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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1234727
審判番号 不服2008-20179  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-07 
確定日 2011-03-31 
事件の表示 特願2005-174924「光ディスク装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月 9日出願公開、特開2006-309906〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
I.手続の経緯
本件審判の請求に係る特許願(以下「本願」という。)は、平成17年6月15日(優先権主張 平成17年3月28日)の出願であって、平成20年2月25日付けで通知した拒絶理由に対して同年4月28日付けで意見書のみが提出されたが、同年7月2日付けで、上記拒絶理由により拒絶すべき旨の査定がなされ、これに対して、同年8月7日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年9月8日付けで特許請求の範囲及び明細書について手続補正がなされた。
その後、平成22年8月25日付けで前置報告書(特許法第164条第3項)に基づく審尋がなされ、同年10月28日付けで回答書が提出されたものである。

II.平成20年9月8日付け手続補正についての却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成20年9月8日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理 由〕
1.補正の内容
本件補正は、明細書及び特許請求の範囲について補正するものであるが、そのうち、特許請求の範囲についてするものは、

(1)補正前に、
「【請求項1】
内部に装着された光ディスクを回転する手段と、当該装着されて回転する光ディスク対し情報の記録または再生を行う手段とを備えた光ディスク装置であって、
光ディスクを当該装置の内部に装着するためのトレイを備えており、
当該トレイは、光ディスクが配置されるほぼ円形の平坦な領域と、当該円形領域の周囲を取り囲むように盛り上がって形成された周囲部分とを備えており、前記周囲部分は、光ディスクの上面とほぼ同じ高さであり、かつ、その一部において、当該装置に装着される光ディスクの先端部からの距離が1.8mm以上、2.7mm以下であることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載した光ディスク装置において、前記周囲部分は、その全周において、当該装置に装着される光ディスクの先端部からの距離が1.8mm以上、2.7mm以下であることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項3】
前記請求項1に記載した光ディスク装置において、前記周囲部分は、当該装置に装着される光ディスクの先端部からの距離が2.0mm以上、2.7mm以下であることを特徴とする光ディスク装置。」
とあったものを、

(2)補正後に、
「 【請求項1】
内部に装着された光ディスクを回転する手段と、当該装着されて回転する光ディスクに対し情報の記録または再生を行う手段とを備えた光ディスク装置であって、
光ディスクを当該装置の内部に装着するためのトレイを備えており、
当該トレイは、光ディスクが配置されるほぼ円形の平坦な領域と、当該円形領域の周囲を取り囲むように盛り上がって形成された周囲部分とを備えており、前記周囲部分は、当該装置に装着された状態の光ディスクの上面とほぼ同じ高さであり、かつ、その一部において、当該装置に装着された状態の光ディスクの先端部からの距離が1.8mm以上、2.7mm以下であることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載した光ディスク装置において、前記周囲部分は、その全周において、当該装置に装着された状態の光ディスクの先端部からの距離が1.8mm以上、2.7mm以下であることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項3】
前記請求項1に記載した光ディスク装置において、前記周囲部分は、当該装置に装着された状態の光ディスクの先端部からの距離が2.0mm以上、2.7mm以下であることを特徴とする光ディスク装置。」
としようとするものである。

2.補正の目的

本件補正は、本件補正前の請求項1における発明特定事項である、「光ディスクの上面」について、「当該装置に装着された状態の」光ディスクの上面と限定し、「光ディスクの先端部」について、当該装置に装着され「た状態の」光ディスクの先端部と限定するものである。

そして、これらはいずれも補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かについて、以下検討する。

3.独立特許要件について

(1)本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正後発明」という。)
補正後発明は、前記1.(2)の【請求項1】に記載されたとおりのものである。

(2)刊行物及びその記載
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日の前に頒布された刊行物である特開2002-25240号公報(平成14年1月25日公開、以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある(なお、下線は、当審で付した。)。

(2-1)刊行物1の記載

ア.【特許請求の範囲】
【請求項1】 平坦部分の面に近接してディスクが配置されるほぼ円形領域を有したドロワーフレームにおいて、
前記領域の周囲の少なくとも一部で盛り上がるように一体形成された周囲部分に対して、前記平坦部分からの高さが、前記円形領域の所定位置に配置されたディスクの上面とほぼ同じ高さ以下になる高さ制限部分を形成していることを特徴とするディスクドライブ装置のドロワーフレーム。
【請求項2】 前記高さ制限部分は、前記周囲部分の全てに形成されていることを特徴とする請求項1記載のディスクドライブ装置のドロワーフレーム。
【請求項3】 前記高さ制限部分は、前記ディスクが前記円形領域に装填されるときの挿入方向にほぼ対向する位置に設けられていることを特徴とする請求項1記載のディスクドライブ装置のドロワーフレーム。
【請求項4】 前記周囲部分には、前記高さ制限部分とは別に、前記挿入方向に対向する位置に前記ディスクのストッパーが形成されていることを特徴とする請求項3記載のディスクドライブ装置のドロワーフレーム。
【請求項5】 前記高さ制限部分の角は丸みを帯びた形状であることを特徴とする請求項1記載のディスクドライブ装置のドロワーフレーム。
【請求項6】 前記高さ制限部分は、前記ディスクの下面以下に制限されていることを特徴とする請求項1記載のディスクドライブ装置のドロワーフレーム。
【請求項7】 前記高さ制限部分と前記平坦部とが連なる部分は、丸み或はテーパー部を持つことを特徴とする請求項1記載のディスクドライブ装置のドロワーフレーム。
【請求項8】 前記高さ制限部分の高さは前記平坦部からほぼゼロであることを特徴とする請求項1記載のディスクドライブ装置のドロワーフレーム。【請求項9】 前記高さ制限部分は、ピックアップユニットを配置するために開口した細長開口が位置するエッジ側とは対向するエッジ側に設けられたことを特徴とする請求項1記載のディスクドライブ装置のドロワーフレーム。
【請求項10】 筐体内にディスクを回転可能に保持するディスク回転機構と、このディスク回転機構を保持して前記筐体内にスライドさせて出し入れ可能なドロワーとを有したディスクドライブ装置において、前記ドロワーに設けられているドロワーフレームは、平坦部分の面に近接してディスクが配置されるほぼ円形領域を有し、前記領域の周囲の少なくとも一部で盛り上がるように一体形成された周囲部分に対して、前記平坦部分からの高さが、前記円形領域の所定位置に配置されたディスクの上面とほぼ同じ高さ以下になる高さ制限部分を形成したことを特徴とするディスクドライブ装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、光ディスク或は磁気ディスクなどを回転駆動するディスクドライブ装置及びそのドロワフーレームに関するものであり、特にディスクの高速回転に伴う騒音を効果的に低減し得るようにしたものである。
【0002】
【従来の技術】CD-ROM、DVD、ハードディスク等、回転記憶媒体のディスクドライブ装置は、パーソナルコンピュータ或は専用再生機に組み込まれて用いられる。これらの回転記憶媒体は、その技術開発により記憶容量が大きくなりつつある。このために、データの高速読み出し、高速書き込みを実現できるように、ディスクドライブ装置によるディスク回転速度も一層速いものが要望されるようになっている。」

イ.「【0010】まず図1を参照してディスクドライブ装置の概略を説明する。図1は筐体(キャビネット)10からドロワー20が引き出された状態を示す。筐体10は、ドロワー20が引き出される方向が開口した箱状を有し、底部筐体(ボトムキャビネット)10A、この底部筐体10Aを覆うように取り付けられる天板部(トップキャビネット)10Bを有する。筐体10の背面側の内部には、ドライブ装置を制御する制御回路を搭載したPCボードが配置される。また、PCボードに接続されたフレキシブルケーブル、ソレノイド等も配置されている。
【0011】底部筐体10Aの内部の両側面には、スライドホルダがそれぞれ設けられ、このスライドホルダには、それぞれスライド30がスライド可能に設けられている。そして、このスライド30に対して、ドロワー20に設けられたスライドホルダ40がスライド可能に取り付けられている。図では、一方の側面のスライド機構が現れているが、他方の側面も同様な機構が設けられいてる。これによりドロワー20は、筐体10に対して、図示矢印X-X方向へ移動自在である。
【0012】ドロワー20は、ドロワーフレーム50を有する。このドロワーフレーム50は、本発明の特徴を備えるものであり、図3において詳述する。このドロワーフレーム50は、平坦部51の面に近接してディスク70が配置されるほぼ円形領域A52を有し、領域A52の周囲の少なくとも一部で盛り上がるように一体形成された周囲部53に対して、平坦部51からの高さが、円形領域52Aの所定位置に配置されチャッキングされたときのディスクの例えば上面とほぼ同じ高さ以下になる高さ制限部54を形成している。
【0013】ドロワーフレーム50の平坦部51の中央部は、開口されており、この開口を塞ぎ、平坦部51と略同一面に位置するようにシャーシ60が配置される。このシャーシ60に開設された穴には、ディスク70を回転駆動するためのターンテーブル80が露出している。ターンテーブル80を回転するためのディスクモータは、シャーシ60の下面に取り付けられている。
【0014】さらにシャーシ60には、ピックアップユニット90の光学ヘッド部からの光ビームが通過するように、細長開口が形成されている。ピックアップユニット90は、細長開口の長手方向に沿ってシャーシ60の下部で往復移動(図示矢印Y-Y方向)できるようになっている。そのためのシャフト、ギア機構及びフィードモータなどがシャーシ60の下部に設けられており、電気的な接続を行う部分には、フレキシブルケーブルが利用され、先のPCボードに電気接続されている。
【0015】ドロワー20が、筐体10内に挿入されたときは、ドロワー20に設けられているベーゼル板55が筐体10の開口を閉じるようになっている。」

ウ.「【0022】図8(A)、図8(B)には、ディスク70が所定の位置に配置されチャッキングされ、かつ回転したときに生じる風の流れを、本発明によるドロワー20の特徴部と、これに対応する従来のドロワー20Aの一部分とで比較して示している。本発明の装置であると、ディスク70の回転により生じた風が高さ制限部54の上を吹き抜けるようになり、ディスクの外周側が上面方向へ反るような現象もなくなる。このような複合作用により、ディスクの回転が安定し、騒音も低減する。これに対して、従来の装置であると、ドロワー20Aの周囲部53Aは、ディスク70の上面より高いために、ディスク70の回転により生じた風が周囲部53Aの壁に衝突し、ディスク70の下面に回り込む量が多くなる。この結果、ディスクの外周側が上面方向へ反る現象が生じる。この結果、ディスクの回転が不安定となり、風切音としての騒音が生じる。【0023】また、従来のドライブはディスク周りのドロワーの高さがディスク上面よりも高くなっている。これに対して、ドロワーの高さをディスク上面よりも低くするということは、すなわち、天板とドロワーとの間の距離を広げるということであり、風が流れる空間を広げるということである。流れ込む風の量が同じである場合、流れる空間が狭いほど流速は早く、広げればそれだけ流速が遅くなるので、その分、騒音が低減されるのである。」

エ.「【0029】図10に示すように、高さ制限部54の領域を全てドロワー20の平坦部51と同じ高さにしてもよい。つまり高さ制限部54の位置で、ディスクのエッジと周囲部分53との間に空間を生じることになる。このようにすると、図3で示した右側の高さ制限部が消滅するので、この位置にフレームエッジから立ち上がる小片のストッパー511を形成するほうが好ましい。これはドロワー20が筐体10から引き出された状態で、ディスクを手前側から挿入する際に有効である。即ち、このストッパー511は、ディスクがドロワー20の奥の方へ行き過ぎないようにし、ディスクがチャッキング位置へ正確に装着されるのを補助することができる。なお他の部分は先の実施の形態と同じであるから同一符号を付して説明は省略する。」

オ.図3には、明細書段落【0022】(上記イ.参照)に記載の「ディスク70の回転により生じた風」について、ドロワー20の断面図における風の流れが矢印で示されている。


上記摘示事項ア.ないしオ.及び図面の記載を総合勘案すると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認める。

「シャーシの下面に取り付けられている、光ディスクを回転するためのディスクモータと、
光学ヘッド部を有するピックアップユニットを備えた、
光ディスクドライブ装置であって、
筐体(キャビネット)から引き出された状態と、筐体内に挿入された状態とを有するドロワーであって、
ドロワーは、ドロワーフレームを有し、
前記ドロワーフレームは、平坦部の面に近接してディスクが配置されるほぼ円形領域を有し、領域の周囲の少なくとも一部で盛り上がるように一体形成された周囲部に対して、平坦部からの高さが、円形領域の所定位置に配置されチャッキングされたときのディスクの例えば上面とほぼ同じ高さ以下になる高さ制限部を形成している、
ディスクドライブ装置。」

(3)対比
補正後発明と刊行物1発明とを対比する。

ア.刊行物1発明においても、筐体(キャビネット)から引き出された状態と、筐体内に挿入された状態とを有するドロワーを備えており、ディスクがドロワーに載置されて、ディスクドライブ装置の筐体内に装着されることは明らかであるから、刊行物1発明における、「シャーシの下面に取り付けられている、ディスクを回転するためのディスクモータ」は、補正後発明の「内部に装着された光ディスクを回転する手段」に相当し、刊行物1発明の「ドロワー」は、補正後発明の「光ディスクを当該装置の内部に装着するためのトレイ」に相当する。

イ.刊行物1には、CD-ROM、DVD等の回転記録媒体のディスクドライブ装置において、データの高速読み出しを実現することが記載されており(上記(2-1)ア.【0002】参照)、データの高速読み出しは、「光学ヘッド部を有するピックアップユニット」で行うことは明らかであるから、「光学ヘッド部を有するピックアップユニット」は、補正後発明の「当該装着されて回転する光ディスクに対し情報の再生を行う手段」に相当することは明らかである。なお、補正後発明は、「情報の記録または再生を行う手段」であって、「情報の記録」と「情報の再生」のいずれか一方を行う手段を含むものであるから、この点において、情報の再生を行う手段を有する刊行物1発明と格別の相違を有しない。

ウ.刊行物1には、ドロワーフレームは、平坦部51を有することが記載され(上記(2-1)イ.参照)、刊行物1の図1を参酌すれば、平坦部51にディスク70が配置されることが見てとれるから、刊行物1発明における、「ドロワーは、ドロワーフレームを有し、前記ドロワーフレームは、平坦部の面に近接してディスクが配置されるほぼ円形領域を有」することは、補正後発明の「当該トレイは、光ディスクが配置されるほぼ円形の平坦な領域」を備えていることに相当する。

エ.刊行物1発明の「円形領域を有し、領域の周囲の少なくとも一部で盛り上がるように一体形成された周囲部」は、補正後発明における「当該円形領域の周囲を取り囲むように盛り上がって形成された周囲部分」に相当する。

オ.刊行物1発明の「周囲部に対して、平坦部からの高さが、円形領域の所定位置に配置されチャッキングされたときのディスクの例えば上面とほぼ同じ高さ以下になる高さ制限部を形成」することは、装着されたディスクの先端部周辺に空間を設けることであるから、補正後発明とは「前記周囲部分は、その一部において、当該装置に装着された状態の光ディスクの先端部からの距離を大きくする」ことにおいて、共通する。

結局、両発明の一致点および相違点は、以下のとおりである。

[一致点]

「内部に装着された光ディスクを回転する手段と、当該装着されて回転する光ディスクに対し情報の記録または再生を行う手段とを備えた光ディスク装置であって、
光ディスクを当該装置の内部に装着するためのトレイを備えており、
当該トレイは、光ディスクが配置されるほぼ円形の平坦な領域と、当該円形領域の周囲を取り囲むように盛り上がって形成された周囲部分とを備えており、前記周囲部分は、その一部において、当該装置に装着された状態の光ディスクの先端部からの距離(を大きくする)光ディスク装置。」

[相違点]

「当該円形領域の周囲を取り囲むように盛り上がって形成された周囲部分」の一部において、当該装置に装着された状態の光ディスクの先端部からの距離を大きくすることについて、補正後発明では、「前記周囲部分は、当該装置に装着された状態の光ディスクの上面とほぼ同じ高さであり、かつ、その一部において、当該装置に装着された状態の光ディスクの先端部からの距離が1.8mm以上、2.7mm以下である」のに対し、刊行物1発明では、「前記周囲部分は、当該装置に装着された状態の光ディスクの上面とほぼ同じ高さであ」ることについて特定がなく、また、「前記周囲部分」は「光ディスクの先端部からの距離が1.8mm以上、2.7mm以下である」ことについて特定がない点。


(4)判断
以下、相違点について検討する。

ア.刊行物1の図8(A)には、低い高さの周辺部分54に隣接して、光ディスクの上面よりやや高い周囲部が示されており、周辺部分54の高さを低くすることで、ディスク装置の水平方向の空間、すなわち、光ディスクの先端部と周囲部の間の空間を、従来の装置(図8(B)参照)より広げているともいえ、このような空間を設けることによって、風切り音が低減されるといえる。また、刊行物1の特許請求の範囲の請求項8には、周辺部分の高さを低くしてほぼゼロとすることが記載されており、これによっても、ディスク装置の水平方向の空間、すなわち、光ディスクの先端部と周囲部の間の空間を確保し、風切り音を低減しているといえる。
加えて、刊行物1の段落【0023】(上記(2)(2-1)ウ.参照)には、流れ込む風の量が同じである場合、風が流れる空間が広いほど、騒音が低減されることが記載されているから、光ディスクの先端部周辺に空間を確保するようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。また、刊行物1の図10を参照すると、もはや高さ制限部分は存在せず、周囲部53をある範囲にわたって除いたものと解される。すると、光ディスクの先端部と周囲部との距離が、即ち空間に他ならないから、前記距離を特定することで、風切り音を低減する効果を確保することに格別の困難性はなく、騒音低減の効果が得られる空間を確保するために、光ディスクの先端部と周囲部分との寸法を設定することは当業者が適宜なし得る設計的事項であるから、補正後発明のように、光ディスクの先端部と周囲部分との距離を1.8mm以上とすることに格別の困難性を有しない。

イ.一方、トレイの強度とトレイ全体の寸法を考慮して、前記距離に上限を設けることに格別の困難性を有しない。そして、上限を2.7mmとすることはトレイの構造に応じて当業者が適宜決定しうる事項である。

ウ.また、補正後発明のように、「前記周囲部分は、当該装置に装着された状態の光ディスクの上面とほぼ同じ高さ」とすることについては、刊行物1の図8(A)には、低い高さの周辺部分54に隣接する、光ディスクの上面よりやや高い周囲部が示されているが、この周囲部は、光ディスクの上面より格別高いものでもなく、光ディスクの上面とほぼ同じ高さであるともいえ、高さについては格別の相違を有しない。
さらに、周囲部の高さに違いがあるとしても、空間の確保に若干の違いが生じるものの、この高さを光ディスクの上面とほぼ同じ高さとすることにより、格別顕著な作用効果を奏するものでもないから、周囲部の高さを若干低くすることは設計的事項の範囲内といえ、ほぼ同じ高さとすることに格別の困難性を有しない。また、設計的事項の範囲内でないとしても、前記ア.において記載したように、刊行物1の段落【0023】には、流れ込む風の量が同じである場合、風が流れる空間が広いほど、騒音が低減されることが記載されており、前記記載を勘案すれば、光ディスクの先端部周辺に空間を確保して風切り音を低減するために、周囲部の高さを若干低くして光ディスクの上面とほぼ同じ高さとすることに格別の困難性を有しない。

エ.そして、上記相違点を総合的に判断しても、補正後発明が奏する効果は刊行物から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

オ.以上のとおりであるから、補正後発明は、刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)独立特許要件についてのむすび
以上のとおりであるから、補正後の請求項1に係る発明については、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成20年9月8日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、本願に最初に添付された特許請求の範囲、即ち、前記「II.1.(1)」に補正前の請求項1ないし3として記載したとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物及びその記載
これに対して原査定の拒絶の理由で引用された刊行物及びその記載は、前記「II.3.(2)刊行物及びその記載」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「II.3.独立特許要件について」の「(3)対比」「(4)判断」で検討した補正後発明から、「光ディスクの上面」について、「当該装置に装着された状態の」なる限定を削除し、また、「光ディスクの先端部」について、当該装置に装着され「た状態の」なる表現を削除して「当該装置に装着される」光ディスクの先端部としたものある。

そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正後発明が、前記「II.3.独立特許要件について」の「(3)対比」、「(4)判断」に記載したとおり、刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

IV.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-26 
結審通知日 2011-02-01 
審決日 2011-02-15 
出願番号 特願2005-174924(P2005-174924)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橘 均憲船越 亮  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 山田 洋一
関谷 隆一
発明の名称 光ディスク装置  
代理人 ポレール特許業務法人  

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