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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04Q
管理番号 1234119
審判番号 不服2008-24257  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-22 
確定日 2011-03-18 
事件の表示 平成10年特許願第548845号「ハンドオーバー方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月19日国際公開、WO98/52375、平成13年12月 4日国内公表、特表2001-525138〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明

1.手続の経緯

本願は,平成10年5月13日(優先権主張 1997年5月13日 フィンランド)を国際出願日とする出願であって,平成19年9月10日付けで拒絶の理由が通知され,平成20年3月18日付けで意見書とともに手続補正書の提出がなされ,同年6月12日付けで拒絶査定され,同年9月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成20年3月18日付け手続補正書の請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。

1.複数のベーストランシーバステーションの信号強度について移動局により実行された測定の報告を基地局コントローラにおいて受信する段階と,
前記信号のクオリティが,より良い無線チャネルクオリティを達成すべく予め定められたハンドオーバ基準を満たすときに,より良い信号クオリティを提供するチャネルに対するハンドオーバを開始する段階と,
を含む方法であって,
基準に関する情報を記憶する段階を前記基地局コントローラにおいて実行し,この場合,前記基準が満たされることが,第1のベーストランシーバステーションの負荷を低減させるための試みを実行しなくてはならないということを意味するものであり,
さらに,
前記基準が満たされているかをチェックし,該基準が満たされていることに応答して,より良い無線チャネルクオリティを達成するために実行すべきハンドオーバの基準を変更することにより,前記第1ベーストランシーバステーションの負荷の一部分を,該第1ベーストランシーバステーションに隣接する1つ又はそれ以上のベーストランシーバステーションに対して振り向ける段階,
を前記基地局コントローラにおいて実行する,
ことを特徴とする方法。


第2 引用例及び周知例

1.引用例及び引用発明

原査定の理由で引用された特開平8-154265号公報(以下「引用例」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

(a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数の無線基地局によって各無線基地局毎に無線ゾーンを設定し、前記複数の無線基地局を1つの制御局により制御し、移動局との通信を行う移動通信システムにおいて、
前記制御局は、前記複数の無線ゾーン毎に各無線基地局について通信チャネルの使用率を監視し、前記複数の無線ゾーン毎の使用率の変化を推定し、前記使用率の推移に応じて無線ゾーンの広さを設定することを特徴とする移動通信システム。
【請求項2】 複数の無線基地局によって各無線基地局毎に無線ゾーンを設定し、前記複数の無線基地局を1つの制御局により制御し、移動局との通信を行う移動通信システムにおいて、
前記制御局は、前記複数の無線ゾーン毎に各無線基地局について通信チャネルの使用率を監視し、前記複数の無線ゾーン毎の使用率の変化を推定し、前記使用率が高くなると推定される無線ゾーンはハンドオーバー切替え基準レベルを高く設定することでそのゾーン範囲を小さくし、また、前記使用率が高くなると推定される無線ゾーンに隣接する無線ゾーンはハンドオーバー切替え基準レベルを低く設定することでそのゾーン範囲を大きくすることを特徴とする移動通信システム。
【請求項3】 複数の無線基地局によって各無線基地局毎に無線ゾーンを設定し、前記複数の無線基地局を1つの制御局により制御し、移動局との通信を行う移動通信システムにおいて、
過去にどの無線基地局の制御を受けていたかを記憶する記憶手段と、
現在制御を受けている無線基地局の無線ゾーン内において周辺の基地局からの各制御チャネルの受信電界強度を測定し、その受信電界強度を高い順に並べるためのスキャンを行うスキャン手段を有し、それら受信電界強度に関する情報を現在制御を受けている無線基地局に通知する通知手段とを具備することを特徴とする移動通信システムの移動局。
【請求項4】 複数の無線基地局によって各無線基地局毎に無線ゾーンを設定し、前記複数の無線基地局を1つの制御局により制御し、移動局との通信を行う移動通信システムにおいて、
移動局が過去にどの無線基地局の制御を受けていたか、また、現在どの無線基地局の制御を受けているかの情報から、前記移動局が次に移動すると予測される先の無線基地局を決定する予測設定手段を具備することを特徴とする移動通信システムの制御局。」(公報第2ページ第1欄)

(b)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、移動通信システム及び制御局及び移動局に関するもので、特に、無線ゾーンの使用率に応じて、その無線ゾーンを変化させる移動通信システム及び制御局及び移動局に関するものである。」(公報第2ページ第1?2欄)

(c)
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかし、近年、移動通信システムの加入者数は増加の一途を辿っており、特定の無線ゾーンにのみ一時的に移動局が集中するなどで移動局の使用率が急増し、その無線ゾーンは空き通信チャネルが存在しなくなり、逆に、その隣接無線ゾーンは空き通信チャネルが存在するような状態が発生することがある。
【0009】このようなとき、この種の移動通信システムでは、現在無線基地局と通信しているチャネルの受信電界強度が基準レベル以下とならないと、ハンドオーバーしない構成であるから、前記特定の無線ゾーンに在圏している移動局の新たな発呼或いは移動局への新たな着呼が、空きスロットなしのために無視され、移動局の使用者がサービスを受けられないという事態が発生する。また、当該無線ゾーンに隣接する無線ゾーンにて通信中の移動局は、前記無線ゾーンへのハンドオーバーができないので、ハンドオーバーとともに通信切が生じるという不都合がある。
【0010】そこで、本発明は上記事項に鑑みてなされたもので、無線通信チャネルを有効に割り当て得ることができ、移動局に対してサービス低下のない移動通信システム及び制御局及び移動局を提供するものである。」(公報第2ページ第2欄?第3ページ第3欄)

(d)
「【0019】
【実施例】図1は本発明の一実施例の移動通信システムを説明するための通常の無線ゾーンからなるシステム構成図、図2は本発明の一実施例の移動通信システムを説明するための変化した無線ゾーンからなるシステム構成図である。
【0020】図1において、本実施例の制御局CSは、4つの無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDを制御する。各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDはそれぞれ無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONED内の移動局MS1?MS14を、互いに異なる周波数の制御チャネルと通信チャネルを用いて無線通信を行う。但し、同じ無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONEDでは一つの周波数で無線通信が行われる。なお、本実施例の各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDは、高速道路HWに沿って設置されている。
【0021】特に、本実施例における高速道路HW、或いは幹線道路では、通常はスムーズに各移動局MS1?MS14が移動するので、各無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONED内の移動局MS1?MS14の使用率はある程度均等化される。しかし、事故が発生した場合や、インターチェンジ付近、或いは所定の時間帯次第では、特定の無線ゾーンZONECに移動局MS1?MS14が集中し、そのゾーンでの新たな発呼や着呼が、空きチャネルなしということで無視され、或いは隣接する無線ゾーンからのハンドオーバーができないなどのサービスを受けられない状態となる。
【0022】図1の事例では、無線基地局BSCの制御下の無線ゾーンZONEC内で、移動局MS14の位置で中央分離帯を跨ぐ事故等が発生したとする。この事故により、上り車線では移動局MS3?MS5の位置に、下り車線では移動局MS8?MS10の位置に渋滞が発生した。この渋滞は時間の経過と共に増大する。現時点で、無線基地局BSCの制御下の無線ゾーンZONEC内で上り車線に移動局MS3?MS6、下り車線に移動局MS10,MS11が存在する。
【0023】特に、図1の通常の無線ゾーンでは、各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDでは制御局CSから互いに同一のハンドオーバー切替え基準レベルhoMを指示しているので、ほぼ同一範囲の無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONEDで各移動局MS1?MS14のハンドオーバー制御が行なわれている。ここで、無線ゾーンZONEAには、MS1,MS13の2台、無線ゾーンZONEBには、MS2,MS3,MS12の3台、無線ゾーンZONECには、MS4,MS5,MS6,MS10,MS11,MS14の6台、無線ゾーンZONEDには、MS7,MS8,MS9の3台がそれぞれの無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONEDの各管理下にある移動局である。
【0024】移動局MS3と移動局MS9は2つのゾーンに跨っているが、進行方向より、それまで在圏していた無線ゾーンに属すこととしている。
【0025】図2の事例では、無線基地局BSCでは制御局CSから、高いハンドオーバー切替え基準レベルhoHを、逆に、無線基地局BSBと無線基地局BSDでは制御局CSから、低いハンドオーバー切替え基準レベルhoLを指示しているので、無線ゾーンZONEC’は狭い範囲、無線ゾーンZONEB’と無線ゾーンZONED’は広い範囲で各移動局MS1?MS14のハンドオーバー制御が行われている。ここで、無線ゾーンZONEAには、MS1,MS13の2台、無線ゾーンZONEB’には、MS2,MS3,MS4,MS12の4台,無線ゾーンZONEC’には、MS5,MS6,MS11,MS14の4台、無線ゾーンZONED’には、MS7,MS8,MS9,MS10の4台が、それぞれの無線ゾーンZONEA,ZONEB’,ZONEC’,ZONED’の管理下にある移動局である。
【0026】本実施例の移動通信システムを実行した場合、無線ゾーンZONEC’では無線ゾーンZONECの境界付近にあった移動機局MS4が隣接する無線ゾーンZONEB’の管理下に、移動機局MS10が隣接する無線ゾーンZONED’の管理下に移行している。
【0027】図3は本発明の一実施例の移動通信システムを説明するための移動局の受信電界レベルを、各ゾーンごとに高速道路沿いに測定した特性図で、説明を簡単にするために4つの移動局の無線ゾーンが互いに均一としている。
【0028】各移動局MS1?MS14は各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDの受信電界強度 LvlA, LvlB, LvlC, LvlDを逐次測定して、これまでどの無線基地局に制御されていたかの情報とともに各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDに通知している。
【0029】各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDはその受信電界強度 LvlA, LvlB, LvlC, LvlDと過去の履歴情報を制御局CSに通知する。制御局CSは、各無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONEDの使用状態を監視し、各無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONED毎にハンドオーバー切替え基準レベルhoL,hoM,hoHを決定する。通常は中間レベルhoMを設定する。
【0030】図4は本発明の一実施例の移動通信システムの移動局の要部制御を示すフローチャート、また、図5は本発明の一実施例の移動通信システムの無線基地局のデータ送受信制御を示すフローチャート、図6は本発明の一実施例の移動通信システムの無線基地局のハンドオーバー切替え基準レベルの制御を示すフローチャートである。
【0031】各移動局MS1?MS14側では、常時、待機制御状態にあるメインルーチンによって図4のルーチンがコールされる。
【0032】図4において、ステップS1で現在の無線ゾーンがこのルーチンに入った前回の無線ゾーンと一致するか判断し、前回の無線ゾーンと一致しないとき、ステップS2で現在の無線ゾーンの書込みを行う。当然ながら、このルーチンに入った初期においては、ステップS2で現在の無線ゾーンの書込みを行う。この書込みは5?10個の範囲で登録でき、古い登録順に消去される。
【0033】ステップS3で自己の移動局(MS1?MS14のいずれか1つ)は各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDからの受信電界強度を測定し、ステップS4でそれを受信電界強度の強いものから順次並べる。ステップS5で移動局MS1?MS14は、ステップS2で格納している現在の無線ゾーンと過去の無線ゾーンのデータ及びステップS4で並べた受信電界強度の強いものから順のデータを現在の無線ゾーンの無線基地局(BSA,BSB,BSC,BSDのいずれか)にデータ送信する。そのデータ送信が終了すると、ステップS6で現在の無線ゾーンの無線基地局(BSA,BSB,BSC,BSDのいずれか1つ)から送信されてきてたデータを受信する。ステップS7で受信したデータに基き自局のハンドオーバー切替えの必要性を判断し、ハンドオーバー切替えの指示があれば、ステップS8でハンドオーバー切替えを行う。
【0034】各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSD側では、制御局CSとの通信等の処理を行うメインルーチンによって図5のルーチンがコールされる。
【0035】図5においては、ステップS11で移動局MS1?MS14及び制御局CSからのデータ受信を行う。なお、本実施例においては、移動局MS1?MS14及び制御局CSからのデータ受信を連続して行う事例で説明したが、通常、独立して移動局MS1?MS14と制御局CSからのデータ受信が行われる。ステップS12で各移動局MS1?MS14毎に対応する受信データを格納し、ステップS13で格納した各移動局MS1?MS14のハンドオーバー切替えの必要性を判断し、ステップS14で各移動局MS1?MS14に対してハンドオーバー切替えの必要性を出力する。
【0036】制御局CSのメインルーチンによって図6のルーチンがコールされる。
【0037】図6においては、ステップS21で各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSD毎の使用率を計算し、ステップS22でその計算した各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSD毎の使用率を格納する。ステップS23で過去の各移動局MS1?MS14の無線ゾーンのデータからT秒後の各移動局MS1?MS14の移動を予測し、その予測された各無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONED毎の各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDの推定使用率を計算する。そして、ステップS24で各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDの推定使用率を格納し、ステップS25でその推定使用率が90%を超える無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONEDが存在するか判断する。なお、ステップS25の推定使用率を90%としたのは、当該制御局CSの制御の特徴から設定したものであるが、本発明を実施する場合には、特定の無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONEDをグループにして、そのグループ毎に単数または複数の閾値を設定してもよい。
【0038】ステップS25で無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDの何れかの推定使用率が90%を超えると判断されたとき、ステップS26で該当する無線ゾーン(ZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONEDの何れか)のハンドオーバー切替え基準レベルhoMをハンドオーバー切替え基準レベルhoHに上げ、ステップS27で隣接する無線ゾーン(ZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONEDの何れか)のハンドオーバー切替え基準レベルhoMをハンドオーバー切替え基準レベルhoLに下げる。
【0039】この一連の動作を、更に詳述すると、次のようになる。
【0040】図7は本発明の一実施例の移動通信システムを説明するための通常の各無線ゾーンの使用率を示す説明図、また、図8は本発明の一実施例の移動通信システムを説明するための制御後の各無線ゾーンの使用率を示す説明図である。
【0041】図7では無線ゾーンZONECの使用率が他に比べて非常に高く、使用率100%のため通信空きチャネルがない状態にある。しかし、図8に示すように、無線ゾーンZONECのハンドオーバー切替え基準レベルhoMをハンドオーバー切替え基準レベルhoHに上げることにより、それが緩和されている。
【0042】今、無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONEDは、通常のハンドオーバー切替え基準レベルhoMにて設定されており、移動局MS14が事故に遭遇し、移動局MS14の位置及びその周辺で渋滞になっており、このとき、無線ゾーンZONECにはもう空きチャネルはないとする(図1参照)。」(公報第3ページ第4欄?第5ページ第8欄)

(e)
「【0048】次に、移動局MSnが引き続き無線ゾーンZONEBにて通信中であり、無線ゾーンZONEBの境界付近である移動局MS3の位置に移動した場合を説明する。
【0049】手順1と同様、移動局MSnは受信電界強度を測定して無線基地局BSBに通知する。無線基地局BSBは移動局MSnの受信電界強度の測定データより、ハンドオーバー切替え基準レベルhoM以下になったので、移動局MSnのハンドオーバーを行なう必要があると判断し、その旨を制御局CSに通知する。制御局CSは、移動局MSnの履歴情報と周辺基地局からの受信電界強度のレベル情報より、次に移動する無線ゾーンが無線ゾーンZONECであると予測する。
【0050】しかし、このとき、無線ゾーンZONECに空きチャネルが存在しないものと仮定する。
【0051】そこで、制御局CSは無線基地局BSBに空きチャネルがあることを確認した上で、無線基地局BSBに対しハンドオーバー切替え基準レベルhoMをハンドオーバー切替え基準レベルhoLに下げるよう通知する。無線基地局BSDに対しても同様に、ハンドオーバー切替え基準レベルhoMをハンドオーバー切替え基準レベルhoLに下げるよう通知する。即ち、無線基地局BSBと無線基地局BSDに空きチャネルがあることを確認の上でハンドオーバー切替え基準レベルhoLに下げるよう通知する。その後、無線基地局BSCに対し、ハンドオーバー切替え基準レベルhoMをハンドオーバー切替え基準レベルhoHに上げるよう通知する。
【0052】通知を受けた無線基地局BSB,BSDは、指示されたハンドオーバー切替え基準レベルhoLに変更し、無線基地局BSCは指示されたハンドオーバー切替え基準レベルhoHに変更する。
【0053】これにより、各無線ゾーンは図1のZONEB,ZONEC,ZONEDから、図2のZONEB’,ZONEC’,ZONED’へと切替わる。これにより、移動局MS3の位置は無線ゾーンZONEBの境界付近ではなくなり、ハンドオーバーする必要がなくなる。また、下り車線のMS9の位置も同じく無線ゾーンZONEDの境界付近ではなくなる。
【0054】また、空きチャネルのなかった無線ゾーンZONECの範囲が小さくなり、圏内の移動局のいくらかが隣接する無線ゾーンの圏内或いはその近傍となるので、例えば、図2の移動局MS11の位置が新しいハンドオーバー切替え基準レベルhoHに引っかかり、無線ゾーンZONEC’からは通常の場合と比較して早めに追い出されるので、無線ゾーンZONEC’の空きチャネルが確保できる。
【0055】本実施例においては、制御局CSは、複数の無線ゾーンZONEA、ZONEB、ZONEC、ZONEDの各々について通信チャネルの使用率を監視し、その使用率の高い無線ゾーンはハンドオーバー切替え基準レベルを高く設定することでその無線ゾーン範囲を小さくし、逆に、使用率の高い無線ゾーンに隣接する無線ゾーンはそのハンドオーバー切替え基準レベルを低く設定することでその無線ゾーン範囲を大きくしている。
【0056】また、移動局MS1?MS14は、過去にどの無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDの制御を受けていたかを記憶する記憶手段と、隣接する無線ゾーン内の各基地局からの制御チャネルの受信電界強度を測定し、それを高い順に並べるためのスキャンを待ち受け時に行なうスキャン手段と、それらの情報を現在制御を受けている無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDに通知する通知手段を有している。これによって、制御局CSは、移動局MS1?MS14から無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDを介して、移動方向と次に移動する可能性が高い無線ゾーンを制御する無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDを決定するための情報が得られる。
【0057】更に、制御局CSは、移動局MS1?MS14が通知した移動局MS1?MS14が過去にどの無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDの制御を受けていたか、また現在どの無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDの制御を受けているかという情報と、隣接する無線ゾーン内の各基地局からの制御チャネルの受信電界強度より、移動局MS1?MS14が次に移動すると予測される先の無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDを決定している。これにより、制御局CSは無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDを介し、通信チャネルの使用率の高い無線ゾーン内に在圏している複数の移動局MS1?MS14に対し、通常より早めにハンドオーバーを行なわせることができるので、そのままならば通信チャネルの使用率の高い無線ゾーン内に在圏し続けるはずの複数の移動局MS1?MS14のうちいくらかは、隣接する無線ゾーンを制御する無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDの管理下に移行することになり、結果的に、無線ゾーンでの空きチャネルが確保できる。
【0058】そして、移動局MS1?MS14が過去に制御を受けていた無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDの情報と、周辺無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDの制御チャネルの受信電界強度を測定して逐次報告することで、制御局CSが各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDに指示するハンドオーバー切替え基準レベルを決定することができる。
【0059】このように、本実施例の移動通信システムは、複数の無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDによって各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSD毎に無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONEDを設定し、前記複数の無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDを1つの制御局CSにより制御し、移動局MS1?MS14との通信を行う移動通信システムにおいて、前記制御局CSは、前記複数の無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONED毎に各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDについてステップS21で通信チャネルの使用率を計算し、そして、前記複数の無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONED毎の使用率の変化(推定使用率)をステップS23で推定し、前記使用率の推移に応じてステップS25乃至ステップS27で無線ゾーンのハンドオーバー切替え基準レベルを変更することにより、その無線ゾーンの広さを設定するものであり、これを請求項1の実施例とすることができる。
【0060】したがって、高速道路の渋滞或いは事故、インターチェンジ付近の渋滞、通勤経路の渋滞等の発生から、それが解消されるまでの間、使用率の推移に応じて無線ゾーンの広さを変化させ、使用率が100%になって他の移動局MS1?MS14のサービス低下にならないようにしている。故に、無線通信チャネルを有効に割り当て得ることができ、移動局に対してサービス低下がない。」(公報第6ページ第9欄?第7ページ第11欄)

(f)
「【0065】更に、本実施例の移動通信システムは、複数の無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDによって各無線基地局BSA,BSB,BSC,BSD毎に無線ゾーンZONEA,ZONEB,ZONEC,ZONEDを設定し、前記複数の無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDを1つの制御局CSにより制御し、移動局MS1?MS14との通信を行う移動通信システムにおいて、前記制御局CSは、移動局MS1?MS14が過去にどの無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDの制御を受けていたか、また、現在どの無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDの制御を受けているかのステップS1及びステップS2で判断及び登録した情報から、前記移動局MS1?MS14が次に移動すると予測される先の無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDを決定するステップS23で移動予測する予測設定手段を具備するものであり、これを請求項4の実施例とすることができる。
【0066】これにより、制御局CSは無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDを介し、通信チャネルの使用率の高い無線ゾーン内に在圏している複数の移動局MS1?MS14に対し、通常より早めにハンドオーバーを行なわせることができるので、そのままならば通信チャネルの使用率の高い無線ゾーン内に在圏し続けるはずの複数の移動局MS1?MS14のうちのいくらかは、隣接する無線ゾーンを制御する無線基地局BSA,BSB,BSC,BSDの管理下に移行することになり、結果的に、無線ゾーンでの空きチャネルが確保できる。」(公報第7ページ第12欄?第8ページ第13欄)

(g)
「【0069】
【発明の効果】上述のように、請求項1の移動通信システムによれば、制御局は複数の無線ゾーン毎に各無線基地局について通信チャネルの使用率を監視し、それによって前記複数の無線ゾーン毎の使用率の変化を推定し、前記使用率の推移に応じて無線ゾーンの広さを設定するものであるから、通信チャネルの使用率の高い無線ゾーン内に在圏している複数の移動局に対し、通常より早めにハンドオーバーを行なわせることができ、そのままならば通信チャネルの使用率の高い無線ゾーン内に在圏し続けるはずの複数の移動局のうちいくらかを、隣接する無線ゾーンを制御する無線基地局の管理下に移行することになり、本来ならば使用率が高くなる無線ゾーンでの空きチャネルが確保できる。」(公報第8ページ第13欄)

(h)
「【0073】請求項4においては、移動局が過去にどの無線基地局の制御を受けていたか、また、現在どの無線基地局の制御を受けているかの情報から、前記移動局が次に移動すると予測される先の無線基地局を決定するものであるから、制御局CSは無線基地局を介し通信チャネルの使用率の高い無線ゾーン内に在圏している複数の移動局に対し、通常より早めにハンドオーバーを行なわせることができるので、そのままならば通信チャネルの使用率の高い無線ゾーン内に在圏し続けるはずの複数の移動局のうちのいくらかは、隣接する無線ゾーンを制御する無線基地局の管理下に移行することになり、結果的に、無線ゾーンでの空きチャネルが確保できる。また、各移動局の進行方向を、各移動局をそれまで制御していた無線基地局情報から判断し、次にその移動局が移動する無線ゾーンを予測して、先回りして無線ゾーンの使用率をチェックすることで、予め無線ゾーン範囲を調節することができる。」(公報第8ページ第14欄)


以上によれば,引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

複数の無線基地局によって各無線基地局毎に無線ゾーンを設定し,前記複数の無線基地局を1つの制御局により制御し,移動局との通信を行う移動通信システムにおいて,
移動局MSnは受信電界強度を測定して無線基地局BSBに通知し,
無線基地局BSBは移動局MSnの受信電界強度の測定データより,ハンドオーバー切替え基準レベルhoM以下になると,移動局MSnのハンドオーバーを行なう必要があると判断し,その旨を制御局CSに通知し,
制御局CSは,移動局MSnの履歴情報と周辺基地局からの受信電界強度のレベル情報より,次に移動する無線ゾーンが無線ゾーンZONECであると予測し,
無線ゾーンZONECの通信チャネルの使用率が他に比べて非常に高く,使用率100%のため通信空きチャネルがない場合に,
制御局CSは無線基地局BSBと無線基地局BSDに空きチャネルがあることを確認の上でハンドオーバー切替え基準レベルhoLに下げるよう通知し,その後,無線基地局BSCに対し,ハンドオーバー切替え基準レベルhoMをハンドオーバー切替え基準レベルhoHに上げるよう通知し,
通知を受けた無線基地局BSB,BSDは,指示されたハンドオーバー切替え基準レベルhoLに変更し,無線基地局BSCは指示されたハンドオーバー切替え基準レベルhoHに変更する,
移動通信システム。

2.周知例

特開平6-205460号公報(以下「周知例」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

(a)
「【0004】例えば無線電話から成る移動体MSは、送受信基地局BTS1の地理的カバレージエリアから成るセルC1内で移動している。別のセルC2及びC3は夫々、送受信基地局BTS2、BTS3を有している。これらの局BTS1?BTS3の各々はGSM通信網の構成要素の1つを構成しており、各々がアンテナ及び処理装置に接続された1つまたは複数の送受信器を含んでいる。地理的カバレージエリアは部分的に重畳している。局BTS1?BTS3は基地局のコントローラBSCによって管理される。コントローラBSCの機能は特に、局BTSの周波数チャネルを管理することである。複数の局BTSに結合された1つのコントローラBSCが基地局システム(BSS)を構成している。各々が所定数の局BTSを制御し、且つ各々がGSM通信網のホスト構造である交換局MSCに接続された別のコントローラを配備してもよい。従って、所与のMSCは、一般にPLMNと呼ばれる公有地移動体通信網を構成する複数のBSSシステムの動作を制御し得る。」(公報第3ページ第3?4欄)

(b)
「【0019】非同期ハンドオーバは最も普及した最も使用し易い方法である。その原理を図3に示す。移動体MSがセルC1を離れてセルC2に入る場合を想定する。ここでは連続する8つの伝送ステップが必要である。
【0020】ステップ1では、移動体MSが、ハンドオーバを開始させるためにコントローラBSCによって使用される測定結果を収容したセル変更要求に同化し得るメッセージMEAS REPを局BTS1に送出する。これらの測定結果は例えば、局BTS1によって送出された信号よりも局BTS2によって定期的に送出された信号のほうが移動体による受信状態がよいことを示す。このメッセージは、0.5秒毎に移動体MSから局BTS1に送出される。ステップ2では、局BTS1がこの情報(メッセージMEAS RES)をコントローラBSCに伝送し、該コントローラは、ハンドオーバが必要であるか否かを判断する。特に、受信した信号の品質及びパワーが判断基準となる。ハンドオーバを実行すべきか否かを判断するために、MSCまたはBSCの処で別の型の情報を得ることも可能である。ハンドオーバを要するケースが実際に生じたと想定する。ステップ3では、コントローラBSCが局BTS2のチャネルを活動させ(メッセージCHANACT)、この局が、割宛てに肯定応答する(メッセージCHAN ACT ACK)。ステップ4では、コントローラBSCがハンドオーバ命令(メッセージHANDOVER CMD)を局BTS1に送出し、この局は該命令を直ちにトランスペアレントに移動体MSに再送する。移動体MS(段階5)の処でハンドオーバ手続きが開始され、移動体はタイミングアドバンスを組入れずに、即ち離間距離を考慮に入れずに、連続メッセージHA(HANDOVER ACCESS)をBTS2に送出する。このステップは図2に示したステップである。移動体MSは使用すべき新しいタイミングアドバンス情報を未だ知らない。局BTS2が該情報を計算しその後で移動体に供給する(特に、ラベルTAを含むメッセージPHYS INFO)。ステップ6では、移動体MSが新しい同期を確認ながら局BTS2に接続メッセージを送出する。局BTS2はこれをコントローラBSCに通知し(メッセージESTBLISH INDICATION)、これが確かに受信されたことを移動体MSに報告する(メッセージUA)。ステップ7では、移動体MSがメッセージHANDOVER COMPLETを局BTS2に送出し、ハンドオーバ手続きが終了したことを通知する。この局は直ちにこのメッセージをコントローラBSCに再送し、次にコントローラBSCが交換局MSCに通知する(メッセージHANDOVER PERFORMED)。ステップ8では、移動体MSに予め割当てられた時間間隔を使用可能にするために、コントローラBSCが局BTS1をアドレスし(メッセージRF CHAN REL)、移動体が肯定応答する(メッセージRF CHAN REL ACK)。
【0021】この段階で、移動体MSは、所与の搬送波によって搬送されたフレーム内の1つの時間間隔と1つのタイミングアドバンス情報TAとを該移動体に割当てた局BTS2と対話する。」(公報第4ページ第6欄?第5ページ第7欄)
(上記において,下線は当審が付与。)


第3 対比

引用発明と本願発明を比較する。

・引用発明の「無線基地局」,「受信電界強度」,「制御局」は,本願発明の「ベーストランシーバステーション」,「信号強度」,「基地局コントローラ」に相当する。
そして,引用発明の「無線基地局」が「複数」存在することは明白である。また,引用発明は「移動通信システム」に関する「方法」に係る発明も開示しているといえる。

・引用発明の「ハンドオーバー切替え基準」は,本願発明の「ハンドオーバ基準」及び「ハンドオーバの基準」に相当する。

・引用発明の「制御局」は,移動局MSnが測定し,無線基地局BSBに通知した受信電界強度のレベル情報により,次に移動する無線ゾーンを予測するのであるから,引用発明は,本願発明の「複数のベーストランシーバステーションの信号強度について移動局により実行された測定の報告を基地局コントローラにおいて受信する段階」を備えているといえる。

・引用発明が「無線基地局BSBは移動局MSnの受信電界強度の測定データより,ハンドオーバー切替え基準レベルhoM以下になると,移動局MSnのハンドオーバーを行なう必要があると判断」することは,「ハンドオーバを開始する」ことであることは明らかである。
また,通信している無線基地局から受信する信号の受信電界強度(信号強度)が低下することは,信号のクオリティの悪化といえ,より良い信号クオリティとするために,周辺の無線基地局の提供するチャネルに切り替えるハンドオーバが行われることは,移動通信ステムにおいて技術常識である。
よって,引用発明は,本願発明の「信号のクオリティが,より良い無線チャネルクオリティを達成すべく予め定められたハンドオーバ基準を満たすときに,より良い信号クオリティを提供するチャネルに対するハンドオーバを開始する段階」を備えているといえる。

・引用発明は,無線ゾーンZONECの通信チャネルの使用率が他に比べて非常に高く,使用率100%のため通信空きチャネルがない場合に,制御局CSが,無線基地局BSB,BSDは,指示されたハンドオーバー切替え基準レベルhoLに変更し,無線基地局BSCは指示されたハンドオーバー切替え基準レベルhoHに変更することにより,使用率が高くなる無線ゾーンでの空きチャネルを確保しようとするものである。
ここにおいて,使用率100%の無線ゾーンでの空きチャネルを確保することによって,使用率は低下するのであるから,無線ゾーンの負荷が低減することは明白である。
そうすると,(a)引用発明の空きチャネルが存在しない無線ゾーンZONECの「無線基地局BSC」,空きチャネルがある「無線基地局BSB,BSD」は,本願発明の「第1のベーストランシーバステーション」,「第1ベーストランシーバステーションに隣接する1つ又はそれ以上のベーストランシーバステーション」に相当し,(b)引用発明の通信チャネルの「使用率100%」は,本願発明の「第1のベーストランシーバステーションの負荷を低減させるための試みを実行しなくてはならない」ときに,満たされる「基準」といえ,該「使用率100%」の情報が制御局に記憶されていることは明らかである。
以上より,引用発明は,「基準に関する情報を記憶する段階を前記基地局コントローラにおいて実行し,この場合,前記基準が満たされることが,第1のベーストランシーバステーションの負荷を低減させるための試みを実行しなくてはならないということを意味するものであり」の構成を備え,「前記基準が満たされているかをチェックし,該基準が満たされていることに応答して,より良い無線チャネルクオリティを達成するために実行すべきハンドオーバの基準を変更することにより,前記第1ベーストランシーバステーションの負荷の一部分を,該第1ベーストランシーバステーションに隣接する1つ又はそれ以上のベーストランシーバステーションに対して振り向ける段階を実行する」構成を備えているといえる。

以上から,本願発明と引用発明は次の点で一致,相違する。

<一致点>
複数のベーストランシーバステーションの信号強度について移動局により実行された測定の報告を基地局コントローラにおいて受信する段階と,
前記信号のクオリティが,より良い無線チャネルクオリティを達成すべく予め定められたハンドオーバ基準を満たすときに,より良い信号クオリティを提供するチャネルに対するハンドオーバを開始する段階と,
を含む方法であって,
基準に関する情報を記憶する段階を前記基地局コントローラにおいて実行し,この場合,前記基準が満たされることが,第1のベーストランシーバステーションの負荷を低減させるための試みを実行しなくてはならないということを意味するものであり,
さらに,
前記基準が満たされているかをチェックし,該基準が満たされていることに応答して,より良い無線チャネルクオリティを達成するために実行すべきハンドオーバの基準を変更することにより,前記第1ベーストランシーバステーションの負荷の一部分を,該第1ベーストランシーバステーションに隣接する1つ又はそれ以上のベーストランシーバステーションに対して振り向ける段階,
を実行する,
ことを特徴とする方法。

<相違点1>
本願発明も引用発明もともに「前記信号のクオリティが,より良い無線チャネルクオリティを達成すべく予め定められたハンドオーバ基準を満たすときに,より良い信号クオリティを提供するチャネルに対するハンドオーバを開始する段階」を備える点で共通するが,当該「段階」を実行するのが基地局コントローラであるか否かは,請求項1の記載からは明確ではない。しかしながら,本願に最初に添付された明細書及び図面を参酌すると,前記「ハンドオーバを開始する段階」を,基地局コントローラが実行することは明らかである。
そうすると,引用発明は「ハンドオーバを開始する段階」を実行するのが「無線基地局」である点で,本願発明と相違する。

<相違点2>
本願発明も引用発明もともに「前記基準が満たされているかをチェックし,該基準が満たされていることに応答して,より良い無線チャネルクオリティを達成するために実行すべきハンドオーバの基準を変更することにより,前記第1ベーストランシーバステーションの負荷の一部分を,該第1ベーストランシーバステーションに隣接する1つ又はそれ以上のベーストランシーバステーションに対して振り向ける段階を実行する」点で一致するが,当該段階を実行するのが本願発明は「基地局コントローラ」であるのに対して,引用発明には「基地局コントローラ」が実行するとの記載がない点。


第5 当審の判断

・<相違点1>及び<相違点2>に対する検討

ハンドオーバを開始させるために使用される測定結果を移動体が送受信基地局に送出し,送受信基地局(BTS)は基地局のコントローラ(BSC)に伝送し,該基地局のコントローラが,ハンドオーバが必要か否かを,受信した信号の品質及びパワーを判断基準とし,ハンドオーバを実行することは周知(周知例参照。)である。
そして,周知技術を引用発明に適用することにより,相違点1,2のように構成することは,当業者が容易に想到し得たものである。

・請求人の主張に対する補足的検討

請求人は,平成20年3月18日付け意見書及び審判請求書において,複数の基地局コントローラ(BSC)が基地局(BS)とモバイルスイッチングセンタ(MSC)との間に設けられようなシステムにおいて,基地局コントローラ(BSC)が,制御を実行する点が,拒絶の理由で引用された文献のいずれにも開示されていないので,本願発明と相違する主張をしている。
ここで,上記主張について検討する。
(a)本願発明(平成20年3月18日付け手続補正による請求項1に係る発明)には,モバイルスイッチングセンタ(MSC)についても,基地局コントローラ(BSC)が基地局(BS)とモバイルスイッチングセンタ(MSC)との間に設けられたとする点についても記載はなく,請求人の主張は採用できない。
(b)仮に,請求人の主張するようなシステムが本願発明の構成から読み取ることができる,あるいは,実質的に記載されたに等しい事項であるといえても,複数の基地局コントローラ(BSC)が基地局(BS)とモバイルスイッチングセンタ(MSC)との間に設けられようなシステムにおいて,基地局コントローラ(BSC)が,ハンドオーバの制御を行うことは周知(周知例参照。)であるから,本願発明により特定される制御を基地局コントローラが行うようにすることは,上記の「<相違点1>及び<相違点2>に対する検討」に述べたと同様に,周知技術を引用発明に適用することにより,当業者が容易に想到し得たものである。よって,請求人の主張は採用できない。

そして,本願発明のように構成したことによる効果も,引用発明及び周知技術から予測できる程度のものである。

したがって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 まとめ

以上のとおり,本願発明(平成20年3月18日付け手続補正による請求項1に係る発明)は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に該当し,特許を受けることができない。

したがって,本願は,他の請求項について論及するまでもなく,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-15 
結審通知日 2010-10-21 
審決日 2010-11-02 
出願番号 特願平10-548845
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 望月 章俊  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 近藤 聡
青木 健
発明の名称 ハンドオーバー方法  
代理人 中村 稔  
代理人 箱田 篤  
代理人 西島 孝喜  
代理人 小川 信夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 熊倉 禎男  

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