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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1234514 |
審判番号 | 不服2008-13713 |
総通号数 | 137 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-06-02 |
確定日 | 2011-03-30 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第 91520号「液晶表示装置の製造方法及びその製造方法による液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 2月13日出願公開、特開平10- 41519〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成9年3月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年3月26日、大韓民国)の出願であって、平成19年10月24日付けで拒絶理由通知がなされ、平成20年1月30日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年2月26日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年6月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月1日付けで手続補正がなされ、その後、平成22年4月5日付けで審尋がなされ、同年8月5日に回答書が提出されたものである。 第2.平成20年7月1日付けの手続補正について 1.手続補正の内容 平成20年7月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、同年1月30日付けで補正された本件補正前の請求項1?10及び0043段落を、本件補正後の請求項1?9及び0043段落とするものであって、本件補正前の請求項1?10及び本件補正後の請求項1?9は、以下のとおりである。 (1)本件補正前の請求項1?10 「 【請求項1】 基板と、 前記基板上に互いに離間して形成されたソース及びドレインと、 前記ソース及び前記ドレインの各上面の端部に接し、前記基板上に形成される半導体層と、 前記ソース、前記ドレイン、及び前記半導体層を覆うように形成されるゲート絶縁層と、 前記半導体層の上方であって、前記ゲート絶縁層上に形成されるゲート電極と、 前記ゲート電極に接続されるゲートバス配線と、 前記ソースに接続される信号バス配線と、 前記ゲート電極を含む前記ゲート絶縁層上に形成される保護膜と、 前記ドレインに接続され、前記保護膜上に形成される画素電極とを含み、 前記画素電極は、前記ゲートバス配線及び前記信号バス配線の少なくとも一方の一部に重畳され、 前記保護膜及び前記ゲート絶縁層は、フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCBの少なくとも一つを含むことを特徴とする液晶表示装置のトランジスタ基板。 【請求項2】 基板と、 前記基板上のゲート電極、ソース、ドレイン、半導体層及びゲート絶縁層を含むトランジタと、 前記トランジスタ上に形成される保護膜と、 前記ゲート電極に接続されるゲートバス配線と、 前記ソースに接続される信号バス配線と、 前記ドレインに接続され、前記保護膜上に位置する画素電極とを含み、 前記ゲートバス配線及び前記信号バス配線の少なくも一方は前記保護膜の下に位置し、 前記画素電極は前記ゲートバス配線及び前記信号バス配線の少なくも一方の一部に重畳され、 前記ゲート絶縁層及び前記保護膜は、フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCB中の少なくとも一つを含むことを特徴とする液晶表示装置のトランジスタ基板。 【請求項3】 前記保護膜と前記トランジスタとの間に中間層が構成されていることを特徴とする、請求項2記載のトランジスタ基板。 【請求項4】 前記ゲート絶縁層と前記半導体層との間に中間層が構成されていることを特徴とする、請求項2記載のトランジスタ基板。 【請求項5】 前記保護膜と前記画素電極との間に中間層が構成されていることを特徴とする、請求項2記載のトランジスタ基板。 【請求項6】 基板上に互いに離間するソース及びドレインと、前記ソースと接続された信号バス配線とを形成する段階と、 前記基板上に、前記ソース及び前記ドレインの各上面の端部に接する半導体層を形成する段階と、 前記ソース、前記ドレイン、及び前記半導体層を覆うようにゲート絶縁層を形成する段階と、 前記半導体層の上方であって、前記ゲート絶縁層上にゲート電極を形成し、前記信号バス配線と交差するゲートバス配線を形成する段階と、 前記ゲート電極及び前記ゲートバス配線を含む前記ゲート絶縁層上に保護膜を形成する段階と、 前記ドレインと接続され、前記保護膜上に画素電極を形成する段階とを含み、 前記ゲート絶縁膜及び前記保護膜は、フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCB中の少なくとも一つを含み、 前記画素電極は前記ゲートバス配線及び前記信号バス配線の少なくも一方の一部に重畳するように形成することを特徴とする液晶表示装置のトランジスタ基板の製造方法。 【請求項7】 前記ゲート絶縁層と前記半導体層との間に中間層を形成する段階を含むことを特徴とする、請求項6記載のトランジスタ基板の製造方法。 【請求項8】 基板上にゲートバス配線及び該ゲートバス配線に接続されるゲート電極を形成する段階と、 前記ゲートバス配線及び前記ゲート電極を覆うようにゲート絶縁層を形成する段階と、 前記ゲート電極の上方であって、前記ゲート絶縁層上に半導体層を形成する段階と、 前記ゲートバス配線と交差する信号バス配線を形成し、該信号バス配線に接続されるソースと、該ソースから離間するドレインとを前記半導体層の上面の両端部にそれぞれ接するように形成する段階と、 前記ソース及び前記ドレインを含む前記ゲート絶縁層上に保護膜を形成する段階と、 前記ドレインに接続される画素電極を前記保護膜の上に形成する段階とを含み、 前記ゲート電極、前記ソース、前記ドレイン、前記半導体層、及び前記ゲート絶縁層を含んでトランジスタと定義し、 前記ゲート絶縁膜及び前記保護膜は、フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCB中の少なくとも一つを含み、 前記画素電極は前記ゲートバス配線及び前記信号バス配線の少なくも一方の一部に重畳するように形成することを特徴とする液晶表示装置のトランジスタ基板の製造方法。 【請求項9】 前記保護膜と前記トランジスタとの間に中間層を形成する段階を含むことを特徴とする、請求項8記載のトランジスタ基板の製造方法。 【請求項10】 前記ゲート絶縁層と前記半導体層との間に中間層を形成する段階を含むことを特徴とする、請求項8記載のトランジスタ基板の製造方法。」 (2)本件補正後の請求項1?9 (下線部は補正箇所) 「 【請求項1】 基板と、 前記基板上に互いに離間して形成されたソース及びドレインと、 前記ソース及び前記ドレインの各上面の端部に接し、前記基板上に形成される半導体層と、 前記ソース、前記ドレイン、及び前記半導体層を覆うように形成されるゲート絶縁層と、 前記半導体層の上方であって、前記ゲート絶縁層上に形成されるゲート電極と、 前記ゲート電極に接続されるゲートバス配線と、 前記ソースに接続される信号バス配線と、 前記ゲート電極及び前記ゲート絶縁層上に形成される保護膜と、 前記ドレインに接続され、前記保護膜上に形成される画素電極とを含み、 前記基板上には、前記ソース、前記ドレイン、前記半導体層、前記ゲート絶縁層、及び前記ゲート電極を含むトランジスタが形成され、 前記画素電極は、前記信号バス配線と、前記トランジスタに隣接する他のトランジスタのゲート電極に接続されるゲートバス配線の一部に重畳され、 前記保護膜及び前記ゲート絶縁層は、フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCBの少なくとも一つを含むことを特徴とする液晶表示装置のトランジスタ基板。 【請求項2】 基板と、 前記基板上のゲート電極、ソース、ドレイン、半導体層及びゲート絶縁層を含むトランジタと、 前記トランジスタ上に形成される保護膜と、 前記ゲート電極に接続されるゲートバス配線と、 前記ソースに接続される信号バス配線と、 前記ドレインに接続され、前記保護膜上に位置する画素電極とを含み、 前記ゲートバス配線及び前記信号バス配線の少なくも一方は前記保護膜の下に位置し、 前記画素電極は、前記信号バス配線と、前記トランジスタに隣接する他のトランジスタのゲート電極に接続されるゲートバス配線の一部に重畳され、 前記ゲート絶縁層及び前記保護膜は、フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCB中の少なくとも一つを含むことを特徴とする液晶表示装置のトランジスタ基板。 【請求項3】 前記保護膜と前記トランジスタとの間に中間層が構成されていることを特徴とする、請求項2記載のトランジスタ基板。 【請求項4】 前記ゲート絶縁層と前記半導体層との間に中間層が構成されていることを特徴とする、請求項2記載のトランジスタ基板。 【請求項5】 基板上に互いに離間するソース及びドレインと、前記ソースと接続された信号バス配線とを形成する段階と、 前記基板上に、前記ソース及び前記ドレインの各上面の端部に接する半導体層を形成する段階と、 前記ソース、前記ドレイン、及び前記半導体層を覆うようにゲート絶縁層を形成する段階と、 前記半導体層の上方であって、前記ゲート絶縁層上にゲート電極を形成し、前記信号バス配線と交差するゲートバス配線を形成する段階と、 前記ゲート電極及び前記ゲートバス配線を含む前記ゲート絶縁層上に保護膜を形成する段階と、 前記ドレインと接続され、前記保護膜上に画素電極を形成する段階とを含み、 前記ゲート電極、前記ソース、前記ドレイン、前記半導体層、及び前記ゲート絶縁層を含んでトランジスタと定義し、 前記ゲート絶縁膜及び前記保護膜は、フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCB中の少なくとも一つを含み、 前記画素電極は、前記信号バス配線と、前記トランジスタに隣接する他のトランジスタのゲート電極に接続されるゲートバス配線の一部に重畳するように形成することを特徴とする液晶表示装置のトランジスタ基板の製造方法。 【請求項6】 前記ゲート絶縁層と前記半導体層との間に中間層を形成する段階を含むことを特徴とする、請求項5記載のトランジスタ基板の製造方法。 【請求項7】 基板上にゲートバス配線及び該ゲートバス配線に接続されるゲート電極を形成する段階と、 前記ゲートバス配線及び前記ゲート電極を覆うようにゲート絶縁層を形成する段階と、 前記ゲート電極の上方であって、前記ゲート絶縁層上に半導体層を形成する段階と、 前記ゲートバス配線と交差する信号バス配線を形成し、該信号バス配線に接続されるソースと、該ソースから離間するドレインとを前記半導体層の上面の両端部にそれぞれ接するように形成する段階と、 前記ソース及び前記ドレインを含む前記ゲート絶縁層上に保護膜を形成する段階と、 前記ドレインに接続される画素電極を前記保護膜の上に形成する段階とを含み、 前記ゲート電極、前記ソース、前記ドレイン、前記半導体層、及び前記ゲート絶縁層を含んでトランジスタと定義し、 前記ゲート絶縁膜及び前記保護膜は、フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCB中の少なくとも一つを含み、 前記画素電極は、前記信号バス配線と、前記トランジスタに隣接する他のトランジスタのゲート電極に接続されるゲートバス配線の一部に重畳するように形成することを特徴とする液晶表示装置のトランジスタ基板の製造方法。 【請求項8】 前記保護膜と前記トランジスタとの間に中間層を形成する段階を含むことを特徴とする、請求項7記載のトランジスタ基板の製造方法。 【請求項9】 前記ゲート絶縁層と前記半導体層との間に中間層を形成する段階を含むことを特徴とする、請求項7記載のトランジスタ基板の製造方法。」 2.補正事項の整理 本件補正の補正事項を整理すると、以下のとおりとなる。 (1)補正事項1 本件補正前の請求項1の「前記ゲート電極を含む前記ゲート絶縁層上に形成される保護膜と、」を、本件補正後の請求項1の「前記ゲート電極及び前記ゲート絶縁層上に形成される保護膜と、」と補正すること。 (2)補正事項2 本件補正前の請求項1の「前記画素電極は、前記ゲートバス配線及び前記信号バス配線の少なくとも一方の一部に重畳され、」を、本件補正後の請求項1の「前記基板上には、前記ソース、前記ドレイン、前記半導体層、前記ゲート絶縁層、及び前記ゲート電極を含むトランジスタが形成され、 前記画素電極は、前記信号バス配線と、前記トランジスタに隣接する他のトランジスタのゲート電極に接続されるゲートバス配線の一部に重畳され、」と補正すること。 (3)補正事項3 本件補正前の請求項2の「前記画素電極は前記ゲートバス配線及び前記信号バス配線の少なくも一方の一部に重畳され、」を、本件補正後の請求項2の「前記画素電極は、前記信号バス配線と、前記トランジスタに隣接する他のトランジスタのゲート電極に接続されるゲートバス配線の一部に重畳され、」と補正すること。 (4)補正事項4 補正前の請求項5を削除すること。 (5)補正事項5 上記補正事項4についての補正に伴い、補正前の請求項6ないし10の項番を、それぞれ補正後の請求項5ないし9に補正するとともに、補正前の請求項7の「請求項6記載のトランジスタ基板の製造方法」を、補正後の請求項6の「請求項5記載のトランジスタ基板の製造方法」に補正し、補正前の請求項9の「請求項8記載のトランジスタ基板の製造方法」を、補正後の請求項8の「請求項7記載のトランジスタ基板の製造方法」に補正し、補正前の請求項10の「請求項8記載のトランジスタ基板の製造方法」を、補正後の請求項9の「請求項7記載のトランジスタ基板の製造方法」に補正すること。 (6)補正事項6 本件補正前の請求項6の「前記ゲート絶縁膜及び前記保護膜は、フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCB中の少なくとも一つを含み、 前記画素電極は前記ゲートバス配線及び前記信号バス配線の少なくも一方の一部に重畳するように形成すること」を、本件補正後の請求項5の「前記ゲート電極、前記ソース、前記ドレイン、前記半導体層、及び前記ゲート絶縁層を含んでトランジスタと定義し、 前記ゲート絶縁膜及び前記保護膜は、フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCB中の少なくとも一つを含み、 前記画素電極は、前記信号バス配線と、前記トランジスタに隣接する他のトランジスタのゲート電極に接続されるゲートバス配線の一部に重畳するように形成すること」と補正すること。 (7)補正事項7 本件補正前の請求項8の「前記画素電極は前記ゲートバス配線及び前記信号バス配線の少なくも一方の一部に重畳するように形成すること」を、本件補正後の請求項7の「前記画素電極は、前記信号バス配線と、前記トランジスタに隣接する他のトランジスタのゲート電極に接続されるゲートバス配線の一部に重畳するように形成すること」と補正すること。 (8)補正事項8 本件補正前の0043段落の「【表2】」を、本件補正後の0043段落の「【表2】 」と補正すること。 3.補正の目的及び新規事項の追加の有無についての検討 (1)補正事項1ないし3、6及び7について 補正事項1ないし3、6及び7は、特許法第17条の2第4項(平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、補正事項1ないし3、6及び7が、本願の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、本願の願書に最初に添付された明細書及び図面を、各々「当初明細書」及び「当初図面」といい、これらをまとめて「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてなされたものであることは明らかであるから、補正事項1ないし3、6及び7は、特許法第17条の2第3項(平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たすものである。 (2)補正事項4及び5について 補正事項4及び5についての補正は、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。 (3)補正事項8について 補正事項8についての本件補正は、平成20年1月30日付けの手続補正により、誤って内容を削除してしまった当初明細書の0043段落に記載の表を復活すべく、発明の詳細な説明を補正するものであって、補正事項8は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。 (4)補正の目的及び新規事項の追加の有無についてのまとめ 以上検討したとおり、補正事項1ないし8についての補正はいずれも適法になされたものであるから、本件補正は適法になされたものである。 第3.本願発明について 本件補正は適法になされたものであるから、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成20年7月1日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものである。そして、そのうちの請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2.1.(2)の「補正後」の箇所に記載をした請求項2のうち、「トランジタ」と記載されている部分を「トランジスタ」の誤記とし、また、「少なくも」と記載されている部分を「少なくとも」の誤記としてそれぞれ読替えた、以下のとおりのものと認定する。 「基板と、 前記基板上のゲート電極、ソース、ドレイン、半導体層及びゲート絶縁層を含むトランジスタと、 前記トランジスタ上に形成される保護膜と、 前記ゲート電極に接続されるゲートバス配線と、 前記ソースに接続される信号バス配線と、 前記ドレインに接続され、前記保護膜上に位置する画素電極とを含み、 前記ゲートバス配線及び前記信号バス配線の少なくとも一方は前記保護膜の下に位置し、 前記画素電極は、前記信号バス配線と、前記トランジスタに隣接する他のトランジスタのゲート電極に接続されるゲートバス配線の一部に重畳され、 前記ゲート絶縁層及び前記保護膜は、フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCB中の少なくとも一つを含むことを特徴とする液晶表示装置のトランジスタ基板。」 なお、このような本願発明において、「画素電極」がその一部に重畳されるとされる「信号バス配線」は、当該「画素電極」に対応した「トランジスタ」に接続される「信号バス配線」のことを指すものと理解される。 第4.引用例に記載された発明 1.引用例1と引用発明 (1)本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平04-163528号公報(以下「引用例1」という。)には、第3図ないし第6図とともに「従来の技術」として、以下の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付加したものである(以下同じ)。 「〈従来の技術〉 アクティブマトリクス表示装置、特に液晶を用いるアクティブマトリクス表示装置は表示コントラストが高く、表示容量に制約が少ない等の利点があるため研究開発が盛んに行なわれており、実用化も進みつつある。ところがアクティブマトリクス表示装置に用いるアクティブマトリクス基板は製造工程が複雑で歩留りが低いために、コストが高いという欠点がある。 典型的なアクティブマトリクス基板について、その主要な部分の平面図を第3図に、その部分の断面図を第4図に示す。このアクティブマトリクス基板は、透明絶縁性基板1と、この透明絶縁性基板1上にマトリクス状に配列された絵素電極11と、ゲートバス配線3と、ソースバス配線7と、これら絵素電極11、ゲートバス配線3及びソースバス配線7に接続されているスイッチング素子であるTFTを有する。 前記透明絶縁性基板1上に形成されたTFT近傍の断面構造は、第4図に示す通りである。透明絶縁性基板1上にゲート電極2が形成され、ゲート電極2は基板1上の全面に形成されているゲート絶縁膜4によって覆われている。ゲート電極2の上方のゲート絶縁膜4上には、アモルファスシリコン(以下ではa-Siと略称する)からなる半導体層5が形成されている。半導体層5上には両端部においてn^(+)型a-Siからなるコンタクト層(図示していない。)が形成され、コンタクト層上にはそれぞれソース電極6とドレイン電極8が形成されている。ソース電極6はドレイン電極8とは反対側の部分においてソースバス配線7に接続している。このソースバス配線7はソース電極6の上記部分と同様にゲート絶縁膜4上に形成されている。そして、前記絵素電極11は大部分が絶縁膜4上に形成される一方で一部分が前記ドレイン電極8上に重畳して形成されている。なお、前記ゲート電極2はゲートバス配線(図示せず)に接続されている。 このようにして形成されているTFT上には保護膜(図示せず)が形成され、更にこのようにして形成された透明絶縁性基板1上の全面には配向膜(図示せず)が形成され、この基板を配向膜、透明電極等が形成されている透明絶縁性基板(図示せず)との間に液晶層を封入することによりアクティブマトリクス液晶表示装置が形成される。 ところが、前記のように形成されたアクティブマトリクス基板には不良の発生することがある。この不良の原因に一つにソースバス配線7と絵素電極11との間のショートがある。これは、ソースバス配線7と絵素電極11とは同じゲート絶縁膜4上に形成されているばかりでなく、相互の間隔が高精細にすればする程接近することが要因と考えられる。 そこで、このソースバス配線7と絵素電極11との間のショートを防止するためには、当該配線7と絵素電極11とを異なる層上に形成する構造が提案される。 第5図は、ソースバス配線と絵素電極を別の層に形成したアクティブマトリクス基板の断面図を示す。第5図において第4図と同等部分は同一符号で示す。層間絶縁膜10は、TFTが形成されている透明絶縁性基板1のほぼ全面に形成されている。この層間絶縁膜10はTFTのドレイン電極8の端部の中央部上面において欠如しているホールが形成されており、このホールが層間絶縁膜10上に形成されている絵素電極11をドレイン電極8に電気的に接続するためのコンタクトホール12として寄与している。即ち、絵素電極11は層間絶縁膜10上から上記ドレイン電極8の端部上を覆うよう形成されている。 このような構造のアクティブマトリクス基板は、ソースバス配線7と絵素電極11はそれらの間に層間絶縁膜10が存在する立体的構造をなしていることから、平面に投影した場合の間隔をなくすることが可能となる。この構造のアクティブマトリクス基板の平面図を第6図に示しており、この図から明らかなようにソースバス配線7と絵素電極11が重なっている。なお、重なっている部分は第6図に斜線で示す。又、ゲートバス配線3と絵素電極が重なっている部分も斜線で示す。従って絵素電極11の面積を大きくすることができる。絵素電極11の面積が大きいと、表示装置に用いた場合の開口率が大きくなり表示品位が高まるという利点もある。更に、この層間絶縁膜10をポリイミド樹脂などの樹脂を塗布することにより形成すると、アクティブマトリクス基板表面の段差を平坦化することができ、液晶表示装置に用いた場合に問題となる段差による液晶の配向不良を低減することもできる。 このようなアクティブマトリクス基板は、以下のようにして製造される。まず、ガラス等の透明絶縁性の基板1の上にTa,Cr等から成るゲート電極2を形成する。次に、SiNx,SiOx等から成るゲート絶縁膜4,非晶質シリコン(以下a-Siと略す。)、多結晶シリコン,CdSe等から成る半導体層5を積層する。更に、Ti,Mo,Al等から成るソース電極6及びドレイン電極8を形成する。通常、オーミックコンタクトを取るために半導体層5とソース電極6及びドレイン電極8の間にリンをドープしたa-Si(以下n^(+)-Siと略称する。)層9が設けられる。最後に、ポリイミド樹脂・アクリル樹脂等から成る有機系層間絶縁膜10,ITO等の透明導電膜から成る絵素電極11を形成する。」(第1ページ右下欄第10行ないし第3ページ左上欄第13行) (2)ここにおいて、引用例1記載の「透明絶縁性の基板1」は「透明絶縁性基板1」と同義のものと認められる。 また、引用例1の「ソース電極6はドレイン電極8とは反対側の部分においてソースバス配線7に接続している。このソースバス配線7はソース電極6の上記部分と同様にゲート絶縁膜4上に形成されている。」及び「なお、前記ゲート電極2はゲートバス配線(図示せず)に接続されている。」との第4図に関するそれぞれの記載内容は、そのまま第5図に記載された従来構造の前提となっていると解するのが自然であり、第5図に関し引用符号付きで記載された「ゲートバス配線3」は「ゲート電極2」に接続されるものと理解される。 また、引用例1における「アクティブマトリクス表示装置、特に液晶を用いるアクティブマトリクス表示装置は表示コントラストが高く、表示容量に制約が少ない等の利点があるため研究開発が盛んに行なわれており、実用化も進みつつある。ところがアクティブマトリクス表示装置に用いるアクティブマトリクス基板は製造工程が複雑で歩留りが低いために、コストが高いという欠点がある。」との記載は、引用例1において第5図に関して記載される「アクティブマトリクス基板」が、「液晶を用いるアクティブマトリクス表示装置」の「アクティブマトリクス基板」で良いことを示唆している。 また、引用例1における「このアクティブマトリクス基板は、透明絶縁性基板1と、この透明絶縁性基板1上にマトリクス状に配列された絵素電極11と、ゲートバス配線3と、ソースバス配線7と、これら絵素電極11、ゲートバス配線3及びソースバス配線7に接続されているスイッチング素子であるTFTを有する。」、「前記透明絶縁性基板1上に形成されたTFT近傍の断面構造は、第4図に示す通りである。透明絶縁性基板1上にゲート電極2が形成され、ゲート電極2は基板1上の全面に形成されているゲート絶縁膜4によって覆われている。ゲート電極2の上方のゲート絶縁膜4上には、アモルファスシリコン(以下ではa-Siと略称する)からなる半導体層5が形成されている。半導体層5上には両端部においてn^(+)型a-Siからなるコンタクト層(図示していない。)が形成され、コンタクト層上にはそれぞれソース電極6とドレイン電極8が形成されている。」及び「層間絶縁膜10は、TFTが形成されている透明絶縁性基板1のほぼ全面に形成されている。」との各記載から、引用例1に記載の「TFT」は、「透明絶縁性基板1」、「層間絶縁膜10」、「ゲートバス配線3」、「ソースバス配線7」及び「絵素電極11」は含まないものであると解される一方、残りの「ゲート電極2」、「ソース電極6」、「ドレイン電極8」、「半導体層5」及び「ゲート絶縁膜4」を含んで構成されるものとみるのが自然である。 また、引用例1には「層間絶縁膜10はTFTのドレイン電極8の端部の中央部上面において欠如しているホールが形成されており、このホールが層間絶縁膜10上に形成されている絵素電極11をドレイン電極8に電気的に接続するためのコンタクトホール12として寄与している。」との記載があり、これによれば、引用例1記載の「液晶を用いるアクティブマトリクス表示装置のアクティブマトリクス基板」は、「ドレイン電極8」に接続され、「層間絶縁膜10」上に位置する「絵素電極11」を含んでいることは明らかである。 また、引用例1には第5図に関し、「ソースバス配線7と絵素電極11が重なっている」及び「ゲートバス配線3と絵素電極が重なっている」との記載がなされているところ、さらに第6図を参照すると、「絵素電極11」は、その「絵素電極11」に対応したTFTに対して接続される「ソースバス配線7」と、当該TFTに隣接する他のTFTに接続される「ゲートバス配線3」の一部に重なっていることが、その図面により見て取れる。 さらに、引用例1には第5図に関し、「このような構造のアクティブマトリクス基板は、ソースバス配線7と絵素電極11はそれらの間に層間絶縁膜10が存在する立体的構造をなしている」との記載があり、かつ、上記したとおり「ソースバス配線7と絵素電極11が重なっている」及び「ゲートバス配線3と絵素電極が重なっている」との記載もなされていることからみて、引用例1の第5図及び第6図に記載された「アクティブマトリクス基板」は、「ゲートバス配線3」及び「ソースバス配線7」が「層間絶縁膜10」の下に位置した構造であることも明らかである。 (3)したがって、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。 「透明絶縁性基板1と、 前記透明絶縁性基板1上のゲート電極2、ソース電極6、ドレイン電極8、半導体層5及びゲート絶縁層4を含むTFTと、 前記TFT上に形成される層間絶縁膜10と、 前記ゲート電極2に接続されるゲートバス配線3と、 前記ソース電極6に接続されるソースバス配線7と、 前記ドレイン電極8に接続され、前記層間絶縁膜10上に位置する前記絵素電極11とを含み、 前記ゲートバス配線3及び前記ソースバス配線7は前記層間絶縁膜10の下に位置し、 前記絵素電極11は、その絵素電極11に対応するTFTに接続される前記ソースバス配線7と、前記TFTに隣接する他のTFTに接続されるゲートバス配線3の一部に重なることを特徴とする液晶を用いるアクティブマトリクス表示装置のアクティブマトリクス基板。」 2.引用例2 本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開昭63-12172号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。 「2.特許請求の範囲 1.ゲート絶縁膜がポリイミド前駆体薄膜あるいはポリイミド前駆体薄膜を部分的又は完全にイミド化させた薄膜であることを特徴とするアモルファスシリコン薄膜トランジスタ。」(第1ページ左下欄第4-8行) 「「問題点を解決するための手段」 本発明は、特願昭60-157,354に示されたポリイミド前駆体をラングミュア・ブロジェット法(LB法)により基板上に累積したポリイミド前駆体薄膜あるいは該薄膜を部分的又は完全にイミド化させた薄膜をゲート絶縁膜として使用してアモルファスシリコンTFTを作成することによって、上記問題点を解決したものである。ここに採用された薄膜は2000Å以下、好ましくは1000Å以下でも非常にピンホールの少ない膜が得られ、絶縁破壊強度は1×10^(6)V/cm以上にすることができる。又、耐熱性の面でも一般のLB膜より優れている。更に、ポリイミド前駆体の分子構造を適切に選び、累積膜を部分的あるいは完全にイミド化させることによって、200℃以上、更には完全にイミド化させた場合には、400℃以上の耐熱性を実現できる。 本発明のポリイミド薄膜を形成するための両性ポリイミド前駆体は、例えば一般式(1): で表される操り返し単位を存する数平均分子量が2,000?300,000のものである。 ・・・(中略)・・・ 前記のごときR^(1)の好ましい具体例としては、たとえば、 ・・・(中略)・・・ ・・・(中略)・・・ などがあげられる。 ・・・(中略)・・・ 前記のごときR^(2)の具体例としては、R^(2)の具体例(1) ・・・(中略)・・・ ここではR^(9)は ・・・(中略)・・・ ・・・(中略)・・・ 等であり、前記のごときR^(2)の好ましい具体例としては、例えば、 ・・・(中略)・・・ (式中、R^(9)は ・・・(中略)・・・ ・・・(中略)・・・ )などがあげられる。 ・・・(中略)・・・ しかしフッ素原子により疏水性は水素原子とくらべ飛躍的に改善されるので、フッ素原子を含むものを利用するのが好ましい。」(第2ページ右上欄第4行-第5ページ右上欄第4行) 第5.本願発明と引用発明との対比 1.両発明の構成の対応関係 引用発明の「透明絶縁性基板1」、「ゲート電極2」、「ゲート絶縁膜4」、「半導体層5」、「ソース電極6」、「ドレイン電極8」、「層間絶縁膜10」、「絵素電極11」、「液晶を用いるアクティブマトリクス表示装置」、「アクティブマトリクス基板」、「TFT」、「ゲートバス配線3」、「ソースバス配線7」、「重なること」は、それぞれ、本願発明の「基板」、「ゲート電極」、「ゲート絶縁膜」、「半導体層」、「ソース」、「ドレイン」、「保護膜」、「画素電極」、「液晶表示装置」、「トランジスタ基板」、「トランジスタ」、「ゲートバス配線」、「信号バス配線」、「重畳され」ることに相当する。 また、引用発明において「前記ゲートバス配線3及び前記ソースバス配線7は前記層間絶縁膜10の下に位置し」ていることは、本願発明において「前記ゲートバス配線及び前記信号バス配線の少なくとも一方は前記保護膜の下に位置し」ていることに相当する。 2.一致点及び相違点 以上を総合すると、本願発明と引用発明とは、 「基板と、 前記基板上のゲート電極、ソース、ドレイン、半導体層及びゲート絶縁層を含むトランジスタと、 前記トランジスタ上に形成される保護膜と、 前記ゲート電極に接続されるゲートバス配線と、 前記ソースに接続される信号バス配線と、 前記ドレインに接続され、前記保護膜上に位置する画素電極とを含み、 前記ゲートバス配線及び前記信号バス配線の少なくとも一方は前記保護膜の下に位置し、 前記画素電極は、前記信号バス配線と、前記トランジスタに隣接する他のトランジスタのゲート電極に接続されるゲートバス配線の一部に重畳されることを特徴とする液晶表示装置のトランジスタ基板。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 本願発明は、「前記ゲート絶縁層及び前記保護膜は、フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCB中の少なくとも一つを含む」との材料を特定する構成を備えているのに対して、引用発明は、そのような構成を備えていない点。 第6.相違点についての当審の判断 1.ゲート絶縁層の材料特定 ア 引用例2には、「ゲート絶縁膜がポリイミド前駆体薄膜あるいはポリイミド前駆体薄膜を部分的又は完全にイミド化させた薄膜であることを特徴とするアモルファスシリコン薄膜トランジスタ」(特許請求の範囲第1項)において、そのような薄膜、すなわちポリイミド薄膜を形成するための当該ポリイミド前駆体として、一般式(1): で表される操り返し単位を存する数平均分子量が2,000?300,000のものが開示されるとともに、一般式(1)のR^(1)の好ましい具体例の一つとして があげられており、また、R^(2)の好ましい具体例の一つとしては、 であって、かつ、R^(9)が であるものも、開示されている。 イ そして、引用例2には、上記一般式(1)からなるポリイミド前駆体を用いる効果として、ゲート絶縁膜として非常にピンホールの少ない膜が得られること、絶縁破壊強度を高くすることができること、また、耐熱性に優れたものが得られることが示唆されるとともに、さらに、R^(1)やR^(2)の好ましい具体例として上に摘記をした物質のごとくフッ素原子を含む場合には、疏水性をも改善される効果が示唆されており、引用発明の「ゲート絶縁層4」においても同様の効果を期待して、引用例2に記載されるようなフッ素原子を含むポリイミド前駆体により形成されるポリイミド、すなわち、本願発明の「フッ素が添加されたポリイミド」に相当するものを採用することは、当業者が適宜なし得たものである。 ウ よって、本願発明の上記相違点に係る構成のうち、「ゲート絶縁層」に関して「フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCB中の少なくとも一つを含む」との構成を実現することは、引用発明及び引用例2に記載された発明に基づき、当業者が容易になしえたものである。 2.保護膜の材料特定 ア 本願発明の「保護膜」は、本願明細書の0009段落に「前記保護膜29は、その膜の下に形成されている薄膜トランジスタを保護しながら、薄膜トランジスタを液晶から電気的に絶縁する。」と記載されているとおり、絶縁性が要求されるものであって、その上に位置する「画素電極」と、その下に位置する「トランジスタ」等の構造体との間を、電気的接続が必要な箇所以外絶縁する、いわゆる「層間絶縁膜」としての機能も果たしているものと認められる。そして、次の周知例にもあるように、カップリング容量を小さくし、クロストークや信号遅延を低減させる観点から、層間絶縁膜としてフッ素が添加されたポリイミドやテフロンのような誘電率の低い材料を採用することは、本願の優先権主張日前からの周知技術である。 周知例1 本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開平8-70041号公報には、信号遅延を低減させるために、含フッ素ポリイミドを層間絶縁材料に用いること、すなわち、層間絶縁膜としてフッ素が添加されたポリイミドを用いることを示す、以下の事項が記載されている。 「【0002】 【従来の技術】近年半導体装置は、高集積化にともなう高速化が必要になり、信号遅延を低減させる目的で、多層配線層における絶縁材料の見直しが行われている。従来層間絶縁材料としては、SiO_(2 )、Si_(3) N_(4) 等の材料が用いられてきたが、比誘電率がSiO_(2 )で4、Si_(3) N_(4) で7と大きいことから、誘電率の低い絶縁材料の使用が求められている。 【0003】例えば誘電率の低い材料として、高分子材料、中でも最も耐熱性の高いポリイミド樹脂が有力な候補として、従来から層間絶縁材料への適用が行われている。しかし、このポリイミド樹脂でも比誘電率は3とまだ比較的大きく、さらに誘電率を低下させるために、ポリイミド中にフッ素原子を含有させた、含フッ素ポリイミドを層間絶縁材料に用いる検討が最近なされている。この含フッ素ポリイミドは通常のポリイミドに比べて誘電率が低く、吸湿性も低いなど、従来のポリイミドにはない様々な利点を有している。」 周知例2 本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平7-84284号公報には、層間絶縁膜としてフッ素系ポリイミド膜を用いることにより、カップリング容量を十分に小さくし、クロストークを大幅に低減できることと、フッ素系ポリイミドの代わりにテフロンを用いても良いとのこと、すなわち、層間絶縁膜としてフッ素が添加されたポリイミドまたはテフロンを用いることを示す、以下の事項が記載されている。 「【0042】また、本実施例によれば、信号線9と画素電極11,12との間のカップリング容量は、層間絶縁膜であるフッ素系ポリイミド膜の比誘電率が2.8で、その膜厚が1.5μmであるので、通常用いられている比誘電率が6.4のシリコン窒化膜(典型的な厚さ500nm)を用いた場合の容量の約1/7となる。したがって、本実施例によれば、信号線9と画素電極11,12との間のカップリング容量を十分に小さくでき、クロストークを大幅に低減できる。なお、フッ素系ポリイミド膜の比誘電率は2?4程度の範囲で選択できる。」 「【0059】なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではない。例えば、上記実施例では、層間絶縁膜としてフッ素系ポリイミド膜を用いたが、その代わりにテフロン等のフッ素樹脂を用いても良い。これらはシリコン酸化膜の比誘電率4.0よりも小さい。」 イ そして、引用発明に上記周知技術を適用し、「層間絶縁膜10」の材料を「フッ素が添加されたポリイミド」または「テフロン」とすることも、当業者が適宜なし得たものである。 ウ よって、本願発明の上記相違点に係る構成のうち、「保護膜」に関して「フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCB中の少なくとも一つを含む」との構成を実現することは、上記周知技術を勘案することにより、引用発明に基づき、当業者が容易になしえたものである。 3.小括 「前記ゲート絶縁層及び前記保護膜は、フッ素が添加されたポリイミド、テフロン、Cytop、フルオロポリアリールエーテル、フッ素が添加されたパリレン(parylene)、PFCB及びBCB中の少なくとも一つを含む」との本願発明の上記相違点に係る構成は、そのうちの「ゲート絶縁層」に関する材料特定については、上記(1)での検討により、引用発明及び引用例2に記載された発明に基づき、当業者が容易になしえたものと結論づけられ、また、そのうちの「保護膜」に関する材料特定については、上記(2)での検討により、周知技術を勘案することにより、引用発明に基づき、当業者が容易になしえたものであると結論づけられる。 そうすると、本願発明は、周知技術を勘案することにより、引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第7.むすび 以上のとおりであるから、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-10-26 |
結審通知日 | 2010-11-02 |
審決日 | 2010-11-15 |
出願番号 | 特願平9-91520 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 河本 充雄、小出 輝 |
特許庁審判長 |
河口 雅英 |
特許庁審判官 |
小野田 誠 市川 篤 |
発明の名称 | 液晶表示装置の製造方法及びその製造方法による液晶表示装置 |
代理人 | 廣澤 哲也 |
代理人 | 渡邉 勇 |
代理人 | 小杉 良二 |