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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1234400
審判番号 不服2009-12404  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-07 
確定日 2011-03-24 
事件の表示 特願2001-302783「表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月11日出願公開、特開2003-109527〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2001年9月28日の出願であって、平成21年3月31日付け(送達日:平成21年4月7日)で拒絶査定がなされ、これに対し平成21年7月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年7月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成21年1月26日付けの手続補正は、平成21年3月31日付けの補正の却下の決定により却下されているので、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、平成20年5月7日付けの手続補正によって補正された本件補正前の、
「 電子線を放射させる電子源素子が一表面側に配設されたリヤプレートと、リヤプレートに対向配置され電子源素子から放射される電子線により励起されて発光する蛍光体層が設けられたフェースプレートと、リヤプレートとフェースプレートとの間に介在する枠状の支持用スペーサとを備え、リヤプレートとフェースプレートと支持用スペーサとで囲まれた空間が真空に保たれた表示装置であって、リヤプレートを補強する補強材がリヤプレートの他表面側に設けられてなり、補強材は、リヤプレートの前記一表面に直交する方向に延び且つリヤプレートの厚み方向に直交する断面が一定の規則に従い組織化された補強壁により形成されてなり、リヤプレートとの間に補強材を挟持する補助プレートを備えることを特徴とする表示装置。」
から、本件補正後の、
「 電子線を放射させる電子源素子が一表面側に配設されたリヤプレートと、リヤプレートに対向配置され電子源素子から放射される電子線により励起されて発光する蛍光体層が設けられたフェースプレートと、リヤプレートとフェースプレートとの間に介在する枠状の支持用スペーサとを備え、リヤプレートとフェースプレートと支持用スペーサとで囲まれた空間が真空に保たれた表示装置であって、リヤプレートを補強する補強材がリヤプレートの他表面側に設けられてなり、補強材は、リヤプレートの前記一表面に直交する方向に延び且つリヤプレートの厚み方向に直交する断面が一定の規則に従い組織化された補強壁により形成されてなり、リヤプレートとの間に補強材を挟持する補助プレートを備え、電子源素子は、下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在し、下部電極の主表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン、グレインの表面に形成された薄いシリコン酸化膜、グレイン間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶および各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されシリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数のシリコン酸化膜を有する強電界ドリフト層とを備えることを特徴とする表示装置。」
に補正する事項を含むものである。

2.補正の適否
上記の補正内容は、請求項1に係る発明の発明特定事項である、
「電子源素子」を、「電子源素子は、下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在し、下部電極の主表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン、グレインの表面に形成された薄いシリコン酸化膜、グレイン間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶および各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されシリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数のシリコン酸化膜を有する強電界ドリフト層とを備える」に限定する補正事項である。

当該補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3. 引用例に記載された発明
[1]引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された特開平8-298086号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに下記の記載がある。

A)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マイクロチップや薄膜から、例えば炭素-ダイヤモンド薄膜から電子を引き抜いて放出させる平面表示画面を含めて、電極間隔を広くした平面表示画面の製造に関するものである。
【0002】本発明は、より詳細には蛍光体要素を含む陽極に電子衝撃を加えるためのマイクロチップを有する陰極を備えた平面表示画面に関するものである。このような画面を、通常マイクロチップ蛍光画面と呼ぶ。
【0003】
【従来の技術】図1は、平面マイクロチップ画面の構造を示す図である。
【0004】このようなマイクロチップ画面は、マイクロチップ2を含む陰極1と、マイクロチップ2に対向する孔4を備えたゲート3とから主に構成されている。陰極1は、画面の表面を成すガラス製基板6を備えた陰極蛍光陽極5に対向している。」

B)「【0006】陰極1は、列に分割され、導電層から網目状に配列した陰極導体で、ガラス基板10上に構成されている。マイクロチップ2は、陰極導体上に付着させた抵抗層11上に設けられており、陰極導体が画定する網目の内側に配設されている。図1は、網目の内部を部分的に示す図であるが、この図には陰極導体を示していない。陰極1は、行を成すように配設したゲート3と関連させてある。絶縁層(図示せず)が陰極導体とゲート3の間に設けられている。ゲート3の行と陰極1の列との交点が画素を画定する。
【0007】本装置では、陰極1とゲート3の間に発生させた電界を利用して、電子をマイクロチップ2から陽極5の蛍光体要素7に向かって射出する。カラー表示画面の場合、陽極5には、蛍光体要素7の交互ストリップが設けてあり、各ストリップが1つの色(赤、緑、青)に対応している。ストリップは、絶縁体8によって相互に隔てられている。蛍光体要素7は、電極9の上に付着させてあり、電極9は、インジウム-スズ酸化物(ITO)などの透明でストリップ状になった対応する導電層から成っている。赤、緑、青のストリップのグループを選択して陰極1に対する極性を与えると、陰極およびゲートから成る1つの画素のマイクロチップ2から放出される電子は、各色に対応する蛍光体要素7の方向に選択的に導かれる。」

C)「【0031】
【発明の実施の形態】図3に示すように、本発明においては、画面の外面に固定した厚い剛性プレート20および21を使用して構造の剛性を高めている。したがって、電極間の空間12を、単純な外周剛性フレーム22で画定することができ、内部スペーサの配設による、陽極およびゲート/陰極をそれぞれ支持する基板6および10の変形を防止する必要がない。
【0032】本発明によれば、内部空間すなわち電極間の空間12の所望の厚さに対応する厚さを有する外周剛性フレーム22を使用することが好ましい。
【0033】スペーサが画面の表面全体に分布していないため、単純な溶融ガラスによる封止を行う場合、ガラスが溶融過程で平坦化し、電極12間の距離をあらかじめ決定することが困難になる。したがって、本発明によれば、例えば、フレーム22の各表面と、この表面に関連する基板6および10との間に挟んだ溶融ガラスの封止部分2箇所(図示せず)で、基板6および10を組み合わせる。」
D)「【0046】画面の表面となるプレート(一般に、陽極5を支持する基板6と関連があるプレート20)は、表示を行う上で透明でなければならない。これとは対照的に、画面の底部となるプレート(例えば、プレート21)は、不透明にすることができる。
・・・
【0051】画面の底部と関連する不透明なプレートは、例えば、セラミック、金属、またはその他の不透明プラスチックで作製することができる。また、不透明なプレートは、ハニカム構造や網目状構造にして、強度を低下させることなく軽量化することもできる。画面底部の基板(例えば、陰極を支持する基板10)は、例えばセラミックで作製して不透明にすることもできる。」

E)「【0053】実施例においては、プレート20および21を、間に(透明な)溶融ガラス層24を挟んでそれぞれ基板6および10と組み合わせる。ガラス層24の溶融温度は、後続する作業で、間にフレーム22を挟んで基板6および10を組み合わせるのに使用するガラス封止部分(図示せず)の溶融温度より若干高めに設定する。
【0054】本発明の別の実施例では、基板6および10を制御した雰囲気、例えば窒素中で組み合わせ、高温で封止する。次にプレート20および21を低温で接合して基板6および10に接着する。内部空間12を排気チューブ15を介してポンプで真空引きし、チューブの開放端部を封止する。」

F)「【0067】また、前記の説明では、マイクロチップ画面について述べたが、本発明は、例えば炭素-ダイヤモンドなど、電子射出膜を含む蛍光体画面に適用することができる。」

上記A)?F)及び図面の記載から、下記の事項を読み取ることが出来る。

(1)上記記載B)【0006】の、「陰極1は、列に分割され、導電層から網目状に配列した陰極導体で、ガラス基板10上に構成されている。マイクロチップ2は、陰極導体上に付着させた抵抗層11上に設けられており」という記載からみて、上記記載A)の「陽極に電子衝撃を加えるためのマイクロチップ」が、「ガラス基板10上」に「陰極導体」及び「抵抗層11」を介して「ガラス基板10上」に設けられていることが読み取れる。

(2)上記記載A)【0004】の、「このようなマイクロチップ画面は、マイクロチップ2を含む陰極1と、マイクロチップ2に対向する孔4を備えたゲート3とから主に構成されている。陰極1は、画面の表面を成すガラス製基板6を備えた陰極蛍光陽極5に対向している。」という記載、及び、上記記載B)【0006】の、「陰極1は、列に分割され、導電層から網目状に配列した陰極導体で、ガラス基板10上に構成されている。」という記載からみて、「ガラス基板10」上に設けられた「陰極1」と「基板6」とが「対向している」ことが読み取れる。

(3)上記記載A)【0002】の、「蛍光体要素を含む陽極に電子衝撃を加えるためのマイクロチップを有する陰極を備えた平面表示画面に関するものである」、同【0004】の、「陰極1は、画面の表面を成すガラス製基板6を備えた陰極蛍光陽極5に対向している」という記載からみて、「基板6」に「蛍光体要素」が設けられていることが読み取れる。

(4)上記記載C)【0031】の、「電極間の空間12を、単純な外周剛性フレーム22で画定することができ」という記載、及び、上記記載E)【0053】の、「間にフレーム22を挟んで基板6および10を組み合わせる」という記載からみて、「基板および基板10の間に挟まれる電極間の空間12を画定する外周剛性フレーム22」という技術事項が読み取れる。

(5)上記記載E)【0053】の、「間にフレーム22を挟んで基板6および10を組み合わせる」という記載、及び、同【0054】の、「内部空間12を排気チューブ15を介してポンプで真空引きし、チューブの開放端部を封止する」という記載からみて、「基板6および基板10と外周剛性フレーム22の内部空間12が真空引きされ封止された」平面表示画面という技術事項が読み取れる。

(6)上記記載C)【0031】の、「画面の外面に固定した厚い剛性プレート20および21を使用して構造の剛性を高めている」という記載、上記記載D)【0046】の、「画面の底部となるプレート(例えば、プレート21)は、不透明にすることができる」という記載、同【0051】の、「不透明なプレートは、ハニカム構造や網目状構造にして、強度を低下させることなく軽量化することもできる」という記載、及び、上記記載E)【0053】の、「プレート20および21を、間に(透明な)溶融ガラス層24を挟んでそれぞれ基板6および10と組み合わせる」という記載からみて、「剛性プレート21が基板10の外面に組み合わせられ」、「剛性プレート21が、ハニカム構造を備える」という技術事項が読み取れる。

以上を総合勘案すると、引用例1には下記の発明が記載されていると認められる。

「陽極に電子衝撃を加えるためのマイクロチップがその上に設けられた基板10と、基板10に対向している蛍光体要素が設けられた基板6と、基板6および基板10の間に挟まれる電極間の空間12を画定する外周剛性フレーム22とを備え、基板6および基板10と外周剛性フレーム22の内部空間12を真空引きされ封止された平面表示画面であって、剛性プレート21が基板10の外面に組み合わせられてなり、剛性プレート21が、ハニカム構造を備える平面表示画面。」(以下、「引用発明1」という。)

[2]引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された特表2000-513831号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに下記の記載がある。

A)「第2f図は、外側支持構造体が一対の支持構造体64及び66からなる例を示す。支持構造体64及び66は種々の方法において形成され、種々の材料からなることができる。このため支持構造体64及び66は第2f図に全般的に示される。支持構造体64及び66の特定の形状の場合の実施例は以下に与えられる。
支持構造体64は外側表面40Eに沿ってベースプレート構造体40に取着される。示される例では、ベースプレート構造体40へのベースプレート支持構造体64の取着は、結合材料の層68を用いて実現される。結合層68は、ベースプレート支持構造体64がベースプレート支持構造体40に直に隣接する概ね全ての領域、すなわち結合材料68が存在しなかった場合には支持構造体64が概ねベースプレート構造体40に接触する領域に存在する。こうしてディスプレイ構成要素40、64及び68は、強化された複合ベースプレート構造体40/64/68を形成する。」(第27頁27行-第28頁9行)

B)「支持構造体64及び66は、空気圧及び他の外力によりディスプレイが圧潰するのを防ぐためにプレート構造体40と42との間にスペーサを挿入する必要性を排除或いは概ね削減するような強度を有するフラットパネルディスプレイを実現する。支持構造体64及び66それぞれの厚さは、プレート構造体40及び42の厚さ及び機械的強度、支持構造体64及び66の機械的強度、アクティブ領域54の大きさ、ディスプレイの対角線長、(もし存在するなら)プレート構造体40と42との間にあるスペーサの数、形状及び配置のような種々の要因に依存する。」(第29頁9-16行)

C)「第3.8図及び第4.2図では、ベースプレート支持構造体64は一様な厚さの一群の下側をなす平行な横方向に分離したバー106及び同様に一様な厚さの上側方形プレート108を用いて形成される。従って第3.8図及び第4.2図の支持構造体64は、第3.7図及び第4.1図の支持構造体64と基本的に逆である。プレート100及びバー102の材料及び構成についての内容は、ここでバー106及びプレート108についても当てはまる。第3.8図及び第4.2図の部分110はバー108間の覆われた溝部を示す。」(第38頁21-28行)

上記A)?C)及び図面の記載から、下記の事項を読み取ることが出来る。

(1)上記記載A)の、「支持構造体64は外側表面40Eに沿ってベースプレート構造体40に取着される。・・・こうしてディスプレイ構成要素40、64及び68は、強化された複合ベースプレート構造体40/64/68を形成する。」という記載からみて、「ベースプレート40の外側表面40Eに沿って支持構造体64を取着」することによって、ベースプレート40を「強化する」という技術事項が読み取れる。
また、上記記載C)の、「ベースプレート支持構造体64は一様な厚さの一群の下側をなす平行な横方向に分離したバー106及び同様に一様な厚さの上側方形プレート108を用いて形成される。」という記載及び図4.2の記載を併せてみると、「ベースプレート40を強化するバー106が、ベースプレート40の外側表面40Eに沿って取着される」という技術事項が読み取れる。
(2)上記記載C)の、「ベースプレート支持構造体64は一様な厚さの一群の下側をなす平行な横方向に分離したバー106及び同様に一様な厚さの上側方形プレート108を用いて形成される。」という記載及び図4.2の記載からみて、「バー106」が「一様な厚さの一群の下側をなす平行な横方向に分離」したものからなり、「ベースプレート40に取着したバー106の上側に方形プレート」を設けるという技術事項が読み取れる。

(3)上記記載B)の、「プレート構造体40と42との間にスペーサを挿入する必要性を排除或いは概ね削減するような強度を有するフラットパネルディスプレイを実現する」という記載からみて、「フラットパネルディスプレイ」という技術事項が読み取れる。

以上を総合勘案すると、引用例2には下記の発明が記載されていると認められる。

「ベースプレート40を強化するバー106が、ベースプレート40の外側表面40Eに沿って取着されてなり、バー106が、一様な厚さの一群の下側をなす平行な横方向に分離したものからなり、ベースプレート40に取着したバー106の上側に方形プレートを備えるフラットパネルディスプレイ」(以下、「引用発明2」という。)

[3]引用例3
本願の出願前に頒布された特開2001-155622号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに下記の記載がある。

A)「【0046】本実施形態の電界放射型電子源10は、図1に示すように、n形シリコン基板1の主表面上にノンドープの多結晶シリコン層3が形成され、該多結晶シリコン層3上に強電界ドリフト層6が形成され、該強電界ドリフト層6上に金薄膜よりなる導電性薄膜7が形成されている。また、n形シリコン基板1の裏面にはオーミック電極2が形成されている。
【0047】ところで、本実施形態では、導電性基板としてn形シリコン基板1を用いているが、導電性基板は、電界放射型電子源10の負極を構成するとともに真空中において上述の強電界ドリフト層6を支持し、なお且つ、強電界ドリフト層6へ電子を注入するものである。したがって、導電性基板は、電界放射型電子源10の負極を構成し強電界ドリフト層6を支持することができればよいので、n形シリコン基板に限定されるものではなく、クロムなどの金属基板であってもよいし、図3に示すようにガラス基板(あるいはセラミック基板)などの絶縁性基板11の一表面に導電性膜(例えば、ITO膜)12を形成したものであってもよい。このような絶縁性基板11の一表面に導電性膜12を形成した基板を用いる場合には、半導体基板を用いる場合に比べて、電子源の大面積化および低コスト化が可能になる。
【0048】また、上述の強電界ドリフト層6は、多孔質多結晶シリコンを酸により酸化して形成されており、導電性基板と導電性薄膜7との間に電圧を印加したときに電子が注入される層である。強電界ドリフト層6は、多数のグレインよりなる多結晶体であり、各グレインの表面には酸化膜を有するナノメータ単位の構造(以下、ナノ構造と称す)が存在する。強電界ドリフト層6に注入された電子がナノ構造に衝突することなく(つまり、電子散乱することなく)強電界ドリフト層6の表面に到達するためには、ナノ構造の大きさは、単結晶シリコン中の電子の平均自由行程である約50nmよりも小さいものであることが必要である。ナノ構造の大きさは、具体的には10nmより小さいものがよく、好ましくは5nmよりも小さいものがよい。」

B)「【0057】ところで、強電界ドリフト層6は、上述の陽極酸化処理により形成されたナノ構造よりなるシリコン微結晶の表面が希硝酸によって酸化されているものと考えられる。要するに、本実施形態では、強電界ドリフト層6は、図5に示すように、少なくとも、柱状の多結晶シリコン61(グレイン)と、多結晶シリコン61の表面に形成された薄いシリコン酸化膜62と、柱状の多結晶シリコン間に介在する微結晶シリコン層63と、微結晶シリコン層63の表面に形成されたシリコン酸化膜64とから構成されると考えられる。」

C)「【0107】(実施形態6)ところで、既に説明したが実施形態1における強電界ドリフト層6は、図5に示すように、少なくとも、柱状の多結晶シリコン(グレイン)51と、多結晶シリコン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、多結晶シリコン51間に介在するナノメータオーダの微結晶シリコン層63と、微結晶シリコン層63の表面に形成され当該微結晶シリコン層63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜であるシリコン酸化膜64とから構成されるものと考えられる。すなわち、強電界ドリフト層6は、各グレインの表面が多孔質化し各グレインの中心部分では結晶状態が維持されていると考えている。したがって、強電界ドリフト部6に印加された電界はほとんどシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子はシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され多結晶シリコン51間を表面に向かって図5中の矢印Aの向きへ(図5中の上方向へ向かって)ドリフトするので、電子の放出効率を向上させることができる。そこで、本願発明者らは電子の放出効率をより一層の高効率化のために上記シリコン酸化膜64に着目した。言い換えれば、本願発明者らは、微結晶シリコン層63の表面が完全に酸化した状態では図14に示すように微結晶シリコン層63の表面の全面が酸素原子65により覆われているのに対して、上述の急速熱酸化法により酸化した場合には図15に示すように微結晶シリコン層63の表面が酸素原子65により完全に覆われていないのではないか(つまり、酸素原子65による微結晶シリコン層63の被覆率が不十分ではないのか)と考えた。」

上記A)?C)及び図面の記載から、下記の事項を読み取ることが出来る。

(1)上記記載A)?C)の記載からみて、「電界放射型電子源10」が、「導電性膜12」と、「導電性薄膜7」と、「柱状の多結晶シリコン61(グレイン)、多結晶シリコン61の表面に形成された薄いシリコン酸化膜62、柱状の多結晶シリコン間に介在するナノメータオーダの微結晶シリコン層63、および、微結晶シリコン層63の表面に形成され当該微結晶シリコン層63の結晶粒径よりも小さな膜厚のシリコン酸化膜64を有する強電界ドリフト層6」とを備えるという技術事項が読み取れる。

(2)上記記載A)?C)の記載及び図3、5の記載からみて、「導電性膜12」に対向して「導電性薄膜7」が設けられていること、「導電性膜12」と「導電性薄膜7」の間に「強電界ドリフト層6」が設けられていること、「柱状の多結晶シリコン61(グレイン)」が「導電性薄膜12」の主表面側に列設されていること、「ナノメータオーダの微結晶シリコン層63」が多数の微結晶シリコンからなること、及び、「シリコン酸化膜64」が多数あることは明らかである。

以上を総合勘案すると、引用例3には下記の発明が記載されていると認められる。

「 導電性膜12と、導電性膜12に対向する導電性薄膜7と、導電性膜12と導電性薄膜7との間に介在し、導電性膜12の主表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン、グレインの表面に形成された薄いシリコン酸化膜、グレイン間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶および各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されシリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数のシリコン酸化膜を有する強電界ドリフト層とを備える電界放射型電子源10。」(以下、「引用発明3」という。)

4.対比
そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「陽極に電子衝撃を加えるためのマイクロチップ」は本願補正発明の「電子線を放射させる電子源素子」に、「その上に設けられた」は「一表面側に配設された」に、「基板10」は「リヤプレート」に、「基板10に対向している」は「リヤプレートに対向配置され」に、「蛍光体要素」は「電子源素子から放射される電子線により励起されて発光する蛍光体層」に、「基板6」は「フェースプレート」に、「基板6および基板10の間に挟まれる」は「リヤプレートとフェースプレートとの間に介在する」は「電極間の空間12を画定する外周剛性フレーム22」は「枠状の支持用スペーサ」に、「基板6および基板10と外周剛性フレーム22の内部空間12」は「リヤプレートとフェースプレートと支持用スペーサとで囲まれた空間」に、「真空引きされ封止された」は「真空に保たれた」に、「平面表示画面」は「表示装置」に、「剛性プレート21」は「リヤプレートを補強する補強材」に、「基板10の外面に組み合わせられて」は「リヤプレートの他表面側に設けられて」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1における「ハニカム構造」は、その強度を発揮すべき力学的性状を鑑みるに、ハニカムを構成する壁が基板10の表面に直交する方向に延びているもの解するのが自然である。
してみると、同ハニカムを構成する壁が、基板6の「厚み方向に直交する断面が一定の規則に従い組織化された」ものとなることも明らかである。
したがって、引用発明1の「剛性プレートが、ハニカム構造を備える」は、本願補正発明の「補強材は、リヤプレートの前記一表面に直交する方向に延び且つリヤプレートの厚み方向に直交する断面が一定の規則に従い組織化された補強壁により形成されてなり」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明1とは、
「 電子線を放射させる電子源素子が一表面側に配設されたリヤプレートと、リヤプレートに対向配置され電子源素子から放射される電子線により励起されて発光する蛍光体層が設けられたフェースプレートと、リヤプレートとフェースプレートとの間に介在する枠状の支持用スペーサとを備え、リヤプレートとフェースプレートと支持用スペーサとで囲まれた空間が真空に保たれた表示装置であって、リヤプレートを補強する補強材がリヤプレートの他表面側に設けられてなり、補強材は、リヤプレートの前記一表面に直交する方向に延び且つリヤプレートの厚み方向に直交する断面が一定の規則に従い組織化された補強壁により形成されてなることを特徴とする表示装置。」
である点において一致し、次の点において相違する。

(相違点)
ア)リヤプレートの補強構造に関し、本願補正発明が「リヤプレートとの間に補強材を挟持する補助プレートを備え」るのに対して、引用発明1は当該構成を欠く点。

イ)電子源素子に関し、本願補正発明が「下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在し、下部電極の主表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン、グレインの表面に形成された薄いシリコン酸化膜、グレイン間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶および各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されシリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数のシリコン酸化膜を有する強電界ドリフト層とを備える」のに対して、引用発明1は「マイクロチップ」である点。

5.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点ア)について
引用発明2における「ベースプレート40」、「ベースプレート40を強化するバー106」は、それぞれ本願補正発明の「リヤプレート」、「補強材」に相当する。
一方、引用発明2において、ベースプレート40に取着したバー106の「上側に」方形プレートが設けられているから、ベースプレート40と方形プレートとの間に「ベースプレート40を強化するバー106」を挟持している。
したがって、引用発明2は、上記相違点ア)として挙げた「リヤプレートとの間に補強材を挟持する補助プレートを備え」るフラットパネルディスプレイであるといえる。

引用発明1と引用発明2とは、平面型表示装置という同一の技術分野に属し、補強用スペーサを不要にするという解決する課題が共通するものであるから(「2.[1]C)」及び「2.[2]B)」を参照)、引用発明1の「ハニカムを構成する壁」からなる補強材に対して、引用発明2におけるベースプレート40と方形プレートとの間に補強材(ベースプレート40を強化するバー106)を挟持するようになすことは、当業者が容易になしえることである。

したがって、上記相違点ア)に係る構成は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。

(2)相違点イ)について
引用発明3は、上記相違点イ)として挙げた、「下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在し、下部電極の主表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン、グレインの表面に形成された薄いシリコン酸化膜、グレイン間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶および各シリコン微結晶それぞれの表面に形成されシリコン微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数のシリコン酸化膜を有する強電界ドリフト層とを備える」電子源素子という、引用発明1が欠く構成を備えるものである。
また、引用発明1と引用発明3とは、電界放出型電子源として同一の技術分野に属し、引用発明1の電子源に換えて引用発明3の電子源を適用することを阻害する、特段の事情もみいだせない。
してみると、上記相違点イ)に係る構成は、引用発明1および引用発明3に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。

(3)まとめ
すなわち、本願補正発明は、引用発明1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明1ないし3から当業者が予測出来る範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用例1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成21年7月7日付けの手続補正は上記のとおり却下され、また、平成21年1月26日付けの手続補正は平成21年3月31日付けの補正の却下の決定により却下されているので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年5月7日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「 電子線を放射させる電子源素子が一表面側に配設されたリヤプレートと、リヤプレートに対向配置され電子源素子から放射される電子線により励起されて発光する蛍光体層が設けられたフェースプレートと、リヤプレートとフェースプレートとの間に介在する枠状の支持用スペーサとを備え、リヤプレートとフェースプレートと支持用スペーサとで囲まれた空間が真空に保たれた表示装置であって、リヤプレートを補強する補強材がリヤプレートの他表面側に設けられてなり、補強材は、リヤプレートの前記一表面に直交する方向に延び且つリヤプレートの厚み方向に直交する断面が一定の規則に従い組織化された補強壁により形成されてなり、リヤプレートとの間に補強材を挟持する補助プレートを備えることを特徴とする表示装置。」

第4 引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び2とその記載事項は、前記「第2 3.」に記載されたとおりのものである。

第5 対比
そこで、本願発明と引用発明1とを対比すると、
本願発明と引用発明1とは、
「 電子線を放射させる電子源素子が一表面側に配設されたリヤプレートと、リヤプレートに対向配置され電子源素子から放射される電子線により励起されて発光する蛍光体層が設けられたフェースプレートと、リヤプレートとフェースプレートとの間に介在する枠状の支持用スペーサとを備え、リヤプレートとフェースプレートと支持用スペーサとで囲まれた空間が真空に保たれた表示装置であって、リヤプレートを補強する補強材がリヤプレートの他表面側に設けられてなり、補強材は、リヤプレートの前記一表面に直交する方向に延び且つリヤプレートの厚み方向に直交する断面が一定の規則に従い組織化された補強壁により形成されてなことを特徴とする表示装置。」
である点において一致し、次の点において相違する。

(相違点)
リヤプレートの補強構造に関し、本願補正発明が「リヤプレートとの間に補強材を挟持する補助プレートを備え」るのに対して、引用発明1は当該構成を欠く点。

第6 判断
当該相違点は、「第2 4.」に記載した相違点ア)と同一であるから、当該相違点に係る構成は、「第2 5.(1)」において相違点ア)について示したのと同様の理由より、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
そして、本願発明の作用効果も、引用発明1及び2から当業者が予測できる範囲のものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-21 
結審通知日 2011-01-25 
審決日 2011-02-09 
出願番号 特願2001-302783(P2001-302783)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01J)
P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 祐樹波多江 進  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 古屋野 浩志
山川 雅也
発明の名称 表示装置  
代理人 西川 惠清  

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