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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1234161
審判番号 不服2010-15946  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-15 
確定日 2011-03-16 
事件の表示 特願2006-513989「ポリオキシメチレン樹脂製ハードディスクドライブ用ランプ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月 8日国際公開、WO2005/116137〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成17年5月30日(優先権主張、2004年5月31日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成21年12月10日付けで拒絶理由が通知され、平成22年2月5日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年4月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月15日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、同年8月13日付けで前置報告がなされ、当審において同年10月14日付けで拒絶理由が通知され、同年12月17日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明について
本願の請求項1?11に係る発明は、平成22年12月17日提出の手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。

「押出機を用い、一ヶ所以上のベントから-0.06MPa以下で減圧脱気しつつ、ポリオキシメチレンコポリマー樹脂と酸化チタン、金属の複合酸化物、酸化鉄、カーボンブラック、炭酸カルシウム、ウォラストナイト及び微粒子炭素からなる群から選ばれる少なくとも一種の着色剤を溶融混練する工程により得られた樹脂表面に付着する塩素イオン濃度が1μg/g以下であるポリオキシメチレンコポリマー樹脂ペレットを用いて射出成形、溶剤洗浄及び乾燥を行う各工程によって得られた、アウトガスが20μg/g以下であるハードディスクドライブ用ランプ。
但し、前記アウトガスの量は、試料1.0gをヘリウムガス中で90℃に加熱し、ヘリウムガスを50ml/minでパージし、発生したガスを180分間吸着管に吸収させた後、非極性カラムを用い、基準物質にヘキサデカンを用いてGC-MSで測定する。」

第3.当審において通知した拒絶の理由の概要
当審において通知した、平成22年10月14日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由の概要は以下のとおりである。

「1.本件出願は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:国際公開第2003/55945号」

第4.当審において通知した拒絶の理由の妥当性についての検討
1.刊行物1の記載事項
ア.「2.(A)ポリオキシメチレン樹脂100重量部、
(B)(b-1)ポリオレフィン樹脂、および(b-2)イソシアネート化合物とポリアルキレンオキサイドとを重合して得られる重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子潤滑剤種0.1?10重量部、および
(C)平均粒子径が30μm以下の無機充填材0.5?50重量部、および/または(D)潤滑材0.1?10重量部
を含む樹脂組成物を成形して得られるハードディスク用ランプ。
・・・
4.(A)ポリオキシメチレン樹脂が、コモノマー量0.1?3モル%のコポリマーである請求項1?3の何れか1項に記載のランプ。
5.(C)無機充填材が、体積平均粒子径が30μm以下の球状で表面が平滑な充填剤である、請求項2?4の何れか1項に記載のランプ。
6.(C)無機充填材が、体積平均粒子径が10μm以下の針状、粒子状、または板状の充填剤である、請求項2?4の何れか1項に記載のランプ。
・・・
8.ランプが、ハロゲン系溶剤、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール、液化炭酸ガス、海面活性剤を含有する水および純水からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶剤で洗浄した後に使用される、請求項1?7の何れか1項に記載のランプ。」(請求の範囲請求項2、4?6及び8)

イ.「本発明者らは、特願2001-535463号公報(対応特許WO01/32775号)において、シリコーンガムがグラフトしたポリオレフィン系樹脂を潤滑剤として用いた場合、ドライクリーニング等の溶剤で洗浄しても、成形品の摺動性が低下しないことを示している。しかし、かかる潤滑剤は、ハードディスクの磁気記録へ悪影響を与えるシリコーン成分を含有しているため、ハードディスク用ランプ材として使用することは不可能であった。このため、シリコーン成分を含有せず、溶剤洗浄による摺動性能(摩擦係数/摩耗量)の悪化のないランプ用の材料が求められていた。」(明細書第2頁第2?9行)

ウ.「本発明のハードディスク用ランプ材には、熱安定性の点からコポリマーが好ましく、さらに摺動性と熱安定性のバランスの点からコモノマー量の少ないコポリマーが最も好ましい。」(明細書第3頁第28行?第4頁第1行)

エ.「本発明において(C)成分として用いられる、平均粒子径30μm以下の無機充填剤について説明する。かかる無機充填剤としては、針状、粒子状、板状等の充填剤を使用することができる。また、これらの充填剤は、単独でまたは2種以上を併用して使用することが可能である。
具体的に、針状充填剤としては、チタン酸カリ、酸化亜鉛、酸化チタン等のウイスカー、針状ウォラストナイト(珪酸カルシウム)等が挙げられる。粒子状充填剤としては、黒鉛、カーボンブラック、導電性カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ネフェリンサイナイト、クリストバライト、ウォラストナイト(珪酸カルシウム)、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、アルミナ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、炭化珪素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。板状充填剤としては、マイカが挙げられる。」(第8頁第18行?第9頁第1行)

オ.「本発明の無機充填剤としては、摺動性付与の観点から体積平均粒子径が30μm以下のものが用いられる。30μmを超えると摺動性が悪化するため好ましくない。この摺動性は無機充填剤の粒子の表面状態にも大きく影響する。さらに詳しく述べると、球状で表面が平滑な無機充填剤においては、体積平均粒子径が30μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以下であり、それ以外の、針状、粒子状または板状の無機充填剤においては、体積平均粒子径が30μm以下であることが好ましく、より好ましく10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。」(第9頁第11行?18行)

カ.「本発明において用いられる樹脂組成物の製造に際しては、一般的に使用されている溶融混練機を用いることができる。溶融混練機としてはニーダー、ロールミル、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機等を挙げることができる。このときの加工温度は180?240℃であることが好ましく、品質や作業環境の保持のためには不活性ガスによる置換や、一段および多段ベントで脱気することが好ましい。
本発明のハードディスク用ランプを得るための成形方法は、射出成形法、ホットランナー射出成形法、アウトサート成形法、インサート成形法、ガスアシスト中空射出成形法、金型の高周波加熱射出成形法、射出圧縮成形法、圧縮成形法および押出成形品の切削加工等で成形することが出来る。」(第14頁第23行?第15頁第3行)

キ.「実施例
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。はじめに、実施例および比較例で使用する成分・評価方法について以下に示す。
使用成分
(A)ポリオキシメチレン樹脂
A-1;1,3ジオキソラン0.5モル%を共重合成分として含む、曲げ弾性率2900MPaで、メルトフローレート30g/10分(ASTM D-1238-57T)のポリオキシメチレンコポリマー
A-2;1,3ジオキソラン1.5モル%を共重合成分として含む、曲げ弾性率2600MPaで、メルトフローレート30g/10分(ASTM D-1238-57T)のポリオキシメチレンコポリマー
A-3;メルトフローレート30g/10分(ASTM D-1238-57T)で、曲げ弾性率3000MPaの両末端がアセチル基で封鎖されたポリオキシメチレンホモポリマー
(B)(b-1)ポリオレフィン樹脂、および(b-2)イソシアネート化合物とポリアルキレンオキサイドとを重合して得られる重合体からなる群から選ばれる高分子潤滑剤
(b-1)ポリオレフィン樹脂
・・・
(b-2)イソシアネート化合物およびポリアルキレンオキサイド(および必要により低分子ジオール化合物)を重合して得られる重合体
・・・
(C)無機充填剤
C-1;走査型電子顕微鏡で測定した繊維径が0.15μmで長さが20μmであり、レーザー式粒子径測定装置で測定した体積平均粒子径が0.8μmであるチタン酸カリウィスカー
C-2;レーザー式粒子径測定装置で測定した体積平均粒子径が3μmで、走査型電子顕微鏡で測定した短径が1μmで長径が10μmのウォラストナイト
C-3;体積平均粒子径20μmのガラスビーズ
C-4;体積平均粒子径10μmのガラスビーズ
(D)潤滑剤
・・・
評価方法
(1)物性評価
実施例および比較例で得られたペレットを80℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度200℃に設定された5オンス成形機(東芝機械(株)製 IS-100E)を用いて、金型温度70℃、冷却時間30秒の条件で物性評価用試験片を成形した。この試験片を用いて下記の試験を行った。
・・・
(2)熱安定性
実施例および比較例で得られたペレットを100℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度250℃に設定された1オンス成形機(東洋機械金属(株)製 TI-30G)で滞留させた後、金型温度70℃、冷却時間15秒の条件で厚さ3mmの平板を成形し、成形品表面にシルバーが発生するまでの滞留時間を測定した。
(3)薄肉成形品のハクリ
実施例および比較例で得られたペレットを80℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度200℃に設定された5オンス成形機(住友重機械工業(株)製SH-75)を用い、金型温度80℃、射出圧力75kg/cm^(2)で、射出速度を変化させて、厚さ1mm、幅5mmの渦巻状の薄肉成形品を成形し、表面のハクリを以下の基準に従って評価した。
・・・
(4)摺動性能
○1溶剤洗浄前(審注:本願明細書に記載の○囲み数字1が、審決文では表現できないため「○1」と定義した。以下の○囲み数字についても同様。)
実施例および比較例で得られたペレットを80℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度200℃に設定された1オンス成形機(東洋機械金属(株)製 TI-30G)で金型温度70℃、冷却時間20秒の条件で、厚さ3mmの平板を成形し試験片とした。この試験片について、往復動摩擦摩耗試験機(東洋精密(株)製 AFT-15MS型)を用いて、荷重19.6N、線速度30mm/sec、往復距離20mm、往復回数5,000回、および環境温度23℃の条件で、摩擦係数と摩耗量を測定した。相手材料としては、SUS304試験片(直径5mmの球)を用いた。
○2溶剤洗浄後
溶剤洗浄前摺動性能評価で用いた厚さ3mmの平板を、50℃に加温されたクロロホルム/メタノール混合溶液(70/30容量比)に4時間浸漬した後、表面を同溶剤で洗浄し、60℃の熱風乾燥機で2時間乾燥を行った。得られた試験片について、往復動摩擦摩耗試験機(東洋精密(株)製 AFT-15MS型)を用いて、荷重19.6N、線速度30mm/sec、往復距離20mm、往復回数5,000回、および環境温度23℃の条件で、摩擦係数と摩耗量を測定した。相手材料としては、SUS304試験片(直径5mmの球)を用いた。」(第15頁第4行?第18頁第29行)

ク.「<実施例19>
(A-1)成分100重量部(安定剤としてトリエチレングリコール-ビス-〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕0.3重量%、ポリアミド66 0.10重量%、ステアリン酸カルシウム0.15重量%を含む)、(b-1-1)成分3重量部、および(C-1)成分10重量部をブレンダーで均一にブレンドした後、200℃に設定されたL/D=42の25mmφ二軸押出機を用い、スクリュー回転数100rpm、10kg/hrで溶融混練を行った。押出された樹脂はストランドカッターでペレットとした。このペレットを用いて各種物性・性能を評価した。その結果を表5に示す。
<実施例20、21>
実施例19において、さらに(D)成分を表5に示す通りに添加した以外は、実施例19と同様の条件でペレットを作製し、このペレットを用いて各種物性・性能を評価した。その結果を表5に示す。
<実施例22>
(A-1)成分100重量部(安定剤としてトリエチレングリコール-ビス-〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕0.3重量%、ポリアミド66 0.10重量%、ステアリン酸カルシウム0.15重量%を含む)、(b-1-1)成分3重量部、および(C-2)成分10重量部をブレンダーで均一にブレンドした後、200℃に設定されたL/D=42の25mmφ二軸押出機を用い、スクリュー回転数100rpm、10kg/hrで溶融混練を行った。押出された樹脂はストランドカッターでペレットとした。このペレットを用いて各種物性・性能を評価した。その結果を表5に示す。
<実施例23>
実施例22において、さらに(D)成分を表5に示す通りに添加した以外は、実施例22と同様の条件でペレットを作製し、このペレットを用いて各種物性・性能を評価した。その結果を表5に示す。
<実施例24>
(A-1)成分のポリオキシメチレン樹脂100重量部(安定剤としてトリエチレングリコール-ビス-〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕0.3重量%、ポリアミド66 0.10重量%、ステアリン酸カルシウム0.15重量%を含む)、(b-1-1)成分4重量部、および(C-3)成分33.3重量部をブレンダーで均一にブレンドした後、200℃に設定されたL/D=42の25mmφ二軸押出機を用い、スクリュー回転数100rpm、10kg/hrで溶融混練を行った。押出された樹脂はストランドカッターでペレットとした。このペレットを用いて各種物性・性能を評価した。その結果を表5に示す。
<実施例25、26>
実施例24において、(B)成分および(C)成分を表5に示す通りに変更した以外は、実施例24と同様の条件でペレットを作製し、このペレットを用いて各種物性・性能を評価した。その結果を表5に示す。
<実施例27>
実施例26において、さらに(D)成分を表5に示す通りに添加した以外は、実施例26と同様の条件でペレットを作製し、このペレットを用いて各種物性・性能を評価した。結果を表5に示す。」(第26頁第1行?第27頁第17行)

ケ.「

」(第28頁の表5)

コ.「これらの記録装置は、近年小型化高集積化とともに密閉される構造になってきている。このため、部品に付着するゴミ、油脂分、不揮発性溶剤、記録媒体に影響を与える物質などを排除するため、部品を溶剤(トリクロロエチレン、トリクロロエタン、各種フロンに代表されるハロゲン系溶剤、脂肪族・芳香族炭化水素、アルコール類、液化炭酸ガス、界面活性剤を含有する水および純水など)で洗浄してから使用する場合が生じている。この様な用途にも、本発明の組成物は有用である。」(第30頁第4行?10行)

2.刊行物1に記載された発明
摘示記載ア.には、(A)ポリオキシメチレン樹脂100重量部、(B)(b-1)ポリオレフィン樹脂、および(b-2)イソシアネート化合物とポリアルキレンオキサイドとを重合して得られる重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子潤滑剤種0.1?10重量部、および(C)平均粒子径が30μm以下の無機充填材0.5?50重量部、および/または(D)潤滑材0.1?10重量部を含む樹脂組成物を成形して得られるハードディスク用ランプが記載されている。
また、摘示記載エ.及びキ.には、(C)成分である無機充填材として、酸化チタン、針状ウォラストナイト(珪酸カルシウム)、黒鉛、カーボンブラック、導電性カーボンブラック、珪酸アルミニウム、ウォラストナイト(珪酸カルシウム)、酸化鉄、炭酸カルシウムが記載されている。
そして、摘示記載カ.及びク.から、押出機を用い、この樹脂組成物を溶融混練する工程によりペレットを得ているのは明らかであり、摘示記載カ.及びキ.から、このペレットを用いて射出成形を行う工程によってハードディスク用ランプを得ているのは明らかであり、摘示記載ア.、キ.及びコ.から、射出成形した後、さらに溶剤洗浄及び乾燥を行うことによりハードディスク用ランプを得ているのは明らかであるといえる。

したがって、摘示記載ア.?コ.の記載を総合すると、刊行物1には、「押出機を用い、(A)ポリオキシメチレン樹脂100重量部、(B)(b-1)ポリオレフィン樹脂、および(b-2)イソシアネート化合物とポリアルキレンオキサイドとを重合して得られる重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子潤滑剤種0.1?10重量部、および(C)平均粒子径が30μm以下の無機充填材0.5?50重量部、および/または(D)潤滑材0.1?10重量部を含む樹脂組成物を溶融混練する工程により得られたペレットを用いて射出成形、溶剤洗浄及び乾燥を行う各工程によって得られるハードディスク用ランプであって、ポリオキシメチレン樹脂が、コモノマー量0.1?3モル%のコポリマーであり、無機充填材が、酸化チタン、針状ウォラストナイト(珪酸カルシウム)、黒鉛、カーボンブラック、導電性カーボンブラック、珪酸アルミニウム、ウォラストナイト(珪酸カルシウム)、酸化鉄、炭酸カルシウムであるハードディスク用ランプ。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

3.本願発明1と引用発明1との対比・判断
引用発明1における「ポリオキシメチレン樹脂」は、コモノマー量0.1?3モル%のコポリマーであることから、本願発明1における「ポリオキシメチレンコポリマー」に相当し、引用発明1における「無機充填材」は、酸化チタン、針状ウォラストナイト(珪酸カルシウム)、黒鉛、カーボンブラック、導電性カーボンブラック、珪酸アルミニウム、ウォラストナイト(珪酸カルシウム)、酸化鉄、炭酸カルシウムであり、本願発明1に係る「着色剤」としての「酸化チタン、金属の複合酸化物、酸化鉄、カーボンブラック、炭酸カルシウム、ウォラストナイト及び微粒子炭素」とは化合物として差異はないことから、本願発明1における「酸化チタン、金属の複合酸化物、酸化鉄、カーボンブラック、炭酸カルシウム、ウォラストナイト及び微粒子炭素からなる群から選ばれる少なくとも一種の着色剤」に相当し、引用発明1における「ペレット」は、ポリオキシメチレンコポリマーを含有する樹脂組成物から得られたものであるから、本願発明1における「ポリオキシメチレンコポリマー樹脂ペレット」に相当し、引用発明1における「ハードディスク用ランプ」は、本願発明1における「ハードディスクドライブ用ランプ」に相当するといえる。

そうすると、本願発明1と引用発明1とは、「押出機を用い、ポリオキシメチレンコポリマー樹脂と酸化チタン、金属の複合酸化物、酸化鉄、カーボンブラック、炭酸カルシウム、ウォラストナイト及び微粒子炭素からなる群から選ばれる少なくとも一種の着色剤を溶融混練する工程により得られたポリオキシメチレンコポリマー樹脂ペレットを用いて射出成形、溶剤洗浄及び乾燥を行う各工程によって得られたハードディスクドライブ用ランプ。」である点で一致しているが、以下の点で相違している。

○相違点1:押出機を用い、溶融混練するにあたり、本願発明1は、「一ヶ所以上のベントから-0.06MPa以下で減圧脱気しつつ」と規定しているのに対し、引用発明1は、当該規定がない点。

○相違点2:ポリオキシメチレンコポリマー樹脂ペレットにおいて、本願発明1は、「樹脂表面に付着する塩素イオン濃度が1μg/g以下である」のに対し、引用発明1は、当該規定がない点。

○相違点3:ハードディスクドライブ用ランプにおいて、本願発明1は、「試料1.0gをヘリウムガス中で90℃に加熱し、ヘリウムガスを50ml/minでパージし、発生したガスを180分間吸着管に吸収させた後、非極性カラムを用い、基準物質にヘキサデカンを用いてGC-MSで測定する」ことによる「アウトガスが20μg/g以下である」のに対し、引用発明1は、当該規定がない点。

上記相違点1について検討すると、刊行物1には、本発明において用いられる樹脂組成物の製造に際しては、品質や作業環境の保持のためには不活性ガスによる置換や、一段および多段ベントで脱気することが好ましいことが記載されており(摘示記載カ.)、さらに、ベントで減圧脱気しつつ押出機で溶融混練することについては、例えば特開2003-40997号公報(段落【0049】、【0050】及び【0057】)及び特開2001-118223号公報(段落【0036】?【0038】)に記載されているように、その発明の属する技術の分野における通常の常識を有する者(以下、「当業者」という。)に周知の技術である。
そうすると、引用発明1において、押出機を用いて溶融混練するにあたり、上記周知の技術にかんがみ、一段および多段ベントで脱気する好ましい態様を採用することは、当業者が容易に想到しうるものである。
そして、脱気する際の減圧度を「-0.06MPa以下」とすることについては、単なる設計事項にすぎず、また、本願明細書には「-0.06MPa以下」という数値の臨界的意義は記載されていない。
よって、上記相違点1に係る規定により奏される効果が格別顕著なものとは認めることができない。

上記相違点2について検討すると、摘示記載イ.及びコ.から、ハードディスクドライブ用ランプにおいて、シリコーン成分等の記録媒体に影響を与える物質を排除した材料を用いることについては、当業者に周知の課題であるとともに、ハードディスク用ランプにおいて、塩素ガスやシリコン等のディスクの磁性層への悪影響が懸念されるアウトガスが少ない材料を用いることについても、例えば特開2000-298964号公報(段落【0023】)及び特開2001-195853号公報(段落【0016】)に記載されているように、当業者に周知の課題であるといえる。
また、ハードディスク等の精密電気製品の分野において、ベントで脱気しつつ押出機で溶融混練することにより、塩素化合物等の製品に悪影響を及ぼすアウトガスを低減することについては、例えば特開2003-40997号公報(段落【0002】、【0049】、【0050】及び【0057】)及び特開2001-118223号公報(段落【0032】?【0038】)に記載されているように、当業者に周知の技術である。
そうすると、引用発明1において、上記周知の課題及び上記周知の技術にかんがみ、塩素イオン含有量の少ない材料を用いることは、当業者が容易に想到しうるものである。
そして、塩素イオン含有量の少ない材料を用いる際に、ポリオキシメチレンコポリマー樹脂ペレットの塩素イオン含有量を「樹脂表面に付着する塩素イオン濃度が1μg/g以下である」とすることについては、単なる設計事項にすぎず、また、本願明細書には「塩素イオン濃度が1μg/g以下」という数値の臨界的意義は記載されていないことから、上記相違点2に係る規定により奏される効果が格別顕著なものとは認めることができない。

上記相違点3について検討すると、上記相違点2において検討したとおり、ハードディスクドライブ用ランプにおいて、シリコーン成分等の記録媒体に影響を与える物質を排除した材料を用いることについては、当業者に周知の課題であるとともに、ハードディスク用ランプにおいて、塩素ガスやシリコン等のディスクの磁性層への悪影響が懸念されるアウトガスが少ない材料を用いることについても、当業者に周知の課題であるといえる。
また、ハードディスク等の精密電気製品の分野において、ベントで脱気しつつ押出機で溶融混練することにより、塩素化合物等の製品に悪影響を及ぼすアウトガスを低減することについては、例えば特開2003-40997号公報(段落【0002】、【0049】、【0050】及び【0057】)及び特開2001-118223号公報(段落【0032】?【0038】)に記載されているように、当業者に周知の技術である。
そうすると、引用発明1において、上記周知の課題及び上記周知の技術にかんがみ、アウトガスの少ない材料を用いることは、当業者が容易に想到しうるものである。
そして、ハードディスクドライブ用ランプのアウトガスを「20μg/g以下」とすることについては、単なる設計事項にすぎず、また、本願明細書には、アウトガスが「20μg/g以下」を満足する実施例と「20μg/g以下」を満足しない比較例があるものの(本願明細書第15頁の[表1-2])、これら実施例及び比較例がハードディスクドライブ用ランプとしてどのような性能を有しているのかについて何ら検討されていないことから、「20μg/g以下」という数値自体に臨界的意義があるとはいえず、よって上記相違点3に係る規定により奏される効果が格別顕著なものとは認めることができない。

4.審判請求人の主張について
(1)請求人は平成22年12月17日提出の意見書において、相違点1に関して、以下のとおり主張する。
「刊行物1には『品質や作業環境の保持のためには不活性ガスによる置換や、一段および多段ベントで脱気することが好ましい。』という記載はあります。
しかしながら、どの程度の脱気を行えばよいのかについては具体的な記載がなく、また、刊行物1の第19頁に記載されている実施例ではこの脱気を行ったことについては記載がありません。
また、脱気する目的についても具体的な記載はありません。
刊行物1は本願明細書の従来技術を示す文献として挙げたものであり、そもそも刊行物1には、アウトガスや腐食性ガス(有害ガス)に関する記載がなく、さらにポリオキシメチレン樹脂製のランプにおいて着色剤による悪影響を考慮しその低減を目指すことについては記載及び示唆がないことは本願明細書の[0004]に記載されている通りです。
上記のように、刊行物1の発明においては、脱気をすることが『好ましい』という程度の認識しかなく、また、実施例においてに脱気する減圧度を『-0.06MPa以下』としたことについては記載がなく、これによる効果を検証しているものでもありません。
これに対し、本件発明1は、アウトガスを低減するには(1)押出機を用い、一ヶ所以上のベントから-0.06MPa以下で減圧脱気すること、(2)樹脂表面に付着する塩素イオン濃度が1μg/g以下とすること、(3)樹脂ペレットを用いて射出成形、溶剤洗浄及び乾燥を行うこと、がそれぞれ必要であり、減圧脱気の程度は『-0.06MPa以下』とする必要があることを見出したものです。減圧度を常に高水準に保つことは設備、気温、コストなどの制約もあり難しい面があり、本件発明1はアウトガスを低減するという目的を達成することができる実操業可能な減圧度として『-0.06MPa以下』という数値範囲を見出したものです。
この構成は刊行物1によっては示唆されておりません。
また、審判官殿は相違点1に関して周知例1、2を引用されておられます。
しかしながら、周知例1及び周知例2はいずれも『ポリカーボネート樹脂』に関するものであり『ポリオキシメチレンコポリマー樹脂』に関するものではありません。
また、周知例3、4には具体的な材料としてはポリエーテルイミド及びフッ素樹脂が示されているのみです。
ポリカーボネート樹脂は下記の反応式に示されますようにビスフェノールAとホスゲンの反応で作られます。
・・・
従いましてポリカーボネート樹脂はホスゲンの塩素が反応した塩素及び塩素含有の有機物が常に存在する樹脂であるため、アウトガスを低減するという課題があります。
この点、『ポリオキシメチレンコポリマー樹脂』は製法上樹脂自身は塩素を含んでおりませんので、樹脂自身はポリカーボネート樹脂におけるような課題を有してはおりません。
周知例1、2は『ポリカーボネート樹脂』についてアウトガスを低減するという課題があることを記載しているのであり、『ポリオキシメチレンコポリマー樹脂』に関してそのような課題があることを述べているものではありません。
また、周知例3、4はポリエーテルイミド及びフッ素樹脂からなる成形品についてのものであり、これらの周知例も『ポリオキシメチレンコポリマー樹脂』に関してアウトガスを低減するという課題があることを述べているものではありません。
従いまして、オキシメチレンコポリマー樹脂製のハードディスクドライブ用ランプにおいてアウトガスを20μg/g以下とする目的で溶融混練工程において『押出機を用い、一ヶ所以上のベントから-0.06MPa以下で減圧脱気』するという構成が刊行物1及び周知例から容易に想到し得たとすることはできないと確信致します。」

しかしながら、上記3.で検討したとおり、刊行物1には、摘示記載カ.より、脱気の具体的な条件についての記載はないものの、品質や作業環境の保持のためには不活性ガスによる置換や、一段および多段ベントで脱気することが好ましい態様であることが記載されているといえ、また、特開2003-40997号公報(以下、「周知例1」という。)及び特開2001-118223号公報(以下、「周知例2」という。)は、樹脂を押出機で溶融混練する際に、ベントで減圧脱気しつつ押出機で溶融混練することが当業者に周知の技術であることを示すためのものであり、このことはポリカーボネート樹脂に限らず、ポリオキシメチレン樹脂についてもいえることは、例えば特開2001-81281号公報(段落【0030】)、特開2000-169667号公報(段落【0059】)、特開平9-100330号公報(段落【0013】)、特開平7-252400号公報(第4頁左欄第34行?右欄第44行及び図1)に記載されているように明らかであることから、周知例1及び周知例2がポリカーボネート樹脂についてしか記載されていないことをもって、引用発明1において、一段および多段ベントで脱気する好ましい態様を採用することについての容易性が変わるものとはいえない。
さらに請求人は、「本件発明1はアウトガスを低減するという目的を達成することができる実操業可能な減圧度として『-0.06MPa以下』という数値範囲を見出したものです。」と主張しているが、本願明細書には、実施例1?8及び比較例2,4において、ベント減圧度0.07MPa、すなわち-0.07MPaで行ったものと、比較例1,3,5において、ベント減圧なし、すなわち0MPaで行ったものが記載されているのみであり、ベント減圧度が-0.06MPa近傍において、本願発明の効果にどのような影響を及ぼしているのかについては何ら実証されていないことから、本願明細書の記載から、減圧度が「-0.06MPa以下」という数値範囲に臨界的意義があるということはできない。

(2)請求人は上記意見書において、相違点2に関して、以下のとおり主張する。
「1)審判官殿は刊行物1の『適示記載イ及び記載コ』から『ハードディスクドライブ用ランプにおいてシリコーン成分等の記録媒体に影響を与える物質を排除した材料を用いる事については、当業者に周知の課題であった』と認定されておられます。
しかしながら、記載イ及び記載コには、(1) シリコーンがハードディスクドライブの磁気記録へ悪影響を与える事、(2)部品に付着するゴミ、油脂分、不揮発性溶剤、記録媒体に影響を与える物質などを排除するため、部品を溶剤で洗浄すること、については記載がありますが、アウトガス、塩素イオン及び着色剤に含まれる有害物質に関する記載はありません。
従って、上記の認定は妥当なものではないと思量致します。
2)また、審判官殿は、『ハードディスク等の精密電気製品の分野で脱気しつつ押出機で溶融混練することにより、塩素化合物等の製品に悪影響を及ぼすアウトガスを低減すること』については、周知例1(段落0002、0049、0050および0057)及び周知例2(段落0032?0038)に記載されているように、当業者に周知の技術である』と認定されておられ、『引用発明1において、塩素イオン含有量の少ない材料を用いる事は当業者が容易に想到しうる』とされ、塩素イオンの少ない材料を用いるに際に、ポリオキシメチレン樹脂ペレットの塩素含有量を『樹脂表面に付着する塩素イオン濃度が1μg/g以下とすることは単なる設計事項に過ぎない、と判断されておられます。
しかしながら、既に述べましたように、周知例1、2は『ポリカーボネート樹脂』に関するものであり、前述しましたように、樹脂自身(内部)に塩素および塩素含有化合物が存在するのに対して、ポリアセタールコポリマー樹脂は樹脂自身は製法上塩素を含んでおりません。さらに、本件発明1はポリオキシメチレンコポリマーと着色剤とを溶融混練する際の冷却水に由来する塩素イオンのペレットへの付着量を規定しているものであり、周知例1、2とは着目点及び課題自体が大きく異なっております。
3)以下に本願明細書記載の表1-1、表1-2に記載の実施例1と比較例4とを抜粋し対比しました。
本件発明1においては塩素イオン濃度を『1μg/g以下』と規定しておりますが、この塩素イオン濃度を規定する意義に関しては、実施例1と比較例4とを対比することで明らかになると思量致します。
・・・
刊行物1にはポリオキシメチレンコポリマーと着色剤とを溶融混練する際の冷却水に由来する塩素イオンのペレットへの付着量については認識がなく、また、周知例1、2は『ポリカーボネート樹脂』に関するものですから、本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点である相違点2については周知例1、2から容易に想到し得るとすることはできないことは明らかです。」

まず、請求人が「記載イ及び記載コには、(1) シリコーンがハードディスクドライブの磁気記録へ悪影響を与える事、(2)部品に付着するゴミ、油脂分、不揮発性溶剤、記録媒体に影響を与える物質などを排除するため、部品を溶剤で洗浄すること、については記載がありますが、アウトガス、塩素イオン及び着色剤に含まれる有害物質に関する記載はありません。」と主張している点についてみると、刊行物1には、樹脂材料としてポリオキシメチレン樹脂が(摘示記載ア.)、特開2000-298964号公報(以下、「周知例3」という。)には、ポリイミド、ポリカーボネート及びフッ素樹脂をブレンドした熱可塑性樹脂が(段落【0020】及び【0022】)、特開2001-195853号公報(以下、「周知例4」という。)には、ポリエーテルイミドが(段落【0016】)それぞれ記載されていることからみて、ハードディスク用ランプにおいて、塩素ガスやシリコーン成分等のディスクの磁性層への悪影響が懸念されるアウトガスが少ない材料を用いるという課題は、樹脂の種類に関係なくハードディスク用ランプの材料として求められるものであるといえる。よって、刊行物1には、アウトガス及び塩素イオンに関する記載がないものの、刊行物1にかかる「記録媒体に影響を与える物質」としてアウトガス及び塩素イオンを包含することは、上記3.で検討したとおり、当業者に周知であるといえる。
そして、ハードディスク用ランプの材料として樹脂以外の成分を含む場合、当該樹脂以外の成分が例えば塩素ガスやシリコーン成分等を多く含むと、樹脂成分の物性に関わらずディスクの磁性層への悪影響が出ることが当業者に自明であることにかんがみれば、ハードディスク用ランプの材料として求められる上記課題は、樹脂以外の成分を含む材料全体を対象とするものであることは明らかである。よって、刊行物1には、着色剤に含まれる有害物質に関する記載はないものの、ポリオキシメチレンコポリマー樹脂と本願発明1に係る着色剤に相当する成分を含む材料であるハードディスク用ランプが記載されていることから、ハードディスク用ランプを構成する原材料について上記課題が求められることは当業者に自明であるといえる。

次に、請求人が「周知例1、2は『ポリカーボネート樹脂』に関するものであり、前述しましたように、樹脂自身(内部)に塩素および塩素含有化合物が存在するのに対して、ポリアセタールコポリマー樹脂は樹脂自身は製法上塩素を含んでおりません。さらに、本件発明1はポリオキシメチレンコポリマーと着色剤とを溶融混練する際の冷却水に由来する塩素イオンのペレットへの付着量を規定しているものであり、周知例1、2とは着目点及び課題自体が大きく異なっております。」と主張している点についてみると、引用発明1は、ポリオキシメチレンコポリマー樹脂と本願発明1に係る着色剤に相当する成分を含む材料であるハードディスク用ランプに関するものであるが、先に述べたとおり、ハードディスク用ランプにおいて、塩素ガスやシリコーン成分等のディスクの磁性層への悪影響が懸念されるアウトガスが少ない材料を用いるという課題は、樹脂以外の成分を含むハードディスク用ランプの材料全体を対象とするものであることにかんがみれば、引用発明1において、ポリオキシメチレンコポリマー樹脂が製法上塩素を含んでいるか否かに関わらず、塩素イオン含有量の少ない材料を用いるという課題は、当業者が容易に想起できるものである。よって、引用発明1において、上記周知の課題にかんがみ、塩素イオン含有量の少ない材料とすることは、そもそも周知例1及び周知例2を検討するまでもなく、本願出願時において当業者が認識していた事項であるといえる。
そうであれば、引用発明1において、塩素イオン含有量を低減させる手段として、ポリオキシメチレンコポリマー樹脂以外の樹脂における周知の技術である周知例1及び周知例2を適用することは、当業者が容易に想到しうるものであるといえ、周知例1及び周知例2がポリカーボネート樹脂についてしか記載されていないことをもって、当該容易性が変わるものとはいえない。

さらに、請求人が「刊行物1にはポリオキシメチレンコポリマーと着色剤とを溶融混練する際の冷却水に由来する塩素イオンのペレットへの付着量については認識がなく」と主張している点についてみると、本願発明1は、溶融混練する際の冷却水についての規定はないので、当該主張は特許請求の範囲に基づかないものであるので採用できない。
なお、樹脂を溶融混練する際の冷却水に由来する塩素イオンのペレットへの付着量の問題及びそれを低減させる手段については、例えば国際公開2000/43436号公報(請求の範囲及び第11頁第2?6行)に記載されているように、当業者に周知の技術にすぎないものである。

(3)請求人は上記意見書において、相違点3に関して、以下のとおり主張する。
「審判官殿は、相違点3について『ハードディスクドライブ用ランプにおいてシリコーン成分等の記録媒体に影響を与える物質を排除した材料を用いる事については当業者には周知の課題であるとともに、ハードディスク用ランプのおいては、塩素ガスやシリコーン等のディスクの磁性層への悪影響が懸念されるアウトガスが少ない材料を用いる事も当業者には周知の課題である。』との認定をされておられます。
しかしながら、この認定が妥当なものではないことは上記『(2-2) 1)』において述べた通りです。
また、審判官殿は『ハードディスク等の精密電気製品の分野において、ベントで脱気しつつ押出機で溶融混練することにより、塩素化合物等の製品に悪影響を及ぼすアウトガスを低減する事については、例えば周知例1、周知例2に記載されているように、当業者に周知の技術である。そうすると引用発明1において、塩素イオン含有量の少ない材料を用いる事は当業者が容易に想到しうるものである。』と結論されております。
しかしながら、この認定が妥当なものではないことは上記『(2-2) 2)において述べた通りです。
更に審判官殿は『ハードディスクドライブ用ランプのアウトガスを「20μg/g以下』とすることについては、単なる設計事項にすぎず、また、本願明細書には、アウトガスが『20μg/g以下』を満足する実施例と『20μg/g以下』を満足しない比較例があるものの、これら実施例と比較例がハードディスクドライブ用ランプとしてどのような性能を有してしいるかについて何ら検討されていないことから、『20μg/g以下』という数値自体になんら臨界的意義があるとはいえず、よって上記相違点3に係わる効果が格別顕著なものとは認める事が出来ない。』と認定されておられます。
審判官殿のいわれる通り、本願明細書ではアウトガスについての『20μg/g』という数値の臨界的意義を示すデータは示されておりません。ハードディスクは先端技術であり当業者がどのような設計思想に基づいて実施しているのかは他の当業者にはわかりませんが、おそらく装置全体でアウトガス量をコントロールしていると推測されます。そして、その規格は各社で大きく異なると思われます。
本願の『20μg/g』という数値は本願明細書の[0003]で説明している特許文献8のシール材の実施例が3?4μg/gであったことから、シール材とランプ材の重量換算から求めた数値であり、これを満足することを目的とした発明です。」

ここで、請求人が「この認定が妥当なものではないことは上記『(2-2) 1)において述べた通りです。」と主張している点については、上記(2)で検討したとおりである。

また、請求人が「この認定が妥当なものではないことは上記『(2-2) 2)において述べた通りです。」と主張している点についてみると、周知例1及び周知例2は、ハードディスク等の精密電気製品の分野において、ベントで脱気しつつ押出機で溶融混練することにより、塩素化合物等の製品に悪影響を及ぼすアウトガスを低減することが当業者に周知の技術であることを示すためのものであり、このことはポリカーボネート樹脂に限らず、ポリオキシメチレン樹脂についてもいえることは、例えば特開2001-81281号公報(段落【0003】、【0030】及び【0047】)、特開平7-252400号公報(第4頁左欄第34行?右欄第44行及び図1)に記載されているように明らかであることから、周知例1及び周知例2がポリカーボネート樹脂についてしか記載されていないことをもって、引用発明1において、上記周知の技術を適用することについての容易性が変わるものとはいえない。

さらに、請求人が「本願の『20μg/g』という数値は本願明細書の[0003]で説明している特許文献8のシール材の実施例が3?4μg/gであったことから、シール材とランプ材の重量換算から求めた数値であり、これを満足することを目的とした発明です。」と主張しているが、当該主張によっても、アウトガスが『20μg/g以下』という数値の臨界的意義が明らかになったとはいえない。

したがって、請求人の上記(1)?(3)の主張はいずれも採用できないものである。

5.まとめ
よって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての当審において通知した平成22年10月14日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由は妥当なものであり、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、この理由により拒絶すべきものである。

よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2011-01-18 
結審通知日 2011-01-19 
審決日 2011-02-01 
出願番号 特願2006-513989(P2006-513989)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08L)
P 1 8・ 537- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井津 健太郎  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
大島 祥吾
発明の名称 ポリオキシメチレン樹脂製ハードディスクドライブ用ランプ  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 酒井 正己  

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