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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200734393 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1234358
審判番号 不服2008-4135  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-21 
確定日 2011-03-24 
事件の表示 特願2001-167813「アミド化合物の製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年2月19日出願公開、特開2002-53543〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成13年6月4日(優先権主張 平成12年6月2日)の出願であって、平成19年6月6日付けで拒絶理由が通知され、同年8月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年1月15日付けで拒絶査定がされたところ、同年2月21日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年3月21日に手続補正書が提出され、同年5月14日に審判請求書の手続補正書が提出され、平成22年8月4日付けで審尋が通知されたところ、同年10月8日に回答書が提出されたものである。

第2 平成20年3月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定

〔補正の却下の決定の結論〕
平成20年3月21日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正
平成20年3月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の請求項1の
「一般式(2)
R^(1)COOH (2)
(式中、R^(1)は水素原子、または置換基を有していてもよい飽和または不飽和炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよいヘテロ環を示す。)
で示されるカルボン酸類およびN-メチルモルホリンを、一般式(3)
(R^(2))_(p)Y(O)_(n)X (3)
(式中、R^(2)は置換基を有していてもよいアルキル基、または置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよい鎖状もしくは環状のアルコキシ基、または置換基を有していてもよいアリールオキシ基を示し、Yは炭素原子またはイオウ原子を示す。Xは塩素原子、臭素原子または(R^(2))_(p)Y(O)_(n)O-を示す。ここでnおよびpは1または2の整数であり、Yが炭素原子の場合はn=1,p=1であり、Yがイオウ原子の場合にはn=2,p=1である。)
で示されるカルボン酸活性化剤を含む溶液に加えることにより一般式(1)
R^(1)C(O)OY(O)_(n)(R^(2))_(p) (1)
(式中、R^(1)、R^(2)、Y、nおよびpは前記と同じ意味を表わす。)
で示される混合酸無水物を得、次いで、該混合酸無水物と一般式(5)
NHR^(3)R^(4) (5)
(式中、R^(3)およびR^(4)はそれぞれ水素原子、または置換基を有していてもよい飽和または不飽和炭化水素基、置換基を有していてもよいヘテロ環、アミノ基の保護基、または以下の式で示されるR^(3)を示す:
-OR^(30)、またはNR^(30)R^(31)、ここでR^(30)は置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基、R^(31)は水素原子、または置換基を有していてもよいアリール基である。
また、R^(3)とR^(4)は分子内で結合し環状構造を有していてもよい。)
で示されるアミン類とを反応させる一般式(4)
R^(1)-C(=O)NR^(3)R^(4) (4)
(審決注:「C(=O)」は、Cの上にOが位置し、CとOが二重結合であることを表す。)
(式中、R^(1)、R^(3)およびR^(4)は前記と同じ意味を表わす。)
で示されるアミド化合物の製造法。」を、
「一般式(2)
R^(1)COOH (2)
(式中、R^(1)は水素原子、または置換基を有していてもよい飽和または不飽和炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよいヘテロ環を示す。)
で示されるカルボン酸類および該カルボン酸類に対して0.95?1.05モル倍のN-メチルモルホリンを、一般式(3)
(R^(2))_(p)Y(O)_(n)X (3)
(式中、R^(2)は置換基を有していてもよいアルキル基、または置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよい鎖状もしくは環状のアルコキシ基、または置換基を有していてもよいアリールオキシ基を示し、Yは炭素原子またはイオウ原子を示す。Xは塩素原子、臭素原子または(R^(2))_(p)Y(O)_(n)O-を示す。ここでnおよびpは1または2の整数であり、Yが炭素原子の場合はn=1,p=1であり、Yがイオウ原子の場合にはn=2,p=1である。)
で示されるカルボン酸活性化剤を含む溶液に加えることにより一般式(1)
R^(1)C(O)OY(O)_(n)(R^(2))_(p) (1)
(式中、R^(1)、R^(2)、Y、nおよびpは前記と同じ意味を表わす。)
で示される混合酸無水物を得、次いで、該混合酸無水物と一般式(5)
NHR^(3)R^(4) (5)
(式中、R^(3)およびR^(4)はそれぞれ水素原子、または置換基を有していてもよい飽和または不飽和炭化水素基、置換基を有していてもよいヘテロ環、アミノ基の保護基、または以下の式で示されるR^(3)を示す:
-OR^(30)、またはNR^(30)R^(31)、ここでR^(30)は置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基、R^(31)は水素原子、または置換基を有していてもよいアリール基である。
また、R^(3)とR^(4)は分子内で結合し環状構造を有していてもよい。)
で示されるアミン類とを反応させる一般式(4)
R^(1)-C(=O)NR^(3)R^(4) (4)
(式中、 R^(1)、R^(3)およびR^(4)は前記と同じ意味を表わす。)
で示されるアミド化合物の製造法。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
請求項1についての補正は、「N-メチルモルホリン」の使用量を、「該カルボン酸類に対して0.95?1.05モル倍」と限定するものであり、該補正は、願書に最初に添付された明細書(段落【0018】)の記載からみて新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。
また、該補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもので、特許請求の範囲を減縮するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討すると、当審は、以下の理由A及びBにより、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであると判断する。

(2-1)理由A
ア 引用刊行物
(ア)米国特許第3264281号明細書(原査定における引用文献2。以下、「刊行物1」という。)
(イ)米国特許第3640991号明細書(原査定における引用文献3。以下、「刊行物2」という。)

イ 刊行物に記載された事項
(ア)この出願の優先日前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている(当審による仮訳)。

1a「カルボン酸と第3級アミンの塩をクロロギ酸低級アルキルと反応させてカルボン酸-炭酸無水物を生成し、この無水物をアンモニア、第1級アミン及び第2級アミンからなる群の一つと反応させて、当該カルボン酸のアミドを製造する方法において、不活性溶媒に溶解させた当該塩の溶液を不活性溶媒に溶解させた当該クロロギ酸エステルの溶液に徐々に添加することによって当該塩を当該クロロギ酸エステルと反応させることにより、反応期間の大部分の間、過剰量のクロロギ酸エステルを確実に存在させ、当該カルボン酸の対称酸無水物の形成を抑制させることを含む改良法。」(請求項9)

1b「一般に“混合酸無水物”法と呼ばれる、よく知られたアミド合成方法では、通常、次のように処理が行われる。すなわち、アミドの生成に用いるカルボン酸をトリエチルアミンなどの第3級アミンと接触させて、カルボン酸-三級アミン塩を合成する。合成された塩をテトラヒドロフランなどの溶媒に溶解させて容器に入れる。この塩溶液を攪拌及び冷却しながら、不活性溶媒に溶解させたクロロギ酸アルキル(通常、クロロギ酸エチル)を滴下する。この反応は、混合酸無水物、すなわち、カルボン酸-炭酸無水物を生成する。次に、選択したアミド化試薬(アンモニア又は第1若しくは2級アミン)を反応系に添加すると、カルボン酸に対応するアミドが生成される。この手法は、次の式で表される。

[上記の式及びこれ以降に示す式で、Rは、使用される有機酸の非カルボキシル基部分を表す。例えば、オレイン酸を使用する工程の場合、Rは、基CH_(3)-(CH_(2))_(7)-CH=CH-(CH_(2))_(7)-である。]
この既知の工程において、カルボン酸-三級アミン塩の全量にクロロギ酸エステルをゆっくり添加する処理は、不変である。しかし、この手法(あとで言及する際の便宜のため「直接添加」と呼ぶこととする)には、混合酸無水物が生成される反応の大部分の期間中、反応混合物中にカルボン酸-三級アミン塩が過剰に存在するという影響がある。このような状況は、望ましくない副生成物の生成につながり、光学活性化合物の場合は、ラセミ化を引き起こすため、実際に不都合が生じることが判明した。」(1欄20?69行)

1c「本発明による処理では、反応期間の大部分の間、過剰量のクロロギ酸エステルが存在するような条件下で、塩とクロロギ酸エステルの反応が実施される。本発明の工程は、通常、次のようにして実施される。すなわち、ある量のクロロギ酸エステルを用意し、そこへカルボン酸塩をゆっくり添加する。すると、塩が反応系に添加されるたびに、添加された塩が反応して混合酸無水物が生成される。したがって、反応期間の大部分の間、未反応のクロロギ酸エステルの残滓が、過剰に存在することになる。本発明の手法(言及する際の便宜のため「逆添加」と呼ぶこととする)には、主に次の利点がある。
(1)目的の最終生成物「アミド」の収率が向上する。
(2)副生成物の混入が少ないため、最終生成物の分離効率が高い。
(3)光学活性化合物の場合、ラセミ化が抑制されるため、出発物質の光学活性(例えば、光学活性αアミノ酸の光学活性)は基本的にそのまま保持される。
本発明の工程によって達成された新しい結果は、次のようなメカニズムに基づいていると考えられる。既知の直接添加方式では、反応系内に塩が過剰に存在するため、反応系に存在する混合酸無水物と塩の反応により、副生成物として対称酸無水物が生成される。このメカニズムは、次の式で表すことができる。
(注:式は省略)
このような反応は、目的の反応と競合するため、得ようとしている最終生成物の収率が減少する。一方、本発明の工程では、反応系内には基本的に未反応の塩が存在しないため、対称酸無水物の生成は発生しない。」(1欄70行?2欄47行)

1d「本発明は汎用性が高く、あらゆる種類のカルボン酸からアミドを合成するために使用できる。例えば、カルボン酸として、飽和化合物、不飽和化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、あるいは複素環化合物などを使用できる。」(2欄60?63行)

1e「本発明の工程は一般応用性の高いものであるが、長鎖ヒドロキシ脂肪酸への応用には特に有効である。これは、従来の手法によるこのような酸からのアミドの合成では、一般に、ヒドロキシ基の立体効果や干渉が原因となって満足できる結果が得られないためである。・・・
本発明の工程はペプチドの合成に応用できるが、このような化合物の合成では、カルボン酸は任意のアミノ酸でよく、例えば、次に挙げるどの天然αアミノ酸でもかまわない。グリシン、アラニン、・・・。」(3欄7?39行)

1f「本発明の工程を適用する際には、まず、選択したカルボン酸から第3級アミンを含む塩を生成する。それには、当技術分野で周知のように、酸と第3級アミンを混合するだけでよい。後者の反応剤としては、一般に、トリエチルアミンが好まれる。しかし、第3級アミンの性質は反応に重大な影響を及ぼさないため、三置換窒素基以外の、反応サイトを持たない第3級アミンであれば、任意の第3級アミンを使用できる。代表的な代替反応剤としては、トリイソプロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ピリジン、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジンなどがある。」(4欄1?11行)

1g「実施例I
N-t-ブチル-12-ヒドロキシ-cis-9-オクタデセンアミド

(A)逆添加(本発明による):クロロギ酸エチル(1.05ml、0.011モル)を50mlのTHFに溶解させた。
12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸(3.3g、0.011モル)とトリエチルアミン(1.53ml、0.011モル)を50mlのTHFに溶解させた。
クロロギ酸エチルの溶液を反応槽に入れ、これを0℃に保ち、攪拌しながら、カルボン酸-トリエチルアミン塩の溶液を約15分かけてゆっくり添加した。塩溶液の添加完了後、反応混合物を数分間攪拌した後、t-ブチルアミン(0.011モル)を添加し、混合物を室温で一晩放置した。溶媒と過剰なt-ブチルアミンを真空下で蒸発させて除去し、残留物をエーテルに溶解させた。エーテル溶液を順に、低濃度HCl、1M Na_(2)CO_(3)、次いで水を用いて洗った後、MgSO_(4)上で乾燥させて溶媒を蒸発させた。生成物N-t-ブチル-12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセンアミドは、98.5%の収率で得られた。
(B)直接添加(既知の反応系):カルボン酸-トリエチルアミン塩の溶液を反応槽に入れ、そこへクロロギ酸エチルの溶液を、反応混合物を0℃に保ちながら、15分間かけてゆっくりと添加したほかは、(A)で説明した工程を繰り返した。この場合のアミドの収率は88%であった。」(5欄70行?6欄25行)

1h「実施例VII
エチル N-ホルミル-L-フェニルアラニルグリシナート

合成の出発物質は、光学活性化合物N-ホルミル-L-フェニルアラニンである。[α]_(D)^(25)+69.5°(c.4.2、エタノール)。
クロロギ酸エチル0.95mlを25mlのTHFに溶解した溶液(-6℃に保ち、攪拌)に、出発物質1.94g(0.01モル)とトリエチルアミン1.4ml(0.01モル)を25mlのTHFに溶解した溶液を約15分かけて添加した。30分後、グリシンエチル塩酸塩(1.4g、0.01モル)とトリエチルアミン(1.4ml、0.01モル)を30mlの塩化メチレンに溶解した溶液を添加し、反応系を室温で1.5時間攪拌した。ろ液のろ過及び蒸発によって得られた残留物を塩化メチレンに溶解させ、1N塩酸、1M重炭酸ナトリウム、次いで水で洗った後、MgSO_(4)上で乾燥させ、真空内で蒸発させて79.5%の白い固形物を得た。これを、塩化メチレン-四塩化炭素から再結晶化したところ、生成物であるエチル N-ホルミル-L-フェニルアラニルグリシナートが、収率39.7%、融点127?127.5℃で得られた。[α]_(D)^(25)+1.8°(c.2.2、エタノール)
別の実施例では、クロロギ酸エチルを2倍多く使用した。また、グリシンエチル塩酸塩の代わりに、三倍過剰のグリシンエチルを使用した。この場合は、融点128?129℃の細かい白色針状結晶の形で0.54gの生成物が得られた。[α]_(D)^(25)+2.6°(c. 2.2、エタノール)。
光学活性を維持することが認められている既知のカルボジイミド法によって合成された同じ化合物の基準試料は、融点128?129℃、[α]_(D)^(25)+2.7°である。
従来の直接添加法をN-ホルミル-L-フェニルアラニンに応用すると、完全なラセミ化が発生すると報告されている(・・・)ことは興味深い。言い換えると、生成物は、ここで説明した逆添加によって生成された生成物と同じ組成を持つが、光学的に非活性である。」(8欄32行?9欄4行)

(イ)この出願の優先日前に頒布された刊行物2には、以下の事項が記載されている(当審による仮訳)。

2a「1.アミノ封鎖α-アミノ酸又はα-アミノ酸のペプチド、ここで封鎖基はベンジルオキシカルボニル、第3ブチルオキシカルボニル、トリフェニルメチル、トリフルオロアセチル、又はフタトイルであり、その他の反応基はブロックされている、を、第3級アミンの存在下、約0.5秒?約15分間、約-5℃?約-20℃でクロロギ酸アルキルエステルと反応させて混合酸無水物を生成し、その後この無水物を遊離アミノ基及び保護されたC-末端カルボキシル基を有するα-アミノ酸またはペプチドと反応させて、ペプチドを生成する、混合酸無水物法による天然に存在するα-アミノ酸のペプチドの製造法において、無水物合成を、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、N,N-ジメチルアセトアミド、酢酸エチル、ジオキソラン、リン酸トリエチル、及び5,5-ジメチルジオキソランからなる群から選択された溶媒の存在下で、第1級クロロギ酸低級アルキルエステル又は第2級クロロギ酸低級アルキルエステルと、N-メチルモルホリン及びN,N’-ジメチルピペラジンからなる群から選択された1?約2当量の第3級アミンとを反応させることにより、実施することを含む改良法。」(請求項1)

2b「混合酸無水物法によるペプチド合成に対する改良法を記載する。その改良とは、窒素に結合する1つ以上のメチル基、及び窒素のβ位に結合する1つの電気陰性基を有する特定のアミンを使用することである。アミンは最大150%まで過剰に使用される場合があり、ペプチドが合成される際のペプチド生成に関わる成分の立体異性体のラセミ化は無視できる程度である。」(1欄15?22行)

2c「混合酸無水物法を使用したペプチドの合成は確立されており有効なものである。この合成方法のレビューは、・・・1962に示されている。
原則的にこの方法は以下の2つのステップで構成されている。(1)第3級アミン塩基の存在下で行われるα-アシルアミノ酸又はα-アシルアミノペプチドと、アルキルクロロギ酸エステルとの反応により、混合酸無水物を生成する、(2)ペプチドを生成するために、生成した混合酸無水物と、遊離アミノ基を有するアミノ酸誘導体又はペプチド誘導体を反応させる。」(1欄40?52行)

2d「本発明は、特定の第3級アミンを使用する場合:(すなわちアミノ窒素に結合する1つ以上のメチル基、及びアミノ基のβ位に結合する電気陰性基を有する第3級アミン)、それらが過剰に使用されることができ(150%以下の過剰が好ましい)、優れた変換により、またラセミ化することなく、方法が急速に進行するという驚くべき発見に基づいている。こうした特定のアミンの例として、N-メチルモルホリンなどの電気陰性基が周期系の第6族の原子であるアミン、又はN,N’-ジメチルピペラジンのような周期系の第5族の原子を有するアミンがあげられる。」(2欄48?59行)

2e「実施例1
ベンジルオキシカルボニルグリシル-L-フェニルアラニルグリシンエチルエステルの合成
-15℃から室温へ
Z・Gly・Phe・OH + H・Gly・OEt → Z・Gly・Phe・Gly・OEt
M.A.
反応容器にカルボベンゾキシグリシル-L-フェニルアラニン1.78g(0.0050mol)を加え、テトラヒドロフラン25mlを添加することにより、混合酸無水物を調製する。溶液を撹拌し、内容物の温度を-15℃まで下げる。この溶液にN-メチルモルホリン1.01g(0.010mol)を加え、その後クロロギ酸イソブチル0.67ml(0.0050mol)を添加する。12分後にグリシンエチル0.53g(0.0050mol)を添加し、その後、これらの物質を室温まで温めた。生成物は、これらの物質に水を加えることで分離し生成物を集めることにより、またはその代わりに減圧下でほぼすべてのテトラヒドロフランを除去し、酢酸エチル(又はその他の適切な溶媒)に残渣を溶解することにより分離する。生成物を中和洗浄が得られるまで適切な試薬で洗浄する。溶媒の蒸発によりトリペプチド2.15gが得られる。2%アルコール溶液からの再結晶化により純L-トリペプチド2.06g(93.2%)が得られ、DL-異性体は得られない。実験を再度行うと、93.4%収率の純L-異性体が得られ、DL異性体は得られない。」(8欄1?26行)

2f「実施例7
この例は、本発明の特定のアミン以外の第3級アミンを使用する場合、1:1の当量でさえラセミ化が起こることを示す。
100mlのフラスコのカルボベンゾキシグリシル-L-フェニルアラニン1.78g(0.005mol)に、トリエチルアミン0.70ml(0.005mol)を含むテトラヒドロフラン25mlを加える。溶液を機械的に撹拌し、-15℃まで冷却する。その後、冷却した溶液にクロロギ酸イソブチル0.70ml(0.00525mol)を加える。12分後、グリシンエチル0.54g(0.00525mol)を加え、室温になるまで混合液を撹拌する。減圧下でほぼすべてのテトラヒドロフランを除去することにより粗生成物を分離する。
上記の粗生成物を酢酸エチル75mlで溶解し、その溶液を5%重炭酸ナトリウム溶液、水、1N塩酸、水で連続的に洗浄する。洗浄した酢酸エチル溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥する。乾燥した溶液の蒸発により、結晶トリペプチドを得る。エタノールからのこの物質の再結晶により(1部の生成物に対し、50部の溶媒)、純L-異性体1.86g(84.5%)を得る。DL-異性体約181mg(8.2%)を分離した。同じ実験によりL-異性体79%とDL-異性体7.2%が得られる。」(9欄4?31行)

ウ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「カルボン酸と第3級アミンの塩をクロロギ酸低級アルキルと反応させてカルボン酸-炭酸無水物を生成し、この無水物をアンモニア、第1級アミン及び第2級アミンからなる群の一つと反応させて、当該カルボン酸のアミドを製造する方法において、不活性溶媒に溶解させた当該塩の溶液を不活性溶媒に溶解させた当該クロロギ酸エステルの溶液に徐々に添加することによって当該塩を当該クロロギ酸エステルと反応させる」方法(摘示1a)が記載されており、この「当該塩の溶液を・・・当該クロロギ酸エステルの溶液に徐々に添加する」方法は、従来の「直接添加」法(すなわち、「カルボン酸-三級アミン塩の全量にクロロギ酸エステルをゆっくり添加する処理」法)(摘示1b)に対し、添加順が逆の「逆添加」法(摘示1c)である。
そして、「カルボン酸」としては、「飽和化合物、不飽和化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、あるいは複素環化合物など」の「あらゆる種類のカルボン酸」を使用でき(摘示1d)、ペプチドを合成する場合は、「天然αアミノ酸」でも良いことが記載されている(摘示1e)ところ、例えば、実施例Iとして、「クロロギ酸エチル(・・・0.011モル)を・・・THFに溶解させた。12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸(・・・0.011モル)とトリエチルアミン(・・・0.011モル)を・・・THFに溶解させた。
クロロギ酸エチルの溶液を反応槽に入れ、これを0℃に保ち、攪拌しながら、カルボン酸-トリエチルアミン塩の溶液を約15分かけてゆっくり添加した。塩溶液の添加完了後、反応混合物を数分間攪拌した後、t-ブチルアミン(0.011モル)を添加し、混合物を室温で一晩放置した。・・・生成物N-t-ブチル-12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセンアミドは、98.5%の収率で得られた」(摘示1g)と記載されており、カルボン酸として「12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸」、第3級アミンとして「トリエチルアミン」、クロロギ酸低級アルキルエステルとして「クロロギ酸エチル」、アミドを製造するために用いる第1級アミンとして「t-ブチルアミン」を用いる方法が記載されている。
また、実施例VIIとして、「合成の出発物質は、光学活性化合物N-ホルミル-L-フェニルアラニンである。・・・クロロギ酸エチル・・・を・・・THFに溶解した溶液(-6℃に保ち、攪拌)に、出発物質・・・(0.01モル)とトリエチルアミン・・・(0.01モル)を・・・THFに溶解した溶液を約15分かけて添加した。30分後、グリシンエチル塩酸塩(・・・0.01モル)とトリエチルアミン(1.4ml、0.01モル)を30mlの塩化メチレンに溶解した溶液を添加し、反応系を室温で1.5時間攪拌した。・・・79.5%の白い固形物を得た。これを、塩化メチレン-四塩化炭素から再結晶化したところ、生成物であるエチル N-ホルミル-L-フェニルアラニルグリシナートが、収率39.7%、融点127?127.5℃で得られた」(摘示1h)と記載されており、カルボン酸として「光学活性化合物N-ホルミル-L-フェニルアラニン」、第3級アミンとして「トリエチルアミン」、クロロギ酸低級アルキルエステルとして「クロロギ酸エチル」、アミドを製造するために用いる第1級アミンとして「グリシンエチル塩酸塩」を用いる方法が記載されている。
実施例I及び実施例VIIのいずれにおいても、第3級アミンであるトリエチルアミンは、各カルボン酸に対して等モル、すなわち、1.00モル倍で使用されている。

そうすると、刊行物1には、
「不活性溶媒に溶解させた12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸又は光学活性化合物N-ホルミル-L-フェニルアラニン等のカルボン酸と、該カルボン酸に対して1.00モル倍のトリエチルアミン等の第3級アミンの塩の溶液を、不活性溶媒に溶解させたクロロギ酸エチル等のクロロギ酸低級アルキルの溶液に徐々に添加することにより、カルボン酸-炭酸無水物を生成し、この無水物を、t-ブチルアミン又はグリシンエチル塩酸塩等の第1級アミンと反応させて、N-t-ブチル-12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセンアミド又はエチル N-ホルミル-L-フェニルアラニルグリシナート等の当該カルボン酸のアミドを製造する方法。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているということができる。

エ 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸」は、本願補正発明の「一般式(2) R^(1)COOH」において、R^(1)が「置換基を有していてもよい・・・不飽和炭化水素基」である化合物に当たり、「光学活性化合物N-ホルミル-L-フェニルアラニン」は、本願補正発明の「一般式(2) R^(1)COOH」において、R^(1)が「置換基を有していてもよい飽和・・・炭化水素基」である化合物に当たるから、引用発明1の「12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸又は光学活性化合物N-ホルミル-L-フェニルアラニン等のカルボン酸」は、本願補正発明の「一般式(2) R^(1)COOH(・・(略)・・)で示されるカルボン酸類」に相当する。
また、引用発明1の「トリエチルアミン等の第3級アミン」と、本願補正発明の「N-メチルモルホリン」は共に、「第3級アミン」(摘示1d、摘示2c参照)であり、両発明の第3級アミンのカルボン酸に対するモル比は、「1.00モル倍」において重複する。
ところで、引用発明1は、カルボン酸と第3級アミンが「不活性溶媒に溶解させた・・・塩の溶液」の形態になっているが、刊行物1に、「選択したカルボン酸から第3級アミンを含む塩を生成する。それには、当技術分野で周知のように、酸と第3級アミンを混合するだけでよい。」(摘示1f)と記載されているように、「塩」とは、溶液中に、カルボン酸と第3級アミンとが存在すればよいものであるから、「カルボン酸と第3級アミンの溶液」であるということができ、他方、本願補正発明の「カルボン酸および・・・N-メチルモルホリン」も、本件補正後の明細書の段落【0019】の記載からみて、「カルボン酸類および・・・N-メチルモルホリン」を「含む溶液」を包含するものであり、「カルボン酸と第3級アミンの溶液」であるということができる。
次に、引用発明1の「クロロギ酸エチル」は、本件補正後の明細書の段落【0048】(実施例13)で用いられている「塩化炭酸エチル」と同一物質であり、本願補正発明の「一般式(3) (R^(2))_(p)Y(O)_(n)X」において、R^(2)がアルコキシ基(エトキシ基)、Yが炭素原子で、n=1,p=1、Xが塩素原子である化合物に当たるので、引用発明1の「不活性溶媒に溶解させたクロロギ酸エチル等のクロロギ酸低級アルキルの溶液に徐々に添加することにより、」は、本願補正発明の「一般式(3) (R^(2))_(p)Y(O)_(n)X (3)(・・(略)・・)で示されるカルボン酸活性化剤を含む溶液に加えることにより」に相当する。
さらに、引用発明1の「カルボン酸-炭酸無水物」は、摘示1bの式からみて、カルボン酸由来の部分とクロロギ酸低級アルキル由来の炭酸部分との「混合酸無水物」であるといえるところ、本願補正発明の「一般式(1) R^(1)C(O)OY(O)_(n)(R^(2))_(p)・・・で示される混合酸無水物」は、その構造から明らかなように、カルボン酸類由来の「R^(1)」を含む部分と、カルボン酸活性化剤由来の「(R^(2))_(p)」を含む部分の「混合酸無水物」であるから、上記したように、引用発明1と本願補正発明とで原料となるカルボン酸類及びカルボン酸活性化剤に差異がない以上、引用発明1の「カルボン酸-炭酸無水物」も、本願補正発明の「一般式(1) R^(1)C(O)OY(O)_(n)(R^(2))_(p) (1)
(式中、R^(1)、R^(2)、Y、nおよびpは前記と同じ意味を表わす。)で示される混合酸無水物」に相当するといえる。
また、引用発明1の「t-ブチルアミン又はグリシンエチル塩酸塩等の第1級アミン」は、本願補正発明の「一般式(5) NHR^(3)R^(4)」において、「R^(3)およびR^(4)」が、「水素原子」及び「置換基を有していてもよい飽和・・・炭化水素基」であるものに相当する。なお、「グリシンエチル塩酸塩」は、第1級アミンの塩酸塩の形態となっており、摘示1gでは、グリシンエチル塩酸塩を添加する際、これと等モルのトリエチルアミンを併せて添加しているが、本件補正後の明細書の段落【0023】に、「アミン類は塩酸塩・・・であってもよい。その場合は反応系中でフリー化のために有機アミン類と当量以上の塩基を使用する。」と記載されているので、本願補正発明の「一般式(5) NHR^(3)R^(4)で示されるアミン類」には、アミンの塩酸塩を包含するものである。
そうすると、引用発明1の「この無水物を、t-ブチルアミン又はグリシンエチル塩酸塩等の第1級アミンと反応させて、」は、本願補正発明の「該混合酸無水物と一般式(5)
NHR^(3)R^(4) (5)(・・(略)・・)で示されるアミン類とを反応させる」に相当する。
最後に、本願補正発明の「一般式(4)R^(1)-C(=O)NR^(3)R^(4) (式中、R^(1)、R^(3)およびR^(4)は前記と同じ意味を表わす。)」における「R^(1)、R^(3)およびR^(4)は前記と同じ意味」とは、一般式(2)及び一般式(5)の「R^(1)」、「R^(3)およびR^(4)」と同じ意味であることを意味するところ、上記したように、引用発明1と本願補正発明とで一般式(2)及び一般式(5)の「R^(1)」、「R^(3)およびR^(4)」については差異がないから、引用発明1の「N-t-ブチル-12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセンアミド又はエチルN-ホルミル-L-フェニルアラニルグリシナート等の当該カルボン酸のアミド」も、本願補正発明の「一般式(4)R^(1)-C(=O)NR^(3)R^(4) (4)(式中、R^(1)、R^(3)およびR^(4)は前記と同じ意味を表わす。)」に相当するといえる。よって、引用発明1の「N-t-ブチル-12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセンアミド又はエチルN-ホルミル-L-フェニルアラニルグリシナート等の当該カルボン酸のアミドを製造する方法」は、本願補正発明の「一般式(4)R^(1)-C(=O)NR^(3)R^(4) (4)(式中、R^(1)、R^(3)およびR^(4)は前記と同じ意味を表わす。)で示されるアミド化合物の製造法」に相当する。

したがって、両者は、
「一般式(2)
R^(1)COOH (2)
(式中、R^(1)は・・・置換基を有していてもよい飽和または不飽和炭化水素基・・・を示す。)
で示されるカルボン酸類および該カルボン酸類に対して1.00モル倍の第3級アミンを、一般式(3)
(R^(2))_(p)Y(O)_(n)X (3)
(式中、R^(2)は・・・鎖状・・・のアルコキシ基・・・を示し、Yは炭素原子・・・を示す。Xは塩素原子・・・を示す。ここでnおよびpは1または2の整数であり、Yが炭素原子の場合はn=1,p=1・・・である。)
で示されるカルボン酸活性化剤を含む溶液に加えることにより一般式(1)
R^(1)C(O)OY(O)_(n)(R^(2))_(p) (1)
(式中、R^(1)、R^(2)、Y、nおよびpは前記と同じ意味を表わす。)
で示される混合酸無水物を得、次いで、該混合酸無水物と一般式(5)
NHR^(3)R^(4) (5)
(式中、R^(3)およびR^(4)はそれぞれ水素原子、または置換基を有していてもよい飽和・・・炭化水素基・・・を示す・・・。)
で示されるアミン類とを反応させる一般式(4)
R^(1)-C(=O)NR^(3)R^(4) (4)
(式中、R^(1)、R^(3)およびR^(4)は前記と同じ意味を表わす。)
で示されるアミド化合物の製造法。」
である点で一致し、以下の点で相違するということができる。

A 混合酸無水物を製造する際に用いる第3級アミンが、本願補正発明においては、「N-メチルモルホリン」であるのに対し、引用発明1においては、「トリエチルアミン等」である点
(以下、「相違点A」という。)

オ 判断
(ア)相違点Aについて
引用発明1の方法は、「直接添加」法が「カルボン酸-三級アミン塩が過剰に存在する」ために、「望ましくない副生成物の生成につながり、光学活性化合物の場合は、ラセミ化を引き起こすため、実際に不都合が生じる」という欠点を有する(摘示1b)のに対し、「逆添加」法を採用することによって、
「(1)目的の最終生成物「アミド」の収率が向上する。
(2)副生成物の混入が少ないため、最終生成物の分離効率が高い。
(3)光学活性化合物の場合、ラセミ化が抑制されるため、出発物質の光学活性(例えば、光学活性αアミノ酸の光学活性)は基本的にそのまま保持される。」(摘示1c)といった利点があるものである。
そして、刊行物1には、引用発明1のトリエチルアミンの他に、混合酸無水物を製造する際に用いる第3級アミンとして、「一般に、トリエチルアミンが好まれる。しかし、第3級アミンの性質は反応に重大な影響を及ぼさないため、三置換窒素基以外の、反応サイトを持たない第3級アミンであれば、任意の第3級アミンを使用できる。代表的な代替反応剤としては、トリイソプロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ピリジン、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジンなどがある。」(摘示1f)と、トリエチルアミンのほかに、任意の第3級アミンを使用できることが記載されているものの、N-メチルモルホリンについての記載はない。
しかし、刊行物2には、刊行物1と同様に、混合酸無水物を経て、アミド化合物であるα-アミノ酸のペプチドの製造法(摘示2a、2c)の改良法において、混合酸無水物を製造する際に用いる第3級アミンとして特定のアミン、すなわち、「アミノ窒素に結合する1つ以上のメチル基、及びアミノ基のβ位に結合する電気陰性基を有する第3級アミン」が好ましいこと、特に「N-メチルモルホリン」が好ましいこと、それにより「優れた変換により、またラセミ化することなく、方法が急速に進行する」ことが記載されている(摘示2d)。そして、ラセミ化抑制効果、つまり、L-異性体の収率において、実施例7のトリエチルアミンに比べ、実施例1のN-メチルモルホリンを用いた方が好ましい結果が得られることが記載されている(摘示2e、2f)。
刊行物2に記載の方法は、従来の「直接添加」法ではあるものの、「ラセミ化することなく」という目的が、上記刊行物1における引用発明1の目的の一つである「(3)光学活性化合物の場合、ラセミ化が抑制されるため、出発物質の光学活性(例えば、光学活性αアミノ酸の光学活性)は基本的にそのまま保持される」と共通しているということができる。そして、刊行物2に記載の方法で製造される光学活性のペプチドは、刊行物1に記載の方法で製造されるカルボン酸のアミドに包含される化合物であるから、上記引用発明1の目的の一つであるラセミ化抑制をさらに改良するために、従来の「直接添加」法で得られていた刊行物2記載の知見を利用し、引用発明1の「トリエチルアミン」以外の「第3級アミン」として、「N-メチルモルホリン」を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、引用発明1において、「混合酸無水物を製造する際に用いる第3級アミン」として、「トリエチルアミン等」に代えて、「N-メチルモルホリン」とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)本願補正発明の効果について
本件補正後の明細書の段落【0028】には、「本発明の反応方法、すなわち、カルボン酸類およびN-メチルモルホリンを、カルボン酸活性化剤を含む溶液に滴下すれば、実施例に示すように、混合酸無水物の選択性を極めて高くできる。さらに、本発明方法で調製した混合酸無水物とアミン類を反応させる場合、極めて優れた収率で、アミド化合物を得ることができる」と記載されているから、本願補正発明の効果は、「混合酸無水物の選択性を極めて高くできることにより、極めて優れた収率で、アミド化合物を得ることができる」ことであると認められる。
しかしながら、刊行物1に記載された実施例Iにおけるトリエチルアミンを使用した場合の「(A)逆添加法」におけるアミド化合物の収率は、「98.5%」で、「(B)直接法」における収率「88%」に比べて既に十分に高いものであるから(摘示1g)、引用発明1は、本願補正発明と同じ滴下法である逆添加法を採用することにより、混合酸無水物の選択性が極めて高く、極めて優れた収率で、アミド化合物を得ることができているといえる。
一方、本件補正後の明細書の実施例におけるアミド化合物の収率は、実施例12が「96.0%」(段落【0045】)、実施例13が「89.9%」(段落【0048】)、実施例14が「94.0%」(段落【0050】)、実施例15が「88.0%」(段落【0052】)、実施例16が「87.8%」(段落【0053】)であって、アミド化合物の収率が、引用発明1に比べて優れたものであるとはいえないから、本願補正発明のN-メチルモルホリンを使用したことによる効果が、格別顕著なものであるとはいえない。
請求人は、平成19年8月9日付けの意見書に添付して、「実験成績証明書」を提出し、N-メチルモルホリンを比較したトリエチルアミンの収率の向上効果について主張している。しかし、この実験例においても、N-メチルモルホリンを用いた場合(実験1)の収率は「92.5%」であり、引用発明1に比べて優れたものであるとはいえないから、本願補正発明のN-メチルモルホリンを使用したことによる効果が、格別顕著なものであるとはいえない。

カ 請求人の主張について
(ア)請求人は、平成22年10月8日付け回答書において、以下のように主張している。
(主張1)「引用文献2(審決注:上記「刊行物1」のこと。以下同じ。)には、逆添加法により収率の向上等の効果があるものの、3級アミンは重要な効果を有しないことが記載されています。この記載に基づいて、アミド(4)を優れた収率で製造するために逆添加法の採用を試みる当業者は、3級アミンに替えて他の塩基を採用することを想起することはないと考えます。」(4.(3))
(主張2)「引用文献3(審決注:上記「刊行物2」のこと。以下同じ。)記載の発明は、ラセミ化を抑制しようとするものである・・・。確かに、引用文献3においてトリエチルアミンを用いた実施例7では、純粋なL-トリペプチドが収率84.5%で得られているものの、DL-異性体が収率8.2%で得られることが示されています。ここで、ラセミ化という効果を外してみると、トリペプヂドは収率92.7%で得られているのです。一方、トリエチルアミンに対して2モル倍量のN-メチルモルホリンを用いた実施例1では、トリペプチドが収率93%程度で得られています。つまり、引用文献3には、N-メチルモルホリンをトリエチルアミンに変更し、さらに使用量を半量程度にしたところで、トリペプチドの収率はほぼ変わらないことが示されているのです。かかる結果に接した当業者であれば、N-メチルモルホリンの使用量をカルボン酸に対して0.95?1.05モル倍とし、さらに逆添加法を採用することを容易に想到するのは困難であり、収率が大きく向上するという効果が発現されることを、予測することはできないと考えます。」(4.(4))
(主張3)「引用文献3には、いわゆる逆添加法ではないものの、引用文献1、2記載の反応と同様な反応において、N-メチルモルホリンを用いた場合(実施例1)とトリエチルアミンを用いた場合(実施例7)との比較がなされています。そして、・・・同じカルボン酸を用いた同じ反応でありながら、トリエチルアミンの使用量はカルボン酸類に対して1モル倍であるのに対し、N-メチルモルホリンの使用量はカルボン酸類に対して2モル倍であります。このように、引用文献3には、トリエチルアミンをN-メチルモルホリンに置き換える際、単に置き換えるのではなく、N-メチルモルホリンの使用量を倍増させることが示されています。」(3.(3))

(イ)各主張について検討する。
(イ-1)(主張1)について
請求人は、刊行物1には、「3級アミンに替えて他の塩基を採用することを想起することはないと考えます。」と主張するが、N-メチルモルホリンも第3級アミンの一種であるから、他の塩基を採用する場合には当たらないし、刊行物1の「第3級アミンの性質は反応に重大な影響を及ぼさないため、三置換窒素基以外の、反応サイトを持たない第3級アミンであれば、任意の第3級アミンを使用できる。」(摘示1f)という記載は、第3級アミンであれば、例示された化合物以外にも任意の第3級アミンを使用できることを意味し、例示された化合物以外の第3級アミンの使用を阻害する意味であるとはいえない。そして、第3級アミンの中で、刊行物1に例示のない「N-メチルモルホリン」を採用することが容易である、とする理由については、上記オ(ア)で述べたとおりである。
よって、上記(主張1)は採用することができない。

(イ-2)(主張2)について
請求人は、刊行物2はラセミ化抑制を目的とするものであり、ラセミ化という効果を外すと、収率については向上効果が見られないのだから、収率向上効果を期待してN-メチルモルホリンを採用することは容易ではない、と主張する。
確かに、刊行物2記載の方法はラセミ化抑制を目的とするものであるが、上記オ(ア)で述べたとおり、刊行物1にも、「(1)目的の最終生成物「アミド」の収率が向上する。」という目的以外に、「(3)光学活性化合物の場合、ラセミ化が抑制されるため、出発物質の光学活性(例えば、光学活性αアミノ酸の光学活性)は基本的にそのまま保持される。」という目的を有することが記載されているから、引用発明1において、目的の一つである「(3)光学活性化合物の場合、ラセミ化が抑制されるため、出発物質の光学活性(例えば、光学活性αアミノ酸の光学活性)は基本的にそのまま保持される。」を強化するために、第3級アミンの一種である「N-メチルモルホリン」を採用することは当業者にとって容易であるといえる。
そして、刊行物2の方法において、N-メチルモルホリンでもトリエチルアミンでもトリペプチドの収率が同程度であったということは、目的の一つの「(3)光学活性化合物の場合、ラセミ化が抑制されるため、出発物質の光学活性(例えば、光学活性αアミノ酸の光学活性)は基本的にそのまま保持される。」を達成するために、引用発明1において、第3級アミンとしてN-メチルモルホリンを採用しても、「(1)目的の最終生成物「アミド」の収率が向上する。」という目的を犠牲にすることはないと当業者は理解することができ、刊行物1のトリエチルアミンを用いた場合の方法と同程度の高収率が期待できると当業者は予測することができる。
そして、本願補正発明の効果が、格別顕著なものであるとはいえないことは、上記オ(イ)で述べたとおりである。
よって、上記(主張2)も採用することはできない。

(イ-3)(主張3)について
請求人は、刊行物2の実施例の記載から、N-メチルモルホリンに置き換えるとしてもその使用量は、トリエチルアミンを用いた場合の2倍、すなわち、カルボン酸に対して2モル倍のN-メチルモルホリンを使用することになると主張する。
しかしながら、刊行物2には、「N-メチルモルホリン・・・からなる群から選択された1?約2当量の第3級アミン」(摘示2a)と記載されているから、実施例でのN-メチルモルホリンの使用量が2モル倍であったとしても、1モル倍である場合も想定されており、引用発明1の「トリエチルアミン等」に代えて、「N-メチルモルホリン」とする際に、特にモル比を変える必要はないといえる。
また、摘示2dには、「それらが過剰に使用されることができ(150%以下の過剰が好ましい)」との記載があるものの、過剰に使うことが可能となったという程度の記載であり、摘示2aからみて、1モル倍での使用を阻害しているともいえない。
よって、上記(主張3)も採用することはできない。

キ 理由Aについてのまとめ
以上のとおり、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(2-2)理由B
ア 引用刊行物
(ア)特開平9-104642号公報(当審において新たに引用。以下、「刊行物3」という。)

イ 刊行物に記載された事項
この出願の優先日前に頒布された刊行物3には、以下の事項が記載されている。

3a「カルボン酸と酸ハロゲン化物とを反応させ、脱ハロゲン化水素により混合酸無水物を製造する方法において、脱ハロゲン化水素剤として用いる三級アミンの有する炭素原子数の合計が9以上であることを特徴とする混合酸無水物の製造方法。」(請求項1)

3b「【従来の技術】カルボン酸の誘導体である、エステルやアミドは機能性材料、染料、医薬、農薬および写真用薬品やその中間体として有用であることが多い。それらの合成に際しては、カルボン酸を例えば、酸ハロゲン化物、活性エステルあるいは酸無水物などの活性誘導体に変換した後に、ヒドロキシ基あるいはアミノ基と反応させる方法が一般的である。
混合酸無水物もまた、それらの活性誘導体の一つとして有用であり、例えば泉屋信夫他著“ペプチド合成(丸善1975年刊)”第5章に記載がみられる。該文献中に記載されている実験例において用いられている、脱ハロゲン化水素剤であるアミン化合物は、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、ピリジンおよびN-メチルピペリジンであり、これらの場合、反応により生成するアミンのハロゲン化水素塩が反応溶媒から析出してしまうことが多い。」(段落【0002】?【0003】)

3c「本発明における、カルボン酸としては・・・具体的には例えば、脂肪族カルボン酸・・・、芳香族カルボン酸・・・および複素環式カルボン酸・・・およびそれらの誘導体が挙げられる。」(段落【0007】)

3d「本発明における酸ハロゲン化物としては・・・例えば、カルボン酸ハロゲン化物(例えば、塩化アセチル、臭化アセチル、塩化プロピオニル、塩化ブチロイル、塩化トリフルオロアセチルが挙げられる)、スルホン酸ハロゲン化物(例えば、塩化メタンスルホニル、塩化エタンスルホニル、塩化トリフルオロメタンスルホニル、塩化トシル、塩化-4-フルオロベンゼンスルホニルが挙げられる)、クロロぎ酸エステル(例えば、クロロぎ酸メチル、クロロぎ酸エチル、クロロぎ酸イソプロピル、クロロぎ酸イソブチルが挙げられる)が挙げられる。」(段落【0008】)

3e「本発明における混合酸無水物の製造に用いることの可能な溶媒は例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの極性溶媒から、ベンゼンやヘキサンなどの非極性溶媒までの範囲から選ぶことができる。ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化溶媒、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタンなどのエーテル類が好ましく、混合溶媒を用いることもできる。」(段落【0010】)

3f「【実施例】次に本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明する。
実施例1
攪拌機、温度計および滴下ロートを備えた50ml三口フラスコに、1.15g(10ミリモル)のメタンスルホニルクロリドおよび5.1mlのテトラヒドロフラン(THF)を秤取し、寒剤を用い-10℃以下に冷却した。攪拌下、2.64g(10ミリモル)の4-(4-アクリロイルオキシブトキシ)安息香酸、1.85g(10ミリモル)のトリブチルアミンおよび9.3mlのTHFから成る溶液を0℃以下で滴下した。引き続き氷冷下にて30分間攪攪拌続けた。反応液は何等析出することなく、終始透明であった。上記反応液の一部を大過剰のメタノールに注ぎ室温にて10分間放置した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりメチルエステルの生成を確認した。このことから、上記反応により目的の混合酸無水物が生成したことが明かである。
実施例2
実施例1において用いたトリブチルアミンに代え、トリプロピルアミンを用い、またトリオクチルアミンを用いて、実施例1と同様の反応を行った。結果を表1に示す。」(段落【0014】?【0015】)

3g「比較例
実施例1において用いたトリブチルアミンに代え、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンを用い、またN-メチルモルホリンを用いて、実施例1と同様の反応を行った。結果を表1に示す。

」(段落【0016】?【0017】)

ウ 刊行物3に記載された発明
刊行物3の請求項1には、「カルボン酸と酸ハロゲン化物とを反応させ、脱ハロゲン化水素により混合酸無水物を製造する方法において、脱ハロゲン化水素剤として用いる三級アミンの有する炭素原子数の合計が9以上であることを特徴とする混合酸無水物の製造方法。」(摘示3a)と記載されており、具体的に、実施例1として、「・・・50ml三口フラスコに、1.15g(10ミリモル)のメタンスルホニルクロリドおよび5.1mlのテトラヒドロフラン(THF)を秤取し、寒剤を用い-10℃以下に冷却した。攪拌下、2.64g(10ミリモル)の4-(4-アクリロイルオキシブトキシ)安息香酸、1.85g(10ミリモル)のトリブチルアミンおよび9.3mlのTHFから成る溶液を0℃以下で滴下した。引き続き氷冷下にて30分間攪攪拌続けた。・・・上記反応により目的の混合酸無水物が生成したことが明かである。」(摘示3f)と記載されている。
ここで、THF(テトラヒドロフラン)は溶媒(摘示3e)であるから、つまり、刊行物3には、10ミリモルの4-(4-アクリロイルオキシブトキシ)安息香酸、10ミリモルのトリブチルアミン及びTHFからなる溶液を、メタンスルホニルクロリドのTHF溶液に滴下することにより、混合酸無水物を得る方法が記載されているといえる。
そして、刊行物3において、上記混合酸無水物を製造する目的については、「カルボン酸の誘導体である、エステルやアミドは機能性材料、染料、医薬、農薬および写真用薬品やその中間体として有用であることが多」く、「それらの合成に際しては、カルボン酸を例えば、酸ハロゲン化物、活性エステルあるいは酸無水物などの活性誘導体に変換した後に、ヒドロキシ基あるいはアミノ基と反応させる方法が一般的であ」り、「混合酸無水物もまた、それらの活性誘導体の一つとして有用」である(摘示3b)ことが記載されているから、上記製造方法で得られた混合酸無水物は、アミノ基を有する化合物と反応させてアミドを製造する方法に用いられることが記載されているに等しい。
ところで、上記刊行物3の請求項1においては、「脱ハロゲン化水素剤」として、炭素原子数が9以上の三級アミンを使用しているが、他方、刊行物3には、従来から、「脱ハロゲン化水素剤であるアミン化合物」として、「トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、ピリジンおよびN-メチルピペリジン」(摘示3b)を用いてきたことが記載されており、N-メチルモルホリンを用いた具体例について、比較例としての記載(摘示3g)があり、トリブチルアミンの代わりにN-メチルモルホリンを用いた他は、「実施例1と同様の反応を行った」(摘示3g)と記載されている。
該比較例は、「室温でも析出物あり」(摘示3g)との結果ではあるものの、該析出物は、「反応により生成するアミンのハロゲン化水素塩」(摘示3b)であって、混合酸無水物を合成する反応が進行していることを示すものであり、摘示3cからみて、該比較例は、混合酸無水物を生成する従来の反応を開示しているといえるから、該比較例の反応でも、実施例1と同様に混合酸無水物が生成していると認められる。また、摘示3bの従来の方法においても、アミノ基を有する化合物と反応させてアミドを製造する方法に用いられることを前提に、混合酸無水物を製造していたことが明らかである(摘示3b)。
つまり、刊行物3には、従来技術(比較例)として、10ミリモルの4-(4-アクリロイルオキシブトキシ)安息香酸、10ミリモルのN-メチルモルホリン及びTHFからなる溶液を、メタンスルホニルクロリドのTHF溶液に滴下することにより、混合酸無水物を得る方法が記載され、該混合酸無水物をアミノ基を有する化合物と反応させてアミドとする方法も記載されているに等しいといえる。

よって、刊行物3には、
「10ミリモルの4-(4-アクリロイルオキシブトキシ)安息香酸、10ミリモルのN-メチルモルホリン及びTHFからなる溶液を、メタンスルホニルクロリドのTHF溶液に滴下することにより、混合酸無水物を得、次いで、該混合酸無水物とアミノ基を有する化合物とを反応させる、アミド化合物の製造法。」
の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているということができる。

エ 対比
本願補正発明と引用発明3とを対比すると、引用発明3の「4-(4-アクリロイルオキシブトキシ)安息香酸」は、本願補正発明の「一般式(2) R^(1)COOH」において、R^(1)が「置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基」である「カルボン酸類」に当たり、本願補正発明の「一般式(2) R^(1)COOH(・・(略)・・)で示されるカルボン酸類」に相当する。
また、引用発明3の「10ミリモルの4-(4-アクリロイルオキシブトキシ)安息香酸、10ミリモルのN-メチルモルホリン」は、モル比に直すと、「4-(4-アクリロイルオキシブトキシ)安息香酸」に対して1.00モル倍の「N-メチルモルホリン」であり、さらに、引用発明3は、「・・安息香酸」及び「N-メチルモルホリン」が、「・・・THFからなる溶液」であるのに対し、本願補正発明の「カルボン酸類及びN-メチルモルホリン」も、本件補正後の明細書の段落【0019】の記載からみて、「カルボン酸類及びN-メチルモルホリン」を「含む溶液」を包含する。
以上のことから、引用発明3の「10ミリモルの4-(4-アクリロイルオキシブトキシ)安息香酸、10ミリモルのN-メチルモルホリン及びTHFからなる溶液」は、本願補正発明の「一般式(2) R^(1)COOH (2)(・・(略)・・)で示されるカルボン酸類およびN-メチルモルホリン」に相当する。
また、引用発明3の「メタンスルホニルクロリドのTHF溶液」は、「メタンスルホニルクロリド」が、本願補正発明の「一般式(3) (R^(2))_(p)Y(O)_(n)X」において、R^(2)がアルキル基(メチル基)、Yがイオウ原子で、n=2,p=1、Xが塩素原子である化合物に当たるので、本願補正発明の「一般式(3)(・・(略)・・)で示されるカルボン酸活性化剤を含む溶液」に相当する。
そうすると、引用発明3の「10ミリモルの4-(4-アクリロイルオキシブトキシ)安息香酸、10ミリモルのN-メチルモルホリン及びTHFからなる溶液を、メタンスルホニルクロリドのTHF溶液に滴下する」は、本願補正発明の「一般式(2) R^(1)COOH (2)(・・(略)・・)で示されるカルボン酸類および該カルボン酸類に対して0.95?1.05モル倍のN-メチルモルホリンを、一般式(3) (R^(2))_(p)Y(O)_(n)X (3)(・・(略)・・)で示されるカルボン酸活性化剤を含む溶液に加える」に相当する。
さらに、引用発明3の「混合無水物」は、4-(4-アクリロイルオキシブトキシ)安息香酸由来のカルボン酸部分とメタンスルホニルクロリド由来のメタンスルホニル部分との混合酸無水物が得られるところ、本願補正発明の「一般式(1) R^(1)C(O)OY(O)_(n)(R^(2))_(p)・・・で示される混合酸無水物」は、その構造から明らかなように、カルボン酸類由来の「R^(1)」を含む部分と、カルボン酸活性化剤由来の「(R^(2))_(p)」を含む部分の「混合酸無水物」であるから、上記したように、引用発明3と本願補正発明とで原料となるカルボン酸類及びカルボン酸活性化剤において差異がない以上、引用発明3で得られる「混合酸無水物」も、本願補正発明の「一般式(1)
R^(1)C(O)OY(O)_(n)(R^(2))_(p) (1)(式中、R^(1)、R^(2)、Y、nおよびpは前記と同じ意味を表わす。)で示される混合酸無水物」に相当する。
そして、引用発明3の「アミノ基を有する化合物」及び「アミド化合物」と、本願補正発明の「一般式(5)・・・で示されるアミン類」及び「一般式(4)・・・で示されるアミド化合物」は、いずれも、それぞれ、「アミン類」及び「アミド化合物」であるといえる。

したがって、両者は、
「一般式(2)
R^(1)COOH (2)
(式中、R^(1)は・・・置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基・・・を示す。)
で示されるカルボン酸類および該カルボン酸類に対して1.00モル倍のN-メチルモルホリンを、一般式(3)
(R^(2))_(p)Y(O)_(n)X (3)
(式中、R^(2)は・・・アルキル基、・・・を示し、Yは・・・イオウ原子を示す。Xは塩素原子、・・・を示す。ここでnおよびpは1または2の整数であり、・・・Yがイオウ原子の場合にはn=2,p=1である。)
で示されるカルボン酸活性化剤を含む溶液に加えることにより一般式(1)
R^(1)C(O)OY(O)_(n)(R^(2))_(p) (1)
(式中、R^(1)、R^(2)、Y、nおよびpは前記と同じ意味を表わす。)で示される混合酸無水物を得、次いで該混合酸無水物とアミン類とを反応させるアミド化合物の製造法。」
である点で一致し、以下の点で一応相違するということができる。

a アミン類及びアミド化合物について、本願補正発明においては、アミン類が、「一般式(5) NHR^(3)R^(4)(・・(略)・・)で示されるアミン類」であって、それから得られるアミド化合物が、「一般式(4) R^(1)-C(=O)NR^(3)R^(4)(・・(略)・・)で示されるアミド化合物」であるのに対し、引用発明3においては、そのような特定がない点
(以下、「相違点a」という。)

オ 判断
(ア)相違点aについて
本願補正発明の「一般式(5) NHR^(3)R^(4) (5)
(式中、R^(3)およびR^(4)はそれぞれ水素原子、または置換基を有していてもよい飽和または不飽和炭化水素基、置換基を有していてもよいヘテロ環、アミノ基の保護基、または以下の式で示されるR^(3)を示す:
-OR^(30)、またはNR^(30)R^(31)、ここでR^(30)は置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基、R^(31)は水素原子、または置換基を有していてもよいアリール基である。
また、R^(3)とR^(4)は分子内で結合し環状構造を有していてもよい。)で示されるアミン類」は、「R^(3)およびR^(4)」として、アルキルアミン等の通常のアミン化合物も包含する、広い範囲の基を含み、混合酸無水物と反応するための少なくとも1つのHが結合したアミノ基(「NH」)を有する化合物である以外には、特に制約がないものといえる。
他方、引用発明3には、「アミノ基と反応させる」(摘示3b)との記載しかないものの、混合酸無水物と反応してアミドを合成する以上、少なくとも1つのHが結合したアミノ基を有する化合物であることは明らかであり、それ以外に特に制約がないものを包含するということができるから、本願補正発明と「アミン類」について実質的な差異があるということができない。
また、引用発明3における該アミノ基を有する化合物から得られるアミド化合物についても、本願補正発明と実質的な差異があるということができない。
よって、相違点aは、実質的な相違点であるとはいえない。

また、たとえ、相違点aが実質的な相違点であるとしても、引用発明3において、アミノ基を有する化合物が、少なくとも1つのHが結合したアミノ基を有する化合物であることは明らかであるから、該化合物として、アルキルアミン等の周知のアミン化合物(例えば、摘示1bの「アミド化試薬」を参照。)を包含する「一般式(5) NHR^(3)R^(4)(・・(略)・・)で示されるアミン類」を採用し、「一般式(4) R^(1)-C(=O)NR^(3)R^(4)(・・(略)・・)で示されるアミド化合物」を得ることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、上記「(2-1)オ(イ)」で述べたとおり、「混合酸無水物の選択性を極めて高くできることにより、極めて優れた収率で、アミド化合物を得ることができる」ことであると認められる。
しかしながら、刊行物3の方法は、混合無水物を生成する際の滴下順とN-メチルモルホリンの使用において、本願補正発明の方法と同じであるから、混合酸無水物が同程度の選択性で得られているものといえ、これにアミノ基を含有する化合物を反応させて得られるアミド化合物の収率も高いものとなるといえるから、本願補正発明の効果が、当業者の予測を超える効果であるとは認められない。

カ 理由Bについてのまとめ
以上のとおり、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、該刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
したがって、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年3月21日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1?11に係る発明は、平成19年8月9日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「一般式(2)
R^(1)COOH (2)
(式中、R^(1)は水素原子、または置換基を有していてもよい飽和または不飽和炭化水素基、または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、または置換基を有していてもよいヘテロ環を示す。)
で示されるカルボン酸類およびN-メチルモルホリンを、一般式(3)
(R^(2))_(p)Y(O)_(n)X (3)
(式中、R^(2)は置換基を有していてもよいアルキル基、または置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよい鎖状もしくは環状のアルコキシ基、または置換基を有していてもよいアリールオキシ基を示し、Yは炭素原子またはイオウ原子を示す。Xは塩素原子、臭素原子または(R^(2))_(p)Y(O)_(n)O-を示す。ここでnおよびpは1または2の整数であり、Yが炭素原子の場合はn=1,p=1であり、Yがイオウ原子の場合にはn=2,p=1である。)
で示されるカルボン酸活性化剤を含む溶液に加えることにより一般式(1)
R^(1)C(O)OY(O)_(n)(R^(2))_(p) (1)
(式中、R^(1)、R^(2)、Y、nおよびpは前記と同じ意味を表わす。)
で示される混合酸無水物を得、次いで、該混合酸無水物と一般式(5)
NHR^(3)R^(4) (5)
(式中、R^(3)およびR^(4)はそれぞれ水素原子、または置換基を有していてもよい飽和または不飽和炭化水素基、置換基を有していてもよいヘテロ環、アミノ基の保護基、または以下の式で示されるR^(3)を示す:
-OR^(30)、またはNR^(30)R^(31)、ここでR^(30)は置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基、R^(31)は水素原子、または置換基を有していてもよいアリール基である。
また、R^(3)とR^(4)は分子内で結合し環状構造を有していてもよい。)
で示されるアミン類とを反応させる一般式(4)
R^(1)-C(=O)NR^(3)R^(4) (4)
(式中、 R^(1)、R^(3)およびR^(4)は前記と同じ意味を表わす。)
で示されるアミド化合物の製造法。」

2 原査定の拒絶の理由
原査定は、「この出願については、平成19年6月6日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであるところ、該理由2は、
「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明・・・に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。・・・

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・・・
理由2
・請求項1?3、5?16
・引用文献等 1?3
・備考
引用文献2には、上記の逆添加が好ましく、この方法により、収率の向上、副生成物の抑制等の効果があることも記載されている(2欄8?19行参照)。・・・
さらに、引用文献1、2と同様なペプチド結合の生成反応に関する引用文献3には、反応に用いる塩基として、N-メチルモルホリン等がラセミ化を抑制するので好ましいと記載され使用されている(2欄48?59行、実施例1参照)。
引用文献1、2に記載の反応において、同様な反応で用いることが知られているN-メチルモルホリンを採用することは、引用文献3の記載に基づき当業者が容易になし得たことである。
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開昭56-97254号公報
2.米国特許第3264281号明細書
3.米国特許第3640991号明細書」
というものである。
してみると、原査定は、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用文献2及び引用文献3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、という理由を包含するものである。
なお、引用文献2及び引用文献3は、それぞれ、上記「第2 2(2)(2-1)ア」の刊行物1及び2と同じであり、以下、同様に「刊行物1」及び「刊行物2」という。

3 刊行物に記載された事項
刊行物1及び刊行物2に記載された事項は、上記「第2 2(2)(2-1)イ」に示したとおりである。

4 刊行物1に記載された発明
上記「第2 2(2)(2-1)ウ」で述べたとおり、刊行物1には、
「不活性溶媒に溶解させた12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸又は光学活性化合物N-ホルミル-L-フェニルアラニン等のカルボン酸と、該カルボン酸に対して1.00モル倍のトリエチルアミン等の第3級アミンの塩の溶液を、不活性溶媒に溶解させたクロロギ酸エチル等のクロロギ酸低級アルキルの溶液に徐々に添加することにより、カルボン酸-炭酸無水物を生成し、この無水物を、t-ブチルアミン又はグリシンエチル塩酸塩等の第1級アミンとを反応させて、N-t-ブチル-12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセンアミド又はエチル N-ホルミル-L-フェニルアラニルグリシナート等の当該カルボン酸のアミドを製造する方法。」
の発明(以下同様に、「引用発明1」という。)が記載されているということができる。

5 対比
本願発明は、本願補正発明において、「N-メチルモルホリン」の使用量についての特定(「該カルボン酸類に対して0.95?1.05モル倍」)がないものである。
そこで、上記「第2 2(2)(2-1)エ」で述べた点を踏まえて、本願発明と引用発明1を対比すると、両者は、
「一般式(2)
R^(1)COOH (2)
(式中、R^(1)は・・・置換基を有していてもよい飽和または不飽和炭化水素基・・・を示す。)
で示されるカルボン酸類および第3級アミンを、一般式(3)
(R^(2))_(p)Y(O)_(n)X (3)
(式中、R^(2)は・・・鎖状・・・のアルコキシ基・・・を示し、Yは炭素原子・・・を示す。Xは塩素原子・・・を示す。ここでnおよびpは1または2の整数であり、Yが炭素原子の場合はn=1,p=1・・・である。)
で示されるカルボン酸活性化剤を含む溶液に加えることにより一般式(1)
R^(1)C(O)OY(O)_(n)(R^(2))_(p) (1)
(式中、R^(1)、R^(2)、Y、nおよびpは前記と同じ意味を表わす。)
で示される混合酸無水物を得、次いで、該混合酸無水物と一般式(5)
NHR^(3)R^(4) (5)
(式中、R^(3)およびR^(4)はそれぞれ水素原子、または置換基を有していてもよい飽和・・・炭化水素基・・・を示す・・・。)
で示されるアミン類とを反応させる一般式(4)
R^(1)-C(=O)NR^(3)R^(4) (4)
(式中、 R^(1)、R^(3)およびR^(4)は前記と同じ意味を表わす。)
で示されるアミド化合物の製造法。」
である点で一致し、以下の点で相違するということができる。

A’ 混合酸無水物を製造する際に用いる第3級アミンが、本願発明においては、「N-メチルモルホリン」であるのに対し、引用発明1においては、「トリエチルアミン等」である点
(以下、「相違点A’」という。)

6 判断
(1)相違点A’について
相違点A’は、上記「第2 2(2)(2-1)エ」の相違点Aと同じであるから、上記「第2 2(2)(2-1)オ(ア)」で述べたのと同様の理由により、引用発明1において、「混合酸無水物を製造する際に用いる第3級アミン」として、「トリエチルアミン等」に代えて、「N-メチルモルホリン」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)本願発明の効果について
本願発明の効果は、本願明細書の段落【0028】の記載からみて、「混合酸無水物の選択性を極めて高くできることにより、極めて優れた収率で、アミド化合物を得ることができる」ことであると認められる。
しかし、該効果は、本願補正発明の効果と同様であるから、「第2 2(2)(2-1)オ(イ)」で述べたのと同様の理由により、当業者の予測を超える格別顕著な効果であるということはできない。

7 まとめ
したがって、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余のことを検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-19 
結審通知日 2011-01-25 
審決日 2011-02-07 
出願番号 特願2001-167813(P2001-167813)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C07C)
P 1 8・ 113- Z (C07C)
P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関 美祝  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 齊藤 真由美
松本 直子
発明の名称 アミド化合物の製造法  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  

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