名称 体積流およびエネルギー流のための3次元的に配置された伝導/接続構造の製造方法  
代理人 山崎 利臣  
代理人 久野 琢也  
代理人 杉本 博司  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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