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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D21H
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 D21H
管理番号 1234193
審判番号 不服2007-25436  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-18 
確定日 2011-03-22 
事件の表示 特願2001-376374「紙厚向上剤、製紙方法および紙」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月20日出願公開、特開2003-171897〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」)は、平成13年12月10日に出願されたものであって、平成18年12月11日付けで拒絶理由(最初)が通知されたのち平成19年1月30日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに同年3月13日付けで拒絶理由(最後)が通知されたのち同年4月17日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月3日付けで補正の却下の決定により、同年4月17日付けの手続補正書でした明細書についての補正は却下されるとともに同日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年9月18日に審判請求がされ、さらに同年10月15日付けで手続補正書及び同年11月19日付けで審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、これに対し、平成22年6月16日付けで審尋がされ、同年8月16日付けで回答書が提出され、さらに同年10月13日付けで審尋がされたが、請求人から何ら回答がなかったものである。

第2 平成19年10月15日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成19年10月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成19年10月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の
「下記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする紙厚向上剤。
R^(1)-A^(1)-(EO)_(m) (PO)_(n)-R^(2) ・・・(2)
(但し、式中、-A^(1)-が-O-又は-COO-であり、R^(1)は炭素数6?24のアルキル基又はアルケニル基を示し、R^(2)は炭素数18のアルキル基又はアルケニル基を示し、E はエチレン基を示し、P はプロピレン基を示し、m及びn は平均付加モル数であり、mは3?6であり、n は12?18であり、かつ、mとnとの合計は15?24である。)」

「下記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする紙厚向上剤。
R^(1)-A^(1)-(EO)_(m) (PO)_(n)-R^(2) ・・・(2)
(但し、式中、-A^(1)-が-COO-であり、R^(1)は炭素数11?17のアルキル基又はアルケニル基を示し、R^(2) は炭素数18のアルキル基又はアルケニル基を示し、E はエチレン基を示し、P はプロピレン基を示し、m及びn は平均付加モル数であり、mは3?6であり、n は12?18であり、かつ、mとnとの合計は15?24である。)」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否について
(1)新規事項の有無について
ア はじめに
補正が新規事項を含むか否かは、補正が、「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」したものか否かによって判断されるところ、その判断にあたっては、「『明細書又は図面に記載した事項』とは、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、『明細書又は図面に記載した事項の範囲内において』するものということができる。」と(知財高裁平成18年(行ケ)第10563号判決参照)判示されている。
したがって、この判示に基づき以下検討する。

上記補正は、R^(1)について、「炭素数6?24のアルキル基又はアルケニル基」を「炭素数11?17のアルキル基又はアルケニル基」(以下、「補正事項1」という。)に減縮するものであるが、平成19年1月30日付けの手続補正により、願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「本願当初明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1である「下記一般式(1)、又は(2)で表される化合物を含有することを特徴とする紙厚向上剤。
R^(1)-A^(1)-(EO)_(m) (PO)_(n)-CO-R^(2) ・・・(1)
R^(1)-A^(1)-(EO)_(m) (PO)_(n)-R^(2) ・・・(2)
(但し、式中、-A^(1)-が-O-又は-COO-であり、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ炭素数6?24のアルキル基又はアルケニル基を示し、R^(1)とR^(2)とは同一であっても異なっていてもよく、E はエチレン基を示し、P はプロピレン基を示し、m及びn は平均付加モル数であり、mとnとの合計は1?40である。)」において、
・一般式(2)で表される化合物に限定(以下、「補正事項2」という。)
・R^(2)を「炭素数18のアルキル基又はアルケニル基」に限定(以下、「補正事項3」という。)
・(EO)_(m) (PO)_(n)の平均付加モル数m 、nについて、mは3?6であり、nは12?18であり、かつ、mとnとの合計は15?24と限定(以下、「補正事項4」という。)
する補正を行っているから、これらの補正事項も併せて新規事項を含むか否か検討する。

イ 検討
(ア)補正事項1について
R^(1)に関しては、本願当初明細書の段落【0009】に、「炭素数が7?25の脂肪酸は、炭素数7?25である直鎖状及び分岐状の飽和脂肪酸、並びに炭素数7?25である直鎖状及び分岐状の不飽和脂肪酸の何れも使用できる。・・・」と記載されていることから、R^(1)が6?24のアルキル基又はアルケニル基であることが示されている。さらに段落【0009】に、「・・・これら各種の脂肪酸の中でも、炭素数が10?22の脂肪酸が好ましく、特に、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、及びオレイン酸が好ましい。これらはその一種を単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。」と記載され、実施例においても、ラウリン酸、オレイン酸を用いていることから、R^(1)が11となるラウリン酸、R^(1)が17となるステアリン酸、オレイン酸についても記載されている。
そして、補正事項1は、本願当初明細書の請求項1の「一般式(1)、又は(2)で表される化合物」における「R^(1)は炭素数6?24のアルキル基又はアルケニル基」の選択肢のうち、本願当初明細書に記載されていた炭素数11?17のものに限定したのであるから、本願当初明細書の内容に新たな技術的事項を導入していないことは明らかである。
よって、この補正事項1は新規事項ではない。

(イ)補正事項2について
補正事項2は、本願当初明細書の請求項1の「一般式(1)、又は(2)で表される化合物」の選択肢のうち、一般式(1)を削除し、一般式(2)に限定したのであるから、本願当初明細書の内容に新たな技術的事項を導入していないことは明らかである。
よって、この補正事項2も新規事項ではない。

(ウ)補正事項3について
R^(2)に関しては、本願当初明細書の段落【0008】に、「炭素数が6 ?24のアルコールは、・・・特に・・・ステアリルアルコール・・・オレイルアルコールが好ましい。」と記載され、実施例においても、ステアリルアルコール(実施例2)、オレイルアルコール(実施例1、3)と炭素数18のアルコールを用いることが用いられているから、R^(2)が「炭素数18のアルキル基又はアルケニル基」であることは本願当初明細書に記載されている。
そして、補正事項3は、本願当初明細書の請求項1の「一般式(1)、又は(2)で表される化合物」における「R^(2)は炭素数6?24のアルキル基又はアルケニル基」の選択肢のうち、本願当初明細書に記載されていた炭素数18のものに限定したのであるから、本願当初明細書の内容に新たな技術的事項を導入していないことは明らかである。
よって、この補正事項3も新規事項ではない。

(エ)補正事項4について
a mとnとの合計を15?24とした点
エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドの平均付加モル数m 、nについて、本願当初明細書の段落【0007】には、「・・・エチレンオキサイドの単位及び/又はプロピレンオキサイドの単位の合計付加数は、炭素数が6 ?24のアルコール又は炭素数が7?25の脂肪酸1モルに対して1 ?40モル、好ましくは3?30の割合で付加されることが好ましい。40モルを超えると、優れた紙厚向上効果を得られないことがある。」と記載されている。
そして、mとnとの合計について、具体的に15(実施例3)、16(実施例1)、24(実施例2)のものが示されている。
そうすると、mとnとの合計を15?24とする補正は、本願当初明細書の請求項1の「一般式(1)、又は(2)で表される化合物」における「mとnとの合計は1?40」の選択肢のうち、実施例をもとに15?24のものに限定するものであるから、本願当初明細書の内容に新たな技術的事項を導入していないことは明らかである。

b mを3?6とした点
エチレンオキサイドの平均付加モル数 m について、具体的には、3(実施例3)、4(実施例1)、6(実施例2)のものが示されている。
そうすると、mを3?6とする補正は、本願当初明細書の請求項1の「一般式(1)、又は(2)で表される化合物」における「mとnとの合計は1?40」の選択肢のうち、さらに、実施例をもとにmを3?6のものに限定するものであるから、本願当初明細書の内容に新たな技術的事項を導入していないことは明らかである。

c nを12?18とした点
プロピレンオキサイドの平均付加モル数 nについて、具体的には、12(実施例1、3)、18(実施例2)のものが示されている。
そうすると、nを12?18とする補正は、本願当初明細書の請求項1の「一般式(1)、又は(2)で表される化合物」における「mとnとの合計は1?40」の選択肢のうち、さらに、実施例をもとにnを12?18に限定するものであるから、本願当初明細書の内容に新たな技術的事項を導入していないことは明らかである。

d 小括
よって、この補正事項4も新規事項ではない。

ウ まとめ
したがって、上記補正は、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。

(2)補正の目的について
上記補正における補正事項1は、R^(1)における「炭素数6?24のアルキル基又はアルケニル基」を「炭素数11?17のアルキル基又はアルケニル基」に減縮するものである。
そうすると、上記補正は、本願補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許請求の範囲請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

ア 本願補正発明
本願補正発明は、平成19年1月30日付けの手続補正及び同年10月15日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願補正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「下記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする紙厚向上剤。
R^(1)-A^(1)-(EO)_(m) (PO)_(n)-R^(2) ・・・(2)
(但し、式中、-A^(1)-が-COO-であり、R^(1)は炭素数11?17のアルキル基又はアルケニル基を示し、R^(2) は炭素数18のアルキル基又はアルケニル基を示し、E はエチレン基を示し、P はプロピレン基を示し、m及びn は平均付加モル数であり、mは3?6であり、nは12?18であり、かつ、mとnとの合計は15?24である。)」

イ 刊行物等
・先願:特願2001-75077号
(特開2002-275792号公報)
・参考文献:特開2000-314091号公報

ウ 刊行物等の記載事項
(1)先願の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。)
・摘示事項1a:「【請求項1】下記一般式(1)で表わされる嵩高柔軟剤。
R_(1)COO(AO)_(n)R_(2) (1)
(式中、R_(1)は水素、あるいは炭素数1、2、12?22までの直鎖または分岐のアルキル基、若しくは直鎖または分岐の不飽和炭化水素基。また、R_(1)は芳香環で置換されていてもよい。AOはアルキレンオキサイド付加重合物を示し、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドから選択される少なくとも1種である。nは0から50までの整数。R_(2)は炭素数8?22までの直鎖または分岐のアルキル基、若しくは直鎖または分岐の不飽和炭化水素基。また、R_(2)は芳香環で置換されていてもよい。)
【請求項2】 請求項1記載の嵩高柔軟剤をパルプ絶乾重量当たり0.1重量%以上20重量%以下添加することを特徴とする嵩高柔軟紙。」(【特許請求の範囲】)
・摘示事項1b:「【従来の技術】近年の活字離れを反映して、急激にコミック本やペーパーバックが普及してきた。これに伴い、紙にも軽量化や柔軟性付与が求められている。ここで、紙の軽量化とは、紙の厚さは維持した上での軽量化、すなわち嵩高化(低密度化)のことを指す。環境問題が叫ばれている現在、森林資源から製造される製紙用パルプを有効に活用する上でも、紙の軽量化は避けて通れない問題である。また、柔軟性付与とは、紙の厚さを維持した上で紙の曲げこわさ、すなわち本を開いた時に自然に閉じることなく、開いた状態を充分に保つことのできる紙のしなやかさのことを指す。・・・(中略)・・・ また、最近では環境問題と高まりと古紙のリサイクル率の向上に伴って、上質紙等に古紙パルプを積極的に配合する傾向が進んでおり、機械パルプと同様、古紙パルプの配合量が増加しつつある。しかしながら、配合量が多すぎると白色度や不透明度が低下するなどの問題が発生してしまい、これらを解決する必要に迫られている。古紙を含む紙を嵩高にする方法としては、界面活性剤を用いる方法(特開2000-282398号公報等)が報告されている。
しかしながら、これらの嵩高剤や柔軟剤を実際の抄紙工程で使用しても嵩高化や柔軟化の効果が十分に発揮されないことがあり、あるいは嵩高化の効果はあるものの柔軟化の効果が不十分であった。」(段落【0002】?【0006】)
・摘示事項1c:「【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、十分な嵩高性を示し、かつ柔軟性に優れる印刷用紙を提供することである。」(段落【0007】)
・摘示事項1d:「嵩高柔軟剤の発現機構ははっきりと明らかになっていないが、嵩高柔軟剤は抄紙時にパルプ繊維に定着し、極めて親水性が高いパルプ繊維表面を疎水化して、乾燥後には単繊維同士を反発させて繊維間結合距離を増加させることで嵩高柔軟性を発現させていると考えられる。嵩高柔軟剤が効率的にパルプ繊維表面に定着するためには、極めて親水性が高いパルプ繊維と親和性が高い親水基が嵩高柔軟剤に必要である。また、極めて親水性が高いパルプ繊維表面を疎水化させるためには、かなり疎水性が高い構造を有することが必要不可欠である。以上のことから、嵩高柔軟剤は分子内に親水性基と疎水性基を同時に有する化合物、すなわち界面活性剤がその候補化合物の一つに挙げられる。
その代表的な例として、高級アルコール及び高級脂肪酸のアルキレンオキサイド付加物などのノニオン性の界面活性剤を挙げることができる。具体的には、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物として花王(株)のエマルゲン109P(商品名)、三洋化成工業(株)のエマルミン(商品名)、日本乳化剤(株)のニューコール704(商品名)等が挙げられ、高級脂肪酸のアルキレンオキサイド付加物として三洋化成工業(株)のイオネットMS-1000(商品名)、日本乳化剤(株)のニューコール170(商品名)等が挙げられる。
しかしながら、これらの界面活性剤は、高級アルコールあるいは高級脂肪酸にエチレンオキサイドを付加したものであり、他のアルキレンオキサイドに比べて価格または反応性の点で有利ではあるが、得られた化合物は原料である高級アルコール及び高級脂肪酸よりも親水性が高くなってしまう。そのため、パルプ繊維に対する親和性よりも水に対する親和性が高くなってしまい、カチオン性の定着剤等を用いてもパルプ繊維への歩留りが悪く、期待される嵩高柔軟性が発現し難くかった。
本発明者らは、嵩高柔軟剤として十分な効果を示さない高級アルコール及び高級脂肪酸のエチレンオキサイド付加物の水酸基(OH)残基をエステル化した、上述の一般式(1)に示されるような化合物が顕著な嵩高柔軟効果を示すことを見出した。一般式(1)中のR_(1)は水素、あるいは炭素数1、2、12?22の直鎖または分岐のアルキル基、若しくは不飽和の炭化水素であり、好ましくは炭素数12?22の直鎖アルキル基である。また、R_(1)は芳香環で置換されていてもよく、置換基を2種類以上混合して使用しても良い。AOはアルキレンオキサイド付加重合物を示し、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドから選択された少なくとも1種で、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドであることが好ましい。nは0から50までの整数を示す。また、2種以上のアルキレンオキサイドを使用する際の重合方式はブロック重合、ランダム重合のいずれでもよい。R_(2)は炭素数8?22の直鎖または分岐のアルキル基、若しくは不飽和の炭化水素で、好ましくは炭素数12?22の直鎖アルキル基である。また、R_(2)は芳香環で置換されていてもよい。
本発明の嵩高柔軟剤は、末端のOH残基がエステル化されているが、完全に疎水性になるわけではなく、分子中央部に存在するアルキレンオキサイド部分により、界面活性剤としての性質をある程度維持している。そのため、親水性と疎水性のバランスがより疎水性側に傾くだけに留まり、水との親和性よりもパルプ繊維への吸着が高くなり、嵩高柔軟効果が効率的に発現するものと考えられる。また、アルキレンオキサイド部分の酸素原子はアルミニウムイオンとキレーションを形成すると考えられ、そのキレート複合体はパルプ繊維と極めて強い結合力を示す。」(段落【0012】?【0016】)
・摘示事項1e:「本発明の嵩高柔軟剤の具体例として表1に示すような化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【表1】


」(段落【0018】?【0019】)
・摘示事項1f:「HLB価が高く十分な疎水性を持たない嵩高柔軟剤は繊維を疎水化することができないため目的とする嵩高柔軟効果を示さない場合がある。従って、繊維に十分な疎水性を付与するためには、HLB価が10以下であることが好ましく、6以下であることが特に好ましい。
一方、あまり疎水性が高すぎると、水に効率的に乳化することが難しく、繊維に均一に吸着できなくなり、結果的には十分な嵩高柔軟性が得られない。そこで、疎水性が高い嵩高柔軟剤を使用する際には、水に十分に乳化させるために乳化能力に優れた界面活性剤を併用して均一な乳化液を作ることが重要である。一部の嵩高柔軟剤の中には自己乳化性を有するものもあるが、疎水性が高い嵩高柔軟剤を使用する際には、乳化剤を嵩高柔軟剤に対して0.1重量%以上30重量%以下の範囲で添加することが好ましく、紙質をあまり変化させずに嵩高柔軟性にするには0.5重量%以上10重量%以下の範囲で添加することがより好ましい。」(段落【0022】?【0023】)
・摘示事項1g:「本発明の嵩高柔軟剤を含有する紙を製造するには、通常の抄紙工程において、嵩高柔軟剤をそのまま若しくは嵩高柔軟剤の乳化液をパルプスラリーに添加(いわゆる内添)すればよい。添加する場所は、パルプスラリーと均一に混合できるところであれば特に限定されるものではない。」(段落【0029】)
・摘示事項1h:「【実施例】以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例及び比較例にて製造した手抄き紙について下記の項目について測定し、評価した。結果を表2に示した。
・密度:JIS P 8118に準拠した。
・クラーク剛度:JIS P 8143に準拠した。
[実施例1]嵩高柔軟剤として、表1に示した化合物6 10.0gと、乳化剤としてエマルゲン905(花王(株)製)0.1gとを良く混合し、それを100gの水に添加して、乳化機を用いて回転数10,000rpmにて10分間攪拌を行ない嵩高柔軟剤の乳化液を調製した。
パルプ分としてLBKP(ろ水度 CSF350ml)を使用した。これに前述の嵩高柔軟剤の乳化液を対パルプ当たり1.0重量%となるように添加して紙料を調製した。そして丸型手すき機を用いて坪量60g/m^(2)となるように抄紙し、4.18kg/cm^(2)の有効プレス圧にてプレスし、環境試験機(紙面温度70℃、加熱温度105℃)を用い、1時間乾燥して手抄き紙を得た。
[実施例2]嵩高柔軟剤として、表1に示した化合物7 10.0gと、乳化剤としてエマルゲン905(花王(株)製)0.15gとを使用して嵩高柔軟剤の乳化液を調製した以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
[実施例3]嵩高柔軟剤として、表1に示した化合物9 10.0gと、乳化剤としてぺレックスOT-P(花王(株)製)0.15gとを使用して嵩高柔軟剤の乳化液を調製した以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
[実施例4]嵩高柔軟剤として、表1に示した化合物13 10.0gと、乳化剤としてカチオンDS(三洋化成(株)製)0.1gとを使用して嵩高柔軟剤の乳化液を調製した以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
[実施例5]嵩高柔軟剤として、表1に示した化合物14 10.0gと、乳化剤としてSpan#20 0.1gとを使用して嵩高柔軟剤の乳化液を調製した以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
[実施例6]嵩高柔軟剤として、表1に示した化合物15 10.0gと、乳化剤としてエマルミン50(三洋化成(株)製)0.15gとを使用して嵩高柔軟剤の乳化液を調製した以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
[実施例7]嵩高柔軟剤として、表1に示した化合物16 10.0gと、乳化剤としてぺレックスTR(花王(株)製)0.15gとを使用して嵩高柔軟剤の乳化液を調製した以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
[実施例8]嵩高柔軟剤として、表1に示した化合物17 10.0gと、乳化剤としてエマルゲンA-60(花王(株)製)0.15gとを使用して嵩高柔軟剤の乳化液を調製した以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
[実施例9]嵩高柔軟剤として、表1に示した化合物14 7.0gと化合物15 3.0gの混合物と、乳化剤としてぺレックスCS(花王(株)製)0.1gとを使用して嵩高柔軟剤の乳化液を調製した以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
[実施例10]嵩高柔軟剤として、表1に示した化合物14 3.0gと化合物15 7.0gの混合物と、乳化剤としてニューコール170(日本乳化剤(株)製)0.2gとを使用して嵩高柔軟剤の乳化液を調製した以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
[比較例1]表1に示した化合物6の代わりにエマルゲン109P(花王(株)製)10.0gを添加した以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
[比較例2]表1に示した化合物6の代わりにニューコール704(日本乳化剤(株)製)10.0gを添加した以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
[比較例3]表1に示した化合物6の代わりにイオネットMS-1000(三洋化成(株)製)10.0gを添加した以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
[比較例4]表1に示した化合物6の代わりにニューコール170(日本乳化剤(株)製)10.0gを添加した以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
[比較例5]表1に示した化合物6を添加しない以外は実施例1と同様にして手抄き紙を得た。
【表2】

表2に示す様に実施例1?10と比較例5とを比べると、嵩高柔軟剤として一般式(1)で表される化合物を用いることにより、嵩高でしかも柔軟性が向上することがわかった。また、比較例1?4の分子内に水酸基を持つ化合物は疎水性が低いため十分に紙に疎水性を付与することができなかった。その結果、嵩高柔軟効果は実施例1?10に比べて低くなった。」(段落「【0036】?【0053】)

(2)参考文献
・摘示事項2a:「・・・本発明では、グリフィンの方法に準じて各化合物のHLB を下記の式で算出する。


ただし、本発明における親水基とは、エステル化合物中の下記の基をいう。
(1)-(EO)-

(3)エーテル基を有していてもよい総炭素数3?24の3価以上のアルコールであって、1分子中の総水酸基数/総炭素数=0.4 ?1であるアルコールと脂肪酸とのエステル化合物のアシル基及び前記(2)におけるn≧2の部分をを除いた残部。
(4)カルボニル基に隣接する酸素原子。」(段落【0014】?【0018】)

エ 先願明細書に記載された発明
(ア)先願明細書には、「本発明の課題は、十分な嵩高性を示し、かつ柔軟性に優れる印刷用紙を提供する・・・」(摘示事項1c)ものであって、「下記一般式(1)で表わされる嵩高柔軟剤。
R_(1)COO(AO)_(n)R_(2) (1)
(式中、R_(1)は水素、あるいは炭素数1、2、12?22までの直鎖または分岐のアルキル基、若しくは直鎖または分岐の不飽和炭化水素基。また、R_(1)は芳香環で置換されていてもよい。AOはアルキレンオキサイド付加重合物を示し、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドから選択される少なくとも1種である。nは0から50までの整数。R_(2)は炭素数8?22までの直鎖または分岐のアルキル基、若しくは直鎖または分岐の不飽和炭化水素基。また、R_(2)は芳香環で置換されていてもよい。)」(摘示事項1a)との記載がされている。
また、先願明細書には、上記一般式(1)で表わされる嵩高柔軟剤に関し、10の実施例が示されている(摘示事項1e、1h)。ただし、その具体的化合物としては、化合物6、化合物7、化合物9、化合物13?17までの8つの化合物しか使用されておらず、R_(1)に関しては、炭素数18のステアリル基(化合物6、7、9)とオレイル基(化合物13?15)、ステアリル基とオレイル基(1:1)の混合物(化合物16、17)、R_(2)に関しては、炭素数10のデシル基(化合物6、7、9、13?15)、炭素数16のパルミチル基と炭素数18のステアリル基(1:1)の混合物(化合物16、17)、また、AOに関しては、エチレンオキサイド単独でnが20のもの(化合物6、7、14)、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド(1:1)の混合物でnが15(化合物9、13)、nが20(化合物16)、nが40(化合物17)、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド(1:9)の混合物でnが15(化合物15)のものしか示されていない。
しかしながら、先願明細書には、「嵩高柔軟剤の発現機構ははっきりと明らかになっていないが、嵩高柔軟剤は抄紙時にパルプ繊維に定着し、極めて親水性が高いパルプ繊維表面を疎水化して、乾燥後には単繊維同士を反発させて繊維間結合距離を増加させることで嵩高柔軟性を発現させていると考えられる。嵩高柔軟剤が効率的にパルプ繊維表面に定着するためには、極めて親水性が高いパルプ繊維と親和性が高い親水基が嵩高柔軟剤に必要である。また、極めて親水性が高いパルプ繊維表面を疎水化させるためには、かなり疎水性が高い構造を有することが必要不可欠である。以上のことから、嵩高柔軟剤は分子内に親水性基と疎水性基を同時に有する化合物、すなわち界面活性剤がその候補化合物の一つに挙げられる。」(摘示事項1d)と記載され、さらに「本発明者らは、嵩高柔軟剤として十分な効果を示さない高級アルコール及び高級脂肪酸のエチレンオキサイド付加物の水酸基(OH)残基をエステル化した、上述の一般式(1)に示されるような化合物が顕著な嵩高柔軟効果を示すことを見出した。・・・本発明の嵩高柔軟剤は、末端のOH残基がエステル化されているが、完全に疎水性になるわけではなく、分子中央部に存在するアルキレンオキサイド部分により、界面活性剤としての性質をある程度維持している。そのため、親水性と疎水性のバランスがより疎水性側に傾くだけに留まり、水との親和性よりもパルプ繊維への吸着が高くなり、嵩高柔軟効果が効率的に発現するものと考えられる。・・・」(摘示事項1d)と記載されている。
そして、この嵩高柔軟剤の嵩高発現機構に関する説明は、当業者の技術常識を参酌すると、信憑性を欠くものとはいえない。
そうしてみると、先願明細書の実施例と嵩高柔軟剤の嵩高発現機構の説明をもって、上記一般式(1)で表わされる嵩高柔軟剤のすべてが、当業者が上記発明の課題を解決できると認識できる範囲のものと認めることができる。

(イ)したがって、先願明細書には、
「下記一般式(1)で表わされる嵩高柔軟剤。
R_(1)COO(AO)_(n)R_(2) (1)
(式中、R_(1)は水素、あるいは炭素数1、2、12?22までの直鎖または分岐のアルキル基、若しくは直鎖または分岐の不飽和炭化水素基。また、R_(1)は芳香環で置換されていてもよい。AOはアルキレンオキサイド付加重合物を示し、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドから選択される少なくとも1種である。nは0から50までの整数。R_(2)は炭素数8?22までの直鎖または分岐のアルキル基、若しくは直鎖または分岐の不飽和炭化水素基。また、R_(2)は芳香環で置換されていてもよい。) 」
の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているといえる。

オ 検討
(ア)対比・判断
本願補正発明と先願発明とを対比する。
先願発明の「嵩高柔軟剤」は、先願明細書に、「・・・嵩高柔軟剤は抄紙時にパルプ繊維に定着し、極めて親水性が高いパルプ繊維表面を疎水化して、乾燥後には単繊維同士を反発させて繊維間結合距離を増加させることで嵩高柔軟性を発現させていると考えられる。・・・」(摘示事項1d)と記載されていることから、本願補正発明の「紙厚向上剤」に相当する。
そして、先願発明の一般式(1)において、「R_(1)は・・・アルキル基、若しくは・・・不飽和炭化水素基」、「R_(2)は・・・アルキル基、若しくは・・・不飽和炭化水素基」と特定されているところ、ここで「不飽和炭化水素基」とは、本願補正発明の「アルケニル基」のことであるから、先願発明の一般式(1)における「R_(1)」、「R_(2)」は、それぞれ本願補正発明の一般式(2)である「R^(1)」、「R^(2) 」に相当する。また、先願発明の一般式(1)において、「AOはアルキレンオキサイド付加重合物を示し、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド・・・から選択される少なくとも1種である。」と特定されているところ、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド付加重合物は、本願補正発明の一般式(2)である「(EO)_(m) (PO)_(n) 」に相当する。 してみると、先願発明の一般式(1)である「R_(1)COO(AO)_(n)R_(2)」で表される化合物は、本願補正発明の一般式(2)である「R^(1)-A^(1)-(EO)_(m) (PO)_(n)-R^(2) (但し、式中、-A^(1)-が-COO-であり・・・)」で表される化合物に相当する。
そして、先願発明は、上記「エ」で認定したとおり、実施例において使用された具体的な化合物だけではなく、上記一般式(1)で示される個々の化合物のすべてである。
そうすると、先願発明の一般式(1)において、両者は、「R^(1)」が「炭素数12?17のアルキル基又はアルケニル基」、「R^(2) 」が「炭素数18のアルキル基又はアルケニル基」、「(EO)_(m) (PO)_(n) 」が「E はエチレン基を示し、P はプロピレン基を示し、m及びn は平均付加モル数であり、mは3?6であり、nは12?18であり、かつ、mとnとの合計は15?24である。)」の範囲の化合物において一致する。
よって、両者は、「下記一般式(2)で表される化合物を含有する紙厚向上剤。
R^(1)-A^(1)-(EO)_(m) (PO)_(n)-R^(2) ・・・(2)
(但し、式中、-A^(1)-が-COO-であり、R^(1)は炭素数12?17のアルキル基又はアルケニル基を示し、R^(2) は炭素数18のアルキル基又はアルケニル基を示し、E はエチレン基を示し、P はプロピレン基を示し、m及びn は平均付加モル数であり、mは3?6であり、nは12?18であり、かつ、mとnとの合計は15?24である。)」である点で一致し、両者に発明特定事項上の相違点はない。

(イ)効果について
本願補正明細書には、実施例として、「・・・坪量50g/m^(2)の手抄き紙を得た。得られた手抄き紙を23℃、RH50%の条件下に24時間調湿した後、密度を下記方法により測定した。」(段落【0027】)と記載され、密度が、実施例1では0.462g/cm^(3)、実施例2では0.468g/cm^(3)、実施例3では0.464g/cm^(3)となっている。
一方、先願明細書の実施例には、「実施例及び比較例にて製造した手抄き紙について下記の項目について測定し、評価した。結果を表2に示した。
・密度:JIS P 8118に準拠した。・・・そして丸型手すき機を用いて坪量60g/m^(2)となるように抄紙し、4.18kg/cm^(2)の有効プレス圧にてプレスし、環境試験機(紙面温度70℃、加熱温度105℃)を用い、1時間乾燥して手抄き紙を得た。」(摘示事項1h)と記載されている。そして、化合物6を用いた実施例1、化合物7を用いた実施例2、化合物9を用いた実施例3では密度が0.44g/cm^(3)となっており、化合物13を用いた実施例4及び化合物14を用いた実施例5では0.45g/cm^(3)となっている。また、化合物15を用いた実施例6及び化合物17を用いた実施例8では0.46g/cm^(3)、化合物16を用いた実施例7では0.47g/cm^(3)となっている。
そこで、先願明細書の実施例と本願補正発明の実施例における密度を比較してみると、紙の坪量が多少異なるものの、ほぼ同程度の値となっている。 そして、先願明細書の実施例以外の一般式(1)で表わされる嵩高柔軟剤も、実施例と同じ課題を解決し得るものであるため、同様の効果を奏するものである。
してみると、本願補正発明の実施例は、先願明細書の実施例に比して格別顕著な効果を奏するものではないのであるから、本願補正発明の実施例も、先願明細書の実施例以外の一般式(1)で表わされる嵩高柔軟剤に比して格別顕著な効果を奏するものではない。
したがって、本願補正発明と先願発明とは、効果の点を参酌したとしても、別異の発明ということはできない。

(ウ)発明者及び出願人の関係
本願の発明者が先願発明の発明者と同一であるとも、また、本願出願時に、本願の出願人が先願の出願人と同一であるとも認められない。

(エ)小括
以上より、本願補正発明は、本願出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願2001-75077号の願書に最初に添付した明細書である上記先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもない。

カ 請求人の主張について
(ア)請求人は、審判請求書の手続補正書(方式)の「(C)特許法第17の2第5項」において、「(vii)具体的には、引用文献5(審決注:先願明細書に同じ。)の具体的化合物と本願発明の化合物とを全体的に対比検討すると、両化合物は以下の相違点を有している。・・・」、「(viii)引用文献5の具体的化合物と本願発明の化合物とは前記相違点を有しているから、例えば、両化合物のHLBが異なる。すなわち、引用文献5のNo.4の化合物はHLBが3.8、No.5の化合物は7.1、No.6の化合物は6.8、No.14の化合物は13.5、No.16の化合物は5.8であるのに対して、本願発明の実施例1の化合物はHLBが2.5、実施例2は2.9、実施例3は2.5である。」等の理由を挙げ、「(xi)前記したように、引用文献5には本願発明の紙厚向上剤の具体的な記載はなく、引用文献5に記載の発明と本願発明とは、異なる化学構造を有する化合物を構成要素とすることは、当業者において明らかである。」旨主張している。
(イ)たしかに、本願補正発明と、先願明細書に具体的に記載された化合物とは相違する。
しかしながら、上記「エ」において、先願発明と認定したのは、先願明細書に具体的に記載された化合物だけではなく、一般式(1)で表された個々の化合物のすべてである。
そして、先願発明の認定にあたっては、実施例と、嵩高柔軟剤の嵩高発現機構についての記載から、一般式(1)で表された化合物のすべてを、先願発明と認定したのである。
(ウ)また、HLBの値に関し、先願明細書には、「HLB価が高く十分な疎水性を持たない嵩高柔軟剤は繊維を疎水化することができないため目的とする嵩高柔軟効果を示さない場合がある。従って、繊維に十分な疎水性を付与するためには、HLB価が10以下であることが好ましく、6以下であることが特に好ましい。」(摘示事項1f)との記載がされている。
そして、請求人がHLBを計算した先願明細書の化合物以外の化合物について、HLBを参考文献(摘示事項2a)の方法によって算出すると、化合物7は10、化合物9は5.5、化合物13は5.5、化合物16は1.2、化合物17は6.6となる。
そうすると、先願明細書には、化合物のHLB値として、13.5(化合物14)?1.2(化合物6)の範囲のものが記載されているといえる。そして、本願補正発明の実施例もHLB値は、実施例1が2.5、実施例2が2.9、実施例3が2.5であるから、HLB値を理由に、本願補正発明が、先願発明から除外されるものではない。
なお、本願補正発明自体、発明特定事項として、HLBの値を規定する発明ではないのであるから、具体的数値として、HLBの値が異なったとしても、本願補正発明が、先願発明とは異なるとの理由にはならない。
(エ)よって、請求人の上記主張は、上記「エ、オ」の判断に何ら影響を及ぼすものではない。

キ 平成22年10月13日付けの審尋について
当審は、「本願補正明細書の実施例1ないし3で使用した紙厚向上剤を用い、先願明細書に記載の実施例と同じ条件(ろ水度 CSF350mlのLBKPに対し、紙厚向上剤を1.0重量%となるように添加した紙料を用い、坪量を60g/m^(2)となるように抄紙し、4.18kg/cm^(2)の有効プレス圧にてプレスし、環境試験機(紙面温度70℃、加熱温度105℃)を用い、1時間乾燥する。)で手抄き紙を作成し、さらにその密度を測定して、先願発明の実施例と比較した結果、本願補正発明の実施例のものが、先願発明の実施例に比べて、格別顕著な効果を奏するものと認められる場合、本願補正発明は、先願発明とは別異の発明であると認められる場合がある。必要であれば、この点について回答書で回答されたい。」との審尋を通知した。
しかしながら、この審尋に対し、請求人からは何ら回答がなかったのであるから、本願補正発明は、先願発明と異なるとする理由を外に見いだすことはできない。

ク まとめ
以上より、本願補正発明は、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
本件補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年1月30日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】下記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする紙厚向上剤。
R^(1)-A^(1)-(EO)_(m) (PO)_(n)-R^(2) ・・・(2)
(但し、式中、-A^(1)-が-O-又は-COO-であり、R^(1)は炭素数6?24のアルキル基又はアルケニル基を示し、R^(2)は炭素数18のアルキル基又はアルケニル基を示し、E はエチレン基を示し、P はプロピレン基を示し、m及びn は平均付加モル数であり、mは3?6であり、nは12?18であり、かつ、mとnとの合計は15?24である。)」
なお、平成19年4月17日付けの手続補正は、同年7月3日付けの補正の却下の決定により却下された。

第4 当審の判断
1 原査定の理由
原査定は、「この出願については、・・・(中略)・・・平成18年12月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものである。」とされ、その理由2は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記5.の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。」というものであり、具体的には、「請求項1?3
下記5.に係る明細書の嵩高柔軟剤についての記載を参照のこと。・・・(中略)・・・
5.特願2001-75077号(特開2002-275792号公報)」というものである。

2 先願明細書の記載及び先願明細書に記載された発明
上記「5.」の特許出願は、上記「第2 2(2)イ」に示した先願と同じであり、その先願明細書の記載事項は、上記「第2 2(2)ウ」に示したとおりである。また、先願発明は、上記「第2 2(2)エ」に記載したとおりである。

3 検討
(1)対比・判断
本願発明と先願発明とを対比すると、両者は、「第2 2(2)オ」において示したのと同様、「下記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする紙厚向上剤。
R^(1)-A^(1)-(EO)_(m) (PO)_(n)-R^(2) ・・・(2)
(但し、式中、-A^(1)-が-COO-であり、R^(1)は炭素数12?22のアルキル基又はアルケニル基を示し、R^(2) は炭素数18のアルキル基又はアルケニル基を示し、E はエチレン基を示し、P はプロピレン基を示し、m及びn は平均付加モル数であり、mは3?6であり、nは12?18であり、かつ、mとnとの合計は15?24である。)」の点で一致し、相違点はない。

(2)発明者及び出願人の関係
本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一であるとも、また、本願出願時に、その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められない。

4 まとめ
本願発明は、本願出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた上記先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許をすることができないものであるから、本願は、その余を検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-25 
結審通知日 2011-01-28 
審決日 2011-02-08 
出願番号 特願2001-376374(P2001-376374)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (D21H)
P 1 8・ 161- Z (D21H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊地 則義  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 細井 龍史
橋本 栄和
発明の名称 紙厚向上剤、製紙方法および紙  
代理人 福村 直樹  

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