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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1233924
審判番号 不服2008-13920  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-03 
確定日 2011-03-14 
事件の表示 平成 9年特許願第179504号「ガス流れからNOxを除去する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月 3日出願公開、特開平10- 57772〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年7月4日(パリ条約による優先権主張 1996年7月8日、米国)の出願であって、平成18年6月30日付けで拒絶理由が起案され、同年12月13日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、平成20年4月28日付けで拒絶査定が起案され、同年6月3日に拒絶査定不服の審判請求がなされるとともに明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成22年4月7日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され、同年9月8日に回答書が提出がされたものである。

2.平成20年6月3日付けの手続補正について
[補正却下の決定の結論]
平成20年6月3日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正により、平成18年12月13日付けの手続補正書の特許請求の範囲
「 【請求項1】
NO_(x)を不純物として含有しているガス流れからNO_(x)を除去するために、前記ガス流れとアンモニアとを、NO_(x)とアンモニアとの反応を起こさせて窒素と水蒸気とを含有する生成物ガスを生成させる触媒を収容した反応ゾーン中にて接触させる方法において、前記反応ゾーン中の温度上昇を約70℃未満に保持するのに充分な量で前記生成物ガスの一部を前記ガス流れ中に再循環させ、これによって空気を添加せずに前記ガス流れ中のNO_(x)を充分に希釈して、プロセス中のいかなるときにおいても、反応ゾーン中におけるガス流れの温度が、触媒の大幅な失活が起こる温度に上昇しないようにすることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ガス流れが二酸化炭素を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ガス流れが燃焼プロセスからの排気ガスである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記排気ガスがさらにイオウ酸化物を含有し、前記ガス流れを前記反応ゾーンに導入する前に、前記ガス流れから前記イオウ酸化物を除去する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記反応ゾーンを出た前記生成物ガスを、前記ガス流れを前記反応ゾーンに導入する前に、前記ガス流れとの熱交換によって冷却する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記生成物ガスを前記ガス流れに再循環する前に、前記生成物ガスから水分を除去する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記生成物ガスの一部を圧縮し、前記生成物ガスの冷却前に前記ガス流れに再循環する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記生成物ガスを充分に乾燥して実質的に全ての水分を除去し、乾燥した生成物ガスから二酸化炭素を凝縮させる、請求項2記載の方法。
【請求項9】
前記ガス流れが少なくとも0.5モル%のNO_(x)を含有している、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記ガス流れ中のNO_(x)の濃度が約0.5?約1モル%の範囲である、請求項2記載の方法。
【請求項11】
前記触媒がゼオライト銅触媒である、請求項1記載の方法。」が、次のように補正された。
「 【請求項1】
NO_(x)を不純物として含有しているガス流れからNO_(x)を除去するために、前記ガス流れとアンモニアとを、NO_(x)とアンモニアとの反応を起こさせて窒素と水蒸気とを含有する生成物ガスを生成させる触媒を収容した反応ゾーン中にて接触させる方法において、
前記反応ゾーン中の温度上昇を約70℃未満に保持するのに充分な量で前記生成物ガスの一部を前記ガス流れ中に再循環させ、これによって空気を添加せずに前記ガス流れ中のNO_(x)を充分に希釈して、プロセス中のいかなるときにおいても、反応ゾーン中におけるガス流れの温度が、触媒の大幅な失活が起こる温度に上昇しないようにすると共に、
前記反応ゾーンを出た前記生成物ガスを、前記ガス流れを前記反応ゾーンに導入する前に、前記ガス流れとの熱交換によって冷却し、
前記生成物ガスの一部を圧縮し、前記生成物ガスの冷却前に前記ガス流れに再循環する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ガス流れが二酸化炭素を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ガス流れが燃焼プロセスからの排気ガスである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記排気ガスがさらにイオウ酸化物を含有し、前記ガス流れを前記反応ゾーンに導入する前に、前記ガス流れから前記イオウ酸化物を除去する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記生成物ガスを前記ガス流れに再循環する前に、前記生成物ガスから水分を除去する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記生成物ガスを充分に乾燥して実質的に全ての水分を除去し、乾燥した生成物ガスから二酸化炭素を凝縮させる、請求項2記載の方法。
【請求項7】
前記ガス流れが少なくとも0.5モル%のNO_(x)を含有している、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記ガス流れ中のNO_(x)の濃度が約0.5?約1モル%の範囲である、請求項2記載の方法。
【請求項9】
前記触媒がゼオライト銅触媒である、請求項1記載の方法。」
(2)そして、本件補正は、平成18年12月13日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1における「することを特徴とする方法。」を「すると共に、
前記反応ゾーンを出た前記生成物ガスを、前記ガス流れを前記反応ゾーンに導入する前に、前記ガス流れとの熱交換によって冷却し、
前記生成物ガスの一部を圧縮し、前記生成物ガスの冷却前に前記ガス流れに再循環する、
ことを特徴とする方法。」(以下、「補正事項」という。)とし、本件補正前の請求項5及び7を削除したものである。そして、前記補正事項は、本件補正前の請求項5及び7の削除と、これらに記載されていた生成物ガスに関する特定事項により本件補正前の請求項1における生成物ガスを限定するもので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1項に規定する「請求項の削除」と同第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」に該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものかについて検討する。

(i)原査定の拒絶の理由において引用された特開平6-334号公報(以下、「引用文献1」という。)には次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 脱硝触媒を担持したハニカム状保持体(1)にバッグフィルター(2)を装着して成る除塵脱硝フィルター。
【請求項2】 媒塵と窒素酸化物を含有する排ガスにアンモニアを混入した被処理排ガスを、請求項1記載の除塵脱硝フィルターを用いて処理することを特徴とする排ガス処理方法。
【請求項3】 処理後の排ガスの一部を処理ラインに再循環させる請求項2記載の排ガス処理方法。」(特許請求の範囲)
(イ)「図4に示すパルスジェット型の場合には、焼却炉(図示せず)から排出される排ガス(温度は通常約500?100℃に調整され、100℃よりも低くなると触媒活性の低下がもたらされる)にアンモニア注入口(4)から脱硝用アンモニアが注入され、該混合ガス(アンモニアの濃度は窒素酸化物濃度に対応して注入されるが、通常0?1000ppmである)は排ガス導入口(7)から排ガス処理装置本体内へ導入され、該装置本体内に配設されたハニカム状の保持体(1)の外側にバッグフィルター(2)を装着して成る除塵脱硝フィルターを通過後、排ガス排出口(8)から系外へ排出される。排ガスの除塵と脱硝を単一のフィルターによっておこなうことができるので、従来装置(図6参照)の場合のような脱硝装置を別設する必要はない。除塵脱硝フィルターはサポーター(3)によって支持される。バッグフィルター(2)の目詰りが生じたときには、エアーコンプレッサー(6)から圧搾空気を除塵脱硝フィルターの内側へ送給することによって、バッグフィルター(2)に付着したダストを払い落とし、該ダストはダスト排出口(10)から系外へ排出される。また、省エネルギー、省資源および環境汚染防止等の観点からフィルターで処理後の排ガスの一部を、空気導入口(9)から導入される空気と共に、ファン(5)を用いて処理ラインに再循環させ、これを被処理排ガスの冷却に利用すると同時に、残存するアンモニアの一部を再利用することができる。」(段落【0016】)

(ii)引用文献1には、記載事項(ア)に「媒塵と窒素酸化物を含有する排ガスにアンモニアを混入した被処理排ガスを、・・・除塵脱硝フィルターを用いて処理することを特徴とする排ガス処理方法」及び「除塵脱硝フィルター」は、「脱硝触媒を担持したハニカム状保持体(1)にバッグフィルター(2)を装着して成る」ことが記載され、記載事項(イ)に「省エネルギー、省資源および環境汚染防止等の観点から・・・排ガスの一部を、空気導入口(9)から導入される空気と共に、ファン(5)を用いて処理ラインに再循環させ、これを被処理排ガスの冷却に利用する」ことが記載されている。

これらを本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると「窒素酸化物を含有する排ガスにアンモニアを混入した被処理排ガスを、脱硝触媒を担持した除塵脱硝フィルターを用いて処理する排ガス処理方法において省エネルギー、省資源および環境汚染防止等の観点から排ガスの一部を、空気導入口から導入される空気と共に、ファンを用いて処理ラインに再循環させ、これを被処理排ガスの冷却に利用する排ガス処理方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が引用文献1には記載されていると認められる。

(iii)原査定の拒絶の理由において引用された特公平2-2607号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
(エ)「使用済の核燃料溶解再処理時に生成する窒素酸化物濃度が0.1?8%の範囲の被処理ガスをアンモニア接触還元法により脱硝する脱硝触媒装置と、該脱硝触媒装置の被処理ガス入口側および出口側にそれぞれ設けられたガス予熱器およひガス冷却器と、前記ガス予熱器と脱硝触媒装置の間のガス流路に設けられたアンモニア注入手段と、前記ガス冷却器を出た処理ガスを前記ガス予熱器の入口側に再循環させる処理ガス再循環配管系と、該処理ガス再循環配管系に外部から不活性ガスを導入する不活性ガス供給手段と、前記脱硝触媒装置の触媒層の温度が一定範囲になるように、前記処理ガス循環配管系に循環させるガス量を制御するガス循環流量制御装置とを備え、前記ガス予熱器および冷却器によつて脱硝触媒装置の温度が不足するときは加熱し、脱硝反応器が脱硝反応によつて所定値以上に昇温したときには冷却するようにしたことを特徴とする使用済核燃料再処理廃ガスの脱硝に用いる脱硝処理装置。」(特許請求の範囲)
(オ)「本発明は脱硝処理装置に係り、特に被処理ガス中の窒素酸化物(NO_(x))濃度が高い場合に反応熱による温度上昇を防止する脱硝処理装置に関するものである。
従来の乾式排煙脱硝装置としては、アンモニア接触還元法が広く知られており、例えばボイラ排煙中のNO_(x)除去に数多くの実績がある。このボイラ排煙中のNO_(x)濃度は数100ppm程度であり、反応熱による温度上昇は通常、無視することができる。しかし、例えば使用済みの核燃料再処理の溶解廃ガス中のNO_(x)除去などの場合には、NO_(x)濃度は約1000ppmから8%ぐらいまでの範囲で経時変化し、反応熱によるガス温度上昇は約10℃から800℃にも及ぶことが想定される。このため、従来の貫流通気形式の脱硝装置では触媒層の温度上昇が問題となり、例えば400℃以上になると触媒のポーラス面が塞がり、このため触媒性能が低下するという欠点がある。」(第1頁左欄第22行?同右欄第16行)
(カ)「第2図は、本発明の一実施例を示す脱硝触媒装置の系統図である。図において、この装置は、排ガス供給ライン7の排ガスを所定温度まで予熱する予熱器1と、脱硝触媒、例えばモリブデン、バナジウム等の遷移金属の酸化物を担持した触媒が充填されている触媒塔2と、該触媒塔2出口側に設けられた冷却器4および排気ブロワ10と、触媒塔2の出口排ガスを入口側に再循環させるライン6およびブロワ5と、触媒塔2(予熱器1)の入口側に設けられた外気(不活性ガス)供給ライン12および給気ブロワ8と、該再循環ガス量および外気供給量を調整する三方調節弁11と、触媒塔2の触媒層温度を温度計2Aで検知して前記三方調節弁11の開度を調節するための制御系13とから構成される。被処理ガスは通気ライン7を経て予熱器1に入り、排ガス温度が所定の温度以下になつている場合はここで予熱された後、アンモニア注入ライン3からアンモニアを注入混合され、触媒塔2に導入される。触媒塔で脱硝処理された処理ガスは、冷却器4を通り、一部は排気ブロワ10により外部に排出されるが、他部は再循環ライン6からブロワ5により再び触媒塔2の入口側(予熱器1)に戻される。このとき、アンモニア注入ライン3からは、予熱器1で予熱した被処理ガス中に含有するNO_(x)量に対して化学量論比以上の適当な量のアンモニアが注入されれ、被処理ガスとともに触媒塔2を貫流通気される間に、排ガス中のNO_(x)が接触還元され、窒素と水とに分解除去される。触媒塔2を出た処理ガスは冷却器4触媒塔2での温度上昇分だけ冷却された後、その一部は再循環ライン6を経て予熱器11の入口側へ再循環される。排ガス循環量が不足したり、また運転開始時などNO_(x)濃度が特に上昇する場合に他系統からの排ガスを循環させる場合は、三方調節弁11を調節し、ライン12から不活性ガスを導入すればよい。触媒塔2の触媒層の温度調節は、触媒層の温度計2Aで検知した温度が一定温度範囲になるように、三方調節弁13の開度を調節して行われる。温度計2Aの温度に対応した量の排ガス(または不活性ガス)を再循環させることにより、触媒塔2に供給される被処理ガス中のNO_(x)濃度が希釈され、反応温度の上昇が抑制される。例えば被処理ガスのNO_(x)濃度が8%に上昇するときには、再循環ガス量を発生処理ガスの8倍にすれば、触媒塔2ではNO_(x)濃度は約1%に低下し、触媒塔の温度上昇を約100℃に抑えることができる。また排ガス循環によつて触媒塔(脱硝触媒装置)2の入口温度が低下しすぎる場合には予熱器1で加熱することは勿論である。また触媒塔2の出口の冷却器4では前述のように触媒塔2の反応熱による温度上昇分だけ冷却され、前記排ガス循環のみではコントロールできない温度調節が行われる。」(第2頁左欄第24行?同右欄第32行))

(iv)そこで、本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明の「窒素酸化物」は、本願補正発明の「NO_(x)」に相当することは明らかで(本願の願書に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)段落【0002】参照)、窒素酸化物を含有する排ガスにアンモニアを混入し脱硝触媒により窒素と水に分解除去することは周知であり(引用文献2記載事項(カ)参照。)、引用発明の「脱硝触媒を担持した除塵脱硝フィルター」は、本願補正発明の「触媒を収容した反応ゾーン」ということができるから、引用発明の「窒素酸化物を含有する排ガスにアンモニアを混入した被処理排ガスを、脱硝触媒を担持した除塵脱硝フィルターを用いて処理する排ガス処理方法」は、本願補正発明の「NO_(x)を不純物として含有しているガス流れからNO_(x)を除去するために、前記ガス流れとアンモニアとを、NO_(x)とアンモニアとの反応を起こさせて窒素と水蒸気とを含有する生成物ガスを生成させる触媒を収容した反応ゾーン中にて接触させる方法」に相当すると認められる。そして、引用発明の「排ガスの一部を、空気導入口から導入される空気と共に、ファンを用いて処理ラインに再循環させ、これを被処理排ガスの冷却に利用する」は、脱硝装置における触媒層の温度上昇による性能低下の課題が周知であるから(引用文献2記載事項(オ)参照。)、本願補正発明の「前記生成物ガスの一部を前記ガス流れ中に再循環させ、前記ガス流れ中のNO_(x)を充分に希釈して、プロセス中のいかなるときにおいても、反応ゾーン中におけるガス流れの温度が、触媒の大幅な失活が起こる温度に上昇しないようにする」と「前記生成物ガスの一部を前記ガス流れ中に再循環させ、前記ガス流れ中のNO_(x)を充分に希釈して、プロセス中のいかなるときにおいても、反応ゾーン中におけるガス流れの温度が、触媒の大幅な失活が起こる温度に上昇しないようにする」点で共通する。さらに、引用発明における「排ガスの一部を、・・・ファンを用いて処理ラインに再循環させ」ることは、ファンが排ガスの一部を圧縮し、冷却前に再循環させていることが明らかであるから、本願補正発明の「前記生成物ガスの一部を圧縮し、前記生成物ガスの冷却前に前記ガス流れに再循環する」に相当するということができる。
してみると、本願補正発明と引用発明とは、「NO_(x)を不純物として含有しているガス流れからNO_(x)を除去するために、前記ガス流れとアンモニアとを、NO_(x)とアンモニアとの反応を起こさせて窒素と水蒸気とを含有する生成物ガスを生成させる触媒を収容した反応ゾーン中にて接触させる方法において、
前記生成物ガスの一部を前記ガス流れ中に再循環させ、前記ガス流れ中のNO_(x)を充分に希釈して、プロセス中のいかなるときにおいても、反応ゾーン中におけるガス流れの温度が、触媒の大幅な失活が起こる温度に上昇しないようにする方法。」である点で一致し、
本願補正発明は、「前記反応ゾーン中の温度上昇を約70℃未満に保持するのに充分な量で」生成物ガスの一部を再循環させるのに対して、引用発明は、省エネルギー、省資源および環境汚染防止等の観点から再循環させるものの除塵脱硝フィルターの温度上昇については特定のない点(以下、「相違点a」という。)、
本願補正発明は、「空気を添加せずに」ガス流れ中のNO_(x)を充分に希釈するのに対して、引用発明は、「空気導入口から導入される空気と共に、」ファンを用いて処理ラインに再循環させる点(以下、「相違点b」という。)、
本願補正発明は、「前記反応ゾーンを出た前記生成物ガスを、前記ガス流れを前記反応ゾーンに導入する前に、前記ガス流れとの熱交換によって冷却」するのに対して、引用発明は排出される排ガスが導入される排ガスにより冷却することについては特定のない点(以下、「相違点c」という。)で相違する。

(v)各相違点について、以下検討する。

本願補正発明において「反応ゾーン中の温度上昇を約70℃未満に保持する」ことの技術的意義は、「本発明の改良は、反応ゾーンに流入するガス流れに生成物ガスの一部を再循環し、これによってガス流れ中のNO_(x)を充分に希釈して、反応ゾーン中のガス流れの温度が、触媒の大幅な失活を引き起こすような温度に上昇するのを防止することを含む。」(当初明細書段落【0006】)との目的で「好ましい実施態様においては、ガス流れに再循環される生成物ガスの量は、前記反応ゾーンにおける温度上昇を約70℃未満に保持するのに充分な量である。」(当初明細書段落【0012】)というものであり、引用発明においては、環境汚染防止等の観点から再循環させるので、環境への汚染ガスの放出をもたらす触媒の失活が避けられるべきであることは当然に理解され、本願補正発明と同一の「廃ガスの脱硝に用いる脱硝処理」に関する引用文献2にも、「NO_(x)濃度は約1000ppmから8%ぐらいまでの範囲で経時変化し、反応熱によるガス温度上昇は約10℃から800℃にも及ぶことが想定される。このため、従来の貫流通気形式の脱硝装置では触媒層の温度上昇が問題となり、例えば400℃以上になると触媒のポーラス面が塞がり、このため触媒性能が低下するという欠点がある」(引用文献2記載事項(オ)参照。)ことが知られ「再循環ガス量を発生処理ガスの8倍にすれば、触媒塔2ではNO_(x)濃度は約1%に低下し、触媒塔の温度上昇を約100℃に抑えることができる」(引用文献2記載事項(カ)参照。)と記載されるように、触媒塔の温度上昇に上限を設けることは、当業者であれば適宜なし得る操業条件の限定付加にすぎないということができる。そして、本願補正発明において「反応ゾーン中の温度上昇を約70℃未満に保持する」ことが臨界的意義を有するものでないことは上記の本願の当初明細書の記載をみれば明らかである。そうすると、相違点aに係る「反応ゾーン中の温度上昇を約70℃未満に保持する」という数値限定は、当業者であれば適宜なし得る、操業条件の設定にすぎないものである。

相違点bについて検討すると、「空気を添加せずに」ガス流れ中のNO_(x)を充分に希釈することは、平成18年12月13日付けの手続補正書により特許請求の範囲の請求項1に上記相違点aに係る「反応ゾーン中の温度上昇を約70℃未満に保持するのに十分な量で」と共に特定事項として付加されたもので、平成18年12月13日付けの意見書の2.補正の説明を参照してもその技術的意義は、判然としない。一方、引用文献1の図4に示された排ガス処理装置の空気導入口9には、ダンパが示されていると解され、少なくとも開閉による空気の導入制御が行われることが示唆されているものと認められる。さらに、引用文献2には「処理ガス再循環配管系に外部から不活性ガスを導入する不活性ガス供給手段と、前記脱硝触媒装置の触媒層の温度が一定範囲になるように、前記処理ガス循環配管系に循環させるガス量を制御するガス循環流量制御装置とを備え」(引用文献2記載事項(エ)参照。)ることが記載され、「排ガス循環量が不足したり、また運転開始時などNO_(x)濃度が特に上昇する場合に他系統からの排ガスを循環させる場合は、三方調節弁11を調節し、ライン12から不活性ガスを導入すればよい。触媒塔2の触媒層の温度調節は、触媒層の温度計2Aで検知した温度が一定温度範囲になるように、三方調節弁13の開度を調節して行われる。」(引用文献2記載事項(カ)参照。)ので、「空気を添加せずに」ガス流れ中のNO_(x)を充分に希釈することは、引用文献2に記載乃至示唆されているに等しい操業条件と認められるから、引用発明において「空気を添加せずに」ガス流れ中のNO_(x)を充分に希釈することは、当業者であれば適宜なし得る操業条件の設定にすぎないものである。

相違点cについて検討すると、「前記反応ゾーンを出た前記生成物ガスを、前記ガス流れを前記反応ゾーンに導入する前に、前記ガス流れとの熱交換によって冷却」することの技術的意義は、「通常の定常状態操作時において、供給ガスが熱交換器4を通るときに、供給ガスが、反応器Aを出た生成物ガス流れによって反応温度に加熱される。」(当初明細書段落【0021】)というものであり、「反応熱を有効に利用して生成物ガスを所望の適温に加熱することができ、追加の加熱装置や冷却装置が不要となる。」(審判請求書第5頁第19?21行)という効果を奏するものと認められる。しかしながら、引用発明においても「省エネルギー」は課題として挙げられており、脱硝方法においても、例えば、本願の前置報告書において引用文献1として引用された特開昭54-138863号公報に「排ガスは、熱交換器3で脱硝反応器6から排出された処理ガスのうち、配管7を通じて排ガスに循環混合したもの以外の残りの高温処理ガスと熱交換する。これにより、排ガスは50?200℃の温度上昇を受け、更に加熱器5により、脱硝反応器の適温まで加熱される。」(第3頁左下欄第4?9行)と記載されるように、高温処理ガスの廃熱を被処理ガスの温度上昇に利用することは、周知技術にすぎないものと認められ、この周知技術を引用発明に適用することを妨げる事情も存在しない。してみれば、相違点cに係る「前記反応ゾーンを出た前記生成物ガスを、前記ガス流れを前記反応ゾーンに導入する前に、前記ガス流れとの熱交換によって冷却」することは、当業者であれば、この周知技術を参照するか、或いは、省エネルギーという一般的な課題から、適宜想到し得る設計事項にすぎないものである。

そして、本願補正発明によって得られた効果についても、格別のものとすることができない。

したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(vi)以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)したがって、平成20年6月3日付けで提出された手続補正書によりなされた補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成20年6月3日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は平成18年12月13日付け手続補正書によって補正された請求項1に記載されるとおりのものである。

4.引用文献等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平6-334号公報)及び引用文献2(特公平2-2607号公報)の記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明に関して、限定事項である「前記反応ゾーンを出た前記生成物ガスを、前記ガス流れを前記反応ゾーンに導入する前に、前記ガス流れとの熱交換によって冷却し、
前記生成物ガスの一部を圧縮し、前記生成物ガスの冷却前に前記ガス流れに再循環する」を削除し、特許請求の範囲を拡張するものである。
してみると、本願発明の構成を全て含み、さらに前記の特定事項を限定したものである本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

6.回答書における主張について
審判請求人は、回答書において「2.回答
(1)はじめに
前置審査において、審査官は新たな先行技術文献を主引例として引用しているにもかかわらず、出願人に対して拒絶理由を通知することなく、前置報告を行っている。主引例の変更は新たな拒絶理由を構成するものであるから、特許法第163条第2項で準用する同法第50条第1項の規定により、出願人に対して拒絶理由を通知して意見書を提出する機会を与えなければならなかった。審査官は、「同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により却下されるべき」との報告を行っているが、第126条第5項に規定するいわゆる独立特許要件は、既に通知されている拒絶理由の範囲内で判断されるべきであって、新たな主引例を引用した場合にまで適用されるべきではない。けだし、出願人は当該新たな主引例の存在を知らないのであるから、新たな主引例と対比して独立特許要件を満たす補正を行うことは不可能である。
前置審査段階において、主引例を変更した新たな拒絶理由を構成したにもかかわらず、出願人に意見書提出及び補正の機会を付与しなかった審査官の手続には重大な違背があると言わざるを得ない。」と主張している。
しかしながら、回答書における「1.審尋の概要
平成22年4月7日付起案、同月8日付発送の審尋における指摘事項は以下の通りである。
「請求項1についての補正は、補正前の請求項1を削除した上で、補正前の請求項5に請求項7の特定事項を付加したものであるから、限定的減縮を目的としている。
しかし、反応ゾーンを出た生成物ガスを、ガス流れを反応ゾーンに導入する前に、ガス流れとの熱交換によって冷却し、生成物ガスの冷却前にガス流れに再循環する点は、下記文献1に記載されている(3頁左上欄10行-右下欄2行,第1図)。また、生成物ガスの一部を圧縮し、ガス流れに再循環する点も周知技術である。」からも明らかなように、前置報告書における新たな先行技術文献である特開昭54-138863号公報は、「反応ゾーンを出た生成物ガスを、ガス流れを反応ゾーンに導入する前に、ガス流れとの熱交換によって冷却し、生成物ガスの冷却前にガス流れに再循環する点」が「生成物ガスの一部を圧縮し、ガス流れに再循環する点」と並んで周知であることを立証しようとするもので、審決において周知例の一つとして扱われていることからも、主引用例の変更に該当しないことは明らかである。審判請求人は、審査官の手続違背を前提として特許請求の範囲の補正案を提示しているが、新たな先行技術文献は、偶々先行技術文献一覧の1.に挙げられているものの、主引用例としての提示の意図はみられず、審判請求人
の主張する主引用例の変更はなく、手続違背は認められないので、本件について、さらなる補正の機会を与えることは、相当でないといわざるをえない。

7.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献2に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-20 
結審通知日 2010-10-21 
審決日 2010-11-02 
出願番号 特願平9-179504
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B01D)
P 1 8・ 121- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 政博  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 吉川 潤
中澤 登
発明の名称 ガス流れからNOxを除去する方法  
代理人 社本 一夫  
代理人 松山 美奈子  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小野 新次郎  
代理人 富田 博行  
代理人 小林 泰  

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