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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1234419
審判番号 不服2010-962  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-15 
確定日 2011-03-24 
事件の表示 特願2004- 55047「データ記録装置およびデータ記録方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 8日出願公開、特開2005-240772〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年2月27日の出願であって、平成21年6月4日付けの拒絶理由通知に対して平成21年8月7日付けで意見書が提出されたが、平成21年10月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年1月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成22年6月15日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、平成22年8月19日付けで回答書が提出されたものである。

2.本件補正の適否及び本願発明
平成22年1月15日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正により補正される前の(すなわち、願書に最初に添付した)特許請求の範囲の請求項1ないし7における「前記車両データ」を「車両データ」とするものであって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そして、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成22年1月15日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「 【請求項1】
車両側から供給される電力によって動作するとともに、車両に搭載された制御ユニットにおける制御パラメータを、外部システムがアクセス可能なデータ記録部に内蔵された不揮発性メモリに記録するデータ記録装置において、
前記制御ユニットから時系列的に取得した前記制御パラメータが一時的に記録されるランダムアクセスメモリと、
前記ランダムアクセスメモリに記録された前記時系列的な制御パラメータのうち、前記車両の不具合状態を特定するのに有効な車両データが得られるであろう条件を示す取得条件を具備する所定の期間における一連の前記制御パラメータを、前記データ記録部に記録するデータ制御部とを有し、
前記データ制御部は、シャットダウン時には、前記取得条件に拘わらず、前記ランダムアクセスメモリに記録された前記時系列的な制御パラメータを前記データ記録部に記録することを特徴とするデータ記録装置。」

3.引用刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-70637号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、図面とともに、例えば、次のような事項が記載されている。

ア)「【0002】
【従来の技術】近年、何らかの制御を必要とする制御対象機器(例えば、自動車)の制御装置としては、マイクロコンピュータ等を用いた電子式の制御装置が広く用いられている。しかしながら、かかる電子式の制御装置では、時としてフェイル(誤動作)ないしは故障が起こることがある。そこで、データ記録装置を用いて、制御装置から出力される各種データを記録し、このデータに基づいて制御装置のフェイルないしは故障の原因等を究明するといった対応がなされることが多い(例えば、特開平11-65647号公報参照。)。
【0003】具体的には、例えば自動車メーカーでは、自動車にドライビングレコーダを搭載し、エンジンあるいは自動変速機等を制御するコントロールユニットから出力される各種データをドライビングレコーダに記録し、該データに基づいてコントロールユニットのフェイルないしは故障の原因等を究明するといった対応がなされている。なお、特開平11-65647号公報に開示された制御装置(プログラマブルコントローラ)では、その故障発生時に故障履歴をPCカードに記録するようにしている。」(段落【0002】及び【0003】)

イ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、かかる従来のデータ記録装置では、非常に多くのデータを記録しなければならないのにもかかわらず、データ記録部の記憶容量に限りがあるので、該データを確実に記録することが困難であるといった問題がある。本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたものであって、データ記録部の限られた記憶容量を有効に活用して、制御装置のフェイルないしは故障の原因等の究明等に用いられるデータを確実かつ効率的に記録することができるデータ記録装置を提供することを解決すべき課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するためになされた本発明にかかるデータ記録装置は、対象制御装置(例えば、自動車のコントロールユニット等)の誤動作時(フェイル時)又は故障時における各種検出信号データをデータ記録部(メモリ)に保存するデータ制御手段を備えているデータ記録装置であって、データ制御手段が、対象制御装置の誤動作又は故障の内容(例えば、急変、緩慢な変化等)に応じて、保存するデータのサンプリングレート(サンプリング周期)又は保存期間を変更するようになっていることを特徴とするものである。なお、データ制御手段は、車両状態(例えば、エンジン回転数、車速)に応じて、保存するデータのサンプリングレート又は保存期間を変更するようになっていてもよい。また、データ制御手段は、データ記録部の記憶可能容量(残存記憶容量)に応じて、保存するデータのサンプリングレート又は保存期間を変更するようになっていてもよい。
【0006】これらのデータ記録装置においては、対象制御装置の誤動作又は故障の内容、、車両状態、又はデータ記録部の記憶可能容量に応じて、保存するデータのサンプリングレート又は保存期間が変更されるので、データ記録部の限られた記憶容量を有効に活用して、制御装置の誤動作ないしは故障の原因等の究明等に用いられるデータを確実かつ効率的に記録することができる。
【0007】上記データ記録装置においては、データ制御手段は、各種検出信号データをランダムアクセスメモリ(以下、「RAM」という。)に順次更新しつつ記憶させる一方、RAMに記憶されているデータを間引いて(圧縮して)データ記録部に記録することによりサンプリングレートを変更するようになっていてもよい。
【0008】上記データ記録装置においては、データ制御手段は、各種検出信号データから予想される誤動作又は故障の種別を推測し、予想される誤動作又は故障の種別に応じてサンプリングレート又は保存期間を変更するようになっていてもよい。また、データ制御手段は、各種検出信号データの種類毎にサンプリングレート又は保存期間を変更するようになっていてもよい。」(段落【0004】ないし【0008】)

ウ)「【0010】図1と図2とに示すように、自動車1(実験用車両)には、エンジン2、自動変速機3等を制御するために、マイクロコンピュータを備えたコントロールユニット5(ECU)が設けられている。なお、自動車1内の各種電気機器には、バッテリ4から電力が供給される。そして、自動車1には、コントロールユニット5のフェイル(誤動作)ないしは故障の原因等を究明するために、コントロールユニット5の各種出力信号データを記録するドライビングレコーダ6が搭載されている。ドライビングレコーダ6は、電源ケーブル7を介して、コントロールユニット5のバックアップ電源端子11(ACC)に接続されている。
【0011】さらに、ドライビングレコーダ6は、接続ハーネス8を介してコントロールユニット5に接続されている。接続ハーネス8は、先端部がエンジン2内ないしは自動変速機3内の各種機器(アクチュエータ等)に接続された車両ハーネス8aと、該車両ハーネス8aとコントロールユニット5とを接続する中間ハーネス8bと、該中間ハーネス8bから分岐してドライビングレコーダ6に接続された分岐ハーネス8cとで構成されている。また、ドライビングレコーダ6は、随時、収集データ転送用ケーブル9を用いてホストコンピュータ10(パーソナルコンピュータ)に接続することができるようになっている。つまり、ドライビングレコーダ6とホストコンピュータ10とは、収集データ転送用ケーブル9を介してシリアル通信を行うようになっている。なお、ドライビングレコーダ6とホストコンピュータ10とは、両矢印Xで示すように、RAMカード12を用いて情報を伝達・交換することもできる。」(段落【0010】及び【0011】)

エ)「【0012】以下、ドライビングレコーダ6の構成、機能等を詳しく説明する。ドライビングレコーダ6は、コントロールユニット5のフェイル時ないしは故障時の各種信号データを確実に収集・記録するものであって、コントロールユニット5から出力される故障コード出力信号に応じて、フェイル時以前ないしは故障時以前、場合によってはフェイル後ないしは故障後の各種信号データを確実に記録することができるようになっている。また、ドライビングレコーダ6は、後で詳しく説明するように、コントロールユニット5のフェイルないしは故障の内容、車両状態、データ記録部の記憶容量等に応じてデータ記録方法を変更するようになっている。」(段落【0012】)

オ)「【0013】図3に示すように、ドライビングレコーダ6には、ドライビングレコーダ全体の制御を司る集中演算部15(CPU)と、コントロールユニット5から出力された各種出力信号(例えば、エンジン回転数信号、スロットル開度信号、車速信号、冷却水温度信号、ブレーキスイッチ信号等)を受け入れこれらに対して入力レベル変換及びフィルタリングを施す入力インターフェース(I/F)部16と、コントロールユニット5から出力された故障コード出力信号を受け入れてコントロールユニット5のフェイルないしは故障の内容(状態)を検出する誤動作/故障内容検出部17と、操作スイッチ(SW)群18から出力された各種操作スイッチ信号を受け入れこれらの命令系を処理して集中演算部15(CPU)へ出力する操作スイッチ処理部19と、常時サンプリングしているデータを格納するSRAM20と、サンプリングデータを記録するデータ記録部21(不揮発性メモリ、例えばEEPROM)とが設けられている。また、データ記録部21には、RAMカード12(フラッシュメモリ:図2参照)を着脱可能とするために、RAMカードスロットが設けられており、RAMカード12にデータを保存できるようになっている。」(段落【0013】)

カ)「【0015】また、ドライビングレコーダ6の操作は極めて簡易であり、誰でも容易に使用することができるようになっている。すなわち、このドライビングレコーダ6は、自動車1のイグニッションスイッチ(図示せず)がオンされると、自動的に計測を開始する。ただし、手動操作で計測を開始することも可能である。他方、イグニッションスイッチがオフされたときには、その4分後にスリープモードに切り替わり、省電力化が図られる。そして、トリガ条件が成立したとき、すなわち故障コード出力信号が入力されたときに、計測を停止する。ただし、スイッチ操作で計測を停止することも可能である。
【0016】かくして、ドライビングレコーダ6は、トリガ条件が成立したとき、すなわちコントロールユニット5のフェイル時ないしは故障時には、確実にデータを収集・記録することができる。このドライビングレコーダ6は、例えば16チャンネルのデータを高速でサンプリングすることができ、コントロールユニット5のほぼ全ての入出力信号(16種類/台)を測定することが可能である。そして、故障コード出力信号をトリガにして、その前1?4分の各種データを測定する。なお、故障コード出力信号が入力されていない場合でも、随時、手動スイッチを押すことによりトリガをかけることができる。また、このドライビングレコーダ6では、データ処理が極めて簡便である。例えば、スイッチ操作により各種データをRAMカード12(フラッシュカード)に保存することができ、RAMカード12によりデータをやり取りすることが可能である。また、これらのデータは、ホストコンピュータ10のウインドウズ画面上で解析が可能である。」(段落【0015】及び【0016】)

キ)「【0017】また、このドライビングレコーダ6は、その使用方法ないしは操作方法が極めて簡易である。ドライビングレコーダ6の操作方法の概要は、およそ次のとおりである。
(1)まず、ドライビングレコーダ6の操作条件を設定する。ホストコンピュータ10とのシリアル通信により設置する場合は、サンプリングレートと、トリガモードと、各測定チャンネルの信号名と、コメントと、時刻とを設定する。サンプリングレートは、例えば0.1ms、1ms又は10msに設定される。トリガモードは、コントロールユニット5の制御態様、イグニッションスイッチオン後のトリガ禁止時間(例えば、10ms、20ms、30ms)等に応じて複数種(例えば、9種)設定される。
なお、ドライビングレコーダ6のスイッチにより操作条件を設定する場合は、サンプリングレート(例えば、0.1ms、1ms、10ms)と、ドライビングレコーダ6へのトリガ信号のロジック反転スイッチとを設定し、チャンネル1の入力ゲインを変更する。
【0018】(2)次に、データのサンプリングを開始する。ドライビングレコーダ6に付設されたサンプリングスタートスイッチ(図示せず)をオンすることにより手動で、又はイグニッションスイッチのオンにより自動的にデータのサンプリングを開始する。
【0019】(3)かくして、コントロールユニット5にフェイルないしは故障が生じたときには、データのサンプリングを停止する。ドライビングレコーダ6に付設されたサンプリングストップスイッチ(図示せず)をオンすることにより手動で、又は故障コード出力信号の入力により自動的にデータのサンプリングを停止する。なお、誤ってデータサンプリングを停止した場合は、サンプリングストップスイッチを一定時間以上(例えば、5秒以上)押し続ければ、再びサンプリングが可能な状態となる。
【0020】(4)そして、サンプリングされたデータをデータ記録部21に記録する。なお、随時、サンプリングされたデータをRAMカード12に記録することができる。この場合、RAMカード12をRAMカードスロットに挿入し、RAMカードライトスイッチ(図示せず)をオンしてデータをRAMカード12に保存する(RAMカード12は、自動車走行中はスロットに挿入しないのが好ましい。)。
RAMカード12へのデータの書き込みが終了すれば、ドライビングレコーダ6内部のデータはクリアする。ただし、データの書き込みが正常に終了しなかった場合、測定データはクリアしない。」(段落【0017】ないし【0020】)

ク)「【0021】以下、ドライビングレコーダ6におけるデータの具体的な収集・記録手法を説明する。このドライビングレコーダ6におけるデータ収集の原理は、およそ次のとおりである。なお、ここでは、便宜上、記憶容量は80MB(メガバイト)であるとする。図4に示すように、コントロールユニット5がオン状態にあるとき(電源オン時)には、常時、各種データのサンプリングが行われる。なお、データのサンプリングのスタートポイントR1は、コントロールユニット5がオン作動されたときである。記憶容量は80MBであるので、80MBを超えるデータをサンプリングしたときには、古いデータは順次消去されてゆき、常時、最新の80MB分のデータが記憶される。
【0022】そして、何らかの検出手段で異常が検出されたとき、すなわちトリガポイントR2で、上記各種データのサンプリングが停止され、それ以前にサンプリングされたデータが不揮発性メモリ(データ記録部)に書き込まれる。ここで、不揮発性メモリへのデータの書き込みサイズは、トリガポイントR2を先頭にしてエンドポイントまでの全サンプル(80MB)とされる。ただし、スタートポイントR1?エンドポイントR3が全メモリ容量(80MB)より小さい場合は、データの書き込みサイズは、スタートポイントR1?エンドポイントR3間のデータ量とされる。」(段落【0021】及び【0022】)

ケ)「【0023】図5に、このようにして収集・記録されたデータ及びその解析結果の一例を示す。なお、図5において、エンジン回転数センサ(図示せず)からコントロールユニット5に入力されたアナログエンジン回転数信号であり、SGCは、気筒識別センサ(図示せず)からコントロールユニット5に入力されたアナログ気筒識別信号である。そして、NE+ PCM及びSGC PCMは、それぞれ、アナログエンジン回転数信号NE+及びアナログ気筒識別信号SGCに基づいて、コントロールユニット5によって生成(出力)された、エンジン回転数信号及び気筒識別信号である。図5に示す例では、コントロールユニット5は、アナログ気筒識別信号SGCのノイズNのため、気筒を誤検出(気筒識別エラー)している。すなわち、コントロールユニット5によって生成された気筒識別信号SGC PCMには、気筒誤検出部Pが認められる。このように、ドライビングレコーダ6に記録されたデータを解析することにより、コントロールユニット5のフェイルないしは故障の原因等を究明することができる。」(段落【0023】)

コ)「【0027】また、自動車1の運転状態は、コントロールユニット5の各種出力信号に基づいて、ドライビングレコーダ6が検出するようになっている。具体的には、この実施の形態では、エンジン回転数信号、スロットル開度信号、車速信号、冷却水温度信号、ブレーキスイッチ信号等の信号に基づいて、自動車1の運転状態が検出される。ドライビングレコーダ6のデータ記録部21(記録メモリ)の記憶可能容量は、ドライビングレコーダ6内部で、データ記録部21のデータ書き込みが可能な残存容量を調べることにより確認される。自動車1の車両情報は、操作スイッチ群18から操作スイッチ処理部19に車両コードを送ることにより、入力される。
【0028】この実施の形態では、フェイルないしは故障の内容に対応する故障コードと、自動車1の運転状態と、ドライビングレコーダ6のデータ記録部21(記録メモリ)の残存容量とに応じて、データ記録方法が変更される。ここで、データ記録方法の変更手法としては、例えば、○1データ記録容量の変更によるもの、○2データサンプリングレートの変更によるもの、○3データ記録タイミングの変更によるもの、○4記録メモリの残存容量等に応じたデータ圧縮記録(データの間引き)によるもの等があげられる。これらの各変更手法の要点は、次のとおりである。
【0029】○1データ記録容量の変更の場合
故障コードにより、データ記録容量が変更される。例えば、エンスト、エンジン失火、車速センサの故障などといった重大なフェイルないしは故障あるいは法規違反につながるフェイルないしは故障については、事後の原因解析を詳細に行えるように、記録可能な最大容量のデータが記録される。また、水温センサあるいはブレーキスイッチのフェイルないしは故障などといった、比較的故障ランクの低いものは、そのランクに応じて、記録可能な最大容量の1/2?1/10程度の容量のデータが記録され、多数のフェイルないしは故障についてのデータ記録が可能となっている。なお、表1に記載されたフェイルないしは故障の内容においては、故障コード番号が小さいものほど、故障ランク(優先順位)が高い。
【0030】○2データサンプリングレートの変更の場合
故障コードや運転状態により、データサンプリングレートが変更される。例えば、エンストやエンジン失火については、ノイズや信号波形等の解析を可能にするため、サンプリングレートは最大(高速)とされる。また、エンジン回転数信号や車速信号のフェイルないしは故障については、事後の原因解析を容易にするため、フェイルないしは故障の発生時のエンジン回転数や、車速信号の周波数によってサンプリングレートが変更される。さらに、水温信号やブレーキスイッチのフェイルないしは故障などといった、比較的信号の変動が緩慢なものについては、多数のフェイルないしは故障についてのデータ記録を可能にするため、サンプリングレートが最小(低速)とされる。
【0031】○3データ記録タイミングの変更の場合
故障コードにより、データ記録タイミングが変更される。例えば、エンジン失火、水温センサのフェイルないしは故障が発生すると、その後の制御が不安定になる。その結果、エミッション規制等に違反するような場合は、フェイル後ないしは故障後のデータが重要となる。このような場合は、フェイルないしは故障の発生時のタイミングが、記録データ長の中央となるようにデータが収集・記録される。また、クランクセンサ、車速センサ、ブレーキスイッチ等の故障などといった、フェイル後ないしは故障後の情報よりも、それ以前の情報が重要なものについては、フェイルないしは故障の発生時のタイミングが記録データ長の末尾となるようにデータが収集・記録される(フェイルないしは故障の発生前のデータが記録される)。
【0032】○4記録メモリの残容量等に応じたデータ圧縮記録(データの間引き)の場合
フェイルないしは故障の発生時に、記録すべきデータの容量がデータ記録部21(メモリ)の残存容量を上回る(容量不足)場合は、データが残存容量に記録できるように、容量不足分に応じてデータの間引きが段階的に行われる、なお、この実施の形態では、車両情報によるデータ記録方法の変更は行っていないが、車両情報に応じて、上記○1?○4に優先順位をつけるようにしてもよい。
【0033】また、ドライビングレコーダ6におけるサンプリングレート(サンプリング周期)は、コントロールユニット5のフェイルないしは故障の内容、自動車1の車両情報、自動車1の運転状態、コントロールユニット5の形式(種類)、予想されるフェイルないしは故障の内容に応じて変更される。これにより、より確実なデータ収集が可能となり、データ記録部21(記録メモリ)の有効活用が可能となる。」(段落【0027】ないし【0033】)(審決注:「○数字」の表記は、○付き数字を表す。)

サ)「【0042】以下、図8?図9に示すフローチャートを参照しつつ、ドライビングレコーダ6の具体的な動作ないしは制御手法を説明する。図8(a)に示すように、ドライビングレコーダ6が動作を開始すると、まずステップT10で、記憶スタート指令の有無が判定され、記憶スタート指令がなければ(NO)、以下の全ステップをスキップして、このステップT10が繰り返し実行される。つまり、記憶スタート指令がでるまで待機する。他方、ステップT10で記憶スタート指令があると判定された場合は(YES)、ステップT20で一時記憶ルーチンが実行され、次にステップT30で記憶ルーチンが実行される。
【0043】次に、上記各ルーチン(ステップT20、T30)における具体的な動作ないしは制御手法を説明する。図8(b)に示すように、ステップT20の一時記憶ルーチンにおいては、ステップT21で、受信した各種入力信号ないしは各制御信号あるいは出力信号(以下、「信号データ」という。)が、所定の容量(例えば、80MB)のSRAM20に一時的に記憶される。信号データが上記容量を超えたときには、古い信号データから更新・記録される。
【0044】図8(c)に示すように、ステップT30の記憶ルーチンにおいては、まずステップT31で、ワーニングランプ(図示せず)が点灯したか否かが判定され、ワーニングランプが点灯していなければ(NO)、以下の全ステップをスキップして、この記憶ルーチンは終了する。
【0045】他方、ステップT31でワーニングランプが点灯していると判定された場合は(YES)、ステップT32で、断芯チェック確認サブルーチンが実行され、ワーニングランプの点灯が断芯チェックによるものであるか否かが吟味される。なお、断芯チェックとは、イグニッションスイッチをオンしたときに、ドライバが、ワーニングランプの断芯の有無を確認できるように、所定時間だけ無条件にワーニングランプを点灯させるといった動作である。次に、ステップT33で、ワーニングランプの点灯が断芯チェックによる点灯であるか否かが判定される。そして、断芯チェックによる点灯であれば(YES)、この記憶ルーチンを終了する。
【0046】他方、ステップT33で断芯チェックによる点灯でないと判定された場合は(NO)、ステップT34で選択サブルーチンが実行される。なお、選択サブルーチンの具体的な内容は後で説明する(図9(a)?(d))。次に、ステップT35で、選択された記憶内容がデータ記録部21(不揮発性メモリ、例えばEEPROM)に書き込まれ、この記憶ルーチンは終了する。このようにして、データ記録部21に記録されたデータに基づいてコントロールユニット5のフェイルないしは故障の原因等が究明される。」(段落【0042】ないし【0046】)

シ)「【0047】以下、図9(a)?(d)を参照しつつ、図8(c)におけるステップT34の選択サブルーチンの具体的な制御手法を4通り説明する(選択サブルーチン1?4)。図9(a)に示すように、選択サブルーチン1の場合は、まずステップV11で、コントロールユニット5のフェイルないしは故障の内容が検出される。続いて、ステップV12で、フェイル内容ないしは故障内容に応じて各種入力信号ないしは制御信号毎に、サンプリングレート又は保存期間が設定される。この後、ステップV13で、サンプリングレート又は保存期間に基づいて、データ記録部21に記憶すべき内容が選択される。
【0048】図9(b)に示すように、選択サブルーチン2の場合は、まずステップV21で、各種入力信号ないしは制御信号により、フェイル内容ないしは故障内容が推測される。続いて、ステップV22で、推測されたフェイル内容ないしは故障内容に応じて、各種入力信号ないしは制御信号毎に、サンプリングレート又は保存期間が設定される。この後、ステップV23で、サンプリングレート又は保存期間に基づいて、データ記録部21に記憶すべき内容が選択される。
【0049】図9(c)に示すように、選択サブルーチン3の場合は、まずステップV31で、車両状態(例えば、車速、エンジン回転数等)が検出される。続いて、ステップV32で、検出された車両状態に応じて、各種入力信号ないしは制御信号毎に、サンプリングレート又は保存期間が設定される。この後、ステップV33で、サンプリングレート又は保存期間に基づいて、データ記録部21に記憶すべき内容が選択される。
【0050】図9(d)に示すように、選択サブルーチン4の場合は、まずステップV41で、データ記録部21内の残存メモリ容量が検出される。続いて、ステップV42で、フェイルないしは故障の頻度が検出される。次に、ステップV43で、フェイルないしは故障の頻度に応じて、残存メモリ容量が補正される。そして、ステップV44で、補正された残存メモリ容量に応じて、各種入力信号ないしは制御信号毎に、サンプリングレート又は保存期間が設定される。この後、ステップV45で、サンプリングレート又は保存期間に基づいて、データ記録部21に記憶すべき内容が選択される。
【0051】以上、本実施の形態においては、コントロールユニット5のフェイル時ないしは故障時には、故障コード出力信号をトリガにしてそれ以前の検出信号データがデータ記録部21に保存される。さらに、コントロールユニット5のフェイルないしは故障の内容、車両状態、又はデータ記録部21の記憶可能容量に応じて、保存するデータのサンプリングレート又は保存期間が変更されるので、データ記録部21の限られた記憶容量を有効に活用して、コントロールユニット5のフェイルないしは故障の原因等の究明等に用いられるデータを確実かつ効率的に記録することができる。」(段落【0047】ないし【0051】)

ス)「【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明にかかるドライビングレコーダを搭載した自動車の側面説明図である。
【図2】 ドライビングレコーダの、コントロールユニット及びホストコンピュータへの接続形態を示す模式図である。
【図3】 ドライビングレコーダの構成を示すブロック図である。
【図4】 ドライビングレコーダ内のSRAMにおけるデータの収集原理を示す図である。
【図5】 コントロールユニットのフェイル時ないしは故障時に、ドライビングレコーダによって収集・記録されたデータの一例を示すグラフである。
【図6】 データ記録部において、ファイルをチャンネル毎に分割して記録する場合のデータ記録形態を示す図である。
【図7】 データ記録部において、ファイルを時間軸に分割して記録する場合のデータ記録形態を示す図である。
【図8】 (a)はドライビングレコーダにおけるメイン制御ルーチンの制御手法を示すフローチャートであり、(b)はメイン制御ルーチン中の一時記憶ルーチンの制御手法を示すフローチャートであり、(c)はメイン制御ルーチン中の記憶ルーチンの制御手法を示すフローチャートである。
【図9】 (a)?(d)は、それぞれ、図8(c)に示す記憶ルーチン中の選択サブルーチンの制御手法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1…自動車、2…エンジン、3…自動変速機、4…バッテリ、5…コントロールユニット(ECU)、6…ドライビングレコーダ(データ記録装置)、7…電源ケーブル、8…接続ハーネス、8a…車両ハーネス、8b…中間ハーネス、8c…分岐ハーネス、9…収集データ転送用ケーブル、10…ホストコンピュータ、11…バックアップ電源端子、12…RAMカード、15…集中演算部(CPU)、16…入力インターフェース部、17…誤動作/故障内容検出部、18…操作スイッチ群、19…操作スイッチ処理部、20…SRAM、21…データ記録部(不揮発性メモリ、例えばEEPROM)。」(【図面の簡単な説明】及び【符号の説明】)

セ)上記ウ)、図1及び図2の記載より、ドライビングレコーダ6は、電源ケーブル7を介して、自動車1に設けられたコントロールユニット5のバックアップ電源端子11(ACC)に接続されていることからみて、自動車1側から供給される電力によって動作するといえる。

ソ)上記ウ)、キ)、図1、図2の記載より、データ記録部21を設けたドライビングレコーダ6とホストコンピュータ10とは、収集データ転送用ケーブル9を介してシリアル通信を行うようになっていることからみて、データ記録部21は、ホストコンピュータ10がアクセス可能といえる。

タ)上記イ)、オ)、ク)、サ)、図3、図4、図8の記載より、SRAM20には、コントロールユニット5から時系列的に取得した信号データが一時的に格納されるといえる。

チ)上記イ)ないしシ)及び各図面の記載からみて、集中演算部15は、自動車1のフェイルないしは故障の原因等を究明するのに有効な車両データが得られるであろう条件を示す取得条件を具備する所定の期間における一連の信号データを、データ記録部21に記録するといえる。

上記ア)ないしチ)及び図面の記載を総合すると、引用刊行物には、次の発明(以下、単に「引用刊行物記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「自動車1側から供給される電力によって動作するとともに、自動車1に設けられたコントロールユニット5における信号データを、ホストコンピュータ10がアクセス可能なデータ記録部21に記録するドライビングレコーダ6において、
前記コントロールユニット5から時系列的に取得した前記信号データが一時的に格納されるSRAM20と、
前記SRAM20に記録された前記時系列的な信号データのうち、前記自動車1のフェイルないしは故障の原因等を究明するのに有効な車両データが得られるであろう条件を示す取得条件を具備する所定の期間における一連の前記信号データを、前記データ記録部21に記録する集中演算部15とを有するドライビングレコーダ6。」

4.対比
本願発明と引用刊行物記載の発明とを対比するに、引用刊行物記載の発明における「自動車1」は、その技術的意義からみて、本願発明における「車両」に相当し、同様に、「設けられた」は「搭載された」に、「コントロールユニット5」は「制御ユニット」に、「信号データ」は「制御パラメータ」に、「データ記録部21」は「データ記録部に内蔵された不揮発性メモリ」及び「データ記録部」に、「ドライビングレコーダ6」は「データ記録装置」に、「格納」は「記録」に、「SRAM20」は「ランダムアクセスメモリ」に、「フェイルないしは故障の原因等を究明する」は「不具合状態を特定する」に、それぞれ相当する。
また、引用刊行物記載の発明における「ホストコンピュータ10」は、本願の明細書の段落【0025】における「外付けされる外部システムである汎用コンピュータ(外部PC)」の記載からみて、本願発明における「外部システム」に相当する。
さらに、引用刊行物記載の発明における「SRAM20に記録された時系列的な信号データのうち、自動車1のフェイルないしは故障の原因等を究明するのに有効な車両データが得られるであろう条件を示す取得条件を具備する所定の期間における一連の信号データを、データ記録部21に記録する集中演算部15」は、「ランダムアクセスメモリに記録された時系列的な制御パラメータのうち、車両の不具合状態を特定するのに有効な車両データが得られるであろう条件を示す取得条件を具備する所定の期間における一連の制御パラメータを、データ記録部に記録するデータ制御部」という限りにおいて、本願発明における「ランダムアクセスメモリに記録された時系列的な制御パラメータのうち、車両の不具合状態を特定するのに有効な車両データが得られるであろう条件を示す取得条件を具備する所定の期間における一連の制御パラメータを、データ記録部に記録する」とともに「シャットダウン時には、取得条件に拘わらず、ランダムアクセスメモリに記録された時系列的な制御パラメータをデータ記録部に記録する」「データ制御部」に相当する。

したがって、本願発明と引用刊行物記載の発明とは、
「車両側から供給される電力によって動作するとともに、車両に搭載された制御ユニットにおける制御パラメータを、外部システムがアクセス可能なデータ記録部に内蔵された不揮発性メモリに記録するデータ記録装置において、
前記制御ユニットから時系列的に取得した前記制御パラメータが一時的に記録されるランダムアクセスメモリと、
前記ランダムアクセスメモリに記録された前記時系列的な制御パラメータのうち、前記車両の不具合状態を特定するのに有効な車両データが得られるであろう条件を示す取得条件を具備する所定の期間における一連の前記制御パラメータを、前記データ記録部に記録するデータ制御部とを有するデータ記録装置。」に関する点で一致し、次の点で相違している。

<相違点>
「ランダムアクセスメモリに記録された時系列的な制御パラメータのうち、車両の不具合状態を特定するのに有効な車両データが得られるであろう条件を示す取得条件を具備する所定の期間における一連の制御パラメータを、データ記録部に記録するデータ制御部」は、本願発明においては、「シャットダウン時には、取得条件に拘わらず、ランダムアクセスメモリに記録された時系列的な制御パラメータをデータ記録部に記録する」としているのに対し、引用刊行物載の発明においては、その点が明らかでない点(以下、単に「相違点」という。)。

5.当審の判断
上記相違点について検討する。

「シャットダウン時には、ランダムアクセスメモリに記録されたデータを不揮発性メモリに記録することにより、ランダムアクセスメモリに記録されたデータが消去されたとしても、ランダムアクセスメモリに記録されたデータの保全を確実に行う技術」は、周知の技術(例えば、特開平5-299616号公報(【請求項9】、段落【0003】及び段落【0006】等。)、米国特許第6308121号明細書(FIG1、第1欄第31行ないし第41行及び第4欄第65行ないし第5欄第15行等。車両に搭載された制御ユニットにおける制御パラメータの記録装置であって、取得条件に拘わらず、記録するものである。)、特開平4-269356号公報(【請求項1】、段落【0007】、段落【0008】、段落【0013】、段落【0014】、図1及び図2等。車両に搭載された制御ユニットにおける制御パラメータを、取得条件に拘わらず、記録するものである。)及び米国特許第5948026号明細書(FIG.1、FIG.5、第1欄第33行ないし第60行、第9欄第64行ないし第10欄第20行、請求項1及び請求項10等。車両に搭載された制御ユニットにおける制御パラメータを記録するものである。)参照。以下、単に「周知技術」という。)である。

そうすると、引用刊行物記載の発明において、周知技術を適用することにより、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たものである。

そして、本願発明を全体として検討しても、引用刊行物記載の発明及び周知技術から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-20 
結審通知日 2011-01-25 
審決日 2011-02-08 
出願番号 特願2004-55047(P2004-55047)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松下 聡  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 河端 賢
中川 隆司
発明の名称 データ記録装置およびデータ記録方法  
代理人 久米川 正光  
代理人 福井 仁  

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