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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E03D
管理番号 1234079
審判番号 不服2010-1274  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-20 
確定日 2011-03-17 
事件の表示 特願2004-181645「温水洗浄便座付水洗便器」拒絶査定不服審判事件〔平成18年1月5日出願公開,特開2006-2492〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続きの経緯
本願は,平成16年6月18日の出願であって,平成21年10月14日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年1月20日に審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。
その後,当審において,平成22年8月2日付けで審査官の前置報告書に基づく審尋がなされ,同年10月4日付けで回答書が提出された。

第2.平成22年1月20日付け手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成22年1月20日付け手続補正を却下する。

[理 由]
1.手続補正の内容
平成22年1月20日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)は,
平成21年8月17日付け手続補正により補正された特許請求の範囲を,
(補正前)
「【請求項1】
便器の後部の上面に温水洗浄便座の本体部を便器の幅方向に亙るように設置した温水洗浄便座付水洗便器において,温水洗浄便座の本体部にヒンジ部を介して便座が設けられ,少なくとも一部が前記ヒンジ部の下方に位置するように且つ本体部の前部の幅方向に亙って庇部が設けられ,この本体部の前部の幅方向に亙る庇部の上面を後部から前方に向かって高さの低くなる傾斜面とすると共にこの庇部の上面に幅方向の両側から中央に向かって低くなる凹曲面を設けたことを特徴とする温水洗浄便座付水洗便器。」から,
(補正後)
「【請求項1】
便器の後部の上面に温水洗浄便座の本体部を便器の幅方向に亙るように設置した温水洗浄便座付水洗便器において,
側方に露出し且つ本体部の幅方向両端部分にあるヒンジ部を介して本体部に便座が設けられ,
少なくとも一部が前記ヒンジ部の下方に位置するように且つ本体部の前部の幅方向に亙って庇部が設けられ,
この本体部の前部の幅方向に亙る庇部の上面が後部から前方に向かって高さの低くなる傾斜面とされると共にこの庇部の上面に幅方向の両側から中央に向かって低くなる凹曲面が設けられたことを特徴とする温水洗浄便座付水洗便器。」(下線は,審判請求人が付した補正箇所である。)と補正するものである。

上記補正は,補正前の「ヒンジ部」について,「側方に露出し且つ本体部の幅方向両端部分にある」ものに限定する補正事項を含むものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

2.独立特許要件の検討(特許法第29条第2項について)
そこで,補正後の上記請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が,特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,本件補正が,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「改正前特許法」という。)第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか,について以下に検討する。

(1)引用刊行物の記載事項
刊行物1:特開平5-228072号公報
刊行物2:特開平8-117149号公報

ア.原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に日本国内において頒布された上記刊行物1には,次の事項が記載されている。
(1a)「【0010】図1は本発明の一実施例を示す便座装置の斜視図である。・・・温水洗浄便座本体21の前面パネル23も・・・,便器16の内部に向かって傾斜しており,図1において左右とも両端がやや高くなっていて,小便が外にこぼれないように配慮されている。温水洗浄便座本体21には,可倒式の便座24・・・が回動可能に取りつけられている。・・・」
(1b)「【0013】・・・男子小用の使用時に,便座24をはね上げ使用する。・・・温水洗浄便座本体21の前面パネル23についても・・・便器内20に向かって傾斜が付けられ,かつ,はっ水性の膜で構成されているため,小便の付着は極めて少ない。・・・」
(1c)図1には,「便器16の後部の上面に温水洗浄便座本体21を便器16の幅方向に亙るように設置した温水洗浄便座付水洗便器」が,記載されている。
また,同図には,「温水洗浄便座本体21の前部の幅方向に亙って前面パネル23が設けられ」ることが記載されている。

そして,上記(1a)の「温水洗浄便座本体21には,可倒式の便座24・・・が回動可能に取りつけられている。」との記載事項と技術常識とからみて,便座24が温水洗浄便座本体21に「ヒンジ部を介して設けられ」ることは自明である。
そうすると,上記記載事項及び当業者の技術常識からみて,刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。
「便器16の後部の上面に温水洗浄便座本体21を便器16の幅方向に亙るように設置した温水洗浄便座付水洗便器において,
ヒンジ部を介して温水洗浄便座本体21に便座24が設けられ,
温水洗浄便座本体21の前部の幅方向に亙って前面パネル23が設けられ,
この温水洗浄便座本体21の前部の幅方向に亙る前面パネル23が便器16の内部に向かって傾斜していると共にこの前面パネル23が左右とも両端がやや高くなっていて,小便が外にこぼれないように配慮されている温水洗浄便座付水洗便器。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

イ.本願出願前に日本国内において頒布された上記刊行物2には,次の事項が記載されている。
(2a)「【0008】・・・図1に示す衛生洗浄装置10・・・は,洋式便器(図示省略)に装着されるものであり,洗浄水を加熱して設定温度で吐水するための温水調節装置を収納するケーシング本体14に,洗浄水を局部に噴出する洗浄用ノズル装置や操作を行なう操作部等を装着している。
【0009】上記ケーシング本体14には,便座便蓋支持機構20を介して着脱可能に便座30・・・が取り付けられている。便座便蓋支持機構20は,ケーシング本体14側の支持機構50と便座30・・・側の被支持機構90とから構成されている。支持機構50は,図2に示すように,ケーシング本体14の両側の支持凹所52に設けられており,支持凹所52の支持側面56に軸方向へ突設された本体支持部60を主要な構成としている。
・・・
【0011】・・・図3の断面図及び図4の斜視図に示すように,被支持機構90は,便座30・・・の端部の両側に設けられ便座30の端部に形成された支持開口部32を備えている。この支持開口部32は,・・・便座30をケーシング本体14に対して回動自在に支持している。・・・」
(2b)図1には,上記(2a)の記載事項からみて,衛生洗浄装置10を備える洋式便器において,ヒンジ部に相当する便座便蓋支持機構20が,「側方に露出し且つケーシング本体14の幅方向両端部分にある」ことが,記載されている。
(2c)また,図1,2には,庇部の一部に相当する支持凹所52が,ヒンジ部に相当する便座便蓋支持機構20の「下方に位置するように」されていることが,記載されている。

(2)対比
補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,
刊行物1記載の発明の「温水洗浄便座本体」が補正発明の「温水洗浄便座の本体部」に相当し,以下同様に,「前面パネル」が「庇部」に,「前面パネルが便器の内部に向かって傾斜している」が「庇部の上面が後部から前方に向かって高さの低くなる傾斜面とされる」に,それぞれ相当する。
また,刊行物1記載の発明の「前面パネルが左右とも両端がやや高くなってい」ることと,補正発明の「庇部の上面に幅方向の両側から中央に向かって低くなる凹曲面が設けられ」ることは,「庇部の上面に幅方向の両側から中央に向かって低くなる凹部が設けられ」ることである点で共通する。

そうすると,両者は,
「便器の後部の上面に温水洗浄便座の本体部を便器の幅方向に亙るように設置した温水洗浄便座付水洗便器において,
ヒンジ部を介して本体部に便座が設けられ,
本体部の前部の幅方向に亙って庇部が設けられ,
この本体部の前部の幅方向に亙る庇部の上面が後部から前方に向かって高さの低くなる傾斜面とされると共にこの庇部の上面に幅方向の両側から中央に向かって低くなる凹部が設けられた温水洗浄便座付水洗便器。」である点で一致し,以下の点で相違している。

(相違点1)
補正発明では,ヒンジ部が「側方に露出し且つ本体部の幅方向両端部分にある」ものであって,庇部が「少なくとも一部がヒンジ部の下方に位置するように」されているのに対して,
刊行物1記載の発明では,ヒンジ部について明確に規定されておらず,ヒンジ部と庇部の位置関係についても明らかでない点。

(相違点2)
凹部が,補正発明では,「凹曲面」であるのに対して,刊行物1記載の発明では,凹曲面ではない点。

(3)判断
上記各相違点について,以下に検討する。
(相違点1について)
上記相違点1について検討するために,刊行物2の上記イ.の記載事項をみると,刊行物2により,温水洗浄便座付水洗便器の「側方に露出し且つ本体部の幅方向両端部分にあるヒンジ部」と,庇部の「一部がヒンジ部の下方に位置するように」されていること(以下,「刊行物2記載の技術」という。)は,本願出願時において既に公知の技術である。
そして,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術は,いずれも,ヒンジ部を備えた温水洗浄便座付水洗便器に係るものであり,刊行物1記載の発明のヒンジ部として,刊行物2記載の技術の「側方に露出し且つ本体部の幅方向両端部分にあるヒンジ部」を適用することに,なんら困難性は見出せない。
また,刊行物1記載の発明の庇部(前面パネル)は,小便が外にこぼれないように配慮されたものであるから,刊行物2記載の技術のヒンジ部を,刊行物1記載の発明に適用した場合に,庇部の構成をヒンジ部から滴下する小便を外にこぼさないものとすることは,当業者が当然に着想することであって,当該庇部を,刊行物2記載の技術のごとく「一部がヒンジ部の下方に位置するように」することは,当業者が適宜なし得たことに過ぎない。
したがって,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術に基づいて,上記相違点1に係る事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
次に,相違点2について検討する。
刊行物1記載の発明の庇部(前面パネル)は,上記(1a)の記載事項からみて,小便が外にこぼれないように配慮され,かつ便器の内部に向かって傾斜したものであって,小便を外にこぼすことなく便器の内部に流下させようとするものである。
そして,流体の流路を,流体が滞りなく流下しやすいように曲面で形成することはごく一般に行われている技術であって,当該曲面であることに格別の効果も認められないから,刊行物1記載の発明の庇部の凹部に,上記の曲面で形成することを適用し,上記相違点2のごとく「凹曲面」とすることは,当業者が適宜なし得た事項に過ぎない。
したがって,刊行物1記載の発明に基づいて,上記相違点2に係る事項とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
そして,補正発明が奏する効果は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術から予測できる範囲内のものであって,格別なものとはいえない。

したがって,補正発明は,刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3.本件補正についてのむすび
以上のとおり,本件補正は,改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって,上記[補正の却下の決定の結論]のとおり,決定する。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記第2.のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成21年8月17日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,上記第2.1.(補正前)のとおりのものである。

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された上記刊行物1には,上記第2.2.(1)のア.で示したとおりの記載事項と刊行物1記載の発明が記載されている。

3.対比
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると,
刊行物1記載の発明の「温水洗浄便座本体」が本願発明の「温水洗浄便座の本体部」に相当し,以下同様に,「前面パネル」が「庇部」に,「前面パネルが便器の内部に向かって傾斜している」が「庇部の上面を後部から前方に向かって高さの低くなる傾斜面とする」に,それぞれ相当する。
また,刊行物1記載の発明の「前面パネルが左右とも両端がやや高くなってい」ることと,本願発明の「庇部の上面に幅方向の両側から中央に向かって低くなる凹曲面を設け」ることは,「庇部の上面に幅方向の両側から中央に向かって低くなる凹部を設け」ることである点で共通する。

そうすると,両者は,「便器の後部の上面に温水洗浄便座の本体部を便器の幅方向に亙るように設置した温水洗浄便座付水洗便器において,温水洗浄便座の本体部にヒンジ部を介して便座が設けられ,本体部の前部の幅方向に亙って庇部が設けられ,この本体部の前部の幅方向に亙る庇部の上面を後部から前方に向かって高さの低くなる傾斜面とすると共にこの庇部の上面に幅方向の両側から中央に向かって低くなる凹部を設けた温水洗浄便座付水洗便器。」である点で一致し,以下の点で相違している。

(相違点3)
庇部が,本願発明では,「少なくとも一部がヒンジ部の下方に位置するように」されているのに対して,刊行物1記載の発明では,ヒンジ部の形態に係る明確な規定がないため,そのような構成をとるか否か明らかでない点。

(相違点4)
凹部が,本願発明では,「凹曲面」であるのに対して,刊行物1記載の発明では,凹曲面ではない点。

4.判断
上記各相違点について,以下に検討する。
(相違点3について)
まず,相違点3について検討する。
上記第2.2.(3)の(相違点1について)で検討したとおり,刊行物1記載の発明の庇部(前面パネル)は,小便が外にこぼれないように配慮されたものであるから,ヒンジ部から小便の滴下が予測される場合に,小便を外にこぼさないように,庇部の「一部がヒンジ部の下方に位置するように」することは,当業者が自然に着想し得ることである。
そうすると,刊行物1記載の発明には,ヒンジ部の形態に係る明確な規定はないものの,刊行物1記載の発明の庇部を,温水洗浄便座付水洗便器の技術常識として想定されるヒンジ部の形態に合わせて,上記相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点4について)
次に,相違点4について検討するに,上記相違点4に係る事項は,上記第2.2.(2)の相違点2に係る事項と同様のものである。
したがって,上記相違点4に係る事項は,上記第2.2.(3)の(相違点2について)で検討したものと同様の理由により,刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本願発明が奏する効果は,刊行物1記載の発明から予測できる範囲内のものであって,格別なものとはいえない。

よって,本願発明は,刊行物1記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願は拒絶されるべきである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-14 
結審通知日 2011-01-18 
審決日 2011-02-01 
出願番号 特願2004-181645(P2004-181645)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E03D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土屋 真理子  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 宮崎 恭
山本 忠博
発明の名称 温水洗浄便座付水洗便器  
代理人 西川 惠清  

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