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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1234370
審判番号 不服2008-20580  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-11 
確定日 2011-03-24 
事件の表示 特願2001-305114「技術的システムの老化による変化の検出方法,その装置,プログラム,記録媒体,検出システム,摩耗モデルの決定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月19日出願公開,特開2002-202242〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成13年10月1日(パリ条約による優先権主張 平成12年9月29日,ドイツ)の出願であって,平成19年5月7日付けで拒絶理由通知書が出され,同年9月18日付けで手続補正書が提出され,同年11月5日付けで最後の拒絶理由通知書が出され,平成20年5月8日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年8月11日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ,同年9月10日付けで手続補正書が提出されたが,当審において,この手続補正を,平成22年5月19日付けの補正却下の決定によって補正却下するとともに,同日付で拒絶理由通知書を出したところ,同年9月27日付けで手続補正書と意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?13に係る発明は,平成22年9月27日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
そして,その請求項1に係る発明は次のとおりである。
「システム内で利用に依存する駆動量(x(t))を検出し,技術的システムの老化による変化を示すパラメータを決定する方法であって,
摩耗モデル(f)を用いて,検出された駆動量(x(t))とシステムの老化による変化を示すパラメータ(a(t))との間の相関関係が形成され,前記パラメータ(a(t))または前記パラメータ(a(t))から導出された変量がシステム内部で計算されており,
検出された利用に依存する駆動量がシステム外部で呼出し可能である前記決定方法において,
f=f(p,x(t),a(t))=0 によって与えられる摩耗モデル(f)において,利用に依存しないシステム内在のパラメータ(A,B,・・・)を表すパラメータベクトル(p)は,同一システムクラスのシステムがK個である場合,検出され保存された駆動量(x_(k)(t))がそれぞれ,利用時間(t_(k))後にシステム外部で呼び出され,前記検出され保存された駆動量に基づいてシステムごとに対応する,摩耗または老化を示すパラメータ(a_(k)(t_(k)))が,利用されるシステムの摩耗を付加的に測定することにより決定され(k=1,・・・,K),次いで摩耗モデル(f_(k))のK個の方程式に基づいて,システムクラスのための前記パラメータベクトル(p)が決定され,方程式f=f(p,x(t),a(t))=0によって与えられるシステムの摩耗モデルf_(k)に,求められた駆動量x_(k)(t)及び決定された老化パラメータa_(k)(t_(k))を代入することにより,利用に依存しないシステム内在のp個のパラメータ(A,B,,,,)を含む前記パラメータベクトルpが,システムクラスの平均値として計算される,ことによって決定されることを特徴とする,技術的システムの老化による変化を示すパラメータを決定する方法。」

第3 刊行物記載の事項
当審の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された刊行物である特開平3-15768号公報(以下,「刊行物1」という。),菅民郎,多変量解析の実践(上),株式会社現代数学社,1993年12月10日,初版,第1刷発行,表紙,目次,57?58頁,奥付(以下,「刊行物2」という。)及び特開平3-209561号公報(以下,「刊行物3」という。)には,次の事項が記載されている。なお,下線は,当審にて付記したものである。以下,同様。

1.刊行物1
(1-1)「ここで,例えば発電プラントを構成する部品の一つである制御捧駆動装置(以下CRDという)を採り上げる。」(8頁右上欄18?20行)

(1-2)「即ち,CRDを構成する部品の1つであるカーボンシール42は,その劣化パラメータのうちの曲げ強さが,運転環境条件(例えば,温度,圧力,使用回数等のうちの運転温度の増加に従って低下する傾向が顕著であることがわかった。従ってカーボンシール42についてはその曲げ強さの運転温度に対する。経歴変化特性を調べることによりその劣化特性を容易に評価予測できることになる。(当審注:「運転温度に対する。経歴変化特性を調べる」について,前後の関係からみて「運転温度に対する経歴変化特性を調べる」の誤記であると認められる。また,「運転環境条件(例えば,温度,圧力,使用回数等のうちの運転温度の増加に従って低下する傾向が顕著であることがわかった。」について,括弧の一方が記載されていないが,前後関係からみて,「運転環境条件(例えば,温度,圧力,使用回数等)のうちの運転温度の増加に従って低下する傾向が顕著であることがわかった。」の誤記であると認められる。)
先ず,ステップ500において,データバスシステムのファイル72にストアされているCRDの故障情報(例えばCRDの温度の異常高,CRDと制御捧とのカップリングの変形等)又はCRDの各構成部品(カーボンシール等)の加速寿命試験データを読み込む。」(11頁左下欄5?18行)

(1-3)「 次にステップ506で,カーボンシールについての加速寿命試験データ,運転環境条件(例えば運転温度)の現時点迄の履歴データをファイル76から読み出す。
ステップ508では,これらのデータに基づいてカーボンシールの劣化傾向の解析を行ってカーボンシールの劣化特性値を求める。
ここで,第7図から明らかな様に運転温度の増加に伴い曲げ強さσの劣化速度が速くなる傾向があり,曲げ強さは(1)及び(8)式で示すように時間と運転温度の指数関数で表示できることが分かった。
σ = σ_(0)exp{-f(T)×t^(α)} ・・・(1)
f(T)=aT^(n)+bT^(n-1)・・・+xT^(2)+yT+z≒xT^(2)+yT+z ・・・(8)
ここで,σ_(0)は劣化特性値の初期値(実験値),Tは劣化を促進するプロセス量,ここでは運転温度,α,a,b・・・x,y,zは実験定数であり,f(T)は寿命データの近似式である。一般にα=1である。
従って温度の履歴データ及び加速寿命試験データを用い例えば最小二乗法により定数x,y,zを決める。
従って(1)及び(8)式より運転温度の予測パターンTがわかれば予想劣化特性値σ(t)が時間tの関数として求まる。」(12頁右上欄7行?同頁左下欄11行)

(1-4)「第23図において実線で示す曲線は現時点t_(l)までの履歴温度T_(1),T_(2)を考慮して(1)及び(8)式により算出されたカーボンシールの劣化特性値データである。曲げ強さの初期値σ_(0)はファイル72にストアされており,又限界値σ_(C)も知識データとしてファイル64に予めストアされている。
現時点t_(1)においてのプロセス量T,即ち温度はT_(3)(℃)であり,今後も現時点の温度が継続すると仮定した場合,劣化特性値の予想パターンは点線の様に求まる。
ここで一般にプロセス量,ここでは周囲温度の履歴の予想パターンは以下の3種類から選択される。
(i)温度一定継続:現時点の温度と同一温度で継続する。
(ii)加重平均温度一定継続;現時点までの加重平均温度で以後も継続する。
(iii)温度変化パターン:現時点までの温度変化と一のパターンで周期的に変化する。
従って現時点から特性値の予想値が限界値σ_(C)に達するまでに要する運転時間をカーボンシールの余寿命とすると,余寿命L_(1i)は(9)式で求まる(ステップ512,514)。
L_(1i)=log(σ_(0)/σ_(c))/f(T)-t_(1) ・・・(9)」(12頁左下欄17行?同頁右下欄20行)

(1-5)「第15図は実施例によるエキスパートシステムの典型例の構成図であり,部品集合体の一例として発電プラント(例えば,原子力発電プラント)の部品集合体の余寿命を診断するエキスパートシステム11の構成図である。エキスパートシステム11は,知識獲得支援装置2,推論装置3,ユーザインターフエイス4,外部システムインターフエイス5及び知識ベース16を備える。ユーザインターフエイス14は,プラントデータを管理するデータベースシステム17及びキーボードやハードコピー装置等の入出力装置を有する端末システム18に接続されている。また,端末システム18には表示装置,例えばCRT10が接続されている。
端末システム18にはキーボード(図示せず)等により以下の3種類のデータ21,22及び23が入力される。機能試験データ21は,プラントの構成機器(部品集合体)定期点検時の機能試験データであり,定期点検時毎に入力される。
データ22は該構成機器の部品に関する加速寿命試験による部品劣化特性データであり予め入力され及び該部品について適時に入力される部品劣化特性データである。
知識データ23は,専門家や過去の経験から得られた予防保全業務に関する知識データ(構成機器・部品の仕様,性能,限界値,事故や不具合情報,保守情報等)であり予も入力される。
外部システムインターフエイス5には外部のセンサ(図示せず)から運転中のプラントのデータ(例えば構成機器の環境(例えば温度(T))等を示すデータ)がオンラインで履歴データ24として与えられる。
データ21,22は,端末システム18,ユーザインターフエイス4を介してデータベースシステム17にデータベースとしてそれぞれファイル70,72にストアされる。履歴データ24は,外部システムインターフエイス5,ユーザインターフエイス4を介してデータベースシステム7(当審注:「データベースシステム7」と記載されているが,刊行物1の他の箇所には「データベースシステム17」と記載されており,第15図も「17」という符号はデータベースシステムを示しており,「7」という符号は用いられていないから,「データベースシステム17」の誤記であると認められる。)のファイル76に格納される。」(10頁右上欄16行?同頁右下欄14行)

(1-6)「 尚,(1)及び(8)式はカーボンシールに限らず他の部品にも適用でき,例えば電動弁のネジ山摩耗量σ(t)は使用回数T及び時間tの関数として求められる。但し,その場合,実験定数x,y,zは異なる値となる。」(12頁左下欄12?16行)

(1-7)「先ず,部品劣化解析の処理手順を第18図に示すフローチャートを用いて説明する。本実施例での部品劣化解析処理は,CRDを構成する各部品の部品劣化特性データ,例えば,加速寿命試験データから求めたCRDの余寿命をL_(l)’とし,各構成部品の故障データ又は部品劣化特性データ,例えば加速寿命試験データに基づいて求めた各部品の信頼度より求めたCRDの余寿命をL_(l)’’として,両者のうちの短い方を余寿命L_(1)とする。
勿論,前述したようにL_(1)’=L_(l)としても,L_(1)’’=L_(1)としてもよいことは言うまでもない。この場合,機器(CRD)の余寿命は,ある運転条件下で機器の各構成部品の曲げ強さ,硬さ等の経時変化を評価することにより予測できる。」(11頁右上欄10行?同頁左下欄4行)

(1-8)「第3図は,部品劣化解析部の処理手順を示すフローチャートである。部品劣化解析部は,部品の劣化特性値から求めた機器の余寿命をL_(1)’とし,機器信頼度から求めた機器の余寿命をL_(1)’’とし,両者のうちの短い方を余寿命L_(1)とする。勿論,L_(l)’=L_(1)としてもL_(1)’’=L_(1)としてもよいことは言うまでもない。」(8頁左上欄2?8行)

(1-9)第15図

第15図には,入力データ群として,加速寿命試験データ及び部品劣化データ22が端末システムを介して入力され,これとは別に運転中プラント履歴データ24が外部システムインターフェース5を介して入力され,これらのデータは,データベースシステムに送られ,さらに,エキスパートシステム11内の部品劣化解析部,相関解析部,機器性能解析部に送られ,当該3つの解析部が余寿命評価部と接続されている装置が記載されている。

(1-10)「1.複数の部品から成り少なくとも1つの機能を有する部品の集合体の余寿命を診断する方法において,
上記集合体の少なくとも1つの部品に関する1つの特性の劣化試験データに基づき上記集合体の第1の余寿命を得ること,
上記集合体の少なくとも1つの機能についての試験データに基づき,上記集合体の第2の余寿命を得ること,
上記集合体の少なくとも1つの部品に関する1つの特性の劣化試験データと上記集合体の少なくとも1つの機能についての試験データに基づき上記集合体の第3の余寿命を得ること,及び,
第1,第2及び第3の余寿命中,最も短い値を上記集合体の余寿命として得ることを特徴とする余寿命診断方法。」(1頁左下欄7行?同頁右下欄3行)

(1-11)「第5図は相関解析部の処理手順を示すフローチャートである。また,第10図と第11図はこの相関解析を説明する図である。
先ず,最初に機能試験データと部品劣化データを読み込む。例えば,CRDの駆動水流量のデータとカーボンシールの曲げ強さのデータを読み込む。これらのデータを用いて,最小二乗法や線形回帰モデル等による回帰解析を行って近似式(第10図の実線の式)を求める。この近似式を用い,現時点での機能試験データF_(t)に対する部品の劣化特性値σ_(i)を求める。そして,劣化を促進させる過去のプロセス量,例えばCRDにおける温度の運転履歴から予測した劣化特性値と経過時間との関係(CRDでのこの関係を第11図に示す。)に基づいて部品の劣化特性値σ_(i)に対する現時点の仮想経過時間t′を求める。その後,この劣化特性値-経過時間の予測関係と部品の限界値とから限界値到達時間を求めこの限界値到達時間と前記仮想経過時間t′との差を余寿命L_(1)とする。」(9頁左上欄11行?同頁右上欄9行)

(2)刊行物2記載の事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である刊行物2には,次の事項が記載されている。
(2-1)「



(当審注:「(y_(i)-y_(i))^(2)」は,
「(y_(i)-y_(i))^(2)」の誤記である。
「y_(i) 」の上線は,「^」という記号を表す。)

この方程式を正規方程式(normal equation)といいます。
説明変数の数が2つの場合で正規方程式を導いてみましょう。」(57頁1行?58頁本文3行)

(3)刊行物3
本願の優先日前に頒布された刊行物である刊行物3には,次の事項が記載されている。
(3-1)「本発明は,連立一次方程式を解くことを目的としている。行列表示法において,問題はA_(x)=bとして表示され,ここに,Aはn×nの係数行列,xはn個の未知数のベクトル,bはn個の定数のベクトル。したがって,解は未知数n×1のベクトルxである。」(3頁右上欄11?16行)

第4 刊行物1から把握される事項
1 カーボンシールの曲げ強さはネジ山の摩耗量σに置き換えられ,運転温度Tは使用回数Tに置き換えられることについて
摘記事項(1-6)によれば,摘記事項(1-2)?(1-4)に記載の発電プラントの制御捧駆動装置を構成する部品の1つであるカーボンシールを,電動弁のネジに置き換えることができる。そして,カーボンシールの曲げ強さσは,ネジ山摩耗量σに置き換えられ,運転温度Tは,使用回数Tに置き換えられる。
よって,摘記事項(1-3)の式,
σ = σ_(0)exp{-f(T)×t^(α)} ・・・(1)
f(T)=aT^(n)+bT^(n-1)・・・+xT^(2)+yT+z≒xT^(2)+yT+z ・・・(8)
は,ネジ山摩耗量σが使用回数Tと時間tの関数として表された式として置き換えることができる。
そして,f(T)=xT^(2)+yT+zと近似できることが理解され,「・・・x,y,zは実験定数」(摘記事項(1-3))との記載事項からみて,x,y,zが実験定数であることが分かる。
摘記事項(1-2)によれば,「CRDを構成する部品の1つであるカーボンシール42は,その劣化パラメータのうちの曲げ強さが,運転環境条件(例えば,温度,圧力,使用回数等)のうちの運転温度の増加に従って低下する傾向が顕著であることがわかった。従ってカーボンシール42についてはその曲げ強さの運転温度に対する,経歴変化特性を調べることによりその劣化特性を容易に評価予測できることになる。」とされており,
読み替えると,「電動弁のネジは,その劣化パラメータのうちネジ山摩耗量の使用回数Tに対する,経歴変化特性を調べることによりその劣化特性を容易に予測できることになる。」ことが理解される。

2 f(T)は,ネジの劣化特性式に包含される方程式であること
摘記事項(1-3)の式,すなわち,ネジの劣化特性式
σ = σ_(0)exp{-f(T)×t^(α)} ・・・(1)は,ネジ山摩耗量σに関する式であり,f(T)は,これにに包含される方程式であるといえる。

3 測定される使用回数(T)は,データベースシステム17に履歴データ として保存されることについて
摘記事項(1-5)には,運転中の温度(T)が履歴データとしてデータベースシステム17に保存される旨が記載されている。上記したように運転温度(T)を使用回数(T)と読み替えると,データベースシステム17には,使用回数(T)が履歴データとして蓄えられることが理解される。

4 測定される使用回数(T)は,利用時間の後でないとデータベースシス テム(17)から読み出すことができないことについて
使用回数は,利用時間の後でないとデータベースに蓄えることができないし,利用時間の後でないと読み出すこともできないことは自明な事項である。

5 部品劣化特性データであるネジ山摩耗量が劣化特性値として測定されていることについて
摘記事項(1-11)には,相関解析部についての説明がなされており,そこに「最初に機能試験データと部品劣化データを読み込む。例えば,CRDの駆動水流量のデータとカーボンシールの曲げ強さのデータを読み込む」と記載されている。また,摘記事項(1-3)によれば,曲げ強さσは,劣化特性値とされている。そうすると,部品劣化データとして,カーボンシールの曲げ強さ測定され,データ化されており,また,該曲げ強さは,劣化特性値でもあることが理解される。
上記「第4 1」に記したように,カーボンシールの曲げ強さは,ネジ山摩耗量と読み替えることができるから,ネジ山摩耗量を劣化特性値として測定するものも刊行物1に記載されているといえる。

6 ネジの使用回数Tと故障データ又はネジの使用回数Tとネジ山摩耗量のいずれかが測定され余寿命L_(1)が求められることについて
摘記事項(1-7)によれば,「各構成部品の故障データ又は部品劣化特性データ,例えば加速寿命試験データに基づいて求めた各部品の信頼度より求めたCRDの余寿命をL_(l)’’として,両者のうちの短い方を余寿命L_(1)とする。」とされており,余寿命 L_(l)’’の求め方には2通りあり,故障データから求めてもよいし,上記「第4 5」で言及した部品劣化特性データ,すなわち,ネジ山摩耗量を使用して求めてもよいことが理解される。そして,ネジの使用回数が測定されていることは,前記「第4 3」に記したとおりである。

第5 刊行物1記載の発明
上記「第3 1」及び「第4」に記したことからみて,刊行物1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「発電プラントの電動弁のネジの使用回数Tを検出し,
発電プラントの電動弁を構成する部品の1つである電動弁のネジのネジ山摩耗と関連する実験定数x,y,zを決定する方法であって,
発電プラントから該ネジの使用回数の履歴データを含むデータが,外部システムインターフェース5を介して送られて,発電プラント外部のデータベースシステム17に保存され,該ネジの使用回数の履歴データをデータベースシステム17から読み出すことが可能である前記決定方法において,
ネジの劣化特性式
σ=σ_(0)exp{-f(T)×t^(α)}及び
f(T)≒xT^(2)+yT+z
(ここで,σはネジ山摩耗量,σ_(0)は初期値を意味する。tは時間を意味する。αは一般的にはα=1で,x,y,zは実験定数で未知数である。Tは使用回数を意味する。)からなる式を用いて,余寿命が該発電プラントにオンライン接続されたエキスパートシステム(11)で計算されており,
検出され保存された使用回数Tが,利用時間の後にデータベースシステム17から読み出され,該読み出された該ネジの使用回数Tとネジ山摩耗量σを用い,
前記ネジの劣化特性式によって与えられる式に,最小二乗法を適用して,前記実験定数x,y,zが決定されることを特徴とするネジの摩耗と関連する定数を決定する方法」

第6 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 引用発明の「発電プラント」は,本願発明の「システム」に相当する。そして,引用発明の「使用回数T及び時間t」は,発電プラントの利用に依存し,駆動に関係する量といえるから,
引用発明の「発電プラントの電動弁のネジの使用回数T及び時間tを検出」することは,
本願発明の「システム内で利用に依存する駆動量(x(t))を検出」することに相当することは明らかである。

2 引用発明の摩耗は老化によって生じるものであるから,
引用発明の「発電プラント電動弁を構成する部品の1つである電動弁のネジのネジ山摩耗と関連する実験定数x,y,zを決定する方法であって,」は,実験定数x,y,zは,ネジ山の摩耗の変化により決まるパラメータであるから,
本願発明の「技術的システムの老化による変化を示すパラメータを決定する方法であって」に相当する。

3 引用発明の「使用回数T」は,本願発明の「駆動量(x(t))」に相当する。
また,本願発明の「老化による変化を示すパラメータ(a(t))」について,本願発明の特定事項に「摩耗または老化を示すパラメータ(a_(k)(t_(k)))が,利用されるシステムの摩耗を付加的に測定することにより決定され」とあることから,摩耗を測定したものも「老化による変化を示すパラメータ(a(t))」に包含されることは明白である。そうすると,引用発明の「σ」すなわち「ネジ山摩耗量」は,本願発明の「老化による変化を示すパラメータ(a(t))」に相当する。
そして,「σ=σ_(0)exp{-f(T)×t^(α)}及びf(T)≒xT^(2)+yT+z」からなる「ネジの劣化特性式」は,ネジ山摩耗量に関する式であるから,本願発明の「摩耗モデル(f)」に相当する。
そして,引用発明の「余寿命」が,本願発明の「前記パラメータ(a(t))または前記パラメータ(a(t))から導出された変量」に相当する。
そうすると,
引用発明の「ネジの劣化特性式
σ=σ_(0)exp{-f(T)×t^(α)}及び
f(T)≒xT^(2)+yT+z
(ここで,σはネジ山摩耗量,σ_(0)は初期値を意味する。tは時間を意味する。αは一般的にはα=1で,x,y,zは実験定数で未知数である。Tは使用回数を意味する。)からなる式を用いて,余寿命が該発電プラントにオンライン接続されたエキスパートシステム(11)で計算」されていることと,
本願発明の「摩耗モデル(f)を用いて,検出された駆動量(x(t))とシステムの老化による変化を示すパラメータ(a(t))との間の相関関係が形成され,前記パラメータ(a(t))または前記パラメータ(a(t))から導出された変量がシステム内部で計算され」ていることとは,
「摩耗モデル(f)を用いて,検出された駆動量(x(t))とシステムの老化による変化を示すパラメータ(a(t))との間の相関関係が形成され,前記パラメータ(a(t))または前記パラメータ(a(t))から導出された変量が計算され」る点で共通する。

4 引用発明の「発電プラントから該ネジの使用回数Tの履歴データを含むデータが,外部システムインターフェース5を介して送られて,発電プラント外部のデータベースシステム17に保存され,該ネジの使用回数Tの履歴データをデータベースシステム17から読み出すことが可能である前記決定方法」は,外部システムインターフェース5を介して,ネジの使用回数を含むデータが発電プラントの外部に送られているのであるから,本願発明の「 検出された利用に依存する駆動量がシステム外部で呼出し可能である前記決定方法」に相当することは明らかである。

5 上記「第6 3」で言及したように,引用発明の「前記ネジの劣化特性式によって与えられる式」は,ネジ山摩耗量に関連する式であり,本願発明の「摩耗モデル(f)」に相当することは明白である。
よって,引用発明の「前記ネジの劣化特性式によって与えられる式」は,本願発明の「f=f(p,x(t),a(t))=0 によって与えられる摩耗モデル(f)」に相当する。

6 引用発明の「実験定数であるx,y,z」は,本願発明の「利用に依存しないシステム内在のパラメータ(A,B,・・・)」に相当する。
また,刊行物1は,摘記事項(1-10)に「複数の部品から成り少なくとも1つの機能を有する部品の集合体」を対象とするものであるが,同一システムクラスであることも,システムがK個であることも明記されていない。したがって,引用発明が本願発明の「同一システムクラスのシステムがK個である」ことを具備しているか不明である。
引用発明の「余寿命」を得る際に「ネジ山摩耗量を測定して得た部品劣化特性データ」が使用されているから,ネジ山摩耗量は,本願発明の「摩耗または老化を示すパラメータ(a_(k)(t_(k)))」に相当するが,引用発明は,前記したとおり同一クラスのシステムがK個あるか不明であって,測定されるネジ山も摩耗量もシステムごとに対応するものとはなっていない。
また,引用発明は,本願発明の「K個の方程式」について特定事項として具備していない。
以上のことから,
引用発明の「検出され保存された使用回数Tが,利用時間の後にデータベースシステム17から読み出され,該読み出された該ネジの使用回数Tとネジ山摩耗量σを用い」,「前記ネジの劣化特性式によって与えられる式に,最小二乗法を適用して,前記実験定数x,y,zが決定される」ことと,
本願発明の「利用に依存しないシステム内在のパラメータ(A,B,・・・)を表すパラメータベクトル(p)は,同一システムクラスのシステムがK個である場合,検出され保存された駆動量(x_(k)(t))がそれぞれ,利用時間(t_(k))後にシステム外部で呼び出され,前記検出され保存された駆動量に基づいてシステムごとに対応する,摩耗または老化を示すパラメータ(a_(k)(t_(k)))が,利用されるシステムの摩耗を付加的に測定することにより決定され(k=1,・・・,K),次いで摩耗モデル(f_(k))のK個の方程式に基づいて,システムクラスのための前記パラメータベクトル(p)が決定され」ることとは,
「利用に依存しないシステム内在のパラメータ(A,B,・・・)を表すパラメータ(p)は,検出され保存された駆動量(x_(k)(t))がそれぞれ,利用時間(t_(k))後にシステム外部で呼び出され,前記検出され保存された駆動量に基づいて対応する,摩耗または老化を示すパラメータ(a_(k)(t_(k)))が,摩耗を付加的に測定することにより決定され」るという点で共通する。

7 引用発明の「前記ネジの劣化特性式」は,本願発明の「方程式f=f(p,x(t),a(t))=0によって与えられるシステムの摩耗モデルf_(k)」に相当するが,刊行物1には,最小二乗法を適用して前記実験定数x,y,zが決定されることについて,記載されているものの,具体的にどのように計算するのか記載されていない。
したがって,
引用発明の「前記ネジの劣化特性式によって与えられる式に,最小二乗法を適用して,前記実験定数x,y,zが決定される」ことと,
本願発明の「方程式f=f(p,x(t),a(t))=0によって与えられるシステムの摩耗モデルf_(k)に,求められた駆動量x_(k)(t)及び決定された老化パラメータa_(k)(t_(k))を代入することにより,利用に依存しないシステム内在のp個のパラメータ(A,B,,,,)を含む前記パラメータベクトルpが,システムクラスの平均値として計算される,ことによって決定されること」とは,
「 方程式f=f(p,x(t),a(t))=0によって与えられるシステムの摩耗モデルf_(k)に基づき,前記パラメータ(p)が決定される」という点で共通する。

8 引用発明「ネジの摩耗」は,老化による変化に包含されるから,引用発明の「該ネジの摩耗と関連する定数を決定する方法」は,本願発明の「技術的システムの老化による変化を示すパラメータを決定する方法」に包含されることは明白である。

以上のことから,両発明は,下記の(一致点)及び(相違点1)?(相違点3)を有する。

(一致点)
「システム内で利用に依存する駆動量(x(t))を検出し,
技術的システムの老化による変化を示すパラメータを決定する方法であって,
摩耗モデル(f)を用いて,検出された駆動量(x(t))とシステムの老化による変化を示すパラメータ(a(t))との間の相関関係が形成され,前記パラメータ(a(t))または前記パラメータ(a(t))から導出された変量が計算され,
検出された利用に依存する駆動量がシステム外部で呼出し可能である前記決定方法において,
f=f(p,x(t),a(t))=0によって与えられる摩耗モデル(f)において,
利用に依存しないシステム内在のパラメータ(A,B,・・・)を表すパラメータ(p)は,
検出され保存された駆動量(x_(k)(t))がそれぞれ,利用時間(t_(k))後にシステム外部で呼び出され,
前記検出され保存された駆動量に基づいて対応する,摩耗または老化を示すパラメータ(a_(k)(t_(k)))が,摩耗を付加的に測定することにより決定され,
方程式f=f(p,x(t),a(t))=0によって与えられるシステムの摩耗モデルf_(k)に基づき,前記パラメータ(p)が決定される技術的システムの老化による変化を示すパラメータを決定する方法。」

(相違点1)
変量の計算について,本願発明では「システム内部で計算」されるのに対して,引用発明では,システムである発電プラントの外部に設けられたエキスパートシステム11で計算される点

(相違点2)
利用に依存しないシステム内在のパラメータ(A,B,…)を表すパラメータについて,本願発明では,「パラメータベクトル(p)」となっているのに対して,引用発明では,実験定数であるx,y,zは,ベクトルとして扱われているか不明である点。

(相違点3)
本願発明が,「同一システムクラスのシステムがK個である場合」としているのに対して,引用発明は,かかる特定事項を具備しておらず,
本願発明が「摩耗モデル(f_(k))のK個の方程式に基づいて,システムクラスのための前記パラメータベクトル(p)が決定」されているに対して,引用発明では最小二乗法を適用しているとしているだけで,方程式の数は不明であり,
摩耗を付加的に測定する対象が,本願発明では「前記検出され保存された駆動量に基づいてシステムごとに対応する」ものであるのに対して,引用発明では,そのようなものではなく,
前記パラメータ(p)の決定に際し摩耗モデルf_(k)に代入するものが,本願発明では「求められた駆動量x_(k)(t)及び決定された老化パラメータa_(k)(t_(k))」であるのに対して,引用発明では,具体的に何を代入して最小二乗法を適用して決定されるのか明確に特定されてなく,
決定された利用に依存しないシステム内在のパラメータ(A,B,・・・)を表すパラメータ(p)が,本願発明では「利用に依存しないシステム内在のp個のパラメータ(A,B,,,,)を含む前記パラメータベクトルpが,システムクラスの平均値として計算される」のに対して,引用発明では,そのようなものではない点

第7 検討及び判断
1 相違点1について
演算装置は,回線で結ばれていればどこにでも設けることができることは技術常識である。
そうすると,引用発明において,相違点1に記載の本願発明の特定事項の如く構成することは,システムを設計する際に,当業者が適宜決め得る単なる設計的事項といえる。

2 相違点2について
n個の未知数をベクトルを(n×1)のベクトルと表現することも,連立方程式の解法において,普通に用いられている表現である。(例えば,刊行物3の摘記事項(3-1)を参照されたい。)
したがって,この点は,単なる表現上の差異にすぎない。

3 相違点3について
(1)同一システムクラスのシステムがK個であることについて
刊行物1には,摘記事項(1-10)に「複数の部品から成り少なくとも1つの機能を有する部品の集合体」を対象とする旨記載されているが,同一システムクラスであることもシステムがK個であることも明記されていない。
しかしながら,部品の寿命の推定に,同一システムクラスのシステムを分析対象とすることは,例えば,下記刊行物4及び5に記載されているように本願優先日前より周知の技術的事項である。
したがって,引用発明において,「複数の部品から成り少なくとも1つの機能を有する部品の集合体」を,上記周知の同一システムクラスのシステムとして,相違点3に記載の本願発明の特定事項のごとく構成することは,当業者が適宜なし得たものといえる。

刊行物4:特開2000-46905号公報
(4-1)「【要約】【課題】 寿命サイクル数を簡単で正確に求めて,信頼性をより簡単で正確に評価できる電子機器の信頼性評価方法およびその信頼性評価装置を提供する。
【解決手段】 ステップa1において,特定の電子機器に対する温度サイクル試験を行って,全ての電子機器に普遍な寿命サイクル数と歪み振幅との間の関係式,すなわち寿命歪み関係式を求める。次のステップa2において,任意の電子機器の解析モデルに対して熱応力シミュレーションを行い,歪みの振幅を算出する。次に,寿命歪み関係に,任意の電子機器の解析モデルに対する歪みの振幅を代入して,任意の電子機器の解析モデルの寿命サイクル数を求める。これによって,電子機器の寿命サイクル数を簡単で正確に求めることができ,電子機器の信頼性を簡単で正確に評価することができる。」

(4-2)「【0007】1997 IEMT/IMC Proceedings「THERMAL FATIGUE LIFE PREDICTION OF SOLDERJOINTS USING STRESS ANALYSIS」では,BGAによる複数のバンプに配分される応力を考慮した上で,周期的温度条件下の単一のバンプに対して弾性およびクリープに関する熱応力シミュレーションを行い,単一のバンプに対する寿命サイクル数と寿命に達するまでに発生した歪みの振幅との間の関係式であるCoffin-Manson則を用いて,寿命サイクル数の周波数特性を求めている。」

(4-5)「【0036】次にステップb5において,寿命サイクル数Nfと歪み振幅Δεとの間のCoffin-Manson則に従う寿命関係式(1)に,求められた(Nf1,Nf2)と(Δε1,Δε2)とを代入して,定数a,bの連立方程式を得る。これを解いて定数a,bを求めることで,あらゆるICパッケージに対する寿命サイクル数Nfおよび歪み振幅Δεの寿命関係式(1)を完成することができる。次のステップb6において,処理を終了する。
【0037】
Nf = a(Δε)^(b ) ・・・(1)
なお,3個以上のICパッケージに対して,歪み振幅と寿命サイクル数とをそれぞれ求めた場合は,最小2乗法などによって最適な定数a,bを求めることができる。」

刊行物4には,寿命関係式(1)「Nf = a(Δε)^(b) 」の定数a及びbを求めるに際して,3個以上のICパッケージ,すなわち,同じ種類のシステム3個以上から得たデータを使用し,最小二乗法により求めることが記載されている。刊行物4記載の「3個以上のICパッケージ」は,本願発明の「同一システムクラスのシステム」が3個以上あるといえる。

刊行物5:特開平11-67861号公報
(5-1)「【0003】耐エレクトロマイグレーション性の評価において重要なことは,試験結果に基づいて実使用条件における金属配線の寿命を推定することである。・・・(略)・・・」

(5-2)「【0018】【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)本発明に係る金属配線の評価方法及び評価装置の第1の実施形態を,図1を参照して説明する。図1は,本実施形態に係る金属配線の評価装置の構成を示すブロック図である。図1において,入力手段11は,集積回路における同一仕様よりなる金属配線のうちのN本(NはN≧3なる整数)の試験配線がそれぞれ有する,予め測定された初期配線抵抗値R0と抵抗温度係数TCRとからなる熱パラメータを受け取るための熱パラメータ入力手段である。試験手段12は,試験配線における印加電流密度がそれぞれ異なるように各試験配線へ異なる定電流をそれぞれ並行して供給し,該異なる印加電流密度に応じた各試験配線の配線抵抗値を測定し,該測定された配線抵抗値と受け取った熱パラメータとに基づいて各試験配線における配線温度を算出し,かつ,異なる印加電流密度に応じた配線抵抗値の変化に基づいて各試験配線の故障時間を測定するためのエレクトロマイグレーション試験手段である。試験手段12は,定電流源と,電圧計と,タイマーとから構成される。方程式作成手段13は,異なる印加電流密度と配線温度と故障時間とからなる各々の組合せを予め定められた関係式へ入力することによって,N個の評価式よりなる連立方程式を作成するための連立方程式作成手段である。求解手段14は,該作成された連立方程式を解くことによって,パラメータa,b,cをそれぞれ算出するための連立方程式求解手段である。算出及び出力手段15は,受け取ったパラメータa,b,cに基づいて,同一仕様よりなる金属配線の加速係数A,電流密度係数n,及び活性化エネルギーEaをそれぞれ算出し,かつこれらを出力するための算出及び出力手段である。
【0019】本実施形態に係る金属配線の評価方法を実現するための,図1の金属配線の評価装置の動作を説明する。入力手段11は,N本(NはN≧3なる整数)よりなる試験配線がそれぞれ有する,配線温度T0における初期配線抵抗値R0と抵抗温度係数TCRとからなる,配線温度Tを算出するための熱パラメータを受け取る。試験手段12は,N本の試験配線に対して,それぞれ異なる印加電流密度による定電流印加法を使用してエレクトロマイグレーション試験を行なう。すなわち,試験配線へ印加されるべき定電流値を該試験配線の断面積で除すことによって,印加電流密度Jを算出する。印加電流密度Jがそれぞれ異なるように,各試験配線へ異なる定電流を並行して印加する。定電流を印加されている各試験配線の配線抵抗値Rを測定し,該測定された配線抵抗値Rと受け取った熱パラメータとに基づいて,式(5)を使用して配線温度Tを算出する。該測定された配線抵抗値Rの変化に基づいて,各試験配線の故障時間τを測定する。このことによって,それぞれ求めようとする,加速係数A,電流密度係数n,及び活性化エネルギーEaを求解できるだけの,印加電流密度Jと配線温度Tと故障時間τとからなるデータの組合せをN個だけ得られる。この場合において,該データの組合せの数が多いほど,求解された加速係数A,電流密度係数n,及び活性化エネルギーEaの精度は高くなる。方程式作成手段13は,式(3)に基づくエレクトロマイグレーション評価式,
a+{-ln(J)}・b+(1/kT)・c=ln(τ) (6)
へ,試験手段12によって得られた印加電流密度Jと配線温度Tと故障時間τとを代入し,パラメータa,b,cを未知数とする方程式を,試験配線1本につき1個作成する。ここで,式(6)は,式(3)の両辺の自然対数をとって変形した式,
ln(τ)=ln(A)+{-ln(J)}・n+(1/kT)・Ea (7)
において,a=ln(A),b=n,c=Eaとおいて得られた評価式である。式(6)は1本の試験配線についての評価式であって,N本の試験配線については,図1の方程式作成手段13に記載された,行列で表わされたN個の連立一次方程式が得られる。求解手段14は,ガウス-ヨルダン法,ドリトル法,コレスキー法,バンド行列に対する方法,乗積形逆行列法,ガウス-ザイデル法等の数値解析によって,方程式作成手段13において生成されたN個の連立一次方程式を解き,パラメータa,b,cを算出する。算出及び出力手段15は,該算出されたパラメータa,b,cに基づいて,未知数である加速定数A,電流密度係数n,及び活性化エネルギーEaを,それぞれA=exp(a),n=b,Ea=cなる計算により求め,該求められたそれぞれの値を,ディスプレイ表示,印字等の方法によって出力する。
【0020】以上説明したように,第1の実施形態に係る金属配線の評価方法及び評価装置によれば,同一仕様よりなるN本(NはN≧3なる整数)の金属配線よりなる試験配線に対して,それぞれ異なる電流密度となるように異なる定電流を並行して供給する。各試験配線について印加電流密度Jと配線温度Tと故障時間τとからなるデータの組合せを算出し,N個の評価式からなる連立方程式を生成し,該連立方程式を数値解析により解いて金属配線の加速係数A,電流密度係数n,及び活性化エネルギーEaを算出する。」

刊行物5の「同一仕様よりなるN本(NはN≧3なる整数)の金属配線よりなる試験配線」は,本願発明の「同一システムクラスのシステム」がN本あることを意味する。さらに,刊行物5では,パラメータa,b,cを算出するため,N個の連立方程式が生成されている。

(2)方程式の数について
本願発明において,パラメータベクトル(p)に含まれる未知数の数とK個の方程式の数との関係について特定されていないが,請求項1を引用する請求項2には,「システムがK個である場合に,方程式システムf_(k)=f(p,x_(k)(t),a_(k)(t_(k))) =0, k=1,・・・,K が形成され,K≧Pについて解として,パラメータベクトルpが,考察されるシステムクラスのための近似値として定められており,Pがパラメータベクトルpのパラメータ数を表すことを特徴とする,請求項1に記載の方法。」記載されており,システムクラスの数K個と,パラメータベクトルpに含まれるパラメータ数Pとの間の関係として,K≧Pのものが,本願発明に包含されていることは明白である。
他方,一般的な解説書である刊行物2には,最小二乗法による重回帰式の係数の求め方が記載されている。そして,係数の数だけ連立方程式が必要となることは,刊行物2にも記載されているように技術常識である。すなわち,摘記事項(2-1)に「・・・このような考え方を最小2乗法といいます。
S_(E)が最小となるための係数a_(0),a_(1),a_(2),・・・a_(p)は,S_(E)をa_(0),a_(1),a_(2),・・・a_(p),a_(0)で偏微分してゼロとおき,〈2 -15〉式で示すような(P十l)元の連立方程式を作り,これを解くことによって,導くことができます。」と記載されており,P+1個の係数a_(0),a_(1),a_(2),・・・a_(p)(係数の添え字が0から始まるから,係数の総数はP+1となる。)を求めるのに,P+1個の連立方程式を作成している。
そうすると,引用発明において,刊行物1記載の最小二乗法を適用するという教示に従い,刊行物2に記載のような最小二乗法に関する技術常識を適用すれば,3つの実験定数x,y,zを求めるのに3つの連立方程式が必要となることは,自明なことであり,相違点3の本願発明のごとく構成することは,当業者が何の創作力を要することなく案出し得たことといえる。

(3)方程式に代入するものについて
本願発明の「決定された老化パラメータa_(k)(t_(k))」とは,本願発明の「摩耗または老化を示すパラメータ(a_(k)(t_(k)))が,利用されるシステムの摩耗を付加的に測定することにより決定され」との特定事項からみて,システムの摩耗を付加的に測定することにより決定された老化パラメータa_(k)(t_(k))と解される。
そこで,検討するに,引用発明においても,余寿命を測定するに際して,システムごとに対応するものではないが,ネジ山摩耗量は測定されている。
式(8)「ネジ山摩耗量σ(t)=σ_(0)exp{-f(T)×t^(α)}」に,「f(T)≒xT^(2)+yT+z」を代入した,
σ(t)=σ_(0)exp{-(xT^(2)+yT+z)×t^(α)}から,実験定数x,y,zを求めるのに必要なのは,使用回数Tとσ(t)の2つの変数であることは,式から自明であり,使用回数Tとネジ山摩耗量σ(t)の測定データを用いれば,計算し得ることは,明らかなことである。
何を代入して計算するかは,使用する部品の種類,部品劣化特性データを何に決めるか等に応じて,当業者が適宜決め得る単なる設計的事項といえる。
そして,「システムごとに対応する」ことは,上記「第7 3(1)」のごとく,同一システムクラスのシステムを分析対象とすることにより,必然的にシステムごとに対応するネジ山摩耗量が測定されることとなる。

(4)パラメータベクトルpが,システムクラスの平均値として計算されることについて
上記「第7 3(1)」に記したように,引用発明の「複数の部品から成り少なくとも1つの機能を有する部品の集合体」を同一のシステムクラスのシステムとすることは,当業者が容易になし得たものであり,また,それを方程式に適用してシステムクラスのための前記パラメータベクトル(p)を決定することも上記「第7 3(2)」「第7 3(3)」に記したように,当業者が容易になし得たことである。
してみると,引用発明において,「複数の部品から成り少なくとも1つの機能を有する部品の集合体」を,上記周知の同一システムクラスのシステムとし,刊行物1記載の最小二乗法を適用するという教示に従い,刊行物2に記載のような最小二乗法に関する技術常識を適用して,実験定数x,y,zを求めれば,必然的に,得られた実験定数x,y,zは,システムクラスの平均値というべきものとなり,相違点3の本願発明のごとく構成されるものといえる。

4 本願発明の作用効果について
本願発明の作用効果は,刊行物1記載の事項,刊行物2及び3に記載の技術常識並びに刊行物4,5に記した周知の技術的事項にから予測し得るものであって,格別顕著な作用効果とはいえない。

第8
以上のとおり,本願発明は,刊行物1記載の発明,刊行物2及び3に記載の技術常識並びに刊行物4,5に記した周知の技術的事項から,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に基づき特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-25 
結審通知日 2010-10-26 
審決日 2010-11-08 
出願番号 特願2001-305114(P2001-305114)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 裕司  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 石川 太郎
岡田 孝博
発明の名称 技術的システムの老化による変化の検出方法,その装置,プログラム,記録媒体,検出システム,摩耗モデルの決定装置  
代理人 亀谷 美明  

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