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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1234188
審判番号 不服2008-12817  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-21 
確定日 2011-04-06 
事件の表示 平成11年特許願第278899号「移動端末、ゲームの制御方法およびコンピュータ読み取り可能な記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月10日出願公開、特開2001- 96069〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I 手続の経緯

本願は、平成11年9月30日に出願した特許出願であって、平成19年12月26日付けで拒絶理由が通知され、それに対して平成20年2月25日付けで意見書ならびに手続補正書が提出されたものの、同年3月31日付けで拒絶査定がなされ、同年5月21日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年6月20日付けで手続補正がされたものである。
その後、当審において平成20年12月15日付けで審尋がなされ、平成21年3月13日付けで回答書が提出されている。


II 平成20年6月20日付け手続補正についての補正の却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕

平成20年6月20日付け手続補正を却下する。

〔理由〕

1.平成20年6月20日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容

本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、本件補正によって補正された(以下、「補正後の」という。)請求項1には、次のとおり記載されている。

「【請求項1】
複数のエリアをそれぞれ管轄する複数の基地局のうち、移動端末の位置が管轄エリアに含まれる基地局から発信される情報を受信可能な移動端末であって、
前記移動端末が位置するエリアを管轄する基地局から送信される当該基地局の識別情報およびゲームを進行するために必要なゲーム情報を受信する受信手段と、
前記受信手段によって受信した前記識別情報および前記ゲーム情報を記憶するための記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記識別情報と前記ゲーム情報とに応じてゲームを進行させる制御手段と、
前記制御手段によるゲームの進行に応じた画像を表示する表示手段と、
を備え、
前記受信手段は、ある時に前記移動端末が位置するエリアを管轄する基地局を第1の基地局としたときに、前記移動端末の位置が前記第1の基地局が管轄するエリア外から前記第1の基地局が管轄するエリアに変更した場合、前記第1の基地局から、前記第1の基地局の識別情報およびゲームを進行するために必要なゲーム情報を受信し、
前記記憶手段は、前記受信手段が受信した前記第1の基地局の識別情報およびゲームを進行するために必要なゲーム情報を記憶し、
前記制御手段は、前記記憶手段が記憶した前記第1の基地局の識別情報およびゲームを進行するために必要なゲーム情報に応じてゲームを進行し、
前記表示手段は、前記制御手段によるゲームの進行に応じた画像を表示し、
これにより、移動端末の現在位置に応じて、当該移動端末で実行されるゲームの進行を変化させることができる、
ことを特徴とする移動端末。」


2.本願の願書に最初に添付した明細書等の記載事項

一方、本願の願書に最初に添付した明細書または図面(以下、「当初明細書等」という。)には、発明の詳細な説明において、移動端末の受信手段の動作または機能に関して、以下の記載がある。

ア.「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この公報に記載される手法では、取得した機器の位置情報に基いて、表示画面に基地局の管轄する地域エリア毎に異なるキャラクタ画像を表示させるのみであり、ゲームとしての面白味に欠けていた。
【0005】
本発明は上記課題に着目してなされたものであり、移動端末の現在位置に応じて、当該移動端末で実行されるゲームの進行を変化させることのできる移動端末、ゲームの制御方法およびコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することである。」

イ.「【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、基地局から発信される識別情報を受信可能な移動端末であって、前記基地局が発信する識別情報を受信する受信手段と、前記受信手段で受信した識別情報を記憶手段に格納する格納手段と、操作入力に応答して実行されるゲームの進行過程において、前記格納手段により記憶手段に格納された識別情報に応じてゲームを進行させる制御手段と、前記制御手段によるゲームの進行に応じた画像を表示する表示手段と、を備える。
【0007】
本発明によれば、基地局から発信される識別情報を受信可能な移動端末において、受信手段は基地局が発信する識別情報を受信し、格納手段は受信手段で受信した識別情報を記憶手段に格納する。そして、制御手段は、操作入力に応答して実行されるゲームの進行過程において、格納手段により記憶手段に格納された識別情報に応じてゲームを進行させ、表示手段は制御手段によるゲームの進行に応じた画像を表示する。したがって、それぞれの基地局が管轄するエリア毎に移動端末で受信できる識別情報が異なるので、移動端末の現在位置に応じて、すなわち、ユーザが移動端末でゲームをしている地域に応じて、ゲーム内容を変化させることができる。」

ウ.「【0017】
この位置登録に関する携帯電話専用網3の動作の概略は以下の通りである。
各基地局4a?4fは定期的に各々に固有な基地局IDコード(識別情報)を含む制御信号を、管轄する無線エリア5a?5f内に無線送信する。携帯電話機6では、非通話時、すなわち待ち受け時に前記制御信号を受信する。そして、受信した制御信号から基地局IDコードを検出し、以前に受信した基地局IDコードと比較する。そして両者が一致しなかった場合に、在圏する無線エリアが変更になったと判断し、対応する基地局に位置登録要求を送信する。これに応じて携帯電話専用網3では、センター9に登録されている該当する携帯電話機6の位置登録情報を更新する。
【0018】
本発明では、基地局4a?4fから定期的に無線送信される制御信号に含まれる基地局IDコードを利用して、携帯電話機6で実行されるゲーム内容を制御する。

エ.「【0024】
図3は、図2のRAM71のメモリ構成を示す図である。RAM71は、例えば、IDコード記憶領域71a、ゲームデータ記憶領域71b、ワークエリア71cを有する。
【0025】
IDコード記憶領域71aは、受信した制御信号から抽出された基地局IDコード80を携帯電話機6の現在位置情報として記憶する。ゲームデータ記憶領域71bは、後述するキャラクタ制御テーブル81、アイテム制御テーブル82、シナリオ制御テーブル83など、ROM70から読み出されたゲームに関するプログラムやデータを記憶する。ワークエリア71cは、ROM70から読み出された通信機能を実現するためのプログラムやデータなどを記憶する。」

オ.「【0056】
第1の実施の形態によれば、携帯電話機6は、複数の基地局のうち、携帯電話機6が現在位置する無線エリアを管轄する基地局から定期的に無線送信されている制御信号を待ち受け時に受信する。そして受信した制御信号から基地局IDコードを抽出してIDコード記憶領域71aに格納する。そして、ゲームの進行過程において、格納した基地局IDコードに応じてゲームを進行させ、ゲームの進行に応じた画像をディスプレイ74に表示する。
【0057】
したがって、ユーザがゲームをしている地域に応じてゲーム中のシナリオ分岐や、表示されるキャラクタ画像およびアイテム画像などのゲーム内容を異ならせることができる。また、ゲーム内容を異ならせるための位置情報は、携帯電話システムにおいて携帯電話機の位置登録を行なうために基地局から定期的に送信されている基地局IDコード(識別信号)を使用している。したがって、ユーザの現在の位置情報に応じてゲーム内容を変化させることができる。
【0058】
また、位置情報として、携帯電話システムにおいて携帯電話機の位置登録を行なうために基地局から定期的に送信されている基地局IDコードを使用する構成としたことにより、以下に述べる利点をも有する。
【0059】
すなわち、通常、携帯電話機では、通話や通信時には、実行中のゲーム機能を停止させて通信機能に関する処理を実行しなければならない。そのため、着呼や発呼に応じて取得される基地局識別情報を使用した場合、ゲームの進行過程において進行を制御するためにメモリから読み出した基地局識別情報は、着呼や発呼が行われたタイミングで取得した位置情報でしかない。したがって、この位置情報はユーザが過去に通話や通信を行なった場所の位置情報でしかなかった。
【0060】
しかし、第1の実施の形態によれば、基地局IDコードを含む制御信号は基地局から定期的に送信され、携帯電話機6の待ち受け時に逐次受信される。したがって、ゲームの進行過程において、ユーザの現在の位置を示す位置情報に応じてゲーム内容を変化させることができる。また、携帯電話機6の待ち受け時に基地局IDコードを取得するので、着呼側と発呼側で通話や通信を行なわなくてもユーザの位置情報を取得できる。」

カ.「【0061】
なお、上記第1の実施の形態では、ゲームに関するプログラムやデータは予めROM70に格納されている構成としたが、基地局から任意のゲームプログラムやデータを携帯電話機にダウンロードする構成であってもよい。この場合、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)を備え、このEEPROMにダウンロードされたゲームプログラムやデータが格納される。このような構成とすれば、携帯電話機6ではゲームに関するプログラムやデータを基地局からダウンロードして使用することが可能となる。したがって、ゲームに関するプログラムやデータをソフトウェア製品として装置と独立して電子的に配布、販売することができるようになる。」

キ.「【0073】
以上、本発明を第1および第2の実施の形態に基いて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることはもちろんである。

(中略)

【0075】
また、上記第1および第2の実施の形態例では、基地局IDコード(識別情報)のみに応じてゲーム内容を異ならせる構成とした。しかし、基地局IDコードに加え、さらに他の情報を用いてゲーム内容を異ならせる構成としてもよい。例えば、上記第1あるいは第2の実施の形態例で述べた携帯電話機6や携帯型ゲーム機100が、現在時刻を計時する時刻計時機能をさらに有する場合を考える。
この場合に、基地局IDコードと、時刻計時機能により得られる現在時刻情報とに応じてゲーム中のシナリオ分岐や、表示されるキャラクタ画像およびアイテム画像などのゲーム内容を変化させる構成としてもよい。」


また、本願の当初明細書等の発明の詳細な説明以外の「図面の簡単な説明」、ならびに図面を精査しても、基地局から「ゲームプログラム」や「データ」をダウンロードすることを移動端末の位置と関連づける記載やそれを示唆する記載は何らなされていない。


3.検討・判断

特許法第17条の2第3項に規定する補正の要件である「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」における「明細書又は図面に記載した事項」とは、「当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。」(知財高裁大合議判決、平成18年(行ケ)10563号参照)から、上記の補正後の請求項1に係る補正が、これに該当するか否か、以下に検討する。


(1)本件補正後の請求項1から把握される技術的事項

上記「1.」のとおり、本件補正は、本願の請求項1に記載された「移動端末」における「受信手段」について、
「ある時に前記移動端末が位置するエリアを管轄する基地局を第1の基地局としたときに、前記移動端末の位置が前記第1の基地局が管轄するエリア外から前記第1の基地局が管轄するエリアに変更した場合、前記第1の基地局から、前記第1の基地局の識別情報およびゲームを進行するために必要なゲーム情報を受信」するという動作または機能を追加する補正事項を含むものであって、
当該補正事項により、「ゲーム情報」についても「移動端末の位置が前記第1の基地局が管轄するエリア外から前記第1の基地局が管轄するエリアに変更した」ことを契機として「受信手段」が受信するようになっている。


(2)本願の当初明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項

移動端末における受信手段の動作または機能に関して、上記ア.?キ.として摘記した記載内容からして、本願の当初明細書等の記載からは、以下a.およびb.の技術的事項を導き出すことができる。

a.「受信手段は、基地局から定期的に送信されてくる基地局IDコードを受信する」

b.「受信手段は、基地局から任意のゲームプログラムやデータをダウンロードすることができる」

ここで、「基地局IDコード」は「第1の基地局の識別情報」に相当し、「ゲームプログラムやデータ」は「ゲームを進行するために必要な情報」に相当する。

また、基地局から基地局IDコードが定期的に送信されるようになっているから、移動端末がエリアを移動したとき、当該受信手段は移動先の基地局の基地局IDコードを受信することになるのは当然である。これに対して、ゲームのプログラムやデータは、基地局が定期的に送信するものではないし、任意のゲームやプログラムをダウンロードするためには、ユーザーの任意の要求があったときにそのタイミングで送信される必要があるので、定期的な送信という方式は採用できないから、「基地局IDコード」と「任意のプログラムやデータ」とでは、受信手段が受信するタイミングやその契機は同じではないことが明らかである。さらにまた、上記摘記事項キ.における「他の情報」は、「現在時刻情報」に代表されるように、ゲーム内容を異ならせる契機を得るための情報であるから、当該「他の情報」に「ゲームのプログラムやデータ」は含まれないことも明らかである。

そうすると、上記の技術的事項ならびに相当関係からして、本願の当初明細書等には、

「受信手段は、あるときに移動端末が位置するエリアを管轄する基地局を第1の基地局としたときに、前記移動端末の位置が前記第1の基地局が管轄するエリア外から前記第1の基地局が管轄するエリアに変更した場合、前記第1の基地局から、前記第1の基地局の識別情報を受信」するという技術的事項、および、「受信手段は、基地局から任意のゲーム情報を受信することができる」という技術的事項が記載されているといえる。

してみると、本願の当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項は、「第1の基地局の識別情報」については、「移動端末の位置が前記第1の基地局が管轄するエリア外から前記第1の基地局が管轄するエリアに変更した」ことを契機として、「受信手段」が受信するようになっているが、「ゲーム情報」については、「移動端末の位置が前記第1の基地局が管轄するエリア外から前記第1の基地局が管轄するエリアに変更した」こととは無関係に、任意に「受信手段」が受信できるようになっている、と理解するのが相当である。


(3)判断

本件補正後の請求項1から把握される上記技術的事項、すなわち、

『「ゲーム情報」についても「移動端末の位置が前記第1の基地局が管轄するエリア外から前記第1の基地局が管轄するエリアに変更した」ことを契機として「受信手段」が受信する』
という技術的事項は、

本願の当初明細書の記載を総合することにより導かれる上記技術的事項、すなわち、

『「ゲーム情報」については、「移動端末の位置が前記第1の基地局が管轄するエリア外から前記第1の基地局が管轄するエリアに変更した」こととは無関係に、任意に「受信手段」が受信できるようになっている』
という技術的事項とは明らかに相違するものであるので、本願の当初明細書等の記載から自明なものではなく、本願出願当時の技術常識を踏まえても、本件補正が新たな技術的事項を導入しないものであるということはできない。

そもそも、本願の当初明細書等には、基地局から「ゲームプログラム」や「データ」をダウンロードすることにより、現在プレイしているゲームの進行や内容を変化させるという技術思想が開示されておらず、かつ、本願の当初明細書等においては、移動端末の位置が変更されたことを契機とした制御はゲームの進行や内容を変化させるためのものであるから、「ゲームプログラム」や「データ」が「ゲームを進行するために必要なゲーム情報」に相当するとしても、移動端末の位置が変更されたことを契機として当該「ゲームを進行するために必要なゲーム情報」を受信するという技術的事項は、本願の当初明細書等すべての記載を総合しても導かれることではない。

なお、請求人は平成21年3月13日付けの回答書において、本願の出願時点における実際の携帯電話による情報通信サービスの技術水準やデータ通信の技術状況について述べて、それらの技術水準や技術常識を踏まえれば、本件補正は適法なものである旨の主張をしている。

しかし、それら技術水準や技術常識を勘案しても、やはり、移動端末の位置が変更されたことを契機として「ゲームを進行するために必要なゲーム情報」を受信するという技術的事項自体は技術常識ではないし、技術常識から自明なものでもない。

したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものに該当しない。


4.むすび

以上のとおり、平成20年6月20日付けでした手続補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえないので、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

したがって、本件補正は特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


III 本願発明について

1.本願発明

平成20年6月20日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年2月25日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

「【請求項1】
基地局から発信される情報を受信可能な移動端末であって、
前記基地局から送信される当該基地局の識別情報およびゲームを進行するために必要なゲーム情報を受信する受信手段と、
前記受信手段によって受信した前記識別情報および前記ゲーム情報を記憶するための記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記識別情報と前記ゲーム情報とに応じてゲームを進行させる制御手段と、
前記制御手段によるゲームの進行に応じた画像を表示する表示手段と、
を備えることを特徴とする移動端末。」


2.引用例

(1)引用例1

原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平9-114370号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている(下線は当審で付した)。

A.「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記したようなロールプレイングゲームでは、展開する仮想的な世界が実世界と特に対応していないので、体験する疑似体験のリアリティ性に問題がある。そこで、本発明は、ナビゲーション装置における現在地を利用し、ゲーム上での移動を利用者の実際の移動として、疑似体験のリアリティ性を向上させることを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明においては、利用者の現在地を検出して現在地を含む地図を表示するナビゲーション装置に適用し、地図上に設定されたイベント発生地点に現在地が到達した時に、予め定められたシナリオに従ったイベントを実行するようにしたことを特徴としている。
【0005】
従って、利用者の現在地を上記したようなゲームの入力装置として用いることができるため、疑似体験のリアリティ性を向上させることができる。」

B.「【0006】
【発明の実施の形態】
図1に、本発明の一実施形態に係る装置の全体概略構成を示す。本装置は、車両用ナビゲーションを用いて、ロールプレイングゲームを行うように構成されている。図において、現在地検出部1は、各種センサからの信号に基づいて車両の現在地(自車位置)を検出する。地図表示部2は、現在地検出部1にて検出された自車位置に基づき、自車位置を含む地図をディスプレイ上に表示する。ゲーム部3は、前述の自車位置の情報を用いて、いわゆるロールプレイングゲームを展開する。なお、このゲームに係わるキャラクタ等は、ナビゲーション表示に代えてディスプレイ上に表示される。操作部4は、ナビゲーションに必要な操作およびゲーム操作に必要な操作信号を出力する。
【0007】
図2に、図1に示すものの具体的な構成を示す。GPSセンサ10、車輪速センサ11、角速度センサ12は、現在地を検出するに必要なセンサ信号を出力する。地図データ記憶装置13は、地図データを記憶するCD-ROM等の記憶媒体を備え、制御装置15に地図データを供給する。操作スイッチ部14は、上記した操作部4に対応するもので、ナビゲーションに必要な操作およびゲーム操作に必要な操作信号を出力する。

(中略)

【0009】
また、制御装置15は、ロールプレイングゲームを展開する演算処理を実行する。このため、現在地算出部15aにて算出された現在地が地図上に設定されたイベント発生地点に到達した等のイベント開始条件が成立したか否かを判定するイベント開始判定部15cと、予め定められたシナリオに従ったイベントを実行するイベント処理部15dとを有する。なお、このイベントの実行に伴ってスピーカ17より音声を発生させる。
【0010】
上記した制御装置15内の各部15a?15dは、それぞれの機能を実現するために示した機能ブロックであり、実際にはマイクロコンピュータ等のコンピュータ手段により実行される。なお、図2に示すGPSセンサ10、車輪速センサ11、角速度センサ12および現在地算出部15aが図1中の現在地検出部1に相当する。同様に、地図データ記憶装置13、ナビ表示制御部15bおよびディスプレイ16が地図表示部2に相当し、イベント開始判定部(後述する図3のステップ103?109、110)15c、イベント処理部(後述する図3のステップ111)15dおよびスピーカ17がゲーム部3に相当する。」

C.「【0011】
なお、上記したロールプレイングゲームを行うために、地図データ記憶装置13から供給される地図データに対応して、地図上でのイベント発生地点およびイベント発生時間が記憶されており、そのイベント発生時間において、イベント発生地点に到達した時にのみイベントの実行が行えるようになっている。次に、図3に示すフローチャートおよび図4、図5の表示画面の模式図を用いて、作動を説明する。

D.「【0012】
制御装置15は、装置が起動されると、まず現在時刻が上記したイベント発生時間(イベント開始時刻と終了時刻の間)であるか否かをチェックする(ステップ101)。イベント発生時間外であれば、上記したセンサ信号に基づき現在地を検出するとともに現在地を含む地図をディスプレイ16に表示させる処理を行う(ステップ102)。この処理による表示例を図4(a)に示す。ここで、31はディスプレイ16における表示面で、画面に表示される要素としては、道路32、自車位置33、後述する得点スコア34などがある。
【0013】
また、イベント発生時間内であれば、イベント発生地点をディスプレイ16に表示させる(ステップ103)。具体的には、図4(b)に示すように音譜のイベントマーク35をイベント発生地点に表示させる。次に、現在地がイベント発生地点の範囲内(例えば半径200m以内)にあるか否かを判定する(ステップ104)。現在地がその範囲内にあれば、その時点で、スピーカ17よりビープ音、効果音、あるいは音声などを発生させてイベント発生通知を行うとともに、図4(c)に示すように、イベント発生可マーク36をディスプレイ16に表示させる(ステップ105)。」

E.「【0023】
なお、上記実施形態では、本発明を車両用のナビゲーションに適用するものを示したが、利用者の現在地を検出できる手段、例えばGPSセンサを有して、利用者が持ち運びできる装置に適用するようにしてもよい。」

F.図2には、装置の全体的構成が示されている。

G.図3には、制御装置15の演算処理に関するフローチャートが示されている。


これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「利用者が持ち運びできる装置であって、
利用者の現在地を検出できる手段であるGPSセンサ10と、
地図上でのイベント発生地点およびイベント発生時間が記憶されており、利用者の現在地に応じてロールプレイングゲームを展開する制御装置15と、
ゲームに係わるキャラクタ等を表示するディスプレイ16と、
を備える利用者が持ち運びできる装置。」


(2)引用例2

同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平11-281389号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の記載がある(下線は当審で付した)。

H.「【0007】
最近では衛星を利用したGPS等の装置も普及し始めているが、これらの装置は価格を抑えるため、地図情報の供給用としてCD-ROMやDVD-ROMなどのライトワンスの媒体が用いられており、個人の住宅レベルのナビゲーションの実現は困難である。またその他のこの種の装置はその形状、消費電力共大きなものとなり、その形状、消費電力から携帯用装置として構成するのには難しく、製造単価も大きいので経済的な面からも実用には問題が有る。
【0008】
またこの様な建物単位、戸別レベルでの位置確認や位置案内は上記車輌を用いた業務だけでなく、銀行員、郵便局員、セールスマン等各家庭を戸口訪問する仕事でも目的の家を短時間に探し出すことは業務の効率化を考えると必要なものである。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決する位置確認案内システムを提供することを目的とする。」

I.「【0027】
なお本実施形態では、上記自動検針システムの為にメータに設置された無線機を利用した例を示すが、勿論これ以外の電柱や家屋に設置された無線システム、例えばMCAやテレターミナルなどの他の公共無線通信システム、PHSの家庭用親機や基地局又はコードレス電話の親機など各家庭に取り付けた無線機を使用することによっても本発明による位置確認案内システムが実現可能であることはいうまでもない。」

J.「【0030】
一般的に各家庭内には電気、ガス、水道等複数のメータが設置されており、よって図1の無線通信による自動検針システムが敷設された住宅地域では、数メートル間隔で無線親機5及び無線子機7が設置されていることとなる。またこれらの無線機には、上記自動検針システム用にそれぞれを識別するIDが設定されている。
【0031】
本実施形態では、この様な地域において、位置確認を行う利用者は目的地近辺の地図情報とその地図上での各無線機5及び7の位置情報を記憶している携帯端末10を用いて自己の位置の確認を行う。
【0032】
携帯端末10を持ち歩き、あるいは車載して目的地近辺へ到着したセールスマン等の利用者は、携帯端末10の操作スイッチをONにし、一定時間毎に探索データを発信させる。これを受信した無線機5、7は、自己に設定されているIDを携帯端末10に送信する。
【0033】
携帯端末10では、受信したメータのIDと記憶されている各無線機の位置情報とを比較して現在地がどのあたりか特定し、これを地図情報と共に表示して利用者に通知する。この表示は、利用者の移動に伴って変化して行くので、利用者はこれを見ながら短時間で目的地へ到達することが出来る。」

K.「【0044】
この場合には、通信機32aと同様に探索データを受信した他の全ての通信機32b、32cも自己のIDを返信してくる。携帯端末34は、各無線機32からこれらIDを受信する時、その電波の強度を測定し、その電波強度によりどの通信機32がより近いかを判別する。例えば図5の場合、携帯端末34は複数の通信機より受信したIDのうち、利用者33に最も近く、その電波強度がもっとも強い通信機32aを選び、その位置を利用者33の現在位置として表示機に表示した地図上に示す。
【0045】
図6は携帯端末34内の受信電波の電波強度の測定を説明するブロック図である。携帯端末34内の無線機23は、無線データを受信するとこれを変調して受信データ42としてCPU45に送ると共に、この受信データ42の強度を示す無線機受信信号強度表示(RSSI(Receive Signal Strength Indicator ))出力する。この信号は受信データ42やCPU45からの送信データ43とは別系統でA/D変換機44を介してデジタル数値化した後、CPU45に送られる。
【0046】
CPUはこの受信強度と受信データ42を対応づけて自己のワークメモリであるRAM内に順次記憶して行く。この様に複数の通信機32によりIDデータが返信される場合、同時に発信された各通信機のデータは、それぞれが潰し合いその電波強度を正確に測定できない場合がある。この様なことを避けるため、通信機32がIDデータを送信する場合には他の通信機32が電波を発信しないようにする必要がある。」

L.図2には、システムの全体的構成が示されている。


3.本願発明と引用発明との対比

本願発明と引用発明とを対比する。

<相当関係A>
引用発明の「利用者が持ち運びできる装置」、「地図上でのイベント発生地点およびイベント発生時間が記憶されており、ロールプレイングゲームを展開する制御装置15」、「ゲームに係わるキャラクタ等を表示するディスプレイ16」、それぞれ、本願発明の「移動端末」、「ゲーム情報に応じてゲームを進行させる制御手段」、「制御手段によるゲーム進行に応じた画像を表示する表示手段」に相当することは明らかである。

<相当関係B>
引用発明の「利用者の現在地を検出できる手段であるGPSセンサ10」と本願発明の「前記基地局から送信される当該基地局の識別情報…を受信する受信手段」とを対比すると、引用発明の「利用者の現在地を検出できる手段であるGPSセンサ10」はGPS信号等の何らかの信号を受信して現在値を検出するものであるから、本願発明の「受信手段」を備えるものに相当する。
ここで、本願発明の「前記基地局から送信される当該基地局の識別情報」とは、本願明細書の「【0007】(中略)…制御手段は、操作入力に応答して実行されるゲームの進行過程において、格納手段により記憶手段に格納された識別情報に応じてゲームを進行させ、表示手段は制御手段によるゲームの進行に応じた画像を表示する。したがって、それぞれの基地局が管轄するエリア毎に移動端末で受信できる識別情報が異なるので、移動端末の現在位置に応じて、すなわち、ユーザが移動端末でゲームをしている地域に応じて、ゲーム内容を変化させることができる。」との記載からして、移動端末の現在位置に関する情報であることは明らかである。
そうすると、引用発明の「利用者の現在地を検出できる手段であるGPSセンサ10」と本願発明の「前記基地局から送信される当該基地局の識別情報…を受信する受信手段」とは、『移動端末の現在位置に関する情報を受信する受信手段』である点で共通している。

<相当関係C>
引用発明の制御装置15は、「地図上でのイベント発生地点およびイベント発生時間」を「記憶」するものであるので、当然、図示されない記憶手段を有していることは明らかである。
また、技術常識を参酌すれば、ゲームを展開させるための演算処理等を行うということは、当該制御装置15がゲームを展開させるために必要なプログラムやデータを格納するメモリ等を有することも明らかである。
そうすると、引用発明の制御装置15は、本願発明の「ゲーム情報を記憶するための記憶手段」に相当する構成要素を含んでいる。

<相当関係D>
引用発明の「利用者の現在地に応じてロールプレイングゲームを展開する」と本願発明の「前記記憶手段に記憶された前記識別情報…に応じてゲームを進行させる」とを対比すると、引用発明の「ロールプレイングゲームを展開する」は、本願発明の「ゲームを進行させる」に相当する。
ここで、本願発明の「前記記憶手段に記憶された前記識別情報」とは、本願明細書の上記「【0007】」の記載からして、移動端末の現在位置に関する情報であることは明らかである。
そうすると、引用発明の「利用者の現在地に応じてロールプレイングゲームを展開する」と本願発明の「前記記憶手段に記憶された前記識別情報…に応じてゲームを進行させる」とは、『移動端末の現在位置に関する情報に応じてゲームを進行させる』点で共通している。


以上の相当関係からして、本願発明と引用発明とは、

「移動端末であって、
移動端末の現在位置に関する情報を受信する受信手段と、
ゲーム情報を記憶するための記憶手段と、
前記移動端末の現在位置に関する情報と前記記憶手段に記憶されたゲーム情報に応じてゲームを進行させる制御手段と、
前記制御手段によるゲームの進行に応じた画像を表示する表示手段と、
を備える移動端末。」の点で一致し、以下の相違点1?2の点で相違する。

(相違点1)
「移動端末の現在位置に関する情報」に関して、本願発明では、基地局から送信される識別情報を受信手段で受信し、受信した識別情報を記憶手段に記憶したものを用いるのに対して、引用発明では、GPSセンサ10から得た現在地の情報を用いる点。

(相違点2)
本願発明の移動端末は、基地局から送信されるゲーム情報を受信手段で受信し、受信したゲーム情報を記憶し、記憶されたゲーム情報に応じてゲームを進行する構成を採用するものであるのに対して、引用発明はそのような構成を採用していない点。


4.検討・判断

上記各相違点について検討する。

(1)相違点1について

上記H.?K.として摘記したように、引用例2には、GPSよりも携帯用装置に適したものであり、基地局から送信されるIDを無線機で受信し、受信したIDをワークメモリに記憶し、当該記憶されたIDに基いて位置情報を取得する手段が記載されている。

また、基地局から送信されるIDを受信手段で受信して移動端末の位置情報を取得する手段は、例えば、特開平10-341487号公報(【0032】?【0035】および図4等参照。)、特開平11-215559号公報(【0004】等参照。)に開示されているように、本願出願前に周知の技術にすぎない。

そうすると、引用発明も利用者が持ち運びする携帯用の装置であるから、GPSセンサ10に代えて、GPSよりも携帯用装置に適したものである引用例2に記載の『基地局から送信されるIDを無線機で受信し、受信したIDをワークメモリに記憶し、当該記憶されたIDに基いて位置情報を取得する手段』を採用し、利用者の現在地の情報を得るようにすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

してみると、引用発明において、「移動端末の現在位置に関する情報」について、「基地局から送信される識別情報を受信手段で受信し、受信した識別情報を記憶手段に記憶し、記憶手段に記憶された識別情報」とすることは、引用発明ならびに引用例2に記載された技術または周知の技術に基いて当業者が容易に想到し得ることである。


(2)相違点2について

基地局から送信されるゲームのプログラムやデータを受信手段で受信し、受信したゲームのプログラムやデータを記憶させることで、移動端末で多種類のゲームを利用可能にする技術は、拒絶査定の時に提示された文献である特開平10-271562号公報(要約や実施の形態1の記載等参照。)、特開平11-99285号公報(【0016】、【0032】の記載等参照。)、特開平11-203127号公報(【0053】の記載等参照。)に開示されているように、本願出願前に周知の技術にすぎない。

してみると、引用発明において、「基地局から送信されるゲーム情報を受信手段で受信し、受信したゲーム情報を記憶し、記憶されたゲーム情報に応じてゲームを進行する」ようになすことは、引用発明ならびに周知の技術に基いて当業者が容易に想到し得ることである。


さらに、本願発明が奏する作用効果も、引用発明、引用例2に記載された技術および当業者に周知の技術から、当業者が予測できる範囲のものである


よって、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された技術および周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


5. むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-24 
結審通知日 2010-05-25 
審決日 2010-06-07 
出願番号 特願平11-278899
審決分類 P 1 8・ 561- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宇佐田 健二植野 孝郎  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 神 悦彦
橋本 直明
発明の名称 移動端末、ゲームの制御方法およびコンピュータ読み取り可能な記録媒体  
代理人 中里 浩一  
代理人 廣瀬 隆行  

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