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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B26D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B26D
審判 全部無効 2項進歩性  B26D
管理番号 1234574
審判番号 無効2009-800051  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-02-27 
確定日 2011-04-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第3589441号発明「カッティングプロッタと該プロッタを用いたシール材のカット方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3589441号の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし4」という。)についての出願は、平成10年3月12日(優先権主張平成9年10月6日)に特許出願され、平成16年8月27日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成21年2月27日に請求人あいホールディングス株式会社及びグラフテック株式会社より無効審判の請求がなされたところ、平成21年5月25日に被請求人株式会社ミマキエンジニアリングより審判事件答弁書が提出され、平成21年10月23日に請求人及び被請求人よりそれぞれ口頭審理陳述要領書が提出され、そして平成21年11月6日に第1回口頭審理が実施された。


第2 本件特許発明
本件特許発明1ないし4は、特許された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 プラテン上に搭載されたシール材表面に印刷されたシールの輪郭を、シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2と、前記座標原点を通るシール材の横軸の位置を示すトンボ3とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つシール材表面に印刷されたトンボ1、2、3を基準にして、記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータに基づき、前記プラテン上に搭載されたシール材上をX?Y方向に相対的に移動させるヘッドに装着されたカッタによりカットするカッティングプロッタであって、
前記トンボ1、2、3の横線及び縦線の左右の側縁の位置を検知する前記ヘッドに装着された高精度反射型フォトセンサと、該センサで検知したトンボ1、2、3の横線及び縦線の左右の側縁の位置から、前記トンボ1、2、3の横線及び縦線の中心線上に位置するA点、B点、C点、D点、E点及びF点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)を検出する検出手段と、該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段と、該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段とを備えたことを特徴とするカッティングプロッタ。
【請求項2】 請求項1記載のカッティングプロッタを用いて、プラテン上に搭載されたシール材表面に印刷されたシールの輪郭を、シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2と、前記座標原点を通るシール材の横軸の位置を示すトンボ3とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つシール材表面に印刷されたトンボ1、2、3を基準にして、記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータに基づき、前記プラテン上に搭載されたシール材上をX?Y方向に相対的に移動させるヘッドに装着されたカッタによりカットするシール材のカット方法であって、次の工程を含むことを特徴とするカッティングプロッタを用いたシール材のカット方法。
a.前記ヘッドを前記プラテン上に搭載されたシール材上をX?Y方向に相対的に移動させて、ヘッドを前記トンボ1の近くに移動させる工程。
b.前記ヘッドを、前記トンボ1の横線を跨いで、プラテン上に搭載されたシール材上をY方向に相対的に移動させて、ヘッドに装着された高精度反射型フォトセンサにより、トンボ1の横線の左右の側縁の位置を検知し、該検知したトンボ1の横線の左右の側縁の位置から、トンボ1の横線の中心線上に位置するA点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)を、検出手段により検出する工程。
c.前記ヘッドを、前記トンボ1の縦線を跨いで、プラテン上に搭載されたシール材上をX方向に相対的に移動させて、ヘッドに装着された高精度反射型フォトセンサにより、トンボ1の縦線の左右の側縁の位置を検知し、該検知したトンボ1の縦線の左右の側縁の位置から、トンボ1の縦線の中心線上に位置するB点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのB点の座標(X2,Y2)を、検出手段により検出する工程。
d.前記ヘッドを前記プラテン上に搭載されたシール材上をX?Y方向に相対的に移動させて、ヘッドを前記トンボ2の近くに移動させる工程。
e.前記ヘッドを、前記トンボ2の横線を跨いで、プラテン上に搭載されたシール材上をY方向に相対的に移動させて、ヘッドに装着された高精度反射型フォトセンサにより、トンボ2の横線の左右の側縁の位置を検知し、該検知したトンボ2の横線の左右の側縁の位置から、トンボ2の横線の中心線上に位置するC点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのC点の座標(X3,Y3)を、検出手段により検出する工程。
f.前記ヘッドを、前記トンボ2の縦線を跨いで、プラテン上に搭載されたシール材上をX方向に相対的に移動させて、ヘッドに装着された高精度反射型フォトセンサにより、トンボ2の縦線の左右の側縁の位置を検知し、該検知したトンボ2の縦線の左右の側縁の位置から、トンボ2の縦線の中心線上に位置するD点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのD点の座標(X4,Y4)を、検出手段により検出する工程。
g.前記ヘッドを前記プラテン上に搭載されたシール材上をX?Y方向に相対的に移動させて、ヘッドを前記トンボ3の近くに移動させる工程。
h.前記ヘッドを、前記トンボ3の横線を跨いで、プラテン上に搭載されたシール材上をY方向に相対的に移動させて、ヘッドに装着された高精度反射型フォトセンサにより、トンボ3の横線の左右の側縁の位置を検知し、該検知したトンボ3の横線の左右の側縁の位置から、トンボ3の横線の中心線上に位置するE点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのE点の座標(X5,Y5)を、検出手段により検出する工程。
i.前記ヘッドを、前記トンボ3の縦線を跨いで、プラテン上に搭載されたシール材上をX方向に相対的に移動させて、ヘッドに装着された高精度反射型フォトセンサにより、トンボ3の縦線の左右の側縁の位置を検知し、該検知したトンボ3の縦線の左右の側縁の位置から、トンボ3の縦線の中心線上に位置するF点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのF点の座標(X6,Y6)を、検出手段により検出する工程。
j.前記検出手段により検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)の値から、プラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率を、算出手段により算出する工程。
k.前記算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを、改変手段により改変する工程。
l.前記改変手段により改変したシールの輪郭のカットデータに基づき、前記ヘッドを前記プラテン上に搭載されたシール材上をX?Y方向に相対的に移動させて、前記シール材表面に印刷されたシールの輪郭を、前記ヘッドに装着されたカッタを用いて、カットする工程。
【請求項3】 プラテン上に搭載されたシール材表面に印刷されたシールの輪郭を、シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つシール材表面に印刷されたトンボ1、2を基準にして、記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータに基づき、前記プラテン上に搭載されたシール材上をX?Y方向に相対的に移動させるヘッドに装着されたカッタによりカットするカッティングプロッタであって、
前記トンボ1、2の横線及び縦線の左右の側縁の位置を検知する前記ヘッドに装着された高精度反射型フォトセンサと、該センサで検知したトンボ1、2の横線及び縦線の左右の側縁の位置から、前記トンボ1、2の横線及び縦線の中心線上に位置するA点、B点、C点及びD点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)を検出する検出手段と、該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段と、該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段とを備えたことを特徴とするカッティングプロッタ。
【請求項4】 請求項3記載のカッティングプロッタを用いて、プラテン上に搭載されたシール材表面に印刷されたシールの輪郭を、シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つシール材表面に印刷されたトンボ1、2を基準にして、記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータに基づき、前記プラテン上に搭載されたシール材上をX?Y方向に相対的に移動させるヘッドに装着されたカッタによりカットするシール材のカット方法であって、次の工程を含むことを特徴とするカッティングプロッタを用いたシール材のカット方法。
a.前記ヘッドを前記プラテン上に搭載されたシール材上をX?Y方向に相対的に移動させて、ヘッドを前記トンボ1の近くに移動させる工程。
b.前記ヘッドを、前記トンボ1の横線を跨いで、プラテン上に搭載されたシール材上をY方向に相対的に移動させて、ヘッドに装着された高精度反射型フォトセンサにより、トンボ1の横線の左右の側縁の位置を検知し、該検知したトンボ1の横線の左右の側縁の位置から、トンボ1の横線の中心線上に位置するA点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)を、検出手段により検出する工程。
c.前記ヘッドを、前記トンボ1の縦線を跨いで、プラテン上に搭載されたシール材上をX方向に相対的に移動させて、ヘッドに装着された高精度反射型フォトセンサにより、トンボ1の縦線の左右の側縁の位置を検知し、該検知したトンボ1の縦線の左右の側縁の位置から、トンボ1の縦線の中心線上に位置するB点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのB点の座標(X2,Y2)を、検出手段により検出する工程。
d.前記ヘッドを前記プラテン上に搭載されたシール材上をX?Y方向に相対的に移動させて、ヘッドを前記トンボ2の近くに移動させる工程。
e.前記ヘッドを、前記トンボ2の横線を跨いで、プラテン上に搭載されたシール材上をY方向に相対的に移動させて、ヘッドに装着された高精度反射型フォトセンサにより、トンボ2の横線の左右の側縁の位置を検知し、該検知したトンボ2の横線の左右の側縁の位置から、トンボ2の横線の中心線上に位置するC点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのC点の座標(X3,Y3)を、検出手段により検出する工程。
f.前記ヘッドを、前記トンボ2の縦線を跨いで、プラテン上に搭載されたシール材上をX方向に相対的に移動させて、ヘッドに装着された高精度反射型フォトセンサにより、トンボ2の縦線の左右の側縁の位置を検知し、該検知したトンボ2の縦線の左右の側縁の位置から、トンボ2の縦線の中心線上に位置するD点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのD点の座標(X4,Y4)を、検出手段により検出する工程。
g.前記検出手段により検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)の値から、プラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率を、算出手段により算出する工程。
h.前記算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを、改変手段により改変する工程。
i.前記改変手段により改変したシールの輪郭のカットデータに基づき、前記ヘッドを前記プラテン上に搭載されたシール材上をX?Y方向に相対的に移動させて、前記シール材表面に印刷されたシールの輪郭を、前記ヘッドに装着されたカッタを用いて、カットする工程。」


第3 請求人の主張の概要
請求人は、証拠方法として後記の書証をもって、以下に示す理由1ないし4により本件特許は無効にされるべきであると主張している。
理由1(明確性違反)
本件特許発明1ないし4は、「高精度」なる事項がいかなる意義を有するのか不明であるから明確ではなく、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものである。
理由2(実施可能要件違反)
本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、高精度反射型フォトセンサを利用してトンボの縦線及び横線の左右の側縁の位置をどのようにして検知するのか記載されていないから、当業者が本件特許発明1ないし4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、平成14年改正前特許法(以下、「改正前特許法」という。)第36条第4項に違反するものである。
理由3(進歩性欠如1)
本件特許発明1ないし4は、甲第3号証に記載された発明並びに甲第1ないし36号証の記載事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
理由4(進歩性欠如2)
本件特許発明1ないし4は、甲第36号証に記載された発明並びに甲第1ないし36号証の記載事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

[証拠方法]
甲第1号証 平成16年7月26日付け手続補正書
甲第2号証 平成16年7月26日付け意見書
甲第3号証 特開平6-55892号公報
甲第4号証 実願昭56-013823号(実開昭57-128493号)のマイクロフィルム
甲第5号証 大塚商会のウェブページ
甲第6号証 特開平6-71590号公報
甲第7号証 特開平5-261996号公報
甲第8号証 特開平5-104497号公報
甲第9号証 実願昭54-8921号(実開昭55-111797号)のマイクロフィルム
甲第10号証 実願昭60-134498号(実開昭62-43795号)のマイクロフィルム
甲第11号証 特開昭63-34097号公報
甲第12号証 被請求人のウェブページ
甲第13号証 ネットアイアールのウェブページ
甲第14号証 平成16年4月19日付け早期審査に関する事情説明書
甲第15号証 CG-EXシリーズの取扱説明書の写し(抜粋)
甲第16号証 CG-FXシリーズの取扱説明書の写し(抜粋)
甲第17号証 WebBCNのウェブページ
甲第18号証 特許電子図書館での検索結果の報告書(被請求人)
甲第19号証 特許電子図書館での検索結果の報告書(請求人グラフテック)
甲第20号証 特許電子図書館での検索結果の報告書(武藤工業)
甲第21号証 特許電子図書館での検索結果の報告書(ローランド)
甲第22号証 特許電子図書館での検索結果の報告書(マックス)
甲第23号証 特開平6-72095号公報
甲第24号証 特開平6-55893号公報
甲第25号証 特開平6-55894号公報
甲第26号証 平成16年5月25日(起案日)付け拒絶理由通知
甲第27号証 特開平5-200697号公報
甲第28号証 特開平6-312347号公報
甲第29号証 特開昭61-102298号公報
甲第30号証 実願昭54-69518号(実開昭55-169488号)のマイクロフィルム
甲第31号証 実願昭54-69519号(実開昭55-169489号)のマイクロフィルム
甲第32号証 特開昭56-60986号公報
甲第33号証 実願昭53-1927号(実開昭54-106743号)のマイクロフィルム
甲第34号証 特開昭61-235195号公報
甲第35号証 特開平7-246798号公報
甲第36号証 特開平8-267868号公報
甲第37号証 東京地裁平成20年(ワ)第32096号 特許権侵害差止等請求事件の原告準備書面(4)
甲第38号証 広辞苑第六版第909ページの写し
甲第39号証 IEEE 電気・電子用語辞典第24ページの写し

なお、甲第37ないし39号証は、平成21年10月23日付け口頭審理陳述要領書において提示されたものである。


第4 被請求人の主張の概要
被請求人は、上記請求人の主張に対して、理由1(明確性違反)については、本件特許発明1ないし4は明確である、
理由2(実施可能要件)については、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に違反するものではない、
理由3(進歩性欠如1)については、本件特許発明1ないし4は、甲第3号証に記載された発明並びに甲第1ないし36号証の記載事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない、
理由4(進歩性欠如2)については、本件特許発明1ないし4は、甲第36号証に記載された発明並びに甲第1ないし36号証の記載事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない、と反論している。

[証拠方法]
乙第1号証 新光電子株式会社ウエブサイト
乙第2号証 東京地裁平成20年(ワ)第32096号の被告第1準備書面
乙第3号証 反射型フォトセンサ「KR1228」のパンフレットの写し
乙第4号証 特許第3585268号公報


第5 理由1(明確性違反)についての当審の判断
本件特許発明1ないし4の「高精度反射型フォトセンサ」なる事項において、「高精度」なる事項が明確であるか否かについて検討する。
本件特許の請求項1及び3の「前記トンボ」の「横線及び縦線の左右の側縁の位置を検知する前記ヘッドに装着された高精度反射型フォトセンサ」なる記載からみて、「高精度反射型フォトセンサ」がトンボの「横線及び縦線の左右の側縁の位置を検知する」ことができる程度の精度を有していることは明らかである。
そして、トンボの「横線及び縦線の左右の側縁の位置を検知する」ためには、反射型フォトセンサの検知信号が、トンボの横線及び縦線の左右の側縁の位置に対応して急速に変化する必要があることは技術常識からみて明らかであり、その場合、反射型フォトセンサに求められる精度は、検知信号の急速な変化を要しないものに比べて応答性の高い、すなわち高精度のセンサが必要であることも、当業者であれば容易に理解することができる。
そうすると、本件特許発明1及び3の「高精度反射型フォトセンサ」なる事項における「高精度」とは、トンボの「横線及び縦線の左右の側縁の位置を検知」できる程度に、すなわち、トンボの「横線及び縦線の左右の側縁の位置」に対応して検知信号が急速に変化する程度に応答性の高い「高精度」を意味することは明らかである。
また、本件特許発明2及び4の「高精度反射型フォトセンサ」なる事項についても、トンボの横線及び縦線の左右の側縁の位置を検知するものであることから、本件特許発明1及び3と同様の理由により「高精度」なる事項は明確である。
したがって、本件特許発明1ないし4は明確であるから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであるとする無効理由1については、理由がない。


第6 理由2(実施可能要件違反)についての当審の判断
本件特許発明1ないし4の「高精度反射型フォトセンサ」により「トンボ」の「横線及び縦線の左右の側縁の位置を検知」することについて、本件特許の発明の詳細な説明が、当業者が本件特許発明1ないし4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているか否かについて検討する。
本件特許の発明の詳細な説明には、高精度反射型フォトセンサの検知信号をどのように処理し、いかにトンボの横線及び縦線の左右の側縁の位置を検知するかについて、具体的な記載はない。
しかしながら、高精度反射型フォトセンサによりトンボの側縁の位置を検知する場合、検知信号が急速に変化した位置がトンボの側縁の位置であることは技術常識からみて明らかであり、また、検知信号の急速な変化をとらえるための具体的な信号処理方法として、検知信号が一定割合低下することを監視する方法や、検知信号の1次微分ないし2次微分等の処理を施す方法、その他様々な方法があることは、請求人も口頭審理陳述要領書第37ページの第5にて認めるとおり技術常識であって、当業者であれば普通に想定し得る程度のことである。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1ないし4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、改正前特許法第36条第4項に違反するものであるとする無効理由2については、理由がない。


第7 理由3(進歩性の欠如1)についての当審の判断
(1)甲第3号証の記載内容
請求人が提出した甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ア 特許請求の範囲
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 矩形作図範囲の境界付近に描かれたテストパターンのうち、センサをX方向とY方向に移動させてこれらのテストパターンをセンサが横切ることにより得られた少なくとも2組の座標距離と基準距離との差を読み取り、これらの値と基準値とを比較して補正情報を得、これに基づいて作図データの距離寸法、直角度等を自己補正するようにしたことを特徴とするXYプロッタ装置。」

イ 段落【0003】?【0004】
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】・・・・・たとえば、図9に示した従来の1本のベルトでアームを制御している場合、X方向に移動の際、Y座標値がベルトから離れるほどベルトに近い点に較べX方向における移動量の誤差が大きい。すなわちベルトから離れるほど精度が悪くなり、X方向移動量誤差の大きさは、y座標値に依存している。このような問題を解決するために、アームを制御するベルトを図10に示すように2本にした構成も提案されている。しかし、このような構成にしても、モータの動作量をシャフトを介して2本のベルトに伝達するギヤ(シャフトの両端に取り付けられている)にわずかではあるが誤差が含まれており、このため、実際の作図範囲の原点に対する作図誤差が図11の斜線で示すように生じてしまう。
【0004】
【課題を解決するための手段】このような問題を解決するために、本発明では、矩形作図範囲の境界付近に描かれたテストパターンのうち、センサをX方向とY方向に移動させてこれらのテストパターンをセンサが横切ることにより得られた少なくとも2組の座標距離と基準距離との差を読み取り、これらの値と基準値とを比較して補正情報を得、これに基づいて作図データの距離寸法、直角度等を補正するようにしたことを特徴とするXYプロッタ装置が提供される。たとえば、作図された作図機後部に(線分読み取り)センサを設け、描かれたサンプル図の一定の位置の座標を読み取り、機械的な精度の誤差を記憶して自己補正させるようにする。」

ウ 段落【0011】?【0021】
「【0011】図1は、本発明によるXYプロッタ装置の基本構成を示し、特に多ペン式XYプロッタ装置の例を示している。同図において、装置10は、用紙が載置される部分12と、この部分上をX方向に移動するアーム13aと、このアーム上に組み込まれたキャリッジガイド13bと、このガイドに沿ってY方向に移動するペンヘッド14と、用紙載置部分12の周辺に隣接してペンストック15が設けられ、このペンストックにペン16(本例では8個)が設置されている。なお、17は操作パネルである。
【0012】図2は、装置10の基本的なシステムの制御系統を示し、同図において、21は、パターンジェネレータ21a、メモリ21b、CPU21c、A/Dコンバータ21d、カウンタ21eなどが内蔵されるペン制御ユニットである。また、22は、本発明によって特徴づけられるセンサであり、このセンサ22は、図3に示されるペンヘッド14のペン駆動ユニット23のフレーム24aの一部に取り付けられており、公知のフォトカプラのような光学センサによって構成され、用紙に描かれた線分を読み取る動作を行う。なお、このペン駆動ユニット23は、図1に示されるアーム13aに組み込まれたキャリッジガイド13bに沿って移動するように構成されている。また、24はモータ制御回路、25,26はこのモータ制御回路24の制御下にペンヘッド14、アーム13aをX,Y方向にそれぞれ移動させるように回転するモータである。28は、上述したセンサ22、ペン駆動ユニット23のほかエンコーダ23a等を含む作図機構部である。もちろんこの作図機構28には、上述した各構成要素と関連して動作するペンのアップダウン機構、ペンのXY移動機構などが含まれることはもちろんである。
【0013】このような構成のもとに、図4に示されるように、矩形フィルムテンプレートFTを装置10の用紙設定位置に配置し、以下の動作を行う。この場合、フィルムテンプレートFTには、各コーナー付近にカギ型のパターンが形成されている。すなわち、テンプレートFTの4隅にパターンが設けられ、これらのパターンのうち、左下隅のAパターンは、交点から右と上に延びた直線セグメントによって構成され、右下隅のBパターンは、交点から左と上に延びた直線セグメントによって構成され、左上隅のCパターンは、交点から下と右に延びた直線セグメントによって構成され、右上隅のDパターンは、交点から左と下に延びた直線セグメントによって構成されている。
【0014】まず、図6のステップS1をスタートし、図4のテンプレートFT上のAパターンの上に延びた直線セグメントである縦線A1上を、センサ22によって左右に横切らせ、図5に示すようにセンサ22の出力O1、O2を得、ピーク値座標の中間点を線幅31の中央としてX座標PXAをメモリ21bに記憶する。つぎに、図6のステップS2に移り、センサ22を図4のBパターンの部分まで移動させてBパターンの上に延びた直線セグメントである縦線B1上を、センサ22によって左右に横切らせ、上記位置と同様に縦線のX座標PXBを読み取り、これをメモリ21bに記憶する。
【0015】つぎに、ステップS3に移り、得られたX座標PXAとPXBから上記AパターンとBパターン間の距離を計算し、A-Bパターン間を移動するのに必要な理論的数値(基準距離)と読み取った値の誤差ΔXLを求め、これをX軸の移動距離補正定数とし、メモリ21bに記憶する。このAパターンとBパターンとの間を移動することにより得られる値は、作図機構部28に組み込まれた公知のエンコーダ23aとペン制御ユニット21のカウンタ21eとの組み合わせから得られることになる。
【0016】つぎに、ステップS4に移って、センサ22をCパターンの部分に移動させ、Cパターンの下方に延びた直線セグメントである縦線C1を左右に横切ってこの縦線C1の座標を求める。この求め方は、前述したステップS1の縦線A1の座標の求め方と同じである。Dパターンの下に延びた直線セグメントである縦線D1のX座標をAパターンの縦線A1と同様に読み取り、メモリ21bに記憶する。さらに、ステップS5に移り、Cパターンの下に延びた直線セグメントである縦線C1からDパターンの下に延びた縦線D1に向かってセンサ22を移動させ、DパターンのX座標PXDを読み取り、これをメモリ21bに記憶する。
【0017】つぎに、ステップS6に移り、得られたX座標PXCとPXDから上記CパターンとDパターン間の距離を計算し、C-Dパターン間を移動するのに必要な理論的数値(基準距離)と読み取った値の誤差ΔXHを求め、これをX軸の移動距離補正定数とし、メモリ21bに記憶する。このCパターンとDパターンとの間を移動することにより得られる値は、作図機構部28に組み込まれた公知のエンコーダ23aとペン制御ユニット21のカウンタ21eとの組み合わせから得られることになる。
【0018】つぎに、ステップS7に移って、上述した処理により得られたΔXL、ΔXHを台形歪の補正定数としてメモリ21bに記憶する。この後、図8のステップS8に移り、図4のAパターンの横線A2上を、センサ22によって上下に横切らせ、図5に示すようにセンサ22の出力O1、O2を得、ピーク値座標の中間点を線幅31の中央としてY座標をメモリ21bに記憶する。つぎに、ステップS9に移り、図4のCパターンの右に延びた直線セグメントである横線C2を上記横線A2と同様に横線C2のY座標を読み取り、これをメモリ21bに記憶する。
【0019】そして、ステップS10に移って、上記AパターンとCパターンとの間を移動するのに必要な理論的数値と読み取った値の差をY軸の移動距離補正定数とし、これをメモリ21bに記憶する。このAパターンとCパターンとの間を移動することにより得られる値は、作図機構部28に組み込まれた公知のエンコーダ23aとカウンタ21eの組み合わせから得られることになる。
【0020】つぎに、ステップS11に移り、ステップS10で求めたY軸の移動距離補正定数と、ステップS7で求めた台形歪の補正定数の差からAパターンとCパターンを結ぶ辺ACの傾きを求め、これを直角度補正定数としてメモリ21bに記憶する。以上の処理によってX軸、Y軸距離補正、台形補正、直角度補正の各定数を記憶し、これらの定数を用いて任意の寸法に応じて補正して作図する。
【0021】なお、本実施例においては、センサとしてフォトカプラのような光学センサを用いたけれども磁気センサあるいは、その他公知の非接触タイプのセンサであれば同様に用いることができる。また、本実施例では、フィルムテンプレートにテストパターンを描くようにしたけれども作図用紙の作図領域外に形成するようにしてもよいことはもちろんである。」

XYプロッタの技術分野において、作図データを記憶手段に記憶させることは技術常識である。
また、甲第3号証記載の「A、B、C、Dパターン」の「パターン」は、「カギ型」という形状からみて(上記摘記事項ウの段落【0013】及び図4参照)、「トンボ」ということができる。
そうすると、上記摘記事項を技術常識を勘案しながら本件特許発明1ないし4に照らして整理すると、甲第3号証には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲3発明]
「用紙載置部分12上に載置された作図用紙に、作図用紙表面に形成されたトンボA、B、C、Dを基準にして、記憶手段に記憶させた作図データに基づき、前記用紙載置部分12上に載置された作図用紙上をX-Y方向に相対的に移動させるペンヘッド14に装着されたペン16により作図するXYプロッタ装置であって、
前記トンボA、B、C、Dの縦線及び前記トンボA、Cの横線を左右に横切った際のピーク値座標を検知する前記ペンヘッド14のペン駆動ユニット23のフレーム24aに装着された光学センサ22と、該センサで検知したトンボA、B、C、Dの縦線及びトンボA、Cの横線を左右に横切った際のピーク値座標から、前記トンボA、B、C、Dの縦線の線幅中央に位置する点のX座標及びトンボA、Cの横線の線幅中央に位置する点のY座標を検出する検出手段と、該検出手段で検出した前記各点のX座標及びY座標の値から、X軸、Y軸距離補正、台形補正、直角度補正の各定数を算出する算出手段と、該算出手段により算出したX軸、Y軸距離補正、台形補正、直角度補正の各定数を用いて、前記記憶手段に記憶させた作図データを自己補正する自己補正手段とを備えたXYプロッタ装置。」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「用紙載置部分12」は本件特許発明1の「プラテン」に相当し、以下同様に「載置」は「搭載」に、「自己補正する自己補正手段」は「改変する改変手段」に、それぞれ相当する。
また、甲3発明の「ペンヘッド14」及び「ペン駆動ユニット23のフレーム24a」は、上記摘記事項ウの段落【0012】、図1及び図3の記載からみて、一体的に移動するものであることは明らかであるから、本件特許発明1の「ヘッド」に相当するということができる。
そして、甲3発明の「作図用紙」は「シート材」という限りにおいて本件特許発明1の「シール材」と共通しており、以下同様に、「形成された」は「形成された」という限りにおいて「印刷された」と共通し、「トンボA、B、C、D」は「複数のトンボ」という限りにおいて「トンボ1、2、3」と共通し、「作図データ」は「データ」という限りにおいて「シールの輪郭のカットデータ」と共通し、「ペン16」は「作業具」という限りにおいて「カッタ」と共通し、「作図する」は「作業する」という限りにおいて「カットする」と共通し、「XYプロッタ装置」は「プロッタ」という限りにおいて「カッティングプロッタ」と共通し、「光学センサ22」は「フォトセンサ」という限りにおいて「高精度反射型フォトセンサ」と共通し、「トンボA、B、C、Dの縦線の線幅中央に位置する点のX座標及びトンボA、Cの横線の線幅中央に位置する点のY座標を検出する検出手段」は、「複数のトンボの線の中心線上に位置する点の座標を検出する検出手段」という限りにおいて「前記トンボ1、2、3の横線及び縦線の中心線上に位置するA点、B点、C点、D点、E点及びF点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)を検出する検出手段」と共通しており、「該検出手段で検出した前記各点のX座標及びY座標の値から、X軸、Y軸距離補正、台形補正、直角度補正の各定数を算出する算出手段」は「該検出手段で検出した座標の値から、補正のための定数を算出する算出手段」という限りにおいて「該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段」と共通し、「該算出手段により算出したX軸、Y軸距離補正、台形補正、直角度補正の各定数を用いて、前記記憶手段に記憶させた作図データを自己補正する自己補正手段」は「該算出手段により算出した補正のための定数に合わせて、前記記憶手段に記憶させたデータを改変する改変手段」という限りにおいて「該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段」と共通している。

したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりと認められる。
[一致点]
「プラテン上に搭載されたシート材に、シート材表面に形成された複数のトンボを基準にして、記憶手段に記憶させたデータに基づき、前記プラテン上に搭載されたシート材上をX-Y方向に相対的に移動させるヘッドに装着された作業具により作業するプロッタであって、
前記ヘッドに装着されたフォトセンサと、前記複数のトンボの線の中心線上に位置する点の座標を検出する検出手段と、該検出手段で検出した座標の値から、補正のための定数を算出する算出手段と、該算出手段により算出した補正のための定数に合わせて、前記記憶手段に記憶させたデータを改変する改変手段とを備えたプロッタ。」である点。

[相違点1]
本件特許発明1は、「シール材表面に印刷されたシールの輪郭を」、「シールの輪郭のカットデータに基づき」、「シール材上」をX?Y方向に相対的に移動させるヘッドに装着された「カッタによりカットするカッティングプロッタ」であるのに対し、
甲3発明は、「作図用紙に」、「作図データに基づき」、「作図用紙上」をX-Y方向に相対的に移動させるヘッドに装着された「ペン16により作図するXYプロッタ装置」である点。

[相違点2]
複数のトンボの線の中心線上に位置する点の座標を検出するために、本件発特許明1は、フォトセンサとして、トンボの線の「左右の側縁の位置を検知する」、「高精度反射型」フォトセンサを用いているのに対し、甲3発明は、フォトセンサとして、トンボの線を「左右に横切った際のピーク値座標を検知する」フォトセンサを用いている点。

[相違点3]
本件特許発明1は、複数のトンボとして「シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2と、前記座標原点を通るシール材の横軸の位置を示すトンボ3とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つ」、「トンボ1、2、3」を設けると共に、検出手段、算出手段及び改変手段が、それぞれ「トンボ1、2、3の横線及び縦線の左右の側縁の位置から、前記トンボ1、2、3の横線及び縦線の中心線上に位置するA点、B点、C点、D点、E点及びF点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)を検出する検出手段」、「該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段」及び「該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段」であるのに対し、
甲3発明は、複数のトンボとして「トンボA、B、C、D」を設けると共に、検出手段、算出手段及び改変手段が、それぞれ「トンボA、B、C、Dの縦線及びトンボA、Cの横線を左右に横切った際のピーク値座標から、前記トンボA、B、C、Dの縦線の線幅中央に位置する点のX座標及びトンボA、Cの横線の線幅中央に位置する点のY座標を検出する検出手段」、「該検出手段で検出した各点のX座標及びY座標の値から、X軸、Y軸距離補正、台形補正、直角度補正の各定数を算出する算出手段」及び「該算出手段により算出したX軸、Y軸距離補正、台形補正、直角度補正の各定数を用いて、前記記憶手段に記憶させた作図データを改変する改変手段」である点。

(イ)判断
上記相違点1について検討する。
プロッターの技術分野において、ペンに換えてカッターを用いることは、例えば甲第6ないし13号証記載のごとく従来周知の技術であり、また、シール材表面に印刷されたシールの輪郭をカットすることも、例示するまでもなく従来周知の技術である。
よって、甲3発明において、ペン16に換えてカッターを用いると共に、シール材表面に印刷されたシールの輪郭をカットするようにし、相違点1に係る本件特許発明1のごとく構成することは、当業者にとって容易である。

上記相違点2について検討する。
甲3発明のフォトセンサは、トンボの線を「左右に横切った際のピーク値座標」を検知するものであって、本件特許発明1のようにトンボの線の「左右の側縁の位置」を検知するものではない。
請求人は、審判請求書第71ページ(iii)及び口頭審理陳述要領書第16ページ(エ)において、甲3発明のピーク値座標は、トンボの線の中心線に関して対象な2点であり、この2点としてトンボの線の左右の側縁の位置(座標)を選択し、これに応じてフォトセンサを「高精度」なものとすることは、当業者の通常の創作能力の範囲内である旨主張する。
しかしながら、甲3発明の「ピーク値座標」は、センサ出力の遅れ等により、結果としてトンボの線の中心線に関し対象な位置に発生するものであることは技術常識からみて明らかであり、本件特許発明1のように予め定めたトンボの線の中心線に関し対称な位置に存在する検知対象である「左右の側縁の位置」とは、技術思想を異にするものである。
そして、他のいずれの甲号各証にも、トンボの線の中心線上に位置する点を検出するために、トンボの線の「左右の側縁の位置」を検知することは記載されていない。
よって、上記請求人の主張は採用することができず、甲3発明において相違点2にかかる本件特許発明1のごとく構成することが、当業者にとって容易であったとすることはできない。

上記相違点3について検討する。
上記摘記事項bの段落【0004】の記載からみて、甲3発明の複数のトンボ、検出手段、算出手段及び改変手段は、プロッタの機械的な精度の誤差を補正するものであり、各トンボはプラテン上に傾きなく正確に位置決めされる必要があることは、技術常識からみて明らかである。
これに対し、本件特許発明1の複数のトンボ、検出手段、算出手段及び改変手段は、シール材の座標原点の位置ずれ、傾き及び伸縮を補正するものであって、各トンボはプラテン上に傾きなく正確に位置決めされることを要さず、むしろ位置ずれや傾きがあることを前提としたものである。
そうすると、各トンボをプラテン上に傾きなく正確に位置決めする必要のある甲3発明を、トンボの位置ずれや傾きがあることを前提とした本件特許発明1のごとく変更することは甲3発明の課題に反する変更となり、そのような変更を行う契機が存在しないことは明らかである。
請求人は、口頭審理陳述要領書第25ページ第1ないし15行において、甲3発明が、プロッタの機械的な精度の誤差の補正を行うものであるとしても、ユーザーがプロッタを使用する際に媒体の原点の位置ずれ補正、傾き補正及び伸縮補正を行える構成を加えることは、何ら阻害されるものではない旨主張している。
しかしながら、上記のとおり甲3発明において機械的な精度の誤差の補正を行うには、複数のトンボを、すなわち複数のトンボが形成されたシート材を傾きなく正確に位置決めする必要がある。そうすると、機械的な精度の誤差を補正した後に引き続きプロッタを使用する場合には、すでにシート材は正確に位置決めされており、シート材の傾き補正を行う構成を加える必要がないことは明らかである。
また、甲3発明の機械的な精度の誤差の補正を行った後、改めてシート材の原点の位置ずれ補正、傾き補正、伸縮補正を行える構成を加えるとしても、その具体化手段である本件特許発明1の「シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2と、前記座標原点を通るシール材の横軸の位置を示すトンボ3とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つ」、「トンボ1、2、3」を設けると共に、検出手段、算出手段及び改変手段を、それぞれ「トンボ1、2、3の横線及び縦線の左右の側縁の位置から、前記トンボ1、2、3の横線及び縦線の中心線上に位置するA点、B点、C点、D点、E点及びF点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)を検出する検出手段」、「該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段」及び「該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段」とすることについては、いずれの甲号各証にも記載されていない。
よって、上記請求人の主張は採用することができず、甲3発明において相違点3にかかる本件特許発明1のごとく構成することが、当業者にとって容易であったとすることはできない。

したがって、本件特許発明1は、甲3発明並びに甲第1ないし36号証に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、「請求項1記載のカッティングプロッタを用い」た「シール材のカット方法」であって、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものである。
そして、本件特許発明1が上記アのとおり、甲3発明及び甲1ないし36号証記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない以上、同様の理由により、本件特許発明2も、甲3発明及び甲1ないし36号証記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

ウ 本件特許発明3について
(ア)対比
本件特許発明3と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「用紙載置部分12」は本件特許発明3の「プラテン」に相当し、以下同様に「載置」は「搭載」に、「自己補正する自己補正手段」は「改変する改変手段」に、それぞれ相当する。
また、甲3発明の「ペンヘッド14」及び「ペン駆動ユニット23のフレーム24a」は、上記摘記事項ウの段落【0012】、図1及び図3の記載からみて、一体的に移動するものであることは明らかであるから、本件特許発明1の「ヘッド」に相当するということができる。
そして、甲3発明の「作図用紙」は「シート材」という限りにおいて本件特許発明1の「シール材」と共通しており、以下同様に、「形成された」は「形成された」という限りにおいて「印刷された」と共通し、「トンボA、B、C、D」は「複数のトンボ」という限りにおいて「トンボ1、2」と共通し、「作図データ」は「データ」という限りにおいて「シールの輪郭のカットデータ」と共通し、「ペン16」は「作業具」という限りにおいて「カッタ」と共通し、「作図する」は「作業する」という限りにおいて「カットする」と共通し、「XYプロッタ装置」は「プロッタ」という限りにおいて「カッティングプロッタ」と共通し、「光学センサ22」は「フォトセンサ」という限りにおいて「高精度反射型フォトセンサ」と共通し、「トンボA、B、C、Dの縦線の線幅中央に位置する点のX座標及びトンボA、Cの横線の線幅中央に位置する点のY座標を検出する検出手段」は、「複数のトンボの線の中心線上に位置する点の座標を検出する検出手段」という限りにおいて「前記トンボ1、2の横線及び縦線の中心線上に位置するA点、B点、C点及びD点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)を検出する検出手段」と共通しており、「該検出手段で検出した前記各点のX座標及びY座標の値から、X軸、Y軸距離補正、台形補正、直角度補正の各定数を算出する算出手段」は「該検出手段で検出した座標の値から、補正のための定数を算出する算出手段」という限りにおいて「該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段」と共通し、「該算出手段により算出したX軸、Y軸距離補正、台形補正、直角度補正の各定数を用いて、前記記憶手段に記憶させた作図データを自己補正する自己補正手段」は「該算出手段により算出した補正のための定数に合わせて、前記記憶手段に記憶させたデータを改変する改変手段」という限りにおいて「該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段」と共通している。

したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりと認められる。

[一致点]
「プラテン上に搭載されたシート材に、シート材表面に形成された複数のトンボを基準にして、記憶手段に記憶させたデータに基づき、前記プラテン上に搭載されたシート材上をX-Y方向に相対的に移動させるヘッドに装着された作業具により作業するプロッタであって、
前記ヘッドに装着されたフォトセンサと、前記複数のトンボの線の中心線上に位置する点の座標を検出する検出手段と、該検出手段で検出した座標の値から、補正のための定数を算出する算出手段と、該算出手段により算出した補正のための定数に合わせて、前記記憶手段に記憶させたデータを改変する改変手段とを備えたプロッタ。」である点。

[相違点4]
本件特許発明3は、「シール材表面に印刷されたシールの輪郭を」、「シールの輪郭のカットデータに基づき」、「シール材上」をX?Y方向に相対的に移動させるヘッドに装着された「カッタによりカットするカッティングプロッタ」であるのに対し、
甲3発明は、「作図用紙に」、「作図データに基づき」、「作図用紙上」をX-Y方向に相対的に移動させるヘッドに装着された「ペン16により作図するXYプロッタ装置」である点。

[相違点5]
複数のトンボの線の中心線上に位置する点の座標を検出するために、本件特許発明3は、フォトセンサとして、トンボの線の「左右の側縁の位置を検知する」、「高精度反射型」フォトセンサを用いているのに対し、甲3発明は、フォトセンサとして、トンボの線を「左右に横切った際のピーク値座標の位置を検知する」フォトセンサを用いている点。

[相違点6]
本件特許発明3は、複数のトンボとして「シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つ」、「トンボ1、2」を設けると共に、検出手段、算出手段及び改変手段が、それぞれ「トンボ1、2の横線及び縦線の左右の側縁の位置から、前記トンボ1、2の横線及び縦線の中心線上に位置するA点、B点、C点及びD点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)を検出する検出手段」、「該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段」及び「該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段」であるのに対し、
甲3発明は、複数のトンボとして「トンボA、B、C、D」を設けると共に、検出手段、算出手段及び改変手段が、それぞれ「トンボA、B、C、Dの縦線及びトンボA、Cの横線を左右に横切った際のピーク値座標から、前記トンボA、B、C、Dの縦線の線幅中央に位置する点のX座標及びトンボA、Cの横線の線幅中央に位置する点のY座標を検出する検出手段」、「該検出手段で検出した各点のX座標及びY座標の値から、X軸、Y軸距離補正、台形補正、直角度補正の各定数を算出する算出手段」及び「該算出手段により算出したX軸、Y軸距離補正、台形補正、直角度補正の各定数を用いて、前記記憶手段に記憶させた作図データを改変する改変手段」である点。

(イ)判断
相違点4について検討する。
相違点4は、上記アにて検討した相違点1と同一であり、同様の理由により、甲3発明において相違点4に係る本件特許発明3の構成とすることは当業者にとって容易である。

相違点5について検討する。
相違点5は上記アにて検討した相違点2と同一であり、同様の理由により、甲3発明において相違点5に係る本件特許発明3の構成とすることが、当業者にとって容易であるとすることはできない。

相違点6について検討する。
上記摘記事項bの段落【0004】の記載からみて、甲3発明の複数のトンボ、検出手段、算出手段及び改変手段は、プロッタの機械的な精度の誤差を補正するものであり、各トンボはプラテン上に傾きなく正確に位置決めされる必要があることは、技術常識からみて明らかである。
これに対し、本件特許発明3の複数のトンボ、検出手段、算出手段及び改変手段は、シール材の座標原点の位置ずれ、傾き及び伸縮を補正するものであって、各トンボはプラテン上に傾きなく正確に位置決めされることを要さず、むしろ位置ずれや傾きがあることを前提としたものである。
そうすると、各トンボをプラテン上に傾きなく正確に位置決めする必要のある甲3発明を、トンボの位置ずれや傾きがあることを前提とした本件特許発明3のごとく変更することは、甲3発明の課題に反する変更となり、そのような変更を行う契機が存在しないことは明らかである。
また、甲3発明の機械的な精度の誤差の補正を行った後、改めてシート材の原点の位置ずれ補正、傾き補正、伸縮補正を行える構成を加えるとしても、その具体化手段である本件特許発明3の「シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つ」、「トンボ1、2」を設けると共に、検出手段、算出手段及び改変手段を、それぞれ「トンボ1、2の横線及び縦線の左右の側縁の位置から、前記トンボ1、2の横線及び縦線の中心線上に位置するA点、B点、C点及びD点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)を検出する検出手段」、「該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段」及び「該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段」とすることについては、いずれの甲号各証にも記載されていない。
よって、甲3発明において相違点6にかかる本件特許発明3のごとく構成することが、当業者にとって容易であったとすることはできない。

したがって、本件特許発明3は、甲3発明並びに甲第1ないし36号証に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

エ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、「請求項3記載のカッティングプロッタを用い」た「シール材のカット方法」であって、本件特許発明3の発明特定事項をすべて含むものである。
そして、本件特許発明3が上記ウのとおり、甲3発明及び甲1ないし36号証記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない以上、同様の理由により、本件特許発明4も、甲3発明及び甲1ないし36号証記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(3)理由3(進歩性の欠如1)についての当審の判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし4は、甲3発明並びに甲1ないし36号証の記載事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとする無効理由3は、理由がない。


第8 理由4(進歩性の欠如2)についての当審の判断
(1)甲第36号証の記載内容
請求人が提出した甲第36号証には以下の事項が記載されている。
ア 段落【0002】?【0003】
「【0002】
【発明の背景】一般に、一度印刷した帳表上の文字や図形に重ねて印刷、又は印刷した図形や文字を切り抜く場合は、フィード装置の精度を上げて同一帳表を繰り返しフィードしても送り量にズレを生じないよう工夫がなされているが、一旦印刷した帳表をプリンタやカッティングマシンにセットする度に、正確な位置決め操作が必要になる。さらに、温度や湿度による帳表の伸縮や、プラテンローラ等のフィード系の摩耗が距離精度に影響を与え、図9(a)に示すように色ズレ、カットズレ等の版ズレを発生する恐れがある。
【0003】
【発明の目的】本発明は、前記背景の下に成立したものであって、簡単な操作で、同一帳表に同一データを繰り返し出力しても版ズレを起こさない出力装置を提供することを目的とする」

イ 段落【0013】?【0015】
「【0013】図1は本発明の出力装置の一例を示し、この出力装置Aは文字や画像のデータを入力する入力手段2と、入力されたデータを記憶する記憶手段3と、印刷開始位置を表示する開始位置マークを上記データに付与するマーク付与手段4と、開始位置マークが付与されたデータをマーク付き帳表として印刷する出力手段5と、印刷されたマーク付き帳表から開始位置マークを検出する検出手段6と、検出手段6で検出した開始位置マークを印刷開始位置と認識し、上記記憶手段3に記憶されているデータを読み出してマーク付き帳表に重合して出力する制御手段7とを備えている。
【0014】上記出力手段5は熱転写プリンタ又はドットインパクトプリンタで構成され、このプリンタ5は図2に示すように、プラテン10の長手方向の両端にシート送り用スプロケット(図示せず)が設けられたスプロケット方式でシート11をフィードし、プリントヘッド13で印刷するように設けられ、シート11の縦方向に並列して形成されたシート送り孔12と係合することによりシート11を移動するように設けられている。上記プラテン10は、制御手段7に制御されたステッピングモータで正逆回転し、シート11を正逆方向にフィードするように設けられている。
【0015】なお、シート11のフィードはスプロケット方式に限定されるものではなくグリッドローリングでも構わない。」

ウ 段落【0027】?【0036】
「【0027】次に、マーク付与手段4がデータに開始位置マークと終了位置マークとを付与して印刷する出力装置Bについて説明する。
【0028】マーク付与手段4は印刷開始位置及び印刷終了位置を示す位置決めマークを、図5(a)に示すように、メモリ3上の出力するデータDの印刷領域外に開始位置マーク(SP)及び終了位置マーク(EP)として付与する。開始位置マークSPと終了位置マークEPとが付与されたデータDはマーク付き帳表として印刷され、このマーク付き帳表は図5(b)に示すように印字可能領域外にSPに続いてデータDが印刷され、さらにデータDの終了後にEPが印刷される。
【0029】検出手段6は、第1のフォトインタラプタ6aと、第2のフォトインタラプタ6bと、ロータリエンコーダ15とで構成され、第1のフォトインタラプタ6aでSPを検出し、第2のフォトインタラプタ6bでEPを検出し、検出結果は上記制御手段7に送られるように設けられている。
【0030】第1のフォトインタラプタ6aはマーク付帳表をフィードした時のSPの移動軌跡上で、且つSPを検出した時データの1行目とプリントヘッドの位置とが一致する位置に適宜手段で取着されている。
【0031】なお、フォトインタラプタの取付位置が物理的に上述の位置を確保できない時は、ソフト的に対応してSPを検出後プラテン10を所定の量回転させてデータの1行目とプリントヘッドの位置とを一致させてもよい。
【0032】第2のフォトインタラプタ6bはマーク付帳表をフィードした時のEPの移動軌跡上に適宜手段で取着されている。
【0033】ロータリエンコーダ15は帳表の送り量を検出するために、図6に示すようにロータリエンコーダ15の回転軸に固定されたゴムローラ16がシート11の上面に接触し、プラテン10が回転することにより移動するシート11に連動して、シート11の移動量をパルス信号で検出するように設けられている。
【0034】なお、ロータリエンコーダ15をプラテン10の回転軸に連動するように配置し、プラテン10の回転をパルス信号で検出し、検出結果を上記制御手段7に送るように設けてもよい。
【0035】上記制御手段7は、ロータリエンコーダ15の出力するパルス信号を、第1のフォトインタラプタ6aがSPを検出した時から、第2のフォトインタラプタ6bがEPを検出するまでカウントし、カウントした結果からSP、EP間の距離を実距離として算出し、算出した実距離と記憶手段3に記憶されたマーク付きデータのSP、EP間の距離とを比較し、誤差分以上の差があればデータを補正して、メモリ3上のデータDのサイズを印刷されたデータのサイズに一致するように拡大又は縮小する。
【0036】なお、SPとEPとの距離が正確にプレプリントされた基準帳表を作成し、この基準帳表をプリンタ5にセットして検出手段6で検出し、算出した実距離が基準の距離に等しくなるように、定期的に、パルス信号に対する距離の換算テーブルを補正することにより、正確な送り量を把握するようにしてもよい。」

エ 段落【0048】?【0052】
「【0048】次に、切り抜き手段を備えた出力装置Cについて説明する。この出力装置Cは図9に示すようにプリントヘッド13を備えるとともに切り抜きヘッド20を備えたもので、予めプリンタで文字や図形が印刷されたマーク付帳表をセットしてプラテン10の正転、逆転の前後方向の回転とガイドレール21に添って移動する切り抜きヘッド20の左右方向の移動との組み合わせによりシート11上の文字や図形を切り抜くように設けられている。
【0049】出力装置Cの作動態様について図10のフローチャートで説明する。
【0050】マーク付き帳表をセット(ステップST41)した後、プラテン10ローラを回転させて検出手段6が開始位置マークを検出するまでマーク付き帳表11を移送する(ステップST42)。第1のフォトインタラプタ6aがSPを検出(ステップST43)すると、制御手段7はロータリーエンコーダからのパルス信号を第2のフォトインタラプタ6bがEPを検出するまでカウントする(ステップST44)。第2のフォトインタラプタ6bがEPを検出すると(ステップST45)制御手段7はパルス信号のカウントを終了し、カウント結果からSPからEPまでの実距離を算出し、メモリ3上のデータのSPからEPまでの距離と比較する(ステップST46)。
【0051】比較した結果が等しければ、ステップST48に進んでプラテン10を逆回転させて、検出手段6がSPを検出(ステップST49)するまで帳表の逆移送をする。SPを検出すると制御手段7は切り抜き開始位置と認識して、メモリ上のデータに基づいてプラテン10の正回転、逆回転をしながら切り抜きヘッドを左右に移動して帳表上のデータを切り抜く(ステップST49)。
【0052】ステップST45で計測した距離とメモリ上のデータのSPからEPまでの距離と比較した結果、誤差分以上の差があればデータを補正して、メモリ上のデータのサイズを印刷されたデータのサイズに一致するように拡大又は縮小した後(ステップST47)、ステップST48に進んでプラテン10を逆回転させて、検出手段6がSPを検出(ステップST49)するまで帳表を逆移送し、SPを検出すると制御手段7は切り抜き開始位置と認識して、メモリ上の補正したデータに基づいてプラテン10の正回転、逆回転をしながら切り抜きヘッド20を左右に移動してマーク付き帳表11上のデータを切り抜く(ステップST50)。上述のように、マーク付帳表から文字や図形などのデータを切り抜く場合は、マーク付き帳表上の印刷開始マークから印刷終了マークまでの距離を計測し、メモリ上のデータ印刷開始マークから印刷終了マークまでの距離を計測した実距離に等しくなるように補正して切り抜くので、ズレを起こすことはなく、位置合わせの煩わしさや、位置ずれした時の再作成などの作業から解放されるとともに、作業時間の短縮、消耗品の無駄を省くことができ効率的且つ確実に切り抜きを行うことができる。」

上記摘記事項を技術常識を勘案しながら本件特許発明1ないし4に照らして整理すると、甲第36号証には次の発明(以下、「甲36発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲36発明]
「プラテン10上に搭載されたシート11表面に印刷された文字や図形の輪郭を、印刷開始位置を示す開始位置マークSPと、印刷終了位置を示す終了位置マークEPとであって、シート11表面に印刷された開始位置マークSP、終了位置マークEPを基準にして、メモリ3に記憶させた文字や図形の輪郭のデータに基づき、前記プラテン10上に搭載されたシート11上を前後-左右方向に相対的に移動させる切り抜きヘッド20により切り抜く切り抜き手段を備えた出力装置Cであって、
前記開始位置マークSPの前後方向の位置を検出する、開始位置マークSPの移動軌跡上に適宜手段で取着されたフォトインタラプタ6aと、前記終了位置マークEPの前後方向の位置を検出する、終了位置マークEPの移動軌跡上に適宜手段で取着されたフォトインタラプタ6bと、該フォトインタラプタ6a、6bで検知した開始位置マークSPと終了位置マークEPの前後方向の位置から、シート11表面の開始位置マークSP、終了位置マークEP間の実距離を算出し、メモリ3上のデータのSPからEPまでの距離が実距離に等しくなるように、前記メモリ3に記憶させた文字や図形の輪郭のデータを拡大又は縮小する手段とを備えた切り抜き手段を備えた出力装置C。」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲36発明とを対比すると、甲36発明の「プラテン10」は本件特許発明1の「プラテン」に相当し、以下同様に「メモリ3」は「記憶手段」に、「データ」は「カットデータ」に、「前後-左右方向」は「X-Y方向」に、「切り抜く」は「カットする」に、「切り抜き手段を備えた出力装置C」は「カッティングプロッタ」に、「拡大又は縮小する手段」は「改変する改変手段」に、それぞれ相当する。
また、甲36発明の「切り抜きヘッド20」は、図9の記載及び技術常識からみて、「ヘッドに装着されたカッタ」を有するものであることは明らかである。
さらに、甲36発明の「シート11」は「シート材」という限りにおいて本件特許発明1の「シール材」と共通しており、以下同様に、「文字や図形」は「印刷物」という限りにおいて「シール」と共通し、「開始位置マークSP、終了位置マークEP」は「複数のマーク」という限りにおいて「シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2と、前記座標原点を通るシール材の横軸の位置を示すトンボ3とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つ」、「トンボ1、2、3」と共通し、「フォトインタラプタ6a」及び「フォトインタラプタ6b」はいずれも「フォトセンサ」という限りにおいて「高精度反射型フォトセンサ」と共通し、「シート11表面の開始位置マークSP、終了位置マークEP間の実距離を算出し、メモリ3上のデータのSPからEPまでの距離が実距離に等しくなるように、前記メモリ3に記憶させた文字や図形の輪郭のデータを拡大又は縮小する手段」は「シート材表面の複数のマーク間の実距離が設定距離と等しくなるように、前記記憶手段に記憶させた印刷物の輪郭のカットデータを改変する改変手段」という限りにおいて「該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段と、該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段」と共通している。

したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりと認められる。
[一致点]
「プラテン上に搭載されたシート材表面に印刷された印刷物の輪郭を、シート材表面に印刷された複数のマークを基準にして、記憶手段に記憶させた印刷物の輪郭のカットデータに基づき、前記プラテン上に搭載されたシート材上をX-Y方向に相対的に移動させるヘッドに装着されたカッタによりカットするカッティングプロッタであって、
フォトセンサと、シート材表面の複数のマーク間の実距離が設定距離と等しくなるように、前記記憶手段に記憶させた印刷物の輪郭のカットデータを改変する改変手段とを備えたカッティングプロッタ。」である点。

[相違点7]
本件特許発明1は、カット対象が「シール材表面に印刷されたシール」であって、「シールの輪郭のカットデータに基づき」カットするのに対し、甲36発明は、カット対象が「シート11表面に印刷された文字や図形」であって、「文字や図形の輪郭のカットデータに基づき」カットする点。

[相違点8]
本件特許発明1は、複数のマークが「シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2と、前記座標原点を通るシール材の横軸の位置を示すトンボ3とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つ」、「トンボ1、2、3」であると共に、フォトセンサが「トンボ1、2、3の横線及び縦線の左右の側縁の位置を検知する前記ヘッドに装着された高精度反射型」フォトセンサであり、「該センサで検知した前記トンボ1、2、3の横線及び縦線の左右の側縁の位置から、前記トンボ1、2、3の横線及び縦線の中心線上に位置するA点、B点、C点、D点、E点及びF点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)を検出する検出手段と、該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段と、該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段とを備え」ているのに対し、
甲36発明は、複数のマークが「印刷開始位置を示す開始位置マークSPと、印刷終了位置を示す終了位置マークEP」であると共に、フォトセンサが「開始位置マークSPのX方向の位置を検出する、開始位置マークSPの移動軌跡上に適宜手段で取着された」フォトセンサと、「終了位置マークEPのX方向の位置を検出する、終了位置マークEPの移動軌跡上に適宜手段で取着された」フォトセンサとであり、「該センサで検知した開始位置マークSPと終了位置マークEPのX方向の位置から、シート11表面の開始位置マークSP、終了位置マークEP間の実距離を算出し、記憶手段に記憶されたカットデータのSPからEPまでの距離が実距離に等しくなるように、前記記憶手段に記憶させた文字や図形の輪郭のカットデータを改変する改変手段とを備え」ている点。

(イ)判断
上記相違点7について検討する。
シール材表面に印刷されたシールの輪郭をカットすることは、例示するまでもなく従来周知の事項であり、甲36発明において、カット対象をシール材表面に印刷されたシールとし、相違点1に係る本件特許発明1のごとく構成することは、当業者にとって容易である。

上記相違点8について検討する。
上記第7(進歩性欠如1)の(2)対比・判断のアの(イ)の相違点2について検討したとおり、甲第3号証記載のフォトセンサは、トンボの線を「左右に横切った際のピーク値座標」を検知するものであって、本件特許発明1のようにトンボの線の「左右の側縁の位置」を検知するものではない。
そして、甲第3号証記載の「ピーク値座標」は、センサ出力の遅れ等により、結果としてトンボの線の中心線に関し対象な位置に発生するものであることは技術常識からみて明らかであり、本件特許発明1のように予め定めたトンボの線の中心線に関し対称な位置に存在する検知対象である「左右の側縁の位置」とは、技術思想を異にするものである。
また、他のいずれの甲号各証にも、トンボの線の中心線上に位置する点を検出するために、トンボの線の「左右の側縁の位置」を検知することは記載されていない。
さらに、上記相違点8に係る本件特許発明1の、各種補正を行うための具体化手段である「シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2と、前記座標原点を通るシール材の横軸の位置を示すトンボ3とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つ」、「トンボ1、2、3」を設けると共に、「トンボ1、2、3の横線及び縦線の左右の側縁の位置から、前記トンボ1、2、3の横線及び縦線の中心線上に位置するA点、B点、C点、D点、E点及びF点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)を検出する検出手段と、該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)、D点の座標(X4,Y4)、E点の座標(X5,Y5)及びF点の座標(X6,Y6)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段と、該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのX軸、Y軸に対するシール材の横軸、縦軸の傾き、シール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率、及びシール材表面のトンボ1、3間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段」を設けることについても、いずれの甲号各証にも記載されていない。
よって、甲36発明において相違点8に係る本件特許発明1のごとく構成することが、当業者にとって容易であったとすることはできない。

したがって、本件特許発明1は、甲36発明及び甲1ないし36号証記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、「請求項1記載のカッティングプロッタを用い」た「シール材のカット方法」であって、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものである。
そして、本件特許発明1が上記アのとおり、甲36発明及び甲1ないし36号証記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない以上、同様の理由により、本件特許発明2も、甲36発明及び甲1ないし36号証記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

ウ 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲36発明とを対比すると、甲36発明の「プラテン10」は本件特許発明3の「プラテン」に相当し、以下同様に「メモリ3」は「記憶手段」に、「データ」は「カットデータ」に、「前後-左右方向」は「X-Y方向」に、「切り抜く」は「カットする」に、「切り抜き手段を備えた出力装置C」は「カッティングプロッタ」に、「拡大又は縮小する手段」は「改変する改変手段」に、それぞれ相当する。
また、甲36発明の「切り抜きヘッド20」は、第9図の記載及び技術常識からみて、「ヘッドに装着されたカッタ」を有するものであることは明らかである。
さらに、甲36発明の「シート11」は「シート材」という限りにおいて本件特許発明1の「シール材」と共通しており、以下同様に、「文字や図形」は「印刷物」という限りにおいて「シール」と共通し、「開始位置マークSP、終了位置マークEP」は「複数のマーク」という限りにおいて「シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つ」、「トンボ1、2」と共通し、「フォトインタラプタ6a」及び「フォトインタラプタ6b」はいずれも「フォトセンサ」という限りにおいて「高精度反射型フォトセンサ」と共通し、「シート11表面の開始位置マークSP、終了位置マークEP間の実距離を算出し、メモリ3上のデータのSPからEPまでの距離が実距離に等しくなるように、前記メモリ3に記憶させた文字や図形の輪郭のデータを拡大又は縮小する手段」は「シート材表面の複数のマーク間の実距離が設定距離と等しくなるように、前記記憶手段に記憶させた印刷物の輪郭のカットデータを改変する改変手段」という限りにおいて「該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段と、該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段」と共通している。

したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりと認められる。
[一致点]
「プラテン上に搭載されたシート材表面に印刷された印刷物の輪郭を、シート材表面に印刷された複数のマークを基準にして、記憶手段に記憶させた印刷物の輪郭のカットデータに基づき、前記プラテン上に搭載されたシート材上をX-Y方向に相対的に移動させるヘッドに装着されたカッタによりカットするカッティングプロッタであって、
フォトセンサと、シート材表面の複数のマーク間の実距離が設定距離と等しくなるように、前記記憶手段に記憶させた印刷物の輪郭のカットデータを改変する改変手段とを備えたカッティングプロッタ。」

<相違点9>
本件特許発明3は、カット対象が「シール材表面に印刷されたシール」であって、「シールの輪郭のカットデータに基づき」カットするのに対し、甲36発明は、カット対象が「シート11表面に印刷された文字や図形」であって、「文字や図形の輪郭のカットデータに基づき」カットする点。

<相違点10>
本件特許発明3は、複数のマークが「シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つ」、「トンボ1、2」であると共に、フォトセンサが「前記トンボ1、2の横線及び縦線の左右の側縁の位置を検知する前記ヘッドに装着された高精度反射型」フォトセンサであり、「該センサで検知したトンボ1、2の横線及び縦線の左右の側縁の位置から、前記トンボ1、2の横線及び縦線の中心線上に位置するA点、B点、C点及びD点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)を検出する検出手段と、該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段と、該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段とを備え」ているのに対し、
甲36発明は、複数のマークが「印刷開始位置を示す開始位置マークSPと、印刷終了位置を示す終了位置マークEP」であると共に、フォトセンサが「前記開始位置マークSPのX方向の位置を検出する、開始位置マークSPの移動軌跡上に適宜手段で取着された」フォトセンサと、「前記終了位置マークEPのX方向の位置を検出する、終了位置マークEPの移動軌跡上に適宜手段で取付けられた」フォトセンサとであり、「該センサで検知した開始位置マークSPと終了位置マークEPのX方向の位置から、シート11表面の開始位置マークSP、終了位置マークEP間の実距離を算出し、記憶手段に記憶されたカットデータのSPからEPまでの距離が実距離に等しくなるように、前記記憶手段に記憶させた文字や図形の輪郭のカットデータを改変する改変手段とを備え」ている点。

上記相違点9について検討する。
相違点9は、上記アにて検討した相違点7と同一であり、同様の理由により、甲36発明において、相違点9に係る本件特許発明3の構成とすることは、当業者にとって容易である。

上記相違点10について検討する。
上記第7(進歩性欠如1)の(2)対比・判断のアの(イ)の相違点2について検討したとおり、甲第3号証記載のフォトセンサは、トンボの線を「左右に横切った際のピーク値座標」を検知するものであって、本件特許発明3のようにトンボの線の「左右の側縁の位置」を検知するものではない。
そして、甲第3号証記載の「ピーク値座標」は、センサ出力の遅れ等により、結果としてトンボの線の中心線に関し対象な位置に発生するものであることは技術常識からみて明らかであり、本件特許発明3のように予め定めたトンボの線の中心線に関し対称な位置に存在する検知対象である「左右の側縁の位置」とは、技術思想を異にするものである。
また、他のいずれの甲号各証にも、トンボの線の中心線上に位置する点を検出するために、トンボの線の「左右の側縁の位置」を検知するすることは記載されていない。
さらに、上記相違点10に係る本件特許発明3の、各種補正を行うための具体化手段である「シール材の横軸-縦軸の座標原点を示すトンボ1と、前記座標原点を通るシール材の縦軸の位置を示すトンボ2とであって、シール材の横軸-縦軸と平行な横線-縦線を持つ」、「トンボ1、2」を設けると共に、「トンボ1、2の横線及び縦線の左右の側縁の位置から、前記トンボ1、2の横線及び縦線の中心線上に位置するA点、B点、C点及びD点の座標であって、プラテンのX?Y軸上でのA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)を検出する検出手段と、該検出手段で検出したA点の座標(X1,Y1)、B点の座標(X2,Y2)、C点の座標(X3,Y3)及びD点の座標(X4,Y4)の値から、プラテン上に搭載されたシール材のプラテンのX?Y軸上での座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率を算出する算出手段と、該算出手段により算出したプラテンのX?Y軸上でのシール材の座標原点(X0,Y0)、プラテンのY軸に対するシール材の縦軸の傾き、及びシール材表面のトンボ1、2間の設定距離に対する実測距離の比率に合わせて、前記記憶手段に記憶させたシールの輪郭のカットデータを改変する改変手段」を設けることについては、いずれの甲号各証にも記載されていない。
よって、甲36発明において相違点10に係る本件特許発明3のごとく構成することが、当業者にとって容易であったとすることはできない。

したがって、本件特許発明3は、甲36発明及び甲第1ないし36号証記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

エ 本件特許発明4について
本件特許発明4は、「請求項3記載のカッティングプロッタを用い」た「シール材のカット方法」であって、本件特許発明3の発明特定事項をすべて含むものである。
そして、本件特許発明3が上記ウのとおり、甲36発明及び甲1ないし36号証記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない以上、同様の理由により、本件特許発明4も、甲36発明及び甲1ないし36号証記載の事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)理由4(進歩性の欠如2)についての当審の判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし4は、甲36発明並びに甲1ないし36号証の記載事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとする無効理由4は、理由がない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1ないし4についての特許を無効とすることはできない。
また、他に本件特許発明1ないし4についての特許を無効とすべき理由を
発見しない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-06 
結審通知日 2010-01-08 
審決日 2010-01-21 
出願番号 特願平10-82780
審決分類 P 1 113・ 537- Y (B26D)
P 1 113・ 536- Y (B26D)
P 1 113・ 121- Y (B26D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 千葉 成就  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 菅澤 洋二
佐々木 一浩
登録日 2004-08-27 
登録番号 特許第3589441号(P3589441)
発明の名称 カッティングプロッタと該プロッタを用いたシール材のカット方法  
代理人 後藤 未来  
代理人 大西 正悟  
代理人 小林 英了  
代理人 城山 康文  
代理人 山川 茂樹  
代理人 江崎 滋恒  
代理人 江崎 滋恒  
代理人 大野 聖二  
代理人 篠森 重樹  
代理人 後藤 未来  
代理人 篠森 重樹  
代理人 山川 茂樹  
代理人 城山 康文  
代理人 井上 義隆  

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