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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04B
管理番号 1233923
審判番号 不服2008-10245  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-23 
確定日 2011-03-14 
事件の表示 特願2004-534667「ワイヤレス通信システム、および、該システムにおける動的なビームの調整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月18日国際公開、WO2004/023665、平成17年12月15日国内公表、特表2005-538614〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2003年9月8日(パリ条約による優先権主張2002年9月9日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年8月13日付けで拒絶理由が通知され、平成19年11月19日付けで手続補正がなされ、平成20年1月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年4月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、補正前の平成19年11月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項16は、補正後の請求項1として次のとおり補正された。

「 【請求項1】
ノードBであって、
当該アンテナから放射される少なくとも1つのビームを、少なくとも垂直方向において動的に調整する、少なくとも1つのビーム形成アンテナと、
少なくとも1つのビームを動的に傾けるために使用される傾斜情報を受信する受信機と、
前記傾斜情報に従って、前記ビームを調整する制御信号を生成する傾斜制御回路と
を具え、
前記傾斜情報は、前記ビームの傾きが他の基地局に影響を及ぼすことを考慮したものであることを具えたことを特徴とするノードB。」

上記補正は、本件補正前の請求項16に記載した発明を特定するために必要な事項である「アンテナから放射される少なくとも1つのビームを、少なくとも垂直方向において動的に調整する」ことに関し、「ビームを調整する制御信号を生成する傾斜制御回路」を備える点を限定するものであり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下検討する。

2.引用刊行物
原査定の拒絶理由に引用された刊行物である特表2001-518767号公報(以下、「引用例」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。

(a)
「 【0001】
[背景]
本発明は、セルラ通信の分野に関する。より詳細には、本発明は、基地局によって受信されるアップリンク信号品質を改善するため、および同一チャネル・セル内で動作する移動体によって受信される信号品質を改善するために、ターゲット・セル内の基地局アンテナの傾斜角の調節に関するものである。
【0002】
セルラ通信システム(例えば、セルラ移動体通信システム)では、通話品質を維持および/または改善することが非常に重要である。通話品質に著しい悪影響を与える恐れのある一つの要因は、同一チャネル干渉(co-channel interference)の存在である。同一チャネル干渉は、互いに隣接して、または比較的近傍に位置する2つ以上のセル(すなわち同一チャネル・セル)が、同じ周波数または周波数セットを再使用する(すなわち共有する)ときに生じる。本質的に、一方のセル内で再使用された周波数によって伝送される信号は、他方のセルでは干渉として認識される。」
(第7頁)

(b)
「 【0010】
[概要]
本発明の目的は、基地局アンテナの指向方向を最適に調節することである。
【0011】
本発明の別の目的は、同一チャネル干渉を減少させるために基地局アンテナの傾斜角を調節することである。」
(第11頁)

(c)
「 【0016】
[詳細な説明]
図2は、セルC1?C10を備える代表的なセルラ通信ネットワーク200を示している。図2はまた、各セルC1?C10が少なくとも一つの基地局、例として基地局B1?B10を含むことも示している。基地局は一般に、様々な移動体M1?M10と直接通信する。AMPS(Advanced Mobile Phone System)では、図示されるように、移動交換局(MSC)が通常、複数の基地局に接続されている。MSCは、周波数割当ておよび送信機電力レベル制御を含めた、しかし必ずしもそれらに限定されない、いくつかの機能を提供する。ヨーロッパで採用されているGSM(Groupe Special Mobile)システムでは当技術分野で周知のように、これらの機能がMSCではなく基地局制御装置(BSC)によって実施される。本明細書の以下の説明から、本発明が主にソフトウェアで実現され、本発明の好ましい実施形態では、そのソフトウェアがMSCまたはBSCに記憶され、それによって実行されることが理解されよう。
【0017】
典型的な周波数割当て方式では、セルラ・ネットワーク200内の2つ以上のセルが、同じ周波数または周波数セットを再使用(すなわち共有)する。上で説明したように、周波数の再使用によって、しばしば同一チャネル干渉が生じる。従来の設計と異なり、本発明は、干渉の減少とターゲット・セルのカバレージの減少の両方に応じて各基地局アンテナについて最適な基地局アンテナの傾斜角を確立することによって同一チャネル干渉の問題に対処し、ここで、干渉およびターゲット・セルのカバレージエリアは、いくつかのアンテナの傾斜角の候補それぞれについて、ある一定の期間中、測定される。
【0018】
本発明の一態様によれば、ターゲット・セル内の基地局受信機において一つまたは複数の周波数チャネルに関してアップリンク干渉を測定することにより、干渉の減少が定量化される。そしてアップリンク干渉の測定値は、ターゲット・セル内の基地局からMSC/BSCに伝送される。AMPSまたはGSMなど典型的なセルラ・システムでは、基地局受信機はすでに、アップリンク干渉の測定値を測定して、レポートをMSC/BSCに転送するように構成されている。
【0019】
当業者なら容易に理解できるように、アップリンク干渉の測定値は時間の経過とともに変化する。したがって、本発明は干渉の測定値フィルタを含む。好ましい実施形態では、このフィルタはソフトウェアで実現され、ソフトウェアはMSC/BSCに記憶され、それによって実行される。一般に干渉の測定値フィルタは、MSC/BSCが基地局から受信するアップリンク干渉の測定値に基づいて、基地局アンテナの傾斜角の候補それぞれについて全干渉の測定値を生成する。
【0020】
当然、異なる干渉フィルタの数はいくつでもよい。第1の代表的な実施形態では、MSC/BSCが基地局から定期的に受信するアップリンク干渉の測定値を、干渉の測定値フィルタが継続的に平均化することができる。各アンテナの傾斜角の候補に関する測定期間の終了時に、平均干渉の測定値は、そのアンテナ傾斜角の全干渉の測定値を表す。
【0021】
代替的実施形態では、MSC/BSC内の干渉の測定値フィルタが、各アップリンク干渉の測定値を受け取り、各アンテナの傾斜角の候補に関する90パーセント累積確率値を導き出すことができる。次いで、90パーセント累積確率値が、アンテナの傾斜角の候補の全干渉の測定値として使用される。90パーセント累積確率値は、干渉の測定値全てのうちの90パーセントが90パーセント累積確率値よりも小さく、干渉の測定値全てのうちの10パーセントが90パーセント累積確率値よりも大きな干渉の測定値である。
【0022】
当業者なら容易に理解できるように、例として図3Bに図示されるように、所定のアンテナ傾斜角に関する比較的大きな全干渉の測定値が、アンテナ傾斜角を増加させる必要性を示すことがある。図3Aに図示されるようにアンテナ傾斜角を増加させることにより、ターゲット・セルの基地局でのアップリンク干渉、および同一チャネル・セル内で動作する移動体によって受信される同一チャネル干渉を減少させる効果が得られる可能性が高い。
【0023】
ターゲット・セル内のアンテナ傾斜角の増加は、同一チャネル干渉を減少させる傾向がある一方で、ターゲット・セルのカバレージエリアも減少させる。これは、図4Aおよび4Bに図示されている。例えば、アンテナ・ビーム405のピークが、ターゲット・セル410の中心に向かってさらに内側に向けられていると、ターゲット・セル内の基地局と、ターゲット・セルの境界またはその近傍に位置する移動体415などの移動体との間の信号に関連する信号強度が減少する。その結果、ターゲット・セルの事実上のカバレージエリアも減少する。したがって、最適な基地局アンテナの傾斜角を正しく決定するためには、干渉の減少とターゲット・セルのカバレージエリア減少の両方を考慮することが不可欠である。
【0024】
本発明の別の態様によれば、ターゲット・セル内で動作する移動体によって観察される隣接セルに関連する信号強度に応じて、所定のアンテナ傾斜角に関するターゲット・セルのカバレージエリアを間接的に測定することができる。図4Aおよび4Bを再び参照すると、アンテナ・ビーム405のピークがターゲット・セル410の中心に向かって内側に向け直されると、隣接セル内の信号源とターゲット・セル内で動作する移動体との間の距離は平均で増加するが、ターゲット・セルに関連するカバレージエリアは減少する。したがって、ターゲット・セル内の移動体によって測定される隣接セルに関連する信号強度が減少する。当業者なら容易に理解できるように、ターゲット・セル内の移動体によって測定される隣接セルに関連する信号強度のこの減少は、ターゲット・セルのカバレージエリアの減少の間接的な評価基準を提供する。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、AMPSやGSMなどの典型的なセルラ・システムにおいて、ターゲット・セルと任意の数の隣接セルに関連する信号強度を測定するように移動体が設計されていることを利用することができる。この場合、信号強度の測定値がターゲット・セルの基地局に送信されて、ターゲット・セルの基地局は、移動体支援型ハンドオーバ(MAHO:mobile assisted handover)が保証されているかどうかを判定するために信号強度の測定値をMSC/BSCに転送する。当技術分野でよく理解されているように、MAHOは、隣接セルに関連する信号強度がターゲット・セルの信号強度を超えるとき、ターゲット・セル内の基地局から隣接セル内の基地局に移動体の制御を渡すことができる手続きである。ほとんどの場合に、MAHO手続きは、移動体の加入者にトランスペアレントである。
【0026】
本発明の一つの代替的実施形態によれば、所定のアンテナの傾斜角の候補に関する測定期間中に、ターゲット・セルから隣接セルへのMAHOが施される各移動体によって測定される隣接セルに関連する信号強度に応じて、ターゲット・セルのカバレージエリア減少を間接的に測定することができる。干渉の測定値と同様に、所定のアンテナの傾斜角の候補について測定期間にわたって得られた信号強度の測定値を平均して、全ターゲット・セルのカバレージエリアの測定値を一つだけ提供することができる。」
(第11-15頁)

(d)
「 【0036】
上で説明したように、各アンテナの傾斜角の候補に関する干渉の減少に対するターゲット・セルのカバレージエリアの減少の比率を、信号強度の変化ではなくトラフィック負荷の変化に基づいて決定することができることに留意されたい。さらに、最適なアンテナ傾斜角が決定すると、本発明では、MSC/BSCが制御信号をターゲット・セルの基地局に送信するようにすることができ、基地局が最適なアンテナ傾斜角を反映するように基地局アンテナを自動的に位置決めするようにする。上に述べたように、これは、サーボ機構によって電気的または電気機械的に実施することができる。
【0037】
図5は、本発明の好ましい実施形態に従って最適な基地局アンテナの傾斜角を確立する技法500を図示するフローチャートである。ブロック505に示されるように、MSC/BSCによって生成されたアンテナ制御信号に応答して、ターゲット・セル内の基地局アンテナがアンテナの傾斜角の候補に再位置決めされる。アンテナが再位置決めされると、ブロック510に示されるように、基地局受信機によって測定されたアップリンク干渉をMSC/BSCが継続的に監視してフィルタする。アップリンク干渉の測定値をフィルタすることによって、MSC/BSCは最終的に、ブロック515に示されるように、そのアンテナの傾斜角の候補について、ターゲット・セルの全干渉の評価基準を導き出す。同様に、ブロック520に示されるように、MSC/BSCは、ターゲット・セル内で動作する移動体、または測定期間中にMAHOを受ける移動体によって基地局に送信された信号強度の測定値を継続的に監視してフィルタする。MSC/BSCは最終的に、ブロック525に示されるように、各隣接セルに関する全信号強度の評価基準を設定する。ブロック530に示されるように、全干渉の評価基準および信号強度の評価基準に基づいて、MSC/BSCが、各隣接セルについて干渉の変化Rおよび各信号強度の評価基準の変化Siを計算する。当然、基準アンテナ傾斜角(例えばアンテナ傾斜角0°)における干渉の変化Rおよび信号強度の変化Siはゼロになる。各隣接セルについて干渉の変化Rおよび信号強度の変化Siが求まると、ブロック535に示されるように、干渉の減少に対するターゲット・セルのカバレージエリアの減少の比率が導き出される。
【0038】
上で述べた技法500は、その後、決定ブロック540の外にある「はい(YES)」の経路によって図示されるように、任意の数のアンテナの傾斜角の候補について繰り返される。全てのアンテナの傾斜角の候補が試験されると、決定ブロック540の外にある「いいえ(NO)」の経路に従って、ブロック545に示されるように干渉の減少に対するターゲット・セルのカバレージエリアの減少の最大比率に関連する傾斜角が識別される。この角は、最適なアンテナ傾斜角を表す。次いでブロック550に従って、MSC/BSCは、最適なアンテナ傾斜角で基地局アンテナを再位置決めするようにアンテナ位置決め制御信号を伝送することができる。上に述べたように、アンテナは電気的または電気機械的に再位置決めすることができる。」
(第18-19頁)

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。
「MSC(移動交換局)/BSC(基地局制御装置)によって生成されたアンテナ制御信号に応答して、ターゲット・セル内の基地局のアンテナ・ビームのピークをターゲットセルの中心に向かって内側に向けるなどして、最適なアンテナ指向方向となるアンテナ傾斜角になるように再位置決めされ、
アンテナが再位置決めされると、基地局受信機によって測定されたアップリンク干渉をMSC/BSCが継続的に監視してフィルタすることによって、MSC/BSCは、アンテナの傾斜角の候補について、ターゲット・セルの全干渉の評価基準を導き出し、
同様に、MSC/BSCは、ターゲット・セル内で動作する移動体、または測定期間中にMAHO(移動体支援型ハンドオーバ)を受ける移動体によって基地局に送信された信号強度の測定値を継続的に監視してフィルタすることにより、各隣接セルに関する全信号強度の評価基準を設定し、
全干渉の評価基準および全信号強度の評価基準に基づいて、MSC/BSCが、各隣接セルについて干渉の変化Rおよび各信号強度の評価基準の変化Siを計算し、
各隣接セルについて干渉の変化Rおよび信号強度の変化Siが求まると、干渉の減少に対するターゲット・セルのカバレージエリアの減少の比率が導き出され、
任意の数のアンテナの傾斜角の候補について繰り返されれることにより最大比率に関連する最適なアンテナ指向方向となるアンテナ傾斜角が識別され、
MSC/BSCは、アンテナ・ビームのピークを、最適なアンテナ指向方向となるアンテナ傾斜角になるように基地局アンテナを電気的または電気機械的に再位置決めするアンテナ位置決め制御信号を伝送するMSC/BSC及び基地局からなるセルラ通信ネットワーク」

3.対比
補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「基地局」は、移動体通信の技術分野において、基地局をノードBとも表記することから、補正発明の「ノードB」に相当する。

引用発明の「アンテナ」は、【0023】段落に記載されているように「ビーム」を形成するアンテナであって、アンテナ・ビームのピークをターゲットセルの中心に向かって内側に向けるなどして、垂直方向に最適なアンテナ指向方向となるアンテナ傾斜角になるように、基地局アンテナを電気的に再位置決めしているから、補正発明の「ビーム形成アンテナ」とアンテナから放射される少なくとも1つのビームを少なくとも垂直方向において調整する点で共通している。

引用発明の「アンテナ位置決め制御信号」は、垂直方向に最適なアンテナ指向方向となるようにビームを形成するアンテナの傾斜角を制御しているから、補正発明の「傾斜情報」と少なくとも1つのビームを少なくとも垂直方向において調整する情報である点で共通している。

したがって、補正発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「ノードBであって、
当該アンテナから放射される少なくとも1つのビームを、少なくとも垂直方向において調整する、少なくとも1つのビーム形成アンテナを具え、
少なくとも1つのビームを傾けるために使用される傾斜情報に従って、前記ビームを調整するノードB。」

(相違点1)
補正発明では、アンテナから放射されるビームを垂直方向において「動的に」調整しているのに対し、引用発明では、電気的にアンテナを位置決めしてビームを垂直方向に調整しているが、ビームを動的に調整することについて記載がない点。

(相違点2)
補正発明では、「傾斜情報は、ビームの傾きが他の基地局に影響を及ぼすことを考慮したものである」のに対し、引用発明の傾斜情報(アンテナ位置決め制御信号)では、アップリンク干渉及び移動体における隣接基地局信号強度を考慮したものである点。

(相違点3)
補正発明では、「傾斜情報を受信する受信機」を具えるのに対して、引用発明では、MSC(移動交換局)/BSC(基地局制御装置)からのアンテナ位置決め制御信号を基地局のアンテナの位置決めに用いているが、受信機を備える特段の記載がない点。

(相違点4)
補正発明では。「傾斜情報に従って、ビームを調整する制御信号を生成する傾斜制御回路」を具えるのに対して、引用発明では、アンテナ位置決め制御信号によりアンテナを位置決めする記載があるにとどまり、アンテナ位置決め制御信号に従って、信号を生成する回路を設ける特段の記載がない点。

4.判断
以下、上記相違点について検討する。
(相違点1について)
移動体通信の技術分野において、基地局のアンテナとして動的に指向性を制御できるアンテナを用いることは周知技術であり、引用発明の電気的に位置決めしてビームを垂直方向に調整するアンテナにおいても、動的に指向性を制御する構成とすることは当業者が容易に想到するものである。

(相違点2について)
移動体通信の技術分野において、他の基地局に影響を及ぼす基地局間干渉のために、アンテナチルトが設けられることは周知技術(森香津夫他,セルラ環境下におけるCDMA/Shared-TDDパケットシステムのスループット特性評価,電子情報通信学会技術研究報告、VOL.100,No.146,2000年6月20日発行,第37頁の「基地局間干渉(下り->上りリンク干渉)に起因する上りリンクのスループット特性の劣化は基地局アンテナにビームチルトを採用することでほぼ回避できるが」との記載、及び、特開平8-294167号公報第2頁段落0007の「後者の技術に近い従来技術としては、自動車電話方式で用いられているビームチルト空中線があり、ビルの屋上に設けられた鉄塔上に空中線を設置して無線ゾーンを形成するものであるが、この導入技術はゾーン半径が1.5km以上のセルラー方式における隣接基地局間干渉を低減する効果を得るためのものであった。」との記載参照)である。
したがって、引用発明の傾斜情報(アンテナ位置決め制御信号)についても、基地局間干渉などの他の基地局に影響を及ぼすことも考慮して制御するようにすることは当業者が容易に想到するものである。

(相違点3及び4について)
引用発明においては、MSC(移動交換局)又はBSC(基地局制御装置)からの傾斜情報(アンテナ位置決め制御信号)により、基地局に設置されたアンテナを制御しているのであるから、基地局内に、アンテナ位置決め制御信号を受信する受信機、及び、アンテナ位置決め制御信号に従って、傾斜角を調整する制御信号を生成する傾斜制御回路を具える構成とすることは当業者が適宜なし得る設計的事項である。

そして、補正発明のように構成したことによる効果も引用発明及び周知技術から予想できる程度のものであって、格別のものではない。

以上のとおり、補正発明は引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成20年4月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項16に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年11月19日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項16に記載された以下のとおりのものと認める。

「 【請求項16】
ノードBであって、
当該アンテナから放射される少なくとも1つのビームを、少なくとも垂直方向において動的に調整する、少なくとも1つのビーム形成アンテナと、
少なくとも1つのビームを動的に傾けるために使用される傾斜情報を受信する受信機と、
前記ビームの傾きが他の基地局に影響を及ぼすことを考慮した前記傾斜情報と
を具えたことを特徴とするノードB。」

2.引用発明
引用発明は、上記「第2.2.」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.4.」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-13 
結審通知日 2010-10-15 
審決日 2010-10-29 
出願番号 特願2004-534667(P2004-534667)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04B)
P 1 8・ 575- Z (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉本 敦史田中 寛人  
特許庁審判長 大野 克人
特許庁審判官 鈴木 重幸
清水 稔
発明の名称 ワイヤレス通信システム、および、該システムにおける動的なビームの調整方法  
代理人 阿部 和夫  
代理人 谷 義一  
復代理人 濱中 淳宏  
復代理人 井原 光雅  

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