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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C01G
管理番号 1234714
審判番号 不服2007-35334  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-28 
確定日 2011-03-31 
事件の表示 特願2003-365360「インジウム含有半導体金属酸化物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月19日出願公開,特開2005-126296〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成15年10月24日の特許出願であって,平成19年7月9日付けで拒絶理由が起案され,同年9月10日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され,同年11月28日付けで拒絶査定が起案され,同年12月28日付けで拒絶査定不服審判が請求され,平成20年1月28日付けで明細書の記載に係る手続補正書が提出されたものである。その後,平成22年8月10日付けで特許法第164条第3項に基づく報告書を引用した審尋が起案され,同年10月18日付けで回答書が提出されている。

2.平成20年1月28日付けの手続補正について
平成20年1月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,インジウム含有半導体金属酸化物の製造方法に係る請求項12?14及び有害化学物質の分解方法に係る請求項15を削除し,それに対応して,インジウム含有半導体金属酸化物の製造方法及び有害化学物質の分解方法に関する記載を明細書から削除するものである。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものであり,適法なものである。

3.本願発明
本願請求項1?11に記載された発明(以下,「本願発明1」?「本願発明11」という。)は,平成20年1月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】
結晶構造中に3価のInに酸素6個が配位したInO_(6)八面体を含み,かつ紫外線領域に光吸収帯が存在する半導体金属酸化物の,表面あるいは内部に存在するInO_(6)八面体から酸素原子1個あるいは2個が取り去られ,酸素原子が5配位したInO_(5)多面体あるいは酸素原子が4配位したInO_(4)四面体構造が,表面あるいは内部に存在しており,前記半導体金属酸化物に比べて,バンドギャップが小さく,機能波長領域が長波長領域に拡張されていることを特徴とするインジウム含有半導体金属酸化物。
【請求項2】
光触媒,太陽電池,発光素子および光検出素子のうちのいずれかに用いられることを特徴とする請求項1記載のインジウム含有半導体金属酸化物。
【請求項3】
助触媒あるいは電極が担持されていることを特徴とする請求項1または2記載のインジウム含有半導体金属酸化物。
【請求項4】
助触媒あるいは電極が,貴金属,遷移金属および酸化物のうちのいずれかであることを特徴とする請求項3記載のインジウム含有半導体金属酸化物。
【請求項5】
助触媒あるいは電極が,Pt,Ni,IrO_(2),NiO_(x)およびRuO_(2)のうちのいずれかであることを特徴とする請求項4記載のインジウム含有半導体金属酸化物。
【請求項6】
酸素製造用光触媒あるいは水素製造用光触媒として用いられることを特徴とする請求項1ないし5いずれかに記載のインジウム含有半導体金属酸化物。
【請求項7】
水分解用光触媒として用いられることを特徴とする請求項1ないし5いずれかに記載のインジウム含有半導体金属酸化物。
【請求項8】
化学物質分解用光触媒または化学物質製造用光触媒として用いられることを特徴とする請求項1ないし5いずれかに記載のインジウム含有半導体金属酸化物。
【請求項9】
蓄電装置あるいは発電装置に使用する太陽電池素子として用いられることを特徴とする請求項1ないし5いずれかに記載のインジウム含有半導体金属酸化物。
【請求項10】
画像表示装置,信号装置あるいは通信装置に使用する発光素子として用いられることを特徴とする請求項1ないし5いずれかに記載のインジウム含有半導体金属酸化物。
【請求項11】
光検出装置に使用する光検出素子として用いられることを特徴とする請求項1ないし5いずれかに記載のインジウム含有半導体金属酸化物。

4.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は,平成19年7月9日付け拒絶理由通知書に記載された理由であり,本願は,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができないというものである。

5.当審の判断
まず,本願発明1の技術的意義に関して,本願明細書の段落【0009】には,「この出願の発明は,これまでに知られているバンドギャップの大きい半導体金属酸化物と比べてバンドギャップが小さくなるように制御された半導体金属酸化物を提供しようというものであり,これまで紫外線領域にその利用が制限されていた半導体金属酸化物に対して機能波長範囲が長波長側に大幅に拡張された,光触媒,太陽電池,発光素子あるいは光検出素子に好適に用いることのできる,新しい半導体金属酸化物を提供することを課題としている。」と記載され,段落【0050】には,「この出願の発明は,3価のInに対する酸素元素の配位数を制御することによりそのバンドギャップを制御し,紫外線領域に限定されがちな半導体金属酸化物でつくられる光触媒,太陽電池素子,発光素子,光検出素子の機能波長領域をより長波長側,例えば可視光領域に拡張するものである。この出願の発明によれば,太陽光エネルギーを利用する場合,その波長感度領域をより広げることが可能であることから,光触媒による水からの水素や酸素の高効率な生成技術の発展や,高効率な太陽発電装置の開発に大きく貢献できるものと考えられる。おそらく,この出願の発明のもっとも偉大な点は,これまで注目されなかった実に多く金属酸化物に,実用性の高い,光触媒機能,太陽発電機能,発光機能,光検出機能等を付与しうる点である。比較的簡便に応用できる基本的な発明であるため,その意義は大きい。」と記載されていることから,本願発明1の技術的意義は,3価のInに対する酸素元素の配位数を制御することによりそのバンドギャップを制御し,機能波長範囲が長波長側に大幅に拡張された,光触媒,太陽電池,発光素子あるいは光検出素子に好適に用いることのできる,新しい半導体金属酸化物を提供する点にあるものと認められる。
そこで,本願明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,段落【0032】?【0036】,【0037】,【0038】?【0039】,【0040】?【0041】には,それぞれ,「光触媒」,「太陽電池素子」,「発光素子」,「光検出素子」として利用する場合についての一般的説明が記載されており,段落【0042】には,「表面あるいは内部に存在するInO_(6)八面体から酸素原子を取り去るには,各種還元処理やスパッタ技術等を応用することが可能であるが,他の方法も多数考えられる。」という一般的な製造方法について記載されており,【実施例】として記載された段落【0045】?【0049】には,インジウム含有半導体金属酸化物の結晶構造の模式図と第一原理理論で計算された電子構造について説明されているものの,実際に「結晶構造中に3価のInに酸素6個が配位したInO_(6)八面体を含み,かつ紫外線領域に光吸収帯が存在する半導体金属酸化物の,表面あるいは内部に存在するInO_(6)八面体から酸素原子1個あるいは2個が取り去られ,酸素原子が5配位したInO_(5)多面体あるいは酸素原子が4配位したInO_(4)四面体構造が,表面あるいは内部に存在」する半導体金属酸化物を製造したことや,そのような半導体金属酸化物が比較的長波長領域において光触媒作用,光電変換作用(太陽電池又は光検出素子に必要とされる作用)又は発光作用を示すことを確認したことについては記載されていない。段落【0046】?【0047】には,具体的にInNbO_(4)を例にとっての説明が記載されているが,これは,In原子とNb原子の全体的な配置等を仮想的に設定したInNbO_(4)結晶において,取り去られる酸素原子の位置や量等について,仮想的な設定下において計算した結果に関するものであり,実際に製造したInNbO_(4)サンプルにおいて,本願発明の特定の配位構造を確認したことや,当該特定構造を有すると考えられる実際に製造したサンプルが比較的長波長領域での光触媒作用等を示すことを確認したことについては何ら記載されていない。
そして,例えば,本願明細書で引用されている【非特許文献2】:Mitsutake Oshikiri, Mauro Boero, Jinhua Ye 他, "Electronic structures of promising photocatalysts InMO_(4)(M=V, Nb, Ta) and BiVO_(4) for water decomposition in the visible wavelength region", Journal of Chemical Physics, Vol. 117, No. 15, pp. 7313-7318, 15 October 2002 には,「Fig.1(Color) Projected density of state spectra of InVO_(4), InNbO_(4), InTaO_(4), BiVO_(4), and TiO_(2) by DFT-LDA with LMTO-ASA. The band gap is indicated by arrows in the energy axis.」(当審訳:図1(カラー)LMTO-ASAでのDFT-LDAによるInVO_(4),InNbO_(4),InTaO_(4),BiVO_(4)及びTiO_(2)の予測された状態密度スペクトル。バンドギャップはエネルギー軸に矢印で表されている。)とともに,「Figure 1 shows the projected density of state(DOS) of InVO_(4), InNbO_(4), InTaO_(4), BiVO_(4), and TiO_(2). ・・・・・・The band gaps are 3.7 eV(InTaO_(4)), 3.4 eV(InNbO_(4)), 3.1 eV(InVO_(4)), 1.3 eV(BiVO_(4)), and 2.5 eV(TiO_(2)), respectively. ・・・・・・
According to the estimation of the band gaps as provided by experiments of spectram transmissivities of InTaO_(4), InNbO_(4), and InVO_(4), their values turn out to be about 2.6 eV, 2.5 eV, and 2.0 eV, respectively. Unfortunately, since the samples used in the experiments are not single crystals, the experimental transmissivity would include some effects derived from defects or impurities and, on the theoretical side, the DFT-LDA calculation is well known for the band gap underestimation.」(当審訳:図1は,InVO_(4),InNbO_(4),InTaO_(4),BiVO_(4)及びTiO_(2)の予測された状態密度(DOS)を示している。・・・・・・バンドギャップは,それぞれ,3.7eV(InTaO_(4)),3.4eV(InNbO_(4)),3.1eV(InVO_(4)),1.3eV(BiVO_(4))及び2.5eV(TiO_(2))である。・・・・・・
InTaO_(4),InNbO_(4)及びInVO_(4)のスペクトル透過率の実験によって得られたバンドギャップの見積もりによれば,それらの値は,それぞれ2.6eV,2.5eV及び2.0eVという結果となった。残念ながら,実験で使用したサンプルは単結晶ではないため,実験の透過率は,欠陥又は不純物から導かれるいくつかの影響を含んでおり,そして,理論的側面では,DFT-LDA計算は,バンドギャップの過小評価でよく知られている。)(第7315頁 第10?35行)と記載されているように,理論的計算結果は実際の材料における実測結果とは必ずしも一致しないことが知られている。
そうすると,本願明細書に記載された一般的製造方法に従ってInを含む酸化物から酸素を取り去り得るとしても,実際に具体的サンプルを作製して光透過スペクトルを測定したり,光触媒作用,光電変換作用,発光作用の発現を確認してみなければ,そのような一般的製造方法によって本願明細書に記載された計算結果どおりのバンドギャップを有する材料が実際に得られているかどうかは不明であり,さらにそのサンプルにおいて紫外光よりも長波長の領域における有意な光触媒作用,光電変換作用又は発光作用を確認できるか否かも不明であると言わざるを得ない。
したがって,本願明細書の記載は,機能波長範囲が長波長側に大幅に拡張された,光触媒,太陽電池,発光素子あるいは光検出素子に好適に用いることのできるインジウム含有半導体金属酸化物を実際に製造することができる程度に記載されているとはいえず,当業者が本願発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものということはできない。
さらに,請求人は,審判請求書の3.(3)において,「一般的なアルゴン原子を利用したスパッタ装置では・・・表面層に存在する酸素原子のいくつかは確実に弾き飛ばされます。これによりインジウムを酸素6個で取り囲むInO_(6)構造があれば,必然的にその配位数を減らした構造のInO_(5)やInO_(4)あるいはInO_(3)等が生成されることになります。ここで,酸素原子が何個抜き取られるのかは,必ずしも自明ではないのですが,多かれ少なかれ,酸素原子を一つまたは二つを抜き取った状態も発生することになります。」と述べていることから,本願発明1においては,単にInO_(5)あるいはInO_(4)が存在すればよく,その周囲に多量にInO_(3)等の他の構造が存在していてもよいものとも考えられるが,例えば,結晶全体の中で,局所的に又は非常に少数のInO_(5)あるいはInO_(4)が存在するだけで,材料全体としてみたときのバンドギャップが小さくなり,比較的長波長領域において実際に確認できる程度の光触媒作用,光電変換作用又は発光作用が発揮されるとは考え難く,さらに,上記【非特許文献2】に記載されているように,実際の材料において測定されるバンドギャップは,結晶の欠陥や不純物の有無等にも影響を受けるものであるから,単にInO_(5)あるいはInO_(4)が存在する程度の材料が製造できる可能性を当業者が理解し得るからといって,そのことだけから,機能波長範囲が長波長側に大幅に拡張された,光触媒,太陽電池,発光素子あるいは光検出素子に好適に用いることのできる新しい半導体金属酸化物を提供するという技術的意義を有する本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載がなされていると直ちにいうことはできない。
また,請求人は,平成20年1月28日付け手続補足書において,事後的に,実際にInNbO_(4)粉末,InVO_(4)粉末及びIn_(2)O_(3)粉末を還元処理した場合の例を示し,それぞれについて,還元処理によりIn周辺の酸素原子の配位構造が変化したため,バンドギャップが小さくなり,白色又はベージュ色であったサンプルの色が変化した旨述べているが,当該還元処理後の粉末がどのような光吸収スペクトルを有し,どの吸収ピークがどの電子遷移に帰属されるのか等の説明はなく,光触媒作用等の確認も行われていないことから,変色した原因が本願発明1に係る特定の構造の形成に対応するものなのか否かは依然として不明であって,上記還元処理により本願明細書に記載された計算結果に対応する結晶構造,電子状態が実現された結果として,還元後の色の原因となる光吸収が起こっているのか否か,そしてその光吸収が光触媒作用等に関与する電子遷移に対応しているのか否かも不明である。よって,上記手続補足書における説明を参酌しても,本願明細書の発明の詳細な説明の記載が本願発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものということはできない。

そして,上記指摘した点については,本願発明1について,さらに,光触媒,太陽電池,発光素子又は光検出素子という用途に関連する特定事項を付加する本願発明2?11についてもいえることである。

6.むすび
以上のとおりであるから,本願は,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-31 
結審通知日 2011-02-01 
審決日 2011-02-15 
出願番号 特願2003-365360(P2003-365360)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 哲横山 敏志  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 深草 祐一
木村 孔一
発明の名称 インジウム含有半導体金属酸化物  

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