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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J |
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管理番号 | 1234564 |
審判番号 | 不服2007-30604 |
総通号数 | 137 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-11-12 |
確定日 | 2011-03-30 |
事件の表示 | 平成10年特許願第501615号「改質されたカーボン吸着剤および該吸着剤を用いる吸着方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年12月18日国際公開、WO97/47382、平成12年 9月19日国内公表、特表2000-512203〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯・本願発明 本願は、平成1997年6月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年6月14日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年1月30日付けで拒絶理由の起案がなされ、同年6月5日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、同年8月2日付けで拒絶査定の起案がなされ、同年11月12日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成20年2月13日付けで審判請求書の手続補正書の提出がなされたものである。 本願請求項1?17に係る発明は、平成19年6月5日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲第1?17項に記載された事項に特定されるとおりであるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 1.吸着質と前記吸着質を吸着することが可能な改質された炭素素材とを接触せしめることを含んで成る吸着方法であって、前記改質された炭素材料が炭素材料に結合される少なくとも1つの有機基を含んで成り、前記有機基が前記炭素材料に直接結合されている芳香族基又はC_(1)-C_(12) アルキル基を含んで成り、ここで、前記炭素材料はカーボンブラックであり、そして前記材料が燃料油又はポリマー前駆体の熱分解により得られることを特徴とする方法。 なお、「改質された炭素素材」は、「前記改質された炭素材料」及び「前記炭素材料」との記載をみると、「改質された炭素材料」の誤記と認められ、以下の検討では、「改質された炭素材料」として扱うこととする。 II.引用文献・周知文献 II-1.引用文献1 本願の優先日前に頒布されたことが明らかな特開平5-126815号公報(原査定において引用例2として提示されたもの)には、次の事項が記載されている。 (1-1)「【請求項1】 炭素含有率95重量%以上、比表面積が5m^(2 )/gないし500m^(2) /gの実質的に球状の炭素系粒子を化学修飾したクロマトグラフィー用充填剤。」(特許請求の範囲 請求項1) (1-2)「本発明に用いる炭素系粒子は、例えば、以下のようにして製造することができる。 先ず、平均分子量300以上のピッチと、有機ポリマーのモノマーと重合開始剤を含む混合物を懸濁重合反応させ、生成したビーズを回収する。 ・・・・・・ 次いで、このようにして不融化したビーズを、好ましくは1100℃以上の温度下で、通常、1100℃ないし3000℃の温度下で、真空中又は、アルゴンや窒素等のような不活性雰囲気下で焼成する。」(【0011】?【0019】) (1-3)「本発明のクロマトグラフィー用充填剤は、上述の炭素系粒子に化学修飾を施したものである。化学修飾の種類は特に限定されるものではなく、例えば、メチル基ないしブチル基若しくはアリル基のような低級アルキル基又はオクタデシル基のような高級アルキル基を導入するアルキル化、・・・・・・等種々の化学修飾が可能である。修飾の程度、すなわち、単位重量当りの粒子に導入される置換基の数は、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択することができる。・・・・・・。 化学修飾の方法は、有機化合物に当該置換基を導入する方法として常用されている方法により行なうことができ、多くの場合、対応ハロゲン化物と炭素系粒子を溶媒中、無水塩化アルミニウムの存在下、加熱してフリーデル-クラフツ反応を行なわせることにより行なうことができる。もっとも、これに限定されるものではなく、例えばアゾ基を含む化合物のようにラジカル反応等を利用することもできる。 分離しようとする物質に応じて、適当な化学修飾を選択することにより、化学修飾されていない炭素系粒子をクロマトグラフィー用充填剤として用いた場合に比べて有意に分離能を向上させることができる。例えば、芳香族化合物を分離する場合はフェニル基を、・・・・・・逆相クロマトグラフィー充填剤として使用する場合はオクタデシル、オクチル、トリメチル等のアルキル基を、・・・・・・炭素系粒子に導入するとよい。」(【0020】?【0022】) (1-4)「本発明のクロマトグラフィー用充填剤は、従来のクロマトグラフィー用充填剤と同様に用いることができ・・・・・・る。」(【0023】) (1-5)「実施例1、比較例1 ブチル化炭素系粒子 ・・・・・・炭素系粒子を得た。 上記で得られたブチル化炭素系粒子を・・・・・・カラムに充填し、試料・・・・・・をかけ、・・・・・・溶離した。・・・・・・ 一方、対照として、ブチル化していない未修飾炭素系粒子を用いて同様なクロマトグラフィーを行なった(比較例1)。・・・・・・。 表1に示されるように、ブチル化を施すことにより、未修飾の炭素系粒子に比べて理論段数が2.2倍に増加しており、クロマトグラフィーの分離能が高まったことがわかる。」(【0025】?【0030】) II-2.周知文献1 本願の優先日前に頒布されたことが明らかな「カーボンブラック便覧<第三版> 平成7年4月15日 カーボンブラック協会発行」(原査定で周知文献として提示されたもの)には、次の事項が記載されている。 (2-1)「c.フリーデルクラフツ反応 カーボンブラックやグラファイト表面の縮合芳香族環へのフリーデルクラフツ反応(式10)も可能であり、粒子表面への様々な機能基の導入反応へ利用できる。」(166頁下から2行?167頁1行) (2-2)165頁の「図4.26 カーボンブラック表面縮合芳香族環への機能性基導入反応」には、次のように記載され、 上記(2-1)の「(式10)」といえる「(10)」と記された反応では、カーボンブラック表面の縮合芳香族環にRが直接結合されていることが見て取れる。 (2-3)「2.種類 ・・・・・・ ・・・・・・製法で分類する方法が一般的で、原料炭化水素の熱分解か、不完全燃焼か何れかに大別され(表3)・・・・・・る。・・・・・・。 ファーネス法は、燃料の空気による燃焼熱によって、原料炭化水素を連続的に熱分解させてカーボンブラックを生成させる方法・・・・・・。」(3頁1?20行) (2-4)上記(2-3)の表3として、「 」が記載されている(3頁)。 III.対比・判断 (あ)引用文献1の上記(1-1)には、「炭素含有率95重量%以上、比表面積が5m^(2 )/gないし500m^(2) /gの実質的に球状の炭素系粒子を化学修飾したクロマトグラフィー用充填剤」が記載され、この充填剤は、上記(1-4)の記載によれば、「従来のクロマトグラフィー用充填剤と同様に用いることができ・・・・・・る。」から、吸着剤として用いられることは明らかであり、引用文献1には、この充填剤を用いた吸着方法が記載されているとみることができる。 (い)上記(1-1)でいう「炭素系粒子」とは、上記(1-2)の記載によれば、「平均分子量300以上のピッチと、有機ポリマーのモノマーと重合開始剤を含む混合物を懸濁重合反応させ、・・・・・・1100℃ないし3000℃の・・・・・・不活性雰囲気下で焼成する」ものといえる。 (う)上記(1-1)でいう「化学修飾」とは、上記(1-3)の記載によれば、「メチル基ないしブチル基若しくはアリル基のような低級アルキル基・・・・・・を導入するアルキル化」や「フェニル基を・・・・・・導入する」ことといえる。 上記(あ)?(う)の検討を踏まえ、上記(1-1)?(1-4)の記載事項を整理して記載すると、引用文献1には、 「平均分子量300以上のピッチと、有機ポリマーのモノマーと重合開始剤を含む混合物を懸濁重合反応させ、1100℃ないし3000℃の不活性雰囲気下で焼成する炭素系粒子をメチル基ないしブチル基若しくはアリル基のような低級アルキル基を導入するアルキル化やフェニル基を導入する化学修飾したクロマトグラフィー用充填剤を用いた吸着方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 そこで、本願発明と引用発明を対比する。 (か)引用発明の「炭素系粒子」は、「アルキル化やフェニル基を導入する化学修飾」をしているから、改質されたものといえ、吸着に当たり、吸着質と接触せしめられていることは明らかである。 (き)引用発明の「炭素系粒子」は、「炭素材」であるから、本願発明の「カーボンブラック」と「炭素材」である点で一致している。 (く)引用発明の「メチル基ないしブチル基若しくはアリル基のような低級アルキル基」及び「フェニル基」は「有機基」であり、該「フェニル基」は「芳香族基」、該「メチル基ないしブチル基若しくはアリル基」は「C_(1)-C_(12) アルキル基」であることは明らかである。 (け)引用発明の「化学修飾」は、上記(1-3)の記載によれば、「フリーデル-クラフツ反応を行なわせることにより行なうことができる」ものであるから、「メチル基ないしブチル基若しくはアリル基のような低級アルキル基」及び「フェニル基」は、「炭素系粒子」に直接結合しているものを含む、すなわち、上記(き)及び(く)の検討を併せみると、「有機基が炭素材料に直接結合されている芳香族基又はC_(1)-C_(12) アルキル基を含んで」いるといえる。 そうすると、両者は、 「吸着質と前記吸着質を吸着することが可能な改質された炭素材とを接触せしめることを含んで成る吸着方法であって、前記改質された炭素材が炭素材に結合される少なくとも1つの有機基を含んで成り、前記有機基が前記炭素材に直接結合されている芳香族基又はC_(1)-C_(12) アルキル基を含んで成る吸着方法。」である点で一致し、次の点で相違している。 相違点A:炭素材につき、本願発明は、カーボンブラックであり、燃料油又はポリマー前駆体の熱分解により得られるものであるのに対し、引用発明は、炭素系粒子であり、有機ポリマーのモノマーと重合開始剤を含む混合物を懸濁重合反応させ、1100℃ないし3000℃の不活性雰囲気下で焼成するものである点 そこで、この相違点Aについて検討する。 カーボンブラックは、吸着剤としてごく普通に使用されるものであり(要すれば、特開平2-139035号公報、特開平3-86239号公報、特開平4-169844号公報、特開平4-20535号公報の【0030】、特開平1-127005号公報の3頁右下欄5?10行、特開昭63-247528号公報の3頁右上欄9?11行を参照。)、また、燃料油又はポリマー前駆体の熱分解により得られるものである(要すれば、周知文献1の上記(2-3)及び(2-4)を参照。)。そして、周知文献1の上記(2-1)及び(2-2)から明らかなように、カーボンブラックにおいて、フリーデルクラフツ反応により有機基が直接結合することも周知の反応である。 一方、吸着剤はその材質を問わず吸着能を向上させることが周知の技術課題であって、炭素粒子を化学修飾させて吸着能を向上させることは周知の技術手段である(要すれば、引用文献1の上記(1-5)、原査定の拒絶の理由で引用文献4として提示された特開平2-193066号公報の4頁左上欄8?12行を参照)。 そうすると、吸着剤としてごく普通に使用されるカーボンブラックにおいても、周知の技術手段である化学修飾により吸着能を向上させようとの動機付けを当業者ならば当然に有するものといえ、しかも、この化学修飾において、引用文献1の炭素系粒子に用いられているフリーデルクラフツ反応が、上述のとおりカーボンブラックにおいても周知の反応であるから、引用発明の有機ポリマーのモノマーと重合開始剤を含む混合物を懸濁重合反応させ、1100℃ないし3000℃の不活性雰囲気下で焼成する炭素系粒子に代えて、カーボンブラックとし、上記相違点Aに係る本願発明の特定事項をなすことは当業者であれば、適宜なし得ることである。 なお、請求人は審判請求書において、上記周知文献1について、「芳香族基又はC_(1)-C_(12)アルキル基をカーボンブラックに直接結合させるために、フリーデル・クラフト反応を如何に利用するかについては全く説明されていません。」と主張しているが、周知技術を適用するに当たっては、当業者において適宜工夫することが当然予想されているものであるから、この主張を採用しない。 そして、本願発明の作用効果は、引用文献1の記載及び周知技術から当業者であれば予想できる程度のものである。 IV.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-11-01 |
結審通知日 | 2010-11-02 |
審決日 | 2010-11-15 |
出願番号 | 特願平10-501615 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B01J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小川 知宏 |
特許庁審判長 |
木村 孔一 |
特許庁審判官 |
豊永 茂弘 深草 祐一 |
発明の名称 | 改質されたカーボン吸着剤および該吸着剤を用いる吸着方法 |
代理人 | 福本 積 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 青木 篤 |