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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M |
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管理番号 | 1234192 |
審判番号 | 不服2007-12958 |
総通号数 | 137 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-05-07 |
確定日 | 2011-03-22 |
事件の表示 | 平成11年特許願第352537号「耐傷つき性に優れた潤滑皮膜形成用水系金属表面処理組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月 5日出願公開、特開2000-239690〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成11年12月13日(優先権主張平成10年12月25日)の出願であって、平成17年6月6日付けで拒絶理由が通知され、同年8月5日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成19年4月3日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年5月7日に審判請求がされるとともに、同年6月1日に手続補正書が提出され、同年6月12日に審判請求書の手続補正書が提出され、平成21年10月14日付けで審尋がされ、同年12月1日に回答書が提出され、平成22年2月18日付けで、平成19年6月1日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶理由が通知され、平成22年4月22日に意見書、手続補正書及び手続補足書が提出され、同年6月23日付けで拒絶理由が通知され、同年8月17日に意見書及び手続補足書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?4に係る発明は、平成22年4月22日付け手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 【請求項1】 (a)樹脂骨格中にビスフェノール骨格とジメチロールアルカン酸を用いて導入されたカルボキシル基を含有し、かつ、平均分子量が3000以上の水系ウレタン樹脂で、該樹脂合成時のイソシアネートの反応に係わる窒素元素である、ウレタンプレポリマー合成時のウレタン結合形成に係わるイソシアネート基中の窒素元素(イ)及びウレタンプレポリマー合成時のイソシアネート基とアミノ基を有する化合物中のアミノ基との反応によるウレア結合形成に係わるイソシアネート基中の窒素元素(ロ)と、アミノ基中の窒素元素(ハ)と、末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと水との反応によるウレア結合形成に係わるイソシアネート基中の窒素元素(ニ)の合計の(イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)の全窒素元素の該樹脂固形分重量に対する含有率が5?10重量%の範囲であり、該樹脂合成時のイソシアネートの反応に係わる窒素元素中のウレア結合に係わる窒素元素の比であるウレア結合に係わる窒素元素[前記(ロ)+(ハ)+(ニ)の合計窒素元素]/イソシアネートの反応に係わる窒素元素[前記(イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)の全窒素元素]が10/100?90/100の範囲であり、かつ該樹脂中のカルボキシル基の量が、該樹脂固形分当りの酸価換算で10?50である水系ウレタン樹脂と、(b)硬化剤と、(c)シリカと、(d)110?160℃の融点を有するポリオレフィンワックスとを含有し、かつ、全固形分重量(e)に対する(a)+(b)の固形分重量%が50?95%、(a)の骨格中に含まれるカルボキシル基の当量に対する(b)中の官能基の当量比が0.10?1.00、(e)に対する(c)の固形分重量%が3?40%、および(e)に対する(d)の固形分重量%が2?30%であり、耐傷つき性に優れた、架橋後のTgが40?150℃の範囲の潤滑皮膜形成用水系金属表面処理組成物。 第3 当審で通知した拒絶の理由 平成22年6月23日付けで当審で通知した拒絶理由は、「本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、本願は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。」というものであって、具体的には、「上記(イ)?(ニ)の規定は、いずれも、イソシアネートの反応において、その反応からウレタン結合が形成される際に、あるいはその反応からウレア結合が形成される際に、これらに関与する窒素元素を3種類に分け(上記(イ)、(ロ)、(ニ))、さらには、単にアミノ基中の窒素元素(上記(ハ))について、それぞれの量をみているものである」が、「原料の仕込み量から、請求項1に記載される(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を計算で求めて、これをもとに一定の数値範囲を満足するものが、本願明細書の「表-3.」で示される塗布板性能を有する水系金属表面処理組成物を構成するところの水系ウレタン樹脂と一対一の関係で対応しているということはできず、したがって、仕込み量からの計算に基づく請求項1に記載の発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。」という理由を含むものである。 第4 当審の判断 1 本願発明の課題及びこれを解決する手段について 本願発明の課題は、本願明細書の段落【0006】に記載されるように、「強加工時の耐傷つき性を有し、かつ、耐食性、塗装密着性に優れた高機能性表面処理板の水系潤滑性塗料組成物を提供すること」であり、課題を解決する手段は、同段落【0007】に記載されるように、「特定構造の水系ウレタン樹脂と硬化剤とシリカとポリオレフィンワックスとを含む水系金属表面処理組成物を用いる」ものといえるから、このうち、「特定構造の水系ウレタン樹脂」について以下に検討する。 2 特許請求の範囲の請求項1の記載について (1)「特定構造の水系ウレタン樹脂」について 特許請求の範囲の請求項1には、「特定構造の水系ウレタン樹脂」について、 「樹脂骨格中にビスフェノール骨格とジメチロールアルカン酸を用いて導入されたカルボキシル基を含有し、かつ、平均分子量が3000以上の水系ウレタン樹脂で、該樹脂合成時のイソシアネートの反応に係わる窒素元素である、ウレタンプレポリマー合成時のウレタン結合形成に係わるイソシアネート基中の窒素元素(イ)及びウレタンプレポリマー合成時のイソシアネート基とアミノ基を有する化合物中のアミノ基との反応によるウレア結合形成に係わるイソシアネート基中の窒素元素(ロ)と、アミノ基中の窒素元素(ハ)と、末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと水との反応によるウレア結合形成に係わるイソシアネート基中の窒素元素(ニ)の合計の(イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)の全窒素元素の該樹脂固形分重量に対する含有率が5?10重量%の範囲であり、該樹脂合成時のイソシアネートの反応に係わる窒素元素中のウレア結合に係わる窒素元素の比であるウレア結合に係わる窒素元素[前記(ロ)+(ハ)+(ニ)の合計窒素元素]/イソシアネートの反応に係わる窒素元素[前記(イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)の全窒素元素]が10/100?90/100の範囲であり、かつ該樹脂中のカルボキシル基の量が、該樹脂固形分当りの酸価換算で10?50である水系ウレタン樹脂」 とされているから、イソシアネート基中の窒素元素を、どのような結合形成に係わるかについて3種類に分け((イ)、(ロ)、(ニ))、さらにアミノ基中の窒素元素を分け((ハ))、これらを特定することで「水系ウレタン樹脂」の構造を特定しているといえる。 (2)(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の特定事項について 請求項1に記載された(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の特定事項について、請求人は、平成22年7月29日付け実験成績証明書(以下、単に「実験成績証明書」という。)において次の説明をしている。 この説明によれば、水系ウレタン樹脂を合成する際の主たる反応は式I?IIIbのとおりであって、「仕込んだ原料すべてが過不足なく当量的に反応し、原料すべてが消費される」から、これらの式のとおりに、設計されたとおりの樹脂が得られる、というものである。 (3)まとめ したがって、請求項1には、「仕込んだ原料すべてが過不足なく当量的に反応し、原料すべてが消費される」という前提のもとに、(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)で特定される、設計された「特定構造の水系ウレタン樹脂」が記載されているといえる。 3 発明の詳細な説明に記載された発明について (1)発明の詳細な説明に、水系ウレタン樹脂として一応記載されているのは、樹脂A?Cのみである。 すなわち、発明の詳細な説明には、発明の属する技術分野(段落【0001】)、従来技術(【段落【0002】?【0005】)、本願発明の課題(段落【0006】)、課題を解決する手段(段落【0007】)、本発明の内容(段落【0008】?【0021】)、実施例(段落【0022】?【0029】、【0031】?【0033】)、発明の効果(段落【0030】)について記載されており、例えば段落【0006】に、本願発明が、強加工時の耐傷つき性を有し、かつ、耐食性、塗装密着性に優れた高機能性表面処理板の水系潤滑性塗料組成物を提供するものであることが記載され、段落【0007】?【0021】に、本願発明がどのようなものであってどのような原料を用いるものであるのかについての説明はなされているものの、これらの段落には、本願発明の水系金属表面処理組成物を構成する主たる成分である水系ウレタン樹脂について、これがどのようにして製造され、その結果どのような構造となるのかについては、具体的に説明されていない。 そこで、実施例の記載をみるに、本願発明の水系金属表面処理組成物を構成する水系ウレタン樹脂について、段落【0031】の「表-1.1-1)」(以下、単に「表」という。)には、「A?L」で表される種々の水系ウレタン樹脂が記載され、このうち、「A、B、Cの記号で表された樹脂」(以下、単に「樹脂A」等という。)についての表中の記載のみが、一応、特許請求の範囲の請求項1に規定する要件を満たすものであり、これらの樹脂を用い、かつ他の要件をも満たした水系金属表面処理組成物が塗布板性能に優れることが、段落【0032】の「表-2.」、段落【0033】の「表-3.」に、記載されているのであるから、発明の詳細な説明には、水系ウレタン樹脂として、樹脂A?Cについてのみ、一応、記載されているといえる。 以下に、表とその説明を示す。 (2)発明の詳細な説明の記載からでは、設計された、表中に記載の樹脂A?Cは製造されていない。 すなわち、上記2(2)に示した請求人の説明について検討すると、式Iの下線を引いたNが、請求項1の(イ)の窒素元素に対応することは明らかであるので、式II?式IIIb中の□で囲われたNについて、請求項1のどの窒素元素に対応するのかについてみると、 式IIの「R-NCO」のNが、(ロ)の窒素元素に、 式IIの「R’-NH_(2)」のNが、(ハ)の窒素元素に、 式IIIaの「R-NCO」のNと式IIIbの「R’-NCO」のNが、(ニ)の窒素元素に対応することがわかる。 したがって、式I?式IIIbがすべて実際の反応状態に合致するものであれば、その結果として、(イ)?(ニ)も実際の反応と合致するものといえる。 しかしながら、式II?式IIIbの反応工程は、実験成績証明書にも記載されるように水溶媒中で行われるのであるから、式IIと式IIIa、すなわち、イソシアネートとアミンが反応するのと、イソシアネートと水が反応するのは、競争反応である。そして、「R’-NH_(2)」に相当するエチレンジアミンよりも溶媒である「H_(2)O」の方が遙かに多く存在するのであるから、式IIの反応に優先して式IIIaの反応が進むと考えられ、イソシアネートである「R-NCO」がすべて消費されてもなお、仕込んだ「R’-NH_(2)」は残存している可能性を否定できない。 しかも、上記競争反応についても、反応終了時の「R’-NH_(2)」の残存量についても、発明の詳細な説明においては何ら言及されておらず、どの程度「R’-NH_(2)」が残存するかが当業者の技術常識ともいえないから、実際の反応においては、「仕込んだ原料すべてが過不足なく当量的に反応し、原料すべてが消費される」という前提は成り立たず、発明の詳細な説明の記載からでは、設計された樹脂A?Cが製造されるとはいうことはできない。 (3)実験成績証明書によっても、設計された、表中に記載の樹脂A?Cは製造されていない。 すなわち、A?Cの樹脂等について、平成22年8月17日付け意見書において請求人は、 「ウレタン樹脂の製造方法が、原料以外に本願明細書に記載されていませんが、これは周知の製造方法が適用されることを意味しています。 提出しました実験成績証明書の各製造例は、周知の製造方法で、引用文献1(特開平10-110093)の周知の製造方法である各製造例の製造方法に準拠したものです。 ウレタン樹脂の製造方法は、引用文献1の各製造例に示しますように、原料を加熱混合して、混合物を調整し、該混合物を加熱しながら攪拌して、反応を行い、ウレタン樹脂が製造され、混合、加熱攪拌という極めて単純な操作で製造されます。このような製造方法は、当業者間での周知の技術常識です。」と説明し、実験成績証明書で製造例を挙げてきたので、これについて検討する。 ア 実験成績証明書の「2.水系ウレタン樹脂を設計するための計算手順」について ここでは、「以下、水系ウレタン樹脂Aを例にとって、樹脂設計のための計算手順を説明する。」として、 1)樹脂の分子量が30000であることと酸価が16であることから出発して、原料に用いる2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸の必要量を134gと求め、 2)水系ウレタン樹脂A中の固形分重量から、4,4-ジシクロヘキスルメタンジイソシアネートの仕込み量1867g、エチレンジアミンの仕込み量143gとし、「イソシアネートの反応に係る窒素」を7.6%と求め、 3)ビスフェノールAの仕込み量675g、1,6-ヘキサンジオールとイソフタル酸のポリエステル系縮合物の仕込み量682g、プロピオン酸の仕込み量134gからOHのモル数を9.50モルと求め、 4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートの仕込み量1867g、エチレンジアミンの仕込み量143gから「イソシアネートの反応に係る窒素」のモル数を19.0モルと求め、 ウレタン結合を形成する為に用いられる窒素を50%と求め、 「ウレア結合/窒素」を50/100と求め、 4)配合量から計算した樹脂特性値、として、 平均分子量 30000 酸価 16.0mgKOH/g 固形分濃度 35.0% イソシアネートの反応に係る窒素含有量 7.60% ウレタン結合(審決注:ウレア結合の誤記と認める)/窒素比 50/100 水系ウレタン樹脂Aの固形分中に含まれる2,2-ビス(ヒドロ キシメチル)プロピオン酸 3.83% としている。 これは、樹脂の分子量が30000であることと酸価が16であることを基にして、普通に用いられる原料を使い、その分子量等から使用量を決め、樹脂を得たとしている製造例であるから、計算で求めたものといえる。 しかしながら、これらの反応において、イソシアネートのエチレンジアミンに対する反応と水に対する反応との競争については何ら考慮されておらず、かつ、仕込んだ「R’-NH_(2)」の残存量についても何ら考慮されていないから、「仕込んだ原料すべてが過不足なく当量的に反応し、原料すべてが消費される」という前提は成り立たず、これから得られる樹脂が、設計された、表中の樹脂A、B、Cであるとすることはできない。 イ 実験成績証明書の「4.本願明細書の実施例に記載の水系ウレタン樹脂の製造方法」について ここの「<製造例1:水系ウレタン樹脂A>」は、まさに設計された樹脂Aの製法に係るものであるところ、 ○1(審決注:丸付き数字の1、以下同様) 1,6-ヘキサンジオールとイソフタル酸をモル比で4対3の割合で混合し縮合させ、末端ヒドロキシル基を有するポリエステル樹脂aを得た。エステル化反応率は、酸価とケン化価から求めて99.3%だった、 ○2 682gのポリエステル樹脂a、675gのビスフェノールA、134gの2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、800gのN-メチル-2-ピロリドンを、加熱攪拌混合し、1867gの4,4-ジシクロヘキスルメタンジイソシアネートを加え、加温攪拌し、イソシアネート基含有率5.94%のプレポリマーを製造し、トリエチルアミンを加えて中和した、 別に、エチレンジアミン143gを脱イオン水5600gに溶解し、加温した、 この溶液に、上記中和プレポリマーを滴下し、固形分濃度35%の水系ウレタン樹脂乳化液を得た、 としている。 これは、上記アに準じた製造であり、このような量で原料を仕込めば、設計された、表に記載の数値を有する樹脂が得られる、という前提のもとになされたものといえる。 しかしながら、上記アに示したように、仕込んだ「R’-NH_(2)」の残存量については何らデータが示されておらず、残存量が当業者の自明ともいえず、「エステル化反応率は、酸価とケン化価から求めて99.3%だった。」とあることから、実測しているのは酸価とケン化価のみといえる。 これらのことからすると、表中の樹脂A、B、Cの欄に記載された事項の中で、「ポリオール」欄はともかく、他の欄に記載された数字は、何ら実測されたものではなく、さらに仕込んだ「R’-NH_(2)」の残存量についてのデータのないままに計算されているから、「仕込んだ原料すべてが過不足なく当量的に反応し、原料すべてが消費される」という前提は成り立たず、したがって、これにより得られた樹脂が、設計された、表中の樹脂A、B、Cであるとすることはできない。 (4)まとめ (1)に示したように、発明の詳細な説明には、一応、表中に記載された樹脂A?Cが記載されるといえるところ、(2)、(3)に示したように、発明の詳細な説明の記載からも、実験成績証明書によっても、設計された、表中の樹脂A?Cが製造される、あるいは製造された、とすることはできない。 したがって、発明の詳細な説明には、A、B、Cと名付けられた樹脂は記載されているものの、これらの樹脂が、設計された「特定構造の水系ウレタン樹脂」であると言い切ることはできない。 4 特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるかについて 上記3に示したように、発明の詳細な説明には、設計された「特定構造の水系ウレタン樹脂」が記載されている、とはいえないから、特許請求の範囲の請求項1に特定するところの「特定構造の水系ウレタン樹脂」を含む「潤滑皮膜形成用水系金属表面処理組成物」の発明については、発明の詳細な説明に記載された発明である、ということはできない。 5 発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかについて 上記3に示したように、発明の詳細な説明には、設計された「特定構造の水系ウレタン樹脂」が記載されている、とはいえないから、特許請求の範囲の請求項1に係る「潤滑皮膜形成用水系金属表面処理組成物」の発明について、発明の詳細な説明の記載によっても、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。 6 その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかについて ウレタン樹脂の製造方法について、表中には原料以外記載されていないが、周知の製造方法が適用されること、ウレタン樹脂は、理論的には、提示した反応式にしたがって反応が進行して製造されることは、出願時の技術常識であるといえる。また、提示した反応式において、式IIと式IIIaが競争反応であることも出願時の技術常識であるといえる。 しかしながら、このような技術常識に照らしても、発明の詳細な説明には、設計された「特定構造の水系ウレタン樹脂」が記載されている、とはいえず、請求項1に記載された発明が、課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。 7 まとめ したがって、請求項1に係る発明について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しない。 第5 むすび 以上のとおりであって、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、その余のことを検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-12-27 |
結審通知日 | 2011-01-18 |
審決日 | 2011-01-31 |
出願番号 | 特願平11-352537 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C10M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山本 昌広 |
特許庁審判長 |
西川 和子 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 細井 龍史 |
発明の名称 | 耐傷つき性に優れた潤滑皮膜形成用水系金属表面処理組成物 |
代理人 | 山本 忠 |
代理人 | 山本 忠 |