• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1234639
審判番号 不服2008-21686  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-25 
確定日 2011-03-04 
事件の表示 平成10年特許願第516611号「スライダ・エア・ベアリング表面にカーボン・オーバーコート・アレイを有する磁気記録ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月 9日国際公開、WO98/14935、平成13年 1月23日国内公表、特表2001-501012〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成9年9月19日(優先権主張、平成8年9月19日、米国)を国際出願日とする国際特許出願であって、平成19年12月11日付けで拒絶理由が通知され、平成20年3月14日付けで手続補正がされたが、同年5月21日付けで拒絶査定され、これに対し、同年8月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がされた。
そして、平成21年2月2日付けで審査官から前置報告がなされ、平成22年2月3日付けで前記前置報告の内容を利用した審尋がなされたが、回答書が提出されなかったものである。

第2 平成20年8月25日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成20年8月25日付けの手続補正を却下する。

〔理 由〕
1.本件補正
平成20年8月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、本件補正前に、
「1.データトラックを有する表面を含むディスクを動作時に回転させ非動作時に静止させるディスクドライブで使用するための磁気ヘッドにおいて、
フォワードエッジ、トレーリングエッジ及びエアベアリング表面を含むスライダを備え;
該スライダの該トレーリングエッジに取り付けられた読み取り/書き込みトランスデューサを備え;
該スライダとトランスデューサは、該データトラックからデータを読み取るために及び該データトラックヘデータを書き込むために該ディスクの回転中は該ディスクの表面より上に飛行しかつ該ディスクドライブの非動作中は該ディスクの表面上で静止するように該ディスクの表面に相対して取り付けられており;
更に、該スライダの所定の不連続領域を覆うように該スライダ上に形成及び隔置されたオーバーコート突出部のアレイを備え、
該オーバーコート突出部のアレイは、該スライダとトランスデューサが該ディスクの表面上で静止し始める場合に、該ディスクの表面との接触が、該オーバーコート突出部のアレイのうち、該エアベアリング表面のサイドレールの端部から所定の最小距離だけ離れた位置にあるオーバーコート突出部でのみ生じるように該スライダ上に形成及び隔置されていることを特徴とする磁気ヘッド。
2.該オーバーコート突出部のアレイがカーボンオーバーコート突出部のアレイを含む、請求項1記載の磁気ヘッド。
3.各カーボンオーバーコート突出部がカーボンバンプを含む、請求項2記載の磁気ヘッド。
4.各カーボンバンプの断面が円形である、請求項3記載の磁気ヘッド。
5.該サイドレールが該スライダの該フォワードエッジから該トレーリングエッジまで伸びている請求項2記載の磁気ヘッド。
6.該トランデューサが磁気抵抗トランデューサを含む、請求項1記載の磁気ヘッド。
7.該カーボンオーバーコート突出部のアレイの下に、該スライダに施されたSiO_(2)層を更に含む、請求項2記載の磁気ヘッド。
8.該SiO_(2)層が該トランデューサを覆っている、請求項7記載の磁気ヘッド。
9.該SiO_(2)層の高さが100Å未満である、請求項8記載の磁気ヘッド。
10.該カーボン突出部のアレイの全表面積と該スライダの該エアベアリング表面間の比率が約1?約15%である、請求項2記載の磁気ヘッド。
11.該カーボンオーバーコート突出部のアレイの下に、該スライダに施されたカーボン層を更に含む、請求項2記載の磁気ヘッド。
12.該カーボン層の高さが100Å未満である、請求項11記載の磁気ヘッド。
13.各カーボン突出部の高さが100?500Åである、請求項12記載の磁気ヘッド。
14.該カーボン層の下に、該スライダに施されたSiO_(2)層を更に含む、請求項11記載の磁気ヘッド。
15.各カーボンバンプの高さが100?500Åである、請求項3記載の磁気ヘッド。
16.該ディスクドライブの動作中は、該カーボンオーバーコート突出部のアレイの最も低いものと該ディスクの表面間の間隔が該スライダと該ディスクの表面間の間隔より大きく、該ディスクの表面と接触する前の予め選定された点での該ディスクドライブの動作と非動作間の遷移では、該カーボンオーバーコート突出部のアレイの少なくとも1つと該ディスクの表面間の間隔が該スライダと該ディスクの表面間の間隔より小さい、請求項3記載の磁気ヘッド。
17.各カーボンバンプの直径が少なくとも約10μmである、請求項4記載の磁気ヘッド。
18.磁気ヘッドのスライダ表面にオーバーコートを施す方法であって、
所定の配列で隔置された開口を含むマスクを供給する工程;
スライダを有する磁気ヘッドを供給する工程;
該スライダ上に該マスクを配置する工程;及び
オーバーコート突出部のアレイが該スライダ上に形成及び隔置されて該スライダの所定の不連続領域を覆うように該マスクを介して該スライダ上にオーバーコート材料を施す工程を含み、
該オーバーコート材料を施す工程は、該スライダがディスクの表面上で静止し始める場合に、該ディスクの表面との接触が、該オーバーコート突出部のアレイのうち、該スライダ表面のサイドレールの端部から所定の最小距離だけ離れた位置にあるオーバーコート突出部でのみ生じるように、オーバーコート突出部のアレイを該スライダ上に形成及び隔置することを特徴とする方法。
19.該オーバーコート材料がカーボンを含む、請求項18記載の方法。
20.該スライダ上に該マスクを配置する工程及び該マスクを介して該スライダ上にオーバーコート材料を施す工程の前に、該スライダにSiO_(2)層を施す工程を更に含む、請求項19記載の方法。
21.該SiO_(2)層の高さが100Å未満である、請求項20記載の方法。
22.該スライダ上に該マスクを配置する工程及び該マスクを介して該スライダ上にオーバーコート材料を施す工程の前に、該スライダにカーボン層を施す工程を更に含む、請求項19記載の方法。
23.該カーボン層の高さが100Å未満である、請求項22記載の方法。
24.該オーバーコート突出部の高さが100?500Åである、請求項19記載の方法。
25.該オーバーコート材料を該スライダに施す工程が付着法を用いて行われる、請求項19記載の方法。
26.該オーバーコート材料を該スライダに施す工程がフォトリソグラフィー法を用いて行われる、請求項19記載の方法。」
とあったところを、

本件補正後
「 【請求項1】 データトラックを有する表面を含むディスクを動作時に回転させ非動作時に静止させるディスクドライブで使用するための磁気ヘッドにおいて、
フォワードエッジ、トレーリングエッジ及びエアベアリング表面を含むスライダを備え;
該スライダの該トレーリングエッジに取り付けられた読み取り/書き込みトランスデューサを備え;
該スライダとトランスデューサは、該データトラックからデータを読み取るために及び該データトラックヘデータを書き込むために該ディスクの回転中は該ディスクの表面より上に飛行しかつ該ディスクドライブの非動作中は該ディスクの表面上で静止するように該ディスクの表面に相対して取り付けられており;
更に、該スライダの所定の不連続領域を覆うように該スライダ上に形成及び隔置されたオーバーコート突出部のアレイを備え、
該オーバーコート突出部のアレイは、該スライダとトランスデューサが該ディスクの表面上で静止し始める場合に、該ディスクの表面との接触が、該オーバーコート突出部のアレイのうち、該エアベアリング表面のサイドレールの端部から所定の最小距離だけ離れた位置にあるオーバーコート突出部でのみ生じるように該スライダ上に形成及び隔置されており、
該所定の最小距離は、カーボンオーバーコート突出部のアレイの最も低いものとディスクの表面間の間隔が、スライダの静止位置と動作中の飛行高さ位置との間のピッチ角度の範囲について、スライダとディスクの表面間の物理的間隔に等しいか若しくはそれより小さいことを確認することにより、決定されていることを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項2】 該オーバーコート突出部のアレイがカーボンオーバーコート突出部のアレイを含む、請求項1記載の磁気ヘッド。
【請求項3】 各カーボンオーバーコート突出部がカーボンバンプを含む、請求項2記載の磁気ヘッド。
【請求項4】 各カーボンバンプの断面が円形である、請求項3記載の磁気ヘッド。
【請求項5】 該サイドレールが該スライダの該フォワードエッジから該トレーリングエッジまで伸びている請求項2記載の磁気ヘッド。
【請求項6】 該トランデューサが磁気抵抗トランデューサを含む、請求項1記載の磁気ヘッド。
【請求項7】 該カーボンオーバーコート突出部のアレイの下に、該スライダに施されたSiO_(2)層を更に含む、請求項2記載の磁気ヘッド。
【請求項8】 該SiO_(2)層が該トランデューサを覆っている、請求項7記載の磁気ヘッド。
【請求項9】 該SiO_(2)層の高さが100Å未満である、請求項8記載の磁気ヘッド。
【請求項10】 該カーボン突出部のアレイの全表面積と該スライダの該エアベアリング表面間の比率が約1?約15%である、請求項2記載の磁気ヘッド。
【請求項11】 該カーボンオーバーコート突出部のアレイの下に、該スライダに施されたカーボン層を更に含む、請求項2記載の磁気ヘッド。
【請求項12】 該カーボン層の高さが100Å未満である、請求項11記載の磁気ヘッド。
【請求項13】 各カーボン突出部の高さが100?500Åである、請求項12記載の磁気ヘッド。
【請求項14】 該カーボン層の下に、該スライダに施されたSiO_(2)層を更に含む、請求項11記載の磁気ヘッド。
【請求項15】 各カーボンバンプの高さが100?500Åである、請求項3記載の磁気ヘッド。
【請求項16】 該ディスクドライブの動作中は、該カーボンオーバーコート突出部のアレイの最も低いものと該ディスクの表面間の間隔が該スライダと該ディスクの表面間の間隔より大きく、該ディスクの表面と接触する前の予め選定された点での該ディスクドライブの動作と非動作間の遷移では、該カーボンオーバーコート突出部のアレイの少なくとも1つと該ディスクの表面間の間隔が該スライダと該ディスクの表面間の間隔より小さい、請求項3記載の磁気ヘッド。
【請求項17】 各カーボンバンプの直径が少なくとも約10μmである、請求項4記載の磁気ヘッド。
【請求項18】 磁気ヘッドのスライダ表面にオーバーコートを施す方法であって、
所定の配列で隔置された開口を含むマスクを供給する工程;
スライダを有する磁気ヘッドを供給する工程;
該スライダ上に該マスクを配置する工程;及び
オーバーコート突出部のアレイが該スライダ上に形成及び隔置されて該スライダの所定の不連続領域を覆うように該マスクを介して該スライダ上にオーバーコート材料を施す工程を含み、
該オーバーコート材料を施す工程は、該スライダがディスクの表面上で静止し始める場合に、該ディスクの表面との接触が、該オーバーコート突出部のアレイのうち、該スライダ表面のサイドレールの端部から所定の最小距離だけ離れた位置にあるオーバーコート突出部でのみ生じるように、オーバーコート突出部のアレイを該スライダ上に形成及び隔置し、
該所定の最小距離は、カーボンオーバーコート突出部のアレイの最も低いものとディスクの表面間の間隔が、スライダの静止位置と動作中の飛行高さ位置との間のピッチ角度の範囲について、スライダとディスクの表面間の物理的間隔に等しいか若しくはそれより小さいことを確認することにより、決定されていることを特徴とする方法。
【請求項19】 該オーバーコート材料がカーボンを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】 該スライダ上に該マスクを配置する工程及び該マスクを介して該スライダ上にオーバーコート材料を施す工程の前に、該スライダにSiO_(2)層を施す工程を更に含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】 該SiO_(2)層の高さが100Å未満である、請求項20記載の方法。
【請求項22】 該スライダ上に該マスクを配置する工程及び該マスクを介して該スライダ上にオーバーコート材料を施す工程の前に、該スライダにカーボン層を施す工程を更に含む、請求項19記載の方法。
【請求項23】 該カーボン層の高さが100Å未満である、請求項22記載の方法。
【請求項24】 該オーバーコート突出部の高さが100?500Åである、請求項19記載の方法。
【請求項25】 該オーバーコート材料を該スライダに施す工程が付着法を用いて行われる、請求項19記載の方法。
【請求項26】 該オーバーコート材料を該スライダに施す工程がフォトリソグラフィー法を用いて行われる、請求項19記載の方法。」とするものである。

上記本件補正の内容は、特許請求の範囲について、本件補正前の請求項1、18に記載されていた発明特定事項である「該オーバーコート突出部のアレイのうち、該スライダ表面のサイドレールの端部から所定の最小距離だけ離れた位置にあるオーバーコート突出部」の「所定の最小距離」について、「所定の最小距離は、カーボンオーバーコート突出部のアレイの最も低いものとディスクの表面間の間隔が、スライダの静止位置と動作中の飛行高さ位置との間のピッチ角度の範囲について、スライダとディスクの表面間の物理的間隔に等しいか若しくはそれより小さいことを確認することにより、決定されている」点を付加するものである。
したがって、本件補正は、発明特定事項の限定をするものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かを、請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について以下に検討する。

本願補正発明は、本件補正における請求項1に記載されたとおりの
「 【請求項1】 データトラックを有する表面を含むディスクを動作時に回転させ非動作時に静止させるディスクドライブで使用するための磁気ヘッドにおいて、
フォワードエッジ、トレーリングエッジ及びエアベアリング表面を含むスライダを備え;
該スライダの該トレーリングエッジに取り付けられた読み取り/書き込みトランスデューサを備え;
該スライダとトランスデューサは、該データトラックからデータを読み取るために及び該データトラックヘデータを書き込むために該ディスクの回転中は該ディスクの表面より上に飛行しかつ該ディスクドライブの非動作中は該ディスクの表面上で静止するように該ディスクの表面に相対して取り付けられており;
更に、該スライダの所定の不連続領域を覆うように該スライダ上に形成及び隔置されたオーバーコート突出部のアレイを備え、
該オーバーコート突出部のアレイは、該スライダとトランスデューサが該ディスクの表面上で静止し始める場合に、該ディスクの表面との接触が、該オーバーコート突出部のアレイのうち、該エアベアリング表面のサイドレールの端部から所定の最小距離だけ離れた位置にあるオーバーコート突出部でのみ生じるように該スライダ上に形成及び隔置されており、
該所定の最小距離は、カーボンオーバーコート突出部のアレイの最も低いものとディスクの表面間の間隔が、スライダの静止位置と動作中の飛行高さ位置との間のピッチ角度の範囲について、スライダとディスクの表面間の物理的間隔に等しいか若しくはそれより小さいことを確認することにより、決定されていることを特徴とする磁気ヘッド。」
であると認める。

2.引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開昭63-37874号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。(なお、下線は当審により付加したものである。)

(a)
「[発明の構成]
(問題点を解決するための手段)
本発明の骨子は、磁気ヘッドのスライダ面におけるディスク接触面積を減らすことにより、ディスクとヘッドスライダとの吸着を防止することにある。
即ち本発明は、磁気ディスクの回転時に該ディスクと磁気ヘッドとの隙間を一定に保って記録再生を行い、磁気ディスクの停止時には該ディスクと磁気ヘッドとを接触させた状態に保持する磁気ディスク装置において、前記磁気ディスクの停止時における前記磁気ヘッドのディスク接触面を、該ヘッドのスライダ面に形成された複数の凸部により構成し、且つこれら凸部のディスク接触面の合計面積Sを、該面積Sに比例して増大するヘッド・ディスク間に水膜が形成された時にヘッドをディスク面内方向に移動させるに必要な力か、ディスクを回転させるモータの起動トルク、ヘッド個数、回転を開始するディスク半径位置によって決まる1ヘッド当りの許容起動力Fよりも小さくなる値に設定するようにしたものである。」(第2頁左下欄第15行?同頁右下欄第15行)

(b)
「 (実施例)
以下、本発明の詳細を図示の実施例によって説明する。
第1図は本発明の一実施例に係わる磁気ディスク装置の要部構成を示す斜視図であり、第2図は上記装置に用いたヘッド部を拡大して示す斜視図である。図中10は磁気ヘッド、20は磁気ディスクである。磁気ヘッドl0は、磁気ディスク20の回転時に磁気ヘッド10と磁気ディスク20とを所定の間隙に保つためのスライダ11と、このスライダ11の側面に形成されたコア部(薄膜ヘッド)12(12a,12b)から構成されている。スライダ11の上面13(スライダ面13a,13b)には、4つの凸部14(14a,14b),15(15a,15b)が設けられており、これらの凸部14,15の上面は平坦に加工されている。
また、スライダ11は板バネ30を介して固定端に固定されており、該バネ30によりディスク20側に付勢されている。これにより、磁気ディスク20の回転停止時には、凸部14,15がディスク面に接触するものとなっている。また、磁気ディスク20はスピンドルモータ40により回転せられるものとなっている。」(第3頁右下欄第2行?第4頁左上欄第3行)

(c)
「 第3図は本発明の他の実施例の要部構成を示す斜視図である。なお、第1図と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。
この実施例が先に説明した実施例と異なる点は、接触平面を構成する凸部の数を増やすと共に、個々の面積を小さくしたことにある。即ち、本実施例ではφ0.1mmの円形状平面を有する50個の凸部44(44a,44b)をスライダ面13上に設け、合計接触面積を0.39mm^(2)としている。また、コア部42としては、従来から良く使われているモノシリックタイプを用いた。この場合も、接触平面と段差があるため、コア部42は摩耗せず耐久性向上を期待できる。
このような構成であっても、先の実施例と同様にスライダ11のディスク接触面積を十分小さくすることができ、先の実施例と同様の効果が得られる。」(第4頁右上欄第20行?同頁左下欄第16行)

上記引用例記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「磁気ディスクの回転時に該ディスクと磁気ヘッドとの隙間を一定に保って記録再生を行い、磁気ディスクの停止時には該ディスクと磁気ヘッドとを接触させた状態に保持する磁気ディスク装置の磁気ヘッドにおいて、
磁気ディスクの回転時に磁気ヘッドと磁気ディスクとを所定の間隙に保つためのスライダと、
このスライダの側面に形成されたコア部と、
円形状平面を有する複数の凸部をスライダ面上に備えた、
磁気ヘッド。」

また、原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平8-69674号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。(なお、下線は当審により付加したものである。)

(d)
「【0030】次に、図2及び図3を参照して上述した実施例のスライダの製造方法について説明する。図3(A)に示すウエハ20には複数の電磁変換素子6が形成されている。ウエハ20からAl_(2) O_(3) -TiC基板12をバー形状に切り出す。
【0031】そして、図2(a)に示すように基板12上にスパッタリングでSiCからなる密着層14を約2nmの厚さに形成する。次いで、密着層14上にプラズマCVD法によりDLC層16を約30nmの厚さに形成する。SiC層14は電磁変換素子6の絶縁保護及びDLC層16の密着層の役目をする。
【0032】次いで、図2(b)に示すようにDLC層16上にフォトレジスト18を塗布し、図2(c)に示すように所定パターンのマスクを用いてフォトレジスト18を露光・現像する。
【0033】次いで、図2(d)に示すようにイオンミリングでエッチングして複数のレール4を形成する。この状態が図3(B)の斜視図に示されている。次いで再び、フォトレジスト18′を塗布して、図2(e)に示すように突起パターンに露光し、図2(f)に示すようにイオンミリングで突起以外のDLC層16をエッチングにより除去する。
【0034】これにより、各レール4上にDLCからなる突起8が形成される。この状態が、図3(C)の斜視図に示されている。図2(g)の点線に沿って切断することにより、図2(h)に示す個々のスライダ2を得ることができる。このようにして形成したスライダ2が図3(D)に斜視図に示されている。
【0035】突起8の材質としては、上述した実施例ではプラズマCVD法により製膜したDLC膜を採用したが、スパッタリング法により製膜するカーボン膜、水素化カーボン膜、シリコン添加カーボン膜等のアモルファスカーボン膜を採用することができる。」

3.対比
そこで、本願補正発明を、引用発明と比較する。

引用発明と本願補正発明とは、「磁気ヘッド」に関する発明である点において共通する。

引用発明の「磁気ディスク」は、その表面に「データトラック」を備えることは明らかであるから、本願補正発明の「データトラックを有する表面を含むディスク」に相当する。

引用発明の「スライダ」は、引用例1の第1図ないし第3図等を参照すると、空気流入端である「フォワードエッジ」、空気流出端でありコア部が設けられた「トレーリングエッジ」、磁気ディスクと相対する「エアベアリング表面」を含んでいることは明らかで、これらの点に関し、本願補正発明の「スライダ」と一致する。
そして、引用発明の「スライダの側面に形成されたコア部」は、本願補正発明の「該スライダの該トレーリングエッジに取り付けられた読み取り/書き込みトランスデューサ」に相当する。
引用発明のスライダ面上に備えられた「凸部」と、本願補正発明の「突出部」とを比較すると、引用発明における、スライダ面上の「円形状平面を有する複数の凸部」は、引用例1の第3図等も参照すると、離散的に形成されることが明らかであるから、本願補正発明の「該スライダの所定の不連続領域を覆うように該スライダ上に形成及び隔置された」「突出部のアレイ」である点で一致する。

引用発明の「磁気ディスク装置」は、「磁気ディスクの回転時に該ディスクと磁気ヘッドとの隙間を一定に保って記録再生を行い、磁気ディスクの停止時には該ディスクと磁気ヘッドとを接触させた状態に保持」されているから、本願補正発明の「データトラックを有する表面を含むディスクを動作時に回転させ非動作時に静止させるディスクドライブ」であり、かつ「該スライダとトランスデューサは、該データトラックからデータを読み取るために及び該データトラックヘデータを書き込むために該ディスクの回転中は該ディスクの表面より上に飛行しかつ該ディスクドライブの非動作中は該ディスクの表面上で静止するように該ディスクの表面に相対して取り付けられて」いることは明らかである。

すると、本願補正発明と、引用発明とは、次の点で一致する。
(一致点)
データトラックを有する表面を含むディスクを動作時に回転させ非動作時に静止させるディスクドライブで使用するための磁気ヘッドにおいて、
フォワードエッジ、トレーリングエッジ及びエアベアリング表面を含むスライダを備え;
該スライダの該トレーリングエッジに取り付けられた読み取り/書き込みトランスデューサを備え;
該スライダとトランスデューサは、該データトラックからデータを読み取るために及び該データトラックヘデータを書き込むために該ディスクの回転中は該ディスクの表面より上に飛行しかつ該ディスクドライブの非動作中は該ディスクの表面上で静止するように該ディスクの表面に相対して取り付けられており;
更に、該スライダの所定の不連続領域を覆うように該スライダ上に形成及び隔置された突出部のアレイを備えている磁気ヘッド。

一方で、以下の点で相違する。
(相違点)
1.本願補正発明は、「(カーボン)オーバーコート突出部のアレイ」と、「突出部」が「(カーボン)オーバーコート」と特定されているのに対し、引用発明では、「凸部」についてそのように特定されていない点。
2.本願補正発明は、「オーバーコート突出部のアレイ」が、「該スライダとトランスデューサが該ディスクの表面上で静止し始める場合に、該ディスクの表面との接触が、該オーバーコート突出部のアレイのうち、該エアベアリング表面のサイドレールの端部から所定の最小距離だけ離れた位置にあるオーバーコート突出部でのみ生じるように該スライダ上に形成及び隔置」されており、「所定の最小距離」が「カーボンオーバーコート突出部のアレイの最も低いものとディスクの表面間の間隔が、スライダの静止位置と動作中の飛行高さ位置との間のピッチ角度の範囲について、スライダとディスクの表面間の物理的間隔に等しいか若しくはそれより小さいことを確認することにより、決定されている」と特定されているのに対し、引用発明では、「複数の凸部」の位置等について特に特定されていない点。

4.判断
(相違点)1.について
引用例2には、引用発明と共通するスライダを備えた磁気ヘッドに関し、スライダにDLC層を形成し、エッチングすることにより「DLCからなる突起」(本願補正発明の「(カーボン)オーバーコート突出部」に相当する)を設ける点が記載されている。
すると、引用発明のスライダにおいて、引用例2に記載された発明を適用して、DLC層を形成し、DLCからなる凸部を設けることにより、「凸部」を「(カーボン)オーバーコート突出部」とすることは、当業者が容易に想到できることである。

(相違点)2.について
引用例1においても、上記摘記事項(c)の「接触平面と段差があるため、コア部42は摩耗せず耐久性向上を期待できる。」等の記載を参照すると、コンタクト・スタート・ストップ時あるいは接触走行時は、「凸部」のみで磁気ディスクと接触するものと認められる。このような場合において、スライダと磁気コアが磁気ディスクの表面上で静止し始める場合には、磁気ディスクとの接触が、エアベアリング表面のサイドレールの端部から所定の最小距離だけ離れた位置にある「凸部」(引用例1の第3図における、磁気コア42側に近い凸部13)でのみ生じること、すなわち、該オーバーコート突出部のアレイは、該スライダとトランスデューサが該ディスクの表面上で静止し始める場合に、該ディスクの表面との接触が、該オーバーコート突出部のアレイのうち、該エアベアリング表面のサイドレールの端部から所定の最小距離だけ離れた位置にあるオーバーコート突出部でのみ生じるように該スライダ上に形成及び隔置されていることが明らかである。
そして、そのような「凸部」の位置は、当然、スライダと磁気コアが磁気ディスクの表面上で静止し始める場合、すなわち、スライダの静止位置と動作中の飛行高さ位置との間のピッチ角度の範囲について、「凸部」の最も低いものとディスクの表面間の間隔が、スライダとディスク表面間の物理的間隔に等しいか若しくはそれより小さくなる位置とされているといえ、また、そのことを確認することにより決定する点も、例えば、国際特許公開96/19803号の、第7頁第21行?第9頁第11行及びFIG.2、FIG.3等に記載(保護オーバーコートの遅れ側縁がスライダの遅れ側縁から離間しているディスクドライブ用ヘッドにおいて、ピッチ角θが小さいとき(本願補正発明の「スライダの静止位置と動作中の飛行高さ位置との間のピッチ角度の範囲」に相当する)、スライダの遅れ側縁とディスクとの間の距離hg(本願補正発明の「スライダとディスク表面間の物理的間隔」に相当する)が、所定の保護オーバーコートとディスク面との間の最小距離d(本願補正発明の「カーボンオーバーコート突出部のアレイの最も低いものとディスクの表面間の間隔」に相当する)より大きくする旨の記載を参照されたい)されている様に周知技術にすぎず、引用発明の「凸部」の位置を本願補正発明のように特定することは、当業者が容易になし得たものである。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願補正発明が奏する効果は、引用例1及び2に記載された発明並びに周知技術から、当業者が十分に予測できたものであって、格別なものとはいえない。

5.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に違反するものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明
平成20年8月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし26に係る発明は、平成20年3月14日付けの手続補正書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 〔理由〕1.」に本件補正前の請求項1として掲げたとおりのものである。

2.引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2 〔理由〕2.」に引用例1及び引用例2として記載したとおりのものである。

3.対比
本願発明は、「第2 〔理由〕」で検討した本願補正発明の「所定の最小距離」について、「所定の最小距離は、カーボンオーバーコート突出部のアレイの最も低いものとディスクの表面間の間隔が、スライダの静止位置と動作中の飛行高さ位置との間のピッチ角度の範囲について、スライダとディスクの表面間の物理的間隔に等しいか若しくはそれより小さいことを確認することにより、決定されている」旨の限定を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、更に他の要件を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 〔理由〕4.」に記載したとおり、引用例1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-30 
結審通知日 2010-10-07 
審決日 2010-10-20 
出願番号 特願平10-516611
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 572- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 重幸  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 井上 信一
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 スライダ・エア・ベアリング表面にカーボン・オーバーコート・アレイを有する磁気記録ヘッド  
代理人 中村 稔  
代理人 大塚 文昭  
代理人 小川 信夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ