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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1233935
審判番号 不服2009-18917  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-05 
確定日 2011-03-14 
事件の表示 特願2004-228251「複数ステージ多重露光リソグラフィシステム、及び複数ステージ多重露光リソグラフィシステムの処理量を増加させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月 3日出願公開、特開2005- 57292〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年8月4日(パリ条約による優先権主張2003年8月4日、米国)の出願であって、平成19年8月8日付けで通知した拒絶の理由に対して、同年11月9日付けで手続補正書が提出され、その後、平成20年5月29日付けで最後の拒絶理由の通知がなされ、これに対して、同年12月1日付けで手続補正書が提出されたが、平成21年6月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月5日付けで審判請求がなされたものである。

本願の請求項1,2に係る発明は、平成20年12月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
複数ステージ多重露光リソグラフィシステムにおいて、
第1のウェーハ対をプロセス処理し、
第1の期間の間に、第1のウェーハ対のウェーハを交換し、第1のウェーハ対の各ウェーハが第1のレチクルにより逐次的にパターン形成されるようにし、
第2の期間の間に、第1のレチクルを第2のレチクルと交換し、
第3の期間の間に、第1のウェーハ対のウェーハを交換し、第1のウェーハ対の各ウェーハが第2のレチクルにより逐次的にパターン形成されるようにし、
第4の期間の間に、第1のウェーハ対の第1のウェーハを第2のウェーハ対の第1のウェーハと交換し、
第5の期間の間に、第2のウェーハ対の第1のウェーハをプロセス処理し、
第6の期間の間に、第2のレチクルを第1のレチクルと交換し、
第7の期間の間に、第1のウェーハ対の第2のウェーハを第2のウェーハ対の第2のウェーハと交換し、
第8の期間の間に、第2のウェーハ対の第2のウェーハをプロセス処理し、
第9の期間の間に、第2のウェーハ対のウェーハを交換し、第2のウェーハ対の各ウェーハが第1のレチクルにより逐次的にパターン形成されるようにし、
第10の期間の間に、第1のレチクルと第2のレチクルを交換し、
第11の期間の間に、第2のウェーハ対のウェーハを交換し、第2のウェーハ対の各ウェーハが第2のレチクルにより逐次的にパターン形成されるようにした方法。」


2.引用刊行物の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された国際公開第03/017344号(2003年2月27日国際公開。以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(a)「技術分野
本発明は、マスク交換方法及び露光装置に係り、更に詳しくは、マスクをマスクステージ上にロードし、該マスクステージから使用済みのマスクをアンロードするマスク交換方法及び該マスク交換方法などの実施に好適な露光装置に関する。
背景技術
半導体素子、液晶表示素子等を製造するリソグラフィ工程では、近時における半導体素子等の高集積化、及びウエハ等の基板やマスクあるいはレチクル(以下、「レチクル」と総称する)の大型化などに伴い、スループットを重視する観点から、ステップ・アンド・リピート方式の縮小投影露光装置、あるいはこのステッパを改良したステップ・アンド・スキャン方式の走査型露光装置(いわゆるスキャニング・ステッパ)などの逐次移動型の投影露光装置が、主として用いられている。」(明細書第1頁)

(b)「また、最近では、スループットを向上するとの観点から、2つのウエハステージを用い、一方のウエハステージ側で露光動作が行われている間に、他方のウエハステージ側でウエハ交換及びウエハアライメントを行う、ダブルウエハステージ方式の露光装置も開発されている。この種の露光装置では、レチクルステージ側でレチクルを交換するとき以外は、連続的に露光動作を行うことが必要であり、このため、レチクルを交換するための前準備を露光動作中に行っておくことがスループット向上の観点からは望ましい。しかしながら、前述の如く、従来のレチクル搬送機構120では、レチクルステージRSTが、露光位置にある間は、レチクル交換のための準備作業を殆ど行うことができず、また、図9からも分かるように、レチクルステージRSTとレチクル搬送機構120とは、同一のボディに搭載されていたことから、レチクル交換の前準備において振動が発生し、露光精度を低下させるおそれもあった。従って、従来のレチクル搬送機構は、ダブルウエハステージ方式の露光装置が本来的に有する最大のメリットである高スループットの実現の障害となりかねない。
本発明は、かかる事情の下になされたもので、その第1の目的は、マスク交換に要する時間を短縮することが可能なマスク交換方法を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、特にスループットの向上を図ることが可能な露光装置を提供することにある。」(第3頁第25行?第4頁第16行)

(c)「《第1の実施形態》
以下、本発明の第1の実施形態を図1?図7Cに基づいて説明する。
図1には、第1の実施形態に係る露光装置10が、一部破断して示されている。・・・(中略)・・・
前記露光装置本体30は、本体チャンバ12外部に設けられた不図示の光源からのパルス紫外光によりレチクルRを照明する照明ユニットILU、レチクルRを保持するマスクステージとしてのレチクルステージRST、レチクルRから射出される照明光(パルス紫外光)を感光物体としてのウエハW1,W2上に投射する投影光学系PL、及びウエハW1、W2をそれぞれ保持するウエハステージWST1、WST2等を備えている。更に、露光装置本体30は、照明ユニットILUの一部、レチクルステージRST、投影光学系PL、及びウエハステージWST等を保持する本体ボディ36等を備えている。」(第10頁第21行?第11頁第25行)

(d)「本実施形態の露光装置10では、上述の如くして、レチクル交換が行われ、その際レチクルRのレチクルステージRST上へのロードが行われるが、その後、以下のような動作が行われる。
すなわち、主制御装置50は、レチクルRがロードされた直後(図7Cの直後)に、レチクルステージRSTを+Y方向に駆動して投影光学系PLの上方へ移動する。
次に、主制御装置50では、オペレータの指示に応じて一方のウエハステージ(例えばウエハステージWST1)上のウエハW1の各ショット領域を適正露光量(目標露光量)で走査露光するための各種の露光条件を設定する。
次いで、主制御装置50は、例えばアライメント系ALG1を用いてウエハW1のアライメントマークとウエハステージWST1の基準マークとをそれぞれ検出した後、ウエハステージWST1をアライメント位置から露光位置まで移動し、不図示のレチクルアライメント系を用いてレチクルRのマーク(又はレチクルステージRSTの基準マーク)とウエハステージWST1の基準マークとを投影光学系PLを介して検出する。このとき、例えばEGA(エンハンスド・グローバル・アライメント)方式にてウエハW1のファインアライメントが行われる。すなわち、アライメント系ALG1の計測結果(X軸干渉計77(特にアライメント系ALG1の光軸と直交する測長軸)とY軸干渉計72とによって規定される直交座標系(アライメント座標系)上での各マークの位置情報)と、レチクルアライメント系の計測結果とに基づきウエハW1上でレチクルRのパターンを転写すべき全てのショット領域の配列座標(X軸干渉計77(特に投影光学系PLの光軸と直交する測長軸)とY軸干渉計72とで規定される直交座標系(露光座標系)上での位置情報)が算出される。なお、本実施形態ではEGA方式で求められるアライメント座標系上での各ショット領域の配列座標をレチクルアライメント系の計測結果を用いて補正する、すなわち露光座標系上での配列座標に変換しているものとしているが、レチクルアライメント系の計測結果を用いてアライメント系ALG1の計測結果を補正して得られる露光座標系での各マークの座標に基づき、EGA方式にて各ショットの配列座標を算出するようにしても良い。
なお、レチクルアライメント系及びこれを用いたレチクルアライメントについては、例えば特開平7-176468号公報及びこれに対応する米国特許第5,646,413号などに詳細に開示されている。また、これに続くEGAについては、特開昭61-44429号公報及びこれに対応する米国特許第4,780,617号等に詳細に開示されている。本国際出願で指定した指定国又は選択した選択国の国内法令が許す限りにおいて、上記各公報並びにこれらに対応する上記各米国特許における開示を援用して本明細書の記載の一部とする。
このようにして、ウエハW1の露光のための準備動作が終了すると、主制御装置50では、アライメント結果に基づいてステップ・アンド・スキャン方式でレチクルRのパターンをウエハW1上の各ショット領域に転写する。
上記のウエハW1に対する露光動作が行われているのと並行して、主制御装置50では、他方のウエハステージWST2上でウエハ交換及びアライメント系ALG2を用いたファインアライメントを実行し、ウエハステージWST2を待機させる。
そして、ウエハステージWST1上のウエハW1に対するパターン転写が終了すると、主制御装置50では、ウエハステージWST1をウエハ交換位置に移動するとともに、ウエハステージWST2を投影光学系PLの下方に移動してウエハステージWST2上のウエハW2に対して露光を行う。勿論、この露光中に、ウエハステージWST1上では、ウエハ交換、ウエハアライメントが行われる。
なお、2つのウエハステージ上において並行して行われる本実施形態と同様の並行処理については、例えば特開平10-214783号公報及びこれに対応する米国特許第6,341,007号などに詳細に開示されており、本国際出願で指定した指定国又は選択した選択国の国内法令が許す限りにおいて、上記米国特許における開示を援用して本明細書の記載の一部とする。
そして、レチクル交換の必要性が生じた場合に、上記の如くして、投影光学系PLの下方で、連続的にウエハに対する露光動作が行われるのと並行して、前述したレチクル交換のための準備作業が行われることとなる。
これまでの説明から明らかなように、本実施形態では、主制御装置50によって制御装置及びステージ制御装置が構成されている。しかし、これに限らず、制御装置及びステージ制御装置を主制御装置50とは別に設けたコントローラによって構成しても良く、さらにはそれぞれを別々のハードウェアによって構成しても勿論良い。
以上説明したように、本実施形態の露光装置10によると、レチクルステージRSTが搭載されパターンの転写(露光)が行われる露光装置本体30を構成する本体ボディ36と分離された搬送系支持架台75にレチクル搬送系32が搭載されるとともに、該レチクル搬送系32により、レチクルステージRSTに対するレチクルの搬入及びレチクルステージRSTからのレチクルの搬出が行われる。このため、本体ボディ36を含む露光装置本体30側でパターンの転写動作、すなわち露光動作が行われている間に、レチクル搬送系32が前述したレチクル交換のための準備動作を行ったとしても、そのレチクル搬送系32の動作が、本体ボディ36の振動要因となるおそれはない。従って、パターン転写精度、すなわち露光精度を維持しつつ、露光動作とレチクル交換のための準備動作との並行処理により露光動作とレチクル交換動作とをシーケンシャルに行う場合に比べてスループットの向上を図ることができる。」(第31頁第25行?第34頁20行)

(e)「また、上記第1の実施形態の露光装置で二重露光を行っても良く、この場合にはロット内の全てのウエハに1枚目のレチクルを用いて露光を行った後でレチクル交換を行い、次に2枚目のレチクルを用いて同一のロット内の全てのウエハに対して二重露光を行うシーケンスを採用すると良い。このとき、2枚のレチクルを用いて同一のウエハを二重露光するが、1回目の露光と2回目の露光とでウエハを同一のウエハステージに載置することが好ましい。また、そのロットに続けて次のロットのウエハを二重露光するときは、レチクルステージに載置されている2枚目のレチクルを用いて最初に露光を行い、その後でレチクル交換を行って1枚目のレチクルを用いて二重露光を行うシーケンスとすると良い。」(第43頁第19行?第44頁第2行)

これら記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「2つのウエハステージを用い、一方のウエハステージ側でウエハに対して露光動作が行われている間に、他方のウエハステージ側で別のウエハについてウエハ交換及びウエハアライメントを行う、ダブルウエハステージ方式の露光装置で、二重露光を行う方法であって、
ロット内の全てのウエハに1枚目のレチクルを用いて露光を行った後でレチクル交換を行い、次に2枚目のレチクルを用いて同一のロット内の全てのウエハに対して二重露光を行い、
そのロットに続けて次のロットのウエハを二重露光するときは、レチクルステージに載置されている2枚目のレチクルを用いて最初に露光を行い、その後でレチクル交換を行って1枚目のレチクルを用いて二重露光を行う、
方法。」


3.対比・判断
本願発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、
刊行物1記載の発明の「ロット内の全てのウエハ」「次のロットのウエハ」と、本願発明1の「第1のウェーハ対のウェーハ」「第2のウェーハ対のウェーハ」とは、それぞれ、「第1群のウェーハ」「第2群のウェーハ」の点で共通するといえる。

また、刊行物1記載の発明の「1枚目のレチクル」「2枚目のレチクル」は、それぞれ、本願発明1の「第1のレチクル」「第2のレチクル」に相当する。

さらに、刊行物1記載の発明の「ロット内の全てのウエハに1枚目のレチクルを用いて露光を行った後でレチクル交換を行い、次に2枚目のレチクルを用いて同一のロット内の全てのウエハに対して二重露光を行い、
そのロットに続けて次のロットのウエハを二重露光するときは、レチクルステージに載置されている2枚目のレチクルを用いて最初に露光を行い、その後でレチクル交換を行って1枚目のレチクルを用いて二重露光を行う」と、
本願発明1の「第1のウェーハ対をプロセス処理し、
第1の期間の間に、第1のウェーハ対のウェーハを交換し、第1のウェーハ対の各ウェーハが第1のレチクルにより逐次的にパターン形成されるようにし、
第2の期間の間に、第1のレチクルを第2のレチクルと交換し、
第3の期間の間に、第1のウェーハ対のウェーハを交換し、第1のウェーハ対の各ウェーハが第2のレチクルにより逐次的にパターン形成されるようにし、
第4の期間の間に、第1のウェーハ対の第1のウェーハを第2のウェーハ対の第1のウェーハと交換し、
第5の期間の間に、第2のウェーハ対の第1のウェーハをプロセス処理し、
第6の期間の間に、第2のレチクルを第1のレチクルと交換し、
第7の期間の間に、第1のウェーハ対の第2のウェーハを第2のウェーハ対の第2のウェーハと交換し、
第8の期間の間に、第2のウェーハ対の第2のウェーハをプロセス処理し、
第9の期間の間に、第2のウェーハ対のウェーハを交換し、第2のウェーハ対の各ウェーハが第1のレチクルにより逐次的にパターン形成されるようにし、
第10の期間の間に、第1のレチクルと第2のレチクルを交換し、
第11の期間の間に、第2のウェーハ対のウェーハを交換し、第2のウェーハ対の各ウェーハが第2のレチクルにより逐次的にパターン形成されるようにした」とは、
「第1群のウェーハの各々に対して、第1のレチクル及び第2のレチクルを用いて二重露光を行い、その後、第2群のウェーハの各々に対して、第1のレチクル及び第2のレチクルを用いて二重露光を行う」の点で共通するといえる。

また、刊行物1記載の発明の「2つのウエハステージを用い、一方のウエハステージ側でウエハに対して露光動作が行われている間に、他方のウエハステージ側で別のウエハについてウエハ交換及びウエハアライメントを行う、ダブルウエハステージ方式の露光装置で、二重露光を行う方法」は、
複数のウエハステージを用いて多重露光を行うリソグラフィシステムを用いた方法ということができるので、
本願発明1の「複数ステージ多重露光リソグラフィシステムにおいて・・・方法。」に相当するということができる。

そうすると、両発明の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「複数ステージ多重露光リソグラフィシステムにおいて、第1群のウェーハの各々に対して、第1のレチクル及び第2のレチクルを用いて二重露光を行い、その後、第2群のウェーハの各々に対して、第1のレチクル及び第2のレチクルを用いて二重露光を行う、方法。」

[相違点1]
本願発明1は、「第1群のウェーハ」「第2群のウェーハ」は、それぞれ、「第1のウェーハ対のウェーハ」「第2のウェーハ対のウェーハ」であるのに対して、
刊行物1記載の発明は、「第1群のウェーハ」「第2群のウェーハ」は、それぞれ、「ロット内の全てのウエハ」「次のロットのウエハ」である点。

[相違点2]
本願発明1は、「第1のウェーハ対のウェーハ」と「第2のウェーハ対のウェーハ」に対する「第1のレチクル」(以下、「A」と略す場合がある)及び「第2のレチクル」(以下、「B」と略す場合がある)の使用順序が、「第1のウェーハ対のウェーハ」に対して「AABB」、第2のウェーハ対のウェーハ」に対して「AABB」であるのに対して、
刊行物1記載の発明は、「第1のウェーハ対のウェーハ」「第2のウェーハ対のウェーハ」としたとき、「第1のウェーハ対のウェーハ」に対して「AABB」、第2のウェーハ対のウェーハ」に対して「BBAA」である点。
なお、上記で、例えば、「第1のウェーハ対のウェーハ」に対して「AABB」とは、対を構成する第1のウェーハに対してA、同第2のウェーハに対してA、同第1のウェーハに対してB、同第2のウェーハに対してB、の順になること(なお、後半の「同第1のウェーハに対してB、同第2のウェーハに対してB」の順は、逆にして、「同第2のウェーハに対してB、同第1のウェーハに対してB」の順でもよい。)を意味する。

[相違点3]
本願発明1は、「第1のウェーハ対をプロセス処理し」、その後、「第4の期間の間に、第1のウェーハ対の第1のウェーハを第2のウェーハ対の第1のウェーハと交換し、第5の期間の間に、第2のウェーハ対の第1のウェーハをプロセス処理し、第6の期間の間に、第2のレチクルを第1のレチクルと交換し、第7の期間の間に、第1のウェーハ対の第2のウェーハを第2のウェーハ対の第2のウェーハと交換し、第8の期間の間に、第2のウェーハ対の第2のウェーハをプロセス処理」する手順を踏むのに対して、
刊行物1記載の発明は、そのような手順が特定されていない点。

そこで、相違点について、検討する。

(相違点1について)
刊行物1記載の発明は、「ロット内の全てのウエハ」とされ、そのウエハの数は、数十枚に及ぶこともあり得るものの、
刊行物1記載の発明において、ダブルウエハステージ方式が機能するには、2つのウエハステージのそれぞれにウエハが載置(保持)されていることが必要であるところ、そのためには、「ロット内の全てのウエハ」として、最低2枚のウエハがあればよいことは、当業者に自明である。
したがって、刊行物1記載の発明において、「ロット内の全てのウエハ」「次のロットのウエハ」として、それぞれ2枚のウエハ、すなわち、本願発明1のごとく、「第1のウェーハ対のウェーハ」「第2のウェーハ対のウェーハ」を採用して、露光処理を行うようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2について)
刊行物1記載の発明は、ダブルウエハステージ方式と、第1のレチクル及び第2のレチクルを用いた二重露光とを採用したものであるが、
ダブルウエハステージ方式を用いない、単なる二重露光を行う技術においては、次の2手法(a)(b)があることは、周知である。なお、この点は、請求人も、本願明細書の【0009】【0010】で背景技術の一つとして認識しているものであり、また、特開平11-150053号公報(【0041】等)、国際公開第99/54922号(原審の第1回拒絶理由の引用文献2。第29?31頁、等)にも記載されており、本願の優先日当時の技術水準として認識されるものである。

(a)「A(1枚目1回目)→B(1枚目2回目)→A(2枚目1回目)→B(2枚目2回目)」。つまり、各ウエハ(ウェーハ)は、まずマスク(レチクル)Aから露光する。

(b)「A(1枚目1回目)→B(1枚目2回目)→B(2枚目1回目)→A(2枚目2回目)」。つまり、スループットを高めるために、2枚目1回目は、1枚目2回目のマスク(レチクル)Bをそのまま使用する。

なお、上記で、例えば「1枚目1回目」は、1枚目のウエハ(ウェーハ)に対する第1回目の露光を意味する。

ここで、(a)の手法は、基本となるものであり、(b)の手法は、スループットを高めるために、(a)の手法を発展させたものというのが、技術の流れであることは、明らかである。

そして、刊行物1記載の発明と上記(b)の手法とは、ダブルウエハステージ方式の採用の有無の違いはあるものの、スループットを高めるために、レチクルの交換頻度を減らす手法を有する点で共通しており、したがって、上記(a)(b)の手法をよく知っている当業者であれば、刊行物1記載の発明のおいても、スループットを高める必要がない等の場合には、上記(a)の手法を応用して、「第1のウェーハ対のウェーハ」に対して「AABB」とし、その後、「第2のウェーハ対のウェーハ」に対して「AABB」とする態様を想起することに、困難性はないというべきである。

なお、請求人は、審判請求書で、次のように主張している。
『(2)しかしながら、本願発明のAABBAABBシーケンスの二重露光は、AABBBBAAシーケンスに対して次のとおりの優位性を有しています。
まず、AABBAABBシーケンスは、例えば第1のウェーハをレチクルA(第1のレチクル)、第2のウェーハをレチクルA、第1のウェーハをレチクルB(第2のレチクル)、第2のウェーハをレチクルBで順次露光し、次の対のウェーハを同様に露光していくシーケンスであり、一対のウェーハが完全に処理された後ごとにレチクルA及びBが交換され、各ウェーハの露光順序が常に同じになっています。
そして、ある結像理由により露光順序を固定する必要がある場合、例えば最初のレチクル或いは最後のレチクルのいずれか一方が最も重要である場合では、露光順序つまり最も重要なレチクルを使う順番を同じにすべく、引用文献1に記載のAABBBBAAシーケンスに代わって本願発明のAABBAABBシーケンスを使わねばなりません。AABBAABBシーケンスを使うことにより、仮にレチクルAが最も重要なレチクルであった場合に、例えばレチクルAによる露光とその露光後のベークとの間の時間が第1のウェーハ対と第2のウェーハ対の間で同じに維持され、よってCD(クリティカルディメンション)の相違を防ぐことができます。
(3)このような優れた効果は、AABBAABBシーケンスという技術的思想を想到することで初めて見出されるものであって、AABBBBAAシーケンスからは導き出し得ません。実際にAABBAABBシーケンスについて記載した公知文献等がないのであれば、AABBBBAAシーケンスから容易に想到できるという論理付けの根拠が希薄ではないかと、本出願人及び本出願発明者は考えています。
AABBAABBシーケンスとAABBBBAAシーケンスは、単にレチクルの交換時機が異なるだけではなく、二重露光において超高速で移動するデュアルステージの移動や露光系とプロセス処理系の動作の制御が全く異なることになり、AABBBBAAシーケンスが引用刊行物1に記載されているからといって、これらの超緻密制御の相違を克服することを念頭におきつつAABBAABBシーケンスを想到することは当業者であってしても容易には為し得ません。
(4)したがいまして、本出願人は、請求項1-2に係る本願発明は、引用刊行物1記載の発明と比較しても、勿論同じくAABBAABBシーケンスとは関係しない引用刊行物2記載の発明と比較しても、十分に進歩性を有する発明であると確信しております。』

請求人は、「露光順序を固定する必要がある場合」をあげて説明をしているが、本願の明細書の【0009】【0010】には、“AB AB AB”という露光のシーケンスをあげた後で、「通常は、露光の順序は重要ではなく、“AB BA AB BA”という露光シーケンスを使用してもよい。」と述べているから、審判請求書の説明と明細書の説明をあわせて勘案すると、通常は、「AABBBBAAシーケンス」でよいが、場合によっては、「AABBAABBシーケンス」が望ましいことがあるという程度のことと理解される。
そして、上記したように、「露光順序を固定するシーケンス」と「露光順序を変更してレチクル交換頻度を少なくするシーケンス」は、いずれも手法(a)(b)としてよく知られていることであるから、ダブルウエハステージ方式において、「AABBAABBシーケンス」を採用することは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点3について)
一般に、レチクルの交換、ウェーハの交換・プロセス処理について、レチクルを交換してからウェーハの交換・プロセス処理をするか、ウェーハの交換・プロセス処理をしてからレチクルを交換するかは、当業者が状況に応じて適宜選択することができる程度のことである。
したがって、刊行物1記載の発明において、相違点1,2に係る本願発明1のように、「第1のウェーハ対のウェーハ」「第2のウェーハ対のウェーハ」として、「AABBAABBシーケンス」を採用した際に、
本願発明1のごとく、「第1のウェーハ対をプロセス処理し」、その後、「第4の期間の間に、第1のウェーハ対の第1のウェーハを第2のウェーハ対の第1のウェーハと交換し、第5の期間の間に、第2のウェーハ対の第1のウェーハをプロセス処理し、第6の期間の間に、第2のレチクルを第1のレチクルと交換し、第7の期間の間に、第1のウェーハ対の第2のウェーハを第2のウェーハ対の第2のウェーハと交換し、第8の期間の間に、第2のウェーハ対の第2のウェーハをプロセス処理」する手順を踏むことは、
当業者が容易になし得ることである。

(相違点全体として)
全体としてみても、刊行物1記載の発明において相違点1?3のごとくなすことに、困難性は見いだせない。

(効果について)
そして、本願発明1によってもたらされる効果は、刊行物1記載の事項及び周知技術から当業者であれば予測し得る程度のものであって、格別なものとはいえない。

(まとめ)
したがって、本願発明1は、刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上のとおりのであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-15 
結審通知日 2010-10-18 
審決日 2010-11-02 
出願番号 特願2004-228251(P2004-228251)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉浦 淳  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 一宮 誠
柏崎 康司
発明の名称 複数ステージ多重露光リソグラフィシステム、及び複数ステージ多重露光リソグラフィシステムの処理量を増加させる方法  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  

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